守りし者を守ろう

    作者:東条工事

     その日、そのカップルは初めてのデートだった。2人は同じ高校の同級生、クラブ活動を通じ少しずつ距離を縮め、共通の趣味である映画を見た帰りのこと。
    「ねぇ、映画みたいな事になったとして、私のこと守ってくれる?」
     遊ぶような声で聞いてくる彼女。彼女達が見た映画の内容は、大事な人が危機に陥った時、その身を挺して戦うことが出来ますか? という物だった。
     もちろん彼女も本気で聞いている訳でなく、じゃれ合うような気持ちで聞いただけ。それでも彼氏は苦笑しながらも答えた。
    「うん、僕が出来る範囲で頑張るよ」
     それを暴虐なアンブレイカブルに聞かれたのが、運の尽きだった。

    「どうした? もっと力を見せて見ろ。でなければ女の方から殺すぞ」
     とある人気のない荒地。整地したものの交通アクセスの悪さから買い手のつかないそこに、カップルは連れて来られていた。
     彼氏の顔は殴られ腫れ上がり、殴られた肋骨にはひびが入っている。その後ろには足首の骨を砕かれた彼女が。全ては、巨漢のアンブレイカブルの疑問を解決する為だった。
    「大事な物を守ろうとする時、人はより多くの力が出るらしいな。貴様らは仲が良さそうだ、試しに俺に見せてみろ」
     そんなたわごとの為に、街中を歩いていた二人は力任せに両脇に抱えられさらわれこの場に連れて来られると、アンブレイカブルは先に彼女の足首を握り潰したあげく、彼氏に戦いを挑むよう強要したのだ。
     勝てる訳もないその戦いに、それでも彼氏は恐怖に顔を歪めながらも向かって行った。
     けれど無駄だった。容易く打ちのめされ、今のような状況に追い込まれている。
    「貴様それでも本気か? もう一度だけ機会をやる、掛かって来い」
     それは死刑宣告。決して勝てない相手に、吐いてしまいそうな殺気をぶつけられ彼氏は恐怖に涙を流しグチャグチャに顔をゆがめる。そして体中を震わせ、泣き声を滲ませながら彼氏は言った。
    「逃げ、て……」
     擦れた声を必死に上げ、叫び声を上げながらアンブレイカブルへと突進する。そして、一撃で殴り殺された。
    「くだらん。無駄な時間を潰した」
     アンブレイカブルは血にまみれた拳を振り、憎悪の眼差しを向ける彼女に近付き言った。
    「全く力は変わらなんだ。あの男はお前の事が大事ではなかったのだな。選ぶ相手を間違えた。紛らわしい真似をするな、馬鹿者どもが」
     そして拳を振り上げ彼女を――


    「誰かを守りたいという意志も無い人には、死んでも理解できないでしょうね」
     誰にも聞こえない小さな声で呟いたあと、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まってくれた灼滅者達に説明を始める。
    「あるアンブレイカブルの行動予測を行いました、灼滅をお願いします。このアンブレイカブルは、誰かが大事な人を守る時にはより大きな力を出せる、という話を聞き、それを確かめる為に行動しているようです。被害者予定の方達は2人。当日、偶々アンブレイカブルの前を通り過ぎてしまっただけのカップルが被害に遭います。アンブレイカブルは2人を人気のない場所まで連れて行きますが、そこに連れて行かれる前に干渉すれば逃げられたり、周囲により大きな被害が出る可能性もあるので気を付けて下さい。事件の場所は、こちらで確認をお願いします」  
     そう言うと事件現場の資料を渡し、それを灼滅者達が目を通す中、説明は更に続く。
    「事件現場は郊外の工場跡地です。戦うに十分な広さがあります。工場の半分ほどが更地にされた後、残りは解体資金の調達に手間取り放置されていますので、そこに隠れてアンブレイカブルが現れると同時に干渉を始めれば、被害者予定の2人が本格的に傷付く前に助け出す事も可能です。事件発生時刻は午後2時、それまでに現場での準備をお願いします」
     そこまで言うと、一息つくような間を開け、敵の能力に関する説明を行う。
    「敵はストリートファイターとリングスラッシャーのセブンスハイロウ相当のサイキックを使って攻撃してきます。ポジションはディフェンダー。自分の身を守る為というよりは、戦う相手の力量を観察したいという意図からそのポジションを取ってきます。逃げる事は無く、灼滅されるまで攻撃し続けてきますので気を付けて下さい」
     そこまで言うと、最後に激励を込め彼女は灼滅者達に呼び掛けた。
    「今の皆さんの力なら、きっと勝てます。ですが油断は禁物ですので、どうか気を付けて下さい。好奇心で誰かを傷付けるような身勝手な相手に、皆さんが怪我も無く戻れるよう祈っています」


    参加者
    村井・昌利(孤拳は砕けず・d11397)
    綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)
    紅月・美亜(厨二系姉キャラ吸血鬼・d22924)
    黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)
    果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)
    リゼ・ヴァルケン(緋色の瞳・d29664)
    水無瀬・涼太(狂奔・d31160)
    結城・カイナ(闇色サクリファイス・d32851)

    ■リプレイ

    ●敵挑発
    「まずは逃げられぬよう女の足を潰す」
     人気のない工場跡地。そこに両脇に抱えていた男女を放り投げアンブレイカブルは無慈悲に近づく。少女を庇うように少年は前に立つが恐怖に体を震えさせる。
     そんな彼を殴り飛ばそうと腕を上げ、しかしそれが振り下ろされる事は無かった。背後からの奇襲に、即座に対応する。
    「ん、貴方の音はちょっと耳障り」
     男女とアンブレイカブルに割って入るように、綾辻・刻音(ビートリッパー・d22478)が捩じりを込めた槍の一撃を放つ。狙いは右脇腹。螺旋の一撃は迷いなく突き進み、拳の一撃で軌道を逸らされる。敵が後方へと向く動きに合わせ放った左拳打が槍の腹にぶち当たったのだ。敵はその勢いを殺さず右の拳を引き、追撃で放たれた結城・カイナ(闇色サクリファイス・d32851)の斬撃に右拳を当て同様に逸らす。
     敵に笑みが浮かぶ。予想外の戦いに喜びを隠そうともせず、けれど狙ったのは男女だった。
    「先にこちらから試させて貰う」
     重心を落とすと同時に踏み込み、鋼鉄の如き正拳を放つ。響く、鈍く重い音。それはダイダロスベルトを撒き付けた両腕を交差させリゼ・ヴァルケン(緋色の瞳・d29664)が受け止めた音だった。
    「貴方のような相手に誰かを傷付けさせない」
     迷い無き意志と強い敵意を込めた眼差しに、敵は楽しそうに距離を取る。その隙に灼滅者達は男女を逃がした。
     水無瀬・涼太(狂奔・d31160)が怪力無双を使い二人を両脇に抱え距離を取ると、水無瀬の動きを助けるように黒揚羽・柘榴(魔導の蝶は闇を滅する・d25134)は王者の風を展開。
    「こいつはボク達に任せて2人とも逃げて!」
     その言葉に従い男女はその場を去っていく。それに敵は視線を向けるが、村井・昌利(孤拳は砕けず・d11397)と紅月・美亜(厨二系姉キャラ吸血鬼・d22924)、そして果乃・奈落(果て無き殺意・d26423)が進行方向に立ちはだかった。
    「邪魔をするか、灼滅者達よ」
    「邪魔じゃないさ、誘ってるだけだ。あんな強いかどうか分からない相手よりも、俺らと戦う方が楽しめると思うがな」
     果乃の挑発に敵の笑みは更に深まる。
    「守る者の強さを知る為の試しだったが、灼滅者達が釣れるとはな。喜ばしい」
    「貴方達はいつも何で……利己的な理由で人を襲う貴方達を、わたしは許さない」
     自身の過去が、リゼに敵への律しきれないほど強い敵意を湧き上がらせる。けれどそれは、重ねられた手のやさしさに助けられた。ビハインドとなった姉、彼女がそっと手を握る。それにより冷静を取り戻すリゼ。敵はその様子に、
    「ほう。貴様、守られているのか? ならば良し。試すのは貴様でも構わん」
     興味深げに告げた。敵の殺意がリゼに集中する。それを分散させるように灼滅者達は次々に言葉を向ける。
    「ここに居る守りし者は、一人だけではない。私とてそうだ。私は妹を守る為に、ただそれだけの為に戦っている。アンブレイカブル、ただ只管に力のみを追い求める者よ。貴様は守る者の強さを知りたいようだな。ならば私は貴様に教えてやる。守る物がない貴様の弱さをなッ!」
     紅月の口上に敵は返す。
    「弱さか。それが我が強さに繋がるというのなら、ぜひ教えてくれ。命を賭してな」
     殺気が更に膨れ上がっていく。それを受け止めるように灼滅者達は言葉を続ける。
    「ん、なんか色々言ってるけど、やってたことは弱い一般人なぶりとか笑わせるね」
     綾辻が挑発をすれば、
    「守る強さを、って言ってるが、そもそもてめぇは持ってるのかよ、大事なもんを」
     結城は怒りを滲ませながら問い掛ける。それに敵は、
    「無い。問題はそこだ。守る者の強さの秘密を知った所で無ければどうにもならん。ふむ、折角だ、それも教えて貰おうか。守るべき大事な物とは、一体なんだ?」
     無邪気な悪意とすら言える無知をさらす。それに結城は怒りを強くし返す。
    「下らねぇな、てめぇ。そんなに知りたいなら、俺の大事なモンが何か……教えてやろうか――殺してみろ、死ぬ寸前に教えてやるよ。言ったところでてめぇの頭で理解出来るか分からねぇがな」
     しかし敵の応えは異常だった。
    「教えてくれるのか、それは助かる。なに、理解する必要はない。方法さえ分かり強くなれるのならば、それで十分だ」
     新しい玩具を手にするあてが出来た幼子のように、無邪気な笑みを浮かべた。
    「どうしようもないな、こいつ。さっきの2人、先に逃がしておいて良かった」
    「本当だね。こんな相手に傷付けさせずに済んで良かったよ」
     水無瀬と黒揚羽は挑発も兼ね、敵に聞こえるように言う。そして、
    「喧嘩を買うか。ちょうど良い、挑発の手間が省けた。元から売るつもりだったが、存分に相手をして貰うぞ。考えはともかく、やり方が気に喰わないんでな。ここで確実に潰す」
     村井の宣言と共に、必要なESPが使われ決戦場が作られる中、死闘が始まった。

    ●灼滅戦
    「良いぞ、もっと力を見せてみろ!」
     繰り返される戦闘。その中で幾度も攻撃を受けながら、敵の顔には闘う喜びしか浮かばない。その喜びを更に味わうべく、放出したサイキックエナジーを無数の光輪と化し解き放つ。轟音と共に前衛の灼滅者達に次々に着弾。しかしそれを受けながら灼滅者達は決して退かない。
    「連携行けるか?」
    「任せて!」
     僅かな言葉で準備を終わらせ、果乃と黒揚羽は走り出す。瞬時に詰まる間合い。僅かな速度の差と左右それぞれに散る動きが、お互いの攻撃の隙を埋め合う動きを見せる。どちらか一方を避ければ、その隙を確実に突かれる。それを肌で感じ取れるほどの連携。迷いを見せれば付け込まれるそれを、敵は避ける事無く歓喜と共に受け止めた。
     初手、確実に当てる事を狙い振るわれた黒揚羽のマテリアルロッドの一撃を右腕で防ぐように受ける。しかしそこから流し込まれた魔力は荒れ狂い無数の裂傷を刻む。そこに間髪入れず突き出された果乃のマテリアルロッドは腹部に命中。肋骨を粉砕する音を響かせ敵内部を破壊した。だが、
    「強い、強いな貴様ら! それが守る者の力か? 良いぞ、もっと我に見せてみろ!」
     噛み付かんばかりに笑みを強くし、更に戦いを求める。それに果乃と黒揚羽は呆れたように返す。
    「守るための強さは、お前には永遠に理解できないだろうよ。……まぁ俺にも縁のない話だがな」
    「誰かを守ろうとする意志の素晴らしさを踏みにじる貴様では、その強さを永遠に理解できないね」
     この言葉に疑問を浮かべ敵は問い掛けようとする。しかしそんな余裕を与える気は灼滅者達には無かった。
    「戦いに集中しろ」
     徒手拳闘の間合いに踏み込んだ村井は、戦いに対する敬意の為に不意を突かずあえて声を掛ける。それに意識を向ける敵。それを始まりの合図として、村井は無数の拳打を繰り出した。左右拳の連携、そして時に虚を突くような諸手突き。打ち出される拳打は無数に、前へ前へと押し込むような剛拳と化し防御に回る敵の腕に容赦なく打ち込まれる。そして左拳が腕の防御を強引に開けさせると、全身の捩じりを収束するような右正拳が腹に突き込まれた。その衝撃に、敵は僅かに動きが止まる。その瞬間、村井はその場を跳び退き、綾辻が追撃を重ねる。
    「それじゃ、刻んであげるね」
     村井が跳び退き敵がそちらに意識を向けた瞬間、それに合わせ死角に移動していた綾辻は、急所を突くように的確な手刀を無数に放つ。刻むような斬撃は一瞬で幾つもの筋を断ち切り動きを鈍らせた。その状況にあって、敵は禍々しき笑みを未だ浮かべる。その禍々しさに挑むように紅月はあえて名乗りを上げた。
    「我が名は……いや、私は、紅月美亜。あえてこの名を名乗ろう。貴様の暴挙、今ここで止めてやる!」
    「良いぞ、やってみろ!」
     敵の呼び掛けに応えるように、紅月は自身の霊犬である輝銀乃獣と共に間合いを詰める。あと一歩で攻撃の間合いに踏み込む瞬間左右に散り、紅月は高らかに自らの力の名を呼んだ。
    「時の呪いに蝕まれるがいい……時間触ッ!」
     銀鷹を介し発動された石化の呪いは敵を蝕む。硬直する敵。だが強引に動こうとする瞬間を捉えるように霊犬ギンの斬魔刀が胴を斬り裂いた。 
     重ねられる攻撃。そこへ更に追撃を加えたのは水無瀬だった。
    「守るモンがありゃ強くなれる……っつーのはまァあながち間違っちゃいねェが。それを他人に求めてんじゃねェよ」
     迷いなく真っ直ぐに間合いを詰める。そこから放たれた小細工無しの正拳は、まさに鋼の如き硬さで脇腹に減り込む。肉を打ったとは思えない鈍く重い音が響いた。水無瀬は残心を解く事無くその場から跳ぶ。それはリゼの攻撃の射線を通すため。その配慮を殺す事無く間髪入れず攻撃は放たれた。
    「姉さん、いくよ」
     ビハインドである姉と共に攻撃を放つ。DCPキャノンと霊障波は十字砲火の如く左右から襲い掛かり、威力の全てを食い込ませた。繰り返し受ける攻撃。それに敵が浮かべるのは歓喜だけだった。
    「強い、強いな。ははっ、守る力を手に入れれば我もこのように更に強くなれるのだな」
    「いっそ憐れだな、てめぇは」
     絆や想いの本質をどこまでも理解できない敵に、結城は怒りと共に間合いを詰める。
    「てめぇみたいな野郎には死んでも分からねぇよ、守りたいほど大切な物、なんてのはな……何も分からないまま消えて逝け。似合いの末路だ、笑ってやるよ」
     迎撃するべく構える敵に、生粋の戦闘狂たる彼は獰猛な笑みを浮かべ突き進む。速度は決して落とさない。カウンターを食らう事など無視し懐へと踏み込み、DMWセイバーによる斬撃を撃ち放った。斬撃に血が飛び散る。それすら無視し、敵はカウンターの拳を結城に叩き込む。脇腹に減り込み殴り飛ばされる結城。だが彼は戦闘の狂騒に、楽しげに笑みを浮かべるのみ。
    「てめぇみたいな奴を相手してやるんだ。せめて楽しませろ」
     それに応えるように敵は笑みを浮かべ、更に戦いは続いていった。

     こうして戦いは重ねられる。敵ポジションがディフェンダーであった事もあり、決着は中々つかない。だが、繰り返される攻撃に蓄積されたダメージ、そしてエフェクトが致命的に重なり、敵の最後の時はやって来た。

    「全力で来い。でなければ、俺で終わるぞ」
     言葉少なく村井は挑発する。それに笑みを浮かべ突進してくる敵。それを村井は避けない。敵の一挙手一投足、その全てを肌で感じ取れるほどに見極める。そして攻撃の間合いに触れ合う瞬間、重心を低く落しながら足運びにより敵の突進の軸をずらす位置へと移動、同時に掴みかかってきた敵の両腕を逆に掴み勢いを誘導すると、全ての勢いを利用した投げを打つ。弧を描き宙に浮く敵を、そのまま頭から地面に叩き付けた。
     間髪入れず村井は跳ぶ。仲間の追撃の邪魔にならないように。そこに踏み込んできたのは綾辻。
    「ん、やっぱり貴方の音は耳障り。そろそろ消えて」
     起き上がり迎え撃とうとする敵を置き去りにする速度で死角に回り込み、死角の位置に張り付いたまま斬撃を繰り出す。無数の斬撃は防御する暇すら与えず敵の体を切り刻んだ。吹き上がる無数の血飛沫。それでもなお敵は戦いを望む。
    「まだだ、まだ掴めん。もっとだ、もっと掛かって来い灼滅者ども!」
     それに紅月は応える。
    「お前が望む物を得られる時は無い。教えてやろう、寄る辺の無いお前の弱さ……心の弱さをなッ!」
     宣言と同時に生み出したのは赤き逆十字のオーラ。それは敵の胸元に食い込むとオーラに沿って体を引き裂き、同時に精神にも損傷を与えた。
    「何故だ、何故我には手に入れられぬ!」
     湧き上がる衝動に敵は自身を殴りつける。その隙を逃さず、紅月の霊犬ギンは六文銭射撃を叩き付けた。繰り返される攻撃に敵は確実に弱っていく。そこに追撃を掛けたのは水無瀬。
    「強さだけで、それ以外の物を欲しいと思った事も無いんだろ? 誰かを、何かを大切に思えないんじゃ、未来永劫手に入らねェよ」
     諭すように告げながら、けれど灼滅者として容赦はしない。真っ直ぐに踏み込むと雷を纏う拳を振り抜く。間合いに達すると同時、沈めた体を一気に伸び上げ打ち上げるように拳を顎に叩き込んだ。その威力に浮かび上がる敵。そこへすかさずリゼはビハインドである姉と共に攻撃を叩き込んだ。
    「貴方は必ずここで灼滅する」
     DESアシッドと霊撃がほぼ同時に命中する。もはや敵には死の色が濃い。その中にあって敵が見詰めていたのは、リゼと彼女のビハインド。じっと見詰めながら、しかしそこに浮かぶのは疑問のみ。
    「分からぬ……」
    「だろうな。言っただろ、てめぇにゃ死んでも分からねぇって」
     敵の疑問を一刀両断するように、結城は非物質化させた刃を振り抜いた。肉体は傷付けず、けれど霊魂に食い込んだ斬撃は、逃れようのない傷を与えた。
     すでに敵は満身創痍。だが敵は最後の最後まで殺意を解くことは無かった。
    「もうよい。我に理解できぬず手にも入らぬというのなら、理解できる物のみで強くなれば良いだけの事。ならばこれまでと変わらず殺し続けるのみ。我が強さの糧となれ、灼滅者ども!」
     一際膨れ上がらせた殺気と共に光輪を撃ち放つ。直撃する前衛の灼滅者達。けれど灼滅者達は止まらない。身勝手な暴虐の主を終わらせるべく、果乃と黒揚羽は連携を取り走る。
    「今度は俺が先に仕掛ける。後は任せた」
    「任せてよ。いい加減、終わらせよう」
     先行を果乃が、その後を黒揚羽が間合いを詰める。敵は迎え撃とうと構えるが、与えられたエフェクトで弱体化した今では避ける事すら叶わない。
     間合いを詰める間に、的確に敵の急所を見抜いた果乃は、すれ違いざまに無数の斬撃を放つ。それにより今まで繰り返された攻撃で弱った筋が幾つも断ち切られ動きが止まる。その隙を逃さず、黒揚羽は止めの一撃を放った。突進の勢い全てを込めるような跳び蹴り。蹴りの軌道に流星の煌めきを輝かせ、膨大な重さと共に胸元へと蹴り込んだ。
     その勢いに敵は吹っ飛ぶ。地面をえぐるほどの勢いで叩き付けられた敵は、何かを求めるように手を伸ばす。だがそれは何物にも届く事無く、崩れ去る。その破片が体に降り注ぐ中、敵の体中には無数の亀裂が走り、末期の声を上げる余裕すらなく塵と化し消え失せた。

     こうして誰一人犠牲を出さず、戦いは終わった。
     最後の最期まで望んだことを理解できずに滅びた一人のアンブレイカブル。彼に何を想ったのかは、それぞれの灼滅者の心の内のみで語られる事だろう。
     そしてまた同様の事件が起こっても、彼らや彼女達のような灼滅者が活躍するのだろう。そう思える依頼であった。

    作者:東条工事 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月6日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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