血まみれのソープ・オペラ

    作者:西灰三


     とある会員制スポーツクラブ。日々の健康のために、あるいはスポーツ選手が筋トレのために汗を流している。その中にはおよそ人とは言えない存在もいた。
     ボンバー・モーガンと周りの人間から呼ばれているそれはダークネス・アンブレイカブルであり、戦闘スタイルは受けて返す。いわゆるプロレススタイルというやつだ。その縁もあってケツァールマスクの派閥に属している。
     そんな彼が常人では不可能なレベルのベンチプレスをしていると奥の扉が派手な音と共に開く。そこにはピチピチに張り詰めたスーツを纏った男が1人。この男もアンブレイカブルであり、その筋肉の量はモーガンを超える。
    「やあ! ボンバー! お加減はどうだい!」
    「ああ、最悪だね! 特にお前のツラったら犬のクソより最悪だ!」
    「OH、そんな君が機嫌を直すようないい話を持ってきたんだ!」
    「ハっ! 言ってみろ。……つまらない話だったらどうなるかわかっているんだろうな?」
    「ではゴホン。『ミスター・ボンバー・モーガン。貴殿をシン・ライリーの元へ移籍する準備が整いました』」
    「OK、それはバッドジョークだ。頭イってんじゃねえか?」
    「いえいえ滅相もない。あともう一つお話があるんですよ」
    「そっちの方はちったあマシなんだろうな?」
    「ええ。『従わない場合はここで再起不能になります』と」
    「そいつはいい。丁度、てめえの顔に一発叩き込みたいところだったんだ」
     モーガンはバーベルを投げ捨て、スーツの男はジャケットを投げ捨てる。突如リングとなったトレーニングルームでの戦い、モーガンが血溜まりに沈んだ後、逃げ遅れた一般人も数多く事切れていた。
     

     獄魔覇獄以降のシン・ライリーの動き、それは双葉・幸喜(正義の相撲系魔法少女・d18781)からの報告であった通り、ケツァールマスク派からの戦力の引き抜きであった。
    「……それに関係する事件なんだ。2体のアンブレイカブルが出会うと大体戦いになりやすそうなんだけど、今から話す事件もそうなんだ。それだけなら手を出す必要は無いんだけど、今回は一般人も巻き込まれちゃう」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)は言う。
    「そこでみんなには現場まで行って一般人が巻き込まれるのを防いで欲しいで、抗争を何とかして欲しいんだ。そのためにはアンブレイカブルと戦う必要があると思う」
     そう言って彼女はアンブレイカブルの能力の説明を始める。
    「ボンバー・モーガンはいわゆるプロレス技のようなサイキックを使うよ。ローキックで機動力を殺して、ラリアットで相手の態勢を崩して、ジャーマンスープレックスで動きそのものを止めちゃう。見た目通りの効果と威力があるよ。スーツのスカウトマンも似たような感じだけど実力はもっと上だね。だから戦うのならモーガンの方が戦いやすいと思う」
     灼滅なり撃退さえすればモーガンとスカウトマンの戦いは避けられる。力技で認めさせれば撤退させる事も可能だろう。
    「獄魔覇獄での戦いでシン・ライリーは敗退したけれど、この活動はその次の布石なのかもしれないね。分からない事も多いけれどみんなならきっと何とか出来るよね、それじゃ行ってらっしゃい」


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    琴月・立花(徒花・d00205)
    草壁・那由他(モノクローム魔法少女・d00673)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)
    皇・銀静(銀月・d03673)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)
    アンゼリカ・アーベントロート(黄金奔放ガール・d28566)

    ■リプレイ


    「突然ですが、一部のトレーニング機械に不調が見られるので臨時の整備を行います。中の方は1時間ほど外に出ていただくようお願いします!」
     トレーニングルームの扉が乱暴に開けられるとともに響いたのは、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)の声。作業着姿の彼女と、さらに用いているプラチナチケットの効果によってその場の一般人達は顔を見合わせながらざわめく。
    「あのもう少し待ってもらえませんか?」
     その中の一人が彼女にそう伝える。が二人の間に丸太のような腕が差し込まれる。
    「ミスター、こいつは急な話なんだろう。分かってやってやれ」
     その主はボンバー・モーガンその人だ。彼に諭されるとこの一般人は部屋を後にしていく。
    「……で、ヒヨコがオレに何の用だ?」
    「Hi,Mr.Morgan.武蔵坂学園の者よ。ダークネスのあなたに街中にいられると潜在的に危険だから、お引き取りを頼みに来たわ」
    「HA! おまえは何を言っているんだ?」
     アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)の言葉を一笑に付すとモーガンは周りの人間の動きを見る。殺界形成の効果によって一般人の数が徐々に減っている。
    「……オーディエンスを帰らせるようなのはどうかと思うがね」
    「観客が居る方が宜しいでしょうが……今回ばかり観客に怪我をさせるわけにもいかないでしょう?」
    「それはお前達のブックだろう? まあいいさ」
     皇・銀静(銀月・d03673)の言葉でモーガンが立ち上がると天井にすら届きそうな背の高さが分かる。
    「ところで、だ。もう少しマシな面構えくらいしておけ。特にそこのディーヴァ」
    「は、はい?」
     明らかに場慣れしていない草壁・那由他(モノクローム魔法少女・d00673)を指してモーガンは言う。ずっと口を閉ざしていたためだ。
    (「なんスか、このアメリカンなノリは……」)
     牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)が目の前の相手を見て内心ごちた。アンブレイカブルにも個々のスタイルというのがあるのだろう。
    「よおブラザー。一つ賭けをしないか。これから私達と貴方で勝負をして、私達が勝ったら貴方は大人しくお家に帰って貰う」
    「そいつでオレが買ったら何のメリットがあるっていうんだ?」
    「貴方が勝ったら? おいおい、ブラザー。アンブレイカブルが最高のバトルをすることに見返りを求めるって言うのか?」
    「ギャラとしては充分だ」
     蝶胡蘭に対しモーガンは歯を見せて笑った。
    「よぉし凄い筋肉! 私達と戦えー!」
     アンゼリカ・アーベントロート(黄金奔放ガール・d28566)の指先はモーガンの厚い胸板に向けられている。
    「筋肉があるからって強いわけじゃないことを教えてあげましょうね」
    「セリフだけじゃないことを期待したいね」
     琴月・立花(徒花・d00205)にそう返すモーガン。
    「さぁ、存分に遣り合おうか」
     犬塚・沙雪(黒炎の道化師・d02462)は言いつつ仮面を被る。それは彼にとって戦いの始まり。そしてアリスが叫ぶとともに全員戦闘態勢に移行する。
    「それじゃ戦いのゴングを鳴らしましょう! Slayer Card,Awaken!」
    「……四門顕現」
     スレイヤーカードから力を引き出し、戦いは始まった。


     部屋の中央に踊り出たモーガンは周りを取り囲む灼滅者達に向かい挑発するように指先で招く。
    「このオレが本気を出したら直ぐに終わっちまう、先に掛かってきな」
    「で、ではっ」
     言葉とは裏腹に躊躇なく那由多がマジックミサイルを撃ち放つ。曲線を描きながら光の矢はモーガンの胸元に突き刺さる。
    「ためらいのなさは合格だ、だがパワー以上にガッツが足りないな」
     モーガンは誇りを払うように命中した箇所を叩く。
    「さて、お次はどいつだ?」
     両腕を広げ見せびらかすように灼滅者達を見渡すモーガン。そんなモーガンの行動を訝しげに見て麻耶が前に出る。
    「……『バカなヤツだぜ、HAHAHA!』とでも言えばいいんでしょ」
     彼女の突き出した槍を脇腹で挟み込み回転を殺してから離す。一応回転によるダメージは入っているようだが大した痛痒にはなっていないようだ。
    「そいつはリングの外での話だぜ、始まっちまったらそんなもんは大した意味は無いな」
    「あら残念、もっと洒落た会話を聞きたかったのだけれど」
    「あんなのはただの挨拶みたいなもんさ」
     アリスの放った光弾を手で受けて返す。その反対側の腕からアンゼリカが飛びかかる。
    「隙ありー!」
    「隙も何も見せ場は互いに必要だろう?」
     アンゼリカの振るった刃はわずかにモーガンの腕に食い込むのみ。
    「そっちのも本気を見せてみな」
    「残念だけれど、筋肉だけの相手に抜く程安い刀じゃないのよ」
     立花の影の刃はけれどもモーガンに届かない。彼女の踏み込みに合わせて小さく振りぬかれたローキックが姿勢を崩す。
    「誤解されてるようだがパワーだけじゃないんでね」
     立花の攻撃を相殺し防いだ所で沙雪がスカーレットソードを手にして踏み込む。
    「レスラーならこちらの攻撃を受けきって、それでもなお立ってるのも余裕なんだろう?」
    「おっと、そうだった。じゃあ来な」
     沙雪の振るった剣は腹筋にヒットする、だが奥深くまでは届かない。一つ一つの攻撃が辺りはするものの異様に硬い筋肉の鎧に阻まれて、ダメージが通っている感じがしない。確かにダメージそのものは受けているはずなのだが、相手から余裕が失われているようには見えない。
    「お前も本気を出していないんだろ。出さねえと最高のバトルなんて言えねえぜ」
     空中戦を仕掛けた蝶胡蘭の足首を掴み無造作に投げる。彼女は無意識に右手を押さえる。種々の攻撃を受けても揺らがないその体躯に向かって銀静は突撃する。そこには戦意の他に好意が混じっていた。


    「お前さんらの本気を見せてもらった。今度はこちらの番だな」
     モーガンは受けの姿勢を解いて、やや前のめりの攻撃的な姿勢を取る。その変化に灼滅者達が身構えるよりも速く動き、同時に何かが折れるような鈍い音が響く。
    「おいおい、どうした? この程度で痛がっているんじゃ楽しめねえだろうが」
     モーガンの前には足を抑えている蝶胡蘭。ただならぬ表情を察したアンゼリカが彼女にラビリンスアーマーを使い二人の間を隔てる。
    「まだまだー!立ち上がってぶっとばそうぜ!」
    「あ、ああ」
     痛みに顔をひきつらせながら彼女は立ち上がる。守りに寄せた構えを取っていたはずの彼女だが予想以上の威力があるらしい。
    「そうだ。この程度でオネンネしてたら楽しめないぜ」
     なんてことのないような言い回しのモーガンを見て、立花の背筋に冷たい汗が流れる。
    「確実にいきましょう。負けるわけにはいかないのだから」
    「確実? リングの中に何を求めているんだ?」
     モーガンがそう言った直後床板を踏み砕く勢いで走りだした。
    「……っ!」
     その行く先には麻耶。まともに受けたら一発KOの可能性すらある一撃である。それは先程の蝶胡蘭が示している。だが今度は沙雪が割り込みラリアットを防ぐ。衝撃を受けた瞬間聖戦士の力も最後の力を発揮してから打ち砕かれる。
    「まだだ!」
     蝶胡蘭よりは幾分マシなもののやはり強烈な一撃である。足元がふらつきながらも剣を構えなおす。
    「マスクマンか。果たしてどれほど持つかね?」
    「あなたが倒れるまででしょうか……」
     那由多がそう言ったモーガンの背後からフォースブレイクで強く殴りつける。この一撃で初めてモーガンの動きが大きく揺れる。
    「痛っ……あんたヒールの素質あるぜ」
    「……灼滅者に何を期待してるの……」
     振り向いて那由多に話しかけるモーガン、その隙に窮地を脱した麻耶が死角に踏み込み斬りつける。
    「そりゃ、強さの糧とそのための熱いファイトだ」
    「それが武人の常ですね」
     麻耶の一撃で多少動きの鈍ったモーガンに対し銀静が斬りかかる。刃が先程よりも深く入るようになったのは相手が攻撃に集中しているためだろう。
    「語るのは己の拳でなんて、面倒な話ね。私には到底理解出来ないわ」
    「覚えておくと話が弾むんだがね」
     食らいついてくる影を耐え切ってアリスに答えるモーガン。いよいよ戦いは佳境に入る。


     戦いが進むに連れて灼滅者に焦りが見え始める。モーガンの攻撃の一つ一つは単体のみにしか効果がないものだが、威力が半端ではない。守りに徹していても直ぐに限界が来る。
    「捕まえたぜ」
     モーガンの腕が沙雪を捕まえる。両腕で相手を逃がさないようにがっちりと掴み、勢いをつけてそのまま背後の床へと打ち付ける。派手な音とともに床が砕け粉となって舞い上がりその威力を示す。
    「……! 良い攻撃だが、相手を制するだけの攻撃では!」
    「じゃあもう一発だな」
    「なっ!?」
     モーガンはその姿勢から力づくで立ち上がり、もう一度沙雪を叩きつける。2連の強烈な攻撃を受けて流石に彼も沈黙する。
    「さあ、次はどいつだ?」
     攻撃を受けていた時と同じ言葉を、だが意味を違えてモーガンは言う。
    「早く倒さないと……!」
     立花が狙い定めて放つ攻撃はモーガンの腕を裂く。
    「狙いも良い、力も悪くない。だが次のムーブを考えちゃないのはマイナスだぜ」
    「なら、これなら!」
     モーガンの立花を指した腕を銀静が取り、今度は彼がモーガンを投げる。瞬間的に彼の身体は加速し、今度はモーガンが床に叩きつけられる。その勢い、その技は今の彼に出来る最高の技。
    「こいつは……中々だな……!」
     どこか嬉しそうにモーガンは笑う。だが直ぐに起き上がり再び戦う姿勢を取る。けれども彼の身体の傷はいつの間にか増えており、血も滴っている。それも灼滅者達の攻撃を受けてしまうプロレスラーの性と言うやつなのだろう。
    「すげー! まだ立てるのか!」
    「そうだ、まだ終わりじゃねえ。行くぜ!」
     モーガンが動き出す。それに合わせて満身創痍の灼滅者達も駆け出す。モーガンが掴みかかろうとするのは麻耶、その両腕が大蛇の様に伸びて彼女に襲いかかろうとした時上方から蝶胡蘭が飛び込んでくる。モーガンの腕は焦らずに突然現れた乱入者へとターゲットを切り替えるが、捕まえるよりも早くアンゼリカの神薙刃がモーガンの脹脛に突き刺さる。その僅かな衝撃で生まれた大きな隙、そこを見誤らずに蝶胡蘭の左手がモーガンの顎に突き刺さる。そしてガラ空きになったボディに麻耶のグラインドファイアが突き刺さった。
    「どうだ! いくら凄くても、私達のコンビネーションには勝てないだろ!」
     アンゼリカがそう言ったのと同時にモーガンは重い音と共に倒れた。
    「ま、まだ」
     「やりますか」とそう言いかけて那由多はぐっと言葉を飲み込む。この後本当に立ったらきっと勝てないから。
    「どう、もう勝負は付いたんじゃない? 負けを認めるのも度量のうちよ」
    「……10カウントだ」
    「え?」
     起き上がりながらモーガンは頭を振る。
    「負けだ負け、そう言っているんだ」
    「どうだ! 私達の勝ちだな!」
    「さっさと家帰ってプロテイン飲んで寝な、って事さ」
    「……ったく」
     勝者たるアンゼリカや麻耶を見て悔しさと嬉しさの入り混じったような表情を浮かべてよろよろとモーガンは出口へと歩いて行く。
    「ケツァールマスクの所に帰って、一から鍛え直しなさい」
    「言われなくともそうさせてもらうさ」
     アリスとそんなやり取りをしながら部屋を出て行く所で蝶胡蘭が声をかける。
    「へい、ブラザー!もう一つ良いか? シン・ライリー一派がお前らを狙ってる。気を付けてくれ」
    「じゃあこちらからも一つ。プロテインだけで身体作ってるわけじゃねえ。……またな」
     そしてモーガンは去り残っているのは灼滅者だけとなった。
    「私、アンブレイカブルというものがまだ分かりません」
     那由多の内心はあのアメリカンなノリについていけなかっただけだったりするのだが。無論全て最強を目指しているのには違いないのだが、まあ色々である。
    「やはり戦いはいいですね……戦いはこうして色々な物を忘れられる。彼らはその本質を忘れてしまったのでしょうか……」
     銀静はそう小さく呟いた。
    「私達も撤退しましょう」
     気絶中の沙雪を背負い立花は促す。このままここにいたらスカウトマンが現れるだろう。灼滅者たちはダークネスと遭遇する前にジムを後にする。かくて彼らは人的被害を抑えることに成功したのであった。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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