夢にまどろむ猫

    作者:天木一

     落書きのような建物が並ぶ中、どこからか子供の泣き声が響いていた。
    「うえーーんっうえーーーん」
    「何を泣いてるの?」
     目を擦り大声で泣き叫ぶ少年の隣に、すらりとした長く美しい黒髪の少女が立つ。その肩には白い猫が座っていた。
    「ねぇ、何がそんなに悲しいの?」
    「が……ミケが死んじゃった」
     少年の話を聞くと、ずっと一緒に育った飼い猫が車に轢かれて死んでしまったのだと泣きながら伝える。
    「そうなんだ、死んじゃったら悲しいよね。うちのこの子も一度死んじゃったんだよ」
    「……え?」
     少女が肩に乗る猫の喉を撫でると、少年は不思議そうに見やる。
    「キミのお友達はどんな子だったのかな?」
    「えっとね、みけ猫っぽいのでね……」
     少年の説明にふんふんと頷くと、少女は指をくるりと宙で回した。すると少年の肩にずしりと重みが加わる。
    「ニャー」
    「あ……? あ! ミケ!」
     少年の肩に乗っているのは3色の毛を持つ猫。
    「ふふ、ここはね、どんな望みも叶う世界なんだよ。ここにずっといればその子とも一緒にいられるよ」
    「ほんと!? じゃあぼくずっとここにいる!」
     少年は猫を抱きしめて嬉しそうに宣言する。
    「ふーーー! いにゃーーーー!」
     だがその時、少女の肩に乗った猫がその背に翼を広げて少年を威嚇した。それはまるで少年の行動を止めようとしているようだった。
    「こら、ダメでしょ」
     その頭を少女が撫でる。すると猫は力無く眠りに落ちた。
    「ここは夢の世界。外にいても悲しいことばかりでしょう? ずっとずーっとここにいればいいのよ。ソウ、ズーーットネ」
     無邪気に喜ぶ少年を、少女は黒くぽっかりと穴が開いたような目で見下ろす。
    「ニャー」
     ミケが大きく口を開けて鳴く。その口の中はタールのように真っ黒に染まっていた。
     
    「やあ、みんな集まったみたいだね」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者達に事件の説明を始める。
    「一般人がダークネスになる事件が起きようとしてるんだ」
     普通ならば人の意識はダークネスの意識に負けて消えてしまう。
    「今はまだ人の意識が残っているみたいなんだよ。人の意識が猫のサーヴァント姿となって抗っているみたいだね」
     だがそれも長くは持たない。いずれは消えて完全なダークネスと化してしまうだろう。
    「その前に、みんなの力で助けてあげてほしいんだ。猫が存在している間にダークネスの意識である少女を倒せば、元に戻るはずだよ」
     猫のサーヴァントが諦めて消滅すると、少女は完全に闇堕ちしてしまう。そうなれば灼滅してしまうしかないだろう。
    「少女の名前は貝瀬・夕海。中学生1年生の女の子だよ。彼女はペットの猫を失ったのをきっかけに、現実を嫌って夢の中で好き勝手に生きようとしているみたいだね」
     その仲間を集めようと年の近い子供の夢に入って希望を叶え、眠らせ続けるのだという。
    「その最初に狙われる少年の夢で待てば彼女は現われるんだ。そこで少年を守りながらダークネスの少女と戦うことになるよ」
     夜に少年の寝室に忍び込み、ソウルボードに入り込む事になる。少年が深く傷つけば、それをしてしまった少女の人としての心も罪の意識で傷ついてしまう。
    「戦いになると猫のサーヴァントは基本的にはダークネスを守ろうとするよ。でも、みんなが少女を助ける為に来たんだと分かれば味方してくれる可能性もあるんだ」
     猫には人の心があり会話は出来ないが理性もある。説得すれば意思は伝わるだろう。
    「まだ間に合うなら助けてあげたいよね。みんなならきっと出来ると思うから。お任せするよ」
     誠一郎が真剣な表情で灼滅者を見渡すと、任せろと頷いて教室を出て行く。
     闇堕ちに苦しむ少女を救う為、灼滅者は現場へと足早に向かった。


    参加者
    クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)
    桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)
    黒橋・恭乃(黒々蜻蛉・d16045)
    庵原・真珠(揺れる振り子・d19620)
    ルチア・イルミナ(神獣ノ背ヲ往クモノ・d21884)
    吉武・治衛(陽光は秋霖に降り注ぐ・d27741)
    伏木・華流(努力マニア・d28213)
    シルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)

    ■リプレイ

    ●夢
     少年の眠る部屋に冷たい風が吹き込む。
    「助けなきゃ、ね」
     眠る少年を見下ろし、庵原・真珠(揺れる振り子・d19620)は自分に言い聞かすように小さく呟いた。
    「さて、両方助けに行こうではないか」
     クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)の言葉に仲間達も力強く頷いた。
    「では、行きますよ」
     黒橋・恭乃(黒々蜻蛉・d16045)が少年に手をかざし、世界が暗転する。
    「うえーーんっうえーーーん」
     落書きの世界で泣く少年。そこに風が吹き抜けると少年は眠りに落ちた。すぐにルチア・イルミナ(神獣ノ背ヲ往クモノ・d21884)が支えて寄り添い、仲間達は近くに身を潜めた。
    「何を泣いてるの?」
    「にゃ」
     そこへ現われたのは肩に純白の猫を乗せた長い黒髪の少女。
    「なるほど、正しくたましいの一部です」
     桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)はその猫を興味深く観察する。
    「少年、癒す、猫、貸し、欲しい……なのだ」
     たどたどしい口調でルチアが少女に声をかけた。
    「猫が必要なの? だったら……えい!」
     少女が宙で指を回すと、周囲に次々と猫が降ってきた。
    「ニャー」
    「ここから好きな子を選んでいいよ」
     多種の猫達が同じ鳴き声で鳴く。緩慢に歩く姿はゼンマイ仕掛けの玩具のようだった。
    「肩、乗る、猫、貸し、願い……なのだ」
    「この子がいいの? 確かにこの子は可愛いけど。でもダメ。この子は私のものだから」
     そう言って少女は肩に乗る猫の喉を撫でる。
    「可愛い、猫、撫でる……なのだ」
    「しつこいなぁ。用があるのはそっちの子なの」
     少女が少年を指差すと、影が伸びる。
    「僕達はこの子を守るのが使命だ。指一本触れさせない」
     割り込んだ吉武・治衛(陽光は秋霖に降り注ぐ・d27741)が盾で受け止めた。
    「すいませんね『夕海さん』、貴女自身をなんとかするには貴女の形をしたアレを一回倒さなくてはいけないんです。力を、貸してください。」
     恭乃が猫に向けて名を呼ぶと、びくっと猫の視線が向けられる。
    「本当はわかっているはずだ。もう飼っていた猫は帰ってこない……。現実と向き合わなければいけない、と。だから自分の身体の悪事を止めるんだろう?」
     真剣な表情で伏木・華流(努力マニア・d28213)も猫に向かって言葉を紡ぐ。
    「次々と……なんなのいったい。この夢の世界で私の邪魔をするつもり?」
    「に、にゃー」
     目を底なしの穴のように黒く塗り潰した少女が影を伸ばす。猫は視線を少女と灼滅者の間を何度も行き来させる。その時、頭上からジリリリリとけたたましい音が鳴り響く。
    「そろそろ悪夢から目覚める時間でござる」
     見上げればシルヴァーナ・バルタン(宇宙忍者・d30248)が宙から逆さにぶら下がっていた。
    「自身は猫に、そして他の意識が動かす自分が傍に居ると言うのは不自然ではござらぬか。望むままの夢の世界ならば、自分の体を取り返す事も出来るはずでござる。今、それが出来ないのでは無いでござらぬか」
     シルヴァーナは声をかけながら手にした時計を止めようとしたが上手くいかずに、手のハサミで潰してしまった。
    「ごちゃごちゃと意味の分からないことを!」
     影の爪に薙ぎ払われてシルヴァーナは吹き飛ばされて落下する。それを猫は心配そうな目で追った。
    「君の意識は、そこにあるよね。今夕海ちゃんの体にいるのは、ダークネスっていうもの。君の中にずうっと住んでいたもの。君の心が弱ってきたから、表に出てきちゃったの」
     真珠の説明を猫はぴくぴく耳を動かし聞いていた。
    「桐ヶ谷達は、猫さんと同じですよ。闇に抗うひとのたましい。あなたも『貝瀬さん』を止めたいのですよね? そのお手伝いをするために、来たのです」
     黄色い標識を立てながら十重は懸命に呼びかける。
    「大切な存在が消えるのは悲しいことですし、分かりますよ。私も経験ありますから。だからこそ、その記憶は縛らない方がいい。夕海さん、『貴女』もそう思うでしょう?」
    「本当はわかっているはずだ。もう飼っていた猫は帰ってこない……。現実と向き合わなければいけない、と。だから自分の身体の悪事を止めるんだろう?」
    「んにゃー」
     続いて恭乃と華流が言葉を重ねると、白い猫は少女の肩から飛び降りた。
    「あなたの悲しみは、誰かの不幸では埋まりません。ここから出て、一緒に考えましょう」
    「にゃっ」
     十重に返事するように猫は鳴くと、少年の側へと駆け寄った。

    ●猫の心
    「ちょっと、どこにいくの?」
     少女が猫を追いかけようとすると、治衛が庇うように立ち塞がった。
    「邪魔だってば! どうしてそっちにいくの!? その子と一緒にこっちに渡しなさい!」
    「少年も、貝瀬さんの心も、僕が、僕達が、守らなきゃ」
     少女が振るう影の爪を、治衛は一歩も引かぬと強い意思を持って盾で受け止める。
    「今は話し合い中です。少し静かにしててもらいましょうか」
     恭乃はロッドを振るって襲い来る影の爪を受け流した。
    「悪者、倒す、貴女、身体、攻撃、必要」
    「あのダークネスを倒さないと、君は元の君に、戻れないの」
     ぽつりぽつりと喋るルチアと、影の弾丸を防ぐ真珠が猫に説明をする。
    「救うのに必要な行為だ。身体への攻撃を許してほしい」
     クラリーベルは剣を振るい影の爪を弾き返す。
    「奪われた体を取り戻す為の行動故、今は信じて欲しいでござる」
     シルヴァーナは少女に向けて両腕のハサミを構えた。
    「私たちなら、貝瀬を救える。ただし、それには貝瀬の助けも必要なんだ。一緒に、自分の弱い心と戦ってくれ」
     少女の攻撃を防ぎ続ける仲間達を見て華流がそう告げると、猫はその背に翼を広げた。
    「にゃー!」
     尻尾のリングが光ると灼滅者達の傷が癒えていく。
    「どうしてそっちの味方をするのよ! しぃちゃんは私のものでしょ!」
    「猫、汝、所有物、否定……なのだ」
     怒りに影の爪を振り回す少女を、ルチアがロッドで受け止める。
    「さて、ここからはこちらの番ですよ」
     反撃開始とばかりに恭乃の影が伸びると、少女の背後で刃となって背中を斬りつけた。
    「痛い……ここは夢の中なんだよ、どうして私が傷つくのよ!」
     叫びながら縦横無尽に影の爪を走らせる。
    「ここが貴様の夢ではないからだ!」
     炎を纏った剣を手にクラリーベルが攻撃を切り抜け、少女の腹部に剣を突き刺す。
    「この! 消えちゃえ!」
     少女の影が膨らみクラリーベルを呑み込もうとする。
    「その体は夕海ちゃんのもの、出て行ってもらうよ」
     その影を真珠が縛霊手で掴んで止めた。
    「放せ!」
     少女が真珠を蹴り飛ばす。
    「あなたを止めます」
     そこへ接近した十重が鬼の如く異形化した腕を振り抜き、少女を薙ぎ倒した。
    「続けていくでござる」
     追い討ちにシルヴァーナが倒れた少女にハサミで襲い掛かる。だがその刃が体に届く前に、影の爪で止められた。
    「私を止める? 夢の世界で私を邪魔できるなんて思わないで」
     影爪でシルヴァーナを吹き飛ばし、更に追いかけるように影が奔る。
    「いいや、邪魔させてもらうよ」
     そこに割り込んだ治衛が盾で受ける。衝撃を逸らして影の軌道を変えた。そのまま駆け抜けた影は近くの建物に爪跡を作る。
    「怪我は大丈夫か」
     華流が霊光を放ってシルヴァーナの傷を塞いだ。

    ●少女と猫
    「どうして夢の中なのに思い通りにならないの! こんなのおかしい!」
    「夢だろうと、他人を傷つける自由など無い」
     地団駄を踏んで喚く少女に、クラリーベルが剣を振り上げ斬り掛かる。
    「傷つけてなんてない。私はその子を助けてあげようと思っただけなんだから! 私と一緒にいれば寂しくなくなるんだよっ」
     何かが地面から跳び上がり、剣撃を防ぐ。
    「ニャー」
     それは猫の玩具だった。剣に潰されどろりと黒い液体に変わる。
    「ニャーニャー」
     周囲の猫の玩具が一斉に飛び掛かって来る。
    「ぽっかり空いた心を埋めるために、誰かを道連れにするってのは認められないな」
     庇いに入った治衛が玩具の猫の爪を体に受ける。更に背後から飛び掛かって来るのを、走り込んだキャリバーが受け止めた。
    「こんな偽者では心の穴を埋めることはできませんよ」
     恭乃がロッドを振るって玩具の猫を叩き潰していく。液体になった玩具は少女の足元へと戻っていった。
    「あんたに何が分かるっていうのよ!」
    「亡くした気持ちは分かるよ、私もそうだから」
     激昂した少女の放つ蹴りを、真珠が縛霊手で受け止めながら回し蹴りで反撃する。少女は俊敏に飛び退いてその蹴りから逃れた。
    「悲しみを連鎖させてはいけません、誰かを巻き込んではいけないのです」
     そこを狙った十重が飛び蹴りで足を刈る。少女は受身も取れずに地面に伏した。
    「少しは分かるつもりでござる。だからこそ絶対に止めてみせるでござるよ!」
     間断なくシルヴァーナがハサミから炎の弾丸を撃ち込む。炎の雨を浴びて少女は影を盾にして逃れようとする。
    「こうなったらしぃちゃんだけでも取り戻して……!」
    「逃亡、不可……なのだ」
     ルチアが行く手を遮り立ち塞がる。
    「どいて! 私からしぃちゃんを奪うつもり!?」
     少女がルチアを影で斬り裂く。それでもルチアは少女を通さない。反撃に拳を放たれると、少女は影で受け止めて後ろに下がった。
    「奪っているのは貴様の方だろう」
     華流がルチアに光を飛ばして傷を癒す。そこへ少女が飛び掛かる。
    「悪い、者、倒す……なのだ」
     少女の影を纏った蹴りを受けながらも、ルチアはロッドを叩きつける。
    「アンタのものではないということですよ、嫌がってるのを見れば分かるでしょう?」
     恭乃が影を刃と変えて少女の体を斬りつけていく。
    「しぃちゃんが嫌がるわけない!」
     少女が猫に向けて手を伸ばす。だが猫は尻尾を立てて威嚇する。
    「どうして? しぃちゃんは元々私のなんだよ!?」
    「力尽くというのはどうかと思うでござるな」
     少女が猫を捕らえようと伸ばす影を猫は肉球で叩き返し、シルヴァーナが両手のハサミで切断した。
    「さっきからなんなのよ! 邪魔ばっかり、どうして夢の中でこんな目に遭わなくちゃならないの?」
     シルヴァーナを狙って黒い弾丸が放たれる。そこへ横から巨大な腕が差し込まれて代わりに弾丸を受けた。
    「この夢も少年の心の一部だからね。守る為に、侵入者は排除させてもらうよ」
     治衛が踏み込むと弾丸が次々と飛んでくる。それを盾で受け止めながら近づくと、異形化した拳を打ち込む。
    「私がそこの子を助けてあげようとしてたのに! そっちの方が不法侵入じゃない!」
     拳を跳躍して躱すと、頭上から治衛の頭部を狙って漆黒の弾丸を撃とうと指を構える。
    「助けるというのは、閉じ込める事じゃないの。背中を支えてあげることなんだよ」
     真珠が炎を纏った蹴りを放ち、少女の腕を蹴り上げると、放たれる弾丸は何も無い空間を飛んで行った。
    「うるさいなぁ! 夢の中なんだから、どうしたっていいじゃない!」
     少女が影を纏わせた蹴りを放ち、縛霊手で防ごうとする真珠を吹き飛ばした。
    「なら、みどもが何をしてもいいということだな」
     背後に接近していたクラリーベルが剣を振るう。少女は影を盾にして咄嗟に避けた。そして回転してクラリーベルの腹部を蹴りつける。続けて放たれる連続蹴りを十重が縛霊手で掴んで止めた。
    「この夢は心の形です。それを傷つければ夢を見ている少年の心が傷つくということ、だから好きにしていいものではありません」
     十重は足を引っ張って少女のバランスを崩すと、少女はもう片方の足でその手を蹴りとばす。
    「その弱い心を打ち砕こう」
     華流が大きな法陣を展開し、仲間達の傷を癒していく。動きの戻ったクラリーベルが剣を振り抜く。逃れようとする少女の前に治衛が盾を構えて邪魔をすると、少女は動きを止められ剣が袈裟斬りに入る。だが少女の体に斬り傷は無い。
    「きゃあああああああ!!」
     悲鳴を上げて倒れる少女。刃は肉体ではなく少女の魂を斬り裂いていたのだ。動きを弱め消え去りそうになる少女。
    「にゃーー」
     そこへ猫が駆け寄り少女の顔に触れた。すると猫が消え去り少女が苦しむ声を止めた。

    ●新たな仲間
    「あの、迷惑かけてごめんなさい……」
     黒髪の少女が頭を下げて灼滅者達に謝罪していた。
    「私の心が弱いばっかりに、他の子を傷つけるような真似までして」
     眠ったままの少年を見て、申し訳無さそうに少女は頭を下げ続ける。
    「汝、無事、良し……なのだ」
     少女が無事戻った事に安堵したルチアが肩を叩く。
    「死んだものはそれが何であれ生き返らない」
     クラリーベルは事実を淡々と語り出す。
    「だが、それが偽りであったとしても死んだものが生きている、と。そう縋る気持ちも分かる。ならばみどもが、みども達が出来るのはその未練を断ち切る事だ。前を向くが良いさ。それは痛みを伴う事だが、きっとみども達は寄り添える」
     少女が目を擦りながら顔を上げる。
    「悲しい世界に閉じこもってたら、亡くなった猫は浮かばれないよ。君はまだ死んでいないだろう。悲しみから人を守るために、僕達と一緒に戦おう」
     そう言って治衛が手を差し伸べると、少女は逡巡しながらも恐る恐るその手を取った。
    「たましいのなかの何が具現化したものなのかも気になります、が、そんな理屈を越えて、貝瀬さんの亡くなってしまった子が、未だ守ってくれているからのように、思うのです」
     十重が少女の肩に視線をやると、そこには翼を持った猫が現われた。
    「無理して虚像作って、愛でたところでそれは虚像でしかないし、愛猫の記憶を無理矢理地に縛り付けてるだけですし。まァ要するに記憶は記憶だから愛でる価値がある、と思う訳ですよ」
     同じように失ったものがある恭乃は、自分の事を思い返して軽い口調ながらも、心から少女に言葉を送る。
    「そうだね、君はしぃちゃんとは違う子なんだね」
     少女が猫の喉を撫でると、猫はくすぐったそうに目を細めた。
    「死んじゃったら、悲しいよね。信じたくないし、逃げたくなる。でもね、逃げないで。思い返して、そのこのことを忘れないであげて。君もね」
     真珠が少女に優しく声をかけて少年の頭を撫でると、少女は小さくうんと頷いた。
    「一人で不安なら私達の学園に来るといい」
    「学園?」
     華流の言葉に少女が目を丸くして聞き返す。
    「武蔵坂学園。私達と同じような力を持つ仲間が通う学校だ」
    「同じ力を持った……仲間」
     俯いて呟く少女。その頬を猫がぺろりと舐めた。
    「……うん、私そこに行く! この子と一緒にみんなの仲間になる! 私は貝瀬夕海、これからよろしくお願いします!」
     夕海が元気に頭を下げると、勢いで落ちそうになった猫が必死にしがみ付く。
    「これからは灼滅者仲間としてよろしくでござるよ!」
     シルヴァーナがハサミの手を差し出し、どうしたものかと夕海はちょこんと握った。
     そんな様子を笑顔で眺め、灼滅者達は新たな仲間を温かく迎え入れた。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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