タタリガミの学園~戦う人体模型

    作者:邦見健吾

    「都市伝説出すの、さっさと終わらせてくれよ。こちとら退屈なんだ」
    「はいはい、わかってますって」
     とある深夜の学校、HKTのロゴが入ったシャツを着た少年が命令すると、作り物であるはずの人体模型はうんざりした様子で答えた。人間のように動く以外に特徴的なのは、肌色の左腕に小型のパソコンのような端末を装着しているところか。
    「ところで、お前って何の都市伝説だっけ?」
    「俺? 俺は戦う人体模型だよ」

    「九州で起きていた学校の七不思議関連の都市伝説事件に進展がありました」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)がそう切り出すと、教室に集まった灼滅者に緊張が走る。
    「もたらされた情報によると、武蔵坂や病院とは別の灼滅者組織の灼滅者が、九州のダークネス組織によって闇堕ちさせられ、利用されているそうです。現在も都市伝説を生み出し続けており、看過することはできません」
     そこで、都市伝説を生み出すために学校へと出向いてきたところに乗り込み、闇堕ちさせられた灼滅者を救出する作戦を行う。
    「敵戦力は護衛についたHKTの六六六人衆1体と、灼滅者が闇堕ちさせられたダークネスが1体――種族名はタタリガミといいます。彼らは理科室にいるので、そこを襲撃してください」
     HKTの六六六人衆は殺人鬼のサイキックを使う。序列は番外だが、油断はできない。
    「タタリガミは都市伝説を生み出す力を持つダークネスらしく、自身が生み出した中で最も強力な都市伝説の姿と能力を得ます。今回は、人体模型の形をした戦闘用ロボットの姿をとっています」
     人体模型ロボは目からビームを放つほか、指から弾丸を撃ったり、内臓をミサイルにして攻撃する。まだ完全に闇堕ちし切っていないため、うまく説得できれば、攻撃を鈍らせることができるかもしれない。
    「闇堕ちさせられた灼滅者ですが、自分たちが救出に来たことを伝え、信じてもらったうえで倒せば救出できると思います」
     蕗子は茶で喉を湿らせると、説明を続ける。
    「護衛の六六六人衆の灼滅と、灼滅者の救出。両方成功すれば最良ですが、2体のダークネスを相手にするため、それは難しいでしょう。今回はどちらかの達成を目標とします」
     灼滅者も強くなっているとはいえ、相手はダークネス2体。全力で挑まねば返り討ちにあうだろう。
    「説明は以上です。簡単な作戦ではありませんが、灼滅者として救出できるかは皆さんの手にかかっています」


    参加者
    古海・真琴(占術魔少女・d00740)
    フィズィ・デュール(麺道四段・d02661)
    仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)
    天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)
    鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896)
    氷室・侑紀(ファシキュリン・d23485)
    枉名・由愛(ナース・d23641)
    武藤・雪緒(道化の舞・d24557)

    ■リプレイ

    ●理科室への奇襲
    「じゃ、今回もよろしくー」
    「はいはい」
     とある学校の理科室。HKTのロゴが入ったシャツを着た少年が気だるそうに言うと、人体模型は左腕に着用した端末を操作し始める。
     そこに――。
    「武蔵坂学園という灼滅者組織のものです。灼滅者として、人としてのあなたを迎えに来ました」
    「ん?」
    「は?」
     8人の灼滅者が現れた。灼滅者たちは迅速に理科室に侵入し、2体のダークネスを包囲する。
    「ちょっと我慢してくださいよ」
     フィズィ・デュール(麺道四段・d02661)が先陣を切り、雷を帯びた拳で人体模型の姿をしたタタリガミにアッパーを食らわせた。
    「なんだお前ら?」
    「七不思議使いさーん、聞こえてる? 東京にはね、中々の灼滅者組織があるのよ」
     困惑するタタリガミを尻目に、鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896)は今は表れていない、灼滅者の魂に話しかける。さらに歌声を響かせ、タタリガミの精神を揺さぶる。
    「どうせなら、私たちと一緒にダークネス達をやっつけちゃいましょ? こんな風にね」
     そう言って、古海・真琴(占術魔少女・d00740)は手挟んだ符をシャツの少年に投げた。もし七不思議使いが新たな仲間となってくれれば、きっと頼もしいと真琴は思う。
    「裏方仕事ばかりじゃ飽きるんだよね!」
     しかし戦う機会を得られたからであろう。符は少年に命中するも、少年は隠し持っていたナイフを抜き、笑みを浮かべて殺気を放った。
    「退屈だったんだろう? 遊んでやるさ」
     氷室・侑紀(ファシキュリン・d23485)は自身の体から蛇を生み出して敵に迫り、動きを鈍らせるべく、点滴スタンドの形をした槍を急所に突き立てる。
    「僕たちは武蔵坂学園。灼滅者の組織さ。七不思議使い、君を助けにきた」
     タタリガミに視線を移し、呼びかける侑紀。あくまで今回の目的は七不思議使いの救出だ。HKTに邪魔はさせない。
    「俺達は東京から、灼滅者を救いに来たんだ。今ここには武蔵坂がかつて救った別組織の灼滅者もいる」
    「そうそう、俺も元は別の組織にいた人造灼滅者ね。組織がやられた時に武蔵坂に助けてもらってね、今も多くの武蔵坂の灼滅者が君たちを助けるために動いてる」
     仁帝・メイテノーゼ(不死蝶・d06299)の言葉に、武藤・雪緒(道化の舞・d24557)が相槌を打った。この場には雪緒を始め、3名の人造灼滅者が七不思議使いを助けために駆け付けている。
    「あ、見た目はこんなだけど、俺も灼滅者なんだ。いきなりだけどご同輩がピンチと聞いて助けに来たよ!」
     メイテノーゼがタタリガミに影を伸ばして斬りつけると、雪緒は振動波を放って六六六人衆の足を止める。
    「忘れてねえか? 俺を倒さなきゃ誰も助けられねえってことをよ!」
     灼滅者とダークネスは1つの体を奪い合う敵同士。その敵を救いに来た武蔵坂を排除すべく、人体模型は目からビームを照射した。

    ●人体模型との戦い
    「私達は貴方と同じ灼滅者ですわ。貴方達を救い出したくて此処まで参りましたの。灼滅者に戻って仲良くなりませんか?」
     どういう状況で闇堕ちに至ったのかは分からないが、無理やり闇落ちさせてダークネスにするなど許せない。七不思議使いを助けたいという思いを込め、天神・緋弥香(月の瞬き・d21718)は炎を纏ったシューズで蹴りを見舞う。
    「うるせえ!」
     説得の言葉をかき消すように、人体模型が両手の指から弾丸を連射した。無数の弾丸が前衛に立つ灼滅者たちを襲う。
    「貴方の中の悪しき力は、全部わたしが吸い取ってあげる。」
     淫魔の体を持つ枉名・由愛(ナース・d23641)はギターをかき鳴らし、仲間に力を与える。ミサイルやビームを装備したものを人体模型と呼んでいいのか疑問だが、今はそれどころではない。灼滅者を救うべく、2体のダークネスに立ち向かう。
    「僕もいるからね!」
    「くっ!」
     シャツの少年が突進し、ナイフを構えて侑紀に襲いかかった。刃に切り裂かれた肌から、体を構成する影が零れる。反撃にチェーンソーを薙ぎ払うが、少年は瞬時に飛び退いて躱す。
     奇襲に成功した灼滅者たちだが、2体のダークネスの攻撃に晒され苦戦を強いられていた。六六六人衆とタタリガミが連携をとろうとしないのがまだ救いか。
    「貴方なら己のダークネスなどに屈せず、我々の友となってくれると信じています。そして我々もまた、貴方と並び立つにふさわしい力があることを証明しましょう!」
    「そうそう、吸血鬼の名門を撃退したし、鍵島とかダークネス企業も潰したし、赤城山の羅刹は壊滅させたんだから!」
     フィズィのガトリングガンの銃身が拘束回転し、タタリガミ目掛けて大量の弾丸を撃ち出す。志緒梨はダイダロスベルトで侑紀を包み込み、その傷を癒した。
    「貴方を縛るような組織じゃ無いですよ。私たちは。むしろ、援助したいです。One for All, All for One!!」
     その言葉を選んだのは自身がサッカー選手であるからか。真琴の足元から影が伸び、人体模型に走る。影は眼前で大きく口を広げ、人体模型を呑み込んだ。
    「失礼! これでも手加減したのですが……」
     緋弥香は月の輝きを放つ刃に赤いオーラを宿し、すれ違いざまに一閃。流れる血液の代わりに表面の塗装が削り落とされる。普段と違い、戦闘中の緋弥香は氷柱のように冷たく鋭かった。
    「これでも食らっとけ!」
     だがタタリガミもやられてばかりではない。ただの模型であるはずの内臓が次々に飛び出し、爆発が灼滅者たちを襲った。
    「こう来ましたか、面白い……なんて言ってる場合じゃないですね」
     都市伝説を基にした攻撃方法に思わず感心するフィズィだが、タタリガミも六六六人衆も健在。予断を許さない状況だ。

    ●抗う意志
    「どうか、その力が自分にとって何のためにあるのか思い出してほしい……決して君のそばにいるHKTなんかのために使う力ではないはずだ」
     メイテノーゼのガトリングガンが火を噴き、人体模型に火の雨を浴びせる。炎の弾丸の1つ1つが敵を撃ち、その体を焼く。
    「うるせえっつってんだろ!」
     人体模型が光線を発射。目から放たれた眩い光がメイテノーゼを呑み込み、体力を奪った。
    「わたしたちだけの力じゃ貴方を救うことはできないわ。だから貴方にも戦って欲しいの、自分の中のダークネスと。貴方に、タタリガミと戦う意志はある?」
     押される灼滅者たちだが、決して退きはしない。由愛は仲間の傷を癒しながら、タタリガミの、いや七不思議使いの瞳を真っ直ぐに見つめる。この戦いの鍵は、七不思議使い自身の闇に抗う意志なのだ。
    「難しい話は無しだ。一緒に君達を闇堕ちさせた奴等に目にもの見せてや・ら・な・い・か!!」
     雪緒の不定形の体に埋まった指輪が一瞬光を放ち、呪いの魔弾が六六六人衆に飛んでいく。魔弾はHKTのシャツに吸い込まれ、その動きに制約を与えた。
    「突然で信じられないかもしれないがね。嘘をついているなら、こんなに傷ついてまで戦いはしないさ」
     侑紀は身に纏うダイダロスベルトを刃に変えて六六六人衆の急所を狙うと、意思を持つ帯は敵を追い、その胸を貫く。
    「いい加減ウザいよ」
    「――!」
     しかし六六六人衆のナイフが至近距離から腹を抉った。侑紀が限界を迎え、とうとう膝を折る。
     自由度の高い戦闘では自身が何をするか、より明確にしておく必要がある。防御に回るはずの者が六六六人衆にも意識を向けていれば、侑紀が倒れるのを防げたかもしれない。
    「残念だったな。こうなったらお前らの負けだ!」
     戦力の偏りが生じ、勝利を確信したタタリガミが再びミサイルを発射した。人体を模したミサイルは敵目掛けて誘導し、灼滅者たちに正確な爆撃を与える。
     ――はずだった。
     しかしミサイルはでたらめな軌道で飛び、灼滅者たちから逸れて理科室を滅茶苦茶に破壊した。
    「今のは……?」
     助かったと思いつつ、メイテノーゼは感じた。勝利の兆しが見えたと。
    「くそっ! 余計なことしやがって!」
     人体模型の姿をしたタタリガミは、赤と肌色半々の顔を苛立たしげに歪める。間違いない、タタリガミの中にいる七不思議使いが己の闇に抗っているのだ。
    「ありがと。さ、私達と一緒に行きましょ!」
     志緒梨がダイダロスベルトで仲間の傷を癒し、態勢を整える。説得は届いた。ならば後はダークネスを倒すのみだ。

    ●怪談の終わり
    「くそっ、来るな!」
     思い通りに攻撃できないタタリガミに、灼滅者たちは一気に攻勢に出る。
    「早く終わらせましょう」
     緋弥香は短く助走を付けて跳躍、天井を蹴って流星のように流れ落ちて跳び蹴りを見舞った。メイテノーゼは影を刃に変え、回り込んで背後から切り刻む。
    「詳しいことはあとでゆっくり話しますね!」
     繰り出す符は、ダークネスへのレッドカード。真琴が呪符を投げると、フィズィは人体模型の足を掴み、振り回して投げ飛ばす。
    「これで……」
    「フィニッシュ!」
     由愛が両手に集めたオーラを撃ち出して追撃。さらに雪緒の不定形の体からバベルブレイカーが伸び、浮遊する頭蓋骨の口を貫いて1つに連結。そして口から飛び出した杭が人体模型を撃ち貫いた。
    「俺はまた出てくるからな……覚えてろよ……」
     力尽きたタタリガミが地に伏し、人間の姿に戻っていく。人体模型があった場所に残されたのは、年端のいかない少年だった。
    「あーあ、やられちゃった。この役立たず」
     護衛という役割を果たせなかった六六六人衆は悪びれる様子もなく吐き捨てる。所詮は与えられた仕事、タタリガミのことなどどうでもよかったのだろう。
    「じゃあねー」
     侑紀にもらった状態異常が重かったのか、HKTの少年は灼滅者を手にかけることなく理科室を後にした。

    「痛かったでしょ……。でも良かった、元に戻られて……」
     そう言う緋弥香に、戦闘時の雰囲気はない。今は仲間の身を案じる1人の少女だ。
    「ふぅ、終わった~。……お疲れ様。勝てたじゃん、タタリガミにさ♪」
     静かに眠る七不思議使いの少年の頭を、志緒梨が撫でた。
    「さ、さっさと帰りましょ。いつまた敵が来るかもしれないんだし」
     ゆっくりしたいところだが、ここ九州はHKTやうずめの勢力圏内。急いで離れるに越したことはないだろう。
    「ラーメンはまた今度ですかね」
     フィズィとしてはせっかく地元のラーメンでも一緒に食べて帰りたいところだが、今はそれは叶わない。七不思議使いの彼が良いお店を知っているかもしれないので、そちらに期待しておこう。
    「お名前も、ね」
     色々と気になることがあるが、尋ねるのはここを離れてからだ。由愛は七不思議使いの少年を優しく抱きかかえると、背中におぶった。
    「それにしても、不便だよな。階段が7段しかないって」
    「え?」
    「え?」
     いざ帰還しようとした時、メイテノーゼが疑問の声を上げた。周りが疑問符を浮かべるが、メイテノーゼも面食らったような反応を返す。
    「学校の『カイダン』だろ? 7つしかないってどうなってるんだ?」
    「その階段じゃないよ……」
     怪談という言葉を知らないメイテノーゼに、意識を取り戻した七不思議使いが呆れたように呟きを漏らした。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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