タタリガミの学園~血涙

    作者:来野

     長崎県の南東、島原。とある中学校の生物室に、二つの人影がある。
     一人は、制服の少女。シンク付きの長机に腰を預けて、すらりとした脚を斜めに組んでいる。腰まで伸ばした癖のない髪が赤い。しかも、血塗られたように濡れて肌に絡みつき、今も雫を落としている。
     手の中に握っているのは、小型のキィボード付きスマートフォン。親指を滑らせて、キィの浅い凹凸を撫でている。顔を俯けて髪の陰に表情を伏せているが、指先の動きは何かを嫌がるように鈍い。
     もう一人は、護衛らしき男。すぐ脇の長机に寄りかかり、あくびを噛み殺す。暇なのか。
     この男の額には大小二つの黒い角が並んでいる。首筋に刺青を持つ羅刹だ。
     白衣(びゃくえ)に浅葱袴を着け、襷がけの袖から覗く腕はがっちりと太い。それを振るう機会もないのが、退屈の一大原因と見えた。
     不服げに耳をほじくり、少女の手許を眺める。
    「おっさんみたいな趣味だな」
     型落ちの黒い小型端末は、どちらかといえばビジネスマン好みのモデルだった。アクセサリの一つもつけられてはいない。
     少女が指先の動きを止め、恨めしげに顔を上げる。その瞳も深紅。
    「おっさんは、あなたでしょう」
     ぽつりと答えて、シンクの蛇口へと手を伸ばす。無造作に捻った。
     水道管が、カンッ、と抗議めいた音を立てる。一呼吸遅れて迸った水は、赤い。真っ赤だ。まるで鮮血。
     飛沫が跳ね、朱の雫が一つ、血の気ない頬を滑って落ちた。
     
    「お願いがある。長崎に急行して下さい」
     教室に現れた石切・峻(高校生エクスブレイン・dn0153)は、開口一番そう言った。
    「最近、九州の学校で頻発していた七不思議の都市伝説について、重要な情報が入った。武蔵坂以外の灼滅者組織から灼滅者が拉致されて、九州のダークネス組織によって闇堕ちさせられ、利用されていたらしい」
     いや、と続ける。
    「現在も、利用されている。九州の学校で、都市伝説を生み出し続けているようだ。看過はできない」
     依頼は、現場の襲撃および闇堕ち者の救出作戦。説明が始まる。
    「この闇堕ち者はタタリガミと呼ばれていて、刺青持ちの羅刹を護衛としてつけられている。羅刹が用いる力は、神薙使いと同様の三種類と妖の槍相当の三種類で計六種類。それから、タタリガミの方だが」
     峻はそれを、強化された都市伝説のイメージだと表現した。
    「問題の中学校の生物室は、窓際四番目の机の水道の使用を禁じている。ずいぶん前に故障して以来、修理を放棄されているそうだ。これをひねると真っ赤な水が流れ出し、少女の形となって襲い掛かってくる、というのが今回の都市伝説らしい」
     恐らくは実験や赤水から生まれた連想だろう。どこか猟奇的な匂いがする。
    「使うサイキックは影業の三種類と似ているが、全て赤い。このタタリガミに関しては、うまく説得できれば攻撃を鈍らせることができるはずだ。試みてくれないか」
     護衛への態度から鑑みるに、好き好んで力を貸しているようには見えない。
    「無理やり闇堕ちさせられたのだから、当然だろうな。皆が救出に来た灼滅者であると訴えて信用を得た上で撃破すれば、きっと救出できると思う」
     生物室は校舎の一階外れにあり、教壇を正面に長机が何列か並んでいる。窓際四番目というのは、窓から最も近い列の最後尾の机だ。タタリガミと羅刹はこの机の傍にいる。
    「君たちならばきっとやり遂げてくれると、俺は信じる。どうか、無事に帰ってきてくれ。お願いします」
     そう締めくくり、皆を見送る峻だった。


    参加者
    夜刃・眠子(殴りWiz・d03697)
    熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)
    高坂・透(だいたい寝てる・d24957)
    九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)
    小堀・和茶(ハミングバード・d27017)
    綱司・厳治(真実の求道者・d30563)

    ■リプレイ

    ●赤い水の部屋
     月のない夜。子供のいない学び舎は、死に絶えたかのような静寂の中にあった。
     やけに広く見える校庭で、スヴェトラーナ・モギーリナヤ(てんねん・d25210)が歩みを鈍らせる。
     暗い窓は虚ろな瞳のようだし、昇降口の暗闇は歯を失った口のようだ。そのくせ、汚れた上靴が片方だけ転がっていたりする。肩先が震えた。
     九形・皆無(僧侶系高校生・d25213)が、さりげなくその背を守る。傍らの夜刃・眠子(殴りWiz・d03697)が、注意深く視線を巡らせた。
    「どこから行こうかしらね」
     皆で視線を見交わす。校舎の端の窓から明かりがもれている。恐らくは、あそこが生物室だろう。
     高坂・透(だいたい寝てる・d24957)が、思案の声を落とした。
    「逃さないためにも、出入り口側をキープしたいよねぇ」
     夜の学校に心を躍らせながらも、考えは手堅い。小堀・和茶(ハミングバード・d27017)が、先に立って駆け出す。
    「わたしもそうするつもりだよ。廊下側から行くのが良いかな?」
     茶色の髪がふんわりと揺れて、暗闇の中の篝火のようだ。残りの仲間も、後に続いた。
     真っ直ぐな廊下の果てには、非常口を示す緑のライトが灯っていた。逃げ出す人のマーク。そちらへと向かって部屋の後方に当たる引き戸へとたどり着いた時、ダッ、という音が聞こえて来た。水道水がシンクの底を打つ音だ。
     ――いる。
     綱司・厳治(真実の求道者・d30563)が、ハンドルへと手をかけた。指先へと力を込めるその間に、仲間たちがカードを手にする。
     ガラッ。
     戸を開けると、水流の音がくっきりと浮き上がった。生臭さくて薬臭さい。それらを押し返すのは、熊谷・翔也(星に寄り添う炎片翼・d16435)の声。
    「助けに来たよ。物語を紡ぐ者」
     人影は男と少女の二つ。弾かれたように戸口を向き、羅刹の男が自分の胸元を指差した。
    「俺か?」
     そんなわけがあるか。皆、一斉に中へと駆け込んで、前後の戸口を背に固める。
     ガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)が、ビハインド『ピリオド』を呼び出した。二つのシルエットは、いかにも出そうな場所に違和感なく溶け込む。室内灯の青ざめた光が、まっ平らで薄ら寒い。
    「刺青羅刹、失敬。私達、相手。邪魔立て、無用。宜しく」
     簡潔すぎる啖呵に、羅刹が眉尻を跳ね上げる。混乱しながらもタタリガミを背に回し、槍を半身に構えた
    「何の邪魔だ。もっとやさしく頼む」
     大きく踏み出して来る。そこへと叩き込むガイストと皆無のシールドバッシュ。
    「障壁殴打、憤怒誘発」
     噛み砕いてやるつもりもない。どっという激突の衝撃が、波紋となって広がる。
    「ぬ、がっ!」
     たたらを踏んだ羅刹の背で、赤いものが動く。朱の雫を滴らせた少女が、蛇口を閉めた。
    「ここの生徒じゃなさそう」
     物憂げに髪をかき払い、ひた、と血溜りを踏む。
    「用心した方が良いわ。おっさん」
    「やかましいわっ」
     羅刹の槍が、ヴンッと唸った。まるでスズメバチだ。

    ●水面に線を引けるのか
    (「九州、HKT、刺青羅刹、うずめ、今回、私達襲撃自体、予測済?」)
     ガイストが思案の色を浮かべる。気になることは尽きないが、相手の浮き足立った動きは予測の上とは思えない。目的遂行には好都合だ。
     間髪入れず、眠子が斬り込む。一撃が鋭い。ガンッと音が立った。羅刹は槍の柄で受け止め、雪駄の足を前へと出す。
    「く……っ」
     斬り結んでしまうと、ダークネスの力は重たく強い。背後へと跳ね飛ばされる。だが、その分、もう一歩前へと誘うことができた。
     それを見ていたタタリガミは、机の間を窓際へと退る。ぴしゃり、という音はささやかで、戦いの中では目立たない。
     だが、透が気付いて片手を持ち上げた。まだ武器は持っていない。
    「タタリガミさん」
     濡れた足音が止まる。
    「……。なに」
     透は窓と彼女との距離に注意を払う。
    「僕たちは、武蔵坂という学校から来た。武蔵坂は君たちと同じ力を持つ者の集まりなんだ」
    「そう」
     赤く濡れた少女は、続けた。
    「羅刹の入試枠もあるのかしらね」
     皆無が顔を上げる。自分のことだと悟った。羅刹の脇を割り込み、今はタタリガミのすぐ目の前。額の角は隠しようもない。
    「違います」
     刺青の羅刹を牽制したまま、首を横に振った。
    「私はこんな姿ですが、貴女と同じ灼滅者です」
     少女の肩が、ぴくり、と震える。
    「灼滅者……」
     小型のスマートフォンを握り締めた。羅刹が槍を上段まで上げて振り返る。
    「だからこそ同じじゃないだろ。違うか、タタリガミさん」
     護衛の言葉に、少女が俯く。噛み締めた唇が赤いのは、髪から滴る雫のせいばかりではないだろう。
     そこへスヴェトラーナが駆け込んだ。迷いなく真っ直ぐに突き出すのは螺穿槍。
    「グォッ!」
     雰囲気はほんわかしているが、思い切りの近接戦だ。羅刹が一歩引いた。
     タタリガミがさっと顔を上げ、サッシ窓のラッチを弾く。そして、勢い良く引き開けた。吹き込む風に、和茶が目を見張る。
    「無理矢理闇墜ちさせられたら、なにがなんだか分からないよね」
     精一杯の気持ちを投げた。
    「どうすれば良いか不安になるよね」
     切々とした彼女の声に、窓辺の少女はそちらを見る。よけいに噛み締めそうになる唇を、ややあって、ふっと緩めた。
    「そうね、私、怖がっている。認めないと」
     頷く。和茶はタタリガミはおろか、まだ羅刹にも攻撃を行っていない。両手を降ろしたままで、真っ赤なシルエットを見つめる。
    「わたしたちは敵じゃないよ、助けに来たよ!」
     そう言い切ってから、少し眉尻を落として付け加えた。
    「けど、知らない人に急に仲間ですって言われても混乱しちゃうよね」
    「ええ。私はタタリガミだから」
    「急にごめんね、けどお姉さんを助けたいんだ!」
     その時、羅刹が腕を持ち上げた。
    「度胸は認める。だから黙れ」
     槍穂を天に向けて窓からの寒風を集め、彼女の方へと放つ。ガイストの瞳が、包帯の間ですっと動いた。
    「ピリオド、今、一任」
     ビハインドが身をひるがえす。和茶の目の前で、つむじ風に打たれて相討ちとなった。悲しい光景を挟んで、タタリガミは和茶と彼女の仲間たちを見る。
    「私はダークネスなのよ」
     その一言へと、翔也が問う。
    「あなたの力は、傷つけるものを生む力なのか? それを望んで、力を手にしたのか? ……違うだろう」
     構えた交通標識『万色の看板-Note the fairy-』の色を、黄色から赤へと切り替えた。浮かび上がるゴブリンの姿。「Note the Goblin」の文字。
     鮮やかな変化にタタリガミが目を奪われる。しかし、答えははっきりとしたものだった。
    「違わない」
     ぱしゃり、と音が鳴った。
    「恐怖は痛み。私の生むものは何かを傷つける」
     少女が真っ赤な水を強く踏む。赤い玉が王冠を描いて跳ね、次の瞬間には錐のように鋭く真っ直ぐに伸びる。だが、その軌道に一頭の霊犬が飛び出した。厳治のサーヴァント『キントキ』だった。
     赤い少女は薄く片目を眇め、
    「確かに消去法の選択だったわ。でもね」
     と、自分の胸元へと手を上げる。
    「死にたくなかった」
     恐怖を認めた今、嘘はつけない。前髪を払いのけ、白目すら赤く染まった両眼で灼滅者たちを正視した。
    「今は、あなたたちに軽蔑されるのが怖い」
     その声は震えている。

    ●たとえ無様であろうとも
     逃げようとしたのは、赤の少女だけだった。
     怒りに我を忘れた羅刹は、槍をぐるりと回す。スヴェトラーナへと向かった一撃を、皆無が身を挺して受けた。ステンレスのシンクに鮮血が飛ぶ。
     ナノナノ『スヴィエ』が、すかさず傷を癒しに向かう。漂う着ぐるみ。
    「ちょこまかと!」
     槍を振りかぶる羅刹へと飛んでくるのは、翔也のレッドストライク。ゴブリンの赤。思い切って間合いまで踏み込んでいる。
    「こんな奴に、力を貸していていいのか? 仲間でもない、そんな鬼に対して!」
     標識の支柱と槍の柄がゴッという鈍い衝撃を散らし、噛み合う。タタリガミは首を横に振り、肩を落とした。羅刹の方を向く。
    「頭を冷やしなさいな。おっさん」
     怒りを喰らったままでいるヤツがあるか。助けないまでもツッコミくらいは入れる。そして翔也の方へと向き直った。
    「こんな護衛だけど、私一人じゃやっていけない」
     今頃になって自らの怒りを払う鬼へと向かい、皆無が声を投げる。
    「刺青の力を持っても、この程度ですか? 温いですね、所詮は子守ですか」
     強がりだろうが何だろうが、背後に攻撃を抜かせるわけにはいかない。危険承知の挑発をしかける。相手は禰宜、自分は僧形。どれだけ違うというのか。刺青を入れれば自らも強くなれるのだろうか。
    「何だと?」
     心中知らずに羅刹が煮える。そこに追い打ちをかける厳治の一声。
    「俺達は仲間を迎えに来ただけだ。子守の雑兵に用はない」
     案の定、羅刹が吠えた。
    「つまり、ハブってやつか!」
     タタリガミが、片手で額を抱える。頭が痛い。
    「大人げないわよ」
     肘を引いて窓から逃がそうとするのだが、逆に前へとつんのめりそうになった。
     それを見て、眠子が魔導書を携えた。大きい。難しそうというよりも、まず痛そうに見える。その書の名は偽典魔装 黒の書。ぱらら、という音が耳に涼しい。
    「あ……っ」
     息を飲んだ少女の前で、羅刹の胸元へと原罪の紋章を放つ。
    「グ、アアッ!!」
     だめだ。羅刹は怒髪衝天。諦めたタタリガミは、一人窓枠へと乗り出す。落ちる赤い雫は、窓の外へ。
     その時、
    「待って」
     透の声が、彼女の動きを鈍らせた。彼は無手だ。もし羅刹の攻撃を受けたらひとたまりも無い。
    「いやよ。待ったら、あなたも待つもの」
     誰の心配をしているのかもわからなくなってきた。
    「仲良くなりたい、友達になりたいんだよ」
     膝を支点にした赤いシルエットが、ガクンと揺らぐ。
    「へ?」
     間抜けな声がこぼれた。ぽかんとしている相手へと、厳治が口を開く。
    「あの羅刹と仲間でないのは見ての通りだ。うずめやHTKとも長く敵対してきた」
     固い物言いが、彼の生い立ちもあってか非常にはまっている。そう簡単に手の内をさらしてはならない。正しさが彼に囁く。だが、それでは瓦解することがもう目の前に見えていた。
    「聞いて欲しい」
     最後の札をめくる。
    「敵ではなく、灼滅者としてでもなく、友として語り合いたい」
     理屈を脇へと置いた言葉に、タタリガミの血まみれの悪相がすとんと真っ白に抜けた。窓辺でただ黒い影となって固まる。
     羅刹の片腕が、めきっと嫌な音を立てて変貌し始めた。
    「……」
     少女は、鬼の背へと片手を伸べる。やっとの思いのぎくしゃくとした動き。翔也の声が聞こえる。
    「戦いが終わったら、共に語り合おうじゃないか!」
     タタリガミは頷いて、羅刹の白衣(びゃくえ)をつかんだ。ぐんっと窓辺へと引っ張る。
    「お願い」
     反動を使って灼滅者たちの前へと飛び降り、護衛を背後へと押し退けた。前後が入れ替わる。
    「助けて!!」
     切なる望みだった。本当の気持ちは美しくなんかない。飛び散るのは、真っ赤な雫。
     羅刹が血相を変えた。
    「貴様!」
     本来ならば、鬼へと向かうはずだった灼滅者たちの攻撃。その前で、少女は厳罰を求めるかのようにきつく目を瞑る。怖い。和茶の声が生物室に響く。
    「お姉さんを助けるために、わたし頑張るよ!」
     透もついにサバイバルナイフを手にした。心がけるのは手加減。
    (「ちょっと痛いけど、我慢してね……ごめんね」)
     どぅっと収束する衝撃はタタリガミを跳ね飛ばし、背後になってしまった子守をも窓枠へと叩き付けた。
    「……っぅ、あ、くっ!!」
     苦痛に身を折った少女がゆっくりと崩れ落ちていく。全てを彼らに委ねるかのように。残るのは負傷し無防備な羅刹の姿。
    「な、な、なっ」
     スヴェトラーナが、ふわりと裾をひるがえして地を蹴る。彼女を運ぶもの、それは天奏靴evangel。純白の爪先が眩い軌跡を描く。
    「い、いやし真拳きっく!」
    「な、にぃぃ? グァッッ!!」
     羅刹の体が、大きく後ろへとつんのめった。窓の外へと逆さに落ちていく。ドッと教室の床が揺れ、ガイストがぽつりと呟いた。
    「……。無益」

    ●好奇心という力
     負傷もさることながら、心労を強いる戦いだった。開け放たれた窓が物語るのは、間一髪のタイミングだ。
     やがて、意識を飛ばしていた少女が身動ぎをした。ゆっくりと目蓋を持ち上げ、気持ち悪げに髪を払おうとする。そして、もう濡れていないことに気付いた。皆へと視線を巡らせる。
    「ありがとう」
     泣き笑いの顔。助かったのだ。手を貸しながら、透が訊ねる。
    「そういえば、スマホを見ていたみたいだけど何だろう?」
     少女が、うん、と眉根を絞る。
    「私の一部」
     ぽつりと答えた。鬼で言えば角か。厳治が頷いている。
    (「色も機能美も実に趣味が良い。携帯電話に先進性もファッション性も不要だ」)
     彼の所持する携帯電話も、初期型で黒い。
    「俺と対極の理由でダークネスに支配され、人間や灼滅者以外の視点を持っている。そして何より趣味が合いそうだ」
     携帯のこと? と訊ねる少女。頷く厳治。
    「語り合うべきだと思った。世界のあるべき姿を見つけるために」
     『べき』が二つ。目を丸くして笑う少女。確かに対極。
    「似合ってる」
     どれだけぶりの笑いだろう。拭った目尻はもう赤くない。
     そんな中、スヴェトラーナがそっと蛇口を捻ろうとした。
    「リナヤ」
     皆無が止めに入る。やり取りを見ていた少女が、彼女の耳元にそっと吹き込んだ。
    「出るわよ」
     びくっとすくむスヴェトラーナ。
    「たたりがみ……? 紙?」
    「……!」
     少女が目を見張り、ぼそっと言った。
    「トイレでたたろうかしら」
     風が緩む。笑う声も怖がる声も、運んでいく。
     行く先はきっと、武蔵坂。
     

    作者:来野 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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