ばすぶた温泉

    作者:空白革命


     木々の間を無数に伸びる、光の線。
     枝を、時には幹を焼き切り破壊していく光線群の中を、白銀の獣が駆けていた。
     人間かそれ以上の大きさをもつ複尾の狐である。
     狐は土を蹴り、樹幹を蹴り、はたまた真空を蹴りつけて光線群をかわし、ほとばしる炎の渦をはき出した。
     草木を焼き払わんばかりに放たれた炎は、しきりに光線を放っていた眷属バスターピッグたちを蹴散らす……が、しかし。消滅したそばから新たなバスターピッグが現われ、大量の光線を放ってくるでは無いか。
     狐は炎の壁を作ってガード。しかし防ぎきれなかった光線が足や尾をかすり、狐は思わずはねのけられてしまった。
     狐は地面を軽く転がりながらフォームチェンジ。スレイヤーフォームになって樹幹の後ろに転がり込んだ。
     そろそろお気づき頂けるだろうか。彼女は韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)。ファイアブラッドの人造灼滅者である。
     彩蝶は額の汗をぬぐうと、懐からだしたミネラルウォーターをあおった。
    「ふう……この先に隠し温泉があるっていうから来てみたけど、こんなにはぐれ眷属が多いんじゃ進めないよー」
     攻撃が薄くなったところを見計らってから、撤退するために駆け出す。
    「こーなったら、みんなを連れてくるしかないよね」
     

    「それで依頼を……」
    「だめ?」
    「全然OKです!」
     ぐるぐる眼鏡のエクスブレインがダブルでサムズアップした。
    「はぐれ眷属退治は定期的にやっていかないと、たまに人里にあふれてきたりするかもしれないかもですからね」
     そんな可能性の可能性みたいなことを言って、エクスブレインは現場の内容を細かく話し始めた。
     
     ここで言う眷属というのはダークネスが動物ベースで生み出す兵隊モンスターである。色々な事情で主人をうしなったものを、はぐれ眷属と呼ぶ。
     今回倒すバスターピッグたちも、このはぐれ眷属の一種だ。
    「ここでは特に強力なバスターピッグは確認されていません。手早く倒して、後半は温泉旅行としゃれ込んじゃってください! よろしくおねがいしますね!」


    参加者
    柳谷・凪(お気楽極楽アーパー娘・d00857)
    黒咬・翼(裁断の黒曜石・d02688)
    久遠寺・友(残念なクールビューティー・d04605)
    マリーゴールド・スクラロース(中学生ファイアブラッド・d04680)
    犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)
    日比谷・真咲(愛に全てを賭ける男・d22926)
    韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)
    冠木・ゆい(ポルトボヌール・d25508)

    ■リプレイ

    ●大体半数の人を描き出すことでみんなで豚をやっつけてることを説明するシーン
     空に風鳴く岩の山。
     鳥の声をかき消して、けたたましい銃声が連破した。
    「温泉! ばすたぶ温泉! ちがった、ばすぶた温泉!」
     犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)は木々の間をジグザグに飛び回る。
     それまで足場にしていた樹幹や樹枝が黄白色の破壊光線によって焼き切れ、バランスを失ったいくつかの木が倒れ始める。
     そんな光景を背に、蕨は眷属バスターピッグの最前列を飛び越えた。
    「温泉温泉、ちょー温泉だの!」
     蕨は鎖剣と蹴り足を同時に繰り出し、竜巻のように高速回転を始める。空圧に巻き込まれ、次々に吸い上げられては切り裂かれていくバスターピッグ。
     巻き上げられた砂煙が周囲をみるみる覆い隠していく。
     慌てて距離をとったバスターピッグたちが竜巻の中心めがけて破壊光線を連射。
     砂煙の中に吸い込まれていく無数の光線。
     沈黙。
     そして、破裂。
     一瞬にして崩壊した竜巻の中から、縛霊手でガード姿勢をとった蕨が飛び出し、バスターピッグの一匹にプレスアタックを仕掛けた。押しつぶされ、ノックダウンするバスターピッグ。
    「温泉と言えば牛乳。もってる? もってきてる!?」
    「あいあい、この通りだぜ」
     大きなクーラーバッグを抱え上げつつ、サイキックをばらまき撃ちする日比谷・真咲(愛に全てを賭ける男・d22926)。
     何かの危険物かと思って直接殴りかかるバスターピッグたちだが、彼の後ろから飛び出してきた柳谷・凪(お気楽極楽アーパー娘・d00857)たちによってみるみるうちに切り裂かれていった。
    「秘湯の前の害獣駆除か、いいだろう」
     いつもお剣を引き抜き、バスターピッグを次々に切り捨てていく黒咬・翼(裁断の黒曜石・d02688)。
     彼を驚異とみたバスターピッグが一斉射撃を仕掛けてくるが、翼は構わずダッシュで直進。
     剣をウィップモード変形し、彼らの放つビームごと無理矢理に切り裂いた。
     バスターピッグたちが次々に爆発四散する中、素早く剣をソードモードに戻して跳躍。爆風の上を前方宙返りで飛び越えると、拳を地面に叩き付ける形で着地した。
     その時拳のインパクトが不可思議に増大。衝撃が波紋状に広がり、周囲のまだ無事なバスターピッグたちを次々にひっくり返していった。
     なんとか起き上がれるバスターピッグもいたものだが、もはや彼の放った殺気だけで泡を吹いて気絶する程度であった。
    「食肉すら残さないとは家畜以下だな。他愛もない」
     剣を振って血や泥を落とす翼。
     焦ったバスターピッグはその場から後退しようとするが、丁度逆方向からは別の脅威が迫っていた。
     しかもその脅威は、腕組み姿勢のままゆっくりと歩いてきた。
    「両手が空くのは楽だが、軽すぎて落ち着かない。慣れがいるな」
     久遠寺・友(残念なクールビューティー・d04605)はそんなことを言いながら、腕組みをしたままゆっくりと歩いていた。
     当然無防備な彼女を見過ごすわけもなく、バスターピッグは顔面めがけてビームを放つ。が、彼女の影から飛び出してきた影業の騎士がビームを切り裂き、八方へとかきちらした。
     依然として変わらぬ歩幅で歩み寄ってくる友。
     一発でだめでも複数ならと連発するバスターピッグたち。だが相手は灼滅者。フリーハンドで人を殺せる闇の戦士である。
     友のスカーフが勝手に外れ、まるで意志を持ったかのように舞い踊り、ビームというビームを四方八方にはじき飛ばす。
     依然として同じ歩幅で歩み寄る友。
     半狂乱になったバスターピッグたちが死なばもろともとばかりに爆熱をあげて突っ込んでくるも、その全てを影業の騎士とスカーフだけで絞め殺してしまった。
     全て灼滅しおえ、ようやく、友は足を止めた。
    「思ったよりは便利だった。また今度、使ってみるか」
     まだギリギリ息のあるバスターピッグへ丁寧にトドメをさして回る韜狐・彩蝶(白銀の狐・d23555)。
    「ボク一人のときよりずっと楽! はやく温泉つかりたいんだよ」
    「だね、温泉楽しみだもんね」
     ギリギリ動いているバスターピッグを確認しては銃撃で動かなくしていく冠木・ゆい(ポルトボヌール・d25508)。
     軽くゲリラ基地の制圧みたくなってきた所で、バスターピッグの残党が最後の力を振り絞った。
     具体的に言うとピラミッド状に積み上がって馬鹿撃ちし始めた。
    「最後のちからしょぼい!」
    「ナノッ!」
     両手を前に翳すマリーゴールド・スクラロース(中学生ファイアブラッド・d04680)。
     拘束で回転する菜々花がビームをぺちぺちはじき飛ばし、なんかふわふわする踊りでもってなんか知らんけどかすり傷がなんとなく癒える気がした。
    「温泉への情熱はそこしれないんだよ。そんな情熱の前には、鎧袖一触!」
     うつ伏せ姿勢で台になった菜々花をジャンプ台にして、マリーゴールドは高く跳躍した。
    「ひっさーつ!」
     マリーゴールドは空中で前に三回転後ろに四回転ついでにお花のエフェクトを大量にまき散らすと、大気圏を突破した隕石の如くバスターピッグピラミッドへと突っ込んだ。
     それこそ隕石の突っ込んだ家屋の如く穴が空き、爆発四散するバスターピッグピラミッド。
     着地したマリーゴールドは手を翳し、そこにすとんと黄色い桶とお風呂セットが落ちてきた。
    「準備完了、温泉タイムだよ菜々花!」
    「ナノ!」
     あと菜々花も桶にすっぽり収まった。
     以上、今回の戦闘シーンの全てである。

    ●戦闘シーンに出番が少ない? そりゃ温泉に全力割くためでしょうが!
     温泉である。
     白くかすむ湯気に包まれながら、ゆいはつま先からゆっくりとお湯に浸かった。
     なにぶん身体の冷える時期である。はじめは熱くて入れないとばかり思っていたお湯も、じょじょに身体の芯をよく温め、額の涼しさも相まって極楽気分に浸ることが出来た。
    「やっぱり温泉っていいな。日頃の疲れが抜けて……いく……よ……」
     うつらうつらしつつも首を振る。
    「いけないいけない。眠らないようにしなくちゃ」
     周囲を見回してみると、崖にあるからかそこいらの温泉宿では味わえないような景色が広がっている。
    「ここ、雪が降ったら素敵だろうなあ」
    「だねえ」
     横で声がする。
    「激しい戦闘だったぶん気持ちいんだよ~」
     凪は胸元に手を当てつつ、湯気の濃い温泉に身を沈めた。
     一応の処置として水着は着ているが、今彼女が着ている水着はなんていうか、南国で祭りのために着る感じのやつだった。温水プールではまず着ないし、ましてビーチでも見かけないなってくらいの派手さである。
    「でもほんとは、水着なんて邪道なんだよ。視聴者はそれを望んでるんだよ……」
     若干次元のおかしいことを言う凪。
     そんな凪の顎から五センチほど下をじっと眺める友。
    「……」
     自分を見下ろす友。
    「……」
     虚空を見上げる友。
    「このくらいは人並み。そう思っていた時代が、あったよ。私にも」
     しょうがないよ。武蔵坂の人たちは軽く人類じゃ無いからしょうがなうよ。あと鎌倉。
     そこへ、蕨がいぬかきみたくしてばしゃばしゃ寄ってきた。
    「温泉~、温泉~、きーもーちーいー♪」
    「でも気をつけてね。うちの真咲は前科があるから! あいつは野獣なんだから!」
     同じくぱしゃぱしゃ寄ってくる彩蝶。
    「野獣だの!」
     彩蝶は両手で獣のツノのジェスチャーをして、蕨もそれにならった。
     いやおまえさんらがそれをいっちゃあ。
     ゆいがおずおずとした調子で会話に入ってきた。
    「前科って、何があったの?」
    「ノゾキだよ。皆で温泉に入ってたらコソコソってね」
    「へえ……」
    「もし見つけたら遠慮いらないからね! 死にはしないんだし、温泉が汚れない程度にヒドイ目あわせちゃおう!」
    「う、うん……」
     この期に及んでバイオレンスは嫌だなあという気持ちを笑顔で隠しつつ頷くゆい。
     ……の、後方10メートルにある小さな岩の隙間。
     そこに、彼はいた。

    (「フフフ、まさか俺が蛇に変身して潜んでいるとはお天道様とて思うめえぜ」)
     人間じゃまず入れないような隙間に身をねじ込み、文字通り目を光らせる真咲。
    (「武蔵坂はお行儀のいい奴ばかりだ。温泉でノゾキなんて論外だとか女子は大事にするべきだとか言う輩がいるが俺はこう主張するぜ。覗かないということは、大事にしていないということだとな!」)
     ぐねぐねと曲がった暗くて細い道を進む。この先に待つ楽園を夢見て進む。
    (「覗かないことは魅力が無いと言っていることとイコール。水着コンテストを無視するかのような所行。俺は見る! ピンナップを所望する! いざ――!」)
     穴からにゅっと頭を出す真咲。
     それを取り囲む水着の女子一同。
    「あっ」
    「「せーの」」
     この直後、真咲は殴られるは蹴られるは桶の的にされるわ串に刺して焼かれるわタレをつけられるわ掲げられるわ吊るされるわで酷い目にあったわけだが……。
    「悔いは無い。俺は、恥ずかしがる女の子が見れた……それで……俺は……まん、ぞ……く……ぐふっ」
     軽く人類じゃないレベルの痛めつけ方を前に終始おろおろしていたゆいをよそに、簀巻きにして高いところに吊るす女子一同。
    「どんだけ痛めつけても死なないって恐いね。なんだか加減が分からなくなって来ちゃう」
    「いいんじゃないか? 素人間ならともかく、私たちなら過剰防衛にもならんだろう」
     持ち寄ったコーヒー牛乳やらいちご牛乳やらをぐびぐびやる蕨やマリーゴールド。
     が、マリーゴールドははたと何かに気づいてカメラ目線(ないけど)をした。
    「BR・DVD版では日比谷さんが消えます」
    「いや、それはただの恐い映像だよ。虚空を殴り続けるわたしたちだよ」
    「ナノ……」
     マリーゴールドの頭上でバナナ牛乳を一気のみして、菜々花は満足げにぷはーした。

     一方その頃。
    「秘湯に浸かり、景色を眺め、そして呑む梅昆布茶……格別だな」
     ひとり静かに温泉を満喫する翼の姿があった。
    「温泉は、ただ浸かるに限る」
     翼の頭上を鳥の一団が飛んでいく。
     それを見上げ、今度のレジャーのことを考えた。
     雪の降る三月にでも、温泉旅行を企画するというのは……どうだろう。
     そんな、二月の末日。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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