タタリガミの学園~孤独な少年

    作者:森下映

    「やれやれ……」
     夜の学校。校舎に入ってすぐの場所にある定礎石の前で、制服姿の少年がタブレットを手に溜息をついている。
    「文句言わずにさっさとやりなよ! こっちだってこんな誰もコロせないような裏方仕事、ホントはまっぴらなんだからね! あーー退屈う」
     壁にギターを立てかけ、自分もだらっと寄りかかっているTシャツ姿の女子が、やる気なさそうにあくびをした。TシャツにはHKTの文字。
    「はいはい……」
     少年は生返事をし、自分の姿によく似た――顔には口しかないところも同じ――な『少年』を生み出すと、
    「じゃ、夜になったら音楽室でピアノを弾いててね……」
     『少年』は楽譜を手に、校舎の奥へ消えていった。

    「みんな集まってくれてありがとう! 九州の学校で発生していた七不思議の都市伝説について、重大な情報が得られたんだ!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)の説明によると、武蔵坂学園以外の灼滅者組織の灼滅者が九州のダークネス組織に拉致され、闇堕ちさせられて利用されている、とのこと。そして現在も闇堕ちさせられた灼滅者たちが、九州の学校で都市伝説を生み出し続けているようだ。
    「この状態を放置することはできないよね。そこでみんなには、彼らが都市伝説を生み出すために九州の学校へと出向いてきたところを襲撃して、救出する作戦をお願いしたいんだ」
     闇堕ちした少年と護衛のダークネスは今回、夜中に佐賀県の中学校に出向いてくるので、そこを学校の正面玄関前で待ちぶせし、接触することになる。
     門から正面玄関まではグラウンドを迂回するように道がある。グラウンドの正面玄関近くには植え込みや倉庫があるので、物陰等で身を潜めていれば、正面玄関に到着する前に発見されることはないだろう。周囲は住宅街だがその分街灯の明るさがあり、グラウンドは戦闘に十分な広さがある。
     護衛のダークネスはHKTの六六六人衆、1人。殺人鬼とバイオレンスギター相当のサイキックを使い、ポジションはクラッシャー。
     闇堕ちした少年は神薙使いと魔導書相当のサイキックを使い、ポジションはジャマー。都市伝説の『少年』よりずっと強いが、うまく説得できれば攻撃を鈍らせることができる。闇堕ちする前は『水馬(みずま)・ネイ』という中学1年生の少年だった。
    「無理矢理闇堕ちさせられた灼滅者については、自分たちが救出に来た灼滅者であることを訴えて、信じてもらったうえで撃破すれば救出することができると思うよ! よろしくね!」


    参加者
    置始・瑞樹(殞籠・d00403)
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    今給黎・有杜(アット・d04917)
    空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)
    赤阪・楓(死線の斜め上・d27333)

    ■リプレイ


    「アーたるーい」
    「ミヨコさん、声大きいよ」
    「ア? 文句あんの?」
    「別に……」
    (「闇堕ちを強制するなんて……許せません」)
     近づいてくる声をききながら詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)は、唇を引き締めた。闇堕ちは彼女の過去から恐怖と怒りを用意に抉り出す。それが強制であるなら尚更。
    (「必ず、救出します」)
     妹を漆黒の闇と深紅の凶器から取り戻した時のように。
    「じゃ、たたっ壊して、と」
     ミヨコと呼ばれた少女が校舎の扉に向かい真っ黄色のギターを振り上げる。と、その時。
    「よう、少年。助けに来たぜ?」
     ビハインドの里絵子とともに、倉庫の屋根から今給黎・有杜(アット・d04917)が飛び降りた。続き、鮮やかな空色のスケートボードが飛び、空を切って回転する。
    「水馬ネイ……だったか?」
     空色のベストの薄い生地をふわりなびかせ、着地。空飛・空牙(影蝕の咎空・d05202)が言った。
    「俺らが人間に戻してやんぜ?」
    「あっれーなんかきちゃった」
     ミヨコが言う。ネイは、
    「……誰?」
    「あーコイツラはね」
    「俺たち?」
     有杜はミヨコを遮り、
    「そこの小娘の敵で、お前の味方だ」
    「そう、ボクらは敵じゃない。灼滅者の組織の者だよ」
     幾重にも重なる黒いフリルの裾から伸びたタイツの脚。ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)が降り立った。ツインテールの銀髪が足元まで届きそうに流れる。
    「キミを救いに来たんだ」
    「はじめまして、君も灼滅者だよね。――デッドラインは、乗り越えない」
     同人少年らしい言葉でスレイヤーカードを解放。赤阪・楓(死線の斜め上・d27333)は、風をおろしてみせると、
    「僕もこうして風を操れるところは、一緒」
    「私達は七不思議使い達が闇堕ちを強制され、利用されていると聞いて助けに来ました」
     沙月が言った。
    「よーするに、」
     今度はミヨコが沙月を遮る。
    「ジャマしにきたんだ」
    「水馬」
     ミヨコに構わず、置始・瑞樹(殞籠・d00403)が言った。
    「無理矢理闇堕ちさせられた上、自分の意思にそぐわないことをさせられているのではないでしょうか?」
    「あのさーコイツはもうシャクメツなんとかじゃ」
    「黙っていて下さい」
    「!」
     割り込んでこようとしたミヨコとの間に、瑞樹の月光天から淡緑色のシールドが展開される。オオミズアオの形を模したその障壁は、静かに、しかし確固たる輝きをもって瑞樹の手の甲に止まる。
    「貴方の希望を私に託して」
     ――私を縛って休め。セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)も封印を解除し、
    「元灼滅者、つまりは一時は制御できていたという事だろう?」
     紫色の毛並みの中に光る藍色の瞳で、鋭くネイを見据えた。
    「であればまだ希望はある。それともこのままダークネスにこき使われて悪しき都市伝説を実体化させ続ける……それで満足か?」
     言いながらセレスは初撃に備え、瞳にバベルの鎖を集中させる。
    「僕は、君たちとは関係ない、」
    「そんなことありません」
     『常儀』の形に現れた光の盾が、止めに払いに残像をひくように広がり、前衛を包んだ。
    「先輩は一人じゃありません。使われるだけの道具でもありません」
     相棒の糊と一緒に、常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)がネイの前に立つ。
    「僕達灼滅者の仲間です」
     初めからネイを救うことしか考えなかった文具の気持ちはどこまでも真っ直ぐ。何があっても絶対に助けたい。一緒に笑い合ったり、楽しんだりしたい。
    「先輩、一緒に帰りましょう」
     文具が言った。だがネイは首を横に振る。
    「僕は……僕たちは、」
    「あなたの仲間も、私達の仲間達が救出に向かっています」
     沙月の言葉にネイがはっと顔をあげた。瑞樹も頷き、
    「共に同じ灼滅者として、だ」
    「というわけだ。まぁ、なるようになるさ」
     空牙はけらけらと笑いながら、
    「無理やりそんなにされて意味わかんねぇだろ? 理不尽だろ? 腹立つだろ?」
     ネイに近づく。そして、ネイの顔を下から覗き込むと、
    「なら、抗え」
    「!」
    「そうすりゃ俺らがどうにかしてやる」
    「ちょっと勝手に話進めないでくれる? こっちにはこっちのツゴーが」
    「もちろん」
    「っ!」
     一瞬のやりとりだった。跳躍、ミヨコの後ろに回りこんだミルドレッドが赤い薔薇巻きつく白銀の大鎌を振り下ろす。気づいたミヨコはギターを回転、身体を返して防ごうとした。が、早かったのはミルドレッド。鎌はミヨコの頬を裂き、趣味の悪いTシャツの肩へ突き刺さる。 
    「このガキ!」
     再び向かってきたギターを後ろへワンステップで避け、ミルドレッドはくすっと笑うと、
    「キミも退屈はさせないよ。……殺し合おう?」
    「……なーる?」
     前に瑞樹。その後ろ魔術文字の刻まれた木槍を構えたセレス。腕の下をくぐらせるようにカタール型のガンナイフ、Azur tuskで狙いをつけている空牙。ミヨコは順に灼滅者たちを見回し、笑った。
    「闇堕ちしても、こうやって助けに来てくれる仲間がいる」
     有杜もスレイヤーカードを指に携え、
    「少年。お前は、ひとりじゃねえんだよ。さあて、『スケッチ』するぜ?」
     解除とともに有杜の片手にパレットナイフが握られる。そして影の中からは首に指輪を揺らして鳥が飛び立ち、兎がマントを翻し、蝶ネクタイをつけた猫が会釈をした。
    「本当は都市伝説を作り出すのは嫌なのですよね? 本来、彼らは宿敵なのですから」
     沙月は藍色の和服の袂から掲げた片腕を変化させる。本当は目を背けたい鬼の腕。けれど。
    「一人でその闇から抜け出せないのなら、私達が手を差し伸べます」
    「ね、無事この窮地を脱せたら、君の……君自身の話を聞かせてよ」
     黄色へ標識をスタイルチェンジし、楓はネイに笑いかけた。
    「誰かにああしろ、こうしろって言われて作った物語じゃ、なんか少し悲しいよ」
     楓の掲げた黄色標識が前衛へ耐性をつける。七不思議使いときいた時から気になっていた、創作好きの楓だからこそ思う。本当の彼が生み出す七不思議は、彼の想いの賜物に違いないと。
    (「また伸び伸びと、彼が想像の翼をはためかせられるように」)
     それにはまず自分たちのできることをやらなければ。楓は手の中に護符を現し、外角へ位置をとった。
    「里絵子、小娘が逃げねえ様に回り込め」
     有杜が言った。頷き、里絵子が背後に回る。ミヨコは、
    「……まあ、いっか。えっと1、2、」
     灼滅者たちの数を数え、
    「犬と幽霊みたいなののぞけば8人ね。2、3人殺せばどっかいくでしょ。こっちも2人いるんだし」
    「え」
     ネイがびくりとした。
    「僕も……?」
    「あったりまえでしょ」
     目の前の文具へ、ネイが顔を向けた。気持ちを察した文具は、
    「絶対に、助けます」
     力強く言う。
    「お前、自分1人じゃ人間1匹も殺せねえのかよ」
     有杜がミヨコへ嘲笑を向け、
    「そういうことか。ヘタレ666に改名した方がよくないか?」
     セレスが言った。
    「ハ?」
     ミヨコの眉の端が上がる。
    「水馬ネイ!」
     ミヨコを無視して、有杜が叫んだ。
    「俺たちに全部預けな。まるっと人間に戻してやっからよ!」
    「……人間、に?」
    「さっき言ったろ? どうにかしてやるって」
     笑いながら空牙がギターのネックを指で押さえる。
    「ボクたちが、元に戻してあげるよ」
     優しく、ミルドレッドも言った。
    「そんじゃ……」
     空牙の指がギターの弦にかかり、
    「狩らせてもらうぜ?」
    「全力で行くぜ!!」
     かき鳴らされた激しい音をバックに、有杜の足元から影の猫が走りだした。


    「イッ!」
     空牙のギターの音波がミヨコを直撃。さらに、
    「テラー、捕まえて」
     有杜の影猫が牙をむいて襲いかかった。
    「っ! ネイ、これ何とかして!」
    「あ、はい……」
     凄まれ、ネイはしぶしぶタブレットをスワイプする。風が起こり、ミヨコに噛みついていた影の猫が吹き飛ばされた。
    「ソーソー。やればできるじゃ、……!」
     ギターを持ち上げたミヨコの前に、石膏で覆われた里絵子の顔が現れる。その石膏がどろりと溶けると同時、ミヨコは寒気に身体を震わせた。
    「くそっ」
     トラウマを薙ぎ払おうとするようにミヨコがギターを振り回す。その隙を逃さず、凄まじい勢いと鬼の力をもって沙月が腕を振り下ろした。骨と身が砕ける音がし、黄色いTシャツが赤に染まる。
    「ザけんな!」
     ミヨコはギターを滑らせてネックの先を掴むと、まだ間合いにいる沙月の頭を殴りつけようとした。銀糸の前髪の下から青い瞳がギターの黄色を見上げ、避けきれないとみた沙月はそのまま鬼の腕で防御を狙う。
    「砕いてやるよ!」
     振り下ろされる黄色いギター。瞬間、
    「抜けてください、詩夜」
     砕けたのは透き通るオオミズアオの羽根。ギターは月光天の障壁の端を破り、瑞樹の上半身へ届いた。その間に沙月は雪花散る和服の裾をさばいて駆け抜ける。
    「ガマンきくじゃん!」
     胸から腹へ殴打を受け、回復が難しいほどに半身を損傷しても眉ひとつ動かさない瑞樹の顎下へギターの底を乱暴にあて、ミヨコが言った。
    「ネイ! 今のうち、」
    「それで終わりですか」
    「ア?」
    「攻撃は終わりかと聞いています」
    「!」
     障壁の輝きが凝縮された。殺気への反応は六六六人衆だけあり、ミヨコは瞬時にギターを瑞樹の顎から離し、片足で後ろへ飛び抜けようとする。が、大柄な体格相応の長さを持った瑞樹の腕がミヨコを追いかける。
    「い……っ!」
     障壁がミヨコの横面を張り飛ばした。怒りに目を燃え上がらせながらも、飛ばされる勢いに即座の反撃は叶わない。
    「やらせません!」
     風をおろし、瑞樹へ向かわせようとしたネイの前には文具が両手を広げて立ちはだかる。糊もぐっと前脚をふんばった。
    「早くしなよっ!」
     地面に叩きつけられたミヨコが叫ぶ。うつむき、ネイが風の刃を放った。風は激しく回転しながら瑞樹を追う。が、射線に糊がジャンプ、
    「あっ」
     糊の毛並みが斬り裂かれた。ネイが思わず声を上げる。
    「糊!」
    「大丈夫! すぐ回復するよ!」
     文具の心配そうな声に答え、楓が糊へ護符を飛ばした。
    「もー役にたたな……ぎゃっ!」
    「役に立たないのは自分のほうではないのか、ヘタレ666」
     起き上がろうとしたミヨコの背中へ、セレスがツグルンデの妖気から創りだした氷弾がダン! ︎と突き刺さる。身を凍らせながらも、なんとか立ち上がったミヨコだったが、背面、
    「さすがしぶといね。でも」
    「?!︎」
    「殺しの技ならボクも負けるつもりはないよ?」
     白銀の剣を顔の前、真横に構えてミルドレッドが言った。振り向きざまミヨコがミルドレッドの足元へ斬撃を放つ。ミルドレッドはそれを避け、跳んだ。
    「かかったね、バーカ!」
     ミヨコはネックを落とし、ギターのボディを振り上げる。
    「どうかな?」
     ミルドレッドが空中で首を傾げてみせた。
    「?!」
     長い滞空。気をとられた刹那Tシャツの背中が沙月の放った風の刃に斬りつけられる。そして前へ体勢が揺らいだ瞬間今度は近接、ミルドレッドが身体中を切り裂いた。
    「君は、」
     ネイが文具の光盾を指さす。
    「殴らないの」
     文具は首を横に振った。そして常儀の文字をいくつも重ねて映し出すと、1つずつ仲間へ盾として送り、
    「ところで先輩は、どんな学校にいたんですか?」
     笑顔でネイに問い返す。
    「え」
    「学校、楽しかったですか」
    「なんで、そんな」
    「また、行きましょうよ。僕たちと」
    「そして友人になりましょう?」
     沙月も言った。
    「サイアク! ネイ、回復!」
    「ネイ」
     ミルドレッドがミヨコを遮り、語りかける。
    「いつまでもこんな奴らに使われてないで、自分を取り戻して」
    「自分……」
    「早く!」
     ミヨコが叫んだ。が、ネイは動かない。そして、
    「僕は……」
     がくんとその場に膝をついた。
    「っ、こうなったら、」
     奏でたメロディで塞げるだけの傷を塞ぎ、興奮を沈めてミヨコが駆け出す。が、
    「悪いが嬢ちゃん……逃がさねぇよ?」 
     空牙の青いアームガードの中にある弾倉から充填された弾丸が発射された。弾丸はミヨコの足元を追いかける。追いついた弾丸はミヨコの足首を貫通。転んだミヨコをセレスは冷たく見つめ、
    「折角殺せる相手がいるというのに逃げるのか。やはりヘタレ、」
    「黙れ!」
     ミヨコのピックが轟音を鳴らした。セレスは手にした蒼色のマインゴーシュ、エアリアルの先を空へ向ける。
    「!」
     セレスを砕くはずだった音の衝撃は頭上、ナイフの先に突き裂かれ、消滅した。


    「頼んだよ!」
     戦う気のないネイを、文具は万が一に備え糊に守らせる。そして押し寄せるどす黒い殺気にも怯まず算盤《滑空具足》の珠を滑らせて前線へ駆け出ると、瑞樹、里絵子とともに壁を作った。片翼となった瑞樹の盾はミヨコの攻撃力の高さを現していたが、灼滅者たちもひかず、戦闘は続いている。
    「お前はここで狩り殺す……!」
    「おい空牙待てっ、傷が、」
     有杜の回復を待たず、『獲物』へ空牙が殺気に任せて仕掛ける。飛び上がるVent de dos。しかしいち早くミヨコのギターのボディが回転。自由の効かない空中、空牙は足元を薙ぎ払われそうになる。
    「空牙!」
     有杜が夜霧を放出した。さらに接近していたセレスがジグザグに変形させたエアリアルの刃で、ミヨコの腹を斬り裂く。
    「ぐ」
     ミヨコの身体がくの字に折れた。ギターは空牙へ一歩届かず。空牙はミヨコを頭上から蹴り潰す。
    「耐えきるよ!」
     楓が黄色標識で前衛の体力を維持。と、有杜がばこんと空牙を殴った。
    「イテ!?」
    「ったく、出しゃばってんじゃねえよバーカ!」
    「あ……悪ぃ、目ぇ覚めた。あんがとな」
    「空飛先輩!」
     文具がセロハンテープ型手甲、接着《巻取祭壇》から撃ちだした霊力の光も空牙へ届く。ネイの離脱により回復面で大幅に劣るミヨコは次第に追い詰められていく。
    「やられてたまるか!」
     ミヨコの渾身の一撃にオオミズアオの最後の輝きが砕け散った。満身創痍の瑞樹の姿にここで押し切らなければ後はないことを皆知る。ミヨコは血だらけの腕でギターを再度担ぎ上げた。
    「スノー、泣いて」
     有杜の差し向けた影の兎がぼたりぼたりと大粒の涙をこぼし、その中へミヨコが囚われる。
    「これで終わらせるよ。バイバイ」
     真っ向からミルドレッドが鎌をかざし、
    「うるせえ!」
     ミヨコがギターを振りかぶった。黄色いボディの中央を大鎌の白刃が断ち割る。バキリ割れたギターの間を抜け、薔薇の刺がミヨコの頬に一瞬触れ、
    「ア」
     ザン! ミヨコ自身の身体が血飛沫に霞んだ。続き沙月の手が雪夜を抜く。全ての戦場の熱を冷ますかのような冷たい刃。斬り捨てられたミヨコが霧散した。


    「もう大丈夫だな」
     セレスが言う。気を失っているネイ。今は2つのまぶたが閉じられ、頬には赤味がさしていた。
     覗き、楓も安堵する。ネイが目を覚ましたら、ききたいことも話したいこともたくさんある。けれどまずは、
    (「一緒に、学園へ帰ろう」)

    作者:森下映 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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