羽の生えたネコちゃんが夢に出てきたよ!

    作者:空白革命


     ネコミミをつけた半裸のおっさんが羽根をはやして飛んでいた。
     ビキニパンツからごそごそとバタフライマスクと変な棒を取り出すと、そっと自分に装着した。
     棒の先端に肉球がついたキャワウィイステッキをくるくるやって、おっさんはキャワイイポーズをとった。
    「あなたの夢に、ト・ツ・ゲ・キしちゃうニャン☆」
    「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
     こんな光景をかれこれ数日間ぶっ通しで見続けていた少年は、自分の頭を地面にガンガンぶつけながら抵抗した。
    「さめろぉー! 夢さめろぉー! いつまでこのおっさんと一緒に居させられてんだにゃあああああああん!」
    「それは無理だニャン」
     ダンディな声で囁くネコおっさん。
     ふと気づくと、少年は両手に肉球グローブ、頭に猫耳がはえていた。
    「君が絶望の淵に落ちるまで、おっさんはこの夢に捕らえ続けるニャン☆」
     

    「えーっとふんふんふふふーん……」
     遥神・鳴歌(中学生エクスブレイン・dn0221)はこっくりシートに十円玉をぐりぐりしていた。
    「ね……こ……おっ……さ、ん。……ねこおっさん! ファッ!?」

     ナルさんが言うには、力あるシャドウ『ドリームおっさん』に苦しめられている少年がいるんだそうだ。
     シャドウというのは夢(ソウルボート)を操るダークネスだ。
    「現実時間じゃ一晩眠ってるだけなんだけど、本人感覚でかれこれ数十時間ぶっ通しで閉じ込められているように感じてるみたいなのよ。ただ閉じ込められてるだけでもイヤなのに、ずっとおっさんが鬱陶しいアプローチをし続けてくるんじゃ心がブレイクしちゃうよね」
     というわけで、我々のミッションは彼の夢に入ってドリームおっさんを撃退することである。
     まあゆーてもシャドウなので灼滅することはできないのだが、流石にぽこすか殴られてまで居座りたい場所ではあるめーよ。
    「でもね、この『ドリームおっさん』は力あるシャドウってだけあってそれなりに手強いのよ。具体的に言うと……自分のペースに巻き込むのがうまいの」
     この夢に入った時点ではまだそれほどでもないが、時間がたつにつれ『なんかネコっぽくなる』という現象が起き始める。
     あんまり時間をかけすぎるとなんか戻れないところまで行きそうなので、頑張ってソッコー戦をきめたい。
    「これでもシャドウ。手強いし実際的にも強いよ。みんな、頑張ってにゃん!」


    参加者
    喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)
    愛良・向日葵(元気200%・d01061)
    氷室・翠葉(キュアブラックサンダー・d02093)
    犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)
    大條・修太郎(一切合切は・d06271)
    下総・水無(少女魔境・d11060)
    揚羽・王子(始めました・d20691)
    ハチミツ・ディケンズ(無双の劔・d21331)

    ■リプレイ

    ●真面目に考えたら負けのゲーム
     恐ろしきシャドウ、ドリームおっさん。
     彼の空間に巻き込まれた者は、ついつい彼のペースに巻き込まれてしまう。
     よりによって今回はネコちゃん空間ではあるが……。
    「今話題のネコサヴァの依頼だと思った人、挙手」
    「はい……」
     犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)に続いて、ハチミツ・ディケンズ(無双の劔・d21331)がそっと手を上げた。
    「違いますのね」
    「ノータイム予約からのトラップ発覚からの『でも後悔なんてしない』モードまで余裕だった」
    「でも、手強いシャドウだそうですし」
    「だから万全の準備をしていこう。相手のペースに乗せられないために……ワン☆」
     犬耳つけた氷室・翠葉(キュアブラックサンダー・d02093)がポージングした。
     両手をこまねいて片足をあげてウィンクした。
    「犬耳をつけるだけでは留まらないよ。今の僕はオンナノコ。おっさんよりも絶対可愛いから!」
    「ネコには犬耳で対抗だぞー、これでどーだー!」
     えいやーといって愛良・向日葵(元気200%・d01061)は犬耳を装着した。
    「これでネコにはならないよね!」
    「ええ、なにせネコの天敵はイヌ! きっと気合いは入れやすいでしょ!」
     したがえた杣と共に明日を指さす喚島・銘子(空繰車と鋏の狭間・d00652)。
    「勿論私もイヌって行くわ。きっと驚くわよ」
    「そうだともぅ!」
     犬耳ポリスの下総・水無(少女魔境・d11060)がポージングした。
     両手をこまねいて片足を上げてウィンクした。翠葉とのシンメトリーポーズである。
    「このワンワンポリス水無ちゃんが成敗してくれましょう!」
    「フッ、僕も今回は……全力ですよ」
     猫耳をつけた大條・修太郎(一切合切は・d06271)が眼鏡を押さえつつ振り返った。
     猫耳をつけた大條・修太郎(一切合切は・d06271)が眼鏡を押さえつつ振り返った。
     猫耳をつけた大條・修太郎(一切合切は・d06271)が眼鏡を押さえつつ振り返った。
    「……」
     その間、2秒。
     揚羽・王子(始めました・d20691)が穢れ零パーセントの顔ですぅっと割り込んだ。
    「しかし面妖なシャドウじゃのう。なぜこうなったのかぇ……?」
    「ねえ僕、僕の耳がほら」
    「ああ、囲んで叩いてぶっ飛ばす」
    「ねえほら」
    「いくぞー!」
     拳を突き上げてぴょんぴょん跳ねながら進む向日葵たち。
     修太郎は眼鏡をなおし、明後日の空を見上げた。
    「東京は、冷たい町なわけで……」


     ダンディなおっさんがパンイチで浮いていた。
     かなり想像力に任せてしまって申し訳ないが、パンイチの猫耳ダンディがひたすらちょっかいかけてくるだけの夢なんてみたら、次の日どっと疲れそうな気が、しなかろーか。
    「さあおっさんの夢に屈するニャン☆」
    「いやああああああああああ!」
     頭を抱えてフルスイングする少年。
     そこへ、犬変身した銘子とハチミツ、でもって杣が飛び込んできた。
    「わんわん! わん! わんわん!」
     ドリームおっさんへと吠える吠える。
     修太郎はその様子を冷静に(猫耳つけて)観察しながら、ぽつりと呟いた。
    「いや、猫耳つけてるからってイヌを怖がるわけないでしょ。ダークネスだよ?」
    「いやああああああワンちゃんこわあああああああい!」
    「えええええええええええ」
     ドリームおっさんは頭を抱えて丸くなり、冷蔵庫の上の狭い空間にぴったり収まってぷるぷるし始めた。
     流れる手際でぷるぷる少年をがっつり取り囲み、子ペンギンのコラ画像かなってくらいよってたかって励まし始めた。
    「しっかりするのじゃ、おぬしは人間じゃ!」
    「わたくしたちはあやしいものじゃありませんわ」
    「だいじょーぶ、助けに来たんだからねー!」
    「ネコおっさんはボコる」
    「変態はタイホしちゃいますよ!」
    「ご奉仕ご奉仕♪」
    「気を強く持ってね、はい狼の人形」
     そんな風に囲まれた少年を遠目に見ながら、修太郎はぽつりと呟いた。
    「そんなにいっぺんに話しかけられたら少年困っちゃうでしょ。ほら隅っこで見てればいいし」
    「ありがとう僕わんちゃん大好き!」
    「ええええええええええ」
     おおかみさん人形を抱っこして部屋の隅っこにスキップしていく少年(18歳野球部主将)。
     修太郎は暴徒鎮圧を本職にした宇宙人みたいな顔で廊下へ出た。
    「うぐぐなぜなんだ、なぜこうも物事がうまくいくんだ。こんなんじゃ一般人を守りたくなくなっちゃうよ」
    「それはおっさんのペースに巻き込まれているからニャン☆」
     ぽんと肩を叩くおっさん。
     ローマ帝国の人かなってくらい彫りの深い顔つきで、尚且ついい顔で言った。
    「ネコっぽい気まぐれさと軽さが場を支配しているニャン☆」
    「『ドリームスペース』ってそういうのなの? 自分はネコじゃないって言い聞かせれば勝てるやつじゃないの?」
    「自分はネコじゃないと言い聞かせれば言い聞かせるほど術中にはまっていくニャン☆ ほら見るニャ☆」
     部屋に戻ってみると、なんかもう既に場ができあがっていた。
     どのくらいできあがっていたかっていうと……。
    「残念だったな、俺はカピパラ派だにゃーん! にゅあ!? フン、俺は何も言っていないが……?」
     ひたっすら起き上がり式パンチングボールに蹴りを入れながら、急にすまし顔でキリッとする沙雪。
    「私はネコじゃないもの、だから語尾をわんにするわよ! わん、わんわん! 私は喚島銘子だわん! 変態死すべしだわん!」
     四つん這いでフシャーフシャーしながらおっさんに威嚇する銘子。
    「怪我したらすぐ回復だぞー! いーやしーのやー!」
     そんな銘子のこめかみにひたすらほおずりする向日葵。
    「あっ、ああっ、違うからね、僕は変態じゃないんだから。ほら可愛いでしょ? 可愛いし変態じゃないでしょ? 気持ち悪くないでしょ、ねっねっ?」
     目をくりっくりにして首を傾げてみせる翠葉。
    「さー出すよ出すよ出しちゃいますよ私の最終兵器! はいっ、ペットボトルに水つめたやつ! 水……水……あれ、私が沢山居る!?」
     ペットボトル相手にひたっすら威嚇のポーズ(荒ぶる水無のポーズ)を繰り返す水無。
    「落ち着くのじゃ。語尾をにゃあにしにゃければいいにょじゃ! にょじゃ!? わらわのごびがおかしくにゃっとる!? にゃ!? にゃ!?」
     自分のしっぽを追いかけてくるっくる回る王子。
    「ククク、相手にとって不足はねえなあ! あたしらが相手になってやんよオラァ! かかってこいよオラァ!」
     ティッシュペーパーを引っ張り出し続けて軽く山とするハチミツ。
     一連の様子を、修太郎は真顔で見つめていた。
    「……ていうか、なんで僕だけ普通なの」
    「元々そういう性格なんだと思うニャン」
    「そんなばかな、学園じゃこんなことなかった」
     さっきの顔に戻る修太郎。彼もまた、ドリームスペースの術中にはまっていることに、自分では気づいていなかった。


     はたと気づくことがある。
     犬耳、いみなくね……?
    「はっ!」
     佐藤さん(ナノナノ)を抱えて転がしていた翠葉は、急に我に返って周囲を見回した。
     そして、自分はネコじゃありませんよという主張を全身でするネコ人間たちに囲まれていることに気づく。
    「ンー?」
     小指を立てて紅茶をたしなむドリームおっさんと目が合った。
    「やはり灼滅者には効き目が長く続かないみたいだニャン」
     すっくと立ち上がったおっさんに、翠葉は例のポーズで対抗した。
    「ここからは、力と力の勝負だニャン☆」
    「望むところだワン☆」
     翠葉はあざといポーズからの断罪輪を発射。何がどうなってるのか、しらないし、そうぞうもできないな。もし想像できてしまったらあなたの未来にご奉仕するにゃん。……あれから十年か。
    「ご奉仕ご奉仕!」
    「ニャン!」
     繰り出されたリングをネコパンチではねのけるおっさん。
    「皆、やっと正気にもどったか。まったく待たせてくれるよ」
     自分は最初から正気でしたがという顔で槍を振り回す沙雪。
     上下二段にかけて繰り出される払い打ちをジャンプと屈みでかわすおっさん。下段から繰り出すネコパンチを槍で受け、沙雪はこじりによる連撃を繰り出した。
     それを腕のガードでしのぐおっさん。
     半裸にもかかわらず格ゲーか何かかなってくらい血が出ない。
    「そこよっ!」
     バックステップで距離をとったおっさん……の背後から、ミサイルキックを繰り出す銘子。
     おっさんを蹴り飛ばし、反動でムーンサルト着地。
    「不覚をとったわ。にゃーんとか言ってる場合じゃないわん!」
    「わん」
     後ろから軽く威嚇射撃をしかける杣。
     射撃を交わしつつごろごろと転がるおっさん。すっくと立ち上がり、前髪をかきあげた。
     そんな彼の左右。木箱やら段ボールやらを突き破って飛び出してくる修太郎と水無。
    「知らないのか、猫耳とステッキとくればあとはスーツと決まっているのを!」
    「青少年に延々パンイチおっさんの夢をみせることゆるすまじです! くらえー!」
     修太郎の百烈ネコパンチと水無のペットボトルスイングが同時に炸裂。
     おっさんはスマブラかなってくらい振り回された後、二人を掴んで天空に投げは放った。
    「おっさん、タイフーン!」
    「「うにゃあああああああ!?」」
     軽く服だけ引き裂かれる修太郎と水無。
    「はっ、いけない! いくら青少年の夢だからと言って私のナイスバデーを晒すわけに……ん?」
     よく見ると、水無の肩や脇腹の服ちょっと破れてるだけだった。
     少年誌OKのやつだった。
     そしてふと見ると、修太郎がほぼほぼ全裸だった。
     成人誌レベルのやつだった。
    「なぜそっちを脱がせたんですかねえ!?」
    「なんでだろうねえ!?」
     股間と胸(意味ない)を両手で隠す修太郎。
    「だいじょーぶ! すぐに回復するよー!」
     向日葵はよいしょよいしょと大きなうちわをあおぎ、修太郎たちに『なんか癒やされる風』を当ててやった。
    「きもちいい? もっとやる?」
    「なんでだろう。見た目の派手さが全くないのにいつまでも受けていたい」
    「よーし、がんばるぞー!」
     にこにこしながらうちわをぱったぱったやる向日葵。
     そんな光景を背に、ハチミツは剣をかついだ。
    「けっ、ンな空間にいつまでもいられるかよ! さっさとケリつけてやんぜ! なあババロアぁ!」
     ババロア(ナノナノ)のふわふわはーと(なんかふわふわする空気だと思いねぇ)を背に受けつつ、おっさんへと斬りかかるハチミツ。
     おっさんは巨大なねこじゃらしで剣をはじくと、変幻自在のねこじゃらさばきでハチミツへと襲いかかった。
    「うりゃ」
     横から飛び込み、ねこじゃらしをたたき落とす王子。同じように飛び込んできた病葉と一緒にさらなるねこじゃらあたっくをべしべしたたき落とすと、大きな鏡を二人がかりで開いて見せた。
    「ていっ。己の姿を見つめ直すのじゃ」
    「これは……!」
     ハッとするおっさん。
    「……うつくしい」
    「予想外の反応じゃのう。しかし――今じゃっ」
    「隙だらけだオラァ!」
    「にゃあああああああああん!」
     ハチミツに切り裂かれ、ドリームおっさんは両手で胸を押さえるポーズで吹き飛んだ。
     なんで胸を押さえたのかは知らん。
     でもって乙女座りで地面に倒れると、親指の爪を噛みながらこちらを見た。
    「灼滅者、聞いてたよりずっと強くなってるニャン。今日は……このくらいにしておこう。さらば!」
     地面にネコ型の煙玉を叩き付けると、おっさんは激しい煙と共に消えた。

    「いやあありがとうございますにゃん! 一時はどうなることかと思いましたにゃん!」
     こたつに身体半分突っ込んだまま手元でボールをもてあそびつつ、少年はンなことを言い出した。
     後遺症が残ってるのか元からこうなのか知らんが、どっちにしろそんなに害はなさそうだなあと思ったので深く追求するのはやめた。
    「じゃ、じゃあお元気で」
     灼滅者たちはお互いの顔色をうかがいながら、少年の家をあとにする。
     だが彼らの胸にある思いはひとつだ。
     そう。
     ……ネコネコしくなってた間のこと、みんなに見られてないよね?

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 12/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ