ぼっちな少女と猫のお話

    作者:相原あきと

     暗い森の中を小さな人影がゆっくり歩いていた。
     そして、木漏れ日のように木々の合間から差す月の光がその人影を照らす。
     それは小学生高学年ぐらいの少女だった。
     ひとつ、普通の小学生と違うのはその四肢が水晶化している事だろうか。
     見る人が見れば、それはつい先日、山の吊り橋から川に落下して行方不明になった静原・小夜香(しずはら・さやか)という少女だとわかっただろう。
     だが、少女は吊り橋から川に転落し、流され、しかし生きており、そしてたった1人で……闇堕ちした。
     少女がゆっくり歩くのに合わせ、ダークネスたる彼女が力を与えた野犬とフクロウが一定距離を保ってついてくる。今、彼女に付き従うはその2体のみ。
     こんな森の深い場所にいては、眷属たるゾンビを増やすのもままならぬ……。もう少しだけ、人里に近い場所に拠点を持つ必要があるだろう。
     そう、思っていると野犬とフクロウが後ろで騒ぎ出す、チラリと振り返れば、そこでは2体に襲われている羽のついて不思議な猫がいた。
     あの猫は確か……。
     羽付き猫は2体を振り切って少女の前に立ち塞がると、少女を心配するように見上げて、ダークネスたる少女がやろうとしている事に抗議するよう鳴き声を上げる。
    「………………ふん」
     だが、少女は猫を一瞥すると興味も無いとばかりに無視し、再び歩き出す。
     やがて、追いついてきた野犬とフクロウが、邪魔をするなと猫へと襲い掛かったのだった。

    「みんな、ノーライフキングについては勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
    「今回、みんなにお願いしたいのは、ノーライフキングに闇堕ちしかかっている一般人の救出なの。名前は静原・小夜香(しずはら・さやか)、小学校高学年の女の子よ」
     すでに肉体はダークネスに支配されているが、人間としての意識はぎりぎり残っているという。しかも、その意識は猫のサーヴァントの姿を取ってダークネスの行動を止めようとしていると言うのだ。もっとも、サーヴァントにダークネスを止めることは不可能であり、実際止めれはしないのだが。
    「もし、猫のサーヴァントが全てを諦めて消えてしまったら……彼女は完全に闇堕ちしてしまうわ。そうなる前に、なんとか肉体の方のダークネスを灼滅し、彼女を救出して欲しいの」
     珠希はそこで一度言葉を切ると。
    「もちろん、猫のサーヴァントが消えてしまったら……辛いと思うけど、救出はあきらめてダークネスの灼滅を、お願いするわ」
     珠希はできるだけ感情が表に出ないようそう告げると、次に状況を説明し始める。
    「彼女がいるのはとある森の中よ。星明りしか無い森の中を、ゆっくり移動中なの」
     時刻は真夜中、人の来ない森の中なので、大きな音を立てても一般人がやってくることは無いだろう。
     ダークネスはノーライフキングと影業に似たサイキックを使い、後ろから狙いをつけて攻撃してくるという。
     また、力を与えた配下を2体作りつれているという。1体は野犬で盾役、1体はフクロウで妨害役、両方とも牙や爪で攻撃してくるがサイキックとしては殺人注射器に似たものを使ってくるらしい。
    「ちなみに今回2つ注意点があるの。1つはダークネスを説得しても弱体化しないって事」
     意識はすでに猫のサーヴァントであり、肉体は完全にダークネスが支配しているのでいくら肉体を説得しても無意味という事だ。
    「もう1つは、猫のサーヴァントの説得についてよ。猫のサーヴァントは皆が救出に来てくれたと理解すれば邪魔をしないんだけど、殺しに来たって思ったらダークネスと一緒になって皆の敵になっちゃうの」
     少女を完全に助けるためには、猫に救出に来たんだと納得させ、その上で猫が消えてしまうまでの間にノーライフキングを倒す必要があるのだ。
    「一応、猫が敵に回っても、諦めずに猫を説得し納得して貰えれば、途中からでも猫は皆の邪魔をしなくなるわ」
     珠希はそこまで言うと改めて皆を見回し。
    「それと、これは調べる暇が無かったんだけど、彼女の両親がどうなったかはわからないわ。一緒に落下したのか、まだ生きているのか……彼女が闇堕ちした時点で捜索も打ち切られてるし……先に言っておくと皆もソレについて調べている時間は無いわ」
     それでも。
    「一人ぼっちで森で怖い思いをした少女を……助けてあげて」


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)
    月代・蒼真(旅人・d22972)
    灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)
    ミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351)
    オフィーリア・レーグネン(沈み征くローレライ・d26971)
    三好・遥(トークライ・d31724)

    ■リプレイ


     木々の合間からか細い月明かりが差し込むだけの薄暗い森を、足早に進むは8人の灼滅者達。先頭を行くは明かりを持つ石弓・矧(狂刃・d00299)とラシェリール・ハプスリンゲン(白虹孔雀・d09458)だ。2人とも見たことの無いサーヴァントを気にしつつも、目的の少女を探す為に気を引き締めて周囲を照らす。
    「早いところ、手を貸したい所だよな。一人だとできることもできないもんだし」
     人探しや物探しに慣れた素振りで見回しつつ月代・蒼真(旅人・d22972)が呟けば。
    「ええ、とてもつらい思いをしておいででしょうから……早く助けてさしあげなければ」
     灯灯姫・ひみか(星降りシャララ・d23765)が頷き、ひみかの霊犬の右舷と、蒼真の霊犬であるトーラが2匹同時に同意する。
    「(闇堕ちした経緯は分かんないけど、理由は何となく分かるかな)」
     襟で口元を隠したまま心の中で一人ごちるは三好・遥(トークライ・d31724)。胸に去来するは自身の過去、あの時の記憶は今でも忘れたわけじゃない。何とかして少女を助けようという思いは、遥の無意識下で少しずつ大きくなっていた。
    「近いぜ?」
     ピクリと殺気を感じて呟く北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)に、7人が一気に緊張感を高め……駆けだした。

     ――暗い森の奥。
     羽付き猫が野犬とフクロウを振り切って手足が水晶の少女の前に立ち塞がる。しかし、少女は猫を一瞥すると再び歩き出し、追いついてきた野犬とフクロウが一斉に猫へと襲い掛かろうと……その時だった。
     カッと周囲が照らされ、野犬とフクロウも動きを止める。
     向けられていた光がわずかに収まり、襲われると思って身を縮こませた猫がゆっくりと光のほうを見ると……そこには8人の見知らぬ人間たち。
    「こんばんは! ボクの名前はミーシャ・カレンツカヤだよ♪ キミを助けに来たんだよ!」
     8人の中からミーシャ・カレンツカヤ(迷子の黒兎・d24351)が一歩前に出て宣言すると。同じくオフィーリア・レーグネン(沈み征くローレライ・d26971)も1歩出て。
    「ねぇ、Katze(猫)……私達は、味方……あなたの半身を、取り戻す……その、お手伝いをしたいの」
     突然の灼滅者達の出現に、ノーライフキングは僅かに顔をしかめ、配下の野犬とフクロウは警戒し、そして羽根付き猫は理解が追いつかずフルフルと怯えるのだった。


    「全ては儚く脆いもの……」
     ミーシャが殲術道具を解放し戦闘準備を整えつつ、猫魔法を使おうかと迷っていた猫に笑顔で語りかける。
    「もう大丈夫。偉いんだよ。もう安心していいんだよ?」
     ミーシャの笑顔をチラチラ見る猫。注意力が逸れたと野犬とフクロウが再び猫に襲いかかろうとし、瞬後、人造灼滅者としてダークネス形態となったオフィーリアのlaと短く通る音速のビートが配下2匹を牽制、2匹は慌てて猫から離れるように跳び下がる。
     ザザッ、その隙を見逃さずに動いたのは2人。ラシェリールと蒼真だ。即座に猫と敵らを分断するよう間に割って入る。
    「生きていてくれてよかった……ここまでよく頑張ったな。大丈夫、俺達は敵じゃない」
     ラシェリールが猫に振り向きほほえむ。
    「来る」
     短く蒼真が告げ、咄嗟にラシェリールは猫を抱くようにし庇う、背にフクロウの爪で切りつけられた痛みが走るが、心配かけぬよう顔には出さない。
     蒼真も飛びかかって来た野犬から猫を守るよう手にした槍を一回転させ、犬の牙を両手で支えた槍の柄で防ぎきる。横合いから飛び込んできたトーラが野犬に体当たりし、自由になったところでフクロウを槍で牽制し追い払う。
    「一人でよく耐えた。辛かったろ? 偉いよ、お前は」
     蒼真が視線を向けずに猫に語り、ラシェリールの腕からスルリと猫が抜け、しかしその場で心配するよう2人を見上げる。
    「でも、もう一人で戦う必要はないからな、俺達が君のやりたいことを手伝う。仲間だって思ってくれていいからさ」
     蒼真の言葉が終わるか終わる前に、その横を漆黒の影と銀色の帯の軌跡が空を駆けフクロウと野犬を追撃する。
     影を放ったひみかが、ばさぁとマントを翻し蒼真たちに並び、同じくレイザースラストを展開した矧がラシェリール側に並ぶ。
    「わたくし達はあなたを助けに来ました、わたくし達を信じてください」
    「この暗い森の中、一人で恐かったでしょう。私達が来たからにはもう大丈夫です。必ずや元に戻してさしあげますよ」
     おしとやかに、しかし自信に溢れたひみかの言葉と、冷静だが断言するような矧の言葉に、猫の怯えるような震えが止まる。
     どうやら敵じゃないと思ってくれたようだと理解した既濁が簡潔に説明する。
     自分たちは敵ではないこと。武蔵坂学園という異能使いが集まる場所から来たこと。元に戻るには敵を一度倒す必要があることを。
     ふわり、既濁の説明とともに猫にマフラーを羽織らせてやる遥。猫は驚きつつも、もう逃げるようなことはなかった。
     そして、スッと立ち上がると誘影灯を持ち、仲間たちへ耐性を付与。
     遥の横で既濁がノーライフキングに狙いをつけつつ猫に呟く。
    「今は危険だ、少しの間離れていろ」
     ダッと素直に猫が少し離れた木の陰へと退避し、そして……戦いが始まった。


    「このままあの子を、苦しみや絶望、孤独の中に居させはしない……もちろん、ダークネスの好きなようにもさせない」
     ラシェリールが白虹凛星を構えたまま野犬の死角へ飛び込み攻撃を繰り出せば、野犬はお返しとばかりにギロリとラシェリールへ視線を。しかし、同時に青い光が野犬の視線を既濁へと強制的に向けさせられる。
     ブルージャスティスで野犬の運動ベクトルを自身へ誘導した所で、別の場所で高まる気配に既濁は気が付く、それはノーライフキングの少女だった。
    「そう邪険にするな。お前は何が辛かった、悲しかったんだ。ぶつけてみせろよ、それがどんなもんかよぉ」
     挑発する訳でも無くただ質問するも、ノーライフキングの少女からぶつけられるは己が純粋な殺意とは異なる、邪魔者を排除する為の手段としての殺意。
    「でかいのが来るぜ」
     既濁が注意を呼びかけると共にノーライフキングが叫ぶ。
    「ぁぁぁあああああっ!」
     手足の水晶が輝き、次の瞬間、幾筋もの冷たい光が周囲に放たれる。
     それは圧倒的な切れ味と物量で前衛達を薙ぎ払った。
     だが盾役の仲間や霊犬達が壁になる中、ラシェリールに守られたミーシャは光の帯の切れ目を見つけて飛び出す。
     光に飛び込むミーシャの姿に、背後の猫が僅かに悲鳴をあげるのが聞こえ。
    「大丈夫、これからキミの体を取り戻すから。ボクたち、テレビの魔法少女顔負けなんだから!」
     猫を安心させるよう声を張り上げ、ダークネスと配下2匹のいる場所へと突撃する。
    「回復はお任せください!」
     ひみかの声と共に、その手の交通標識がスタイルチェンジ、前衛達の受けた傷が回復し、同時に耐性が付与されていく。
     痛みが引き手を握りしめて感覚を確かめると、灼滅者達の判断は早い。
     矧が野犬に向け跳躍しつつ槍に螺旋の力を加えて突き立てれば、ひるんだ隙に蒼真が破邪の白光をまとった剣で野犬を袈裟切りにする。
     だが、野犬もノーライフキングの配下である、半ばまで断ち切られたままギンッと眼と牙を蒼真へと向け――だが、思ったように体が動かず硬直。気が付けば、空を泳ぐようにすれ違ったオフィーリアが野犬の前足を切断していたのだ。大地へ転がり、後ろ足だけで跳躍して灼滅者の喉笛を噛み切ろうと考える野犬だったが、目の前にスッと人影が立ちふさがる。
     見上げれば口元を襟で隠した男――遥がいた。
     ズンッ!
     何か重たい感情に押しつぶされ……それが実体を伴う殺意だと理解する間もなく、野犬はその活動を停止したのだった。


     ――そこは暗い森に流れる渓流。
     件の少女が落下した、その吊り橋の下に流れていた川の下流だった。
     薄暗い森と違い、遮るものが無いため月の光に照らされた水面がキラキラと輝く。
     ドッ……バシャーンッ!
     せせらぎを破るよう、森の中から何かが吹っ飛んできて浅めの川に水飛沫をあげる。
    「流石に、手強い……!」
     水深は20cm程度、水に濡れた事を気にせず、傷を受けた左腕を押さえてミーシャが立ち上がると、ふわふわと羽根付き猫がやって来て、ミーシャの近くの岩の上に降り、心配そうに見上げてきた。
    「みっともないところは見せられないんだよね☆ キミの希望の光を掴みとって見せるんだよ、救うって……心から安心させてあげる事だから!」
     再び武器を構えるミーシャ。
    「絶対に勝つよ。そして一緒に帰ろう」
     ザ、ザザザザッと森の中から7人の灼滅者達が川の方へと現れ、最後にそれを追うようにゆっくりとノーライフキングの少女が姿を見せる。
    「こんな事で手こずっていられないんだよ! 塵は塵へと還りて、灰は灰へと戻りて、神は清浄をこよなく愛するが為に、汝あるべき姿に回帰せよ!!」
     ミーシャが叫びながら川底を蹴ってノーライフキングの懐に潜り込むと、魔力の連撃を叩き込む。
     ノーライフキングの身体が連撃に耐えられず宙に舞い弧を描く、だが、その途中で四肢の水晶が再び光り出し、冷たい光条が周囲を薙ぎ払う。木の葉と水飛沫が舞い、視界を悪くする。
     すでに野犬の後、フクロウも問題なく倒し終わっていた。問題はこいつだ。弱体化しないノーライフキングのなんと強いことよ。
     ノーライフキングの少女が静かに着地し、パラパラと木の葉や水が落下する音に耳を澄ます。
     だが、風で視界が戻った時、そこには仲間を守るよう仁王立ちするラシェリールと蒼真、そして2匹の霊犬の姿があった。
    「右舷、まだいけますね?」
     ひみかが声をかけると、右舷が元気に吠え、1人と1匹は同時に回復行動へ移る。ひみかと右舷が被ダメージの大きいラシェリールと蒼真に強力な単体回復を施す。ラシェリールの傷ついた腕が硬質の帯で保護され、蒼真の細かい傷が浄化された。
     敵は強い、だが与えたダメージは相当量だ。潤沢な盾役と適切な治癒、倒す順番は雑魚からと、基本に乗っ取った戦術は今回とても効果的だった。
    「そろそろその体、彼女に返していただきます」
     矧が剣を下段に構えたままノーライフキングに一直線に走り込み、目前で更に低く身を屈めると地面スレスレから足を切りつける。
     わずかにバランスを崩すノーライフキング。
     そこに闇夜を切り裂き遥の鋼糸が飛ぶ。
     転びそうになる少女に手をさしのべるように、糸が水晶化した腕を……いや、その胴体ごと巻き付け、痛みと共に捕縛。さらに連携とばかりラシェリールと蒼真が走り込み、そのどてっ腹に魔力と雷の拳をぶち当てる。
     ぐらり。
     あまりの連撃に後ろへよろめいた少女……その背後から声がした。
    「うっかり死なねぇように頼むぜ、一応助けるって約束があるからよ」
     それは少女の背後に回り込んでいた既濁。
     腰溜めに構えた手は四指が揃えられ。
     ドスッ。
     それでも他から見れば容赦の無い一撃が少女の背へと突き込まれる。
    「ぁ……うぅぁ……」
     苦悶の声を漏らすノーライフキングの少女。
     だが。
    「あああああっ! 私は! 私の! 邪魔をするな!」
     悲鳴のような叫びを上げ、灼滅者の囲みを突破するダークネス。
     流れる川を渡り向こう岸、もしくは流れに任せて逃亡すれば……。
     パシャリ。
     わずかな水音と共に川中の岩にオフィーリアが現れる。下半身の尾びれを曲げて座る姿は……まさにマーメイド。
    「あなたのパパとママのこと……それは、私達にもわからない……だけど、2人が……あなたが元気に生きていてくれることを望んでいる事は……絶対だから……!」
     歌うように呟く声と比例し、少女が迫りその水晶の手から鋭い爪をオフィーリアへ伸ばす。
     ――交差。
     一閃。
     ばしゃり……意識を失ったダークネスが倒れる。
     すれ違い間際、オフィーリアの深紅のブレスレットから伸びた針が、刹那の差で少女の意識を刈り取ったのだった。


     ――月光の下、河原。
     戦いが終わり、落ち着かなげに歩く羽付き猫を見つめ眼を細めるは矧。
     マイ猫じゃらしと猫缶を常備しているだけあり、できればシチューなどを猫に与えたいなどと思いつつも……。
    「消えていくな」
     既濁の言う通り、矧の目の前で猫は薄く消えていこうとしていた。
    「猫のサーヴァント、とは言っても彼女の意思が生んだものなんだろうしなぁ。……きっと、心の底ではあきらめなかったんだろうな。あの子、強いものを持ってるよ」
     消えていく猫を見つめつつ蒼真が呟く、その心の内では、探偵として彼女の両親について探してやりたいと……。その思いに嘘は無い。
     猫が消えると同時、少女の肉体を介抱していた組の方で目覚めたとの声があがった。

    「う、うう……ん」
     母親が看病してくれていた夢を見ていた少女が目覚めた時、最初に眼に入ったのは金髪の美しい女性だった。
     自分の頭を撫でながら、心地よい歌を歌っていてくれたらしい。幸せな夢の原因はこの人のおかげのようだ。
     カシャと金属音がしたと思うと、目の前に暖かいコーンポタージュが差し出された。
    「飲みなよ、美味しいし」
     少女は差し出してくれた遥から受け取ると。
    「あり、がとう……」
     少女がお礼を言うと、その人はコートを羽織らせてくれて、ポツリと。
    「とりあえず、もう一人じゃないから。僕らに頼ったり任せたりしてみなよ」
    「……え?」
     キョトンとする少女の目の前に、ミーシャが笑顔で入り込み。
    「ね! お名前を聞いてもいいかな?」
    「私……小夜香、静原小夜香」
    「小夜香ちゃんだね! よろしく小夜香ちゃん♪」
     勢いよく握手された。
    「ね、小夜香ちゃん、ボク達と一緒に学園に来ない? ボク達みたいな人が沢山いるんだよ☆」
    「学、園?」
     疑問符を浮かべる小夜香に、やってきた矧や既濁が今度は丁寧に説明する。だが、突然の事に不安が無いわけじゃない。そんな小夜香に。
    「大丈夫です、安心して。わたくし達はあなたを傷つけない。それに、あなたと、あなたの両親も助けたいと思ってます。いいえ、きっと探し出します」
     ひみかの言葉に、そばにいた蒼真も大きく頷く。
     フッと頭に手を置かれた感触がして、振り向けば最初に抱きしめてくれたオフィーリアだった。
    「よかったら……私たちと、一緒に来て、そして、一緒に生きていきましょう?」
     小夜香はきょろきょろと8人を見回し、やがてコクンと頷き……それと共に、堰を切ったように泣き出した。
     と、一瞬抱きしめられ気が付けば抱っこし持ち上げられていた。
     その感触、ラシェリールに抱きしめられた感触に既視感を覚えつつ、小夜子はそのまま泣きじゃくる。
    「おかえり、よく頑張ったな」
     服を掴み胸に顔を押しつけて泣く少女に、灼滅者は優しく声をかけるのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 11
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