バレンタインだ、チョコモッチアK登場

    作者:聖山葵

    「兄者ぁぁぁ、あんまりじゃぁぁ!」
     うおーんおんおんとベッドに突っ伏して号泣しているのは、一人の少女だった。
    「わしを一人置いてゆくなんて……幾らバレンタインが近いからとは言え、わしのような引っ込み思案さん一人でどうやってチョコ餅布教活動をすればいいんじゃぁぁ」
     口調と泣き方はさておき、見た目はスタイル抜群の美少女と言って良い姿ではあるのだが、その身体へ変化が訪れたのは数秒後のこと。
    「も、もっぢぃぃぃ!」
     肌が褐色に染まり、肉体が膨張、筋肉質の大男を無理矢理性女にしたかのような姿へと変貌を遂げる少女に着ていた服は内圧ではじけ飛ぶ。
    「もっぢああああっ! 兄者ぁぁぁっ!」
     そのまま、ご当地怪人と化した少女というか漢女は、部屋のガラス戸へ突き破り、外へと飛び出していったのだった。
     
    「一般人が闇もちぃしてご当地怪人になる事件が起ころうとしている。今回はチョコ餅だな」
     君達を前に何故かタートルネックの穴から胸を出した座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)はそう明かし、出来ればこの少女の救出を頼みたいのだよと続ける。
    「本来なら闇もちぃした時点で人の意識は消えてしまうはずなのだが、一時的とはいえ、消えずに持ちこたえるようなのでね」
     もし救うことがかなわないならば、完全なダークネスになる前に灼滅を。それがはるひからの依頼だった。
    「問題の少女の名は、持戸・千代(もちこ・ちよ)。中学二年の女子生徒だな」
     一緒にチョコ餅の布教活動を行っていた兄が居なくなってしまったことで不安と悲しみに押しつぶされてしまった千代はご当地怪人チョコモッチアKと化し、部屋を飛び出すのだと言う。
    「ちなみに、Kは漢女のKだな」
    「居るの、その補足情報? そも、はるひ姉ちゃん、その格好――」
     はるひの言に突っ込んだのは、鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)。君達同様はるひに呼ばれていた灼滅者だ。
    「ともあれ、闇もちぃした一般人を救うには戦いを避けられない」
    「ちょ、オイラの指摘スルー?!」
     戦ってKOする必要があるからなのだが、ツッコミは不可避ではないと言うことなのか。
    「戦闘になればチョコモッチアKはご当地ヒーローとバトルオーラのサイキックに似た攻撃手段で応戦してくる」
     闇堕ち一般人と接触し、人の心に呼びかけることで戦闘力を減退させることが出来るので、戦闘で手こずるようならこの時説得してみるのも良いだろう。
    「戦いを早く終わらせるにもな」
     ちなみに、千代の闇もちぃだが原因は兄が留学して遠くに行ってしまったことに対する寂しさと不安が殆どなので、自分がかわりに支えてあげる系の説得を試みれば効果は大きいだろう。
    「まぁ、感激して抱きつかれたり接吻されるかもしれないがね」
    「え゛」
     まぁ、見た目は漢女だが、元の姿は美少女なのだ。
    「最後にチョコモッチアKとの接触だが、私は家のすぐ外での待ち伏せを推奨する」
     バベルの鎖に察知されることもなく、屋外なので戦闘の後かたづけに困ることもない。
    「家も近いのでね、着替えを用意するのも容易だろう」
     ちなみに、服を破いた下にもご当地怪人の時は黄色いレオタードを着用している。元に戻ると裸になってしまうのだが。
    「そう言う意味で少年のような女の子がいてくれて良かった」
    「解って言ってるよね?」
     和馬のジト目にさらされつつも動じず、はるひは君達に宜しく頼むと頭を下げるのだった。
     


    参加者
    赤威・緋世子(赤の拳・d03316)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    イルル・タワナアンナ(勇壮たる竜騎姫・d09812)
    卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)
    客人・塞(荒覇吐・d20320)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262)
    天輪・ソラ(自由正義の刹那・d30895)

    ■リプレイ

    ●信頼
    「今度の闇もちぃはチョコ餅か」
    「闇もちぃって用語、すっかり定着しちゃってるね。それだけお餅って日本の食文化に定着してるって事なんだろうけど」
     塀の上でマフラーをなびかせつつ口を開いた吉国・高斗(小樽の怪傑赤マフラー・d28262)の呟きに、卯月・あるな(正義の初心者マーク・d15875)は民家の窓へと目をやってから、ふいに仲間達の方を振り返った。
    「あ、ボクは芋餅が好きだよー☆」
    「や、誰も聞いてないからね?」
     とりあえず、鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)がツッコミを入れたのは、どうしても指摘しておかなければいけない気でもしたのか。
    「あ、居た居た。毎度の事ながら和馬も外見で間違われるなんて大変だよね」
    「えっ、あ、うん」
     ともあれ、応援の灼滅者に声をかけられ思わず頷きを返した直後であった。
    「元々は美少女らしい漢女さんが間違いをしでかさない様にしないといけないし、灼滅者として正気に戻った時に困るだろうから、ここは誰の目からも見てもきちんと性別をアピール出来る服装をいろはがしっかりと見繕ってあげるよ」
    「うぇっ? 間違いって、あちょ」
     襟首を掴まれ、頷いた少年が物陰まで連行されていったのは。
    「それ、女物だよね? スカートだし、下着も。や、『ぐっ』じゃなくて、ちょっ」
    (「チョコモッチア、なぁ……。なぜかレオタード姿の中年男性が脳裏を過ったが、今回はまともそうで良かった。なんだか可哀想だし、さくっと救ってやらねぇとな」)
     物陰から聞こえた悲鳴はなかったことにし、赤威・緋世子(赤の拳・d03316)が、救うべき少女の家を見つめてひとつ頷けば。
    (「……同情した方が良いのやらしない方が良いのやら」)
     おそらく物陰に連れ去られた誰か以外の境遇を思い、胸中で呟きを漏らした月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)は足を止めた。情報通りなら、さほど時間をおかず闇もちぃした少女がガラス戸を突き破って外に出てくる筈である。
    「いよいよだね」
     あなたどちらのマフィアさんとでも言われそうな格好で天輪・ソラ(自由正義の刹那・d30895)は呟き。
    「ええと、ただいま」
    「おかえりじゃ、和馬殿。時に闇もちぃ由来のご当地餅ヒーローは今何人おっ」
     物陰から戻ってきた少年に問いかけたイルル・タワナアンナ(勇壮たる竜騎姫・d09812)は、エクスブレインと似た服装でスカートを履いた和馬に絶句すると、視線を仲間達と同じ方へ戻した。

    ●出現
    「うむ、千代殿の見聞を広めチョコ餅愛を深める為にも是非彼女らと引き合わせたい物じゃな」
    「や、流さなくて良いから。笑いたければ笑ってよ」
     スルーし自身の言葉に頷いたのは、気遣いだったかも知れない。ただ、強いて言うなら和馬が救出に関わった元モッチアはごく一部、その質問ははるひにすべきだったか。
    「鳥井さん、頼りにしていますね」
    「あ、うん」
     ともあれ、闇もちぃした少女を救いたいという点で目的は一致していて、風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)もまた、頷いた少年を見つめ、更に言葉を続けた。
    「『強引な女性』に対峙するという経験の量については鳥井さんの右に出る男の子は学園でもほとんどいないでしょう」
    「ええと、否定はしないというか、問題の人と接触する前にこんな格好になってる訳だけどさ」
    「あなたならきっとすべてを受け止めてあげられると私は信じてる」
     何とも言い難い表情の少年は、優歌の言に数秒何かを言おうとする様に言葉を探して視線を彷徨わせ、最終的に諦めた。
    「もっぢああああっ! 兄者ぁぁぁっ!」
     ガラス戸が内から破られたのは、まさにその時。
    (「確かに元々特徴的な喋り方みたいなんだが……闇堕ちで姿がここまで変わるもんなのか」)
     声には出さず客人・塞(荒覇吐・d20320)が目を見張る。
    「もちぃぃ、ふしゅるぅぅぅっ」
    (「人外姿に闇堕ちするやつを思うとましな方なんだろうが――」)
     本当にこれが少女、と二度見するのは必須であろう筋肉質の大男を無理矢理性女にしたかのような姿。
    「――自由正義を執行する」
     すかさずソラはスレイヤーカードの封印を解き。
    「兄貴がいなくなってから、ずっと一人で悩んでたみたいだな」
    「だ、誰もちぃ?」
     最初に漢女もとい、ご当地怪人へと声をかけた勇者は、高斗であった。
    「千代っつったな。チョコ餅は俺も好きだしよ、兄貴が戻った時に立派にやってるって見せてやろうぜ! 勿論俺は可愛い後輩を手伝うぜ?」
     おそらくまだ事態に理解が追いついていないであろうご当地怪人チョコモッチアKに向けて、突然協力を表明したのは、緋世子。
    「緋世子の言うとおりだぜ! 今この時より俺達が千代の力になってやる!」
     高斗もこれに同調し。
    「っ、も、もちぃ」
     望んでいたはずの助けを前に元少女は後ずさる。
    「きょ、協力してくれるなんて願ってもないもちぃ。これはチャンスもちぃ。けど、わしのような引っ込み思案さんには初対面の人とお話なんてハードルが高すぎるもちぃ」
     全部口から出ているせいで、理由は問いただすまでもない。ならば、灼滅者側から語りかけ続けるだけのこと。
    「千代殿、兄上殿の想いが如何程か……今も覚えておろ?」
    「っ」
    「お兄さんだって千代ちゃんを残していく事について悩んだと思うよ。それでも、千代ちゃんにたくさんお友達を作って欲しいから千代ちゃんを信じて留学する事にしたんじゃないかな」
     イルルの問いかけに肩が跳ねたのを見てあるなは言葉を継ぐ。
    「信じ、て……もちぃ?」
    「勿論です。あなたのお兄さんはあなたを信じてると思う」
     反芻する元少女へ、優歌も頷きを返し。
    「兄と妹はいつか必ずそれぞれの道を歩き出す。それは見捨てるということじゃない、しっかりと歩いて行ける相手を信じるということ」
    「兄貴がこれから何かをなそうって時だ、寂しいのは分かるんだが、少しでいい。応援してやる気持ちにはなれないか? もう会えないわけじゃないんだろ?」
     今度は優歌の言葉を引き継ぐ様に語りかけ塞が問う。
    「そ、それはそうもちぃけど」
     話に引き込まれた少女は、引っ込み思案という壁さえ忘れた様に、もじもじしつつも首を縦に振った。
    「だから持戸さん、胸を張って」
     そのまま説得を続ける好機と見たのだろう。優歌はまごつく漢女の背を言葉で押し。
    「美味しいものをみんなに教えてあげようとする、あなたはそういう優しい女の子なんだから」
    「うぐ、わしはわしは……」
     ぽたり、ぽたりと元少女の頬を伝ったものが、レオタードに落ちて染みになる。
    「大丈夫。ボク達で良ければ友達になるから」
     歩み寄ってあるながぎゅっと手を握ったのは、ダメ押しか。
    「う、うぅ、うおぉぉぉん、もっっちぃぃぃ!」
     堰を切ったかの様に泣き出しつつ、漢女は両腕を広げ。
    「行け! 和馬。お前の漢気を見せてやれ!」
    「臆するでない! 本来は美少女ぞよ!」
    「え゛? あ、ちょ」
     何人かの心が一つになった瞬間、押し出された一人の少年は、犠牲になった。

    ●戦い
    「そんじゃ、試練開始もちぃ!」
    「もべばっ」
     幾人かはまだかける言葉を持っていたが、そも戦いは避けられなかったのだ。言うが早いか、緋世子が跳び蹴りを見舞ったのが、戦いの始まりだった。
    「助かったぁ」
     ある者にとっては解放。
    「い、いきなり何をするもちぃ!」
     ご当地怪人にとっては不意打ち。
    「いつの時代も、新興勢力は既存の勢力を前に相当の苦労をする」
     千尋は銀槍【終の穿影】を握りなからご当地怪人を見据え、言う。
    「その困難を乗り越える気概があるのなら、真正面から向かって行けばいい」
    「ぬぅぅぅ、そう言うこともちぃか」
    「ああ。布教したいと願う強い信念があるなら耐えてみると良い!」
     試練という言葉と千尋の語りで理解が追いついたか、チョコモッチアKは獣の様に笑い、直後、捻りを加えた一撃がその身へ突き立った。
    「もぢおふぉっ……ぬぅ、良い一撃もちぃ」
    「うぬぬ、引っ込み思案さんとは何じゃったか……ともあれ」
     どう見ても戦士の表情をした元少女に、ポツリともらしつつもイルルはエアシューズを駆って後ろへ飛び退く千尋とすれ違う。
    (「千代殿の兄上が悲しむ事は断固避けねばのぅ」)
     ローラーの摩擦が生んだ炎に足を包みながら肉迫し、問うた。
    「千代殿、兄上殿の想いが如何程か……今も覚えておろ?」
    「無論じゃ、もちぃぃ!」
     答えは力強く、されどご当地怪人から感じる威圧感は現れた時よりも弱く。
    「も゛ぢっ」
    「こっちもいくぜ、赤マフラーナックル!」
    「もべぶっ」
     あるなの撃ち出した魔法光線が二の腕を貫き、高斗に殴り飛ばされても尚、元少女の顔には笑みがあった。試練という言葉に納得してしまったからだろうか、一方的に袋叩きにされて笑っていられるのは。
    (「持戸さん、勢いに流されやすい人なのかも知れませんね」)
     戦いは続き、殲術道具に炎を宿し、味方の構成に加わりつつ、優歌は思う。
    「俯かず真っ直ぐに前を見て、そうすればきっと手を取り合える人がいるから」
    「ぐぅ、手を……取り、合える」
    「え゛」
     身を焼かれつつも言葉に従って顔を上げたご当地怪人が見たのは、先程抱きしめていた誰か。
    「友達にチョコ餅の美味しさを教えてあげれば、それって布教になるよね?」
    「そうもちぃ」
     そして、手を握ってくれたあるな。
    「安心しろ。君は一人じゃない。もう、一人で悩まなくてもいいんだ」
    「ぐ、そうもちぃぞい」
     いや、二人だけではない。協力を申し出てくれた灼滅者達の顔を一人一人見つめ、ソラにすれ違いざま急所を斬られながらもかけられた言葉に頷いた。
    「そうじゃ、それでも寂しく不安なら、妾達が……武蔵坂の友が傍におる。大丈夫、千代殿。そなたは独りじゃないぞよ♪」
    「これからは俺達の学園で一緒にチョコ餅を布教していこうぜ! 学園には同じく餅を愛する同志も多いから、きっと沢山の仲間ができるぞ人見知りなのかもしれんが、チョコ餅を愛する千代なら大丈夫だ」
    「たった一人だけで布教活動ってのは心が折れるもんなのかもしれないけどな。俺たちの仲間の中にはそうやってご当地もちを広めようと頑張ってるやつも沢山いるんだ。うちの学園に来ればあんたのこと理解したり、一緒に努力してくれる連中だってきっといるはずだ」
     イルルに高斗、そして塞。
    「うううっ、わしは、わしは……」
     さりげなく学園へ勧誘する流れに繋ぐ灼滅者達の声に微塵も疑問を感じず、ただ。
    「もっっちぃぃ」
     感極まって、両腕を広げ突撃し。
    「あるぇ、またオイ――」
    「和馬くんが男を見せたいのなら邪魔しないよー?」
     ハグだってどんとこーいという姿勢で首を傾げたあるなと二人を庇おうとしたライドキャリバーのティアマット、そしてもう一人が漢女の腕の中へと消え。
    「餅はやわらかくするべし!」
    「もべっが」
     戦いそっちのけで抱擁している元少女を緋世子が蹴り飛ばす。
    「焼きチョコ餅! 斬新……でもないか」
    「わうっ」
     主の独り言に一鳴きした霊犬のラテは唇を押さえて光彩を失った瞳の少年を浄霊眼で癒した。
    「チョコ餅には確かに魅力がある。けど、そんなやり方は駄目だよ。もっと皆に、皆と一緒に味わえばいい……!」
    「いや、今のは友愛のキスで布教方法ではなも゛っ」
     自分の指摘に頭を振って否定しようとした漢女へソラはバスターライフルを向ける。
    「貰った」
     何だかんだで、この時も戦闘中。豊かな双丘を激しく揺らしつつ殴りかかった誰かの一撃にバランスを崩した元少女へマテリアルロッドを振りかぶった塞が飛びかかったところで。
    「終わりだ。日常に帰れ――――!」
     ソラもまた狙いを定め、引き金を引き。
    「もぢゃっ」
     漢女は悲鳴を残してぽてりと倒れたのだった。

    ●ぷろみす
    「む、いかん! 体を隠すのじゃ」
     イルルは早かった。KOされれば裸になってしまうことを事前に知らされていたからこその動きでもあったのだろうが、ゆったりサイズのパーカーを即座にかけることで少女の身体を隠したのだ。
    「おっと、これ以上は見せられないねぇ。KENZENって大事」
     同時に千尋も誰かの視線を妨げる様に立ちつつ、笑み。
    「……くっ、分かっちゃいたが……でけぇ」
     だからこそ、決定的瞬間を目撃したのは、緋世子を含む一部の女性陣のみ。一体何処が大きいのかも男性陣には秘密なのだ。もし、何故女性陣は良いのかと聞いたなら、きっと千尋は言ったことだろう。
    「そりゃあ、同性ならではの役得さ♪」
     と。
    「とりあえず、千代ちゃんはこのまま家の中に連れて行くね」
    「おう、宜しく頼むぜ」
     背を向けて仁王立ちしつつ、あるなへ高斗が応じ、十数分後のことだった。
    「ちょ、ちょっと待つぞい! わ、わしまだ心の準備が――」
    「大丈夫じゃ、千代殿も立派なおなごぞよ」
     着替えを済ませはしたもののまごつく千代の背を押し、あるなと一緒に少女の自宅へ引っ込んだイルルが戻ってきたのは。
    「暖かい飲み物でほっとしたいな」
     なんて言っていたので、あるなはお茶でもご馳走になったのかも知れない。
    「う、ううっ、恥ずかしいぞい……そ、その、ありがとうございました。わしが助かったのは皆さんのおかげじゃぁ」
     頬を染めくねくね身を捩った少女は、しどろもどろになりつつも灼滅者達へと頭を下げ。
    「俺らは大したことなんてしてねぇぜ、それよりも」
     口調が色々と台無しにしている気もするが、高斗は一切気にせず頭を振るとマフラーをなびかせ、手を差し出す。
    「今は誰かに支えてもらう形で良いだろう。だが、いずれは兄貴と並んで歩ける立派な漢女になれよ! 約束だ!」
    「あ……っ!」
     その光景に一瞬だけ呆けた様に立ちつくした少女は、勇気を総動員して高斗の小指を立たせると、自分の小指を絡めた。言葉はない、ただ指切りの形をとるので精一杯だったのだろう。何故なら、千代は引っ込み思案さんなのだから。
    「これで、ひとまずは一件落着かな?」
     約束した少女へあるながお友達になろう攻勢をかけたりして賑やかになり始める民家前を背に、撤収準備を済ませた千尋は歩き出し。
    「しかし、意外性もキャラクター性もある。案外、学園内で布教したら広まるかもね、チョコ餅とモッチア」
    「ふふ、チョコ餅は是非堪能したいのぅ♪」
     笑みを浮かべたイルルは少女の方を振り返る。灼滅者達の活躍で、一人の少女が救われたのだ、ならば、モッチアはともかくチョコ餅の方は広がることもあるのかも知れない。
    「しかし、ご当地怪人の時の原型もないな」
     同じ少女を眺めて塞がポツリと漏らした後方。
    「鳥井さんはよくやってくれましたよ」
    「ウン、オイラ頑張ッタヨネ?」
     優歌へ慰められながらも膝を抱えて座り込む少年が一人存在し。
    「……事件が解決しても、傷付いた和馬の心の傷までも癒せるかは誰にもわからないんだけど」
     そんな少年をサイキックで癒す灼滅者が居たとか居なかったとか。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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