みがけ、じょしりょく(物理)

    作者:ねこあじ


     女子力ってなんだろう。
     ファッションセンスのある子?
     料理とかお菓子作りが上手な子?
     家庭科の成績が良かったり?
     女子力を磨けば、大好きなあの人はあたしのことを見てくれるかな?
     …………でも、ほんとは知ってる。
     どんなに頑張っても無駄だ。あの人には素敵な恋人がいるのだから……。

    「たのもおおおおう!!」
     バンッと勢いよく扉を開け、一人の女子高校生が入ってきた。
     バレンタインデーも近いよね、ということで広めの部屋でお菓子作り教室が開かれている。
     ある班はガトーショコラ、ある班はチョコレートファッジという風に班分けされていた、そんな場。
     羽があり、浮遊する猫が、乱入した女子高校生に体当たりして押し戻そうとしている。
     ……のだが、女子高校生は豪快に猫の頭を、もげそうなくらいに撫でくりまわした。そのまま突き放すようなしぐさ。可愛がり方が勢い余っている感じだ。
    「なあ、この中で一番女子力が高い奴って誰だ? アタシと勝負しな!」
     猫のサーヴァントは前足で自身の目元を覆った。人間であれば顔を覆っている姿でもある。
    「いきなり入ってきて、どうしたの。勝負ってどういうこと?」
     可愛い奥様風の女性が乱入者に話しかければ、相手はワハハと笑う。
    「なあに。女子力の高い者を制すれば、アタシの経験値があがるだろうし、箔がつくってもんだよ!」
     言って、室内を見渡す。
    「……ああ、だが待てよ。女子力のありそうなアンタ達を全員倒せば、その分アタシも女子力が高まるかな?」
     彼女が喋るその間、猫は噛み付いたり爪をたてたりとしていたのだが、まったく相手にされていなかった。


    「一人の少女が、闇堕ちしてアンブレイカブルになろうとしているの」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が教室に集まった灼滅者たちに告げた。
    「闇堕ちした人は、すぐにダークネスとしての意識を持ってしまって人としての意識は消えちゃうんだれど、彼女――新堂・衛さんは、衛さん自身の意識を残していて、ダークネスの力を持ちながらも、ダークネスになりきっていない状況だよ」
     現在、衛の人としての意識は、猫のサーヴァントの姿となっていて、アンブレイカブルの行いを止めようとしている。
     だが、サーヴァントがダークネスを止めることなど不可能である。
    「完全な闇堕ちを防げる段階で、衛さんを撃破して、できれば救出して欲しいの」
     アンブレイカブルが言っている勝負は、拳で戦う、というものだ。手加減などはなく、一撃で一般人は死んでしまうだろう。
     そんな状況に陥った時、猫のサーヴァントは消える。
    「彼女の意識が諦めてしまって消えちゃうと、もう衛さんを救うことはできない。その時は今回以上の悪事を重ねる前に灼滅してあげて」
     まりんは静かな声で言った。一呼吸したのち、再び説明を始める。
    「お菓子作りの教室は五階ある建物の、その三階にあるんだ。教室への出入り口は二か所。一つはアンブレイカブルが入ってくるから、避難させるなら、もう一つの扉からが良いかも。
     行動に移すのはアンブレイカブルが入ってきてからにしてね」
     室内には五つのグループに分けられ、それぞれ六人ずつ。計三十人の班がある。
     事前に灼滅者が潜り込むことも可能だ。
     まりんはもう一つの案を提案する。
    「この建物にはフェンスに囲まれた屋上があって、うまく話に乗せることができれば、アンブレイカブルを屋上に誘導できるかもだよ。もちろん、猫のサーヴァントも一緒についてくるよ」
     猫のサーヴァントは、灼滅者たちが『衛』を救出に来たことが理解できれば、戦闘に参加せず応援してくれるようだ。
     一方、『衛』を殺しに来たと誤解した場合、ダークネス側にたって戦闘に参加する。
    「一応気をつけておいてね。でも猫と戦闘になってしまっても、戦闘中の説得は聞いてくれるみたい」
     アンブレイカブルは攻撃力は高め、ストリートファイターとエアシューズに似たサイキックを扱う。
    「恋で悩みながらも、自分を磨く。衛さんは、すごく頑張っていたと思うよ。
     ……まあ、ちょっと頑張りすぎて闇堕ちしかけているというか、真逆に吹っ切れてしまっているというか」
     言いつつそっと目を逸らしたまりんだったが、次の瞬間には灼滅者たちへと力強く頷いた。
    「みんな、衛さんをよろしくね!」


    参加者
    置始・瑞樹(殞籠・d00403)
    迅・正流(斬影騎士・d02428)
    イーライ・ウォルシュ(キルケニ猫・d04211)
    清水・式(生命と死の神アヴァンシエル・d13169)
    鞍石・世陀(勇猛果敢クライシス・d21902)
    ドラグノヴァ・ヴィントレス(クリスタライズノヴァ・d25430)
    楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)
    椎名・涼介(煉獄の刀・d32045)

    ■リプレイ


     シナモンやチョコレートなどの甘い香りが室内に漂っていた。
     やっぱり女性の参加が多いのだが、ここ数年は男性も増加している――師事する女性がその一人に声をかけた。
    「彼女、喜んでくれるといいわね」
     話しかけられた迅・正流(斬影騎士・d02428)は、はい、と頷いた。
     粉類をふるいにかけたり、卵白を冷蔵庫に入れたり、着々と下準備を進めていく灼滅者たち。
     イーライ・ウォルシュ(キルケニ猫・d04211)は湯煎するためのチョコレートを刻む。
     トントントン。
     だが軽快なリズムは直ぐにかき消された。部屋の外から豪快な笑い声そして合間に猫の嘆くような悲鳴。扉が開く。
    「たのもおおおおう!!」
     少女の乱入に、なんだなんだと周囲がざわめいた。
     ふわふわと浮いて止めにかかる猫が突き放され、ドラグノヴァ・ヴィントレス(クリスタライズノヴァ・d25430)が猫を受けとめる。
    「……にゃ」
    「大丈夫か? 本当の衛さんだよな」
     椎名・涼介(煉獄の刀・d32045)が話しかけると猫は驚いたのか、ドラグノヴァと彼を交互に見た。猫の目をしっかりと受け止めて話す涼介。
    「オレたち、みんなで衛さんを助けるためにここに来たんだ」
    「あなたが良心の部分だというのなら。あなたが健在ならあの肉体を取り戻せるハズ」
     二人と猫は、アンブレイカブルとなった『衛』を見る。
    「だから、協力してあげる」
     衛は周囲を見回していた。
    「なあ、この中で一番女子力が高い奴って誰だ? アタシと勝負しな!」
     大きく一歩を踏み出した鞍石・世陀(勇猛果敢クライシス・d21902)はプリンセスモードとなり、装備がより華やかに! 銀の髪をふわさぁとなびかせて言い放つ。
    「女子力が一番高いのはこのオレだ!」
    「……っ、気高くて素敵!」
     周りにいた一般人女性達が、きゃあっと黄色い声をあげた。彼女達の反応も相まって、感心した衛は頷いた。
    「ではアタシと勝負しようぜ!」
     ガッと構える衛に、まあ待てと世陀は手をあげる。
    「オレ達と勝負してより多くの女子力を会得したくはないか?」
     世陀の言葉にドラグノヴァ、そして楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)が進み出てくる。
    「今日は、女子が屋上で女子力を競ってるらしいよ。これは私達も参戦するしかないよね」
     言いながら夏希は、黄色い声をあげている一人の女性の腕をすれ違い様に引いた。後ろにいる清水・式(生命と死の神アヴァンシエル・d13169)に女性の身を寄せさせる。
    「ちゃんと元に戻してあげる。だから、力を貸して」
     すれ違い様に、式が猫に囁いた。
     後ろ髪引かれている一般人達を誘導すれば、その先にはラブフェロモンを放つ置始・瑞樹(殞籠・d00403)が扉のところで待っている。
    「こちらへ。静かに退出しましょう」
     淡々と瑞樹が誘導すればメロメロになった一般人は大人しく廊下に出て、瑞樹へと振り向いた。いわゆる出待ち状態である。
     女子組はというと。
    「そう、青空の下が女子力を高めあうに最も相応しい場所だ!」
    「ロマンだな!」
     世陀と、すっかり夢中になっているアンブレイカブルの言葉に夏希がうんうんと頷いた。
    「私の真の女子力も、爽やかな空の下で発揮されるんだよ」
    「予選を勝ち抜いた者こそが辿り着ける場所……そうか屋上か!」
     予選――恐らくこの場のことだろう。どうやら一般人は敗者として認識したようだ。力強く違った方向に納得する『衛』に、ちょっと遠い目になるドラグノヴァと猫だった。
    「今のうちに階下に行こう」
     誘導組に乗せられていくアンブレイカブルを確認したのち、静かに扉を閉めて式は言った。


    「我々が戻るまで此処を動かないように!」
     王者の風に乗せ、一般人への一時待機を指示する正流。
     全力で止めるつもりだが、アンブレイカブルが教室に戻ってくる可能性もある。
     イーライがぺこりとお辞儀をした。
    「お騒がせしました。えと、こちらで対処するので、少し待っていてください」
    「オレたちもお菓子作り、参加したいしな。――じゃ、行こうぜ」
     涼介が言う。
     新堂・衛の意識は猫のサーヴァントにある。説得してもアンブレイカブル自体は弱体化しない。
     果たして、今、誘導を行なった女子陣は何をしているのか。戦闘になっていたら――五人は足を速め、屋上へと向かった。

     ゴージャスモードとなった夏希に、ビハインドのノワールが手を差し出す。
     その手のひらへと自身の手を添わせた夏希は控えめに、可憐な微笑みを見せた。エスコートされ、衛の前まで歩いた夏希はスカートの両端を摘んでお辞儀。
     ゆっくりと顔をあげて、にっこりと笑った。
    「くっ、かわいい……!」
     衛は悔しそうに言い、コンクリートを殴りつけた。五人が屋上に駆けつけた時はまさにその場面。
    「女子力って別にお料理だけじゃないわ! 可愛さや儚さもぐっとくるものって言ってた!」
    「可愛さか。……む、その執事みたいな者なら、アタシにもいる、な」
     そう言った衛が、灼滅者の近くにいる猫のサーヴァントを見る。
     にやりと凄惨な笑みを浮かべた衛を見て、猫が怯え始めたことに気付く灼滅者達。
    「お前はアタシの女子力の一部なんだ。従え、そしてアタシに可愛さを――」
     本体への反応か、ふらりと猫が引き寄せられるように進む。空気が張り詰めた。
    「自身を確りと保ってください」
     瑞樹の静かで芯のある声にぴくりと止まる猫。
     猫と衛の間に割り込んだイーライは、猫の目をしっかりと見つめて真摯に訴える。
    「今の衛さんの体は、悪い衛さんに乗っ取られてるんだよね。体を取り返す為には悪い衛さんをやっつけて降参させないといけないの」
    「懐かしいな……オレも同じ状況に陥った事があるぞ。強さを求めるあまり、オレがオレでなくなり暴走した事が……」
     ふ、と世陀が口端をあげた。
    「しかし! 皆に殴られまくった結果我を取り戻し今に至るのだ!」
     猫、あんぐりと口を開けて『衛』と世陀を見比べた。分かりやすい説明だったようだ。
    「絶対に元に戻してあげるから、私たちに任せて信じてほしい」
    「にゃあ」
    「荒っぽくなりますが、今の彼女に本当の女子力を教えれば元に戻ります。暫し其処で応援していて下さい」
     夏希の言葉、続く正流の言葉とともに頭を優しく撫でられて不安を抑えたのだろう。浮遊する猫はゆっくりと衛から離れる。
    「なるほど、では仕留めてその女子力を取り戻そうかな」
     言うが早いか駆けた敵が世陀へと蹴り放つ。衛のすらりとした脚は健脚そうで、瞬発力もあった。
     だが攻撃とはいえない攻撃に、世陀は寸前で避けて距離をとる。
    「ほう、そこらの女子力(せんとうりょく)を圧倒的に凌駕しているな。面白い」
     軽く跳んだ衛が大きく脚を振り――回し蹴りを放つ。
    「男の女子力……とくとご覧あれ!」
     巨大な漆黒の剣で受けとめた正流は、そのまま力に逆らうことなく受け流す。
    「真の女子力は暴力に非ず! 愛と優しさ、そして淑やかさこそが真髄なり!」
     蹴りを振り抜く衛だったが、正流に若干軌道を逸らされ、それが前衛の灼滅者へと薙がれた。
     構わず暴風の合間を走り抜けた瑞樹が月光天を展開させて殴りつける。淡緑色の軌道が生まれた。
     それとは対角の場所から涼介のダイダロスベルトが射出され、アンブレイカブルに迫る。
    「オレでよければ、女子力見せてやる!」
     地面を這う低さで帯は旋回し、敵の腕を貫いた。

     ドラグノヴァはふわふわと浮く猫に狙いをつけている――癒しの矢を放てば、猫はびっくうと仰け反った。ドラグノヴァと猫、目と目が合う。
    「さあ、貴方の肉体を取り戻すのよ!!」
    「にゃーん!?」
     リングを光らせ、付与を打ち砕く光を後衛に送ろうとする猫。
    「なあんだぁぁおまえ、やればできるんじゃないか!!」
     走りぬけるついでに衛が激しく猫の頭を撫で撫でして突き飛ばす。放り出された猫は空中でぱたりと倒れるしぐさをした。
    「立って、立つのよ。猫ー!」
     風に煽られる猫。
     風の刃を作り出しながら、式が悩んでいる。悩ましげな美少女の図?
    「僕、女子力高いって言われるけど、女子力ってなんだろう? 僕の場合、男子力じゃないのかな?」
    「はっ? えっ? お前、女じゃないのか!?」
     ぎょっとするアンブレイカブルであった。


     イーライが深く踏み込む。拳に集束させたオーラで衛の胴に一打、二打。さらに重ねて叩き込む拳は時たま払われるが、もう片方の拳で勢いのままイーライは前進した。
     平時穏やかな橙の瞳は、子供ながらに真剣そのものだ。
     最後の一発を放ったイーライは深く入るその拳、いや腕を取られ、振り飛ばされた。身を捻ってフェンスに着地し、彼は跳躍した。衛を追う。
    「ふはーっはっは! 高まる! 感じるぞこの女子力っ!」
     高揚した衛の姿に、猫がジタバタと空中で足掻き出す。見ていられないようだ。
    「殴りあうことで女子力が高まるなら女格闘家は皆女子力が至高のハズよ。アンタの理論でいうと女子倒すと女子力上がるみたいだけど――」
     ぎりっとドラグノヴァが霊力のこもった弓を引き絞る。姿ともに鬼気迫る勢いだが、仲間を癒す矢である。
    「私は女型のダークネス結構倒してるけど料理とか全然できないのよ!!」
     衛は世陀、そして瑞樹へと攻撃を集中させていた。ドラグノヴァが射放った矢は世陀を貫く。……大事なことなのでもう一度、仲間を癒す矢である。
     矢に貫かれても平然としている世陀に、アンブレイカブルは目を輝かせた。
    「女子力とは相手を倒して手に入れるものではないらしいぞ!!」
     世陀が鍛え抜かれた超硬度の拳を見舞う。腕を交差し、防御を行なう敵に構わず振り抜いた。
    「まあ、オレを倒しても女子力は全く身に付かないと思うがな!!」
     衝撃に逆らわず後退した衛へとノワールが接敵する。霊撃を放つノワールに気を取られた衛の死角へと夏希が素早く滑り込んだ。
     滑り込んだ姿勢のまま両手に集束させたオーラを、敵めがけて放出する。
     ベルトの動きに精度をあげてきた涼介が柄に手を掛けつつ己の間合いに迫った。
    「本当の女子力っていうのは戦いで磨くんじゃなく、合間に自分で磨き上げるものだよな」
     涼介は姿勢低く、駆け抜ける直前で抜刀し斬り払う。
    「本当はそれをわかってるんだろ?」
     その身ごと刀を翻し、再び納刀した時にはもう敵の間合いから抜けていた。
     式のビハインド、神夜が霊撃を放つ。
     後ろから横からと次々に仕掛けられる攻撃に目覚めたばかりのアンブレイカブルは翻弄されていたが、どこか楽しそうでもある。
    「うん。女子力って、他人をどうこうするんじゃなくて。自分で磨くものだと思うんだ」
     式も涼介の言葉に頷き、言った。回復、援護と癒しの矢を瑞樹に射る。
     瑞樹がより精度のある蹴りを放った。片脚を軸に炎を纏い放たれたそれは、ぶれずに綺麗な孤を描く。
     蹴飛ばされた衛は空中で反転、両手を地面に着いてすぐに体勢を立て直した。同じように炎の纏った蹴りを瑞樹へと放つ。
     衝撃を逃した瑞樹は纏わりつく炎を払い、衛の動きを見た。動きを覚え始めたものの、俊敏さが消えている。
     女子力はともかく明らかに戦い方は磨かれつつあった。灼滅者が戦いの手本といったところだろうか。
     新たな炎が距離を詰めた。正流だ。
     切り上げた破断の刃を頭上で回し間髪入れず一閃。柄を握り、逆袈裟に切り捨てた。
     優雅に流れるように。遅れてついてくる着物の袖には桜吹雪と火の粉が舞っている。
    「真の女子力……磨き直して出直しなさい!」
     正流の動きに感嘆の息を吐く衛。
    「ふっ。女子力ってやつぁ、奥が深い……な」
     どさりと仰向けに倒れた彼女は満足そうな笑みを浮かべていた。


     猫が消え、目覚めた衛は上体を起こしたものの、その姿勢から動かない。夢だったのか現だったのか――それを判断しているような様子。
     手当てし、式が取り出したハンカチで青褪めた衛の顔の汚れを拭ったり、服の砂埃を落としてと世話をやく。
     ようやく焦点が合いだした衛は、何度か瞬きをして式を見つめた。
    「良かったら、僕たちと一緒に来ませんか?」
     こくっと衛は頷いた。そして、おずおずとした声色で八人に言う。
    「あの……その、ありがとう」
    「よかったー! 衛さん、おかえり」
     立ち上がった衛に、喜んだイーライが飛び跳ねて手をぎゅっと握った。

     十分に動けるようになってから、一同はお菓子作り教室へと再び参加した。
    「ガトーショコラでも一緒に作りませんか?」
     ぼんやりとしていた衛に、正流が声をかける。
     瑞樹が用意した道具、材料は見慣れたものだ。
     いまだ震えの止まらない手でそれらを取る衛。
    「元は良いのだから、女子力も直ぐに身につきますよ」
     正流に教わる作り手順は、衛の心を落ち着かせていった。
     強張っていた表情が徐々に穏やかになっていくのに瑞樹は気付く。
    「男の子にとって女の子ってだけで充分女子力ってあるんだよ。お料理ができなくってもヒラヒラのかわいいお洋服を着てなくても、内面から出る女の子オーラってあるらしいよ。女の子は自覚しにくいけれど……男の子にはわかるんだって」
    「……女の子オーラ」
    「料理できなくてもいい……」
     夏希の言葉に感動する衛と、ドラグノヴァ。
    「私もお料理苦手なんだ……」
     夏希はちょっと困ったように微笑んだ。
     ドラグノヴァは銀の髪をふわりとなびかせた。お菓子作りをするから、とササッと銀の髪をまとめる。
    「料理中の女子のうなじとか、ぐっとくるという話ね」
    「いやそれ違うと思う」
     と、涼介。
     その後ろでは豪快な動きで生クリームを作る世陀。
     頬に跳ねてきたクリームをぺろっとなめる世陀は、舌でその質を判断する。
    「うむ、イメージどおりに美味しくできたな!」
    「三段ケーキと、凱旋門モチーフのチョコ……よし頑張ろうっと」
     そのまた向こうでは、背景に花を飛ばしているような雰囲気の式が、うきうきと菓子を作っている。イメージどおりに作れるかどうか考えているのも、彼の女の子らしい部分。
     クリームを味見させてもらった涼介。
    「皆さん、お菓子作り上手いっすね。けど、オレだって負けてな」
    「ぐっとくる?」
     世陀と式を眺めて言う涼介の言葉に、割り込み尋ねるドラグノヴァ。
    「そ、そこでオレに話を振るのか! ……イーライ君」
     イーライに助けを求めようとしても、子供独特の緩い笑顔に、言葉が出なくなる涼介。
     その雰囲気に笑みを零していた衛は、ふと、手元を見る。
     さりげなく、瑞樹は声をかけた。
    「女子力に限らず、自分自身を磨き上げる努力をしている人は美しいもの」
     自分の望んだ形になるとは限らずとも――。
    「必ずや糧になるので、自信を持っていただきたい」
     はにかんだ笑顔を見せ、はい、と頷く衛。瑞樹が見届けるのは、楽しく菓子作りをする灼滅者の輪に入っていく彼女だった。

    作者:ねこあじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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