曲がり角でドン!

     百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)は、こんな噂を耳にした。
     『曲がり角でパンを咥えて待つ都市伝説が存在する』と……。
     この都市伝説は誰かとぶつかるために、パンを咥えて物陰に潜んでおり、ぶつかった相手に恋をしてしまうらしい。
     しかも、一度恋をすると歯止めが利かなくなってしまい、まるでストーカーのように付き纏ってくるようだ。
     この都市伝説に大豪院・麗華(高校生神薙使い・dn0029)が付き纏われているらしく、朝から晩まで気の休まる暇がないようである。
     どうやら、都市伝説は付き纏った相手に、ずっと愛を囁かれていないと不機嫌になるらしく、『私の事が嫌いじゃなかったら、口に咥えたパンを食べる事が出来るはずよ!』と言った感じで迫り、むりやり愛を囁かせているようだ。
     中には都市伝説が鬱陶しくなり、拒絶した者もいるようだが、どんなに突き放そうとも、パンを咥えてぶつかってくるため、今までの相手は自ら命を絶っているようである。
     そう言った意味で、都市伝説は強敵。
     最悪の場合はターゲット都市て選ばれてしまうため、色々な意味で注意をしておく必要があるだろう。
     その事を踏まえた上で、都市伝説を倒す事が今回の目的である。


    参加者
    百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)
    水軌・織玻(水檻の翅・d02492)
    不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)
    十束・御魂(天下七剣・d07693)
    天草・水面(神魔調伏・d19614)
    楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)
    月影・瑠羽奈(夜明けの蒼月・d29011)
    大神・狼煙(リグレッタブルフール・d30469)

    ■リプレイ

    ●運命の曲がり角
    「曲がり角での出会い……定番だよね。こういうシチュに憧れる人も、やっぱ居るんだろうけども、気持ちの押し付けは頂けないなー」
     水軌・織玻(水檻の翅・d02492)は仲間達と共に都市伝説が確認された場所に向かいながら、事前に配られた資料に目を通していた。
     都市伝説は食パンを口に咥えながら、曲がり角で一般人にぶつかって、そのたび恋に落ちているようである。
     ただし、都市伝説の行動がストーカー染みているため、ストレスで頭がおかしくなったり、自ら命を絶つほどまで、相手が追い込まれているようだ。
     そんな都市伝説が次のターゲットとして選んだのが、大豪院・麗華(大学生神薙使い・dn0029)であった。
     麗華は都市伝説のストーキング行為に何とか耐えていたものの、かなりストレスが溜まっているらしく、何やら妙にソワソワしていた。
    「何と言うか、一昔前の学園物テンプレートのような相手ですね。付き纏われている麗華さんには申し訳ありませんが、相手の習性を利用しておびき出させていただきましょう」
     十束・御魂(天下七剣・d07693)が、麗華に期待の眼差しを送る。
    「それ……、本気ですか?」
     麗華が唖然とした表情を浮かべた。
     ようやく、都市伝説のストーカー行為から脱する事が出来ると思いきや、待っていたのは最悪の展開。
     それでも、都市伝説を倒すためなら、仕方のない事かも知れない。
    「厄介な存在もいたのですね。……しかし、パンが無くなるとどうなるか興味深いですね~」
     雪乃城・菖蒲(伝えぬ故の苦しみ・d11444)が、含みのある笑みを浮かべる。
     万が一、予備を持っていたとしても、それを奪えばいいだけの事。
     そうなった場合、都市伝説がどんな反応をするのか、興味津々なようである。
    「まあ、コンセプトはわかるんだけど……なぜ、パンを食べさせるんだろう……? ね、ノワールは、わかる?」
     楠木・夏希(冥界の花嫁・d26334)が、ビハインドのノワールに視線を送る。
     だが、都市伝説は噂から生まれた存在であるが故に、色々な意味で矛盾を孕んでいる。
     そう言った意味でも、納得のいく答えを出す事は、難しい事だろう。
    「クリスマスもバレンタインも終わって、季節は春になろうとしてるのに……。春は出会いと別れの季節って言うけど……、この都市伝説には関係ないんだろうね。ずっと、いい出会いを求めてるんだろうなぁ……」
     百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)が、しみじみとする。
     この様子では、都市伝説の頭の中は、常に春。
     奇麗なお花畑が広がっているのだろう。
    「でも、女性なのに、なぜ麗華お姉様に……。 恋する形は皆自由ですけれど、迷惑をかけるようなことはお止め頂きたいですわね」
     月影・瑠羽奈(夜明けの蒼月・d29011)が、深い溜息をもらす。
     おそらく、麗華が選ばれたのは、偶然。
     別に言い方をすれば、間が悪かったのだろう。
     しかし、都市伝説にとっては、運命の出会い。
     愛の矢で心を貫かれた瞬間であった。
    「……麗華さんも災難だねえ。ま、いろいろ言いたい事はあるだろうが、平和の為に犠牲になっていただきまさあ。それにしても顔隠して胸隠さず、か」
     天草・水面(神魔調伏・d19614)が、麗華の胸元に視線を送る。
    「あ、あの、隠してますから……」
     麗華が慌てた様子で反論したものの、大きな胸も一緒にたゆん。
    「麗華にストーキングする都市伝説のぅ………流石胸がでかい者はモテモテじゃのぅ。羨ましい限りじゃ」
     不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)が、思いっきり『ざまぁみろ』といった感じの顔でニヤリと笑う。
    「あ、あの、心の中でざまあみろとか思っていませんか?」
     それに気づいた麗華が、思わずツッコミ。
    「気のせいじゃ」
     しかし、読魅は鼻歌混じりに答えを返す。
    「まあ、どちらにしても、大豪院さんが付きまとわれているなら、彼女といれば向こうから出てくるはずです」
     大神・狼煙(リグレッタブルフール・d30469)が、警戒した様子で辺りを見回した。
     気のせいか、先程から妙な視線を感じているため、都市伝説がどこかに潜んでいる事は間違いないだろう。
    「とりあえず、愛を囁いてるうちは機嫌がいいみたいだから適当に『咥えるのはパンだけでいいの?』と『私のパン(意味深)もしゃぶ……咥えて欲しいな』とか言ってくれればと思うよ。大丈夫、君ならやれる。ホントにヤバいときは、ペケ太が盾になってくれるって」
     そう言って水面が、ビハインド(ペケ太)の肩を叩く。
     その途端、ペケ太が『聞いてないよぉ!』とばかりに驚いたが、水面は軽くスルーした。

    ●角ドン
    「本当にやらなきゃ……駄目ですか?」
     囮役になった麗華は、とても不安げな表情を浮かべた。
    「大変だと思うけど、囮になるように付き纏われ続けて欲しいの。都市伝説が咥えてるパン食べたり、愛を囁いて! 莉奈、大豪院さんがどんな言葉で愛を囁くのか、すごく気になるの。女の子同士だし、大丈夫だよね! ファイトっ!」
     そんな麗華を、莉奈が応援!
    「えっ? あの……その……えーっと……」
     これには麗華も、あたふた。
     だんだん引き下がる事の出来ない状況に追い込まれ、とても困っている様子。
    「危険はないと思うけれど、もし大豪院さんが危険な状態になったら、私が間に入って助けよう。それに、何かあればノワールが変わってくれるだろうし……」
     そこで夏希が麗華を励ました。
     その間もノワールは涼しい顔をしているが、都市伝説が面倒な相手だと分かれば、飄々とスルーしそうな雰囲気である。
    「見つけたわよ。麗華ちゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」
     次の瞬間、都市伝説が物陰から現れ、麗華に向かって飛びついた。
     どうやら、誰かと恋に落ちた後はパンを咥える必要がないらしく、麗華に話す隙も与えずマシンガンの如く愛の言葉を囁いている。
    「古き良き学園物、って感じですね。女性同士かつ相手がストーカーでなければ、ですが……」
     御魂が乾いた笑い響かせた。
     都市伝説は『これでもか!』とばかりに頬擦りをしているが、麗華は物凄く嫌そうだった。
    「お主の恋。妾も応援させてもらうぞよ」
     読魅が含みのある笑みを浮かべて、都市伝説に耳打ち。
     こっそり麗華の携帯番号と住所を書いたメモを手渡して、親指をグッと立てた。
    「……って、火に油を注ぐような真似をしたら、駄目じゃないですかー!」
     それに気づいた麗華が涙目になった。
    「やっぱり、これって運命よ!」
     都市伝説が再び頬擦り。
     朝から晩までストーキングする事を読魅に誓い、自らの気持ちを立てた親指に込めた。
    「……と言うか、運命の出会いって狙って出来るものじゃないと思うんだけど」
     莉奈が気まずい様子で汗を流す。
    「甘い、甘いわね! あたしは今まで男の子だけしか、角ドンをした事がなかったの! それがアレよ。彼女と角ドン! これって運命でしょ、間違いなく!」
     都市伝説がキッパリと断言をした。
     頑張って流行り言葉を使っているつもりのようだが、盛大に滑ってアレな空気がまわりを包み込んでいる。
    「貴様! 大豪院様の食事が和食派と知っての狼藉か!」
     その途端、狼煙が強面のお兄さん風に凄む。
    「う、嘘……! それって、初耳! だったら、今日からパン派になればいいじゃない」
     都市伝説が何となく覚悟を決める。
    「貴様の愛はその程度か、失せろ未熟者」
     それでも、狼煙がドスの利いた声で叫ぶ。
    「そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃない」
     されでも、都市伝説はのほほんムード。
     恐怖心が欠如しているのか、まったく動じていないようである。
    「とりあえず、麗華はご飯党じゃから、パンよりこっちを咥えた方が良いぞよ」
     そう言って読魅が、都市伝説に巻き寿司を渡す。
    「んじゃ、まずは麗華ちゃんが咥えてみて!」
     都市伝説に麗華の口に、巻き寿司を突っ込もうとする。
    「えっ? あの! や、やめてください!」
     麗華が慌てた様子で、都市伝説を拒絶した。
    「麗華お姉様がお困りですわ……。代わりに瑠羽奈が……!」
     それに気づいた瑠羽奈が、麗華を守るようして、都市伝説を突き飛ばす。
    「ちょっ、ちょっと、何よっ! 何なのよっ! こうなったら、パンだけでも……!」
     都市伝説が涙目になって、何処からともなくパンを出現させた。
    「純情乙女に対して口に咥えたパンを咥えさせようだなんて……。は、恥ずかしいですけれど……」
     瑠羽奈が覚悟を決めた様子で、都市伝説のパンを咥えた。
    「な、何をするのよっ! あたしには心に決めた人がいるのに……、そんな事をするなんて……!」
     都市伝説が可憐な乙女の如く、瞳を潤ませた。
     彼女にとってパンを強引に奪われてしまう事は、むりやり唇を奪われてしまうのと同じ事。
     そのショックは瑠羽奈達が思っている以上のものだった。
     しかも、物陰に隠れていた菖蒲が、都市伝説のパンをバスターライフルで狙い撃つ!
    「こ、これは、まさか……!」
     都市伝説がハッとした表情を浮かべる。
     それは新たな恋を予感させる鐘の音。
     そして、都市伝説は確信した。
    「あたしレベルになると、一人で満足しちゃ駄目って事ね!」
     そこで都市伝説が、キッパリ。
    「まあ、とにかく、これ以上被害出さない様に頑張ろっか」
     織玻が素早くスレイヤーカードを構える。
    「な、何、ここでライバル出現!? 絶対に二人は渡さないんだから!」
     都市伝説が麗華達をギュッと抱き締めた。
    「……って、あれ?」
     そこで都市伝説が気づく。
     麗華の身体が異常にゴツくなっている事を……!
    「……」
     都市伝説と目が合ったペケ太が、乙女なポーズ。
    「つーか、誰よ、コレ!」
     都市伝説がムッとした表情を浮かべて、ペケ太をドツく。
     ペケ太なりに乙女チックに振る舞っていたようだが、色々な意味で無理があったようである。

    ●恋する乙女
    「パンを咥えたストーカー、なんて中々にふざけた都市伝説ですが……」
     スレイヤーカードを解除した御魂は、そのまま都市伝説に突っ込んでいった。
    「えっ? 何っ? ひょっとして、モテ気?」
     都市伝説はそれを愛の告白だと勘違いしたが、御魂から放たれたのは鬼神変!
    「これって、一体……」
     訳も分からず吹っ飛んだ都市伝説が、沢山のハテナマークを浮かべている。
    「まさか暴力的な愛……! それはそれでアリかも」
     都市伝説がポッと頬を染めた。
    「あり……なんだ」
     夏希がノワールと連携を取りつつ、都市伝説を攻撃。
     そのたび、都市伝説が甘い声を上げたため、夏希達は複雑な気持ちになった。
    「ひょっとして、これって都市伝説からすれば、ご褒美って事ッスかね……」
     水面が乾いた笑いを響かせつつ、都市伝説との距離を縮めていく。
     だが、都市伝説が目を閉じて、キスを要求してきたため、反射的に飛び退いた。
     それに合わせて、瑠羽奈がパンを咥えて、都市伝説に迫っていく。
    「あたしの愛を、受け入れてくれるのね」
     都市伝説が、にぱっと笑う。
     そして、目を閉じ、誓いのキスを……!
    「油断大敵ですわ? 迫るのなら相応の覚悟をなさってくださいな。ごめんあそばせ?」
     そこで瑠羽奈がすかさず、ティアーズリッパー!
    「きゃあ!?」
     完全に油断していた都市伝説が、悲鳴をあげて尻餅をついた。
    「でも、せっかくなら、パンより君が食べたいな」
     それと同時に狼煙が甘い言葉を囁きかけた。
    「ほ、本当に……」
     これには都市伝説も、ウットリ。
     すっかり恋する乙女になっていたが、そんな気持ちを木っ端微塵に砕く勢いで、狼煙が影縛りを仕掛ける。
     そのため、都市伝説は身動きひとつ取れなくなったが、妙なプレイを期待しているのか、瞳がキラキラと輝いていた。
    「都市伝説さん、来世で頑張ってね」
     次の瞬間、莉奈が都市伝説に別れを告げ、フォースブレイクを仕掛ける。
     その一撃を食らった都市伝説が、『死ぬほど気持ちイイッ!』と叫び、跡形も残さず消滅した。
    「こんな出会い方をしていなければ、仲良くなれたかも知れんのう」
     読魅が複雑に気持ちになって、深い溜息をもらした。
     都市伝説はそれほど悪い相手とは思えなかった。
     ただ愛し方が分からなかっただけで……。
     ある意味、全力過ぎた事がアダになったのかも知れない。
    「まあ、暫くは曲がり角に気を付けよっと……」
     そう言って織玻が自分自身に言い聞かせる。
     麗華も苦笑いを浮かべつつ、『そ、そうですね』と答えを返した。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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