食え、瓦そばを! 瓦そば怪人強行軍

    作者:飛翔優

    ●瓦そば怪人カラテカワラソーバ
     瓦そば。
     山口県下関市豊浦町の郷土料理。
     熱した瓦の上に茶そばと具を載せた料理で、山口県内では広く過程でも食されている。近年では北九州も超えて広がりつつある逸品。
     愛しすぎたが故だろう。一体のご当地怪人が、山口県にて活動を開始した!
    「ワーラワラワラワラワラ! はい、こちらが瓦そばですば。どうか、食して言って欲しいんだば。何? いらないば? それは行けない、ほらほら食べて食べてば……」
     名を、瓦そば怪人カラテカワラソーバ!
     瓦型の頭部と蕎麦を束ねたような両腕を持つご当地怪人は瓦そばを更に広めるため、県外出身者も多く利用するだろう駅前などを中心に瓦そばの試食会を行っていた。
     しかし客引きは強引で、時に熱された瓦そばを押し付けてやけどさせてしまう事もある。
     それでも止めることはない。全ては瓦そばの魅力を広めるため、ゆくゆくは世界征服を果たすため……。

    「……」
     図書室でメモをまとめていた晦・真雪(断罪の氷雪狼・d27614)は、瓦そば怪人、と記されている項目を前にきつく目を細めた。
     荷物を片付けた上で立ち上がり、静かな調子で歩き出す。
    「真実ならば、解決しなければなりませんね。そのためにも……」
     エクスブレインへと伝えるのだ……!

    ●夕暮れ時の教室にて
    「それでは葉月さん、後をよろしくお願いします」
    「はい、真雪さんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
     倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は真雪に頭を下げた後、灼滅者たちへと向き直った。
    「山口県を中心にご当地怪人、瓦そば怪人カラテカワラソーバが活動している事が発覚しました」
     本来、ダークネスにはバベルの鎖による予知能力があるため、接触は困難。しかし、エクスブレインの導きに従えば、その予知を掻い潜り迫る事ができるのだ。
    「とはいえ、ダークネスは強敵。色々とあるご当地怪人といえど、です。ですのでどうか、全力での行動をお願いします」
     続いて地図を広げ、山口県内の駅前を指し示した。
    「皆さんが赴く日のお昼時、カラテカワラソーバはこの駅前で活動を行っています」
     それは、瓦そばの試食会。
     食べてもらうことで魅力を知ってもらおう、という狙いだろう。しかし……。
    「客引きは強引で、拒否した方には無理やり押し付けてしまうこともあるとか……」
     つまり、危険な試食会となっている、というわけである。
    「駅前はお昼時とあって人通りは多めですが、カラテカワラソーバが埋もれてしまうほどではありません。赴けばすぐに見つける事ができるでしょう」
     後は人払いをした上で戦いを挑むなどをすれば良い。
     敵戦力はカラテカワラソーバの他、空手道着に身を包んでいる配下が三名。
     カラテカワラソーバの姿は瓦型の頭部と蕎麦を束ねたような両腕を持つ怪人。力量は配下がいる状態で八人を相手取れる程度。攻撃面に秀でており、攻撃技は全て単体を狙うものだが威力が絶大。
     内訳は、加護を砕く瓦砕き、熱した瓦頭による炎の瓦頭突き、自らの力を高めながら放つ瓦そば掌底。更に時折、毒などに抗う力を得つつ身を癒やす特製瓦そばを食してくる。
     一方、配下も攻撃特化。瓦砕きを放ちながら、瓦そば足ばらいで動きを制限してくる。
    「以上で説明を終了します」
     地図などを手渡し、締め括りへと移行した。
    「瓦そば。山口県はもちろん、北九州も超えて広まりつつある郷土料理……しかし、無理矢理では心は離れてしまう。あるいは、怪人の手で広がりが鈍ってしまう……そのような事があってはなりません。どうか、全力での灼滅を。何よりも無事に帰って来てくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)
    外法院・ウツロギ(轢殺道化・d01207)
    花檻・伊織(死生境・d01455)
    イシュタリア・レイシェル(曼珠沙華・d20131)
    ルー・カンガ(南から来たカンガルーヒーロー・d27158)
    晦・真雪(断罪の氷雪狼・d27614)
    白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)
    迦遼・巴(疾駆する義体・d29970)

    ■リプレイ

    ●瓦そばの香りに誘われて
    「まずは人ゴミの中から怪人さんを探すところからなのです」
     お腹がくうくう鳴り始めていくお昼時。仲間と共に山口県の駅前へとやってきたイシュタリア・レイシェル(曼珠沙華・d20131)は、ギュッと拳を握りきょろきょろと周囲を見回していく。
     食を求め、行き交う人々。目指すは駅前商店街。
     飲食店も多い商店街へと繋がる道に陣取る形で、瓦型の頭部と蕎麦を束ねたような両腕を持つご当地怪人、瓦そば怪人カラテカワラソーバが瓦そばの試食会を行っていた。
    「ワーラワラワラワラワラ! はい、こちらが瓦そばですば。どうか、食して言って欲しいんだば」
     食を求め商店街へと向かわんとする人々を強引に引き止め瓦そばを進めていく光景を目の当たりにし、迦遼・巴(疾駆する義体・d29970)は不満を口にする。
    「あれでは折角の郷土料理が台無しです」
     反応を得ながら、カラテカワラソーバの気を引く仲間たちを送り出した。
     イシュタリアは弾んだ調子で歩み寄り、カラテカワラソーバを見上げていく。
    「おいしそうなのです、イシュちゃんももらっていいですか?」
    「ワーラワラワラワラワラ! もちろんですば! これが瓦そばですば!」
     喜色満面で提供された逸品は、熱された瓦の上に茶そばと具を載せた料理、瓦そば。一杯で三人前ほどの量。
     俺の地元でもそばは食べるが、瓦に乗せて食べる習慣はなかったなと、秋篠・誠士郎(夜蒼鬼・d00236)は一人思い抱く。
     味はきっと良いのだろうが……と思考を続ける中、四人目以降の灼滅者たちもまた空手道着に身を包んでいる配下と思しき者たちから瓦そばを受け取った。
     熱に注意しながら、いただきます。
     炒められた麺から漂ってくる、茶の香り。具や海苔と一緒に拾い上げ、めんつゆに軽くつけていく。冷めないよう時間をおかずに持ち上げて、一口ちゅるり。
     より濃厚な香りと絡み合い、広がっていく旨味。
    「お、うまいぜ!!」
     こらえきれず、ルー・カンガ(南から来たカンガルーヒーロー・d27158)は次々と手を伸ばした。
    「おかわりあるよな??」
     半分ほど平らげた時、つぶらな瞳で問いかけた。
     楽しげに、カラテカワラソーバは首を縦に振る。
    「ワーラワラワラワラワラ! もちろんですば! どんどん食べて欲しいのですば!」
    「……」
     そんな楽しげな光景を、晦・真雪(断罪の氷雪狼・d27614)は人払いを行いながらそれとなく観察していた。
     曰く、以前の怪人といい、ご当地グルメ怪人は相変わらずもったいない存在だと。せっかく愛されている郷土料理なのだから、もう少し違ったアピールの仕方をすればいいのに……と。
    「……」
     たとえ提案した所で無駄だろうと首を横に振り、思考を振りきった。
     改めて行き交う人々に向き直り、静かな声で呼びかけていく。
    「この場から逃げて下さい」
    「もう少し静かな場所で試食しませんか?」
     巴もまた商店街や駅の方角に誘導し、一般人をカラテカワラソーバから遠ざけた。
     商店街前の試食会会場はカラテカワラソーバをその配下たちの他には灼滅者たち程度となっていく中、イシュタリアはカラテカワラソーバに質問をぶつけていた。
    「かわったお蕎麦なのですけど、普通のお蕎麦とどうちがうのですか?」
    「まず、麺が違うば。茶蕎麦を使っているば。また、作り方も茹でた茶蕎麦を鉄板で炒めてるば。その上で、熱した瓦の上に茶蕎麦を乗せ、具などを盛りつけているんだば」
    「なるほど、瓦の上にのせるのもかわっているのです」
    「瓦の上に載せるのばね……」
     かつて薩摩郡の兵士たちが野戦の合間に瓦を使って野草や肉を食べたことを元にして……などと、快く答えていくカラテカワラソーバ。
     配下たちもまた、ルーのお代わりに手を取られ、周囲に気づいていない様子。
    「よし、このぐらいかな」
     腹いっぱい、十分に堪能したルーは、最後の瓦を返すと共に一歩前へと踏み込んだ。
    「とにかくとして、お前らた押しつけがましい事するって話だから、灼滅しに来たぜ!!」
    「ば?」
     虚を突かれたように目を見開いていくカラテカワラソーバ陣営を前に、ルーは武装する。
     仲間たちも距離を取り武装していく光景を横目に、瓦を地面に置き終えた配下に向かって真っ直ぐに拳を振りぬいた。
    「行くぜ!!」
     顎にヒットさせた後、胸へ、脇腹へ。
     軽快に拳を連打して、己等が敵だと伝えていく……。

    ●強襲! 瓦そば軍団!
    「狩り開始」
     黒手袋を装着し、武装した真雪。
     ガンナイフで地面を示し、カラテカワラソーバ陣営の足元を掃射し移動すらも制限していく。
     殴られた上に満足に動けぬ配下めがけ、外法院・ウツロギ(轢殺道化・d01207)が黒い帯を放出した。
    「その瓦そば、ラーメンにしてくれる」
    「魅了されやがれなのです」
     イシュタリアは拳をマイクでも握っているかのように握りしめ、華麗に可憐なステップを踏みながら歌い始めた。
     ふりふりなアイドル衣装がきわどく可愛らしく翻る中、カラテカワラソーバたちはようやく状況を理解したらしい。
     歌声を振り払うかのように頭を横に振りながら、カラテカワラソーバは口を開く。
    「ば……だ、だましたばね! あんなに美味しそうに食べてくれた人達と戦うのは心苦しいのばが、仕方ないですば! 瓦そばの何たるかを教えてあげるから、覚悟して欲しいのですば! 必殺、瓦砕き!」
     カラテカワラソーバは花檻・伊織(死生境・d01455)の立つ方角へと歩み寄り、腰を落としていく。
     半ばにてウツロギが割り込み、影を盾に瓦砕きと名付けられたせいけん突きを受け止めた。
    「ざんねーん。邪魔するよ」
     衝撃を殺しきれず後方へ退くことを余儀なくされながらも、ウツロギは口の端を持ち上げていく。
    「それにしてもこの程度かい? ラーメン怪人」
    「瓦そば怪人ば!」
     からかい、ツッコミ……と敵対的なやり取りが交わされていく中、伊織はウツロギに視線を送る。
    「庇ってくれてありがと。それじゃ、今度はこっちから……」
     小さく頭を下げた後、最初にルーが攻撃した配下に向かって帯を射出した。
     さなかには白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)もまた帯を、ウツロギに向かって伸ばしていく。
    「皆はなるべく攻撃専念してて。怪我はこっちが治しとくから」
     治療役二人で治療を重ねてゆけば、十分量癒せるはず。
     ならばそれを超えんというのか、配下たちは行動を開始する。
     二人は伊織とイシュタリアに足ばらいを、残る一人は……最も傷ついている者はウツロギに向かって、瓦砕きを仕掛けていく……。

     声を掛け合い、カラテカワラソーバの攻撃を受けた者を主な対象として的確な治療を行うことができていた。配下たちの攻撃に寄って多少のダメージが残ってしまう事もあるけれど、許容範囲内。
     問題なく攻めていく中、誠士郎はカラテカワラソーバの頭突きを額にオーラを集わせ受け止めた。
    「っ!」
     オーラ越しに感じる熱は、熱された瓦が放つ者。
     耐え、力の比べ合いへと持ち込みながら、思考を巡らせていく。
     ご当地怪人の普及させたい思いは良いことだが、やり方がまずい。だからこそダークネスなのだろうけれど。
     広めたい、知ってほしい気持ちは分かる。その情熱も理解できる。だから……。
    「……お前に足りないのは、伝えたい相手に対する思いやりだ」
    「ばっ!?」
     気合とともにカラテカワラソーバを押し切り、仰け反らせ結界を起動。
     カラテカワラソーバ陣営の動きを制限するついでに、一体の配下を昏倒させることに成功した。
     直後に足元をふらつかせた誠士郎に、巴が帯を差し向けていく。
    「治療します、他の方は攻撃を」
    「瓦なら俺だって!」
     呼応する形で、ルーが意気揚々と次なる配下の懐へと踏み込んだ。
     迎え討つかの如く、腰を落としていくその配下。
     ならばとルーも腰を落とし、右ストレート!
     配下の拳と打ち合わせ、振りぬいた!
     ふっ飛ばされた配下は電柱へと叩きつけられて、気を失っていく。
     直後、残る一体の放つ足ばらいがルーの特徴的な脚を強打した。
     すかさず睫毛のある雌の柴犬……誠士郎の霊犬・花がルーに視線を送っていく。
     受けたであろうダメージを、問題のない域まで治療するために……。

    ●穏やかなお昼を
     程なくして、三体目を撃破することに成功した。
     余分となるダメージが減り、治療もずいぶんと楽になり花が攻撃に回ることができていた。
     追い込まれた様相のカラテカワラソーバは仕切りなおしだと灼滅者たちから距離を取り、懐から瓦そばを取り出していく。
    「まだ、まだこれからですば! 特製瓦そばを食べてば……」
    「……」
     伊織は狙いを定める中、美味しそうに特製瓦そばを食べていくカラテカワラソーバに語りかけた。
    「蕎麦は好きだよ。たまに東京によくある老舗なんか巡ってる。けどたまーに通気取りのおじさんが、あーだこーだ口煩い時があるんだよね」
     返答は求めず、腰元に収めたままの日本刀に手をかけた。
     刃を非物質化させながら、一歩、二歩と踏み込んでいく。
    「無理強いされると、どんな美味しい蕎麦も満足に愉しめないんだ――君たちがやってる事も似たようなものじゃないかな?」
     カラテカワラソーバが特製瓦そばを平らげたタイミングで立ち止まり、居合一閃。
    「この一閃は死生の境。そのまま渡れ」
    「ば!?」
     宿しただろう加護を切り裂き、特製瓦そばを実質的に無力化。
     即座に誠士郎が結界を起動する。
    「今がチャンスだ! 花も頼む」
     きゃん、と高い泣き声を響かせながら、花は斬魔刀を煌めかせて駆けて行く。
     結界に囚われ満足に動けないカラテカワラソーバに、斜め傷を刻んでいく。
    「ぐ……だがば……!」
     よろめき、呻くカラテカワラソーバ。
     動こうとした刹那、真雪が懐へと踏み込んだ。
     バベルブレイカーのトリガーに指をかけながら、右胸に杭を突き立てていく。
    「畳みかけて、終わらせてしまいましょう」
    「斬るべし」
     杭が右胸をえぐり貫いた時、ウツロギの剣が左肩へと食い込んだ。
     両者が得物を引き抜き下がっていくタイミングで、幽香は冷たき炎を浮かべていく。
    「瓦に限った話じゃないけど、熱したものを押し付けちゃ駄目よ」
     落ち着いた言葉と共に指を弾き、瓦の頭部へと冷たき炎を差し向けた。
    「だから冷ましてあげるわ……思い切りね」
     言葉を終わらせると共に炎は弾け、カラテカワラソーバの頭部を凍てつかせた。
     砕かんという勢いで、巴は一方通行の表記されている道路標識を振り上げる!
    「折角の郷土料理、もう少しやり方があったでしょうに……」
    「無理やり食べさせられたらおいしいものもまずくなるのです!」
     イシュタリアもまた可愛らしいステップを踏みながら、脳天を打ち据えられヒビを入れられたカラテカワラソーバへと近づいていく。
     にっこり笑顔を咲かせながら、首筋に魔道書を打ち込んだ!
    「……」
     瓦が砕ける音を聞き、イシュタリアはカラテカワラソーバに背を向ける。
     彼女がポーズを決める中、カラテカワラソーバは空を仰ぎ声を上げた。
    「ば……ま、負けですば……けど、瓦そば、美味しい……ば……たくさん食べてくれて、嬉しかった、ば……だから、これからも……」
     言葉を途切れさせるとともに倒れ伏し、爆散。
     茶蕎麦の香りだけを残し、この世界から消滅した。

     元配下たちの介抱や各々の治療、後片付けなどを終えた灼滅者たち。次はどうしようか? との相談が始まらんとした時、ウツロギが染み染みといった調子で口を開く。
    「ふっ、もっと斬新にアピールすべきだったんだ」
     様々な反応が、仲間たちからは寄せられた。
     さなかに誰かのお腹がくぅと鳴り、伊織が肩をすくめながら提案する。
    「丁度お昼時だし――瓦そばでも食べようか」
     試食会には参加せず、空腹な者がいる。
     その一人である真雪は、薦めたい店があると商店街の方角を示しながら賛同した。
     一方、ルーは白いお腹を片手で抑えながら頭の後ろをかいていく。
    「俺はまぁ、目一杯食ったし、今日はゆっくりさせてもらうぜ」
    「私は駅近くの店でティーでも楽しむとするわ。……そうね」
     幽香もまた別行動を申し出た後、ルーへと視線を差し向けた。
    「同行してくれない? その方が都合がいいの」
    「へ、俺が?」
     見た目が特徴的でも、ある程度の年齢に見える者がいたほうが面倒がない。
     各々のやりたいことへの相談を行った後、灼滅者たちは目的のための行動を開始する。
     望んで食べること……それこそが楽しみ、美味しさを感じ……魅力を知る近道なのだから……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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