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町中をよろりと少女が一人。名前を鍋島・忍乃(なべしま・しの)という。彼女の装いは何かから逃げてきてきたように乱れており、全体的に少しやつれているようにも見える。そんな彼女がこの街で最初に目にした人間はコンビニから出てくる、同世代くらいの女子学生だった。
ごくり、と彼女の喉が鳴った。彼女らの後ろから音もなく近づいていく。それは彼女がヴァンパイアとしての本能、つまり生き血を貪ろうとしたためだ。
その時だ、彼女の額をぺしりと叩く何かが現れた。
「なんだ、猫か」
意にも介さずに忍乃はその猫ーー翼が生えていたりするがーーを脇においやろうとする。無論、猫もそうさせまいと努力をするが所詮猫の手である。このままでは彼女たちの命は無い。
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「そんな事件が起きそうなんだ」
有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)曰く。
「とりあえず、彼女、鍋島・忍乃さんの家族が闇堕ちしてヴァンパイアになって引きずられるようにして彼女もヴァンパイアに」
「なりそうになっている?」
「うぃうぃ、そんな感じなんだ。それでヴァンパイアとしての衝動を満たすと完全に闇堕ちしちゃうんだけど。それを防ごうとしてる子がいるの」
「それが猫?」
「そう、しかもこの猫の中には忍乃さんの心があるんだ。もちろん止めようとしてるんだけど、この子だけじゃ忍乃さんの体の方は止められないんだ」
「それで灼滅者の出番というわけか」
「うん、そういう事。それで気をつけてほしいことが一つあるんだ」
「何?」
「猫の方にいる忍乃さんもきちんと説得して欲しいんだ。彼女の体を攻撃しないと止まらないから誤解されるとまずいし。もちろん体の方が人を襲わないようにするのもしないと助けられないけど」
「両方ともやらないと助けられない訳か」
「日時は朝方の住宅街近くにあるコンビニの前だよ。あんまり戦いに適した場所じゃないから、となりの公園とかに誘導できるといいかも。囮になって先にこっちに意識を向けさせることも出来るよ」
「戦いに適した場所じゃないっていうのは……」
「ほら壊れやすいものが多いし、あとちょっと人通りが多いから」
「なるほどね」
「戦闘能力はダンピールとリングスラッシャーのサイキックを使ってくるよ」
「遠近攻防のバランスがいいと」
「そんな感じだね。考えることは多いけど、みんなならきっと大丈夫、それじゃ行ってらっしゃい!」
参加者 | |
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瑠璃垣・恢(音楽探偵・d03192) |
アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765) |
パメラ・ウィーラー(シルキーフラウ・d06196) |
聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863) |
ナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478) |
驪龍院・霞燐(黒龍の神子・d31611) |
エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136) |
人首・ククル(塵壊・d32171) |
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とある公園、冬の朝の風はその場にいる者達を平等に撫でる。その寒さの中、驪龍院・霞燐(黒龍の神子・d31611)と人首・ククル(塵壊・d32171)は待っていた。待ち人は闇堕ちに抗う娘、鍋島・忍乃。
(「ヴァンパイアですか……」)
霞燐は赤の瞳を細めて内心で呟いた。ダンピールの人造灼滅者である彼女故に思い当たる事があるのだろう。救出対象のもう一つの可能性、猫の存在を考えているのはククルの方である。スーツに身を包み指先すらも肌の露出を抑えて考え事をしている姿は、怪しいという形容詞が似合う。もっとも彼もまた彼女を助けようとしている一人である。
(「……サーヴァントですか。発現した己の心情……でしたか?」)
サーヴァントは灼滅者の潜在能力が具現化したものと言われている、その中には主人の心情が発言してなるものがあるという。
二人は思考をしながらも視線をコンビニエンスストアの方へと向ける、そこにはナハトムジーク・フィルツェーン(黎明の道化師・d12478)と瑠璃垣・恢(音楽探偵・d03192)の姿がある。建物を挟んだ反対側にはパメラ・ウィーラー(シルキーフラウ・d06196)の姿もある。彼らは三様に時間を潰しているように振る舞ってはいるが、実のところ注意を周りに払っている。彼らが道行く人を見送って数分、食欲にも似た殺意の視線を感じ取る。気取られぬ様に意識を向ければ猫の悲鳴にも似た声も聴こえる。
彼らが目配せをして公園の方の者達に伝える、他方囮として彼女の視界の前にアリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)、エメラル・フェプラス(エクスペンダブルズ・d32136)聖刀・忍魔(雨が滴る黒き正義・d11863)の3人が入る。
「朝だから冷えるね……」
忍魔の何気ない日常の会話が白く凍る。もちろんそう言った会話も声を出すことで視線をこちらに引きつける術。アリスも適当に合わせながら後ろについてくる忍乃に注意を向ける、彼女の更にその向こうには本来の被害者となっていたであろう少女たちとパメラが接触しているのを見て取る。これで余計な被害者が出るのは避けられるだろう。
「ちょっと休んでいこうよ! こっちに静かなとこあるの!」
エメラルが二人に話しかけて裾を引く、もちろん努めて無防備に振る舞いながら。加えてスレイヤーカードに力を収めている限り疑われることは無いだろう。忍乃と彼女の分身である猫は彼女らを追って公園へと足を踏み入れていく。
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「………」
「にゃ、にゃにゃにゃ……?」
3人の灼滅者を追っていた忍乃とそれを制していた猫が辺りの雰囲気の変化に気づいた。空間そのものはなんてことのないただの公園である。彼らがその違和感の正体を確かめるよりも早く前方を歩いていた3人が振り返り、何処からか他の5人も現れて、1人と1匹を取り囲む。
「忍乃さん、助けに来ました」
「にゃっ?」
「………」
「本能に抗うのはさぞ辛かったことでしょう。もう大丈夫ですよ、ご安心を」
霞燐とククルが彼女らに語りかける。猫は窺うように、身体の方は剣呑な眼差しを灼滅者たちに向ける。
「その猫に、忍乃はいるのか……?」
「にゃ、にゃあー……」
忍魔の問いに猫はうなずきつつ首をかしげた。おそらくは少なからずその要素があるのだろう。そんな会話をしている間にも身体の方は赤い輪を手のひらに浮かべて邪魔者をか付けようと戦闘態勢を取る。それに応じて灼滅者達も武器を手にして恢とアリスが一歩踏み込む
「鍋島、少々過激になるが、きみの肉体を止めさせてもらう」
「忍乃さんのお体をお止めする為に、少し手荒な事になってしまいますけど、必ず助けますから、どうか私達を信じて下さい」
「にゃにゃあー……?」
「心配しないで~。必ず、身体の方も私たちが助けますから」
明らかに訝しむ猫をパメラがそっと抱き寄せる。そのやりとりを見てナハトムジークが猫に話しかける。
「アレが気絶するまでキミの意思がハッキリとしていればアレもキミも助かる。私は信じてくれとは言わんが諦めてはくれるなよ」
銃剣を手に踊るような足取りで彼は歩き出す。同時に体の持つ殺気は一気に高まり、それに応じてか猫の毛並みも逆立つ。目は見開きながらも何かに耐えるように震えている。
「にゃにゃにゃ……!」
その猫の額をさらりとエメラルが撫でた。
「大丈夫だよ! 絶対元に戻してあげるから、信じてほしいな!」
彼女はその背に欠けた羽を広げて立ち向かう。灼滅者は相手を見る、その全てを救うために。
「ミュージック、スタート」
そして恢を先頭に灼滅者たちは駈け出した。
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「それ以上進めば取り返しがつかなくなる。きみは血を啜り影に生きるだけの日々に飛び込みたいか?」
真っ先に駆け抜ける恢、携えた影のレイピアを突き出した一撃は相手の足を微かに抉る。
「……そうじゃないはずだろう。抗え。暴れたっていい。俺たちが必ず止めて、助けてやる」
即座に反撃に備えてステップを踏めば目標を定めた鋭い輪が脇を通り過ぎて行く。赤き輪が宙を走りパメラの腕を裂く。守りに徹していたためかダメージそのものは大きくはないが、巻き上がった血煙が派手に広がる。
「にゃっ!?」
驚いた猫がするりと彼女の腕の中から抜けだして慌てる、が、その視線は今流された赤い血に注がれている。
「その誘惑に抗ってください! その強さを貴女は持っているはずです!」
「にゃっ!?」
本人も気づいていなかったのだろう、霞燐の言葉にピンとしっぽを立てて動きを止める。
「吸血猫なんてC級映画にもなりそうに無いね、見たいかい?」
「にゃにゃにゃ」
相手から目をそらさずにナハトムジークは軽口を叩く。猫は首を横に全力で振る。その様子も見ずにナハトムジークは身体の方に白兵戦を挑む。無論相手はダークネスである、格上の相手で簡単にはそれを通さない。小さく連ねられた赤き輪が鎖のようになり彼の攻撃を阻む。
「……その体、忍乃に返してもらうよ」
その鎖の死角、つまり上方から忍魔が炎を帯びた蹴りで飛び込んでくる。当たればただ事にならないその一撃を間際で避けて、赤いオーラの十字を忍魔に叩きつける。
「負け……るかぁっ!!」
振り向きざまに彼女の放った攻撃もまた空を切る。精神に至るダメージのせいか。
「忍乃さん、どうか闇に負けてしまわないで、ここで闇に負けてしまったら、戻れなくなってしまいます!」
アリスは自らスートを具現化させて攻め立てるがいまいち攻め切れない。与える攻撃の一つ一つが命中すれば効果が大きいものの、それに至るまでに時間を要してしまう。そして相手はその時間があれば態勢を整え直すことができる。
「このままでは……」
攻撃は得意ではないとククル自身は考えている。それ故に防御役に回ったのだが、相手の回復量がこちらの攻撃で与えるダメージを超えてしまっている。回復できないほどのダメージを与えれば問題ないのだが、それ以上に相手が手強い。どんな威力の攻撃も、戦況を変化させる効果も、当てることを失念していては厳しい戦いになってしまうだろう。
「なるべく痛くしませんから~」
パメラとエメラルが仲間の傷を癒していく。その幾らかは相手に活力を奪われてしまったせいだ。攻撃と回復を同時に行える相手は、こと長丁場において危険な相手だ。
「忍乃さん、どうか闇に負けてしまわないで、ここで闇に負けてしまったら、戻れなくなってしまいます!」
アリスが呼びかける。相手の身体が返り血で赤く染まる度に猫の呻きが弱気なものとなっていく、この状況を覆すためにはなにか劇的な変化がなければ難しい。少しずつ余裕を失っていく灼滅者達。そんな中エメラルがふわりと険しくなっていく猫に笑いかけた。
「大丈夫だからね。ボクでもこうして、人の心で生きてるんだから。鍋島も絶対、助かるからね!」
彼女に取ってはいつもどおりの笑顔と当たり前の言葉。それを耳にした猫はピンと自らの身体を見据えた。
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猫が霞燐とエメラルの間で自らの身体を狙い定める。猫が一鳴きすれば、放たれた猫の魔法が対象を捉える。
「にゃあっ!」
猫魔法は相手の身体の動きを阻害し隙を生み出した。このまたとないチャンスに灼滅者達は一気に躍りかかった。反撃をしようと輪を握るが精彩が欠けている。
「あなたの心は、『そんなことしたくない』って言っていますよ~」
瞳から少しばかり輝きを消したパメラが影を走らせて更に動きを封じる。
「どうやら彼女もそっちを選んだみたいだし、君ももうそろそろ落ち着いてよ」
ナハトムジークは身を翻しながら飛び蹴りを放つ、怒涛の連撃でついに相手の膝が笑い始める。
「今まで凌げたのは貴方の努力の賜物。後は私達にお任せを。貴方の健闘は、決して無駄には致しません。すぐいつも通りの貴方に、鍋島さんに、戻りますからね」
ククルは後ろに控える猫に振り向かずに語りかけながら縛霊手を構える。
「……その身を侵す意識、打ち払って差し上げますから」
その身体を捉えられる事、三度。もはや防御だけではなく攻撃にも影響が出始めてきている。その隙を逃がすまいと恢が肉薄する、彼の両腕には影のような闘気が纏っている。
「すぐに救い出す。――多少手荒になるけど」
そして放たれた雨のような拳の連打は相手をたじろがせるには十分な威力だ。
「必ず助けます!」
霞燐の持つ漆黒龍の加護のある武器の一つ、龍爪が唸りを唸りを上げる。それを以って斬りかかれば纏っていた赤き輪の守りごと相手を切り裂いていく。動きを止められ、守りを失う彼女はなお戦おうと7つの輪を放ち周囲を切りつける。
「心を無視したら、傷ついちゃうよ? 鍋島は、まだ、今も、これからも、人なんだから。ダークネスは寝ていてね」
即座にエメラルが方陣を呼び出し前衛をフォローする。前衛の傷は深くなってきてはいるが、護り手が多い分致命打には遠い。
「手荒になってすみませんけど、止めさせて頂きますっ」
アリスのスート・ザ・ロッドが色と形を変えて相手を打てば、その動きそのものに停止の効果を与える。動きの止まった相手に忍魔が虎杖を振りかぶる。
「その猫は忍乃の心……こいつの希望に応えるのが務めだ!!」
全力で踏み込み横薙ぎに払われた一撃は相手を吹き飛ばし、決着の一撃となった。
「………!」
そしてダークネスの気配は収まっていく。
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決着のついた直後、パメラが声を上げる。
「……猫さん消えてしまいましたね~……」
「どのような心の現れだったのか。いやはや、なかなかに興味深いですねぇ」
ククルは頭を捻る。そんな彼を見てナハトムジークは視線を別の方へと向ける。
「面白いのはいいけどさ、あっちも見ておかない?」
そちらの方には忍乃を何人かが取り囲んでいた。霞燐は彼女の顔を心配そうに見ている。だがそれもつかの間、かすかな声と共に彼女の瞳がうっすらと開いていく。
「ん……、誰……?」
「お帰り……」
意識を取りもどした彼女を見て忍魔がぽつりと言う。心なしか彼女の隣のエメラルの笑顔も晴れやかだ。
「私、どうしてこんなところに……」
「……私達、実は灼滅者なんです」
「しゃく、めつ……? えーと……」
目覚めた忍乃にアリスが説明を始めようとするが、どうもまだ彼女は定まっていないようであり。
「……詳しい話は歩きながらにしよう」
恢がまるでいつもの仕事のような口調でフォローする。とりあえずこの場の灼滅者達は歩き出す。
かくて彼らは公園を後にした。新たな灼滅者を1人加えて。
作者:西灰三 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年2月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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