熱情闘士への挑戦状!?

    作者:飛翔優

    ●スポーツジムで大乱闘!
     ケツァールマスク派アンブレイカブルが一人、熱情闘士ザキオカ。
     更なる強敵との戦いを求め地方の市営スポーツセンターで一般人に混じりベンチプレスで鍛えていた彼女の前に、五人の集団がやって来た。
     視線だけを送り用件を尋ねたザキオカに、先頭に立つ女性が告げていく。
    「初めましてザキオカ様。私はシン・ライリー様を慕うアンブレイカブルでございます」
    「……で?」
    「このたびは是非、ザキオカ様もシン・ライリー様に仕えて頂きたいと思いまして……こうして私がわざわざ足を運んであげましたの。いかがです? あんなケツァールマスクなど捨てて、シン・ライリー様に仕えては?」
    「……はっ!」
     わざとらしく小首を傾げていくアンブレイカブルを一笑に伏し、ザキオカは跳ね起きる。
    「チン・ライリーだかミン・アイリーだか知らないけど、喧嘩売ってるってんなら買ってやんよ!」
    「……この戦力差で私共に勝つおつもりですか?」
    「はっ、勝つつもりじゃない、勝つんだ! ばかにするんじゃないよ、私はザキオカ、熱情闘士ザキオカ! 馬鹿にされて黙ってるような女じゃねぇぇぇぇ!!」
     言うが早いかタックルを仕掛けていくザキオカを、アンブレイカブルは華麗な足さばきで回避した。
     その他のアンブレイカブルたちも動き出し……。
     ……ジムは、熱情に浮かされたまま大乱闘の舞台と化す。
     結論だけを述べるならば、ザキオカは敗北し殺された。八月女王の手によって、多くの一般人や施設を巻き込む形で……全ては、未来の話ではあるけれど……。

    ●夕暮れ時の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、静かな調子で説明を開始した。
    「獄魔覇獄で戦った、獄魔大将シン・ライリーの動きが、双葉幸喜さんからの報告で判明しました」
     双葉・幸喜(正義の相撲系魔法少女・d18781)の報告によると、獄魔覇獄の失敗が原因なのか、シン・ライリー配下と、同じアンブレイカブルのケツァールマスクの配下が抗争を行っている様子。
     ダークネス同士の抗争に係る必要は本来ないが、この抗争に巻き込まれて多くの一般人が被害をうけるのならば、放っておくわけにもいかないだろう。
    「抗争が起こる前に現場へと向かい、アンブレイカブルを灼滅し、抗争を未然に防いで来てください」
     その上で……と、地図を広げ地方の市営スポーツセンターを指し示した。
    「舞台となるのはこのスポーツセンター。このスポーツセンターで一般人に混ざりトレーニングをしているケツァールマスク派のアンブレイカブルの元に、シン・ライリー派のアンブレイカブルがやって来る……と言った流れになります」
     ケツァールマスク派のアンブレイカブルの名は、熱情闘士ザキオカ。
    「以前、戦ったことのあるアンブレイカブルでもあります。その時は圧倒的な力を持っていましたが、成長した皆様ならば、恐らくは互角に持ち込むことができるでしょう」
     性格的には負けず嫌い。見下される事を何よりも嫌い、少なくともシン・ライリーのアンブレイカブルが襲撃してくると聞いても逃げ出すことはないだろう。
     並々ならぬ根性を持ち生半可な攻撃ではびくともしない。相手の攻撃を受けた上で自らの持つ技でお返しする、といった戦法を好んでいる女性形のアンブレイカブル。
     技は、血を滾らせ浄化の加護を得た上で両腕をぶん回すダブルラリアット。雄叫びを上げ己を浄化した上でタックルに次ぐタックルを周囲にかましていくタックルダイナマイツ。不死鳥のように輝くオーラを敵陣に飛び回らせた後、身に宿すことで体を硬質化させるザキオカフェニックス。そしてある程度追い込まれた後は、ドラゴンのように強大なオーラを敵陣に飛び回らせた後、身に宿すことで力を高めるザキオカドラゴニックバスターも使用してくる。
    「一方、シン・ライリー派のアンブレイカブルですが……」
     数は五人。総員同じ程度の力量だが、少なくとも灼滅者八人では非常に辛い戦いになる程度の総戦力。
     総員攻撃面に特化しており、加護を砕く投げ、連続する打撃、絞め技のどれも威力が高い。
    「方法はお任せします。どうか、場所によっては施設は多少諦めなければならないかもしれませんが、せめて人には被害がないように……」
     これにて説明は終了と、地図を手渡し締め括る。
    「獄魔覇獄は失敗に終わりましたが、獄魔大将シン・ライリーがこのまま引き下がるとは思えません。今回の事件も、新たな作戦の前哨戦なのかもしれません。ですのでどうか、全力での戦いを。何よりも無事に帰って来てくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    若宮・想希(希望を想う・d01722)
    紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)
    中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)
    リリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)
    英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)
    クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・d21014)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    影守・討魔(演技派現代忍者・d29787)

    ■リプレイ

    ●最悪の未来は回避した
     シェイプアップにパンプアップ、ダイエットに肉体強化……様々な目的で体を鍛えている人々の熱気にあふれていた市営のスポーツセンターから、熱が引いていく。
     ただ一人変わることなく黙々とベンチプレスを行っている女性、ケツァールマスク勢力のアンブレイカブル・熱情闘士ザキオカを眺めながら、クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・d21014)は一人つぶやいた。
    「熱情……情熱とは違うのかね?」
     返答は、誰からも語られない。
     構わないと一歩引いた位置に佇んだまま、クーガーは人払いを終えザキオカの元へ向かっていく仲間たちを見守った。
     休むことなく体を動かしているザキオカに、中島・陽(ハートフルメカニック・d03774)が穏やかな調子で語りかけていく。
    「トレーニング中すみません、ザキオカさん。人払いが必要な話があって来たもので」
    「ん?」
     動きを止めず、視線を向けてきたザキオカ。
     受け止めた上で、陽は影守・討魔(演技派現代忍者・d29787)と共に説明する。
     シン・ライリー派が勧誘、及び殺害目的で死角を放ったこと。ダークネス同士の抗争に巻き込まれれば、観客ではない多数の一般人が犠牲になるのでそれを防ぎに来たと。
     ひと通りの説明を終えた後、討魔は更に言葉を続けていく。
    「それゆえ強引ではござるがお人払いをさせてもらったでござる。無礼は承知の上とはいえ、申し訳ない」
    「……」
     瞳を細め、ザキオカは小首をかしげていく。
    「……で、あんたたちはどうしたいんだい? いや、あたしをどうしたいんだい?」
     真っ直ぐに見つめたまま、討魔は返す。
    「個人的な感情ではござるが、できる事ならば超えるべき目標である貴女と一度でいいから肩を並べたい。なにより、貴方とは正々堂々とした舞台の上で余計なことを考えずに貴女に挑戦したい。この未熟者の願い、どうか聞き届けてはもらえぬだろうか?」
    「両方と戦える程強くないからこそ、出来れば貴女とは余計な打算のない時に戦いたくて……プロレス、好きですし」
    「……」
     陽も真っ直ぐな言葉を伝えた後、ザキオカは瞳を瞑り押し黙る。
     動きを止めた上で肩をすくめ、立ち上がりながら口を開く。
    「気に入らないね」
     灼滅者たちが反応する中、続いていく。
    「勇気と無謀が違うのはわかる。けどね、最初から諦めているような、その態度が。あたしから楽しそうな試合を奪おうってのに。……けど」
     敵意はなく、ただ、殺気だけが伝わってきた。
    「自分を理解してるってのは、嫌いじゃないよ。だから、あんたたちの取れる道は二つだ。一つは人払いだけをして立ち去るか、あるいは……そいつらの代わりに、あたしと戦うか」
     共闘の願いは退けられた。
     しかし、それは想定内。陽は戦場は外の駐車場だと指し示しながら、伝えていく。
     負けたら撤退して欲しいと。
    「ああ、構わないよ。……しかしいいね、良い言葉だ。どんな時でも、やるんなら勝つつもりでやりな。それこそ、あたしがいなくてもね」
     誘導に従い歩き出したザキオカに、陽は力強い声音で伝えていく。
    「……頑張ります。勝つ為に!」
     そして……総員駐車場へと移動。
     周囲に車はなく、ひと気もない。
     大きな被害は、ありえない。
     互いに距離を取った後、討魔が静かな調子で名乗りを上げた。
    「影守討魔、この中では一番未熟者の忍びでござる。好きな闘いはプロレス。宜しければお見知りおきを、強者の闘士ザキオカ殿」
    「何人もレスラーアンブレイカブルを倒してきたんだ、強いよ。ボクもプロレスやってるし」
     更にはリリアナ・エイジスタ(オーロラカーテン・d07305)が指を突きつけ、宣戦布告。
     ザキオカは笑いながら身構えた。
    「ははっ、いいよかかってきな。全員、全力でね!」
     ゴングはない。
     風の訪れを、木々をざわめかせ枯葉を一つ奪い去り地面へ舞い降りたのを代わりとし、両者一斉に動き出す。
     全ては人々への被害を失くすため……否、その目的は既に果たされた。
     故に、今灼滅者たちが抱いている願いは――。

    ●闘士は全てを受け止める
    「志穂崎藍。参ります!」
     名乗りを上げながら、志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)は駆ける。
     螺旋状の回転を加えた槍による刺突を放っていく。
     ザキオカに避ける気配なく、左肩へと到達する。
     皮膚を貫くこと叶わぬ様子を横目にしつつ、紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)もまた紫紺の帯を鋭利な形へ整え発射した。
     やはり避ける様子のないザキオカの腹部を捉えるも、傷つけることなく弾かれた。
    「……」
     恐らく、全ては鍛え上げた肉体が成せる技。
     勝利に注ぐ熱情。その闘志は個人的には好ましい。己一人で太刀打ち出来ないのがもどかしいと、瞳を細めながら右腕を肥大化させていく。
     望ましきは、一滴の血も流れないこと。
     しかし、それはもう叶わない。故に、結果はカミに委ねるのみと、獣の如き跳躍と共に駆け出した。
     ザキオカの正面に到達すると共にトンボを切り、一気に背後へと回り込む。
     背中めがけて、肥大化させた拳を叩きつけた。
    「っ!」
     よろめくことなく、ザキオカは肥大化した拳を受け止めた。
     ただ、両足に力が篭った気がした。
     見逃す理由はないと、若宮・想希(希望を想う・d01722)が踏み込みすれ違いざまに後ろ脹脛に刃を差し込んでいく。
    「……硬さが強さ、といったところでしょうか」
     返答はなく、大きく動く気配もなく全てを受け止めていくザキオカ。
     正面に回り込んだ英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)もまた拳を連打した。
     腹に、みぞおちに腕に肩に拳を刻んでも、ザキオカはかけらほども揺るがない。
     手応えのない硬い感触が帰ってくる度、鴇臣は口の端に浮かべる笑みを深くした。
    「っ!」
     言葉を語らう事はなく、最後の一撃を放つと共に体を仰け反らせてバック転。後方へと退けば、今まで自分のいた場所をザキオカの両腕が薙ぎ払っている。
     避けきれず受けることとなった仲間の音を聞いてみれば、鈍く、深い。
     受けてしまったならどれほどの痛みなのか。拳を握りしめながら、氷の塊を精製。
    「……行くぜ!」
     ザキオカのダブルラリアットが止まったタイミングに合わせる形で発射し、足元を凍りつかせていく。
     直後、吹き飛ばされるも体勢を整えなおしたリリアナが飛び込んで、盾突撃をぶちかました!
    「まだまだ、戦いはこれからだよ!」
    「はっ、それはこっちにセリフだね!」
     視線がリリアナへと向けられていく中、討魔は一人背後に回った。
     腰を落としていくザキオカの背中に向かい、炎のミドルキックを放っていく。
    「……」
     揺るがない、やはり、かけらほども。
     されど炎上させる事には成功した。
     数秒ほどの時を経て自分が燃えている事に気付いたか、ザキオカは小さく笑い出す。
    「はは、いいね。そう来なくっちゃ……!」
     笑ったまま、放つはワンステップで放たれる体当たりの連打。
     炎を宿したまま、ザキオカは前衛陣をふっ飛ばし続けていく……。

     前衛が抑え、治療役が治療する。
     ザキオカの使う技の全てが複数を対象としたものであるため護りに不安のある攻撃役の負担が増えてしまっているけれど、その分、ザキオカへのダメージを与えることができている。
     そのはずだと謡は戦場を駆け回る。
     獣のように素早く、鋭く。
     常にザキオカへの狙いを定めながら。
     リリアナのチョークスリーパーを受けるために気を逸らした刹那を狙い、槍で虚空を切り裂いた。
    「はっ!」
     風刃を受けながら、ザキオカは再び動き出す。
     ワンステップからのタックルを、前衛陣へとかましていく。
     クーガーは真正面から受け止めた。
     膝をブレーキ代わりにして、衝撃を完全に殺しきった。
    「っ!」
    「……」
     すかさず拳に因子を乗せ、左腕に向かって拳を振るう。
     肘を強打した後、ザキオカは若干顔を歪めながらクーガーを振り払い後ろへ跳躍。
     逃さぬと、クーガーは腰を落とす。
     着地したタイミングに合わせる形で、虚空を強く蹴りあげた!
     突風に煽られ、ザキオカは僅かに姿勢を崩す。
     攻撃の好機こそ治療をしっかりさせねばならないと、陽はリリアナへと向き直った。
    「あたしのターン……ドロー! ダイヤの五をコストにヒーリングライト発動!」
    「そこだっ!」
     一方、鴇臣は痛む体を推してザキオカの懐へと入り込んだ。
     固く拳を握りしめ、今一度拳を連打した。
     先程よりも、多少は手応えが帰ってくるようになったザキオカの体。
     着実にダメージを積み重ねているのだと、鴇臣は更なる力を込めて拳を放つ。
     最後の一撃を右フックで締めくくった時、ザキオカの体から赤いオーラが立ち上った。
    「やるねぇあんたたち! そうだよ、そうじゃなきゃ面白くない! さあ、受けてみな。このあたし、ザキオカ様の古い必殺技、ザキオカフェニックスをネ!」
     オーラは不死鳥の形を形成し、鴇臣の体を吹き飛ばしながら前衛陣の間を駆けまわる。
     同様にふっ飛ばされながらも空中で体を一回転させ着地した想希は、歯を食いしばってただ笑う。
    「さすがに強いですね」
     楽しいと。
     もっと強くなりたいと。
     でも……。
    「共に高みへ、そう誓った。ひとりじゃないから強くなれる」
     指輪ごと道路標識を握り直し、立ち上がる。
     腰を落とし、標識を警告を与えるものへと塗り替えながらただ真っ直ぐに見据えていく。
    「悟が……待ってるから。あなたには負けられない。勝って帰ります……!」
     言葉を終わらせると共に跳躍し、不死鳥のオーラを吸収していくザキオカの脳天に向かって道路標識を振り下ろした。
     脳天で受け止めたザキオカは、此度初めて体を揺らがせた。
     脚をよろめかせ、一歩、二歩と下がっていく。
     瞳を瞬かせながら頭を抑え、口の端を持ち上げていく。
    「いいねぇ……その覚悟、その力! いいよ、ようやく出せそうだ。あんたたちになら……この奥義……」
     顔を横に振った後に両腕を広げ、真っ直ぐに空を仰いでいく。
    「受けてくれよ、しっかりと!」
     ドラゴンのようなオーラがザキオカから放出され、咆哮にも似た唸り声を上げながら前衛陣へと襲いかかり――!

     ドラゴンのようなオーラは、前衛陣を一人残らず飲み込んだ。
     その上でザキオカへと吸収され、彼女の力をより一層高める糧となった様子。
     されど、砕く。
     灼滅者たちは欠かさず、的確に。
     その上で、癒やす。
     傷ついた仲間を。例え、徐々に癒やすことのできないダメージが増えていたとしても。
     支えていけば、勝利にたどり着けるはずだから……!
    「……クラッシャーを優先します。ドロー……ハートのエースをコストにヒーリングライトを発動!」
     護りに弱点を抱える鴇臣と討魔の体力が危うい域に達していたから、陽は予定を切り替え彼らの治療を優先した。
     治療を受けながら、討魔はザキオカの背後へと回り込む。
     変わらず避ける様子のないザキオカの体を持ち上げ、自分の両方へと乗せていく。
    「拙者の必殺技、どうか味わって欲しいのでござるよ」
     返事を待たず、放つはアルゼンチン・バックブリーカー。
     ひと通り力を込めると共に地面へと投げ捨て、距離を取りながら様子を伺っていく。
     ザキオカは首を横に振った。
    「弱い、とは言わない。だが、もっとだ、もっと戦いのことを考えるんだね!」
     言葉と共に、放たれるはドラゴンのオーラ。
     前衛陣の間を駆けまわり、討魔を飲み込み周囲を跳ねまわっていたリリアナへと向かっていく。
     跳躍直後に襲われ叩き落とされながらも、リリアナは前転を繰り返して衝撃を最小限度に押さえ込んだ。
    「まだまだこんなものでっ」
     体中から血を流しながらも気を吐いて、腕を肥大化させて跳躍。
    「デカいのいくぞっ!」
     勢い任せの、されど全力全開のラリアット!
     喉元へ叩きつけ、ドラゴンのオーラを吸収していくザキオカを押し倒すことに成功した!
    「よし、今!」
    「畳み掛けよう」
     すかさず、謡が帯を放つ。
     右肩を貫いた時、藍の影がザキオカの全身を包み込んだ。
    「この調子なら……」
    「そこだぁ!」
     影の中心めがけ、時臣が槍を突き出していく。
     左肩を貫いた時、両腕が影を粉砕した。
    「ははっ! まだだ、まだだよ! まだ、やられちゃいない!」
     影をまき散らしながら、放たれるはダブルラリアット。
     仕掛けようと踏み込んだクーガーはふっ飛ばされ、されど口元を持ち上げる。
    「それは、こっちのセリフだ」
     空中にて体勢を整えながら、結界を起動。
     ダブルラリアットの勢いを削ぎ落とし――。
    「……」
     ――その体を、リリアナがホールドした。
     腕に力を込めながら、リリアナは告げていく。
    「勝負あり、だよね」
    「……」
    「ボクはまた、戦いたい。灼滅したくない。だから……」
     拘束されたまま、ザキオカが周囲を見回した。
     少なくとも、今はまだ灼滅しない。
     勢いで灼滅していたかもしれないけれど、意図して滅ぼすことはない。それは、概ねに共通していた思いだっただろうか。
     ザキオカは小さな息を吐き、力を抜いた。
    「……悔しいけど、あたしの負けだね。降参だよ、好きにしな」

    ●次は負けない
     灼滅者たちは改めて、ザキオカに撤退を促した。
     ザキオカは頷き、小さく肩を落としていく。
    「ったく、結構鍛えてたつもりだがまだまだだったねぇ……、もっと強くならないと……」
     小さな言葉をこぼしたザキオカに、想希がチョコを差し出しながら語りかけた。
    「ありがとうございました、色々と」
    「はっ、礼を言われることはしてないよ、全ては戦いの結果さ。むしろ……」
     チョコレートを受け取りながら、ザキオカは首を横に降る。
     背を向け、街の方角に向かって歩き出す。
    「いや、なんでもない。チョコはありがたく貰っておくよ。……次は負けないからね、覚悟しておくんだね」
     灼滅者たちもまた別れの挨拶を告げ、武蔵坂学園に向かって歩き出した。
     歩きながら、藍は一人思い抱く。
     ケツァールマスクとは一度手合わせをしてもらった事があり、その強さには敬意を持っている。一方、シン・ライリーの強さも目を見張るばかり。
     しかし、一般人を巻き込み場所を考えずに戦う、あるいは戦うことを厭わないのなら許すことはできない。
     力が在れば、両方を叩きのめして反省を促す事もできるはず。だから……。
    「もっともっと修行しないと駄目ですね」
     空を仰ぎ、決意を胸に抱いていく。
     強ければ、正しき道を向いていれば、きっと戦いも正しき方角へと導ける。この度の戦いがそうであったように……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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