「さて、ここで俺達は集ったわけだが……まず、何をする?」
黒曜石の角を頭から生やした、3人の屈強そうな男が、並んで歩きながら、あーだこーだと話し合っていた。とりあえず、かなりろくでもない内容なのは理解できる。
そんな中、男達はあるものを見つけた。
「卒業式、か……」
「ん? どうしたんです、アニキ?」
アニキと呼ばれた男は、他二人の気の抜けた表情を見回し、ニヤリと笑ってこう告げる。
「なぁ。まずはあの卒業式、ぶっ壊してやろうぜ」
「え? なんでですか?」
「奴ら、こっちの苦労も知らずに、のうのうと『おめでとう』『ありがとう』とか言い合ってやがる。むかつくだろ? な? だからよ、ぶっ壊してやろうぜ」
2人の男は、顔を見合わせ……兄貴と同じようにニヤリと笑ってそれに応える。
「面白いじゃないですか」
「ぶっ壊してやりましょうぜ」
「よーし、決まりだ。平和ボケしたガキどもを、これから地獄の底まで引きずり下ろしてやろうぜ」
そう言い合うと、男たちは、その卒業式場の中に入っていった。
「まーた色んな意味でロクでもない連中が出たわね……学生のあたしたちにも関係ない話じゃないし、とりあえず対処を頼めない?」
藤堂・姫(しっかりエクスブレイン・dn0183)はそう言うと、事件の説明を始めた。
「あんた達もかなり強くなったわ。だから今では、全部のダークネスがあんた達と1人で渡り合えるわけじゃないの。で、弱いダークネスが徒党を組んで、事件を起こそうとしてる訳ね。今回の一件もそのひとつ」
そう言って姫は、バンと地図を広げる。
「このとある高校の卒業式を、羅刹の3人組が景気付けに潰そうとしているわ。学生としては、大事なイベントなのにね。許せたもんじゃないわ」
羅刹達は、式が行われている式場に入りこみ、暴れようとしている。彼らを式場に入る前に引き止め、灼滅するのが今回の目的だ。
「羅刹達が式場に入りこもうとするのが午後2時。午後3時には、卒業する生徒たちが外に出てくるから、その間に羅刹を仕留めて、撤収する必要があるわ」
羅刹達を止められるのは、式場の門前となる。見晴らしはいいが、1時間の間は、大きな音さえ出さなければ、誰かに気付かれることは無いと出ている。
「まぁ、あんまり広範囲に影響が出ちゃうESPとかを使っちゃうと、卒業式の邪魔になっちゃうからね。できるだけ、式に差し障りが無い方法を取った方がいいわ」
そして羅刹3人の方だ。3人とも強さは同じようだが、アニキと呼ばれる羅刹1人に、舎弟羅刹が2人の構成になっている。
「弱いと言っても、流石にタイマンで敵う相手じゃないわ。それが3体よ」
強力なダークネスを相手にするつもりでかかった方がいいだろう。
「羅刹は全員、神薙使いと断罪輪の物と同質のサイキックを使ってくるわ」
ポジションは舎弟がクラッシャー、アニキがスナイパーだ。その火力を侮ってはいけない。
「卒業式は、学生のイベントの中でも重要なもののひとつよ。あんた達にもわかるでしょ? それを潰そうとしている羅刹達を、あんた達で徹底的にぶちのめしてあげて。じゃあこの件、あんた達に任せたわよ!」
参加者 | |
---|---|
ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) |
メルフェス・シンジリム(魔の王を名乗る者・d09004) |
比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994) |
九葉・紫廉(首輪付き・d16186) |
佐島・マギ(滑走路・d16793) |
御印・裏ツ花(望郷・d16914) |
シェリス・クローネ(へっぽこジーニアス・d21412) |
雨摘・天明(空魔法・d29865) |
●卒業式を潰す羅刹
「卒業式を潰すとか、最近の羅刹はやることがみみっちいっすね。どうせなら武蔵坂学園の卒業式に来てみろって感じっすよ」
どこか気だるげな様子で、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)はそう呟いた。彼ら灼滅者がいるのは、とある式場から少し離れた木の陰。今から、あの式場内で行われている、とある高校の卒業式が、3体の羅刹に襲撃されるのだ。彼らは、それを止めるためにいる。
その場で待つ中、雨摘・天明(空魔法・d29865)が口を開いた。
「この羅刹達、苦労も知らずにって……ただ暴れるだけなのに苦労なんてあるの……? あったとしても、それが暴力の理由なんかには絶対ならないよ」
「全くですわね、呆れて物も言えません。かような日を狙うとは無礼な輩ですし、行き当たりばったりの思い付きが暴力行為など頭が悪すぎます」
天明にうなずき、御印・裏ツ花(望郷・d16914)もそう言う。
「マギも今月は卒業式ですからね。邪魔されたら怒っちゃいますよ! お仕置きいっぱいしませんとです!」
続けて佐島・マギ(滑走路・d16793)も、そう意気込んだ。と、マギは少し考えて、言葉を続ける。
「むしろ、マギの卒業の景気付けになっていただくのはどうでしょ? いい考えですね!」
「俺の卒業の景気付けにもなるな。いいぜ、やってやろうじゃねぇか」
九葉・紫廉(首輪付き・d16186)がそう言った所で、灼滅者達に緊張が走った。羅刹達が現れたのだ。
「それじゃ、三人まとめて片付けやしょうか」
そう言うギィに従い、灼滅者達は何か言い合う羅刹達の元に近付いていった。
「あなた達、やることなすことが中途半端ね。ぶち壊して力を誇示するなら、卒業式よりもっと面白い場所があるでしょうに」
出会い頭に、メルフェス・シンジリム(魔の王を名乗る者・d09004)がそう言葉をぶつける。羅刹達が振り返る前に、マギはESPで音を遮断し……
「ちはっす、旦那方。あんまりゆっくりしてられないんで、ささっと始末させていただきやすよ」
ギィはそう言うや否や、手近な羅刹に思いっきり斬りかかった。
「うぉっ、何しやがる! 何モンだ、てめぇら!」
「ちょっと鬼退治に来たものじゃよ」
羅刹の反論に、シェリス・クローネ(へっぽこジーニアス・d21412)はそうさらっと返して、続けた。
「一人では勝てぬから複数で集まり、やっている事は弱い者イジメとはのう。まさにその辺りのチンピラとかわらん。挙句にこのような他者の喜びを力で踏みにじるような行為、わしは断じて許さんぞ!」
「こちとら学生で、しかも中3で卒業間近なんだよ。だから卒業式を潰すとか見過ごせねえ! むしろ貴様らをこの世から卒業させてやるわ!」
紫廉も続けて、啖呵を切る。だが、そのくらいで羅刹は怯まない。
「黙れ! てめぇら、返り討ちにしてやらぁ!」
「2年前なら、お前達の1人にすら及ばなかったかもしれない」
だがそれは、灼滅者も同様だ。比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)は前に出て、羅刹達に向かって言い放った。
「けど……俺達は強くなった。持って生まれた力を、メチャクチャに振り回すだけのお前達に負けはしない」
同時、灼滅者達は同時に地を蹴った。
●3体の羅刹に対して
「ラフィット、これを!」
天明がギィに矢を撃つ。攻撃精度が高まる、支援の矢。
「ありがたいっすね」
ギィはそう言いつつ、黒い炎を帯びた剣で、先程斬った舎弟の羅刹に斬りつける。
「てめぇ、またやりやがったな!」
激昂した舎弟羅刹2体が、片方は鬼の腕で、もう片方は回転斬りでギィに襲い掛かる。だが、
「通さねえよ!」
片方は紫廉が、もう片方は紫廉のライドキャリバー、カゲロウが体を張って食い止めた。カゲロウはすぐさま自分を回復させ、紫廉の方はサイキックエナジーを剣に集め始めた。
「ぶっ飛びやがれ!」
紫廉がそう言うと、彼が剣に集めたエナジーが爆発した。衝撃は舎弟羅刹を包み、その力を封じる。
「やるな。だがその傷ついた体で、どこまで耐えられるかな!」
兄貴と呼ばれた羅刹は、風の刃を形作り、紫廉に向けて飛ばす。鋭く、正確な射撃が紫廉を斬る。だが、マギは素早くヒールサイキックを展開し、紫廉に向けて放った。彼の体力が大きく回復する上、その身の守りも上がっていく。
「甘いですね、バックアップはバッチリです!」
「では、動きを縛らせてもらうのじゃ」
マギに続き、シェリスは符で結界を敷き、舎弟たちを足止めした。そしてさらに連携して、逢真が傷ついた舎弟めがけて飛びあがる。
「動きが鈍いね、いい的だよ」
直後、逢真の飛び蹴りが決まった。綺麗に入った一撃が、舎弟を更に追い詰めていく。
「くそっ……これでも食らいやがれ!」
悪態をつく舎弟が九字を唱え、前衛に一斉に、破魔の力の乗った攻撃を仕掛ける。続けてもう一方は、風刃を作り、裏ツ花へと飛ばした。
「喰らいやがれ!」
しかし、飛ぶ風刃は、マギのビハインド、常晴に止められ、裏ツ花に届かない。常晴はそのまま霊障波を放ち、舎弟を撃ち貫く。
「まったく、脳筋と言うか何と言うか、好みではありませんね」
裏ツ花はそう言って、羅刹達を低く評価する。そして、すっと目を細め、
「そのような愚民がわたくしに攻撃しようなどと……万死に値します」
そう言い裏ツ花は、片腕を巨大化させ、舎弟向かって腕を振り上げる。同じタイミングで、天明の支援が届いた。裏ツ花の一撃が、強化される。
「さようなら」
裏ツ花が舎弟を殴り飛ばす。体が限界を迎えた舎弟は、そのまま吹き飛ばされ、遠く離れた場所で消滅した。
「さ、次はあなたの番よ」
メルフェスは、もう1人の射程に向かってそう言い……返事が返ってくる前に顔面を蹴飛ばした。言葉にならない悲鳴を上げる舎弟。一方のメルフェスは、薄く笑っている。
「てめぇら! よくも俺の舎弟たちをやりやがったな!」
兄貴はそう叫び、舎弟を灼滅した裏ツ花に殴りかかる。しかし、前に立ったマギが彼女をかばい、攻撃を代わりに受ける。
「あなたのお仕置きは後です」
マギはあっさりそう言うと、兄貴を突き飛ばし、舎弟に向かって火花舞う蹴りを浴びせた。火花は炎となり、舎弟の体に燃え広がっていく。
「てめぇら、舐めやがって……」
「ぶ、ぶっ殺してやらぁ!」
羅刹達が息巻いている。そして迷わず、灼滅者達に向かって突き進んできた。
●今の灼滅者の力
「よそ見してる場合ではなくてよ。覚悟なさい」
「これでも食らうのじゃ!」
マギの攻撃から連携して、裏ツ花が強烈な打撃を、続けてシェリスが催眠の符を食らわせ、もう1人の舎弟も追い詰めていく。そして間髪入れずに、更に連携して動いた逢真が、その懐に入り込んだ。
「さぁ、お前はここで終わりだよ」
一撃、二撃、三撃……次々と打ち出される拳の連打が、舎弟を襲う。連携の締めとなる拳打の嵐に襲われ、この舎弟も同じように耐え切れず、消滅の道を辿った。
ギィは特にその散り際を省みることなく、兄貴の方に声をかける。
「さ、旦那。舎弟はもう逝きやしたよ。兄貴分なら、待たせちゃいけないっしょ。見送りくらいはしてあげるっすから、大人しく灼滅されてくださいな」
そう言いながらギィは、黒いオーラの逆十字を放ち、兄貴を撃ち抜く。
「ぐ……」
兄貴は思わず一歩後ずさる。だがその様子を見て、メルフェスが挑発に出た。
「ふーん、アニキって言わせてた割には、舎弟がやられたら逃げようとするとは、本当おめでたい小物ね。ま、舎弟のサイキックエナジーは『ありがたく』頂戴しておくわ」
「な、何だと……ふがっ!」
兄貴が言い返し終える前に、メルフェスの炎を帯びた蹴りが、彼の顔を横殴りにしていた。
「あら、まだ何か言い分でも? あなた達の顔、なんだかすごく蹴りやすいから、お先に失礼させてもらったけど」
「……な、なめるなぁぁぁっ!!」
兄貴は怒り狂って、メルフェスに風刃を飛ばす。刃が対象を深く斬り裂く……だが、攻撃を受けたのはメルフェスではなく、彼女をかばった常晴だった。常晴はそのまま兄貴に、カウンターの霊撃を放つ。
「さぁ、景気付けもクライマックスです」
「うん、始めるよ!」
戦場に、マギと天明の声が響いた。連携攻撃の開始だ。まず、マギがバベルブレイカーを高速回転させ、ねじ切るように兄貴に突き刺す。それに続けて、天明の火花散る蹴りが、兄貴に突き刺さった。
「さて、続くとしようかのう」
間髪入れず、シェリスの全方位に伸びる帯が、逢真の渾身の魔力を込めた打撃が、裏ツ花の鋭い飛び蹴りが兄貴を襲っていく。次々当たる攻撃の嵐に、兄貴はじわじわと余裕を失くしていく。
「くそ……やられてたまるかぁっ!」
兄貴は叫び、片腕を肥大化、裏ツ花に殴りかかった。攻撃の直後で、裏ツ花は隙だらけだ。攻撃の標的にはちょうどいい。
しかし、それは紫廉にも分かっていた。だから先回りして、体を張ってその攻撃を止めた。
「へへ……お前、もう詰んでるぜ?」
紫廉はそう言い、光刃を放出して、兄貴の身の守りを引き裂いた。そして、同時に放たれたカゲロウの機銃が、兄貴の動きも縛っていく。これでもう彼は、身を守ることができない。
「んじゃ、締めは頼むぜ、ギィ」
「うっす。じゃ、さよならっすね」
ギィはそう応え、黒いオーラを放つ斬艦刀を思いっきり振りかぶり……そのまま、重力に任せて振り抜いた。刀の先にいた兄貴は、何も抵抗することができず、一刀両断となる。
「がっ……てめぇ、ら……」
兄貴は、それだけ言い残し、2つに分かれて倒れた。それからそう時間も経たずに、兄貴の体は舎弟たちと同じように、霧のように消滅していった。
●彼らに幸あれ
「ふぅ、どうにか守れたか」
戦いが終わり、一息ついた紫廉がそう言った。それに続いて、メルフェスも口を開く。
「所詮は寄せ集め、あっけなかったわね」
「でも、守れなかったら自分の卒業式とか微妙な気分になりそうだったしなぁ。本当に良かった良かった」
紫廉はこくこくと頷き、そう言う。
「しかし、昔はこの程度の羅刹一体にも手こずったっすけど、自分たちも強くなったものっすね。もちろん、油断はしちゃいけないっすけど」
「『情報』と『連携』……それこそが今日まで俺たちを築いていた武蔵坂学園の力だ。その力の勝利を、今は誇ろう」
ギィと逢真も、そう一言ずつ言う。確かに相手はダークネス、しかも3体だったが、誰も重傷者を出すことなく勝つことができた。彼らの力も、以前とは比べ物にならないほど上がっているのだろう。
「さて、ここからが問題じゃ。まずは残った時間で、この場をできるだけ片付けなければいかんのう」
周囲を見渡し、シェリスがそう言う。灼滅者達も気を付けて戦っていたものの、戦場となった式場前は、かなりの荒れ様になっている。
「せっかくの卒業式じゃからな。卒業生が来る前に、ちゃちゃっとやってしまうのじゃ。早速取り掛かるのじゃよ」
その一言を皮切りに、灼滅者による片付け作業が始まった。注意していただけはあり、周囲の被害も従来の半分程度だ。どうしようもない個所もあったが、そこは適当にごまかすことで対処した。
そして、卒業生の登場5分前。とりあえず、式場前は何とか形になった。彼らを迎えることは、十分にできるだろう。
「終わったわね。じゃあ、帰りましょうか」
「始まりの日でもあるこの良き日、素敵な卒業式となりますように」
メルフェスがそう言い、裏ツ花が式場に向けて言葉を送った時、天明とマギが意見を口にする。
「あの……ちょっといい? できれば、卒業生を見ていきたいんだけど」
「あ、マギも見ていきたいです!」
メルフェスは少し考え、彼女たちに言葉を返した。
「じゃあ、ここで解散にしましょう。私はこのまま帰るわね。卒業生を見ていきたい人は、残っていけばいいわ」
その言葉に誰も意見は無く、灼滅者達は解散となった。
その場に残り、近くの影から式場前を見るマギと天明は、軽く会話をしていた。
「マギ、高校卒業ですが卒業式に出るの初めてでございまして……」
「そうなんだ」
「ええ、ずっとお家にいたもので」
彼女たちがそう言い合う中、式場から卒業生たちが出てきた。皆、とても晴れやかな顔をしている。
「うふふ、卒業式は良きものですね! みなさんに幸多かれでございます!」
マギはそう、卒業生たちに言葉を送る。それを見て、天明はつぶやいた。
「……なんだかまだ実感なかったけど、あたしもあと一年くらいで卒業なんだね。早いなぁ……」
そうこうしている間に、卒業生達は写真を撮り合い出した。徐々に、保護者達も集まってきている。
「いろいろ思い出すこともあるけど……うん、あと一年を無駄にしないように。これからもっと頑張っていかなきゃ、だね」
卒業生達を目の前に、天明はそう言って、彼らを見守り続けた。
作者:時任計一 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年2月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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