温室の桃を見上げ

    作者:幾夜緋琉

    ●温室の桃を見上げ
     まだまだ冬、雪が残る山梨県は笛吹市。
    「……うわぁー、凄ーい♪」
     とあるビニールハウスの中、目をきらきらさせながら、子供達はとても嬉しそうにはしゃいでいる。
     そんな子供達の頭上には、いち早く咲いた桃の花。
     日本一早いお花見と称した、櫻の花見ならぬ、桃の花見。
     そんな花見をしているビニールハウスの入口では、ピンクの桃の花を頭に被った男が。
    「さーさー、いらっしゃーい。日本一早いお花見、さーさー見ていって楽しんでいってねー♪ ほーら、そこのおにーさん、来なきゃそんだよー」
     ……ある意味、単なる客寄せである、と言えるかも知れない。
     しかし通りがかる人、全員の手を強引に引き寄せるのは……余り頂けない。
     そんな彼……ご当地怪人は、今日も今日とて、客引きをし続けるのであった。
     
    「皆さん、集まって頂けましたね? それでは早速ではありますが、説明、始めさせて頂きますね?」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者に一礼すると共に、早速ではあるが説明を始める。
    「皆さんは、山梨県は笛吹市で行われている、日本一早いお花見というのは知ってますか?」
     と、1枚の写真を皆に見せる。
     ビニールハウスの中に咲き誇った桃の花……そんな桃の花を見上げながら、一足早いお花見を楽しんで居る光景。
    「皆様も余り見た事無く、珍しい光景だとは思います。どうやらこの桃の花見に、ご当地怪人が現われてしまった様なのです」
    「このご当地怪人さんが、普通に客引きをしているなら、それはそれでいいのですが……どうやらこのご当地怪人さんは、人の迷惑顧みず、客引きをしてしまっているみたいなんです」
    「こんな迷惑極まりないご当地怪人を放置して置く訳にもいきませんよね? という訳で、皆さんにこのご当地怪人さんの灼滅お願いをしたいのです」
     そして姫子は、詳しいご当地怪人の説明を続ける。
    「このご当地怪人さんは、暖かいビニールハウスの前で客引きをしています。基本的に通りがかった人は総て客引きしているようで、従う分には牙を剥く事はありません。しかし……桃の花見を拒否した人には怒り、危害を加えようとします」
    「注意しなければならないのは、ご当地怪人さんはビニールハウスの間近にいるという事……中にはお客さんも居るので、彼をどうにか温室から引き離さない事には、無用の被害が生まれてしまうかも知れません」
    「無事引き離す事が出来れば、戦う事自体は難しい事ではありません。彼の攻撃手段は、桃の花吹雪による目眩まし攻撃と、団子の串を鋭く射出しての攻撃です。串が突き刺さるとかなり痛いとは思いますが……それに引っかかる事は無いと思います」
    「何にせよ、彼との闘いを終えた後は、皆さんで一足早いお花見をしてみてもいいと思います。どんなお花見なのか……是非、楽しんできて下さいね?」
     と、最後に姫子は微笑むのであった。


    参加者
    江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)
    神田・熱志(ガッテンレッド・d01376)
    高峰・紫姫(牡丹一華・d09272)
    霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)
    佐倉・結希(は斬艦刀を愛しています・d21733)
    近藤・勇士郎(誠一文字ミブロウガン・d23204)
    神宮寺・柚貴(黒影の調理師・d28225)
    型破・命(金剛不壊の華・d28675)

    ■リプレイ

    ●温桃
     冬、まだまだ雪の残る、山梨県は笛吹市。
     ビニールハウスの中で育てられた桃の花、それが美しく開花し、一足早い桃の花見を楽しめるというご当地の話。
     灼滅者8人は、そんな宴に現れたご当地怪人の報告を聞き、笛吹の地へとやって来ていた。
    「そうか……ここが笛吹市。笛吹市と言えば石和温泉や果物が名物なんだよな。この時期は、ハウス桃園や春祭りとイベントのシーズンだし……だからご当地怪人が現れたのかもしれないな」
     神田・熱志(ガッテンレッド・d01376)が軽く微笑むと、近藤・勇士郎(誠一文字ミブロウガン・d23204)も。
    「そうですね、笛吹市。山梨県ですかー。山梨県と言えば甲州勝沼の闘いが起きて、近藤勇の銅像もある県! そんな地で、ご当地怪人の横暴を許しは出来ないよね!」
     と声を上げると。
    「桃の花、デスか。そういえばもうすぐ桃の節句ですネ」
    「確かに、桃の花見っつうのは風流だけどよ。無粋なヤツがちっと居るみてぇだな」
    「そうですね。親切のつもりがお節介になってるんですね……私も気をつけないとなー」
    「ええ、もうお花見の季節なんですね。ビニールハウスの中の小さな春……うん、素敵です。ですがそれを強要するのはどうかと思います。毎度の事ですが、ご当地怪人さんはやり方さえ間違えなければ、……間違えなければ、普通のマスコットとか、ゆるキャラになっちゃうのかな?」
    「ある意味やってること自体は悪い事やないんだろうけど、一般人に迷惑が出る前に倒さんとな。怨みは無いけど、灼滅させて貰うで」
     霧渡・ラルフ(愛染奇劇・d09884)、型破・命(金剛不壊の華・d28675)、佐倉・結希(は斬艦刀を愛しています・d21733)、高峰・紫姫(牡丹一華・d09272)に神宮寺・柚貴(黒影の調理師・d28225)らの会話……そして江良手・八重華(コープスラダーメイカー・d00337)も。
    「そうだな。ま、迷惑でなくても灼滅するさ。俺の目に捉えられたダークネスだからな」
     静かに拳を握りしめる八重華に、命、ラルフも。
    「ああ、そうだな。へへ、花びら舞う中の喧嘩としゃれ込むとするか」
    「そうですね。そのついでに彼に厄を押しつけてしまいまショウか」
     と、告げて……そして灼滅者達はご当地怪人の居るビニールハウスへと向かうのであった。

    ●桃は誘う、桃園の宴
     そして、灼滅者達は笛吹市某所、桃宴を実施しているビニールハウスが見える所へと到着する。
     桃の花は仄かに香り、気分を朗らかにさせてくれる。
     が……そんなビニールハウスの前にいるのは。
    『ほらほらみんなー、日本一はやーいお花見、桃宴はこのビニールハウスでやってるよー。さーさー見ていって楽しんでいって! 折角笛吹市に来たんだから、見なきゃ損だってもんだよー!』
     桃宴へと客引きをしている、ご当地怪人。
     何かその口調は、ちょっといかがわしい店の客引きのようにも聞こえてしまうが……誘う宴は健全な桃見。
     ……そんなご当地怪人の客引きの言葉を耳にしつつ。
    「ほんと、何て言うか強引さが無ければいいのに……残念だぜ」
     軽い溜息をつく熱志に、強く頷く勇士郎。
    「ま……残念がっても仕方ない。早速だが、誘導作戦開始、って事で」
    「そうだな……頼むな」
     そして……灼滅者達はご当地怪人の前へ。
    『ほーらほら、そこのおにーさん、おねーさん! 見る限り旅行者かなー? なら丁度良い! ほら、笛吹の桃宴、折角だから見ていってよ!! 日本一早いお花見だよー!」
     と……そんな客引きの言葉に対し、結希と紫姫、命、八重華が。
    「んー……早ければいいもんやないと思うけどなー。それに向こうでも咲いてたし」
    「そうですね。あちらで咲いていた花の方が綺麗でしたよ」
    「そうそう。あっちにも咲いてる桃の花があったんだぜ。早く行こうぜ!!」
    「ああ……すまんな。あちらの花の方が綺麗そうなんだ」
     四人の言葉に、ご当地怪人は。
    『なにぃぃ、そんな訳なーい!! 温室の中で育つ桃だからこそ、日本一早いお花見なんだぞー!!』
     と、否定する。
     確かに温室を暖かくしているからこそ、桃の花が早く咲くというのがこの日本一早いお花見の醍醐味……それが、他の所で咲いている、となれば、否定したくなるのも仕方ないだろう。
     でも、そんなご当地怪人に、更に。
    「それにあっちの花見、桃ジュースも貰えるらしいぜ? ならそっちに行く方がお得だし」
    「ほう? さてはお前さん、疑ってるな? どうだい。お前さんも一緒に来るかい?」
     と、勇士郎と命が言葉を更に続ける……ぐぬぬぬぬ、と唇を噛みしめるご当地怪人。
     そんなご当地怪人に、そっと近づき……耳元でそっと。
    「……敵情視察、というのも悪くない手だと思いますヨ?」
     ラルフの囁き……ご当地怪人ははっ、とした表情で振り返る。
     そして、トドメとばかりに柚貴が。
    「そうやね。そこのビニールハウスより、きっと集客しがいがある所やと思うんやけど……なぁ、来てくれても構わんか?」
     と誘い文句……それに。
    『わかったぁっ! ならその美しい花を見てやろうじゃないかっ!!』
     見事に乗っかるご当地怪人。
     作戦成功に、内心ほくそ笑みつつも、顔に出さず。
    「よーし、それじゃこっちだぜ」
     命の誘導に従い、ビニールハウスから離れるご当地怪人……そして近くの、畑の一角まで連れて来る。
     当然、廻りに綺麗に花が咲いている樹などない。
    『む……ここか? どこだ? どこに美しい花が咲いている樹があるっていうんだ?』
    「……フフ。本当にあるとでも思ったんデスか?」
     ラルフの囁き……それと共にご当地怪人を包囲するように現れる灼滅者達。
    「ガッテンチェンジ! 火事と喧嘩は江戸の華、ガッテンレッド、ここに参上っ!!」
     歌舞伎の如く、見得を切るポーズを取る熱志に、柚貴も。
    「我殺めるは人に仇なす悪鬼也……!」
     とスレイヤーカードを解放。
     二人のスレイヤー解放と同時に、ラルフのサウンドシャッター、柚貴の殺界形成で人払い。
     ……ご当地怪人は。
    『くっ……くそっ、だ、だましたなぁああ!!』
     怒り心頭のご当地怪人。だが勇士郎が。
    「桃花見ご当地怪人!! 強制をいとわない貴様の歪んだ花見愛、俺達が正してやる!! オレは桃源郷よりの使者、誠一文字、快傑ミブロウガン!」
    「おー、ミブロウガン格好いいぞー! さすがロボー!」
    「サンキュー!」
     結希の歓声ににっ、と笑いつつ構える勇士郎。そして紫姫も。
    「私は仲間を守る為に立っています。怪人さん、アナタは何の為に立っていたんですか? ご当地の為と思うなら、せめて迷惑にならない方法でですね……」
     懇々と説得しようとするが、ご当地怪人は。
    『う、うるさーーい!! 騙されたオレの身になってみろってんだーー!!』
     心からの絶叫。
     そんなご当地怪人に結希が。
    「まぁ綺麗な物をすすめたい、って気持ちは分からなくもないけど、いくら綺麗やからって押しつけは良く無いと思いますよ?」
     そんな冷静な突っ込みにも、全く以て聞く耳を持たないご当地怪人。
    「仕方ないですね……白姫、とりあえずご当地怪人さんに食らいつけ!!」
     と紫姫がレイザースラストを喰らわせると、勇士郎も衝撃のグランドシェイカーで足止めを叩きこむ。
     対し熱志が戦神降臨、命がソーサルガーダーでの盾アップで、着実に仲間のエンチャントを増やしていく一方、ラルフは鏖殺領域、柚貴が螺旋槍……そして八重花も。
    「無理に呼ばなくても誰かが必ず見つけるのさ。美しい花ならばね」
     と、八重華が予言者の瞳で自己エンチャント。
     ……そして、ご当地怪人の攻撃は、勇士郎がカバーリングに入り耐えると、待ち構えていた結希が回復を行う。
     次のターン。
     熱志は一気にご当地怪人の懐に潜り込んで。
    「いくぞっ、神田明神ダイナミックっ!!」
     と叫び、ご当地ダイナミックの一撃を叩き込めば、クラッシャーの効果もあり、一気に大ダメージ。
     そのダメージに続けてラルフが妖冷弾、八重華がバスタービームで、ご当地怪人を更なるバッドステータスの嵐に見舞わさせる。
     そして行動を待ってから、紫姫がグラインドファイア、命がワイドガード、そして勇士郎が縛霊撃とジリジリと削っていく。
     ご当地怪人の攻撃……串をぶん投げての攻撃や、桃の花吹雪による攻撃を繰り返してくるが、それを結希がしっかりとヒーリングし、ダメージはそのターンの内に総て回復していく。
     そんな状況が数ターン続く、ご当地怪人を完全に翻弄した灼滅者達は、戦況を優位に勧める事が出来ていた。
     そして……10ターン目。
    『はぁ、はぁ……くっそ、おお……!』
     悔しがるご当地怪人に対し、勇士郎が。
    「真のSANURAIは目で倒す!! ミブロ・レーザー!!」
     とご当地ビームを射出し、ご当地怪人を撃ち抜き……そして。
    「これで終わりにしてやる!」
     熱志の熱い熱いご当地ビームもご当地怪人の頭を貫き……壮絶な表情のまま、ご当地怪人は崩れ落ちるのであった。

    ●頭上の桃に想いを託し
    「……ふぅ。どうやら、終わったようだな」
     深く深呼吸し、スレイヤーカードに再封印する熱志。
     他の仲間達も、スレイヤーカードを再封印し、いつもの姿、表情に戻る。
    「ふー。流石に疲れましたねー。でも、これからが本番、ですよね」
     くすりと笑う紫姫……カッカッカ、と命は笑って。
    「そうだな。ご当地怪人が見てけ、と言った桃宴、折角だし俺達も相伴に預かるとしよっかねぇ」
    「ええ、そうですね。みなさん、行きましょう!!」
     結希が先頭に立って、お花見へ。
     ……確かにビニールハウスの中は暖かく、そして綺麗な桃の花が咲き誇る。
     そして、そんな桃の花の下で、結希が。
    「あー、気持ちがいいなぁ……クラブの友達ともお花見、しようかなぁ……」
     と呟きつつ、ぼけーっと見上げて微笑む。
     そして八重花も。
    「確かに気持ちいい……見るのは初めてだが、楽しいじゃないか」
     と笑う。
     ……桜の花とは違った趣の花見。
     桜の時期より一月近く早い、お花見の一時……そのお花見の一助になるのは、八重花の持参した緑茶や、ラルフの紅茶、焼き菓子、そして柚貴の様々な団子に加え、一番大きな料理は、熱志とくせいの甲州名物ほうとう鍋。
     机の上に並んだ食べ物、飲み物に。
    「うわぁ……すごい。あ、お団子! ねぇ、みたらしは? みたらしはありますかっ!?」
    「ははは、大丈夫大丈夫、ちゃんと用意してきとるよ」
    「わーーい!! やったーー!!」
     柚貴の言葉に、万歳して喜ぶ結希。
     そんな結希の喜びように、クスリと笑いながら命が。
    「しかし団子と茶を花見にってのはやっぱ粋だよなぁ……あいつにも見せてやりてぇなぁ」
     ぼんやり呟いた一言に、柚貴もはっとした表情を浮かべてから。
    「……そうだね。春になったら、あの子も連れてったらなぁ……」
     と呟く。
     そして……勇士郎は、花を見ながら、ジュースを一献……そして。
    「桃香る もう遠くない 春の声……なんてね。お後が宜しいようで」
     ……花と、飲食にそれぞれの想いを抱きつつ……暫しのんびりとした時を楽しむ灼滅者達。
     ……小一時間、桃の花見を楽しんで、お腹もいっぱいふくれた所で。
    「さて、と……折角笛吹市まで来たんだし、近くの石和温泉に一泊して帰るとするかな」
     熱志の言葉に笑いつつ……灼滅者達は、その後ものんびりした一時を過ごすのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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