『豪雨の騎士』ウォルケン・ブルフ

    作者:刑部

     都内某所、かって大作ファンタジーTCGを作成しようとして頓挫し、莫大な借金を作って廃業した会社カタパルトカンパニー。
     社長及び社員の幾人かが自殺した曰くのあるその会社のあったビルの近く。
     ブレイズゲート化した人気の無い路地裏に、奇妙な空気の流れが現れ、落ち葉や埃を舞い上げ、中央の空間に吸い込まれる様に渦を巻く。
     その中心に赤い閃光が煌めき、1枚のカードが現れる。
     対角線上の角を軸とし、くるくると回転したカードが地面に落ちると、また閃光が煌めき大雨に打たれた様な赤い鎧を纏う騎士が、滴を垂らしながら現れた。

    「……雨が止んだか……」
     現れた騎士は、夕焼けが赤く染める空を見上げて呟くと、視線を戻して辺りを観察する。
    「味方の姿が見えないが敵の姿も見えないな。というか此処は何処だ? ……ふむ、あそこが機械世界ロボックスっぽいな。とりあえずあそこに向ってみるか……」
     騎士は視界の端に捉えた工事現場の雰囲気をロボックスっぽいと判断し、辺りを警戒しつつ、そちらに向かって歩き始めた。

     ブレイズゲート内部で起きる事件はエクスブレインでは予知できない事と、連続してカードの敵が都市伝説として現れている事もあり、有志の灼滅者達がチームを組んで、カタパルトカンパニーのあったビル周辺を見回っていた。
     そのうちの1隊である貴方達は、ブレイズゲート内にある工事現場で、同じ様に逆側から工事現場に足を踏み入れた赤い鎧を着た男を見つけた。
    「貴様ら……ロボックスの者ではない様だが何者だ?」
    「最強騎士国グレートナイトの騎士殿とお見受けする」
     互いにまだ距離があるにも関わらず、声を発したのは同時。
    「いかにも、最強騎士国グレートナイトは『豪雨の騎士』、ウォルケン・ブルフ。ロボックスの者ではない様だが……グレートイナイトの者でもないな。ならば……」
     名乗った騎士……ウォルケンは、腰に佩いた鞘から剣を抜き、露わになった刀身が陽光を受けて煌めく。
     無論、灼滅者側としてもカードの都市伝説との遭遇は望むところであり、次々と得物を構えた。
     互いに敵である事は判っており、じりじりと距離を詰めてゆく。
     戦いの火蓋は、今にでも切って落とされようとしていた。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    雪風・椿(南海闘姫・d24703)
    遠夜・葉織(儚む夜・d25856)
    八千草・保(紅梅一枝及びゆーの嫁・d26173)
    今・日和(武装書架七一五号・d28000)
    アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)

    ■リプレイ


     ブレイズゲート内の工事現場。
    「出てきやしたね、グレートナイトの騎士。自分は『天剣絶刀』部長、“カラブラン”ギィ・ラフィットっす。皆に手を出すなら、まずは自分が相手っすよ」
    「貴様がこの部隊の長か、最強騎士国グレートナイトは『豪雨の騎士』、ウォルケン・ブルフ。ロボックスの者ではない様だが……」
     ゆっくりと無敵斬艦刀『剥守割砕』を構えるギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)に応じ、グレートナイトの騎士、ウォルケンは腰に佩いた剣を抜く。
    「天剣絶刀所属、アルスメリア・シアリング! 岩壁と威厳の様に、お前もきっと強いんだろうね!」
    「正々堂々と行こうか、お互いそれを望むだろうしな」
    「8対1が貴様の正々堂々と言うのなら、それもよかろう」
     その左右にギィに負けず劣らずの巨刃……朝霧十三刀大太刀「紅蓮翔鳳」を掲げたアルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)と、『無銘』大業物を構えた武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)。
     勇也の物言いにウォルケンが言い返して髪から滴が垂れ、
    「口も達者な様で、都市伝説にも、色々いはるんやねぇ。今回は、気心の知れた仲間同士よってに、油断はせんと参りましょう」
     植物の巻きついた細身の杖を手に、その様を見た八千草・保(紅梅一枝及びゆーの嫁・d26173)が灰色の瞳を細める。
    「最強騎士国グレートナイトの騎士さん。残念だけど、ここはあなたの居場所じゃないの」
    「否だ。我ら騎士は敵陣に攻め入り敵を屠り、その陣を破る者。故に貴様らからは歓迎はされぬであろうが、戦場こそ我らの居場所よ」
     今・日和(武装書架七一五号・d28000)の言葉を遮るウォルケン。
    「そうじゃなくて……おとぎ話はおとぎ話の『あるべき姿』へお戻りなさいって事だよ」
     日和は少し頬を膨らませ、抗議する様に声を上げた。
    「しかし見事にずぶ濡れだけど、今日雨降ってたっけ……?」
    「本当にずぶ濡れだ。滅茶苦茶寒いんじゃないのか?」
      ウォルケンの足元に水溜りが形成されつつあるのを見て月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)が呟くと、雪風・椿(南海闘姫・d24703)が ちょっと心配そうな視線を向けて尋ねる。椿はこのブレイズゲートに来る前に水垢離をしており、その水の冷たさを思い出していた。
    「ふっ……今から命を取ろうという相手の体調に気づかいなど無用よ。それに雨は全てを洗い流す。貴様の罪も洗い流そう」
     ウォルケンは少しだけ笑い、ゆっくりと腰を落とす。
    「雨は全てを洗い流す、か。だが、水は分け隔てなく押し流そう。お前自身は流されないなどという事はあるまい。天剣絶刀より……儚む夜の遠夜葉織、参り上がる」
     音を立てて閉じた鉄扇を懐に、遠夜・葉織(儚む夜・d25856)が忘却の銘を持つ日本刀の鯉口を切る。
    「皆さん、気をつけてくださいな。濡れ鼠でも騎士は騎士っす。遅れをとることのないように」
    「では……参るぞ!」
     ギィが言うと、ウォルケンはギィとアルスメリア、そして勇也が掲げる三竦みになった巨大刃目掛け地面を蹴り、湿り気を帯びた土が飛び散る。
    「極限動作履行開始。対象の弱体化行動に移行します」
     ギィの後ろに立つ日和も、宣言すると閉じていた目を開き槍を構えた。


    「豪雨の騎士いざ尋常に勝負っす。負けても恨みっこ無しっすからね」
    「カードゲームなら数を揃えるなり、強化をかましてナンボだろう。1枚だけのカードならプラスアルファはあるまい」
     身を低く保ち迫り来るウォルケンに対し、ギィと勇也が巨大な刃に焔を宿らせ振り下ろす。その斬撃を身を捩ってかわすウォルケンだったが、想像以上の剣速に浅い裂傷を刻まれる。
    「その巨大な刃をその速さで振るうか……」
     呟くウォルケンの体に残った炎が勢いを減じ、水蒸気を上げて掻き消えた。
    「大太刀『紅蓮翔鳳』の刃っ、喰らうが良い!」
     更に畳み掛けたのはアルスメリア。わざとタイムラグをつけ、息を吐いた瞬間のウォルケンを狙うと、架乃と椿がそれに続く。
    「ち、燃えない奴っす。それなら……」
    「纏った水に炎が消される感じか、鎧を破砕する方針でいこうか」
     付与した炎が掻き消される様を見たギィと勇也は、それぞれ別の攻撃手段を考え、得物を構え直す。
    「驟雨に撃たれ退くがいい……」
     ウォルケンもにわか雨が如き無数の斬撃を繰り出し、灼滅者側の前衛陣を押し返すと、保が『豪雨注意』の標識を掲げて癒し、前線を維持する。
    「……炎が、効かないの?」
    「あぁ、突出するなよメリア」
     顔を向けたアルスメリアに答えたギィは、アルスメリアに自制を促すが、
    「そんな事言っても止まらない事ぐらい知ってるだろ!」
     アルスメリアは炎煌めく瞳を輝かせ、ツインテールを踊らせ打ち掛かる。

    「人の姿してても、カードはただのカードだよ! 悪夢はいるかな、カードの騎士様っ!」
     Punishmentに影を宿し、砲身を薙いだのは架乃。アルスメリアと椿を相手取っていたウォルケンは、その一撃に対応できず砲身を叩き込まれた。
    「これは……」
     トラウマの何かが見えているのか、虚空に向かって目を凝らすウォルケン。
    「いくさ場は生者にとって虚空とは言え、敵を前に虚空を見つめるは、己を生を捨てるが如きもの……」
     その隙を突いて死角に入り込んだ葉織が、鞘から刃を抜き様に斬り上げ、跳び退き様に刃を鞘へと戻す。
    「夢も悪夢も、全て水の流れるままに」
     その葉織を追う様にウォルケンの向けた掌。流れ出た濁流が爆ぜながら後衛陣に襲い掛かる。
    「これはなかなか……クリーニング代は出してもらえるんよねぇ?」
     着物の裾を濁流に汚された保は、『ぬかるみ注意』の標識を掲げて自身と葉織、そしてアルスメリアを癒す。
    「椿くん左、日和ちゃんは右を頼んだよ」
     架乃は前線でせわしなく動き回りながら、攻撃がぶつからない様に指示を出す。
     その眼前で水が流れる様に自然体で踏み込んだウォルケンに、勇也が脇腹を裂かれ、鮮血が彼の左足を赤く染めてゆく。
    「~~♪」
     直ぐに響くソプラノの透き通った歌声。
     保の口から紡がれる言の葉が、勇也から流れる血を止めその活力を補ってゆく。
    「攻撃は的確だが、隙も多い様だな」
     勇也を斬った直後、ギィらに猛攻を掛けられるウォルケンを見て、葉織はその紫の瞳を細める。

    「うお、やっぱつめてーそんな鎧脱いじゃえばー」
     ギィと架乃が攻撃した隙を突いてウォルケンを投げ飛ばした椿は、手に付いた水滴を払う様な仕草をして語り掛けるが、投げ飛ばされたウォルケンには、
    「炎がダメなら、その水を全部凍らせてあげる!」
     と日和の撃ち出した氷柱が次々と襲い掛かったところに、勇也とアスルメリアが続いた為、ごろごろと地面を転がりながらその攻撃を避けるので手一杯で、椿の言に耳を傾けている余裕は無い。
    「いつまでも、やられていると、おもうな、よ!」
     更に加わった架乃のに流水の如き一撃を叩き込み、体勢を立て直すウォルケン。
    「大丈夫か架乃?」
     椿は直ぐにピンク色のオーラを癒しの力に転換して架乃の傷を癒すが、立ち上がったウォルケンは、仕寄られる前に前衛陣に爆ぜる濁流を叩き付けて来た。足元に絡まる濁流が前衛陣の動きを阻害する。
    「雪風さん、背中借りるんだよ」
     その椿の背を『黒き翼のリリエンタール』で踏み、跳躍したのは日和。
     濁流を避け上からウォルケンを狙う。
     無論ウォルケンもそれを迎え撃とうとするが、
    「炎や足を封じられたからって、戦えなくなるような鍛え方はしてない!」
    「1が駄目なら2、2ふが駄目なら3の手を使えば良いだけだ」
     濁流部分を左右から回ったアルスメリアと葉織が挟撃を図った。


     激しい攻防が続いていた。
     ウォルケンの力による水と流れ落ちた血と汗の為、工事現場の地面はかなりぬかるんでおり、お互い距離をとって警戒しながらの小康状態となっていた。
    「ぬかるんでるのは仕方ないんだが、このひいてある鉄板が危険。めっちゃ滑る」
     ガシガシと床に置かれた鉄板を蹴り、椿が文句を言う。
    「皆、無謀な戦い方は禁物っすよ! 普段通りの連携をすれば大丈夫な相手っす」
    「ほぅ……言ってくれるではないか」
     ギィの物言いにウォルケンが銀色の瞳を細める。
    「せや、1つ聞いてもええやろか? 何が起きてここへ来はったん? 目的は?」
    「異な事を、気がつけばここに居た。そして我に得物を向ける貴様らが居る以上、我としてはそれを討ち果たすまで」
     保の質問に答えたウォルケンは、
    「では……参る!」
     爆ぜる濁流を巻き起こすと、その影に身を隠しながら泥を跳ね上げ迫って来る。
    「じゃあ行くよっ、絶対に隙を作ってみせる!」
     その濁流を斬り上げて裂いたアルスメリアが、迫るウォルケンに刃を振り下ろす。
    「抜き放たれた天剣絶刀の力を見せよう豪雨の騎士ウォルケン!」
    「気合だけで我は倒せぬ!」
     泥の跳ねる中、2人の視線が交錯する。振り下ろした大太刀をウォルケンが受けた瞬間、アルスメリアはその大太刀から手を離し、拳を繰り出す。大太刀を囮にした奇襲だったが、端からまともに打ち合うつもりのなかったウォルケンに、脇を抜けざまに一閃を叩き込まれた。
    「思い切った手をとる……」
     ウォルケンは爆ぜる濁流と共に、流れる水の如く次々と敵を斬るつもりであった為、奇襲は空振りに終わるが、
    「必殺、黒の蹴撃!」
     そこに宙を舞い、蹴りを繰り出す日和。
    「奇襲するなら声を上げぬ事だ」
     ウォルケンの言う通り声を上げた為、肩をかすめただけで、その蹴りを回避される。……だが、その日和に気を取られたウォルケンの体に当たる細身の杖の杖頭。
    「ぐぬ……」
    「油断しはりましたなぁ」
     流れ込む魔力に奥歯を噛んだウォルケンに、ほほ笑んだ保がさっと身を翻すと、
    「受け取り、そして託そう、この一撃!」
     入れ替わる形で踏み込んだ葉織が、抜き様の一閃を叩き込んで飛び退く。更に椿。
    「調子に乗らぬ事だ」
    「調子には乗ってないな。勝利への流れに乗っているだけだ」
     刃と拳が交差し、腿を大きく切られた椿の体が横倒しになり、拳の一撃の衝撃に頭を振ったウォルケンが、止めを刺そうと向けた刃が死角から跳ね上げられる。
    「1たす1は2ではない。3にも4にもなる。これが俺に出来る事……」
     跳ね上げたのは勇也。跳ね上げはしたが攻撃を加えず、あえてそのまま後ろへと回り込みウォルケンの気を引く。
    「コレで終わりだっ!」
     そこへ架乃が満を持して撃ち放ったデッドブラスターの漆黒の弾丸。
     上体がガクンと反るがなんとか踏み止まり、その一撃を耐えてみせるウォルケン。
    「……なーんてね。よろしく!」
     架乃の向けた視線の先にギィ。
    「ここはあんたらが遊ぶ世界じゃないっすよ。想像の産物は、大人しく無に還るがいいっす」
     大きく振り被った『剥守割砕』が薙ぎ払われる。
     ウォルケンは剣を盾に身を翻そうとするが、戦艦も裂くと言われたその一閃に、剣の刃は儚く折れ脇腹に巨大な刃が食い込む。
    「……」
    「……」
     その刹那、交差するウォルケンとギィの視線。だが、何も語らず振り抜かれた刃に、ウォルケンは断末魔を上げる事も無く、その体は両断されたのである。


    「よしっ、お疲れ様っ! みんなずぶ濡れだね。そういえば、なんで豪雨の騎士だったんだろうね? 別にただの水とか海でもよかったのに」
    「別で居るのではないだろうか?」
     掻き消えるウォルケンの体を見て架乃が声を上げると、顎に手を当て少し考えた葉織が、思い付いた事を口にする。
    「今の自分の場所が分からないのなら、知らない人をヤミクモに攻撃したらダメだよ。ホントに騎士としての行動か、よーく考えたほうがイイよ。って、居なくなってから言っても遅いかもだけどね!」
    「供養ってわけじゃないが仲間のカードと一緒にしてやるよ。仲間と一緒なら寂しくないよな」
     ウォルケンの消えた辺りに向って日和が腰に手を当て、唇を尖らせ最後にてへっと笑い、椿が語り掛け、魂があるのだろうか? と少し考えた勇也がその冥福を祈り黙祷を捧げる。
    「天剣絶刀の勝利、うん!」
     そしてアルスメリアが剣を掲げると、
    「1つの勝利は次の戦いへの一歩かもしれないっすね。勝って兜の緒を締めよ。油断せずにいくっすよ」
     ギィが刃を合わせ、それに倣って皆が得物を合わせる。
    「あ、……雨」
     杖を掲げた保が空を見上げると、ぽつりぽつりと天から雨が落ちてきた。
    「雨は全てを洗い流す……か」
     そう呟いたのは誰であったか? 天剣絶刀の面々は風邪などひかぬ様、ずぶ濡れになった体で足早にブレイズゲートを後にしたのだった。

    作者:刑部 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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