気がついたらそこはもふもふ王国だった。そうとしか形容のしようがなかった。だだっ広い草原のあちらこちら、四方八方に猫やら犬やらウサギやら、アルパカやらカピバラやら羊やら、コアラやらウォンバットやら、目を凝らせば隙間にハムスターまでいるし、とにかくありとあらゆるもふもふした動物が大集合していた。草原の緑の面積よりもふもふの面積の方が広いのではないかと錯覚するほどだ。なんだこれ。どっちかというと自分動物嫌いな方なんだけど。
「気がついたかしら?」
不意に聞こえてきた声の方を見ると、クラスメイトの大山・祢子が童話に出てくる女王様のような格好して、勝ち誇ったように立っていた。あの、足元にいる翼の生えた猫にめっちゃスカート引っ掻かれてますけどいいんすか。
そんな疑問に気づいたのか気づいてないのか。大山はその猫を抱き上げ頬ずりしながら言う。猫、めっちゃ喚きながら引っ掻いてますけど。大山はお構いなしだ。
「この間はよくも『ケモノくせーじゃんw もふもふが好きとか理解できねーしww』なんて言ってくれたわね。こうなったらあんたにも強制的にもふもふの虜になってもらうわよ! さぁ、あなたももふもふに埋もれ、もふもふを素晴らしさを思い知り、もふもふを愛しなさい!」
ビシっと大山が俺を指差す、と同時に四方八方からさっきの動物の大群が俺に向かって突っ込んできた。うわぁああああやめてくれ盛大に獣臭くなる! 咄嗟に腕を掲げた俺の前に、さっきの翼猫が飛び込んできた。
「にゃ、おーん!」
その鳴き声は、まるで大山に「止めてくれ」と訴えているようで。俺は思わず目を見開いた……直後に羊に体当たりされ。猫はどっかに吹き飛ばされてった。
「一般人が闇堕ちしてシャドウになる事件が、起きようとしています……」
桜田・美葉(小学生エクスブレイン・dn0148)がいつものようにおずおずと切り出した。いつもと違い猫耳装備で。
今更萌えキャラ狙いでも始めたの? とでも言いたげな灼滅者の視線を受け、美葉は慌てて違います、と首を振った。
「その、今回はいつもとちょっと勝手が違って……えっと、今回闇堕ちした人、大山・祢子(おおやま・ねこ)さんって言うんだけど……言うんですが、子子さんの人間としての意識は、今は猫のサーヴァントの姿になって、彼女の悪行を止めようとしているんです」
なるほど、だから猫耳……ってあんまり関係ない気もするが。それはさておき。
「でも、サーヴァントにダークネスを止めることは不可能で……止められていない、みたいなんです。猫のサーヴァントが悪事を止めるのを諦めて消えてしまったら、祢子さんは完全に闇堕ちしてしまいます……ですから、その前に祢子さんを、助けてください」
万一間に合わなかった場合は……あまり、考えたくはないけれど。それ以上悪事を重ねる前に、灼滅を。よろしくお願いします、と美葉は頭を下げた。
さて、悪事悪事というが、具体的に彼女が何をやらかそうとしているのかというと。
「動物嫌いのクラスメイトのソウルボードに入り込み、ソウルボードをもふもふの動物だらけのもふもふ王国にして、クラスメイトをもふもふの海に溺れさせ、強制的にもふもふの魅力に目覚めさせようとしています」
何それひど……い?
人によってはむしろご褒美な気もするが、いやいやでも人のソウルボード好き勝手に荒らしちゃダメでしょ!
「どうも、そのクラスメイト……岩崎大和さんって言うんですが、彼に動物をもふる趣味を馬鹿にされたことが祢子さんの闇堕ちの原因のようですね」
聞けば、大和は「獣臭いから」という理由で動物全般が好きではないよう。対して祢子は隙あらば学校で飼ってるウサギから迷い込んできた野良犬や野良猫から、その辺で散歩してる犬から、とにかくそこに動物がいさえすればすぐさま飛んでいってもふる、もふってもふってもふり倒す、ちょっと異常なほどの動物好き。対立するのもむべなるかな。だからってソウルボードをいじっていい理由にはならないが。
「大和さんのソウルボードに入れば、そこには一面の草原と、もふもふ王国が……いえ、猫とか犬とかアルパカとか羊とか、とにかく様々なもふもふ動物が広がって、いえ、溢れています」
何その(人によっては)ステキ空間。とはいえ、その中からまずは祢子と大和を見つけねばならない。名前を呼ぶのもいいし、(特にこの場合は助けを求めているであろう大和を呼んであげると効果的だと思われる)、場合によってはちょっと可哀想だが動物を攻撃して道を空けてもいいかもしれない。所詮はソウルボード内で生み出された動物ゆえ、実体はないし、すっごい弱いので一撃で消える。まぁ、たとえ実体がなくとも動物を攻撃するのは戸惑われるかもしれないし。それ以外の捜索方法が思いつけば、その方が良いだろう。
そして、忘れてはいけないのが猫サーヴァント。
「猫のサーヴァントは、皆さんが祢子さんを助けに来た事が理解できれば、戦闘に参加せずに応援してくれます。ですが、祢子さんを殺しに来たと誤解してしまった時は……彼女の側に立って、彼女を守るために戦いに参戦してしまうかと」
接触の際にはその旨注意する必要がある。尤も、猫サーヴァントと戦闘になった場合も、戦闘中に説得することは可能だ。
なお、戦闘が始まれば祢子自身も動物を傷つけることは好まないのか。あんなにいっぱいいた動物(猫サーヴァント除く)は全て引かせてしまうので、戦闘中にもふもふを堪能することはできない。あしからず。尤も、そのおかげで動物達が戦闘の邪魔になることはないが。
「その代わりといってはなんですが、配下として祢子さんは新たに3体の羊を召還します。そんなに強くはないですが、体当たりしてきたり、ときには鳴き声で催眠状態に陥れてくるかもしれません」
祢子自身はシャドウハンターとマテリアルロッドのサイキックを使用してくる。彼女の良心は今全て猫サーヴァントの方にいっているので、説得により弱体化を図ることはできない。それでも、猫サーヴァントが残っている状態でKOすれば、灼滅者として生き残ることができるだろう。
最後に、美葉は一つだけ念押しする。
「あの、もふもふって、人によってはものすごく魅力的かもしれませんが……今回の目的はもふもふを堪能することではないので……そこだけ、お願いします」
ちょっとぐらいならその海に飛び込んでみてもいいかもしれませんが、と呟きつつも。
参加者 | |
---|---|
アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199) |
鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531) |
東谷・円(ルーンアルクス・d02468) |
篠村・希沙(暁降・d03465) |
乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748) |
オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189) |
鏡月・空(スカイブルーなフール・d23766) |
翠川・夜(今宵は朝日が登る迄・d25083) |
●も
鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)はソウルボートに入るなり、もふもふに目を奪われ、その海に飛び込んだ。
「にゅふー♪ ふわふわ! もふもふ! あったか! 一匹お持ちかえりたい!」
完。ではなくて。
「もふもふ、おっと、いけません。猫のサーヴァントさんと岩崎さんを助け、大山さんを元に戻さねば、です」
翠川・夜(今宵は朝日が登る迄・d25083)は目の前の誘惑から、なんとか踏みとどまる。
「もふもふし放題だと聞いて! ……あ、すみません本音が出てしまいました。身体は正直ですね」
オリシア・シエラ(アシュケナジムの花嫁・d20189)も笑った。もふもふに魅了されている者は多い。乱獅子・紗矢(獅子心乙女・d13748)もそうで、もふもふ動物の群れにすっかり上機嫌。
「もふもふ♪ もふもふがいっぱい♪」
と鼻唄まで歌っている。だが、誰も目的を忘れてはいない。そう、
「全力でもふ……! ……やなくて、全力で助けに来たよ。大和くんも、祢子ちゃんも」
篠村・希沙(暁降・d03465)がぐぐっと拳を握ってみせる。
「ああ、同じもふもふ好きとして必ず救出してやるぜ」
紗矢も頷いた。
「もふも……いや、うん……。何でも押し付けはいかんよ」
東谷・円(ルーンアルクス・d02468)は頭を振る。もふもふはぬいぐるみ的なものは好きだが、現実の動物はさほどでもないし。大和と同じく獣臭いからと、意志があって面倒くさいから。
「もふもふか……どういうものかは気になるが余計な傷は残したくないのぅ」
アリシア・ウィンストン(美し過ぎる魔法少女・d00199)が周囲のふわもふ動物を見回して呟く。夜も頷いた。
「ちょっとかわいそうですし、なるべく倒さず進みたいですね」
というわけで。アリシアは考えた挙句上空から探そうと、空飛ぶ箒で舞い上がる。円も動物達にくっつかれても面倒だし、と同じ手段をとった。
「おーい大和ー助けに来たぞ~返事しろ~」
割り込みヴォイスも使い、声をかける。珠音も十分に堪能したところで仕事を思い出して、大声で目標を探した。もふもふする手は止めずに。
「にゃんこー! 猫サーヴァントどこー? もふもふさせてー!」
夜も割り込みヴォイスを使って猫サーヴァントや大和に呼びかけ、希沙も動物達をもふりながらどかして探していく。ハムスターやリス等の小動物は勿論、アルパカや羊といった比較的大きな動物もさほど重くなく、怪力無双を使わなくても持ち上げられた。実体がないからだろうか。何にしても重さを気にせず済むのは好都合。希沙はもふもふの中を進みながら羊をもふり、犬を撫でアルパカにも抱きつく。
(「ふわふわ……かわわ……!」)
至福。宿す炎の所為か小動物には避けられる傾向がある為、思う存分もふれてしあわせ。でもやっぱにゃんこ最強、と猫を抱きながら大声で呼びかける。
「声が聞こえたら手ぇ挙げて下さいな!」
紗矢も猫と犬を両脇に抱え、レッサーパンダを肩に乗せ、むしろ首に巻くようにしながら声を上げて大和の名を呼ぶ。両手に花ならぬ全身にもふもふ。オリシアはその間に狐をさわさわしたり兎をぎゅーしたり、もふもふを堪能し、鏡月・空(スカイブルーなフール・d23766)も少しカピバラとかもふっておく。目的忘れてないよな?
ともあれ、ほどなくして、
「ここだー! 誰か知らんが、助けてくれー!!」
と声が聞こえてきた。にゃーん、と鳴き声も聞こえてくる。大和と猫サーヴァントの声で間違いない。上空で探していた二人も、もふもふの群れの中から助けを求めるように手を伸ばす人物を見つけた。その傍らにはもう一人。あれが目標の二人だろう。
「見つけたぞ! あそこじゃ!」
アリシアは仲間に連絡し、自身は上空で待つ。それも他の仲間への目印になった。場所は分かった、一刻も早く辿りつくため、希沙はクリエイトファイアを試してみる。しかし動物達の反応は鈍い。やはり本物の動物とは違うということだろう。なので声かけを続行しながら、皆でもふもふをかきわけ進む。
一方、円は一足先に大和と祢子の元に降りたっていた。
「む、誰!?」
きっとこちらを睨む祢子に、円は頭を掻きながら言う。猫サーヴァントにも語りかけるように。
「えーとだなぁ、祢子って動物もといモフモフ好きなんだろ? こんな風に押し付けたら余計嫌いになるだろ……そういうのは勿体ない。別の方法あるだろうしさ、今はこの強引な手口一旦止めさせてもらうな」
猫サーヴァントはおとなしく円を見上げているが、祢子は聞く耳持たなかった。
「いいえ、もふもふに埋もれれば誰だってその素晴らしさに気づくはず! 邪魔するならあなたにだって容赦はしないわ!」
祢子がマテリアルロッドを振る、と上からウォンバットが降ってきた。そのまま円の頭に着地、うぉおい! もふるつもりはなかったがもふられるとは思ってなかった。獣臭さがないのは幸いだが、とりあえず取って投げておく。
「な!? あなたまでもふもふを拒絶するなんて! 許せな……!!」
祢子がロッドを再び振りかざしたその時、仲間がもふもふの壁を乗り越えてやって来た。祢子が目を丸くする。こんなにいるとは思わなかったのだろう。すぐさま希沙は割り込むように大和の前に立つ。守るために。大和の安全確保を確認し、空は
「色々と言いたいことはあるのでしょうけど、ちょっと大人しくしておいてくださいね」
と言っておいた。その間に珠音はレッツサーチにゃんこもふりんぐ。猫サーヴァントを揉みくちゃにしながら接触テレパスで目的を伝える。
(「ふあぁああああ! にゃんこ! にゃんこにゃんこ! もふもふ! 毛並みさらさら! ああ可愛い可愛い肉球ぷにぷにー! ……じゃなかった。こほん。こんちは。ウチらは灼滅者、ゆーのご主人様を助けに来たよ!」)
(「そのために一回ぶっ倒さないといかんけど……ウチらを信じて! 終わったらもふらせてね!」)
オリシアもどさくさに紛れてもふもふを堪能しながら、接触テレパスで説得する。
(「今は祢子さんの良心と悪心が分裂した状態です。それを戻すために来たんですよ」)
空も接触テレパスで意図を伝え、夜も救出に来たことをきちんと説明すると、祢子に向き直る。
「もふもふ、いいですね、素晴らしい趣味だと思うです。ですが、押し付けるのは良くないですよ」
紗矢も可愛いな~、なでなでしたいな~、とめっちゃ思いながら、猫サーヴァントに話しかける。抱えられるだけ動物を抱え、頭上にハムスターを乗せたまま。
「俺もお前と同じ、もふもふ好きなんだ。だから、どうにかしてお前を元に戻してやりたい」
同好の士が増えるのは嬉しいし。希沙もひたむきに説得する。
「祢子ちゃんを傷付けに来た訳やないよ! 好きなものを否定されたら哀しい。けど、それで好きを押し付けたり、相手を傷付けるんは違うよね。良いとこ、可愛いとこを判って貰わな意味がない。それを彼女自身の言葉で伝えて欲しい……だから止めたいの。ね、きみも同じやんね? 必ず助けるから」
猫サーヴァントは分かったというようににゃあんと鳴くと、とことこ後ろに下がってちょこんと座った。一方、呆然と見ていた祢子ははっとしてマテリアルロッドを突きつける。
「ちょ、ちょっとそのにゃんこちゃんは私のよ! 勝手にもふっちゃだめぇ!!」
そっちかよ。ともあれ珠音は彼女にペコリと礼をしてみせた。
「この空間作ってくれたにゃんこ(祢子)ちゃんじゃね! ありがとうございます!」
「あら、どういたしまして」
「むぐぐ、でも人のソウルボートに作っちゃいかんのよ……惜しいけど、元に戻すよ!」
珠音がシャキーンと殲術道具を構える。上空で見守っていたアリシアもすとんと降りてきた。
「くっ……! 戦いは避けられないようね!」
祢子もロッドを構える。すると辺りを覆っていたもふもふ動物が一斉に消え、新たに3体の羊が出てきた。夜は猫サーヴァントに振り向く。
「猫さん、無事に助けられたら、もふもふさせてくださいです」
それを皮切りのように、戦いが始まった。
●ふ
「とりあえず、落ち着いてください」
空の言葉に耳は貸さず、祢子はブラックフォームをかます。羊も「メェェ……」と3体とも鳴き声を響かせた。その声で幾人かが催眠状態に陥る。厄介な。牽制のため、珠音が祢子に制約の弾丸を撃ち出す。が、羊が庇い、弾はもふっと毛皮にめり込んだ。ならば、とアリシアは魔法の矢を羊に向けて放つ。
「さて、邪魔な者は最初に消すかのぅ」
オリシアも頷き、トラウナックルで羊を殴りつけた。
「羊さんは……可哀想ですがこの場合は毛狩り対象です。バッチリ丸裸にして差し上げます」
にっこり笑って。笑顔が怖い、と思いつつ円はイエローサインを展開し、耐性を与えると同時にキュアする。
「まずはあのこから、やね!」
希沙もオリシアと対象を合わせ、細っこい身体で豪快に異形化した腕を叩きつける。夜が剣を構成する光を炸裂させ、その隙に霊犬のポチが浄霊眼で仲間を癒した。紗矢がシールドを広げ、空は除霊結界で羊を大人しくさせる。続いて霊犬の麟狼が斬魔刀を咥えて飛び掛った。羊の動きはある程度阻害できたものの、祢子の方はまだまだだ。空は諦めずに会話を試みる。
「動物好きなのは分かりますが、行きすぎです。少し頭を冷やしてみては?」
「うっさい!」
返事はフォースブレイクだった。すかさずポチが庇う。彼女の良心は今全て猫サーヴァントのもの。当の本人は完全に闇に飲まれているため、ろくに会話ができる状態ではないらしい。空も諦めた。
続いて羊達が体当たりをかましてくる。しかし柔い。たいしたことないのぅ、とアリシアはフォースブレイクで迎え撃ち、オリシアは暴風を伴う強烈な回し蹴りで羊達を薙ぎ払う。
「ああっ! 私の羊ちゃんたちが!」
手を伸ばす祢子を珠音が封縛糸でギリギリと締め上げ、円はポチに癒しの矢を放った。希沙が炎を纏う蹴りをかまし、夜が五星結界符で足止めする。ポチの六文銭射撃の後、ふらつく一匹に紗矢が雷を宿す拳でアッパーカットを繰り出した。
(「わ、すっごいもふもふ……!」)
感動したが羊の方は限界だったようで、そのまま消滅した。次いで空が縛霊撃で殴りつけ、さらにもう一匹が消える。続く麟狼も六文銭射撃で牽制。残る羊は一匹、焦る祢子が轟雷を落とす。そして羊が紗矢に鳴き声。円はすぐさま標識を黄色にスタイルチェンジさせ、催眠を振り払う。
「ちょっと大人しくしといて欲しいんじゃよ!」
珠音が石化をもたらす呪いを祢子にかけた、その隙に皆で残りの羊をポコポコ。元よりそんなに強くない相手だ、最後に夜が鬼神変で殴ったら消えた。すっごい柔らかかった。
●も
「わ、私の羊ちゃんが……! あなたたちにはもふもふに対する愛ってものはないの!?」
祢子がやけくそ気味に竜巻を引き起こす。お返しに空は飛び上がり、上空からダイブして飛び蹴りかました。続く麟狼が浄霊眼で仲間を癒す。
「愛ならあるんだけどな。方向性が違うだけで」
肩をすくめ、円はレッドストライクで殴りつけた。
「そう、押し付けに同意できないだけです」
オリシアも『畏れ』を纏い、鬼気迫る斬撃を放つ。珠音がさらに鋼糸で切り裂き、アリシアのマジックミサイルと希沙のレイザースラストが祢子を貫いた。悔しげに唇を噛み、祢子はブラックフォームで回復を試みるが。
「あっ」
クラブのスートは浮かび上がる前に消える。行動が失敗した。地道に阻害してきた甲斐があった。今がチャンス、と空は懐に入り込んで抜刀し、斬り捨てる。希沙が勢いよく振り下ろした斬撃で武器ごと断ち切り、夜もスターゲイザーでさらに足止めを重ね、紗矢が鍛えぬかれた拳で撃ち抜く。
「もふもふ好きなら閉じこもるよりも広めてみせよ!!」
アリシアのマジカルロッドCure exが魔力を流し込み、体内から爆破させた。祢子が膝をつく、そこにオリシアが影を宿した武器で殴りつけ、とどめをさした。
●ふ
祢子の闇が倒されたことで、猫サーヴァントは嬉しそうににゃぁんと鳴いて跳ね回る。その体がすぅっと薄らいで……やがて消えてしまった。後でもふもふしようと思っていた灼滅者は大ショックである。
「そ……そんな……」
「消えるなら消えるって前もって言っといて欲しかったんよ!」
珠音は悔しさと悲しみが入り混じった表情で地を叩く。
「祢子さんに良心が戻ったから消えた……ということでしょうか? 分かりませんけれど……」
オリシアが首を傾げた、その時祢子が起き上がる。
「……あれ? あの子いなくなっちゃったの?」
コクコクと(幾人かは悲しげな顔をして)灼滅者達は頷く。
「そっか……可愛かったのになぁ……残念。でも、また会えるような……そんな気がするの」
どこか遠くを見つめるように、祢子は呟いた。そんな彼女にアリシアはそういえば、と問う。
「『もふもふに萌える』とはどうゆうことかぇ?」
萌えの属性を気にするのはマンガアニメ学部としてなのかそうでないのか。興味津々な彼女に祢子は、
「それは……こういうことよ?」
ともふもふ……する対象がいないので手をもふもふするようにわきわきさせてみせた。余計分からなくなった。
ともあれ無事に二人とも救えたので、希沙は改めて大和に向き直る。
「苦手なものは誰にでもある。けど馬鹿にするよな言い方は感心しません。先入観で否定せんと、真正面から向き合ってみて」
「う……分かった……」
大和もしゅん、と俯く。今回の件で彼も反省しただろう。
「まぁ、気持ちは分からんでもないけどな。実際獣臭い時もあるし、意志があって面倒だし。ただ、馬鹿にするのは違うから」
円の言葉に、大和ははい、と小さくなって頷く。
「ど、動物はちゃんと洗えばくさくないですよ、家のポチなんて清潔ですし、無臭です」
夜はポチを抱きかかえて見せながら訴えた。霊犬ってそもそも匂いあるんだろうか。まぁ、実際正論だ。そうかもなぁ、と大和も頷く。夢の中ということもあって、もふもふ動物達には匂いなかったし、大和の見方もこれから変わるかもしれない。
最後に紗矢が学園のことなどを説明し、「よかったら来ないか?」と誘う。
「そうだね、もふもふさんがいっぱいいるなら考えようかな」
祢子は初めて年相応のあどけない笑顔を見せた。
「ああ、もふもふも、もふもふ好きな同志もたくさんいるからな!」
紗矢も笑ってみせる。
「それじゃ……帰りましょうか……」
空が皆を促し、一同はもふもふがなくなったソウルボードを後にする。空は後日、シャドウ関連の調査をしておくつもりだ。何か見つかるかは、分からないけれど。
夢のもふもふ王国。祢子が生み出したそれはなくなったとはいえ、目を閉じれば皆の心の中にその楽園はあるのかもしれない――。
作者:ライ麦 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2015年2月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|