都内某所、かって大作ファンタジーTCGを作成しようとして頓挫し、莫大な借金を作って廃業した会社カタパルトカンパニー。
社長及び社員の幾人かが自殺したという、曰くのあるその会社のあったビルの近く、ブレイズゲート化した人気の無い路地裏に、奇妙な空気の流れが現れ、落ち葉や埃を舞い上げ、中央の空間に吸い込まれる様に渦を巻くと、その中心に赤い閃光が煌めき、1枚のカードが現れる。
対角線上の角を軸とし、くるくると回転したカードが地面に落ちると、また閃光が煌めき、周囲に水流を撒き起こしながら赤い鎧を纏った騎士が現れた。
「我が瀑布に押し潰されるがよい!」
その騎士が腕を振り下ろすと、空中に現れた水流が腕の動きに沿って落下し、地面に叩き付けられる。
「逃げたか……やはりミオリックブルーの連中とは相性が良くない……」
敵の姿が無くなった事にごちた騎士は、掌を見つめて嘆息する。
「ぼやいてばかりもいられないな。敵を討って戦功を上げねば、ウォルケン辺りに笑われてしまう」
騎士は独り頭を振ると、敵を求めて周囲の探索を始めるのだった。
ブレイズゲート内部で起きる事件はエクスブレインでは予知できない事と、連続してカードの敵が都市伝説として現れている事もあり、有志の灼滅者達がチームを組んで、カタパルトカンパニーのあったビル周辺を見回っていた。
「あれは……グレートナイトの騎士だな」
そのうちの1隊に所属する遠夜・葉織(儚む夜・d25856)は、道の向こうに赤い鎧を着た人影を見つけて声を上げると、仲間達と一緒にそちらに向かって駆け出した。
「あなたは最強騎士国グレートナイトの騎士殿なのか?」
「いかにも、我は最強騎士国グレートナイトにおいて最強を詠われる騎士、人呼んで『瀑布の騎士』ヴァッサー・ファル。貴殿らの名と所属を聞こう」
誰何の声を上げた葉織に対し、胸の前に剣を掲げた騎士は、そう応えて名乗りを上げる。どうやら礼儀正しい騎士の様だ。
だが、礼儀正しき騎士だからと言って、カードの都市伝説の存在を放置する事は出来ない。葉織達は相手の問いにどう応えるか考えながら、いつでも戦える姿勢をとるのだった。
参加者 | |
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月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470) |
ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039) |
ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952) |
神凪・陽和(天照・d02848) |
武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222) |
雪風・椿(南海闘姫・d24703) |
遠夜・葉織(儚む夜・d25856) |
アルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117) |
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「我は最強騎士国グレートナイトにおいて最強を詠われる騎士、人呼んで『瀑布の騎士』ヴァッサー・ファル。貴殿らの名と所属を聞こう」
青い外套を翻し胸の前に剣を掲げた騎士……ヴァッサーが問う。
「『豪雨の騎士』の次は『瀑布の騎士』っすか。いいでしょ、また片付けるまでっす。……殲具解放」
「瀑布の騎士……瀑布って滝のアレだよな。おっしゃー、水系騎士第2ラウンド 開始だな。けど騎士って言うなら馬乗ってこい、馬!」
少しだけその緑の瞳を細めたギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が、無敵斬艦刀『剥守割砕』を持ち上げ背負う様に構えると、その名乗りの意味を少し考えてガッツポーズをとった雪風・椿(南海闘姫・d24703)が、人差し指を突き付けて声を上げる。
「天剣絶刀が一、武神勇也だ」
「瀑布の騎士ヴァッサー・ファル殿。相対出きることを光栄に思います。私は天剣絶刀が一員、『天照』神凪陽和。いざ、推して参ります」
そんな2人の前に進み出た武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)が、無銘の大業物を水平に一閃して名乗りを上げ、神凪・陽和(天照・d02848)も背筋を伸ばし、儀礼に則った礼をすると、ヴァッサーはその名乗りを了解した様に少しだけ頭を垂れた。
「天剣絶刀所属、アルスメリア・シアリング! 未だ道半ばの身なれど、気持ちは負けはしないわ! 勝負よ、ヴァッサー・ファル!」
「その言や良し」
更に踏鳴で一歩前に出たアルスメリア・シアリング(討滅の熾焔・d30117)に、ヴァッサーが満足そうに応じる。
「豪雨の騎士は強かった。お前も強いのだろう?」
「ウォルケンと親しいの? それとも親戚?」
「ウォルケンを知るか、その強さを知り貴殿らが生きているという事は……成程、気合いを入れて掛らねばならぬ様だ」
遠夜・葉織(儚む夜・d25856)と椿の問い掛けに、片方の眉だけぴくりと動かしヴァッサーが応じる。
「お前と彼、どちらが上かは知らない。だが、お前の方が強いと言うのならば……言葉でなくこれで示してみせろ」
葉織はゆっくりと『忘却』の銘を持つ太刀を鞘から抜く。
「八対一でも怯みませんか……失礼、九対一だな」
「勇気と蛮勇は違うものだという事を、教えてやらんといけないよな」
その様を見据えた月翅・朔耶(天狼の黒魔女・d00470)が口を開くが、霊犬のリキが自分が数に入ってないと尻尾を立てて抗議を示したので、朔耶は訂正して言い直し、ヴォルフ・ヴァルト(花守の狼・d01952)が無表情のまま、研ぐ様に爪を合わせた。
「誰から参るか? 全員纏めてでも我は一向に構わん」
「ジャイアント・キリングを単騎で出来ると思う程己惚れてはいないんでな。天剣絶刀の絆を以って当たらせてもらおう」
剣を一閃し腕を掲げて問うヴァッサーに勇也が返す。
「天剣絶刀より、儚む夜の遠夜葉織、参り上がる」
「最強騎士国グレートナイト、瀑布の騎士が前に立った不幸を呪うがいい」
大地を蹴った葉織と、それに続く灼滅者達にヴァッサーの腕が振り下ろされ、滝の如き水流が襲い掛かった。
●
水壁の如き奔流を2つの巨大な刃が斬り裂く。
「『天剣絶刀』部長ギィ・ラフィット、推して参る」
(「先回の相手と同陣営、同属性といった感じだな。先回の相手はどちらかというと防御に要諦があったが、この相手は攻撃主体といった感じか」)
2つの巨大な刃の主。ギィは名乗りを上げながら斬り掛り、勇也は口を一文字に結んだまま、相手を値踏みしつつ斬り掛る。
「ほぅ、そのまま斬り込んで来るか」
感心する様に目を細めたヴァッサーが、剣を手に正面から押す2人を迎え撃つ。
その間にヴォルフと陽和が左右に回り、前衛4人でヴァッサーを半包囲し、攻勢を掛ける。
「なかなか良き動き……なれど、正確過ぎるな」
ヴァッサーは打ち合えば折れそうな長剣でギィと勇也を押し返すと、その刃に渦巻く水を湛えて前衛陣を斬り裂き、先程の攻撃を免れていたギィと勇也もずぶ濡れになる。
「ずぶ濡れにされたくらいで、溶けたりはしない」
「水を被ろうが火に焼かれようが、俺は正面からぶつかるより他に闘い方を知らん人間だからな」
2人は後ろから飛ぶ仲間の攻撃に合わせて再度攻勢に出る。
「そうかな?」
流れる様に振るわれた切っ先がギィのブラックスーツ『闇夜皓露』を裂くと、傷口が氷って痛みが走る。
「……威力が上がった!?」
驚いて跳び退くギィに合わせ、勇也も距離をとる。
「成程。攻撃手段と特殊能力が上手くかみ合った攻撃手と言う訳か」
「厄介な相手っすね。持久戦になれば不利なのはこっちっすか?」
勇也とギィはアイコンタクトをとると、仲間を信じて再び地面を蹴る。
「厄介ですが回復は無い様だし、地道に削っていくか」
朔耶は敵の行動から回復は無いと判断すると、攻撃を受けぬ様動きながら次々と魔法の矢を撃ち放つ。その魔法の矢はダメージを与えるよりも相手の気を逸らす事がメインの様で、朔耶は必ずヴァッサーの視界に入る位置から攻撃を行っている。
「来たれ我が炎! 顕現せよ熾焔!」
渦巻く水を湛える長剣を流れる様に振るって前衛陣を押し返したヴァッサーに、朔耶の放った魔法の矢と共に距離を詰めたのはアルスメリア。焔纏う大太刀がヴァッサーに振るわれるが、前衛を押し返したまま体を一回転させたヴァッサーの長剣に止められる。
炎と水。相反する2つの属性を持つ刃がぶつかり、朦朦とした水蒸気を上げ、
「なかなかやるじゃない」
「この程度……」
赤い瞳でキッと睨み付けるアルスメリアに、朔耶の矢で穿たれながらも言い返そうとしたヴァッサーは、その言を中断するといきなり後ろへと跳び、斬り落とされた青い外套だけがはらりと舞い落ちた。
「浅い……か、感の良い奴だな」
アルスメリアに気を取られた隙に死角に回り込んだ葉織が、無言のまま斬撃を叩き込んだのだ。が、ぎりぎりのところで跳び退かれ纏っていた外套と皮膚を浅く裂いただけで、たいしたダメージを与えられていない。
「朔耶、もう一度前衛が押し返されたタイミングで行くからよろしく!」
「了解だ」
そのヴァッサーを追って椿や霊犬のリキの回復を受けた前衛陣が詰めるのを傍目に、アルスメリアが声を上げると朔耶が短く応じる。その 返事を確認したアルスメリアが視線を戻すと、葉織が大小の太刀を構えたまま、気配を消しつつヴァッサーの死角死角へと移動してゆくのが見えた。
滝の如き水が幾度となく灼滅者達を襲い、地面はぬかるんで泥を跳ね上げる中、
「回復は任せろ! でも油断だけはすんなよ!」
椿が『水濡厳禁』と書かれた黄色い標識を掲げ、声を張り上げる。
「えぇ油断しませんとも。瀑布を堰き止める岩として、盾として皆様を護ります」
改めて決意を口にした陽和が、剣を薙ごうとするヴァッサーの腕にRainbow Archを絡み付かせてその攻撃を阻害したところへ、
「どうだ?」
ヴォルフが半獣化した腕を振るってヴァッサーを薙ぎ、ギィと勇也がそれに続く。
「なかなか楽しませてくれるではないか!」
嬉しそうに笑い瀑布を叩き付けるヴァッサー。
「水ごときに流されるかー」
先頭でモロに瀑布を受けたギィに気を集めて癒す椿。その後押しを得て水を裂いたギィが更に突っ込む。
「ギィさん、駄目!」
陽和の声。ギィの己の流儀に拘り突出しがちな所を少し心配していた事に加え、今のヴァッサーの動きが『誘い』に見え、思わず声を上げたのだ。
「勇猛と蛮勇は違うのだろう? 少年」
水を裂いた先にヴァッサーの姿は無く、横からの声に顔を向けるより早く流水の如き一閃を振るわれるギィ。……の前に小さな円環が集いその一閃をギリギリのところで弾く。
「罠があれば食い千切れば良いだけだ」
ギィにシールドリングを展開したヴォルフが、緑瞳を光らせヴァッサーに躍り掛かる。
●
陽和とヴォルフが牽制しギィと勇也が薙ぐ。ヴァッサーが反撃をしたところへ朔耶の後押しを得てアルスメリアと葉織が仕掛け、その間に椿とリキが回復を図る。
ヴァッサーの攻撃が瀑布なら、灼滅者達は波涛の如き波状攻撃を仕掛け、ヴァッサーに疲労と消耗を強いていた。
「なかなかに手こずらせてくれる……」
言葉には余裕がある様だが、ヴァッサーは肩で息をしており疲労の度合いが見て取れ、
「おっさんも8人相手になかなかやるじゃないか!」
椿が胸を張って応じるが、灼滅者側も皆泥塗れで肩で息をしており、余裕があるとは言い難い。
「これ以上続けても消耗するだけだ。相手もかなりのダメージがある様だし、一気に畳み掛けるべきだな」
葉織の言に幾人かが頷く。
「じゃあ、趣向を変えていくっすか」
「では、行くぞ」
ギィの目配せに弓を構えた朔耶が、彗星の如き力を秘めた矢を放つと、
「さぁ瀑布の騎士、覚悟っす!」
「画竜点睛を欠く訳にはいきませんからね」
ギィと合わせて葉織が宙を裂いて出したのは赤い逆十字のオーラ。2つの逆十字が朔耶の放った矢を追う様にヴァッサーに迫り、ヴァッサーは防壁の様に瀑布を起こし、それらを防ぎつつ前衛陣を襲う。
「手を変えても同じ事よ、なにっ!」
2つの逆十字のオーラが朔耶の放った矢を追い抜いて合わさり、瀑布に当たると瀑布が一瞬にして蒸発しその姿を消す。驚きながらも真っ直ぐに飛んでくる矢を、ギリギリのところで回避したヴァッサー。
「波涛の如き天剣絶刀の流れと燎原の如く燃え拡がる我が炎を知れ!」
「一の矢だけではないぞ」
だがアルスメリアとヴォルフがその僅かな隙を突いて肉薄する。
「痴れ者が!」
更に瀑布を起こし叩きつけようとするヴァッサーだったが、
「瀑布の音すらかき消す俺のビートを聴けー!」
椿がバイオレンスギターを掻き鳴らし、それにより僅かに遅れたタイミングに割り込む形で、アルスメリアの朝霧十三刀大太刀『紅蓮翔鳳』がヴァッサーの脇腹を裂き、ヴォルフの狼爪がその肉をえぐる。更に横に跳んだアルスメリアの場所を埋める形で陽和。
「どう……!?」
ヴォルフと同じ様に狼爪を叩き込んだが、カウンター気味に繰り出されたヴァッサーの剣に、右太腿を強かに斬られ、鮮血が足を赤く染める。
「あまり調子に乗らぬ事だ」
「お前もな」
ギロリと睨み忠告を発するヴァッサーの耳に勇也の声。
ハッとして顔を上げたヴァッサーの頭目掛け、『無銘』大業物の巨大な刃。
戦艦も両断すると言われるその一撃に、断末魔を上げたヴァッサーは両断され息絶えたのだった。
陽和が太股を押さえながら皆の無事を確認する中、刃を穢れを払う様に一閃し、黙祷を捧げる勇也。
「どうしてあいつらは1人で出てくるんだろう? 集団戦の方が得意なのかもしれないのに」
「一人でもこんなに手こずるのに、集団とか勘弁だろう」
誰とはなしに問うたアルスメリアに朔耶が応じる。
「はいはい、とりあえず服を乾かして綺麗にするよ! 並んで並んでー!」
椿の元気な声。そう言えば皆泥まみれでびしょびしょだった。
一行は椿のクリーニングを受けながら話し始める。この後何処へ行くかが話題の様で、銭湯にファミレス、焼き肉などの単語が漏れ聞こえ、笑い声も聞こえる。
天剣絶刀の面々は『豪雨の騎士』に次いで『瀑布の騎士』も脱落者を出す事無く撃破し、笑顔でブレイズゲートを後にしたのだった。
作者:刑部 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年3月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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