華菜と茉菜

    作者:紫村雪乃

     息苦しくなって片岡京太郎は眼を覚ました。何か柔らかいものが顔に押し付けられている。
     白い肉。中央にはピンク色の突起がついている。
    「これは……」
     京太郎は腕を動かそうとした。が、動かない。手が熱く湿った滑らかなものに挟まれている。
    「あっ」
     慌てて京太郎は身を起こした。それで掛け布団がずれ、全体の様子を見下ろすことができた。
     彼を挟むように二人の少女が眠っていた。真っ白な裸身で。
     一人は長い栗色の髪をもった艶やかな美少女だ。そして、もう一人は小柄の華奢な少女。京太郎の手は少女の股の間に挟まれていた。
    「な……」
     声をなくした京太郎の前で、艶やかな美少女の方が薄く眼を開いた。
     名は華菜。京太郎の妹だ。義理ではあるが。
     そして、もう一人。華奢な少女の方は名を茉菜。華菜の妹だ。
     事の起こりは父の再婚であった。今、新しくできた母親とともに長い新婚旅行に出かけている。華菜と茉菜はその女性の連れ子であったのだが――。
     この二人、まるで警戒心というものがなかった。風呂あがりなど平気で裸で歩き回る。注意をすると、兄妹だから大丈夫といって、かえってお尻を突き出す始末だ。
    「……京太郎、おはよう」
     気がつくと華菜が眼を開いていた。そして花のような唇を開いた。
    「目覚めのキスして」
    「ば、馬鹿か。それより、何で俺のベッドにいるんだ?」
    「いいでしょ、兄妹の仲なんだから。ね、キス。キスくらい挨拶なんだから」
    「な――。そんなことより、胸隠せ」
    「胸だけで、いいの?」
    「下もだ」
    「お、おにいちゃん」
     茉菜が恥ずかしそうに身悶えた。
    「……手、動かすと、くすぐったい」
    「淫魔が、一般人中学生を籠絡しようとしているよ。一般人中学生は強力なダークネスになる素質を秘めていて、このまま行くと淫魔は強力な手駒を得ることになってしまううんだよ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)がいった。中学生の名は片岡京太郎。淫魔は華菜と名乗っており、茉菜と名乗る少女は強化一般人だ。
    「この事件を解決するには淫魔の灼滅しなければならない。けれど目の前で二人の淫魔が苦しむところを見た時、京太郎という少年はどうなるか――。下手をすれば闇堕ちしてしまうかもしれない。
    「どの様な手段をとるかは皆に任せるよ。でも、注意して。淫魔は中学生の身近に潜んでいるから。登校下校を共にしているし、授業時間中も学校に隠れている。襲われると、きっと助けを求めるよ。そして帰宅してからはずっと一緒。少しでも離れているのは学校にいる時くらいだろうね」
     まりんはため息ほこぼした。単純な攻撃力に関して淫魔は恐るるに足りない。が、どのような策を弄してくるか。さらに強化一般人もいる。
     そして、もうひとつ。少年がもしダークネスとなれば、イフリートとして強大な力をふるうことになる。
    「淫魔は治癒や魅了の力、強化一般人は素早い動きと強大なパワーをもっているんだよ。強化一般人にダメージを与えても淫魔が回復するから注意して」
     灼滅者を見つめるまりんの瞳に光がきらめいた。信頼という光が。
    「闇堕ちを防ぎ、淫魔を灼滅すれば作戦は成功。皆、がんばって」


    参加者
    白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)
    ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)
    煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)
    城戸崎・葵(素馨の奏・d11355)
    山田・菜々(家出娘・d12340)
    天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)
    天原・京香(信じるものを守る少女・d24476)
    エメレンツィア・ザーネパステーテ(ヒツジの皮をかぶったオオカミ・d32500)

    ■リプレイ


    「……あれじゃな」
     静まり返った廊下。そこに潜む四人の人影のうち、十六歳ほどの少女が口を開いた。
     冷然たる口調は大人びていた。日本人ではない。彫りの深い顔立ちに浅黒い肌。それは中東生まれの故である。
     ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068)。灼滅者であった。
    「そうだね」
     妖しく光る蒼瞳の少女がうなずいた。どこか野性味を感じさせる少女である。それは大きな瞳が猫のようにややつり上がっているせいかもしれなかった。名をエメレンツィア・ザーネパステーテ(ヒツジの皮をかぶったオオカミ・d32500)という。
     そして他の二人。それも少女であった。
     一人は十四歳。可愛らしい顔立ちであるが、表情の乏しい少女である。
     もう一人。これはやや年上に見える。もう一人と同じく可愛らしい顔であるのだが、どういうわけか漂う雰囲気はどこか男の子っぽい。
     それぞれ名は天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)に山田・菜々(家出娘・d12340)。灼滅者であった。
     今、廊下にひそみ、彼女たちが窺っているのは教室であった。窓際の席に一人の高校生が座っている。
     外見的にはどこといって取り柄はない。一度見ただけでは思い出せそうにない普通の見た目である。
     ターゲットの一人。片岡京太郎であった。
    「うらやまけしからん状況っすね」
     むふ、と菜々が口をきつく結んだ。
     美少女二人に淫らに迫られる生活。まさに男の夢であろう。
     すると麒麟の顔にわずかに表情が蠢いた。嫌悪の表情が。
    「最近知り合った男の子に、裸で抱きつくとかおかしいよね。京太郎って男の子も、おかしいって思わないのかな?」
    「少しは思ってるんじゃないっすか」
    「それよりも夢見心地なんじゃろう」
     冷たくライラが言い捨てた。
     男とは基本嫌らしい。それで何人の男が身を滅ぼしたか。やはり養父に勝る男はそうはいない。ライラはあらためて思った。
     すると、エメレンツィアがちろりと唇を濡れた舌で舐めた。まるで肉食の猫族獣が獲物に狙いを定めたかのように。
    「……彼女達の邪魔をできるなら私は何だって許すわ。やり場のないものが溜まっているのよね? 私なら、貴方の家族じゃないから…大丈夫よ」
     エメレンツィアは密やかに独語した。


     麒麟と通話を終えると、瞳の大きなその優しげな娘は辺りを見回した。旅人の外套をまとっているので一般人の眼を気にする必要はい。
     名は白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)。探しているのは淫魔であった。
     校庭の片隅。淫魔が潜むのなら京太郎の近くである可能性が高い。
     片隅には物置がおかれていた。運動用具入れだ。
     そうっ、と朝乃はドアに手をかけた。一気にドアを横に滑らせる。
     いない。
     朝乃は詰めていた息を吐いた。
    「……まったく。そんなえっちな姉妹が現存してたら漫画の世界だよ…」
     朝乃は呆れたようにごちた。京太郎という少年もそのことに気づかないのだろうか。
     いや、もしかすると違和感は覚えているのかもしれない。が、人は時として虚しい現実よりも素敵な嘘を信じたがるものなのであった。
     その心の弱みに淫魔はつけこむ。
    「だからこそ、私達がいるんだよね」
     朝乃はドアを閉めた。

     同じ時、城戸崎・葵(素馨の奏・d11355)は学校の裏にいた。眼鏡をついと指で押し上げ、月光をやどしたかのような冴えた瞳で周囲を探る。
    「この辺りにはいないようだね」
     呟き、葵は端正な顔をわずかにしかめた。格調高い、いわばギターの絃の澄んだ響きにも似た精神をもつ葵には、淫魔の所業は唾棄すべきものでしかなかったからだ。
     兄妹を装い、肉欲をもって籠絡する。何と汚らわしい行為であることか。
     肉親の愛とは崇高なものなのだ。いわば芸術のように。その愛を、肉欲という汚穢なもので淫魔はごまかそうとしている。
    「……下品な子達の為に闇に堕とさせたりしない、絶対に」
     静かな、しかし断固たる声音で葵は宣言した。

     校舎の裏。非常階段の登り口に二つの人影が潜んでいた。
     一人は気の強そうな美少女だ。衣服の胸の辺りが大きく膨らんでいる。
     もう一人。これも美少女だ。同じように豊満な肢体の持ち主だが、傍らの少女とはまるで印象が違う。それは少女の瞳にどこか翳りがあるからかもしれない。
     二人は最後の灼滅者。天原・京香(信じるものを守る少女・d24476)と煌・朔眞(秘密の眠り姫・d05509)であった。
     京香と朔眞は身を潜めつつ、辺りを見回した。淫魔の姿はない。
    「どうする?」
     京香が朔眞を見た。朔眞は幼い仕草で首を傾げると、さあ、とこたえた。
     学校に潜入したものの、どうも身動きがとれない。旅人の外套をもつ朝乃ならいざ知らず、そうでないかぎり、迂闊に動けば誰かに見咎められかねなかった。
    「くっ」
     苛立ったように京香が唇を噛んだ。その様子を怪訝そうに朔眞を見つめると、
    「どうかしたの?」
    「私はこの手の淫魔は嫌いでね……。男の子の方も、不憫で仕方ないわ」
     京香はいった。
     その言葉に滲む憎悪を感じとって朔眞は怪訝そうに眉をひそめた。
     そう、朔眞は知らない。その憎悪の意味を。
     それは近親憎悪といえるかもしれなかった。何故なら、かつて京香もまた淫魔であったのだから。


    「……片岡君」
     呼び止める声。
     校庭で足をとめた京太郎は一人の少女の姿を見出した。金色の髪の綺麗な顔をした少女だ。
    「あの……俺に何か用?」
    「先生が呼んでるから一緒に来て」
    「先生が?」
     怪訝に思ったが、ともかく京太郎はうなずいた。職員室にむかう。
    「こっちよ」
     途中で少女が方向を変えた。校舎の裏にむかう。
    「……今日もいつもの女の子達と帰るの?」
     突然少女が問うた。えっ、と戸惑った顔を京太郎はむけると、
    「そうだけど……おい」
     慌てて京太郎が呼び止めた。
    「こっちは校舎――」
    「いいの。先生は裏にいるんだから」
     素っ気なくこたえると、少女は校舎の裏にむかって歩みを進めた。
    「うん?」
     裏に辿りついた京太郎は辺りを見回した。先生らしき者の姿は見えない。代わりに三人の少女の姿があった。
    「君達は――」
    「きみが京太郎くんすか? それじゃあ、おやすみっす」
     快闊そうな少女がニッと笑んだ。
     刹那、吹く、桜香含む春風にも似た一陣の爽風が。
     次の瞬間である。京太郎の意識は暖かな闇に沈んだ。
    「京太郎を眠らせたよ」
     携帯電話にむかって告げると、金髪の少女――麒麟は京太郎を眠らせた菜々に眼をむけた。
    「物置に閉じ込めておいた方がいいよね」
    「それはわたしがやっておくわ」
     エメレンツィアが京太郎を抱き起こした。そして三人を見やると、促した。
    「京太郎君はわたしが見張っておくから、みんなは淫魔のところへ」


     非常階段を降りると、二人の少女は校門の方へと歩き出した。
     美しい少女たち。一人は艶やかで、一人は楚々としている。華菜と茉菜であった。
     校門の近くに二人はじっと佇んでいた。待っているのである。京太郎を。
    「京太郎さんは来ないよ」
     可愛らしい娘が告げた。朝乃である。
    「京太郎が来ないって……貴方たち、誰なの?」
     華菜が問うた。艶やかな表情はそのままに、その顔の皮一枚下、何か不気味なものがごぞりと蠢いた。
    「灼滅者。悪いけど、此処から先は行かせないよ」
     静かに葵が告げた。すると朔眞がにこりと花のように微笑んだ。
    「朔眞たちと遊んでくれませんか? ……お相手してください♪」
    「くそ生意気な女。こんなところで暴れるつもりか?」
     華菜――淫魔の唇の端がきゅっと吊り上がった。対する葵は冷笑で報いた。
    「心配はいらないよ」
     瞬間、葵の身から面もむけられぬほどの悽愴の殺気が迸りでた。それは旋風のように辺りの空間を切り裂いた。
     なんで一般人がたまろうか。無意識的に生徒たちが葵から遠ざかり始めた。
    「大人しくしていてもらうわね」
     朔眞の手に一枚のカードが現出した。スレイヤーカードだ。
     朔眞はカードの封印を解いた。強大な精神力によって固定化されていた擬似異空間――封印結界内において素粒子分解されていたものが朔眞の前に顕現する。
     殲術道具。朔眞のそれは巨大な杭打ち機であった。
    「えいっ」
     朔眞がドリルのように回転する杭を淫魔に打ち込んだ。が、寸前で杭はとまった。横からのびた手が朔眞の腕を掴んだからである。
     手の主――茉菜が手に力をこめた。万力にはさまれたように朔眞の手首が悲鳴をあげる。ぼきり、と朔眞の手首が折れ、ありえぬ方向に曲がった。朔眞の苦悶の呻きが響く。
    「くくく。茉菜、任せたわよ」
     淫魔が走り出した。そして、甘えた声で叫ぶ。
    「京太郎!」


     ぴくりとし、京太郎が眼を開いたのはエメレンツィアがトランクスをずらせた時であった。
     はじかれたように京太郎は半身を起こした。華菜に呼ばれたような気がしたのだ。
    「……華菜」
     と呟いた時、はじめて京太郎は異変に気づいた。いつの間にか股間がさらけだされている。
    「な――」
     突然のことに呆然とする京太郎の眼前で、彼の股間にチロチロと舌を這わせていたエメレンツィアが顔をあげた。すでにドレスの胸元を広げ、桃のように白い乳房を露わにしている。
    「みんな忘れるくらい、気持ちよくさせてあげるわ」
     エメレンツィは汗で濡れた身体をずらした。京太郎の唇に自身の花びらのようなそれをあわせる。豊かな乳房は押しつけ、京太郎の手を自らの股間に導く。
     二人の男女の口から濡れた喘ぎ声がもれた。

    「逃がさないよ」
     京香が銃をかまえた。
     複数の銃身をもつ破壊の権化。ダークネス殲滅型ガトリングガン――金陽の咆哮だ。
    「やめて!」
     茉菜が跳んだ。重い鉈の威力を秘めた蹴りを京香にぶち込む。いや――。
     別の影が跳んだ。葵だ。
    「やるんだ、京香君。彼女は僕がとめる」
    「わかったよ!」
     京香の顔に一瞬よぎる笑み。その指はトリガーを力強くひいた。
     突如、回転しつつ銃身が吼えた。怒涛のごとく唸り飛ぶ大口径弾丸が空を圧倒的迫力で切り裂く。轟音は外部には届いてはいないが。
     同時、空で二つの影が交差した。まるで鋼が相射ったような響きを残し、葵と茉菜が位置を入れ替え、降り立つ。
    「くっ」
     葵がよろめいた。凄まじい衝撃に足が痺れてしまっている。
    「ジョルジュ!」
     葵が叫んだ。堪えるにビハインドである彼のかつての恋人であるジョルジュが高濃度の霊力の塊を放った。が――
     霊力の塊がはじかれた。茉菜の繊手のひと振りによって。
    「きゃあ」
     悲鳴をあげて淫魔が横に跳んだ。数発被弾しており、身体は濡れた鮮血にまみれている。妖しくも凄惨な光景だ。
    「京太郎!」
     再び淫魔が叫んだ。


    「華……菜」
     初めての快感に忘我の境を彷徨っていた京太郎が我を取り戻した。そして、気づいた。
     自分の上に馬乗りとなった小悪魔的な美少女が唇を重ねている。濡れた舌が口の中を這い回っていた。
    「や……やめろ」
     萎えかける気力をふりしぼり、京太郎は少女――エメレンツィアを突き飛ばした。濡れた秘部を露わにしてエメレンツィアが転がる。
    「華……菜」
     よろよろと京太郎は立ち上がった。が、すぐに倒れた。脱がされたズボンが足にからまっていたのである。
    「待って」
     エメレンツィアが立ち上がった。倒れた京太郎の前に立ちはだかる。
    「何故、わたしがこんな真似をしたか。わたしの話を聞いて」
    「き、君の話を?」
    「そう。あなたの妹さんたちのことよ。妹さん達は、私の父と弟の心を奪い、破滅させたわ。何人もの男達を誘惑して溺れさせ、骨まで利用して…最後には捨ててきたのよ」
    「う、嘘だ」
     いやいやをする子供のように京太郎は首を振った。
    「嘘じゃないわ。ね…おかしいと思わなかった? あの二人の行動。妹のスキンシップじゃ、ないわよね」
    「あっ――」
     京太郎は言葉を失った。が、はじかれたように立ち上がると、
    「華……華菜ぁ!」
     血を吐くような声で京太郎が叫んだ。

    「京太郎!」
     淫魔がニヤリと嗤った。居場所は突き止めた会心の笑みである。弾丸のように淫魔が走り出した。
    「行かせないよ」
     金陽の咆哮から再び無数の弾丸が撃ちだされた。熱い鋼の嵐が淫魔を襲い――繊手が閃き、幾つかの弾丸を叩きおとした。そして幾つかの弾丸は肉体を穿った。真っ赤な鮮血がしぶく。茉菜の口から。
    「華菜さん」
     朝乃が淫魔を呼びとめた。
    「わざわざ裸になったり、二人がかりだったり、随分未熟ですね」
    「ぬかせ」
     淫魔がせせら笑った。
    「貴様らガキにはできぬ芸当よ」
    「でも魅了は私も得意分野ですよ?」
     朝乃が歌い始めた。天上から降り注ぐような神秘的な歌声。茉菜の動きがとまった。
    「ちっ」
     舌打ちし、淫魔が走り出した。が、すぐに足がとまった。
     淫魔の眼前。三人の少女が立ちはだかっていた。


    「……どこへいくつもりだ?」
     冷たくライラが淫魔を見据えた。傍らの麒麟の眼がすうと細くなる。凄絶の殺気がその身内でたわんだ。
    「お前が男の子を欲しがるのと同じで、きりんはお前をころしたいの、…いいよね?」
     刹那、麒麟が動いた。その手の槍――超常なるものを追い詰め殺す怨念が塗り込められた魔槍である妖しの槍が疾る。
     槍は麒麟の手により物凄い回転が加えられていた。より強く、より鋭く。敵を穿つために編み出された究極の殺法。螺穿槍だ。
     脇を抉られ、淫魔は後方に跳び退いた。一度、着地。衝撃を利用し、今度は斜め前に淫魔は跳んだ。
    「残念、ここは通行止めっすよ」
     菜々が交通標識で殴り倒した。常人には出し得ない強烈な衝撃。たまらず淫魔の豊満な身体は地に叩きつけられた。
    「……誘惑は一流でも、戦闘は二流なのが仇となったね」
     あくまで冷徹。さらには冷酷。
     巨大かつ異形化した片腕をライラは振り上げた。その眼前、衝撃の反動で鞠のようにはねあがった淫魔の身体がある。
    「……とどめよ」
     ライラは無造作に巨腕を振り下ろした。爆発的な破壊力を淫魔にぶち込む。
    「ぐぎゃあああああああああああ」
     耳を塞ぎたくなるようなおぞましい絶叫が淫魔の口から発せられた。
     断末魔の絶叫。消え去る前、朔眞は告げた。王女のように誇り高く、かつ哀しげな顔で。
    「大丈夫、次はいい夢を見られるわ」

     京太郎が校門まで辿り着いたのは、灼滅者たちが茉菜を隠した後のことであった。
     呆然と佇む京太郎の側に歩み寄る小柄な影がひとつ。朝乃だ。
    「二人は去りました。私、思うんですけど、色仕掛けする女の子より真面目な方のほうが似合ってると思いますよ」
    「……嫌だ」
     京太郎は唇を噛んだ。
     それを見届け、灼滅者は去る。一人の少年の未来に幸らんことを願って。

    作者:紫村雪乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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