ヤマネコ男と空飛ぶ猫

    作者:泰月

    ●猫強化計画
     まだ寒いが、うららかな午後の事。
    「今日もご飯持って来たよミーちゃん♪」
     日当たりの良い公園のベンチのど真ん中に寝そべる三毛猫に、キャットフードの小袋を手にした少女が話しかけていた。
    「おい、やめろ。そんなもん、食わせてんじゃねぇ」
     そこに、ドスの聞いた低い声で話かけたのは、やたら背の高い学ラン姿の少年。
    「そんなもん食わせてたら、猫が軟弱になる。猫ってのは、本来はなぁ……狩りをするモンなんだよ!」
    「な、なによ! ミーちゃんだって美味しいと思ってるもん!」
    「にゃー! にゃにゃにゃっ!」
     少女の反論の声に同意したのは、ベンチにいた三毛猫――ではなく、何処からともなく現れた羽の生えた猫。
     ふわりと浮遊して、少年を止めるかの様に右腕にしがみつく。
    「はぁ……またテメェか。テメェみたいな軟弱猫はお呼びじゃねぇんだよ!」
     少年が右腕を大きく横に振って、しがみついた羽猫を振り払う。
     それだけで。毛に覆われた腕に生えた爪は、街路樹の幹を一撃で切り裂いていた。
    「にゃにゃっ! うにゃにゃにゃ!」
    「これが猫の爪の持つ本来の――ったく、テメェしつけえんだよ」
     すぐにふわりと飛びつく猫を、少年はやはり邪険に振り払う。
    「とにかくだ。いいか猫。テメェは変な羽なんかつけねえで、ツシマヤマネコみてえな強い猫に……っていねえじゃねえか!」
     少年がベンチに向き直った時には、少女も三毛猫も逃げ去っていた。

    ●今日の迷宵はゴスロリ+猫耳です
    「待ってましたにゃ!」
     教室の扉を開けた灼滅者達を出迎えたのは、頭に猫耳をつけた野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)だった。
    「今日のお話は、猫がとても関係しているんですにゃん」
     そう言うことらしい。
    「実は、豊崎・虎雄と言う高校1年の方が、闇堕ちしてダークネスになろうとしていますにゃ」
     稀にだが、闇堕ちしても元の人間としての意識がすぐに消えず、ダークネスになりきっていない状況になるケースがある。
    「今回は、虎雄さんの人間の意識は、猫のサーヴァントの姿となって、その悪行を止めようとしているんですにゃ」
     とは言え、サーヴァントにダークネスを止められる筈もない。
    「猫サーヴァントさんが彼を止めるのを諦めてしまった時。それは、彼が完全なダークネスになってしまう事を意味しますにゃ」
     これまでのなりきっていないケースと異なり、人間の意識は猫サーヴァントに行っている為、説得は意味を成さない。
     虎雄を助けるなら、猫サーヴァントが消える前に、撃破するしかない。
     間に合わなければ、灼滅するしかなくなると言う訳だ。
    「今の虎雄さんは、ツシマヤマネコ怪人になってますにゃ」
     あー。それで猫耳。
     迷宵の話によると、この虎雄君。中学までは対馬で育った。
     が、両親の仕事の都合で高校から九州本土に。
     転校先に馴染めなかった上、短気な性格が災いし良く絡まれ、高校生離れした長身と腕っ節で喧嘩に勝ち続け、見事問題児の仲間入り。
    「そんな彼が言い出せにゃかった事が、ツシマヤマネコ好きですにゃ」
     対馬生まれと言う事で、ツシマヤマネコを愛していたのだが。
     放課後、野良猫に思わず声をかけたクラスメイトの男子が、女子に男なのに軟弱と笑われていたのを目撃して以来、ヤマネコとは言え猫好きと誰にも言い出せず。
     やがて、彼は内なる闇の声に唆されてしまう。
     猫がもっと強い動物として知られれば良い。故郷対馬のツシマヤマネコの様に強く雄々しく――世界を制する程に。
    「そして野良猫にえさをあげる人を脅して、猫の狩猟本能を促そうとしてますにゃ」
     完全に闇堕ちすると、猫による世界征服を企み出すだろう。
    「虎雄さんとは、公園で接触出来ますにゃ」
     馴染みの野良猫にえさをあげようとした少女を脅した直後であれば、脅しに気をとられた虎雄に近づく事が出来る。
    「サイキックはご当地ヒーローとおにゃじ力と、変化した右腕の爪と肉球ですにゃ」
     また、猫サーヴァントは、灼滅者達が虎雄を救出に来たと理解できれば、戦闘に参加せず応援してくれる。逆に敵だと誤解されれば、ダークネス側に着いてしまう。
     その場合は、戦いながら猫の方を説得する必要があるだろう。
    「虎雄さんを救出したら、是非学園に誘ってみて欲しいと思いますにゃ。だって、此処なら見た目や性格と好みのギャップなんて、些細にゃ事だと思うですにゃん」
     そう言って、迷宵は猫耳とツインテールを揺らしぺこりと頭を下げたのだった。


    参加者
    風雅・晶(陰陽交叉・d00066)
    獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)
    穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399)
    ユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)
    文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)
    綺堂・ライ(狂獣・d16828)
    東雲・菜々乃(お散歩大好き・d18427)
    帯刀・伊織(延命冠者・d32708)

    ■リプレイ

    ●猫って構われなくても怒ったりするよね
    「くそっ。あの猫どこに行き――」
     にゃーにゃーにゃー。
    「っ……だから邪魔だつってんだろ!」
     ツシマヤマネコ怪人に振り払われ、なす術なく吹き飛ばされる羽猫。
     だが、落ちたのは地面でなく、黒いもふっとした何かの上だった。
    「クロネコレッド、見参! 虎雄、大丈夫か?」
     赤いスカーフを巻いた目つきの悪いクロネコ着ぐるみ姿の文月・直哉(着ぐるみ探偵・d06712)が、頭上の羽猫に呼びかける。
    「助けに来たぞ!」
     着ぐるみの頭からふわりと浮上し目を丸くする羽猫を見上げ、獅之宮・くるり(暴君ネコ・d00583)がシンプルに目的を伝えた。
    「……助け? いきなり出てきて、何だてめえらは」
    「ただの猫好きなおせっかいですよ」
     聞きつけたツシマヤマネコ怪人の睨むような視線を微笑を浮かべて受け流し、風雅・晶(陰陽交叉・d00066)は人々が近づかないよう薄く殺気を広げる。
    「大丈夫ですか」
     翠玉の瞳で羽猫を見上げ、穂之宮・紗月(セレネの蕾・d02399)は優しい風を招く。
    「猫さん、貴方が彼を止めようとしてるのは間違っていません。ボク達も救いたい、だから手伝わせて!」
    「内なるダークネスの横暴を止めたいなら、俺達猫好き仲間も力になるぜ」
     紗月に続けて直哉も、力になりに来たと羽猫を見上げて訴える。
    「助けるします……よ。その為に、貴方の体で好き勝手してる方を止めるする、ね」
    「これから俺らはあいつと戦う事になる。でも、危害を加えるのが目的じゃないんだ」
     ところどころ片言な日本語で話すユエファ・レィ(雷鳴翠雨・d02758)を補足する形で、帯刀・伊織(延命冠者・d32708)が告げる。
    「不安かもしれないが俺らに任せちゃもらえないか?」
     これから戦う事になるが、それは闇に乗っ取られた体を取り戻す為なのだと。
    「心配しなくても、任せて戴けたら無事元に戻れますよ」
     念の為にと周囲の様子を確認していた東雲・菜々乃(お散歩大好き・d18427)も、眼鏡の奥の丸い瞳を羽猫に向けて静かに告げる。
     漂う羽猫から敵意は感じられない。説得は順調か、と思われた――だが。
    「ほー。ツシマヤマネコよりそんな軟弱な猫の方が良いってか……!」
     ほぼスルーされてた怪人が、唸るように低い声を上げた。

    ●説得と言う名の猫語り
    「待て! ……戦うなら、その前に話がある」
     敵意を露わにした怪人を、綺堂・ライ(狂獣・d16828)が呼び止める。
    「……なんだ」
     サングラス越しの鋭い眼光を警戒するように怪人は足を止め――。
    「ちょっとだけその腕触らせてくれ! その逞しいツシマヤマネコを魅せてくれ!」
    「――……は?」
     続いた言葉に目を点にした。
     とは言え、流石に素直に触らせてくれる筈もなく。
    「ヤマネコを野良猫と一緒にすんじゃねぇぞ!」
     すぐに我に返ると、力強く地を蹴って灼滅者達に飛びかかる。
    「仲間を攻撃させる、ない」
    「させるか、着ぐるみガード!」
     それを見たユエファが前に出て、直哉は着ぐるみの手から障壁を広げる。
    「そう言う猫グッズもいけねえ。目つき悪くすりゃ良いってもんじゃ――ねえ!」
     右手の爪で直哉のクロネコ着ぐるみを切り裂き、身を翻しユエファを蹴り飛ばす。
    「にゃぅ!? にゃにゃ……っ!?」
    「心を強く持て。あいつの悪さは俺らが止める」
     始まりかけた戦いに動揺したか、右往左往する羽猫を宥めながら、伊織は音を断つ力を広げる。
    「こんな事、お前自身望んでいるわけではなかろ?」
     くるりも羽猫を落ち着かせるように、呼びかける。
    「ツシマヤマネコも都会の野良猫も、みな同じ猫! こうあるべきという決まりはないのだ。人間だってそうぞ? 見た目がこうだからこうあるべき、というのはないのだ」
     先ずは羽猫に――その中の虎雄の理解を得る為に。
    「色々悩みも多かろうが、そんなお前を受け入れてくれる場所は必ずある。良いではないか、でかくて強い男が猫好きなんて!」
     ギャップがあって良いと、くるりは力強く告げる。
    「猫好きと言えないお前の気持ちも、わかるつもりだ。俺も、着ぐるみ好きとしての葛藤に覚えがあるしな」
     ゆっくり起き上がりながら、直哉が続ける。
    「だからこそ力になりたい。お前にはヤマネコを真に愛する心がある筈だ。だから絶対諦めんな!」
    「動物さんを好き言うのは、何かそんなに変な事ですだろ……か?」
     ユエファも首だけ動かし振り向いて、羽猫に声をかける。
    「動物でも食べ物でも人でも、何か好きになれる言うのはステキな事、思います……だから、怪人何かに負けるしないで欲し……ね」
     そこまで言って、斧の力を解放し、守りを固めて怪人の方に向き直る。
    「ボクも猫は大好き。可愛いですし暖かいですし癒されますし……何より一緒に居られるだけで笑顔が溢れるんです」
     前の仲間に優しい風を吹かせながら、紗月も羽猫に声をかける。
    「そうですね。飼い猫だって野良猫だってヤマネコだって良いものです。猫を愛でるだけで大概の悩みはどうでもよくなります」
     その言葉を首肯しながら、晶も羽猫に呼びかける。
    「猫が好きだって良いじゃないですか。私も猫は大好きです。そんなことを隠す必要は無いんです。一緒に猫を愛でましょう!」
    「そうだぜ。猫ちゃんが大好きなのは恥じる必要はねぇ……」
     猫好きをアピールした晶に続けて、ライが羽猫に口を開く。
    「そして……猫ちゃんは自由なもんだ。愛でるのも逞しさを称えるのも自由。それらは全て猫ちゃんが内包するすばらしさだっ!」
     更に力説するライのポケットから、仔猫が顔を覗かせ「にゃー」と一声。
    「……戻ってきたらこのヘカテ、撫でていいぜ? 代わりといっちゃなんだが……撫でていいか? つか……猫喫茶いこうぜ! 俺達となっ!」
     サングラス越しに羽猫を見つめるライの目はきらきらしていて、なんかもうワイルドさとか色々崩れてる気がするけど、いいのかな。
    「ちゃんと猫を可愛がるためには、元の姿に戻らないと」
     ぼんやりと説得を見ていた菜々乃も一言続ける。
    「ボクも、一緒に猫談議がしたいから、連れ戻すのですよ。猫愛に、男性も女性も老若男女も関係ないんですっ!!」
    「まあ要するにだな。私はお前と猫友達になりたい!! だから助けに来た!」
     紗月がびしっと指差し断言し、くるりが自信たっぷりに言った、次の瞬間。
    「にゃっ」
     羽猫が短く鳴くと、尻尾のリングが輝きを放つ。
    「これは……ヒールの力か」
    (「元人格がサーヴァントとして切り離されるっての、今まであんまり見なかった事例だと思うが、上手くいったみたいだな」)
     その光が攻撃ではなく回復の為のものと気付いて、伊織が胸中で安堵する。
     あとは、ダークネスを叩くのみだ。

    ●肉球の脅威
    「……来ますよ、肉球が」
     怪人の右手に光る肉球をじとーっと見て、菜々乃が小さく呟く。
     思わず表情を変える灼滅者達。
     殲術道具すら削る爪以上に、あの肉球は危険だ。
    「オォォォラオラオラオラァ!」
     そんな警戒を意に介さず、怪人は地を蹴って飛びかかると雄叫びと共に右腕を連続で振り下ろす。
     高速猫パンチ、もとい必殺の光の肉球ラッシュが、オーラを纏った菜々乃の拳を弾いて叩き伏せた。
    「……攻撃だと接触が一瞬なのが、勿体無いですね」
     ぽつりと言いながら身を起こす菜々乃の視線は、やはり肉球に。
    「肉球、柔らか。でも当たる事、痛いです」
     何度も叩かれたその感触を思い出しながら、ユエファは薙刀の形状も併せ持つ銀の斧を振り下ろす。銀光が雷の様に閃き、怪人を斬り裂いた。
    「いっそ、挟まれてみたくなるな!」
     そう言いながらくるりが放った帯は怪人の動きを学習し、避け難い軌道を描いて怪人を撃ち抜いた。
    「痛くないなら大歓迎だったのに……」
     本気で残念そうに呟きながら、紗月は矢を番える。
     機械仕掛けの弓から放たれた矢は、仲間の傷を癒して感覚を研ぎ澄まさせる。
     そこに伊織も纏うオーラを癒しに変えて重ねる。
     そう、肉球はとても危険だった。

     回復に2人要する威力以上に――誘惑的な意味で。

     だが肉球に誘惑されない者もいる。
    「ところで、みんな肉球は良く口にしますが猫の最大の魅力は尻尾だと思うのですが。貴方はどうです?」
     そんな晶の声が響いたのは、怪人の背後。
     右手に闇夜のような黝い刀身の肉喰を、左手に真白き刀身の魂結を構えて。
    「どっちでもねえ! 猫に必要なのは狩猟――っ!?」
     怪人の答えを遮って、晶は左右二刀の小太刀を振り上げた。
     陰陽を描くように閃いた色の違う刃に、手足を切られぐらりと膝をつく怪人。
     それとは対照的に、灼滅者達は紗月と伊織が回復を絶やさなかった事で、消耗を最小限に抑えていた。
    「なー! うにゃー!」
     更に羽猫のリングから放たれる光も、灼滅者達の傷を癒していた。
    「くそっ……まだだ。ツシマヤマネコが、負ける筈がねえんだ!」
    「貴方が心から猫を好きだと言うなら、押し付けるだけじゃなく猫さんの言葉も聞いてあげてくださいっ。猫さん達はボク達の隣に居てくれる友人なのですから」
     戦いを諦めない怪人に、紗月はその周囲の熱を魔術で奪いながら呼びかける。そこに人間の意識はないとしても。
    「もう攻撃する、ない」
    「っ!?」
     怪人の体を、ユエファが撃ち込んだ制約の魔力が縛る。
     制約は一瞬の事。しかし、その隙に肉薄した晶の小太刀が、凍った爪を斬り砕いた。
    「本人が見てる前で体をボコスコ殴るのも気が引けるんだけどな……この際仕方ない」
     伊織は小さく溜息を吐いて、鞘から刀を抜き放つ。
     当の本人たる羽猫は気にしていないようだし、何よりこれが学園に来てからの初仕事。遅れを取るわけにはいかない。
     伊織は素早く怪人の背後に回り込み、その足を斬り裂いた。
    「着ぐるみフレイムソード!」
     体内から生じた炎を纏った直哉の剣が怪人を焼き切り、ライのガトリングガンから放たれた弾丸が爆炎に包み込む。
    「なんとしても目を醒まさせてやらねばな。猫好きに悪いやつはいない」
    「それは同感ですね」
     炎の中に膝を付く怪人にくるりがビームを放ち、それを追う形で飛び込んだ菜々乃が鬼の拳を叩きつける。
    「がはっ」
     吹き飛ばされて倒れた怪人の右腕が、人のそれに戻っていく。
     そして。
    「にゃーん♪」
     どこか嬉しそうな鳴き声を残し、羽猫の姿も消えていった。

    ●そして猫好きがまた1人
    「すんませんっしたぁ!」
     目を覚まし灼滅者達から事のあらましを聞いた虎雄は、まだ話の途中で、がばっと真っ直ぐに頭を下げてきた。
     済んだ事だと宥めて、灼滅者達は学園について話を続ける。
    「……東京っすか」
    「大丈夫、ボクも田舎から上京して、何とかやれてます」
    「私、日本人、違うです。でも東京、怖い、ない」
     東京と聞いて尻込みする虎雄を励ますように、紗月とユエファがそれぞれの身の上を伝える。
    「学園へ来い! お前の力は全ての猫が幸せになるため必要だ!」
     虎雄の肩をぽんと叩いて、有無を言わせぬ調子で学園に誘うくるり。
    「私達にツシマヤマネコの話をしてくれ! 直に見たことはないのだ、かわいかっこ良いのだろう!?」
     全ての猫は無条件で幸せであれ――そんな理想を持つくるりは、ツシマヤマネコも守備範囲内。
    「そ、そりゃあ、か、かかわ……」
     可愛いと言えず、言葉に詰まる虎雄。まだその辺りの抵抗が、完全に消えたわけではないのだろう。
    「分かるぜ、硬派だからと猫好き、可愛いと言えないお前の気持ち」
     今度は直哉が、虎雄の肩に手を置いて。
    「だがな、ヤマネコもイエネコも、それぞれの猫生を精一杯生きているからこそ輝いているんだ。お前が真の猫好きであるなら、猫好きと胸を張って言える男になれ」
     ニヤリと笑い、それがヒーロってもんだろ、とサムズアップ。
    「まあ、今まで猫さんの事でお話しする機会なかったのでしょう。学園ならそんな機会もたくさんありますよ」
     戸惑う虎雄の下から菜々乃が差し出した猫の写真集に、虎雄の目は一瞬釘付けに。
    「その……うちの学園は俺みたいに猫好きは大勢いる。下らねぇ事を言う奴もいねぇし、機会があれば猫ちゃんのパラダイスにもいけるぜ」
     虎雄に妙に通じるものを感じながら、ライも学園に来るのを勧めた。
    「ま……その前に……皆で猫喫茶で打ち上げだっ!」
     羽猫を撫でられなかった鬱憤を晴らす様にライが言って、ポケットの仔猫も「にゃー」と一声鳴いたのだが。
    「……猫喫茶って、飼い猫の持ち込みダメじゃないっすかね?」
     その仔猫を指で撫でながら、おずおずと告げた虎雄の言葉に、固まるライ。
    「詳しいですね?」
    「あ、いや、ちち違うっすよ? 気になって調べてたけど、結局1人じゃ猫喫茶に行けてねえとかじゃねえっす!」
     晶がちょっと突っ込めば、慌てて色々と口走る虎雄。
     これには黙って様子を見ていた伊織も含めて、全員が顔を見合わせ苦笑する。
     間違いない。こいつ、ヤマネコに限らず相当の猫好きだ。
    「わ、わかった。その東京の学園。行かせて貰うっす」
     そんな灼滅者達の内心を知ってか知らずか。
     虎雄は赤くなった顔を隠すかのように、またがばっと頭を下げたのだった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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