来年、思うは不安

    作者:幾夜緋琉

    ●来年、思うは不安
    「ふふ……あー、もう来年なのよねぇ……ああ、憂鬱~……」
     夕方の、部活動にいる人以外は殆どもう帰ってしまったくらいの時間。
     高校二年生の教室の一室で、そんなぼやき声を上げているのは……胸の大きな、女子学生。
     既に胸元も、少しばかり拓けていて……胸元もちょっと見えてしまう。そして彼女は。
    「あ~……もう、受験なんてほっぽり出して、同級生の男達と遊んじゃおっかなぁー……」
     とぼんやり呟いた、その瞬間。
     彼女の近くに、突如現れるのは……翼の生えた、ネコ。
     じーーー、っと視線、そしてにゃーにゃー鳴く……それは駄目だよ、と訴えかけるが如く。
     でも。
    「むぅー、受験受験って廻りは言ってるじゃないのよ~。そんなのでこの私の思いが欲求不満なのよー! 大丈夫大丈夫、ちょっとだけよちょっとだけー!」
     ……その笑みは、人をドキッとさせる様な、妖艶な笑み。
     そして……ちょっと胸元を拡げた学生服で、彼女は……部活動の練習をしている部屋へと、歩いて行く。
    『にゃーー!!』
     そんな彼女を、慌てて追いかけていく猫なのであった。
     
    「皆さん、お集まり頂けたようですね? それでは早速ですが、依頼の説明を始めさせて頂きますね」
     執事服に身を包んだ野々宮・迷宵が、集まった灼滅者達に軽く一礼すると、早速説明を始める。
    「私が見ましたのは、一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件です」
    「通常であれば、闇堕ちしたダークネスは、すぐさまダークネスとしての意識を持ち、人間の意識はかき消えるのですが……彼女は元の人間としての意識を残しており、その悪行を止めようとしているのですが……サーヴァントにダークネスを止めることは出来ず、止められていません」
    「ネコのサーヴァントが、悪事を止めるのを諦め、消えてしまった時に、彼女は完全に闇堕ちしてしまう事になります。その前に、闇堕ちしかけの一般人を撃破し、救出為て欲しいのです。間に合わずして、ネコサーヴァントが消えてしまった場合、それ以上の悪事を重ねる前に灼滅して欲しいのです」
     そして迷宵は、現況について詳しく説明をする。
    「今回の闇堕ち一般人は、受験を来年に控えたフラストレーションを発散するが如く、部活動に精を出している同級生や下級生に淫魔の力を使い、欲求不満を解消させようとしています」
    「ただ、彼女が教室にいる間に接触が出来ますので、他の学生達に被害が及ぶことはありません。勿論、学校の中には他の学生達もまだまだ居ますので、余りに騒ぎすぎると、野次馬の学生達がやってきてしまうかもしれません。人よけをする事が必要だと思います」
    「勿論、彼女自体の攻撃手段は、その色っぽい声から奏でられる誘惑のメロディです。呪言の如く、様々なバッドステータスがその歌声には秘められていますし……このバッドステータスは範囲攻撃ですかr、あ一気にバッドステータスに叩き込むことも可能です」
    「又、それに加えて理性であるネコサーヴァントも居ます。皆さんが彼女を助けに来た、と知れば皆さんを応援してくれるとは思いますが……彼女を殺しに来た、と誤解為てしまえば、ダークネス側になって参加してしまう事と思いますので、ご注意下さい」
     そして迷宵は。
    「何にせよ、彼女を救うには皆さんの力が必要です。ネコサーヴァントさんの理性を護る為にも、皆さんの力、貸して下さい。宜しくお願いします」
     と、深く頭を下げるのであった。


    参加者
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    黛・藍花(藍の半身・d04699)
    土岐・佐那子(夜鴉・d13371)
    黒柳・矢宵(マジカルミントナイト・d17493)
    豊穣・有紗(神凪・d19038)
    日向・一夜(雪花月光・d23354)
    朝臣・姫華(姫番長・d30695)

    ■リプレイ

    ●猫猫
     猫のサーヴァントが現れ、闇堕ち仕掛けているダークネスの彼女を引き留めているという、そんな話。
     猫サーヴァントと淫魔の彼女の救出の為、とある高校へとやってきた灼滅者達……でも、想像するのは、可愛い可愛い猫サーヴァント。
    「ネコのサーヴァント! うむむ……一度見たいと思っていたのじゃー」
    「そうですね。しかしネコさんに闇堕ちを止めて貰えるとか、羨ましい様な……?」
    「うん。もふもふに悪者は居ないと思っていたけど……ホントみたいだね……」
     朝臣・姫華(姫番長・d30695)の言葉に、黛・藍花(藍の半身・d04699)と、システィナ・バーンシュタイン(心のダム・d19975)の会話。
     そんな二人の会話に、土岐・佐那子(夜鴉・d13371)が。
    「これが以前ナミダ媛が言っていたネコのサーヴァントですね。仲間として加入するしないはともかく、このまま完全に闇堕ちさせるわけにも行きません。彼女はここで救出するとしましょう」
     それに豊穣・有紗(神凪・d19038)、黒柳・矢宵(マジカルミントナイト・d17493)に藍花、姫華が。
    「まぁきっと彼女は間近に迫った受験を重荷に感じてて、それから解放されたくなったんだろうね。でも辛いことも大変なこともあるんだから、その分楽しい事が楽しいって感じられるんじゃないかな?」
    「そうだね。よーっし、ネコちゃんを助けるよー!!」
    「ええ……猫さんは大事にしないとダメですし、それ以上に、闇堕ちはよくありません。なので、それを阻止したいと思います」
    「うむ。なるべく刺激せずに、こちらが味方だと解ってもらえるようにせねばなるまいのう。しかしどんなのじゃろうなー。妾が撫でても怒ってひっかいたりせぬよな……?」
     最後の言葉に、日向・一夜(雪花月光・d23354)と龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)が。
    「うーん……どうかな? やっぱり猫さんだし、傷つけようとする者には反抗しようとすると思うんだよね」
    「まぁ……彼女のサーヴァントであることに間違いはないですしね。少なくとも、数回は攻撃を受け続ける可能性がありそうですが……耐えるほかには無いでしょうね」
    「そうだね。そこは頑張って耐えるしかないね。うん……頑張るよ」
     ……そして、灼滅者達は、彼女と猫サーヴァントのいるはずの、学校の教室へと赴くのであった。

    ●わかってほしい
    『……ああー、もう憂鬱ーー』
     そして学校の中のとある教室。
     脚をじたばたさせながら、暇を訴える彼女。
     そんな彼女の足元に、不意に現れるのは……翼の生えたネコ。
     彼女の足元をぐるぐる、ぐるぐると……八の字に巡りつつ、にゃー、にゃー、と見上げながら鳴き声を何度も上げてくる。
     ……しかし、そんなネコの動静に対し、彼女はあんまり気にしている風ではなく。
    『もー。なんで受験なんてあるのよー。ホント、受験なんてなきゃいいのにーーねぇ。なんでなのよー』
    『にゃー』
     ネコちゃんが、鳴き声を上げて同意しつつも、ダメだよ、だめだよー、と鳴き声で訴え続ける。
     そんなネコさんの鳴き声を遠くから聞きつけた灼滅者達……急いで彼女とネコちゃんの元へと急行。
     ……彼女が教室を出る直前に、ガタン、と扉を開けて中へと突入。
    『きゃっ……な、何なのよー、貴方達!』
     突撃してきた灼滅者達に驚き、一歩後ろへと下がる彼女。
     そんな彼女を護る様に、一歩前に出るネコサーヴァント。
    『にゃ、にゃー!!』
     灼滅者達に向けて、牙を鋭く剥いて威嚇してくる。
     ……そして、ネコの後ろでこちらを睨んで来る彼女に。
    「……欲求を我慢するのは苦しいですが……ですが、貴女の心と魂は、闇に墜ちきっていない……貴女は流されてはダメだとちゃんと判って居ますよね? ……欲望に飲まれないで、私達と……それと、ネコさんの声を聞いて下さい」
     藍花の言葉……更に矢宵が。
    「勉強が嫌な気持ち、やよいも解るけど、ストレス発散はもっと別の方法でやろうね!」
     そう言うと共に、彼女のふくよかな胸に……目が行く。そして……自分の胸も見て。
    「う……そ、そんな大きな胸なんか羨ましく無いんだからぁ! それに学校でえっちな事はダメだよ!!」
     ……と、矢宵の言葉に、彼女は。
    『ふぅーん……そうなんだぁー。でもさー、貴女に言われる筋合いはないわよねー。だってさー、受験なんてさー、もー鬱陶しいだけじゃん。そんな鬱陶しい受験なんて爆発しちゃえばいいのにさー』
    『にゃー』
     ご主人様の言葉に、ちょっとだけ悲しげな鳴き声を上げるネコ。
     ……そんなネコちゃんに、佐那子が。
    「あなたも中々苦労しますね。でも、もう少しの辛抱です。私達も、あなたの主を止めたいと思います」
     とネコサーヴァントに一言……更にシスティナ、一夜、姫華も。
    「そう。ボク達は彼女を助けに来た者で、キミ達に危害を加えようとしているワケじゃないんだ。キミ達と同じような存在も居る……だから、理解して貰えたら嬉しいんだけどな」
    「ボク達は君の味方だよ。一緒に頑張ろう? 僕らもご主人を助けたいんだ」
    「そうじゃ! 妾達は助けに来たのじゃ! お主の主人を止めたい気持ちは皆一緒じゃ。な、妾に協力しておくれ。お主もこのままでいいとは思っていないじゃろう? 一緒に主人を救うのじゃ!」
     そんな灼滅者達の言葉に、ネコはにゃぁ……と主人の顔色をうかがうように見上げる。
     対して彼女は……。
    『あー、もう、煩いわねー!! 邪魔だから消えちゃいなさい!!』
     と半ばキレ気味に、灼滅者を睨み付け……淫魔の力を使い始める。
     誘惑のメロディを口ずさみ、灼滅者達を誘惑しようとする……が、それにすぐシスティナ、一夜が。
    「下手に人が来たら不味いから、人払いするね」
    「うん」
     と殺界形成とサウンドシャッターを展開し、他の学生達が来ないようにする……そして有紗は夜叉丸を召喚して。
    「さぁ、ボクとの仲の良さをアピールだっ!」
     有紗の言葉に夜叉丸は尻尾を振って応える……そして彼女とネコちゃんを、対峙するように体勢を取る。
     ……そして、彼女の攻撃を受けながら、一夜、姫華が。
    「受験って大変だよね? いろいろ不満もあるだろうから愚痴を菊代。でも、今投げ出しちゃうと、きっと後悔しちゃうよ?」
    「そうじゃ。我慢するのは妾も苦手じゃが、他の人に迷惑をかけてはいかんぞ? そこのネコもそう言っておる……たぶんな」
    『もう、煩いわよっ!!』
     灼滅者達の言葉に、全く聞く耳を持たない彼女。
     ……対して、前にいるネコサーヴァントは、どうすればいいのか……ちょっと戸惑っている。
    『……』
    「大丈夫……ネコちゃん。ボク達が必ず彼女を助けてあげる。だから……ちょっとの間、見守っていてくれないかな?」
    「そうです。これから彼女を叩きますが、これは必要な行為です。この場は私達を信じて頂きたい」
     システィナと佐那子がネコちゃんに声を掛ける……そしてネコサーヴァントは。
    『にゃ……にゃぁ……』
     彼女の前から、その身を一旦引いてしまう。
    『え!? もう、何よー!!』
     流石に彼女は裏切られた……と感じてしまったのだろう。一気に怒りを覚える彼女。
    「……さてと……それでは、一気に仕掛けるとしましょう」
    「ええ……助けましょう、彼女と、それからネコさんも」
     と柊夜の合図に、藍花はビハインドへ指示。ビハインドは力強く頷く。
    「さぁ、ガンガンいくよ! 歌だったらやよいだって負けてないんだからね!!」
     と矢宵がディーヴァズメロディでバッドステータスを付与すれば、佐那子のビハインド、八枷が彼女の影から奇襲の応酬。
     更に有紗の縛霊撃、一夜のレイザースラスト……佐那子の雲櫂剣に、矢宵のライドキャリバーのフルスロットル、有紗の霊犬、夜叉丸の六文銭射撃。
     ……そして柊夜とシスティナが、クルセイドスラッシュとレーヴァテインと続ける。
     勿論、淫魔の彼女は、鬱憤を晴らすように、バッドステータスの嵐を次々と叩き込んでくる。
     が……それらを。
    「欲求不満かえ? そういう時は身体を動かすといいのじゃ。丁度良い事に強い敵が目の前に八人も揃って折るじゃろう?」
    「……それに貴女に、そんな歌は似合いません。もっと素敵な歌を歌えるのではないですか?」
     姫華、藍花が声を掛けてくるが……全く彼女は聞く耳を持たずに、攻撃を継続。
     ……そんな主人を心配そうに見つめているネコサーヴァント……それに視線を配せつつ、柊夜は。
    「……本当はダメだと解ってるのではないですか? その子が必死で止めようとしているように」
     と、彼女の心を見透かした一言を呟く。
    『う……ううう……!!』
     少し眦に涙を溜めながら、必死に攻撃を繰り返す。
     ……そんな彼女に、システィナが。
    「少しは、そこのネコちゃんの話を聞いてあげてはどうですか? ……きっと、ネコちゃんの言葉は、君を心配しての事だと思いますよ?」
     と更に言葉を付け加えていく。
     ……そして、戦う事数ターン。
     服もボロボロになり……悲壮感一杯になりつつ有る彼女に。
    「……もう、これで終わりにしましょう」
     と、藍花の宣告と共に……ビハインドが背後から現れ、捕縛……そして藍花が放つ縛霊撃が、彼女にトドメを刺すのであった。

    ●猫と少女
    「……ふぅ」
     静かに、ほっと一息吐くシスティナ。そして左髪を祓いつつ、ディアを静かにスレイヤーカードの中に仕舞う。
     無事にすべての灼滅者達を倒し終えての、安堵のため息。
     ……そして、そんな灼滅者達の視線の先……ご主人を心配そうに見つめている猫サーヴァント。
    『にゃぁ……』
     彼女の元へ近づき、頬を舐めて、その意識を取り戻させようとする。
    『う……うう……ん……?』
     そして身じろぎ、身を起こした彼女。
    「……大丈夫? 気が付きましたか?」
     佐那子が優しく声をかけると……きょろきょろと周りを見る。
     そして……。
    『あれ……えっと……これって……何??』
     淫魔の側に引き込まれかけていた彼女……さすがにその時の記憶はおぼろげになっていたようである。
     ……そんな彼女に向けて、今まで何が起こったのか、を細かく説明。
     一通り説明した後にはそう、なんだ……とちょっと信じられない様に呟く。
     そんな彼女の傍らには、猫サーヴァントがしっかりと寄り添っている。
     そして時々、にゃぁ、と鳴くのを、やさしく、頭をなでてあげて……くすぐったそうに身じろぐ猫サーヴァント。
     ……本当に、彼女と猫サーヴァントは仲が良い、という事を認識する事が出来る。
     そして、理解したところで……有紗と一夜、矢宵と姫華が。
    「色々言ったけど、大丈夫。学園には色んな人がいるから、同じ悩みを持っていたり、話を聞いてくれたり、色々と共有出来ると思うんだ~。学園に来れば辛い事もそりゃあるけど、その分、すっごく一杯の楽しい事が待ってる筈だよっ!」
    「そう。武蔵坂においでよ。にゃんこと一緒に楽しい学園生活が送れるよ。それにんーと……受験もないよ?」
    「やよいもおねーさん達学園にきてくれたら嬉しいな。これも何かの縁、ってやつだよ!」
    「うむ。妾の家来になるがよい。楽しいことが沢山じゃぞ?」
     そんな四人の言葉に、少し悩む彼女だが……。
    『……みんなも、いるんだよね? 受験も無いなら……行ってみても、いいかな……?』
     と微笑む。ネコサーヴァントもにゃー、と明るい鳴き声で鳴く。
    「うんうん、ありがと-」
    「良かったー……ねぇ、もし良ければだけど、その子もふらせて貰えないかな?」
    「あ、いいなー。僕も一緒に撫でさせてもらっていい??」
     と、システィナと一夜の言葉……ネコサーヴァントは。
    『にゃー』
    「ん……うん、良いよ。でも、優しくね?」
    「勿論ですよ!」
     とても嬉しそうに、ネコサーヴァントを撫でる二人。
     ……可愛い鳴き声を聞きながら、ネコサーヴァントをもふもふする至福の一時。
     そんな一時を楽しみつつ……矢宵らは闘いの痕跡の後片付け。
     ……そして、至福の一時を楽しんだ二人が、ほくほくの笑顔になりつつ。
    「それじゃ、帰ろっか」
     と、頷き合い、そして灼滅者達は帰路につくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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