●減り行く湯量と、いめーじチェンジ
「湯量が底をついたか? なんとかしねえとなあ」
急激に減りつつある湯を眺めて、不思議な事にオヤジは疑問に思わなかった。
そればかりか減って行く温泉に合わせて、自分を変えようとさえしていた。
「他の温泉と同じじゃ芸もないしな。おうし、ここは隅っこだし動物もOKの湯と足湯メインにするかな」
そういって看板を立て、子供にでも判るように平仮名や、知っている限りの他の文字を書く。
今思えば、それはブレイズゲートの影響だったのかもしれない。
単にオヤジがノーテンキなだけなのかもしれないが……。
ともあれ、そんなどうぶつ温泉にお客がやって来た。
「あー!? ここは動物さん達と一緒に入って良いんだね! おとーさーんー、あたしこっち入る~」
「ああ。動物OKだって? ああ、そうだな。一度家に戻って、水着を持ってこようか」
散歩で通りかかったらしき親子連れが、その看板を見てソノ気になったらしい。
その様子に後ろで見守っていたチビは、嬉しそうにクルクルと周り……。
凛々しいシェパードは、『今はその時ではない!』と言わんばかりにベッタりと座り込んだ。
そして厚いのが苦手なドワーフ種の連中(パグたちとか)が逃げようとするのを、子供はひっつかんで、こう諭すのであった。
「おまえ達だめだよ。一緒に入れるなんて滅多にないんだから。ひゃくまん数えるまっで、肩まで浸かるんだからね!」
あんまりですよ姐さん……とかパグやブルが言ったかどうかは知らないが、ワンコを扱うお子様は嬉しそうだ。
そしてゾロゾロと温泉に向かう姿を誰も止めないのだが……。
今思えば、それもやはりブレイズゲートの影響なのかもしれない。
●駄目だ、早く何とかしないと!
「いかんな。湯が急激に減ったかもって、例のブレイズゲートかもしれんね。急いで追いかけないと」
「今の子がロリじゃなかったら、そんなこと言った? まあいいけどね」
「……なあ、風呂場に行くのに、猫じゃらしは要らんだろ? 普通に戦えばいい。水着は必要だろうがな」
話を聞きつけた灼滅者たちは、心に使命、背中に勇気を背負って立ちあがった。
手にはアヒルの玩具に、ワンコボール……。
おっほん!
何はともあれ、見苦しくない様に、水着を着こむと幼女や動物達を追いかけ始めたのである。
その先には恐るべきイフリートに良く似た、溶岩イフリートが待ち構えていた。
おそらくは洗脳されたであろう親子をなんとかしつつ、イフリートを倒さねばならない!!
参加者 | |
---|---|
竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645) |
広井・宇宙(空のその向こう・d00700) |
一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340) |
城代・悠(月華氷影・d01379) |
緋神・討真(黒翼咆哮・d03253) |
氷上・蓮(白面・d03869) |
木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917) |
野良・わんこ(パイ投げマスター・d09625) |
●お風呂は静粛に
天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ。
お風呂に入れと、人を呼ぶ!
「温泉が俺を呼んでる。ふはははは蝶サイコーだ!!!」
心のままに叫べ! 今日の緋神・討真(黒翼咆哮・d03253)は燃えている!!
いいや、燃えているのは討真だけではない!
「温泉!!」
「温泉温泉温泉温泉」
広井・宇宙(空のその向こう・d00700)と野良・わんこ(パイ投げマスター・d09625)達も燃えていた。
その勢いは留まるところを知らず……。
「バカやろう、温泉だからってはしゃぐんじゃねぇ!」
「なんでなんだよ! オレ達は……」
「わんこ達は、『灼滅者』なんですよ! 熱いお風呂に入らなくて、どうするんですか!?」
一橋・智巳(強き魂に誓いし者・d01340)の教育的指導にも、まるでめげない。
宇宙とわんこはタッグを組んで対抗した。無駄に熱い血潮である。
もしかしたら、これもブレイズゲート化の影響かもしれない。
「……ほら、ちゃんと並べ。ここが入口、脱衣場はそこから左右に別れてる」
「「はい!」」
オウ、文句あんのか!?
いえ、ありません!!
手作りの『蒼風ご一行様』という旗を掲げた智巳の後ろに、宇宙とわんこは大人しく並んだ。
手足が同時に動くのは、もしかしたらブレイズゲート化の影響かもしれない(遠い目)。
「世界一怖いです。……早く温泉であったまりましょう」
「ちげーよ、宇宙一こえ~んだぜ。まあいいや。でもさ、動物と一緒に入れるのはいいけど、イフリートはダメだろー!?」
よほど恐ろしかったのか、わんこは心の尻尾が丸くなっているほどだ。
宇宙は光線銃ならぬ水鉄砲を取り出して、さっそく周囲を警戒し始める。
以降、壁ドンならぬ、眼ドンが流行ったとか流行らなかったとか。
●閑話休題!?
「みんな、楽しそう……ね」
「温泉にイフリートが出現したそうですよ。大変な事態になりましたね」
周囲の喧騒を他所に、氷上・蓮(白面・d03869)と竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)はしみじみと温泉に向かった。
とりあえずさっきの連中に見せてやりてーなー、藍蘭なんて小学生なのに……。
そんな事を思いつつ、カメラマンは二人を追いかけた。
「しゃし……ん?」
「お? ああ、誰かさんにたのまれてな。……誰とは言わねえが」
蓮はバスガイド座の勇士智巳の姿を見てしまった。
バツが悪そうにして智巳は、撮る事自体は断れなかったのだと、頭をポリポリ。
「約束は約束だが、フェィルムは処分しとくよ。それじゃ駄目か?」
「もふ写真……で手を打つ……。一枚ごとに三枚、焼き増しよろしく……」
「駄目ですよ、そんな取引しては」
智巳の言い訳がましい頼みに、珍しく蓮が即座に反応。
そしてやはり珍しい事に、藍蘭が冷静なツッコミを入れた。
「どうせなら、ワンワンのおやつもお願いします。僕たちのも忘れず」
「じゃあ……、それ……で」
「時間をやりくりしてなんとかするよ」
あー無表情で判り難いが、藍蘭も動物温泉を愉しみにしていたらしい。
蓮が相乗りした事もあり、智巳は頷いてレシピを考え始めた。
……その頃。
彼方からドタドタと物音がする。
「まちなさいよっ、このチョコマカと」
「どうしてですかー!? お風呂は裸で入る物ですよ~! ちゃんと聞いてきたんですって」
気が付いたら木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)とわんこが、仲良く喧嘩していた。
きっとこれも、温泉ブレイズゲートの……(以下略)。
早い話が、素っ裸で走るわんこを、着替え途中の御凛が追いかけているのだ。
「誰がそんな事を言ったか大かた予想は付くけど、今直ぐソレ忘れなさい。でないと、記憶が無くなるまで殴るから」
「(……悪ィ。この埋め合わせはいずれ、精神的に)」
激走する御凛たちから、智巳は顔を背けて心の中で謝った。
後で彼女の為に何か作ろう、そう思いながらしゃがみ込むと……。後ろの方で、ウロウロしている影を見つけた。
「あにしてんだ?」
「……グラサン、外さなきゃいけねぇのかなぁ」
HA・ZU・SE!
智巳は心の底から言いたかった言葉を、辛うじて呑み込んだ。
なんというか城代・悠(月華氷影・d01379)との付き合いはそれなりである。
彼女が自分の目を晒すのが苦手であると、察していて、流石に口には出来なかった……。
悩み始めるとセンチメンタルな青春になってしまうので、残念ながら温泉会では割愛。
とりあえず戦闘しようぜ銭湯で。
●先にツッコミを
「終わってから考えても良いんじゃないですか? 温泉がこのままでは壊されてしまうかも知れません。まずはみんなで……」
「そう言ってくれると助かるね。まぁどっちにするにしても、とりあえず、ぶっ飛ばしてゆっくり温泉に入りたいもんだな」
藍蘭が問題解決の後回しを提案したので、悠は提案に乗ることにした。
だいたいからして、気の早い奴はもう水着だが、後から水着でも良いのだ。
むしろスッパのわんこがおかしい。
いつもより多い湯煙が仕事していなかったら、PTAから文句が来た所!
この数分だけ、一同はイフリートに感謝した。
と言う訳で、お前用済みな。
そう、戦い準備は既に万全!
肩から掛け流す湯の滝の上で、誰かが仁王立つ。
「温泉の邪魔にしかならん貴様らなど、この湯煙神父パピヨン討真が成敗してくれる」
そこに漢が居た。
直立不動で、徐々に手足をスライドさせる、不思議なポーズ。
誰だ? あの男は。
腰巻一つで高い位置に立つ、あの男の正体は……、パピヨン討真の正体は誰なんだ!?
「いくぞ、パピ……」
「あんたはこんなところまで来て何やってんだごらぁっ!!」
落ちよ神鳴るイカヅチ!!
雷とは上古の時代より、怒りの鉄槌と呼ぶ。まあ、良く言った物だ。
強烈な電撃で、パピヨン討真は吹き飛ばされていく。
「全く、戦闘前から余計な事させんじゃないわよ、本当に全く……」
やったのは御凛。
純情(?)な乙女は、ブラブラするモノには目もくれず、湯気の中に叩き落とす!
お湯が蒸発してるので底は岩だとか、気にしてはいけない。
「馬鹿なっ俺は味方のはず……って俺は今まで何してた!?」
「ほう、何も覚えていないと? ウンウン、そーよねえ。早く着てくれるかな? 三秒くらいで」
「容赦……。ない……よね」
「必要ないですよね」
御凛のツッコミは、呆然とする男に理性を取り戻した。
本人の名誉の為にも、パピヨン討真が誰であったかは黙っておこう。
●風呂入ろうぜ風呂、お湯はまだ無いけどな
「もう良い。アタシャこのまま行くよ。少々くもったって気にするもんか」
「好きにしてくれ」
「それで良いと思います」
やがて悠は考えるのを止めた……。
もはや気にする方が負けだ。
このまま我が道貫くのみ!! 仲間達も無表情で祝福しているし、それがいい!
だがその前にする事がある。
真っ先にすべきは、仲間の治療であろう!
……できれば二人分な。
「きゅ~」
「治療終わった? 終わったら、この馬鹿げた騒動に決着付けて、温泉入るわよ」
「うん……もふもふ……してた」
かつて温泉だった湯の無い岩底には、なんと! わんこが頭から突っ込んで気絶していた。
御凛が頭を抱えながら確認すると、表情は見えないが、蓮は嬉しそうな声で答える。
わんこが野生の生存本能で、生命力に優れた狼に成っていたからかもしれない。
ケモナーで良かった良かった。あ、パピ……じゃなくて討真はついでに治しておいたよ(酷)。
「こちらも終了です。……貴方達も、申し訳ないですけど、少し気絶して頂きますね」
何故だろう、藍蘭の声がえらく冷たい。
いつもの無表情に代わり無いが、今日は心なしか、声だけはウキウキしてたのに(過去系)。
ともあれ夕食まで時間が無い、戦いは手早く終わらせるとしよう!
「さっさと終わらせて、イフリートとガチバトルといこうや」
「おうよ! まったく、災難ってのはこういう事をいうんかね?」
しらねーよと智巳は悠は言い返す。
強化された一般人たちを蹂躙し、『少し荒く行くぜ?』と鬼の力を解放して行く。
雷鳴のごとき轟音が湯気の中に鳴り響き、手加減一発岩をも砕いた!
そして洗脳された連中にトドメ(気絶)を入れるべく、追い打ち!
「ふっふっふ、このわんこに勝負を挑もうとはね。ちょっとそこのイフリートちゃん! 温泉にちょっと手ぇ突っ込んでください」
わんこがイフリートに何かを言った。
なんというか、既に浸かっているから、わんこが頭をぶつけた端っこの方はお湯が無いんだけどな……。
「いいから! はやく!! そしてそこのおチビさん!」
しかし湯気で見えないのか、自問自答して、納得してしまった!
「さぁこの煮えたぎった温泉でどちらが我慢出来るか勝負です。ちなみにわんこはいちおく我慢できます!」
「へー、わんこ一億我慢できるのね。やってちょうだいな」
「「あいよ」」
仲間達の容赦ないツッコミが、わんこと強化一般人たちに直撃したという。
ドゲシっとアッパー、そして湯気すら霞むような拳の連撃がガンガンと打ち込まれていった。
●さらばシリアス!
「いっくぞおおおおおおおおおお!」
宇宙のクイックドロウが、イフリートの心臓に六連x2で撃ち込まれた。
トゥーハンドでのシックスオンワンとは、なかなかの腕前。
だがしかし、敵は一向に怯んだ様子を見せない。
「くっ。やっぱ水鉄砲じゃ無理か。しかたねえ、今度こそ洗脳された一般人から……」
「終わったわよ? ええ、終わったけど……。次はちゃんと戦ってくれるわよねえ?」
宇宙は振り返えろうとして、即座に向き直った。
来た時に「宇宙一こえー!」とか言ったな?
あれは嘘だ!!
「うおぉぉ! オレの代わりに死ねえぇぇ!」
宇宙は血の涙を流し、龍が飛ぶ如き速度で突っ込んだ。
まるで何か恐ろしいモノから逃げ出すような……。
そうか、脱兎の最上級は、龍だったんだな(誤解)。
「さあ、全力でぶっ飛ばしましょうか」
「そう……だね。お湯がないせいで……。いや、なんでもない」
御凛が凍結波を(既に弾ではない)を叩き込み、ロッドを釘バットのように構えたのを見て、討真は学習した。
というか冷静に帰ってみれば、なんで岩盤に叩きつけられるような事をしたのか不明である。
これもブレイズゲートの仕業(何度目だろう?)に違ないと、八つ当たり気味にロケハンを握りしめた。
「全て貴様が悪い!」
偽りない彼の本音。
しかし殆ど、自業自得だけどな……。
「温泉の未来の為です。ここで灼滅してあげますよ。……どうしました?」
「え? ……うん、少し、涼しく…してあげようか」
藍蘭が攻撃に参加しようとした時、もう一人が動いていないのに気がついた。
まだ怪我人が? と確認すると、蓮がワンコを温泉の外に逃がしているのが見えた。
「……モフモフしてたら、よかったのに」
と少し残念そうであるが、タイムリミットである。
「ハッ! 良い一撃だ。ちったぁアタシを楽しませてくれよ?」
「俺にも残しといてくれよっ! まだか……いいトコだってのによ。くそっ回復速度が……」
悠の目の前で、智巳たちがぶっ飛ばされた。
強烈な範囲攻撃で、クラッシャーもディフェンダーもない程だ。
彼女が難を逃れたのは運とカバーのお陰もあるが、せっかくのチャンスだ愉しむとしようか!
「ヲイ、半分残しといてくれ!」
「出来るか! ……もっとだ!もっとアタシを楽しませろよ!」
悠はダチ公のお願いを無視して鋼の拳を握り固めた。
先に殴ればアタシの勝ち、そっちが早けりゃてめえの勝ちだ!
●おんせん♪
「あぁ、温泉はいいもんだ……。着替えてこねえとな」
悠の鉄拳が溶岩魔人の胴体を粉砕!
消えゆく火炎と共に、蒸発していた温泉が元に戻り始めた。
水蒸気は雨となり、下から消えていた湯量は元の水位へ……。
「すけすけー。おーるはいる、おぱ……」
「それを言うんじゃねえよ。恥ぃ」
わんこの顔面を殴りつけタオル巻き付け、悠は濡れ鼠で脱衣所へ。
他のメンバーも、水着着て無い子は達は戻って行った。
「ん~、やっぱり温泉っていいわよね~。……あれ、着替えないの?」
「下に……、着て来た。濡れたので、上は、そこ」
先に水着だった御凛が一番風呂に寛いでいると、ふわんと大きな塊がお隣りへ。
蓮の揺れる谷間には、水着とダックスが装備されていたと言う。
「可愛いわね。その子洗ってたの?」
「うん。ワンコ、もふもふ……だね」
どうやら少し遅れたのは、脱いだのと、犬を洗っていたせいらしい。
見れば他のメンバーたちも、次々に合流。
「いっくぞぉ、ダーイビン……ぎゃああ!」
「脇が甘い! 見本を……げふっ」
宇宙がジャンプ途中でズッコケたので、蝶の仮面が少しだけ疼いた。
そして数秒記憶が飛んだあと……。
「全く、とんだ温泉だった。犬?」
「自業自得だと思うのですが……。はい、プレゼント」
湯船に浸かった討真の頭へ、藍蘭はパピヨンを載せてあげた。
犬のパピヨンは彼の頭を避難地帯にして、おっかなビックリ温泉タイム。
「やめろ剥げ……」
「そのくらいは覚悟しときな。菓子はプリンで良いか? 材料が他に無くてな」
「いいと思います。お疲れ様」
討真にパグを追加したのは智巳だ。
ワンコかプリンの事か知らないが藍蘭は頷く。
「いーち、にー、さーん」
「肩まで浸かってないのでやり直し!」
さっきのお子様と、いつのまにか仲良くなったわんこ。
そこにはワンコが鈴なり。
「温泉、楽しい」
「この眺めはしばらく独占しててぇな。犬だけ残すか」
蓮と智巳は、ぼやけた写真に笑顔を浮かべた。
これならまあ、持って帰っても良いだろう。
「やっぱ風呂上りはこれだよなぁ!」
「オレ二刀流~」
風呂上がりの悠がコーヒー牛乳片手にグビグビやると、宇宙は対抗して瓶を二本!
最後の最後まで賑やかに、一同は温泉を後にしたと言う……。
作者:baron |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年3月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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