最強の牛乳(乳飲料)の座を求め

    作者:るう

    ●神奈川県、某所
    「おい黄色! 結論は、牛乳等向け生乳処理量が全国で最も多い県(都道府除く)を答えられる牛乳ファンに出させようとか言って、そんなのはどこにもいないではないか!」
    「黙れ茶色! まだたった数百人にしか尋ねてないのに『いない』とは何事か!」

     道行く守御・斬夜(護天の龍華・d20973)が見かけたのは、何やら言い争いをする男たちだった……いや、男といっても頭部は不透明な液体を湛えた瓶になっており、明らかにご当地怪人なのだが。
     関わり合いにならないようにしよう、と斬夜がそっと彼らに背を向けた時、言い争う二人を宥めるために、新たなもう一人が加わったようだ。
    「まあまあ、コーヒー牛乳怪人も、フルーツ牛乳怪人も。この際、やはり普通の牛乳が風呂上がり最強という事にすれば問題ないだろう」
    「「帰れ白!!」」

    ●武蔵坂学園、教室
    「この争いを放置したら、いつか周囲を巻き込みそうな気がしてね」
    「なるほど、差し詰め神奈川牛乳怪人三人衆、といったところでしょうか」
     斬夜の話を聞いた西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)によると、この牛乳頭、コーヒー牛乳頭、フルーツ牛乳頭の三人は、『牛乳等向け生乳処理量が全国で最も多い県(都道府除く)』という微妙な立ち位置のご当地怪人のようだ。
     生産量じゃなくて処理量。しかも用途限定。その上牛乳関連は北海道一強すぎるので、あえて都道府県ではなく県限定。
    「そんな怪人が、単独でダークネス達の中を渡り歩けるはずもありません。そのため彼らは世界征服の成就のため共闘を決めたようなのですが……主導権を巡って纏まっていないのが現状です」
     連携されればそれなりに手強いのだろうが、仲間割れしている今なら灼滅は難しくない。
    「皆さん、上手く彼らを仲違いさせて、彼らを灼滅してはくれませんか?」

     まずは、彼らに取り入る事。彼らの求めに応じて『牛乳等向け生乳処理量が全国で最も多い県(都道府除く)』を正しく答えた後、自分が風呂上がりは牛乳派なのか、コーヒー牛乳派なのか、それともフルーツ牛乳派なのか、立場を明確にする事だ。
    「派閥の大きさに偏りができれば、負けた怪人が不正投票を疑い、勝った怪人に攻撃を仕掛けます。が、もし同程度でも、皆さんが彼らを上手くそそのかし、実力で上下関係をはっきりさせるよう入れ知恵すれば、やはり戦いになるでしょう」
     いずれにせよ、彼らの同盟関係はそこまでとなる。三勢力入り乱れた大乱闘の中、灼滅者たちは互いに消耗しないよう手加減攻撃しつつ、怪人たちだけを灼滅すれば、綺麗さっぱり解決だ。
    「味方だと思われている間は、怪人は回復用の牛乳瓶を皆さんにも分けてくれます。灼滅者同士の消耗を避けるために不自然な戦い方になるくらいなら、多少の同士討ちを覚悟してしまってもいいかもしれませんね」
     それから、ところで、と唐突に付け加えるアベル。
    「姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)さんがまた牛乳を飲んで身長を伸ばしたがっていますので、一緒に連れて行ってあげてはくれませんか? ご安心を、今回は敵を灼滅しても、胃袋の中の牛乳は消えませんから」


    参加者
    結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)
    長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    契葉・刹那(響震者・d15537)
    空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)
    守御・斬夜(護天の龍華・d20973)
    大鷹・メロ(メロウビート・d21564)
    ティリシア・フォンテーヌ(小学生魔法使い・d28290)

    ■リプレイ

    ●街角の牛乳談義
     わいわいとやってくる学生集団のお喋りに、道の脇でこそこそと今後の作戦を検討していた怪人たちは釘付けにならざるを得なかった。

    「ねえみんな、お風呂上がりに牛乳飲めば、大きくなるんだよね? よね?」
     他は中高生ばかりの他の人たちの話に混ざろうと、背伸びしながら問いかける小学生の少女へと、中学生くらいの少女が、ウェーブのかかった、緑がかった銀の髪をふわりと広げて振り向いて答える。
    「そうよっ! お風呂上がりは牛乳だよっ!」
    「やっぱり冷たい牛乳っすよね! 水とかジュースなんて邪道っす! 師匠と弟と三人で毎日一気飲みっす!」
     活発そうなポニテを揺らして深く頷く別の少女。

    「なんという事だ……」
     茶色瓶の怪人が、驚嘆を隠さずに呟いた。それもそのはず、学生たちの談義はまさに、彼らが……えーとぱっと思い出せないくらい長い間議論していた内容と同じだったからだ!
    「よし、彼らにも例の問題を出してみるとしよう」
     黄色が言った。
    「諦めろ。どうせ今回も無駄骨がオチだ」
     茶色が言い返す。
    「まあまあ二人とも。今回もダメならやはり最強は普通の牛乳という事で……」
    「「帰れ白!」」

    ●勃発、神奈川牛乳戦争
    「……というわけで、牛乳議論中の皆さんに問題です! 一体、牛乳等向け生乳処理量が全国で最も多い県(都道府除く)はどこでしょうか!?」
    「決まってるよね」
     自信ありげに結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)は言った。それから花弁のように軽やかに皆の方を振り返ると、皆はその場で一斉に……。
    「「「神奈川県!!!」」」
    「ほれ見ろ! ちゃんとわかる人もいたではないか!」
     約一名『なかがわ』とか言ってたように聞こえた気もするが全員正答した灼滅者たちに満足し、鼻高々のフルーツ牛乳怪人。その得意げな態度にコーヒー牛乳怪人は歯噛みする。
    「ぐぬぬ……だがだからといって黄色、お前が選ばれるとは限るまい」
     めでたいはずなのに何故か険悪そうな雰囲気の中、ノーマル牛乳怪人はやけに自信満々に灼滅者たちに呼びかけた。
    「済まないね君たち。彼らは、風呂上がり最強の牛乳は自分たちだと言って聞かないんだ。牛乳に詳しそうな君たちを見込んで聞きたいのだが……さあ、風呂上がりに飲むべきは我々のうちどれだ!」

    「やっぱりノーマルのが王道っすよねー、大将!」
     ノーマル牛乳怪人をおだてるかのように、長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)は答えてみせた。本当はコーヒー牛乳もフルーツ牛乳も好きなのだが、そんな事は心の奥底に隠してゴマをする。
     さっきのウェーブ髪の子――大鷹・メロ(メロウビート・d21564)も、ノーマル牛乳を褒める。
    「余計なものが入ってないから、身体に良いんだ、よっ! 飲めば身長もぐんぐんのびるーねっ!」

    「何言ってるの?」
     対して、風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)は怪訝な顔。
    「牛乳にはない栄養もあるし、甘いし、フルーツ牛乳が最強ね」
     クラレットの主張を聞いて、フルーツ牛乳怪人は当然だと言わんばかりに頷いた。
    「蛇目くん……フルーツ牛乳の味わいの深さがわからないなんて、友達だと思ってたのに残念なんだよ」
     仁奈は悲しそうに目を伏せる。横でそーだそーだと囃し立てるのは、先程のポニテ少女、空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)。

    「でもフルーツ牛乳って、ミックスジュースと区別つかないよね」
     最年少にもかかわらず、ティリシア・フォンテーヌ(小学生魔法使い・d28290)も負けじと言い返した。その肩に優しく手を置いて、契葉・刹那(響震者・d15537)は皆に説く。
    「コーヒー牛乳は少し苦めで、他よりも大人の味わいですよね。かといって苦すぎず、もちろん甘さもあって、誰でも飲みやすい美味しさだと思います。コーヒー派の人も納得の魅力です……♪」

     現時点で、ノーマル2、フルーツ3、コーヒー2。
     どの怪人も、自分が圧倒的大差ではない事が不満のようだったが、それでも皆、自分の勝利を疑わなう様子は見られなかった。現状で、未投票が2。恐らく誰もが思っていたのであろう……そのどちらもが、自分に入るのだと。
    「そうだな……」
     そんな中、守御・斬夜(護天の龍華・d20973)は顎に手を当て、しばし考え込んだ様子を見せた……そして。
    「……強いて言うなら、コーヒー牛乳派かなぁ?」
    「キミは今、この上なく正しい選択をした!」
     小躍りしてハグしてくるコーヒー牛乳怪人を半歩ずれて避け、斬夜はティシリアの隣に陣取った。まだ余裕を失わないフルーツ。目に見えて焦るノーマル。
     最後に、姶良・幽花(中学生シャドウハンター・dn0128)も答えを決めた。ゆっくりと足を進める先には……ノーマル牛乳怪人の姿!
    「だって、もっと身長伸ばしたいから……」

    「ねえ……おかしくないかな?」
     微妙な表情で腕を組んでいたコーヒー牛乳怪人の袖を、ティリシアは憮然とした顔で引っ張った。
    「ノーマル牛乳やフルーツ牛乳ごときと同順位なんて、不正のにおいがするっす。ほっといたら世のためにならないし、お兄さんの力で懲らしめてやるべきだと思うんだよ」
     ざわ……。怪人たちに動揺が広がるが、クラレットがティリシアの主張を鼻で笑う。
    「そんな発想が出てくるなんて、本当は自分たちが不正をしたんじゃないの? で、それが通じなかったから実力行使? もっとも一番健康そうに見えるのは私たちだし、実力でも負ける気がしないわ~。怪人さんもそう思わない?」
     クラレットにひっつかれ、フルーツ牛乳怪人も満更ではない。
    「あまり強いところを見せたら同盟関係にヒビが入ると思っていたが、そうも言ってはいられないようだな」
    「大将。あいつらあんな事言ってますぜ! ここは一発、成分無調整の凄さ、見せてやりましょうぜ!」
     ノーマル牛乳怪人の前に出て両手の指をポキポキと鳴らし、威嚇するような笑みを浮かべる蛇目。ノーマル牛乳怪人は少し考え込んでから、仕方ない、と重々しく口を開いた。
    「どうやら、人には俺が黙っていても俺の偉大さを理解する知性があると信じていた俺が、愚かだったようだ。やはり……一度雌雄を決してみせる他はないという事か!」

    ●いざ神奈川牛乳の頂点を目指し
     ところ変わって相模川の河川敷。
    「なるほど、確かに見晴らしの良いここならば、白や黄色が下らぬ策を弄する心配もない。実に良い戦場を提案してくれた、さあこのコーヒー牛乳を一本飲むがいい!」
    「ええっ!? あ、ありがとう……ございます……」
     急に牛乳瓶を差し出され、男性恐怖症が発症してしどろもどろになった刹那を見て、ノーマル牛乳怪人がコーヒー牛乳怪人を冷やかした。
    「どうやらお前、本当は嫌われてるみたいじゃないか! やはりここは普通の……」
    「今だ! 今のうちに両方の派閥の頭を潰して、一気に制圧だよ!」
     野次を飛ばすのに夢中な隙に、仁奈のマテリアルロッドがノーマル牛乳怪人を突く。魔力の爆発が花開いて怪人を襲い、白い牛乳を湛えた透明な瓶の表面に傷を生む!
    「なんと卑怯な!」
    「余所見してる場合じゃないっすよなかがわ……神奈川成分無調整牛乳怪人!」
    「なのぉ~!」
     ナノナノの『師匠』の声援を背に、続いて朔羅の体当たり! ……と、そこへ!
    「あっ……させないのーよっ!」
     怪人を朔羅から庇うため、メロが慌てて駆け出した!
     が、最初のワンテンポの『遅れ』が徒となり、想定通り僅か届かず! せめてものつもりで張った結界が朔羅を押し戻し、その場で尻餅をつかせたのは、すっかり怪人が突き飛ばされた後だった。
    「ああ、残念だな。皆、友達だとばかり思ってたんだがな」
     斬夜のセリフには全くといっていいほど感情が篭っていなかったが、仲違いにばかり気を取られている怪人たちには気付かれない。徐々に戦線が広がり、乱戦模様を呈し始めた戦いの輪に、斬夜も少しばかり躊躇いを見せ(ているフリをし)つつも踏み入れる!

    ●大乱闘、牛乳怪人ズ!
    「配下たち! お前たちの力はこんなものではないだろう!」
     ノーマル牛乳怪人の叱咤を受けながら、蛇目は袖で口元を拭うと立ち上がった。
    「もちろんですぜ大将。この大将の牛乳があれば俺たちは百人力!」
    「フラムだって美味しいって喜んでるーよっ! 動物にも優しいノーマル牛乳だよっ!」
     メロの支える瓶に齧り付くように牛乳を飲む霊犬が、尻尾を振る。
    「まだやれるっすね?」
     蛇目は訊いた。メロの答えは、もちろんイエス。幽花もまだまだ戦える。
    「それじゃ、行かせて貰いますぜ!」
     蛇目の拳が、魔力も、闇も、何も纏わずに突き出される!

    「ぐあ~!」
     朔羅の体が吹き飛んだ。
    「まさか! この俺様の精鋭が、白ごときにやられるとは!」
     頭を抱えるフルーツ牛乳怪人の手を、細い指先が包み込んだ。
    「朔羅ちゃんを助けるには……フルーツ牛乳の加護が必要、なの」
    「そうなんす……お腹が空いて力が出ないっす……牛乳欲しいっす……みかん味も入ってるやつ」
     ちゃっかり味付けまで要求する朔羅はともかく熱心な牛乳ファンの仁奈の不安げな瞳に見つめられてしまったら、フルーツ牛乳怪人としては言う事を聞かないわけにいくものか。
    「勿論だとも。その代わり、奴らにフルーツ牛乳の素晴らしさを存分に教えてやるのだ!」
    「わかってる、なの!」
     気合を入れる仁奈。
    「あざっす、いただくっす……くっは~!」
     腰に手を当て一気飲みする朔羅。
    「任せて! せっかくだし当然、勝利を目指すわ!」
     口調を楽しげに弾ませるクラレット。ノーマルも、コーヒーも、クラレットは割とどれも好きだけど、お祭り騒ぎはもっと大好きですから!

    「いい? コーヒー牛乳は、日本に牛乳が来た時に全く売れなかった牛乳を売るために開発されたもの。これだけでも牛乳より格上である事は明白!」
     ティリシアの魔法がノーマル牛乳怪人を穿つ。さらに刹那の歌声が鳴る。
    「私に貴方の牛乳を下さい……♪ それがなければ、コーヒー牛乳は作れない……♪」
    「その通り! どうやら君も、ようやく普通の牛乳の価値が……はっ!?」
     布教用の一本を渡そうとやってきたノーマル牛乳怪人は、その時気付く……配下たちの間から誘き出された彼の顎へと放たれた、雷を纏う斬夜の拳の存在に。
    「刀を提げているからそれを使うのかと思ったら、拳……だと……ぐふっ」
     割れた頭の瓶から牛乳を垂れ流して果てたノーマル牛乳怪人は最早無視して、斬夜はめんどくさそうに次の怪人へと向き合った。

    ●決戦、二大巨頭!
    「どうだ黄色! これで我々は白派を吸収し、貴様の倍の勢力となった! 早々に降参し、服従を誓うがいい!」
    「茶色。どうやら貴様の目は節穴のようだな!」
     なんと、壊滅したノーマル派の三人のうち、そのままコーヒー派に吸収されたのは蛇目ただ一人! メロと幽花がフルーツ派への参加を表明した事で、止めを刺したはずのコーヒー派が逆に少なくなるという事態に陥ってしまった!
    「ぐぬぬ……」
     そこへ、颯爽と紅羽・流希(挑戦者・d10975)が飛び入り参加! 完璧な風呂上がりの牛乳作法に則り飲んだその手には……燦然と輝くコーヒー牛乳の瓶!
     状況はまたも五分。フルーツ牛乳怪人が忌々しげにコーヒー牛乳怪人を呪う。
    「おのれ茶色! 今度は貴様が白と同じ目に遭う番だ!」

    「フルーツ牛乳なんてお菓子みたいなもの。もっとお菓子らしくなるように、アイスにしてあげる!」
     ティリシアの魂が冷気を生んで、ごうとフルーツ牛乳怪人らへと吹き付ける。が、メロの指先から結界がほとばしり、そんなティリシアを、コーヒー派一味もろとも縛める!
    「フラムが、ノーマルじゃないならこっちがいいって言うのーよっ!」
    「済まないっすね……さっきまでの仲間でも、こうなっちまったら手加減はしませんぜ!」
     蛇目の拳に影が宿る。それはメロ……からはちょっと狙いが『ずれて』、フルーツ牛乳怪人に、闇の想念を植えつける!
    「お返しするっす!」
     さっき瓶を口につけた時、フルーツ牛乳が口元の産毛についたのにも気付かずに、朔羅もコーヒー牛乳怪人へと殴りかかった。後ろで師匠が、物欲しそうに黄色いおヒゲを見てるが気にしない!
     怪人をその攻撃から守るべき場所にいたはずの斬夜は、ちょうど何かを考え込んでいるように見えた。
    「戦闘中にぼーっとしてどうする、命取りだぞ!」
     怪人に叱られるのを待ってから動き出すが、その時には既に朔羅は離れた後。そんな斬夜の『失態』を補うべく、刹那の霊犬『ラプソディ』が跳びかかる!
    「甘いよ!」
     ラプソディの斬撃を、仁奈は軽々と避けきった。けれど、刹那にとってはそれも一つのメロディに過ぎない。
     ラプソディが乱した戦列に、今度は刹那自身が飛び込んでゆく。剣を仁奈に……と見せかけて、逆手で隣のクラレットを狙う! フルーツ牛乳怪人の元まで吹き飛ぶクラレット!
    「ちょっと回復薄いわよ! 超回復牛乳早く!」
    「さあ飲め! そして彼奴らにフルーツ牛乳の素晴らしさを……」
     そこで怪人は訝しんだ。
     何故この娘、フルーツ牛乳を飲んだのに不満げな様子なのだ?
    「……これも悪くないけど、仁奈さん、苺牛乳飲みたくない? 苺牛乳もフルーツ牛乳一種でしょ?」
    「何を言っている。フルーツ牛乳と言えば、原材料名を見るまで正体不明なフルーツミックスに決まっているだろう?」
     聞いて、仁奈も白けた顔になる。
    「フルーツ牛乳怪人なのに苺牛乳がないとか、戦いが始まる前に終わってると思うんだよ」
     そして最後に。
    「ごめん。やっぱ寝返るんだよ」
     かくして神奈川は、コーヒー牛乳怪人のものと決まったのである……完!

     ……になんてなるわけがなく。
    「今は法律で、生乳100%じゃないと牛乳って表示したらいけないんだよ。つまりフルーツ牛乳怪人もコーヒー牛乳怪人も法律違反!」
     ティリシアにびしっと指を突きつけられて、コーヒー牛乳怪人はうろたえた。
    「法律ではないぞ! 公正競争規約だから、規約に加盟しなければ良いだけの事だ!」
    「語るに落ちましたぜ大将……いや、もう大将とは呼べないっすね」
     蛇目が憐れみの視線を向けて、怪人から距離を取った。
    「ご当地怪人にとっちゃ、法律よりも業界団体の指針の方が、よっぽど大切にすべきもんだと思うんすけどねぇ?」
    「よくわからんが、こいつはご当地怪人の風上にも置けない奴だから灼滅すればいい、って事でいいのか?」
     斬夜は首を傾げたが、大体そんな感じでOKのはず。まあ最初から、ここで裏切って灼滅する予定だったんだけどね。
    「おいフルーツ牛乳怪人、ノーマル牛乳怪人! 共にこの裏切り者どもを……はっ、既にいないではないか!」
     コーヒー牛乳怪人、ここに命運尽き果てる!
    「貴様ら、謀ったな……ぐわーっ!!」
     相模川の河川敷に、コーヒー牛乳の香りが広がった!

    ●本当に美味しい牛乳を求め
    「ちょっぴり、悪い事をしてしまったでしょうか?」
     いくら相手がダークネスとはいえ騙してしまった事に気を揉んでいた刹那に、クラレットはじょーだんじゃないとでも言いたげに手のひらを振ってみせた。
    「牛乳同士で争ってるナンセンスな奴らだし、いい気味よ。本来、いい牛乳は、どんな味も上手く引き立てるものよ」
    「そうだよね、苺牛乳とかミルクティとかもあるし、どれが一番って事はないよね」
     仁奈も相槌を打つ。それから……ああ、そんな事を考えてたら、やっぱり苺牛乳が飲みたくなってきた……とそこへ!
    「なあぁぁぁ!」
     思考を遮るナノナノの声! 続いて朔羅の悲鳴が聞こえてきた。
    「ちょっ……師匠、痛いっす!」
     見れば師匠が大口を開けて、牛乳瓶を咥えるかのごとく朔羅の頭に齧りついている! もしかして……朔羅が自分だけフルーツ牛乳を飲んだのが恨めしかったのだろうか?
    「フラムも、さっき飲んだ分じゃまだまだ物足りないって言ってるのーよっ」
     メロが何かを期待するかのように皆を見回すと、フラムは千切れんばかりに尻尾を振ってみせる。
    「でしたら……どこかで皆で牛乳を飲んでから帰りましょうか」
     もしも刹那がその提案をしなくても、きっと、他の誰かが口に出した事だろう。
     最近、冬らしい寒い日が続く。
    「できれば、あったかいミルクもあるといいのーよっ!」

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ