タタリガミの学園~山姥の棲み処

    作者:志稲愛海

     ――……ずりっ、ずる……ずるずる、ずる……。

     ねぇ、知っとう?
     学校の外れにある旧校舎に、夕暮れ時に入ったらいかんよ。
     もしもうっかり入ってしまった時は、後ろに誰かの気配感じても……絶対に、振り返ったらいかんとよ。
     もしも振り返って、『ソレ』と目があったら……。

     ――ずり、ずりずり……ずるっずるっ……――ピタッ。
     ――ずるっ、ずるずるずるずるっ、ずりずりずりずりずりずり――ッッ!!

     旧校舎に棲むといわれている『ソレ』……『山姥(やまんば)』に。
     あっという間に追いつかれて、憑り殺されてしまうけんね。

    「ハッ、まるで本物の山姥みたいだぜ。いや、お前等はそういうダークネスだったな」
    「…………」
     ガハガハ笑う『鬼』の言葉に、かぶっているボロ布で一層顔を覆うのは――『山姥』。
     いや、山姥の様に見える、少女であった。
     だが鬼の言うように、地を引き摺るほど長いボロ布を纏い、猫背で歩くその姿は、まさにこの学校に伝わる七不思議のひとつ・『旧校舎の山姥』そのものだ。
     それでも、枯れ木の如き手に握られているデコられたスマートフォンだけが、辛うじて彼女が老婆ではないらしいことを物語っている。
     そう、山姥の少女の正体は――『タタリガミ』。
     伝わる都市伝説を実体化させるべく、この学校の旧校舎へと赴いたわけだが。
    「おいおい、まさか気が進まないとでも言うんじゃねーだろうな? だがな、俺様だってこんなつまんねー護衛なんて任務、早く終わらせたいんだ。さっさとやれ」
     じっと佇むだけの山姥に痺れを切らし、そうけしかける鬼。
     そんな鬼に、少女はこくりと微かに頷いて。
    「…………」
     血の様に赤く染まった夕暮れの旧校舎に、恐ろしい『山姥』を生み出すのだった。
     

    「学校って、暗くなるとなんか一気に不気味な雰囲気になるよね」
     それが単なる怪談話で留まるなら結構怖い話って好きなんだけどさ、と。
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は集まった能力者達を見回してから、察知した未来予測を語り始める。
    「ラブリンスターから寄せられた『七不思議使いの組織』と『刺青羅刹のウズメ』の重大な情報のことは、もうみんなも聞いてる? 九州にある武蔵坂学園以外の灼滅者組織の灼滅者達が、闇堕ちさせられて利用されていたみたいでね。今もその闇堕ちさせられた灼滅者達は、九州の学校で都市伝説を生み出し続けているんだ」
     勿論、そんな状態を放置しておくわけにはいかない。
     そこで今回は、彼らが都市伝説を生み出す為に九州の学校へと出向いてきた所を襲撃し、救出する作戦を執り行って欲しいというわけだ。
    「みんなには、山の麓にある九州の中学校に向かってもらうんだけど。闇堕ちさせられた灼滅者の傍にはね、刺青羅刹の護衛がひとりついてるよ。ガタイが良くて豪腕を誇る、まさに『鬼』のような風貌をしていて。戦闘になると、羅刹のサイキックと、得物の縛霊手とバトルオーラのサイキックを使ってくるよ。そして闇堕ちさせられた灼滅者は、ヒロミっていう名前の中学生くらいの女の子なんだけど。ボロ布をかぶって猫背で歩くその姿は、七不思議の『山姥』のような見た目でね。戦闘になると金切り声を上げながら、得物の日本刀と天星弓のサイキックで襲い掛かってくるよ」
     この少女・ヒロミは闇堕ちし、都市伝説の強化バージョンのような能力を持つ『タタリガミ』というダークネスになってしまっているというが。うまく説得できれば、攻撃を鈍らせることができるかもしれないという。
     いや、それだけではない。
    「無理矢理闇堕ちさせられたヒロミについてはね、自分達が救出に来た灼滅者である事を訴えて、信じてもらったうえで撃破すれば、救出することができると思うんだ」
    「できれば同じ灼滅者として、助けられるのなら助けてやりたいよな」
     遥河の言葉にそう頷くのは、集まった灼滅者のひとり・伊勢谷・カイザ(紫紺のあんちゃん・dn0189)と霊犬ゼロ。
     そんなカイザ達をぐるりと見回して。
    「ダークネスのバベルの鎖に察知されない接触のタイミングは、ヒロミが山姥を生み出そうとした時だよ。それと、現場は学校の外れにある旧校舎なんだけど。時間は日が落ちる頃で、もしかしたらまだ部活で残ってる生徒や教師がいる可能性もあるから、一般人対策もちょっと必要かも」
     そう言った後、遥河は続ける。
    「この学校はね、昔は決して足を踏み入れてはいけないって言われてた山……いわゆる『忌み山』の麓にあるから、こういう『山姥』の都市伝説が今も残ってるんじゃないかなって」
     それがただの七不思議だったら、怖い話ってだけで済んだんだけどね、と。
     遥河はモーヴの瞳を細めた後。気をつけて行ってきてねと、灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    由井・京夜(道化の笑顔・d01650)
    羽守・藤乃(君影の守・d03430)
    或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)
    伊勢・雪緒(待雪想・d06823)
    大豆生田・博士(凡事徹底・d19575)
    深海・水花(鮮血の使徒・d20595)
    九条院・ヱリカ(黒曜石の蜘蛛・d29560)
    荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)

    ■リプレイ

    ●逢魔が時に潜むモノ
     魔物に逢う時刻、とはよく言ったものだ。
     人の心に物寂しさや不安定な気持ちを生じさせる夕焼けの赤は、物の怪の不穏な気配を、無意識的に感じさせる色なのかもしれない。
     そして今はまさに――眩い赤が空に満ちる、そんな逢魔が時。
     灼滅者達が赴いたのは、九州の学校であった。
     忌み山の『山姥』が、夕方の旧校舎を徘徊する……そんな七不思議のある学校。
     だがそれはただの怪談話に留まらず、現実に現われ、人々へ危害を加える存在と成るのだという。
    (「九州の都市伝説の裏にこんな事があったとは驚きだべ。しかも灼滅者組織があるなんてな」)
     仲間やライドキャリバーのしもつかれと旧校舎へ向かう大豆生田・博士(凡事徹底・d19575)は、日に焼けた肌を赤く染める夕焼けに、微かに瞳細めながらも思う。
    (「ラブリンスターが知らせて来たのが妙に引っかかるんだけんども、今は目の前の事件が先だなや」)
     ラブリンスターからもたらされたのは、新しい灼滅者組織『七不思議使い』と『刺青羅刹うずめ』の情報。
    (「無理やり闇堕ちとかさ、姑息で楽しくないやり方されると、ちょっとだけイラってするんだよね」)
     普段から人懐っこい笑みを宿す由井・京夜(道化の笑顔・d01650)の表情も、強制闇堕ちというやり方に、どこか不快な色を滲ませていて。
     新しい灼滅者組織と聞いて羽守・藤乃(君影の守・d03430)が思い出すのは、過去の事件。
    (「殲術病院の方々は……救援にはいけたけれど、救えなかった。あのような思いは二度と……したくないのです」)
     ほんの一瞬だけ、愁う様に瞳を伏せるも。すぐに藤乃は、藤色の瞳で前を見据える。
     必ず、助けますわ――そう、強い決意を胸に。
     その隣には、姉と病院で治療を受け人造灼滅者となった、夕焼け空に傘を差す九条院・ヱリカ(黒曜石の蜘蛛・d29560)の姿も。
     そして、或田・仲次郎(好物はササニシキ・d06741)の下駄が、不意に砂利を踏み鳴らす音を止めれば。
    「さて……無事連れ戻しましょうねーうふふ」
     傷一つ無い艶やかな車体の仮・轟天号に並び、目の前の旧校舎へと視線が向けられる。
     この旧校舎の中に今居るのは、『山姥』と『鬼』。
     正確にいえば、山姥の様な『タタリガミ』の少女と護衛の羅刹だという。
    (「上手くいくか、不安ですけど……威司さんも支援に来てくれてるんです。絶対、大丈夫!」)
     荒谷・耀(神薙ぐ翼の巫女・d31795)は、自分達に力を貸してくれている大切な人を想いつつ、心強く頷いて。
    「俺とゼロも、一般人対策終わったらすぐ駆けつけるな」
    「カイザさん、ゼロさん、皆さん、感謝なのですー!」
    「こちらも合流前に倒れないよう頑張ります」
     他の皆と共に一般人対策を担う伊勢谷・カイザ(紫紺のあんちゃん・dn0189)を、伊勢・雪緒(待雪想・d06823)と深海・水花(鮮血の使徒・d20595)は見送ってから。
     ギイィィッ……と。
     音をたて軋む扉から、旧校舎の中へ足を踏み入れたのだった。

    ●山姥と鬼
     窓から射す夕焼けが強烈な赤を放つ程、旧校舎内の闇は深く濃くなる気がする。
     そんな中、慎重に潜む灼滅者達の耳に聞こえるのは、声。
    「俺様だってこんなつまんねー護衛なんて任務、早く終わらせたいんだ。さっさとやれ」
     それは、護衛の羅刹のものであった。
     そして促された山姥の少女はどこか躊躇いがちに見えるが。
     こくりと、小さく頷く。
    (「出来れば あの羅刹逃がしたりとかしたくないけど……あの子を最優先で助けたいって気持ちもあるし」)
     京夜は羅刹からヒロミへと視線を移しつつ、そう思いながらも。
     まぁ、とにかく頑張ろうか~と、仲間と顔を見合わせて。
    「……!?」
    「! なんだ、貴様等は!?」
     山姥が生み出されるその直前に、すかさずダークネス達の前に立ちはだかる。
     そんな灼滅者達の思わぬ出現に、一瞬驚く羅刹だが。
    「貴様等、灼滅者か! 丁度いい、護衛とかつまんねーと思ってたとこだ。ぶっ殺してやる!」
     より一層フードで顔を隠し後退した山姥とは逆に、好戦的にガハガハと笑んで。殺気漲らせた瞳で灼滅者達を見回しつつ、凄まじい膂力を誇る一撃を繰り出してきたのだった。
     それに続き、弓を番えた山姥から放たれたのは、鬼を強化する一矢。
     だが灼滅者達は、決して怯みはしない。
    「僕らが簡単に倒せるとか思わないでよね」
     京夜は一気に間合いを詰めると、お返しと言わんばかりに、異形化させた腕から放った殴打を鬼へと叩きつけ、羅刹を牽制し立ち塞がって。
    「無理矢理闇堕ちは酷いのです! 大丈夫まだ戻れるのです、だから諦めないでなのです!」
     邪魔はさせないのですよー! と。
     雪緒の指に光る円環から、鬼の動きを制限する魔法弾が撃ち出されると同時に。仲間を守るべく、勇敢に夕焼けの戦場を駆ける八風。
    「ハッ、助けようとしても無駄だ! こいつが山姥になるのも時間の問題だ!」
     灼滅者達の言動からその目的を察し、羅刹は鼻で笑うも。
    「私達がそのような事はさせません」
     お出でなさい、鈴媛――そう紡いだ藤乃の手に、君影草が清かに揺れる銀の大鎌が握られた刹那。楚々と咲いた白き鈴蘭の影が、鬼の身を縛らんと舞い踊る。
     そして山姥へ……いや、ヒロミへと声を投げるのは、下野のヒーロー。
    「東京からここまでヒロミさぁを救えないかと遠路遥々やって来ただよ」
     エンジン音を轟かせ突撃するしもつかれを送り出し、博士は脳の演算能力を高速最適化させつつも。彼女へと、さらに言葉を続ける。
    「おら達もあんた達と同じ灼滅者だべ。おら達の力をこれから見せるから信じて付いて来てもらえるべかな?」
     さらに、唸りを上げ戦場を走るのは、仮・轟天号。
     仲次郎も螺旋の軌跡を描く鋭撃を放ちながらも、ヒロミへと声を。
    「私、名字で人を呼ぶんですよー貴女の名字を教えてもらわない限り諦めたりはしませんよーうふふ」
    「…………」
     だが、掛けられた声にも、無言な山姥。
    (「闇堕ちを強制し、利用するなんて……酷い事を」)
     そして粗暴に笑う鬼の様子に、水花はぐっと強く得物を握った後。
     彼女を解放しないのならば、戦うまでです、と。
     穏やかな中に強い意思を秘めた青の瞳を相手へと向けて。
    「神の名の下に、断罪します……!」
     敵を貫かんと、戦場を舞う帯。
     さらに夕焼けの旧校舎を満たす輝きは。
    「曇天を切り裂く一陣の風……我【穢を払う翼】也!」 
     神薙ぐ翼広げし巫女が黄の勾玉から放つ、加護の光。
    「私達は東京の灼滅者組織の者で、ヒロミさんを助けに来ました。他の仲間も、ヒロミさんの仲間を救出に向かっています」
     耀は前衛の仲間へと耐性を与えながらも、正面から堂々と自分達の素性や目的を明確に伝えて。
    「貴女はまだ、完全には堕ちきってない……今ならまだ、戻れるんです」
     彼女を闇から救うべく、説得を。
     そんな耀に続いて。
    「心が異形に堕ちたとしても、まだ大丈夫。私や、他の皆様の様に、貴女を助ける人が居ますのよ?」
     そう少しだけ、ヒロミに声を掛けてから。
    「御機嫌よう、ダンスのお相手を探しておりますの、一曲御相手願えませんの?」
    「!」
     羅刹へと視線を移したヱリカのその姿は――女郎蜘蛛の姫。
     黒水晶で成された足を、踊るかの様にカサリ波打たせて。巨大な異形の蜘蛛と化した彼女は、肉体を暴走させる薬をその身に打ちながらも、鬼へと笑む。
     かように醜い体ですから、どうぞ遠慮なく怖がって下さいな、と。
     だが鬼は、殺気と戦意をますます漲らせて。
    「いくら何しようがなァ、こいつを人間に戻すなんて、できっこないんだよ!」
    「……!」
     豪腕から結界を構築し、纏めて灼滅者の動きを封じる衝撃を繰り出してくる。
     格上のダークネスの放つ攻撃は、複数を対象としたものでも強烈。
     しかし、誰も倒れぬようにと。
    「八風、皆様を守るのです!」
     主の声に素早く反応したサーヴァント達が身を呈し、咄嗟に前へと躍り出て。
     羅刹の言う事など耳を貸さぬ京夜の、摩擦から生み出された炎纏う蹴りが、戦場を照らしながら鬼へと炸裂する。
     そして、山姥の少女は。
    「…………」
     フードから覗く瞳で灼滅者を見据えながらも。
     七不思議の物の怪の如く、閃く日本刀を振り下ろす。

     ダークネス2体との戦闘は、さすが一筋縄ではいかない。
     だが戦闘に集中できるのは、支援に駆けつけた沢山の仲間のおかげ。
     九州は気になるし何かしら関わっておきたい、と。殺界を形成し人払いをしながらシグマが広げる影が、山姥を逃がさぬよう通せんぼして。
     サウンドシャッターを展開した後、国臣もライドキャリバーと共に、旧校舎へと一般人が近づかぬよう対策を。
     放課後の学校には、疎らながらもまだ人の姿が確認できるが。
    「そろそろ先生見回り来るってよ、怒られんのやだし、早く帰ろうぜ」
     部活が終わった生徒に声を掛けるのは、黒い猫耳パーカーを着た直哉。彼も、地元九州の異変を気掛かりに思っていた一人で。
    「帰るのが予定より遅くなっちゃったから、途中まで一緒に帰らない?」
     靴箱にいた女子生徒を戦場から遠ざけるべく、誘いをかけるいろは。
     新任教師っぽいスーツ姿で巡回しながらも、耀や皆が戦闘に集中できるようにと。旧校舎の出入り口に、「工事中」の看板を置くのは威司。
    「やあやあ伊勢谷、飛鳥井の予知に掛る山姥がどうも一筋縄ではいかないんだつて?」
     そうカイザへと声を掛け、頷いた彼に、手伝わせて呉れ給え、と。
     有無は申し出つつも、旧校舎の山姥へと目を向け、手帳にペンを走らせて。
    「ほんまに、こないな強制的な闇堕ちは嫌なものやね」
     カイザと共に、ちょんっと恒例の挨拶を交わし合った各々の霊犬を伴い、殺界形成で人払いしつつも。念の為、教室をひとつずつ見て回る采。
     千巻もカイザと手分けし、校舎内に残っている人を探して。旧校舎へと一般人が立ち入らぬよう動き、殺界を形成すれば。
     彩も、旧校舎の近くにいた生徒達に、火事がおきたらしいと避難を促して。
     一般人がもしも近づいた際、足止めをするべく、旧校舎周辺を監視する千都。
     さらに旧校舎の入口には。
    (「やれやれ。まさかダブルブッキングになってしまうとは」)
     仁王立ちする、竜鬼の姿が。
     これだけの人数で対策を取れば。一般人が、旧校舎に迷い込む事はないだろう。

    ●人か山姥か
     灼滅者達へと唸る、鬼の豪腕から放たれし強烈な一撃。
     そして響き渡るは、耳を劈く山姥の奇声。
     だが、今はそんな山姥の姿をしていても。
    「私達はあなたと同じ灼滅者です。あなたの仲間も、私達の仲間が救出しに行っています」
     灼滅者達は、山姥の中に在るヒロミ自身へと、声を掛け続ける。
     闇堕ちに対する様々な感情をその胸に抱きつつ。水花は蒼銀のLacrimaを手に、眩き裁きの光条を解き放つ。
    「仲間達と再会する為にも、どうか自身の闇と戦ってください。決して一人では戦わせません、私達も力を貸します……!」
     悪しきものを滅ぼし、善なるものを救う光を。闇を払い、悲しみの涙を拭えるよう……祈りをこめて。
     そして戦場を割く様に流れるのは、彗星の如き一矢。
    「加護を貫け、箒星!」
     その名の通り星を降らせるかの如く、番えた『星降弓【那由多】』から強烈な威力を秘めた矢を解き放ちながらも。
     耀は布陣の後方から羅刹の動向を窺いつつ、ヒロミへと言葉を投げる。
    「私たちの組織は、これまでにも多くの堕ちかけた方々を救出してきました。都合のいい話、と疑われるかもしれませんが……信じて下さい。絶対に、助けます!」
     彼女を、闇から救ってあげるべく。
     だが、そんな声を嘲笑うのは、『鬼』。
    「そいつはもう、見ての通りの山姥だ。何言ったって無駄……、っ!」
    「どうしましたの? 動けませんのぉ? ふふ、まだまだ、これからですのよぉ?」
     そして鬼を貫き、動きに制約を与えたのは、ヱリカの指輪から放たれし魔法の弾。
     徹底的に麻痺漬けにして、動きを封じてやりますの、と。
     女郎蜘蛛の糸にかかったかの様に一瞬動きを止めた鬼の前に、ヱリカは尚も立ち塞がる。
     鬼はそんなヱリカ目掛け、強烈な拳の連打を繰り出すも。
     次の瞬間、あからさまに表情険しくする。
     その視線の先には、一般人対策を終えて駆けつけた、灼滅者達の姿が。
     カイザの清めの風とゼロの浄霊眼が、前に立ち続けてくれた前衛へと癒しを施せば。
     タタリガミの件に関わることができればと駆けつけたイブとヴァレリウスも、回復役を担いながら皆の盾になるよう動いて。
    「皆さん頑張るのです!」
     少しでも皆の、多くの人の役に立ちたい。そして強くなりたい。聖也はそんな気持ちを胸に、皆と戦闘の支援を続けて。
    「ヒロミ様……貴女様は七不思議を自在に操り、人を助ける七不思議使いなのですわ……! お気を確かにお持ち下さいませ……!」
    「七不思議使いさん――ヒロミさんっ、ご自分を飲み込もうとしている「闇」なんかに負けないで……!」
    「救える者は皆救う、それが私達の在り方です!!」
     ミルフィやアリスや春も、ヒロミへ声を掛け、仲間達を支えるべく得物をふるう。
     そんな皆の増援を心強く思いながらも。
    「荒魂よ力となせ!」
     白い毛を夕焼け色に染めながら駆ける八風と共に、雪緒は白椿の如き清らかなオーラを纏い、異形巨大化させた腕からの一撃を鬼へと叩き付けて。
     是が非でも助けたいと、ヒロミへ視線を移す。
     その手にあるデコられたスマホが、彼女の抵抗の現われに見えるから。
     そして。
    「く、ぞろぞろと……! おい、一旦退くぞ!」
     劣勢に立たされ、そう山姥に言い放つ羅刹。
     だが、そんな鬼に負けぬように。
    「君が何を思って灼滅者になったのか、僕は詳しい事は判らない。だけど、こういう風に誰かを傷つけるために、ダークネスのいう事を聞くために灼滅者になったわけじゃ無いよね」
     京夜は攻めの姿勢を貫き、敵を斬り裂かんと鋭利な糸を高速で操りながらも。
    「こんな事したくないなら、少しでもいい抗って。誰がどんな邪魔してこようが、僕が君のその手掴み取って助けてあげるから」
     ヒロミへと、その手を差し伸べれば。
    「貴女に抗う意志がある限り、それが髪一筋ほどであっても……私達は貴女を諦めません。勿論、貴女の仲間だって助けますわ……私達の、仲間が!」
     藤乃も纏う白菫色の陣羽織の裾を靡かせ、藤の簪揺らして。
    「信じて下さい、私達を。そして次は貴女が……貴女の仲間を救いに行くのです。私達と一緒に!」
     思いを乗せた声を響かせ、輪の如く連なる鈴蘭の影を以て鬼を縛らんとする。
     そんな沢山の声に、やはり言葉こそ返しはせず。閃く日本刀で灼滅者を斬りつけるも。
    「…………」
    「どうした!? チッ、役立たずが!」
     その攻撃はどこか精彩を欠き、さらに何故かこの場から離れようとしない山姥。
     そしてその隙をつくのは、仲次郎と仮・轟天号。
    「狙い撃ちますよー」
    「……!」
     キャリバー突撃が炸裂すると同時に、狙い澄まされた死角からの仲次郎の斬撃が敵を捉えて。
    「戻りたい意志を貴女から感じられますー、嘘だとお思いですかー? では、何故攻撃の手を緩めたりしたんでしょー。それが証拠ですー」
     返答こそないが、明らかに様子に変化が見えるヒロミへとたたみこむ。
    「武蔵坂学園以外にも灼滅組織はあるのですよー貴女は一人じゃありませんー」
     そして、一向に動かぬ山姥を見限って。
    「くそっ!」
     戦場から一人撤退をはかる鬼。
     そんな鬼もできれば撃破したいと、しもつかれと迂回し、退路を封鎖追撃すべく動こうかとも思った博士だが。
     救うべき相手へと、真っ直ぐに視線を向けて。
    「これでとどめだべ! しもつかれ、一緒に突撃だぁ! キャリバー突撃&ご当地男体山ダイナミッッックッッッ!!」
    「……ッ!!」
     大爆発させた下野のご当地パワーを、全力で山姥へとぶつけたのだった。
     その攻撃をモロに受け、ずるりと、山姥は地に崩れ落ちて。
     そこに居るのは物の怪ではなく……一人の、灼滅者の少女であった。

    ●七不思議使い
    「まずは身体を癒して下さい」
    「お疲れ様、おかえりなさい」
     コートを掛ける藤乃と、心霊手術を施す京夜に、ヒロミはぺこりと頭を下げてから。
    「その……ただいま、です」
     少し照れたように、ぽつりとそう答えて。
    「ヒロミ君、貴女の名字はなんですかー?」
    「あ……貴方の、お名前は?」
    「これは失礼ー。まずは名乗らないとですよねー」
     私は或田・仲次郎、ライドキャリバーは仮・轟天号ですよーと。答えた彼に、彼女も口を開く。
     私は『七不思議使い』の、国東(くにさき)・広美です、と。
     そんな彼女に仲次郎も微笑み返し、そして続ける。
    「国東君、武蔵坂学園に歓迎しますよーうふふ」
     それから春がヒロミへ、学園の事や様々な情報等をまとめたノートを手渡す中で。
     ヒロミさぁを救えて良かったべな、と。博士は改めて彼女に視線を向けながら。
    「『七不思議使い』っちゅーあんた達の事教えて貰えるべか?」
     そう、新たな灼滅者『七不思議使い』について尋ねてみる。
     ヒロミはそんな博士の問いに、これからゆっくり私達のことお話しますねと、こくりとすぐに頷いてから。
     貴方達のことも教えてください、と――そう続けるのだった。
     これから一緒にダークネスと戦っていく灼滅者の仲間の事を、互いに知りたいから。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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