タタリガミの学園~大鏡に映る血まみれ少女

    作者:かなぶん

     九州宮崎県のとある中学校。
     昼間の賑やかさとは違う、暗くしんと静まり返った、無人のはずの校舎。
     そこに二つの影があった。
    「おら、さっさと終わらせな。ったく、なんでアタシがこんな地味な仕事を……」
     黒曜石の角を持つ女が乱暴に言い放つ。
     するともう一つの影がビクリと震えた。
     羅刹に何かを強要されている様子のもう一つの影。その姿は異様であった。
     ふわふわと宙に浮いた大きな鏡。その鏡面には、まるで鏡の世界から抜け出してきたかのように、血塗れの少女がぶら下がっていた。
     自分を怒鳴りつける羅刹に対し、血塗れの少女は怯えるようにスマートフォンを握り締める。
     モニターにはこの学校の裏サイトの文字が表示されていた。
     大鏡の少女はそこに書き込まれた内容を読み上げる。
    「大鏡ノ、幽霊……真夜中、校舎にある大鏡ノ前に立つと、自分の死に姿、ガ、映る……死に姿が映った、人間ハ、鏡に映ッた死者に、殺される……」
     どこにでもあるようなありふれた学校の怪談話。
     しかしそれはこの瞬間、まるで少女に応えるかのように、現実となって具現化した。
     
     君達が集まったのを確認して、遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)はコックリさんのお告げを話し始めた。
     
     九州の学校で発生していた、七不思議の都市伝説についてはもう知ってる?
     その件で重大な情報がわかったよ。
     武蔵坂学園以外の灼滅者組織の灼滅者が、九州のダークネス組織に拉致され闇堕ちさせられて、利用されていたみたいなの。
     彼等は「タタリガミ」って言うダークネスなんだって。
     元々は「七不思議使い」っていう灼滅者だったんだけど、闇堕ちさせられて、九州の学校で都市伝説を生み出し続けてるみたいなの。
     放っておいたら学校の生徒達がどんどん被害にあっちゃう!
     そこでね、彼等が都市伝説を生み出す為に九州の学校に出向いてきた所を襲撃して、救出する作戦を行いたいと思うんだ。
     
     コックリさんからのお告げでね、みなさんには宮崎県の学校に行って欲しいの。
     だけど、現場には護衛として、刺青羅刹が1人同行してるんだ。
     名前は「アザミ」。日本刀を使って戦う極道の女性だよ。
     気性が荒いんだけど、護衛っていう地味な仕事が不満みたい。
     やる気もないみたいだから、隙を突きやすいかもね。
     そして闇堕ちさせられたタタリガミさんについてだけど。
     その姿は、これまで本人が生み出した都市伝説に影響されて、変化するらしいの。
     今回の敵は「大鏡の幽霊」っていう学校の七不思議が元になっているみたい。
     戦闘になれば、鏡に相手の死に姿を映して見せることで、トラウマを植えつけてくるよ。
     他にも鏡から抜け出して直接相手を引き裂くことも出来るみたい。
     さしずめ都市伝説の強化バージョンといったところだね。
     でもね、その子も元は無理矢理闇落ちさせられた被害者なの。
     刺青羅刹の方はともかく、タタリガミさんの方はまだ戻れるかもしれない。
     みなさんが救出に来た灼滅者である事を訴えて、信じてもらえたなら。
     そのうえで撃破すれば、救出できるってコックリさんが教えてくれたよ。
     だからみなさん、生み出された都市伝説が大勢の生徒を殺してしまう前に、どうかその子を助けてあげて!


    参加者
    彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)
    水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)
    鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)
    倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)
    アリソン・テイラー(アメリカンニンジャソウル・d26946)
    天城・紗夕(蒼き霧の聖女・d27143)
    盾河・寂蓮(泥濘より咲く・d28865)
    月影・瑠羽奈(夜明けの蒼月・d29011)

    ■リプレイ


    「無理やり闇堕ちさせるとかありえない!」
     暗く静まり返った校舎の中、水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)は自分の怒りを口にした。
     強制的に闇堕ちさせられたタタリガミの少女。
     彼女を救出するため、灼滅者達は影に身を潜めその時を待つ。
     すると、二つの気配が近づいてくるのを感じた。
     灼滅者達はじっと気配を殺す。
     ズカズカと無警戒な足音と共に乱暴な罵声が響き渡る。
     恐らくアザミのものだろう。
     その隣に浮遊する影。大鏡と同化した血塗れの少女、あれがタタリガミか。
     七不思議使い、タタリガミなど、気になることは沢山あるが、
    「まずは困っている人を助けないと! 気合いれて頑張りましょう!」
     天城・紗夕(蒼き霧の聖女・d27143)の言葉に頷く灼滅者達。
     海琴は傍らのビハインドと、互いの拳を突合せる。
    「行くぜ助手子、抜かるなよ?」
     アザミは気付く様子もなく、タタリガミを怒鳴りつけている。
     タタリガミが都市伝説を生み出そうとする直前、彼等は飛び出した。
     灼滅者はアザミと大鏡の幽霊を分断するように、両者の間に割って入る。
    「なんだいアンタ等!?」
     完全に周囲の警戒を怠っていたアザミは、咄嗟に鞘から刀を引き抜いた。
     陽気に告げたのは、アリソン・テイラー(アメリカンニンジャソウル・d26946)。
    「ヘイ、キューシュツの出前、イッチョお待ちーでござるヨ!」
     彼女は素早い動きで霊犬のサスケ・サルトビと廊下を移動。
     タタリガミの退路を塞ぐ。
    「邪魔な奴等がぞろぞろと……!」
    「悪いがお主の役目が完遂されることはないのじゃ」
     アザミの前に倉丈・姫月(白兎の騎士・d24431)が立ちはだかる。
    「ちと派手にやり過ぎたのではないかのぅ? それともこれが狙いか? ならば成功じゃ。武蔵坂学園、今この時を以て参上仕る!」
     大切な者を守ると誓った。
     かつての自分と同じく嘆く事すら出来ぬ者を救いたいと願った。
     故に、姫月は解放の言葉を唱える。
    「誓いの焔を胸に……連れ戻す」
    「チッ……オラ、愚図! あんたも戦うんだよ!」
     アザミの言葉にタタリガミの少女は怯えながら頷く。
    「望まぬ悪事を強いられている、か……」
     盾河・寂蓮(泥濘より咲く・d28865)は宙に浮くタタリガミを見上げる。
     ならば此方の声も届くだろう。
    「貴女を、助けに来た」
    「ハッ! こりゃ傑作だ!」
     その言葉にタタリガミは身を強張らせ、アザミは嘲笑った。
    「偽りではない。我々は汝の救出に推参致した」
     鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)は首を横に振り、語り掛ける。
    「我々は組織は違えど同じ灼滅者であり汝を必ず助ける! だから汝も気を強く持て! それがこの戦場で灼滅者として共に戦うと言う事になろう!」
     マテリアルロッド「麗月蒼杖」を構え、月影・瑠羽奈(夜明けの蒼月・d29011)はタタリガミに対峙する。
     最優先目標はタタリガミの撃破。
     少女を救い出す為に。
    「瑠羽奈達は貴女を救いに来ました。少し痛いかもしれませんが、我慢してくださいませ! 必ず、貴女を闇から救い出して見せますわ!」
    「アンタ等正気かい。それともただの阿呆かい?」
     その問いに、敢えて海琴はこう応える。
    「通りすがりの美少女灼滅者探偵! と、その助手だ! 覚えておけ!」
     そしてカードを翳し、叫んだ。
    「戦・嵐・轟・臨!―テンペストイグニッション―」


     怯える大鏡の幽霊に彩瑠・さくらえ(望月桜・d02131)が近づこうとすると、悲鳴を上げて少女は後ずさった。
     彼女はアザミに脅されるまま、灼滅者に襲い掛かる。
     月明かりに照らされる鏡。
     そこに映りこんだのは前衛を担う灼滅者達の死に姿だった。
     血にまみれ、或いは炎に焼かれ、或いは身体を引き裂かれて死に行く自分達の姿が、彼等にトラウマを刻み込む。
     紗夕は即座に床を蹴った。
    「まずは動きを止めてお話を聞いて頂きます!」
     殲術執刀法で急所を見抜き、刃を刺し込む。
     麻痺して動きが鈍ったタタリガミ。
     アリソンがその背後を取った。
    「これがジャパニーズホラーでござるカ? バット、ミーも負けないでござるヨ!」
     忍装束の彼女はニンジャめいた印を結ぶ。
     瞬間、暗闇から伸びた影がタタリガミを飲み込んだ。
     怯え、すくみ上がる大鏡の少女を、瑠羽奈のダイダロスベルト「桜月の夢幻帯」が掠める。
     戦闘を長引かせるつもりはない。
     一刻も早く少女を助けてあげたいから、
    「誤差修正。次は確実に当てますわ」
     鏡を見てしまった紗夕は後ずさる。
     彼女の目に映るのは、滅ぼされた故郷、かつて奴隷にされていた自分。
     そのトラウマが、虚ろな目で紗夕の首を絞めようとした時、
    「……その邪な幻影を祓おう」
     寂蓮の声と共に錫杖の音色が夜の校舎に響き渡った。
     同時に吹き抜ける風が幻を掻き消し、神羅の祭霊光が仲間達の傷を癒す。
    「厄介では有るが、しかし対処可能な範疇でもある!」
     タタリガミとアザミを分断し、灼滅者はタタリガミに攻撃を集中させた。
    「舐めた真似しやがって!」
     灼滅者の背中に切りかかろうとするアザミ。
     その刀を助手子の霊撃が弾いた。
    「邪魔を――ッ!」
    「そら、我から目を離すでないぞ!」
     毒づくアザミの横面を姫月のシールドバッシュが殴り倒す。
    「悪いがお主の相手は我じゃ。この剣より先は一歩も通さぬ。我らは証明せねばならぬ。誰かを救えるという事を」
     怒りを剥き出しにするアザミに姫月は武器を構える。
    「何少しの間だけじゃ、戯れようぞアザミとやら! 倉丈姫月、推して参る」


    「ごめんなさい。今少し、我慢してくださいませ」
     瑠羽奈は杖を振るい、タタリガミを追撃する。
    「アナタ達、も、ワタシを傷、つケルつもりナンだ……ッ!」
     悲鳴を上げて攻撃を繰り返すタタリガミ。 
     トラウマを振り払い、紗夕は少女に近づき、向かい合う。
     信頼してもらえるよう。
     朗らかに、優しく微笑んで。
    「こんばんは。貴方と同じ灼滅者です!」
    「同じ……」
    「ええ、同じです。異形化した私の身体を見たら、きっと驚くかもしれませんね」
     と、気恥ずかしそうに笑ってみせる。
     寂蓮もまた彼女に呼び掛けた。
    「……ダークネスに拉致されたのだ、怖かったよな」
     望まぬ闇堕ちを強要され、
     人を傷つける都市伝説を生み出して、
    「苦しかったよな。俺の声は、まだ聞こえるか。聞こえたなら、信じて、闇に抗ってくれ」
     ピタリ。タタリガミは動きを止め、彼の言葉に反応を示した。
     寂蓮は彼女に誓う。
     必ず、助けると。
     さくらえもまた同じ気持ちだった。
    「キミは、このままでいいの? 意志に関わらずこんな立場に置かれて、その羅刹達の言うままに動かされて、キミが望むキミ自身は、今のその姿なの?」
    「ワタし、の望み、ミ……デモ、らせツ、コワい……」
    「僕は、キミを救いたい。まだ、間に合う。キミが望む、キミ自身を選べる。キミが欲しい未来を選ぶ事ができる」
     さくらえは手を差し伸べる。
    「だから、手を伸ばすから、掴んで、戻っておいで」
    「ワタし、ハ…………」
     困惑するタタリガミの少女に対し、アリソンはニカッと笑ってみせる。
    「ドントウォーリー! 心配ないでござるネー!」
     少女が手を伸ばそうとした時、アザミの怒声が響いた。
    「何ひよってんだ愚図! アタシ等を裏切ったら、わかってんだろうね」
     タタリガミを脅すアザミ。
     その怒声を姫月が遮った。
    「今のお主は救われるのをただ待つだけじゃ。ダークネスの言いなりのまま終わって良いのか? 違うならば証明して見せよ」
     姫月は背中越しにタタリガミへ語りかける。
    「お主は本来こちら側、救う側の人間じゃ。克己せよ。我らは先にて立つ。お主も来るのじゃ、お主ならば出来る筈じゃ」
    「アタシを無視してんじゃないよ!」
     イラつくアザミが刀を振るう。
     しかし斬撃は姫月のワイドガードに阻まれた。
    「それまでは我が剣がお主の盾となり、この背をお主のしるべとしよう」
    「コワイワタシハコワイチガウコワイチガウチガウコンナコトシタクナイ!」
     タタリガミは腕を振り乱し、灼滅者を引き裂き、遠ざけようとする。
     振り下ろされる爪の前に神羅が割り込み、仲間のダメージを引き受けた。
     思わず膝を折る神羅を寂蓮の声が癒す。
    「かたじけない」
    「無理はするな。……チームワークが無い相手なら、必ず好機は訪れる」
     落ち着いた声音。だがその中には熱い意思がこもっている。
     彼女は助けを求めている。
     その気持ちは灼滅者にも聞こえたような気がした。
    「うーし、なんか気合入ってきたぜ!」
     海琴は拳を握り締め、決意する。
    「絶対救出してやるかんね!」


     彼女に声が届いたなら、やるべきことは決まっている。
    「ヘルプするまでファイトでござるネー!」
    「その闇を打ち払ってこそ灼滅者なのさ! ちょっと痛いかもしれないけど、生きて帰りたいなら闘いな!」
     海琴のガトリングガンが回転する。
     銃弾の雨に併せ、アリソンのオーラキャノンが少女を狙い撃った。
     灼滅者に鏡を向け、死に姿を見せようとするタタリガミ。
     しかし眼前に神羅が割り込み、視界を遮った。
    「救出のためにも、その鏡は砕く」
     神羅が拳を打ち込む。
     途端、縛霊の網がタタリガミを捕縛し、自由を奪った。
    「天城殿!」
     合図と共に、紗夕の頭上に輝ける十字架が光臨する。
    「気をしっかり持って! 戻ってきてください!」
     十字架の放つ光が、大鏡を封じる。
     続けざま、瑠羽奈が飛び込んだ。
     舞うような優雅な動きで懐に滑り込む。
     狙いを絞り、ただ一点のみに攻撃を集中させ、
     ザンッ!
     猫を思わせるしなやかさで両手を振り下ろす。
     ――ピシッ。
     緑色の残光を引く斬撃が、鏡に大きなヒビをいれた。
     海琴は一際大きくチェーンソー剣のエンジンを轟かせ、
    「待たせたな! 今助けるから気合入れな!」
     最大威力で回転鋸を叩きつける。
     仰け反る大鏡の幽霊。
     ひび割れた鏡が一瞬、灼滅者の死に姿を映し出す。
     さくらえは大鏡に映る幻に目を細めるが、
    「……残念だねぇ、全然足りない」
     ふ、と不敵に笑む。
     もう、その姿は飽きるほどに見た。
     その悪夢は。その赤闇は。
    「これくらいで参るほど……壊れるほど、ヤワじゃない」
     囁き、妖の槍「叶鏡」を構える。
    「さぁ、時間だ。闇に浸って堕ちていくのは終りだ。僕も……キミも」
    「ジャパンニンポー……ミヌウチジツ!」
     さくらえとアリソンが同時に攻撃を放つ。
     バギンッ!
     二人の攻撃は大鏡を叩き割った。
    「堕ちるだけ堕ちたら、もう上がるしかない。前に進むしか、ないんだ」
     床に落ちた破片が砕け散り、一人の少女が解放された。


    「聖剣よ応えよ。必罰の聖句に依りて疾く葬拠へと誘え! 焔散華!!」
     姫月と切り結ぶアザミは歯痒そうに舌打ちする。
     焦る羅刹の前に、位置を切り替わるようにして神羅が躍り出た。
    「次は拙者の相手をしてもらおうか」
    「くそっ、あの愚図は何やってんだい!」
    「フフン、ミーのシノビパワーにかかれば、一発フィニッシュでござるヨ、ニンニン!」
     吐き捨てるアザミにアリソンが応える。
     灼滅者達の後ろには、瑠羽奈に保護された少女の姿があった。
     己が置かれた状況を察し、アザミは怒りを露わにして背後の窓を叩き割る。
    「最後まで役に立たない子だね」
     ギラリと鈍く光る双眸で灼滅者を睨む刺青羅刹。
    「護衛対象がいなくなればお主の役目も終わりじゃろうて」
     一人残されたアザミに、姫月はスターゲイザーを叩き込む。
     しかし羅刹はそれをいなして窓から飛び降り、夜の闇に姿を消した。
     窓から身を乗り出し、神羅は夜の帳に目を凝らす。
    (討ちたい気持ちも有るが、今は無理をする時でも無いか……)
     深追いはしない。
     灼滅者達は事前に決めた方針通り、撤退したアザミを見逃した。

     アザミが去った後、瑠羽奈が気絶した七不思議使いの少女を介抱していると、やがて少女は目を覚ました。
    「こ、こは……わた、し……」
    「……聞かせてほしい事も、山とある……が」
     混乱する少女に寂蓮は温かいココアを手渡した。
    「先ずは温かい物でも飲んで、落ち着くといい」
     触れた温もりにようやくほっとしたのか、少女は目に涙を浮かべる。
    「何はともあれ良かった」
     安心する神羅の隣で、さくらえは少女にそっと笑んだ。
    「おかえり、なさい」

    作者:かなぶん 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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