タタリガミの学園~階段は石人形

    作者:陵かなめ

     真夜中の校舎に、二つの影が見える。
     一つは大男のもの。男の頭には黒曜石の角があり、Tシャツからはみ出た腕には刺青が見えている。
    「おら、さっさとしろよ」
     大男が隣の影の主を小突いた。
    「どうし、て。わたしが……」
     それは、石でできた人形のような風貌をしていた。
     小突かれてよろめき、石人形は小さな声で小さく抗議する。
     どうやら石人形は、言葉通り石の人形と言うわけではなさそうだ。自分の意志で動き、何とその手にはスマートフォンを持っている。
    「ウルセーよ。さっさとしろって言ったべ?! あーあ、何で俺様がこんなヤツの護衛なんだよ?! こんな、戦いも無い面白くもない仕事、やってらんねーべ!!」
     大柄の男が舌打ちをし、石人形を睨み付けた。
     しばらく沈黙した後、石人形が観念したように動いた。
    「わたしの、ちから、出ておいで。この階段を、13番目の階段に、七不思議の階段に、してしまおう」
     スマートフォンを握り締め、石人形は強く念じた。
     
    ●依頼
    「九州の学校で発生していた七不思議の都市伝説の話は聞いている? その件について、重大な情報が得られたんだよ」
     教室に現れた千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が話し始めた。
     なんと、武蔵坂学園以外の灼滅者組織の灼滅者が、九州のダークネス組織に拉致され闇堕ちさせられて利用されていたようだ。
     そして、現在も、闇堕ちさせられた灼滅者達が、九州の学校で都市伝説を生み出し続けているようなのだ。
    「この状況を放置する事は出来ないよね」
     太郎が皆の顔を見回す。
    「それで、みんなには、彼らが都市伝説を生み出すために九州の学校へと出向いてきたところを襲撃して、助け出す作戦の実行をお願いしたいんだ」
     次に、戦闘についての説明があった。
    「今回みんなの相手になるダークネスは2人。1人は、護衛としてその場に居る刺青羅刹だよ。彼は神薙使い相当のサイキックを使うんだ。それから、もう1人が闇堕ちさせられている灼滅者、タタリガミの紡技(つむぎ)ちゃんなんだよ」
     タタリガミの紡技は、殴ったり、投げたり、石化の呪いの攻撃を仕掛けてくる。
     だが、うまく説得する事ができれば攻撃を鈍らせる事ができると言うのだ。
     場所は九州にある高校の校舎。真夜中にダークネス2人で出向いてくるので、そこで叩いて欲しい。
    「無理矢理闇堕ちさせられた紡技ちゃんについては、自分達が救出に来た灼滅者である事を訴えて、信じてもらったうえで撃破すれば救出する事ができるよ」
     そう説明し、太郎はくまのぬいぐるみを握り締める。
    「それじゃあ、みんな、よろしくお願いします」
     最後にぺこりと頭を下げ、説明を終えた。


    参加者
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    本山・葵(緑色の香辛料・d02310)
    米田・空子(ご当地メイド・d02362)
    泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)
    神凪・燐(伊邪那美・d06868)
    クレイ・モア(ロストチャイルド・d17759)
    霄花・メル(識の螺旋・d27107)
    リゼ・ヴァルケン(緋色の瞳・d29664)

    ■リプレイ

    ●真夜中の校舎にて
     夜中の学校に灼滅者達の姿があった。
     一般人の姿は無く、暗い校舎は静まり返っている。
    「まさに学校の階段ですねっ!」
     校舎の階段を眺めながら米田・空子(ご当地メイド・d02362)が言った。
    「七不思議使いのみなさまをお助けできるよう、力を合わせて頑張りましょう!」
     話によると、タタリガミの紡技は階段を『13番目の階段』と言う都市伝説に変えるようだ。
    「そうだね」
     泉・星流(箒好き魔法使い・d03734)が頷く。紡技は、灼滅者としての意識を持ちながらダークネスとして力を貸さなければならない現状なのだろうか? もしそうだとしたら、それはどれほどの苦痛と悲しみだろう。星流は、思う。紡技を何としても救出したいと。そして、うずめ様や刺青羅刹には、怒りを覚えている。
    「無理矢理闇堕ちさせられている人なら、なおさらですね」
     助けられる命は助ける。それが神凪・燐(伊邪那美・d06868)の誓いだ。
     ネックライトを調節しながら、燐は辺りを窺った。まだ敵の姿は無い。
     闇堕ちを強いる羅刹への怒り。
     望まない事に力をふるう事への辛さ。
     それを思うだけで、霄花・メル(識の螺旋・d27107)の耳がぴくぴくと忙しなく動く。
    「紡技殿、必ず救う」
     今回の事件は、病院の事件を嫌でも思い出す。だからこそ、救いたい。メルは意気込み、周辺を見た。そろそろ真夜中に差し掛かる。時間が刻々と迫っていた。
    「紡技さん……助けることができるといいね。……皆さん、頑張ろう」
     笑みを浮かべながらクレイ・モア(ロストチャイルド・d17759)も頷く。
     確かにクレイは笑っているけれど、その内心は紡技の事が心配だ。以前、13番目の階段と戦った時のことを思い出す。
     あれは紡技が生み出したものだったのだろう。
     それを思うと、気合も入る。
    「そろそろ、だよね」
     今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)がそっと校舎の外を覗いた。
     集中して耳を澄ます。
     その時、遠くから男の怒鳴り声が聞こえてきた。
    「おらっ、とっとと歩け、グズが。あーあ、さっさと終わらせて遊びにいきてーよ」
     灼滅者達が顔を見合わせる。
     間違いない。
     校舎の外から中に向かって、2つの影が近づいてくる。1つは大男、1つは石人形。刺青羅刹と紡技だ。
    「姉さん」
     リゼ・ヴァルケン(緋色の瞳・d29664)がビハインドのリズを呼んだ。
    「ど、どうして、わたし、が……」
    「あー、うっとうしい! ほら、ソコでいいだろ? さっさとしろよ!」
     2人が校舎に入ってきた。足取りの重い紡技を刺青羅刹が小突く。
     瞬間、仲間達が動いた。
     本山・葵(緑色の香辛料・d02310)が槍を構え羅刹に向かって走った。
    「ようやく会えたぜ」
    「な?!」
     振り向いた羅刹の顔に槍の先を向ける。
    「灼滅者さらって好き放題しやがって。覚悟はできてんだろうな!」
     返事を待たず螺穿槍を叩き込んだ。
    「くっ、敵か?!」
     羅刹が飛び退く。結果、紡技と羅刹に僅かな距離が出来た。
     その間に割って入るように灼滅者達は飛び出した。

    ●説得1
    「あ、あ、あの……」
     紡技の弱弱しい声が聞こえる。戸惑いと、それから恐怖と。
    「ばっかやろう! 見てわかんねーのか!! 敵だよっ、テメーも戦え!!」
     イラつきを隠さず羅刹が叫ぶ。
    「そ、そんなっ」
     紡技が手にしたスマートフォンを握り締めた。
     その様子から、彼女が好んで羅刹と手を組んでいるわけではないのだとすぐに分かった。
    「わたしたちは東京にある武蔵坂学園の灼滅者」
     何かを叫ぼうとした羅刹に向かい、リゼが跳んだ。
    「紡技、貴方を助けに来た」
     言いながら、羅刹をシールドで殴りつける。
    「あ、灼滅者……?」
     自分が攻撃されたわけではないのだが、紡技は目の前の戦いの光景によろよろと後ずさった。
     その様子を見て、燐が紡技に話しかけた。
    「今まで我慢してきてつらかったでしょうね。大丈夫、私達が助けてあげますよ」
    「あなたたち、は。あの、……?」
     紡技が震えながら構えを取る。半信半疑、それとも、恐怖が勝っているのか。
    「貴女と同じ、灼滅者です。貴女の苦しみは手に取るように分かりますので……信じて頂けますか?」
    「……」
     返事は無い。
    「そこの刺青野郎に無理やり手伝わされてんだろ? やめたいならあたしたちが手を貸すぜ」
     それでも、葵はさらに言葉を重ねた。槍で羅刹をけん制しつつ、紡技を見る。
    「ちぃ、狙いは石人形かっ」
     灼滅者達の様子を見て、刺青羅刹が片腕を大きく振り上げた。巨大に膨れ上がり、異形化した腕が近くにいた葵に迫る。
     そこにクレイが身体を滑り込ませた。
    「おおっと」
     振り下ろされた敵の攻撃を、その身に受ける。流石の一撃は、重い。急所を庇いはしたけれど、衝撃で足元がふらついた。
     クレイはいくつかステップを踏んで体勢を整える。そして、チラリと紡技を見た。
    (「俺は前、紡技さんの生みだしたものを深くも考えずに壊したんだ」)
     だからこそ、ここは通さない。仲間を庇うように前に出て、クレイが破邪の白光を放つ斬撃を繰り出した。
    「鬼さん。あんたは、俺と遊ばないか?」
     出来るだけ羅刹の注意を引くよう動く。
    「ぐっ」
     ダメージを受け羅刹が怯んだ。
     追い討ちをかけるように燐が殺気を放つ。
    「好きなようにはさせません」
     どす黒い殺気が刺青羅刹を覆った。
    「今までよく頑張ったね……本当に辛かっただろう……」
     無言で戦いを見る紡技に、星流が笑みを向ける。
    「もう君はこんな事しなくていい……こんな運命はここで終わらせる……」
    「あ……」
     紡技の指先が微かに震えた。
     彼女に向ける笑顔は穏やかに。羅刹を見据える瞳は鋭く。星流が出現させた赤きオーラの逆十字が羅刹の身体を引き裂いていく。
    「くそっ」
     羅刹が苦痛に顔を歪めた。
     紅葉やメルも攻撃を繰り出し、紡技と羅刹の距離を取らせる。
    「ばっきゃろうが!! さっさと攻撃しろ!!」
     結果、羅刹は紡技に怒号を浴びせるが、それ以上はなすすべが無いようだ。
    「白玉ちゃん! クレイさんの回復をお願いしますっ!」
     その間に、空子がナノナノの白玉ちゃんに指示を飛ばす。
     自身も指先に霊力を集め、クレイの傷を癒した。
    「紡技さん、貴方を助けに来ました。どうか、ダークネスに負けないでください」
     空子の言葉に、紡技が顔を上げる。
    「ほんとうに、助けてくれる、の……?」
     震える声で、祈るように、紡技が灼滅者達を見た。

    ●説得2
    「紅葉達はね、武蔵坂学園の灼滅者なの」
     少しでも分かって欲しい。紅葉は紡技に優しく語りかけた。それに、今ならば言葉が届くような気がする。
    「武蔵坂学園……?」
     紡技が首を傾げた。
    「其処では、皆が自分の意思の元に力使う」
     メルもまた、穏やかに優しく、紡技に語りかけた。
    「紡技殿が力奮うは何の為? 其処に望む理由ある?」
    「だ、だって、わ、わたし、は……」
     紡技が刺青羅刹を見る。
    「ウゼーわ、お前ら」
     羅刹は心底嫌そうな表情を浮かべ、腕を振った。途端に、激しく風の刃が踊り出す。渦巻き折り重なり、激しい刃の嵐が中衛の仲間を襲う。
    「鬼さんの相手はこっちだって言っただろ?」
    「姉さん、庇って」
     クレイとリゼが仲間を背に庇う。
    「貴女も自分の意志で、こんなことしてるわけじゃないよね」
     止まっていては的になるだけだと判断し、紅葉がその場から飛び退いた。
     まだ紡技は戸惑っている。
     だが、きっと届く。
     紅葉は人差し指に嵌めた指輪に口付けを落とす。
    「全力で助けるの」
     暗き思念を集め漆黒の弾丸を作り出すと、羅刹に向かって撃ち出した。
    「だからもう少し頑張って、ダークネスに負けないで」
     信じて、必ず助けるから、だから、あんなやつに負けないように。思いを乗せて言葉にする。
    「強いられ辛い気持ち感じる」
     力を使う事を強制されているのだろう。刺青羅刹が怒鳴るたび、彼女は身体を震わせている。
     メルもまた、攻撃を繰り出しながら紡技を見た。メルの仲間も、ダークネスにより多くが犠牲になったのだ。だからこそ、同じような事を繰り返したくない。
    「我も一度救われた身。故に今度は我が救う為の手助けを」
     どうか、信じて欲しい。
     強い思いが紡技に集まる。
    「わ、わたしは」
     紡技はオロオロと灼滅者達と羅刹を見比べた。
     だが、彼女は攻撃はしてこない。後一押し、きっと皆の言葉は届くはずだと、仲間達は紡技に声をかけ続けた。
    「思うように動けない……その気持ちはどうだ?」
     石化の呪いをかけ星流が羅刹の動きをまた一つ抑え込んだ。
    「くっそ、うっとうしい!!」
     羅刹は思うように動けないようだ。
    「そんな羅刹にいいように使われたままでいいの?」
     リゼがエアシューズを煌かせ、走りこんでいく。
    「わたしたちを信じて、助けられて欲しい」
     飛び上がり、羅刹目掛けて飛び蹴りを放った。
    「あたしたちが絶対に助けてやる!」
     葵も閃光百裂拳を叩き付ける。
    「ぐ、ぁ、くそっ、おいっ!! テメー、何ぼさっとしてやがる!!」
     責めるような羅刹の怒鳴り声に紡技が身体を震わせた。
    「大丈夫です。どうか、信じてください」
     仲間の傷を癒しながら、空子も優しく語りかける。
     どうか、信じて。必ず、助けるから。
     紡技が再び顔を上げた。
    「……ね、がい。ぉねがい。わたしは、こんなこと、したくないの」
     皆の思いが紡技を動かす。
    「たすけて、わたしは、こんなのは……いや、だよ」
    「はぁぁぁ?! ふざけんなよ、オマエはっ!!」
     羅刹が叫んだ。
    「煩いですね。黙っていてもらえますか?」
     すかさず燐が制約の弾丸で羅刹の身体を撃ち抜いた。
    「わたしは、もう嫌だ、よ。だから、助けて欲しい、の」
     今度こそ本当に、紡技は心からの叫び声を上げた。

    ●安堵の声
    「貴女を闇から救うには一度、倒れて頂かねばいけないのです」
    「……うん」
     燐が簡単に説明をした。
    「ごめんなさいね」
    「……うん」
     どうしても、KOしなければならない。
     紡技は素直に頷いている。
    「ごめんな、ちょっとだけガマンしてくれっ!」
    「……うん」
     葵が攻撃を紡技に向けた。仲間も一斉に紡技を攻撃する。
    「目覚めたら闇の力消える故、暫し我慢して頂きたい」
    「……うん。うん」
     メルの言葉に、紡技が何度も頷く。
    「ちっ」
     羅刹が巨大化した腕を振り上げ走った。
    「おっと、ここは通さないよ」
     だが、その前にクレイが立ちはだかる。強酸性の液体を飛ばし、決して紡技に近づけさせない。
     上手く羅刹と紡技の距離を取らせた事により、説得もスムーズに運んだのだ。
     もうすぐ紡技を助ける事ができる。邪魔はさせない。
     燐や星流も羅刹の動きを封じようと、次々に攻撃を畳み掛けた。
    「っ……」
     羅刹は小さく舌打ちし、後退する。
     その間に、紅葉の弾丸が紡技を撃った。
    「これで最後ですよ。少し我慢してくださいね!!」
     気遣うように声をかけ、空子が地面を蹴る。
    「メイド、キックっ」
     激しいジャンプキックが炸裂した。
    「……うん」
     紡技の身体が吹き飛ぶ。
     何の抵抗も無く、紡技は皆の攻撃を受けた。
     それは、必ず助けると言う灼滅者達の言葉を信じたからだった。
     紡技の身体が吹き飛び、校舎の壁に叩きつけられる。
    「紡技……?」
     駆け寄ったリゼが手を伸ばした。
     その手を、小さな手が握り返す。
    「わたし。わたし、は……」
     そこに居たのは、石人形ではなくて、小さな女の子だった。
    「よくがんばったな、もう大丈夫だぜ」
     葵も膝をつき、紡技の頭を優しく撫ででやった。
    「は。あー、面倒くせぇ。やってられるか!!」
     紡技の姿を見て、羅刹が不機嫌な声を上げる。
     灼滅者達は、紡技を庇うように立ち、羅刹の動きを注視した。
     羅刹は片腕を振り上げ、勢い良く校舎の窓ガラスを叩き割った。そして、素早く窓枠に足をかけ外に飛び出る。
     羅刹はそのまま走り去った。
     誰も深追いしようとは言わない。
     それよりもまず、紅葉が紡技に声をかけた。
    「紡技さんのこと、もっと知りたいね。今度一緒に喫茶店でも行こう?」
    「わ、わたしは。あの、わたし……。う、ぁ、ぁ、わーん。ん、う、あ、ぁあああ」
     紡技はそばに居た紅葉にしがみ付き、堰を切ったように泣き出した。
     羅刹の気配が無くなり、安心したのかもしれない。
    「鬼さんは逃げたな」
     クレイが割られた窓ガラスを見上げた。
    「そうですね。けれど、紡技さんを助ける事ができたのですから、良かったのでしょう」
     助ける事ができたのだから、それでいい。
     空子は泣き続ける紡技を見て、そう言った。
     助ける事ができて良かった。
     羅刹が消えた闇と、安堵の泣き声を上げる紡技を見比べ、灼滅者達は頷き合うのであった。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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