もうすぐバレンタインデー。
武蔵坂学園の学生の間でも「誰に渡すの?」「何を贈ろう?」と言った会話がちらほらと……。
「今年はどうするんだ?」
「えっと、これに参加してみようかと思って」
一之瀬・巽(高校生エクスブレイン・dn0038)に尋ねられ、ミリヤ・カルフ(中学生ダンピール・dn0152)は1枚のチラシを差し出した。
『甘いモノが苦手な彼にも! ミニパイを贈ろう!』――そんな謳い文句で始まるチラシには、『ミニパイ』の作り方と開催日時、開催場所が印刷されていた。
『ミニパイの作り方』
1)冷凍パイシートを半解凍状態にして好みの大きさに切る。
2)好きな具材をパイシートで包む。
3)フォークでパイシートの端を潰してしっかりと口を閉じる。
4)オーブントースター用の皿またはアルミホイルに並べて焼く。
5)パイがふっくらと膨らんで焼き色がついたら取り出し、粗熱をとって完成。
ポイントは「中身を入れすぎないこと」「水気をしっかり切ること」「しっかりとフォークで口を閉じること」の3つ。
パイシートは用意されている。中に入れるためのチョコレートやチーズも一応用意されてはいるが、中の具材は基本持込み。
「水気が多すぎるとかでなければ、大抵の食べ物は入れられるみたいですね」
チョコレートは勿論ジャムやチーズ、ハムやウインナー。全て同じ味にするもよし、ロシアン風に仕上げるもよし。
「作り終わったら、試食会もあるんです」
ふわ、と笑ってミリヤが続ける。
せっかく作ったのだから味もしっかり確認しておかなければ、ということらしい。
「よろしければ、一緒にいかがですか?」
●
「あまりお菓子作りしたことないから良く分からないが、こんな感じで良いだろうか?」
「えーっと、こんな感じで良いでしょうかー?」
完成したミニパイを見せ合うデルタとマヤ。
「何作ってるの?」
天花の問いにデルタが答える。
「私はチョコレート。皆は、どんな感じのミニパイを作ってみたんだ?」
天花がパイの中に詰めていたのは、手作りのつぶ餡。
「ちょっとだけバターを混ぜてみたんだ」
マヤはブルーベリー。
「ブルーベリーパイみたいで、美味しい物に仕上がりそうじゃありませんか?」
慣れない手つきでパイを包み、全て包み終わったら皿に並べてトースターへ。
十数分後、焼きあがったミニパイを見てマヤが笑う。
「皆さん、お上手に仕上がりましたね」
「ちょっと大人びた感じの、甘いミニパイに仕上がってくれてるように」
デルタの願いが叶ったか否か、判明するのはもう少し後のこと――。
「作戦はガンガンいこうぜ」
毬央の言葉に、芭子が突っ込む。
「作戦は命大事にだから、飴咲はそこで座ってて」
「飴咲さん落ち着いて。料理はシンプルオブザベストだから」
毬央を懸命に宥めるノエリア。しかし毬央は止まらない。
「単品でも美味いんだから混ぜればもう最強なはず」
「うん、飴咲、わかる、分かったからちょっと待って」
見かねたノエリアが彼女を羽交い絞め。
「みんなで美味しいパイを食べようね。だから離して」
「オッケー雨賀そのまま止めてて」
足掻く毬央ををノエリアに任せ、芭子は目を逸らしたくなる出来栄えのパイの手直しに入る。
手直しを終えれば、あとは焼き上がりを待つばかり。
「袖岡さんのウィンナーパイ美味しそう。完成したら皆で出来たて試食、楽しみだね♪」
「美味しく焼きあがると、いいね……」
美味しくなーれと笑顔でおまじないをかけるノエリアに、芭子が少し遠い目をして呟いた。
食い付こうとした瞬間に灯倭の口へと消えるスプーン。
翼が割と本気で凹むと、灯倭は慌てて「完成品を食べてもらうから」と弁明する。
そんな2人が律花の手元を覗き込むと、そこには綺麗なミニパイが。
「灯倭ちゃんの彼氏さんって甘い物好き?」
パイの出来を賞賛する2人に照れながら律花が問う。
「ん、彼は甘い物好きなの」
「翼ちゃんはそんなにたくさん彼氏さんに食べてもらうの?」
話を振られた瞬間、翼は何故か覗うような表情になり。
「その……あちこち心配掛けたからさ、皆にお礼渡したくて……」
美味しくないかもしれないけれど、と続ける彼女に律花があら、と意外そうな顔をする。
「美味しくないなんて御冗談?」
「ん、心がこもったもの以上に美味しいものはないよ!」
おかえりなさい――律花と灯倭、2人の心からの言葉に翼がはにかむようにして答える。
「へへ……うん、ただいま!」
●
「中身はこれにしようかと」
「お、和洋菓子やなうまそーや!」
想希が取り出した食材に瞳を輝かせる悟。
「お茶にも合うと思うし悟も餅、好きでしょう?」
「おう! この前の桜のスプリングティーも合うかもしれへんな」
贈る相手を思いつつ、作業を進める。
「できたでー! どや!」
歪なハート型のパイに目を細め、想希が悟に礼を言う。
「手伝ってくれてありがとう、悟」
す、と悟の頬に手を伸ばし、逆の頬に口付ける。
悟は一瞬驚いた顔をして……想希の頬に同じ事をした。
「俺の伯父さんにもなるんやから当然やろ」
「ん、俺たちの家族だから」
「このマシュマロとくるみのほっぺと、どちらが柔らかいかな?」
タージがくるみの頬を突く。
「もう、マハルさんたら……えへへっ♪」
照れ笑いしながらマシュマロをパイ生地で包むくるみの手が、何故か時々口元へ。
「あ、くるみ、つまみ食いしてるっ! ふふ、僕も食べていい?」
あーん、と口を開けるタージ。彼の口にマシュマロを運ぶくるみの頬がほんの少しだけ赤く染まる。
成形に苦戦しながらもアイシャが完成させたのは、少し不恰好なハート型のパイ。
中身のハムは市販品だがトマトソースは自家製。
パイにはお世話になったクラブの仲間や姉への思いが込められている。
成形が終わったパイはもう1つのチョコのパイと共に皿に並べてトースターへ。
「トースターさん、お願いしますです!」
パイを入れたトースターに向けて敬礼する空。
魚型やカメラ型のパイは、お世話になっている部長さんへのプレゼント。
(「大丈夫かな~……上手に焼けてるかな~……」)
期待と不安の混ざった瞳で、空はトースターの中を覗き込む。
「うひゃっ!?」
跳ねたチョコクリームに桜花が焦りの声を上げる。
懸命に作ったミニパイをトースターへ入れることしばし、焼き上がった本命用のミニパイは少し残念な見た目だった。
「み、見た目は悪いですが、頑張って作ったのできっと美味しいですわ!」
「作り方はピザやお好み焼きと同じ感じかしら? 思ったより簡単に出来そうだわ」
蘭花がパイの中に持参した野菜を詰めていく。
ウーピーパイに苺ジャム。苺に生クリーム、チョコレートクッキーにバナナ……持ち込んだ材料を使いさまざまな甘いミニパイを成形していくシャーティ。
「誰か試食してくれないかしら?」
「誰かに私のパイの感想を聞きたいんですの」
ほとんど同時に呟いて、蘭花とシャーティは思わず顔を見合わせた。
「流石の郷土愛だね」
パイの材料として「仙台いちご」を用意したクラレットに律が感心したような目を向ける。
「よかったら摘み食いする~?」
「クラレットちゃんの苺?! 貰う貰う♪」
クラレットが差し出す苺にあーん、と口を開ける奈穂。
「パイって美味しいよね」
呟く新が作るのはミートパイとキッシュ。
「あ、ちょっと具が多かったかも」
焦る奈穂の手元にはバナナと刻みチョコ。
互いのパイの中身に感心したり驚いたり――ワイワイと楽しみながら、パイ作りは進んでいく。
●
律の手で供された紅茶と共に、パイを楽しむクラスメイトたち。
「新君のミートパイと……もう1つ何だっけ? 変わってるね」
「お菓子って言うより食事っぽい」
クラレットと奈穂、2人の言葉に頷きながら律が続ける。
「ミートパイ、スパイスが入ってるかな?濃厚な味だ」
「確かに日本ではあんまり見ない気がするね」
3人に頷いて、新も自身のパイを試食する。
「我ながら美味しくできたよ。それに皆のパイも美味しい!」
「奈穂ちゃんのパイ甘くてほわほわ!」
「ストロベリーパイ、苺とチョコレートが入ってた!」
「律くんのりんごパイは紅茶付きでもうなんか完璧だし……」
皆で食べるから、余計に美味しい――。
「さぁぜひご賞味あれ!」
一時期話題になったドイツソーセージを使ったミニパイを参加者に供するのはアンカー。
「ミリヤ君も一緒に食べよう」
誘われてミリヤが嬉しそうに頷く。
「そのままでも美味いがミニパイにするとさらに美味いな」
彼の言葉に、ミリヤは笑顔で「はい」と答えた。
「この匂い……フルーツ系か?」
銀河作のミニパイを美味しそうに食べる黒虎。それに安心したように、銀河が黒虎のパイに手を伸ばす。
「美味しい!」
「んじゃ、お互いに食べさせっこだ!」
あーん、とお互いの口にパイを入れる。
「……み、水っ!」
黒虎が食べたのはレモンたっぷりのパイ。
「やったー!」
はしゃぎながら銀河は黒虎のパイを口に運ぶ。
「~~っ!?」
パイを口にした瞬間悶絶する銀河に、酸味から復活した黒虎が悪戯っぽく笑う。
「何事も平々凡々じゃつまらんだろ?」
お互いのトラップに引っかかって、それすらも幸せで――銀河もまた笑みを零す。
「お好みの味をどうぞ」
既濁の前に並べられる3つのパイ。
紅茶を淹れたカップを置く詩音はやや緊張気味だ。
並んだパイの1つを食べた既濁の感想は……?
「ふんふん、カスタードの甘味が良く出ていて美味しいぞ」
「良かったー」
満面の笑みで喜ぶ詩音に、既濁は更に一工夫するためのアドバイス。
真剣にメモを取る彼女の前に彼は別のパイを置いた。
「ついでに俺も抹茶で作ってみたんで適当に食べといてくれ」
勧められるまま既濁作の抹茶パイを口にして、詩音はむぅと眉を寄せる。
(「美味しいです。強敵です」)
チョコレートの入ったパイを前に、麒麟が口を開く。
「ええと、もちろん14日にはチョコをあげるんだけど……」
「……うん、実は密かに期待してた」
その答えに「でも作っている時に食べたくなるのだ」と続ける麒麟に、司が笑みを漏らす。
「……司くん、はい」
ややあって、麒麟は最後のパイを司の口元へ。
「え」
「ん、去年のホワイトデーの時のお返し……」
「そ、そんなこともあったね」
意を決して食べる司も恥ずかしそうなら、差し出す麒麟も恥ずかしそうで。
「けど、さっきより美味しい気がする」
僅かに頬を赤くしたまま、司がポツリと呟いた。
百花のパイの中身は愛情満載のお手製チーズ入りハンバーグ。
「ありがとう、嬉しいよ」
感謝を込めて、エアンは百花の頬に口付ける。
「熱々のミートパイを熱々の2人で食べる……あつあつのバレンタインっ」
「熱々バレンタインか、なるほどね」
きゃと盛り上がる百花にの言葉に頷いて、エアンはミートパイを一口。
「熱っ」
「わわ、えあんさん、大丈夫?」
百花からアイスティーを受け取り、エアンが口の中を冷やす。
「うん、でも、美味しいよ」
全部俺のものだから――微笑むエアンに百花も答える。
「もちろん! ぜーんぶっ、えあんさんのよ?」
「「あーん」」
みるひとフリーシアンが互いの口にパイを運ぶ。
「ちゃんと料理できてますか? 美味しいですか?」
「あったかくてサクサクしてて、とってもおいしいよ!」
フリーシアンの問いに、みるひが答える。ミルクチョコのパイも、本当に美味しい。
「俺のこそ大丈夫かな」
「え? みるひちゃんのパイの味ですか? とっても美味しいですよ」
「作ってる時、失敗したらどうしようって……でも、シアンが喜んでくれたなら俺もとっても幸せなんだぜ!」
「えへへぇ。うれしいのですよー」
フリーシアンの笑顔が、みるひの不安を消していく。
●
「ミカエラさんの……餃子? 中華風の餡が美味しいです♪」
紗里亜の言葉にミカエラが頷く。
「水ギョウザ風! 松の実の歯触りが中華ってかんじでしょ?」
「杣は上手くバナナを避けたわねーってコロッケ?」
自身の霊犬が口にするパイを覗き込み、銘子が首を傾げる。
「それはコロッケ入れたー♪ 南瓜風味にしてみたよー。ね、ね、美味しいー?」
ミカエラがきらきらとした瞳で尋ねると、杣が頷くように鳴く。
「小次郎さん、二層パイとはまた凝ってきましたね」
「命短い逸品ではありますが」
小さく笑う小次郎に紗里亜に返す。
「温度差の味わいの妙、流石です」
「銘子さんのはタバスコ混じりですか」
小次郎の言葉に頷く銘子。拍子にカレーパイの中身が零れかけたがなんとか対処する。
「チーズが絡んで美味しいんですけど、熱い……」
先に食べた紗里亜はセーフ。小次郎は……?
「グッ……う……美味い」
涙目になりながらも小次郎が呟く。幸い彼は辛党だった。
「毎日バレンタインだったら、すっごい幸せだろうなっー♪」
「ああミカちゃんはまたそんなに慌てて」
ミカエラの食べっぷりに、苦笑交じりの小次郎。
「ふふ、お腹一杯です♪」
満足そうに微笑む紗里亜。
割と見慣れた光景に、銘子は思う。
(「風景としてはいつも通りかしらね?」)
「オラァー! お待ちかねだぜ欠食児童ども!」
ドン! と机に置かれたプレート。その上に乗せられた自作のパイを試食して、ヘキサが満足そうに頷く。
「ヘキサ先輩ー! オレにもちょーだい!」
「ヘヘッ、オレ直々の手作りだからなァ。味わって食えよ?」
ヘキサが答えるなり翔はものすごい勢いでパイを食べ始めた。
(「これだけ焼いておけば、あの食いしん坊たちも大丈夫だろう」)
思う昴の視線の先には自身が量産したパイに、トレイ一杯に乗せられた瑠璃花のパイ、更に各自が焼き上げたパイが並ぶ。
「そっちがくるみ餡子、こっちがカボチャ、それがサツマイモな」
ミルクティーを飲みながら説明する昴。
「僕のはチョコやジャムを詰めただけだよ」
他は何故か止められたのだと、颯は自身のビハインド「綾」を見遣る。
「俺はベリー系が好きなのでそれを。皆さんもいかがですか」
自分のお奨めをさり気なく布教する織久。
「ほれ、食うか、香坂」
昴にあーんされる翔を見て、透が呆れたような声を出す。
「よく食べるよな」
「そりゃ美味しい物は皆で食べなきゃ! あ、兄ちゃん、それ食べないならちょーだい!」
「翔さん、他の人の分にまで手を出しては駄目ですよ。腹が減っているなら口を開けてください」
翔は言われるままに口を開け、織久のベリーパイをもぐもぐ。
「オイオイ、お前らのも食わせろよ!」
ウサギのアップリケ付きエプロンをしたままヘキサが身を乗り出す。
「どうぞ。僕は適当に摘んでるから」
ハイペースでパイを消化していく弟を見ながら翔が答える。
「何か皆、好き勝手作った感がハンパないな」
机に並んだパイの数々にそんな感想を漏らしながら、翔の抱えるパイの山にこっそり手を伸ばす透。
「ちょっ、透! それオレの! 横取りすんなよなー!」
「こンだけあるンだからくれたって良いだろ?」
にらみ合う2人の前に、フォークに刺さったパイが突き出される。
「お腹空いてるですかー?」
首を傾げて尋ねる瑠璃花。ニコニコ顔の彼女に2人の毒気が抜けた。
「おすそわけですー」
ワイワイと賑やかな仲間の様子微笑ましげに眺める翔と昴。
「ほら飲み物をちゃんととれ」
昴に手渡された飲み物をごくごくと飲み、翔が満面の笑みを浮かべる。
「みんなで食べるの美味しいです!」
嬉しそうに笑う瑠璃花に、翔が全力で頷いた。
「また皆で参加しようねー!」
「リンゴのパイ……おいしいっ!!」
七星が用意した紅茶ともよく合う。
「甘さ思ったほどキツくないね。隠し味何?」
有と七星の賞賛に、シアンが悪戯っぽく笑って答える。
「隠し味? それは愛情……なんてね♪」
「ジャム詰めただけでも結構美味しいな……あ、手抜きとか思ったわけじゃなくって」
慌てて弁明する七星。
「わかってるよー。何かの本で読んだんだ」
笑って答える悠。
「悠くんのチョコバナナも美味しっ♪」
幸せそうな顔をして、シアンは七星のパイに手を伸ばす。
「ナナのは惣菜パイなのね」
「箸休めにいいかなって。ハーブ使ってるけど、変じゃねぇかな?」
「すっきりする感じでいい使い方だと思うわ」
「おやつじゃなくて、ご飯なんだね。おいしいー」
美味しそうにパイを頬張る悠。
「結構腹に溜まったな」
「もう今日、ご飯いらないね」
「確かに、これでお腹いっぱいだわ」
仲間と過ごす――幸せな、ひと時。
恋人と、友人と。皆で過ごす楽しい時間。
明日は本番、バレンタインデー。
作者:草薙戒音 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年2月13日
難度:簡単
参加:47人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 5
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