お花見はカフェテラスで

    作者:御剣鋼

    ●お花見はカフェテラスで
    「日頃、頑張っておられます皆様方に、わたくし何かご奉仕できないか、花見を企画させて頂きました」
     教室に集まった学生たちを、穏やかな笑みで出迎えた里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)は、桜色の招待状を1人1人に手渡す。
     外見以外は壊滅に等しい男だけど、灼滅者に関しては、抜群の気配りを発揮するのだ。
    「河川沿いの花見かあ……悪くないわね」
    「おや? 場所は、カフェテラスなのかい?」
    「はい、河川沿いの桜の名所を探しましたところ、貸切が可能なカフェがございました」
     ――3月26日(木)15時から17時。
     自称執事らしく、丁寧な筆跡で記された招待状には、外観の写真が載せられている。
     カントリー風の室内は木材を基調に、テラスも同じような感じで温かく統一されていて。
     貸切なので、サーヴァントの同行は可能、清政も執事らしく給仕に専念するようだ。
    「外のテラスで花を見るのも、室内から見る桜も、どちらも良さそうだな」
     3月末なら武蔵坂にも桜前線がやって来る頃だから、見応えがある桜が見れるだろう。
     ワタル・ブレイド(中学生魔法使い・dn0008)は少し嬉しそうに口元を緩ませると、イタズラめいた笑みを清政に向ける。
    「アンタも分かりやすい男だな、皆と一緒に誕生日を迎えたいって言えばいいのにな!」
    「……え、いや、そんな下心は……すすすみませんっ!!」
     その日は執事エクスブレインこと、清政が16歳を迎える日。
     なるほど、と頷いた学生達の視線を受け、清政も年相応の少年のように、動揺していて。
     視線を避けるようにバインダーをめくった清政は、店内の見取り図を開いて、机に置く。
    「当日は、厨房も使えるように手配しておきましたので、腕に自信がある方は、何か作ってみてもよろしいかと……」
     満開の桜が織りなす桜吹雪。河川沿いに広がって降り注ぐ花びらは、格別に違いない。
     そして、花見の肴は美味しい御馳走。清政もそれを楽しみにしているようで、まだ見ぬ春の宴に想いを馳せている様子だった、けれど。
    「そういえば……花見といえば、カードゲームでございますね」
    「そうなのか?」
    「わたくし、ババ抜きでは最下位を争える位の、力量はございます……!」
    「それって、自分はカモだって言っているような……まあ、頑張ってくれ」
     ……実は、清政は大のギャンブル好き♪
     トランプのようなゲームを特に好んでいるとのことだが、こちらも壊滅補正付きだとか。
     清政相手に負けることはないと言うか、勝たせる方が難しいくらいの、レベルである。
    「何はともあれ、花見を機会に誰かと仲良くなったみたいていうのは、アリだよなー!」
    「新しく転校されてきた方々もおられますからね。たくさんの灼滅者様方がいらっしゃってくれますと、わたくしとても嬉しゅうございます」

     河川沿いのカフェテラスが織りなす、春の祝宴。
     顔見知りがいなくても、1人でも、皆や高校生の執事が温かく迎えてくれるだろう。
     クラブの仲間やクラスメイト、サーヴァント。気になる人と過ごす春の宴はいかが?


    ■リプレイ

    ●春零れる、陽光
    「ふーん、こんなとこにカフェなんてあるんだねぇ〜」
     転校してきたばかりの閨斗は、暇つぶしがてらに、カフェの木床に足を踏み入れる。
     店内は既に温かな賑わいに満ちていて、外のテラスに視線を移せば、満開の桜が川沿いに沿って枝を広げていて。
     桜色の天蓋から零れる陽光に、テラスに座った学生達が、眩しそうに瞳を細めていた。

    「苺のコンポートもウチで作ったんだけど、どうかなぁ? 甘すぎたりしない?」
    「お茶まで淹れて貰えるなんて、最高の贅沢だね」
     厨房を借りて持参したストロベリーロールケーキを切り分け、御茶を淹れて戻ってきた舜に、花月は嬉しそうに口元を緩める。
    「ん、美味しい」
     舜に選んで貰った洋服を着てきた花月は、おかしな所がないか気にしつつ、ロールケーキを口に運んでいく。
     至福の笑みでロールケーキを頬張る花月を、舜は温かく見守りながら、ふと呟いた。
    「好きな人が自分の作った物を食べて幸せそうな顔してる、というのは存外に嬉しいものなんだね」
    「ああ、その気持ちは凄く判る気がする。私も君が美味しいって言ってくれた時は凄く嬉しかったし」
     花月の返事に舜も頷き、来年は……と、告げようとした時だった。
    「だからね、今度は私が腕を奮わせて貰うよ」
     来年の花見も勿論。
     色んな季節、色んな時に、気の向くままに出掛けよう。
     それが私達らしい形だから、と――。

    「清隆……いつ和菓子作る様になったの?」
    「灼滅者になる前にちょっと実家が和菓子屋だったからね。それで覚えたんだよ」
     初デートに少し緊張していたメグは、小鳥のさえずりで、だいぶ解きほぐされていて。
     反対に、メグに見つめられた清隆は緊張で視線が泳いでしまうけれど、メグに優しく頭を撫でられると、落ち着きを取り戻したように、チーズケーキを口に運んでいく。
    「ケーキとミルクティーおいしい……清隆はどう?」
    「美味しいよ。食べる?」
     満面の笑みを返す清隆に、メグは嬉しくなってしまって。
     彼のことをもっと知りたい。メグは身を乗り出すように訪ねた。
    「清隆、私の何処……が好き?」
     その言葉に清隆は珈琲を吹きこぼし掛け、みるみる内に頬を赤らめる。
    「ぜ……全部だよ。ううっ……恥ずい」
     清隆が顔を上げると、メグも顔を赤く染めていた。
    「……嬉しい……私も好き、全部好き」
     好きになってくれて、ありがとう。
     頬を赤めらたメグに清隆は感謝の言葉を重ね、優しく頭を撫で返した。

    「もうこんなに桜が咲いてるんですね」
     満開の桜と舞い散る花びらを、ブレンダは少しの間うっとりと眺めていて。
    (「テラスに出るか店内に座るのか、早く決めてくれ」)
     そんな友人に連れてこられた冷夏は、桜には興味ないというのが、本音。
     けれど、彼女から猛烈に出ている、断れないオーラに逆らえず、黙ってついていく。
     外はまだ少し肌寒い。ブレンダは桜が良く見える窓側の席を見つけると、冷夏と向かい合って座り、桜そっちのけでメニューをガン見し始めた。
    「ブレンダはチョコパフェにするです」
    「あー、オレは珈琲」
     実は冷夏もチョコパフェが好きだけど、女の子と被るのは恥ずかしいのが、男の子。
     だが、視線は誤摩化せず、ブレンダのチョコパフェを物欲しげに見てしまう。
    「あれ、つくねさっきからやたらパフェ見てません?」
    「えっ、見てない見てない!」
     にっこり笑ったブレンダが、クリーム激盛りのスプーンを向けて来る?!
     強制あーんという無理難題に、冷夏がどうなったかは、また別のお話……♪

    ●春報せる、天蓋
    「わぁ、桜が満開だ~♪」
     テラスに出てはしゃぎ、走り回るシフォンを、士は穏やかな眼差しで見つめていた。
    「陽射しが心地良いな……」
     士の胸の内は、初めてのデートに対する緊張感と幸福感で、穏やかに満たされていて。
     2人に降り注ぐ陽光は、まるで春の到来を祝福しているのかのよう……。
     桜の下で団子を食べつつ楽しげに寄り添うシフォンを、士は一層愛おしく感じていた。
     シフォンが見せる綺麗で優しい笑顔が、士の心を満たし、そして癒していく――。

    「これが満開の桜……」
     はっと我に返った結生が宇宙の方へ振り向くと、彼はにっこり微笑んでいて。
    「川岸の桜っていいもんだな」
     自分が見てきたのは山の麓の桜だからと、宇宙が結生に告げる。
     桜に近い席に腰掛けると「今日は俺が弁当作ってきたんだ」と、サンドイッチを広げた。
    「桜を間近に見ながらのんびりするのは贅沢だな」
     宇宙のサンドイッチを口に運びながら、結生は桜を眺める。
     ついこの間までは枯れ木の様な木だったのに、今は枝の隅まで白桃色の花を纏っていて。
     宇宙もサンドイッチを食べながら、結生と同じ桜を見上げていた。
    「桜はやっぱり草木や花の王様だよな……あ、女王かな」
     ――こんな素敵な時期に生まれた、風音に。
     そう呟き、宇宙はテーブルに小さな包みを置く。
     ふと自身の誕生日が脳裏に浮かび、結生が包みを開けると、中には綺麗な桜のブローチ。
    「似合うか?」
     桜模様の小物が、また1つ。
     早速付けてみた結生は嬉しそうに礼を述べ、宇宙の唇近くに軽い口づけを返した。

    「「誕生日おめでとう」」
     次々と掛けられる祝辞と両手一杯の贈り物に、里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)は感無量で言葉が詰まってしまう。
    「……ありがとうございます」
     丁重に頭を下げつつ、返した言葉も、何処か打ち震えているよう。
     繭紀から渡された桜茶が湯の中で花開くと、清政は見蕩れるように瞳を細めた。
    (「良かった、料理じゃなかったな」)
     繭紀の幼馴染みの晋助は1人安堵を洩らしつつ、清政に胃薬を握らせることを忘れない。
    「ボクの奢りであるよ、たーんと食べたまえ!」
     場を盛り上げようと【LP】の煉火が、シンプルなロールケーキと桜ロールを押し付ける。
     ……が、自分用にキープしていた抹茶ロールと、何度も視線が行き来している!?
    「3人で三分のいっこでも良いのですよ!」
    「わたくしが切り分けましょう」
     その意図を察した霧湖が視線を投げると、清政も微笑み、慣れた手つきで切り分けた。
    「みんなすごいねー!」
    「手ぶらはわたしもだから気にするな♪」
     あえて、手ぶらで来たという日和に、赤音も自信満々な笑みを返す。
     1人で参加していた閨斗にも飲み物を配った赤音は【天剣絶刀】のギィに声を掛けた。
    「折角だし乾杯しようぜ」
    「そうっすね。皆さん、飲み物食べ物は行き渡ってるっすか?」
     2人が音頭を掛けると、タイミングを見計らっていた明日等がグラスを掲げる。
     色とりどりの料理と景色に見とれていた架乃と椿も、急いで乾杯のグラスを手に取った。

    「いやー、いいものデスねー。天気もいいデスし、久々にまったり出来マスネ!」
     乾杯が済んで次々と並べられる料理に、あきらは目移りしてしまう。
     朔耶の桜のシフォンケーキに狙いを定めると、食べる係だと言わんが如く手を伸ばした。
    「飲むぜ、食うぜ!!」
     椿も籠一杯の大粒のスペシャルイチゴを、ドンッと宴の席に置く。
     日も明けない内に摘んできたという宝石のような輝きは、そのままでも練乳をかけても、美味しそうだけど……。
    「牛乳と一緒にジューサーにかけて、ミルクセーキってのもいいな」
     そう、椿が呟いた時だった。
     皆が食べ易いように、厨房で料理を切り分けていた、ヴォルフが顔を見せた。
    「それなら作れるぜ。珈琲や紅茶なら熱さや濃さ、ジュースなら氷の有無も可能だ」
    「でしたら人数分お願いするっす」
     注文を取り纏めていたギィは、ついでに他の飲み物を追加していく。
    「はい!! 桜餅一丁できました!」
     皆が花見を満喫できるよう、和服姿のモカも、ヴォルフと一緒に腕を振っていて。
     モカの桜餅は関東の焼き桜餅タイプに、関西の道明寺タイプなど、種類も実に豊かだ。
    「作るのに苦労すると思ったけれど、そうでもなかったわ」
     人数分のホワイトチョコレートドリンクを運んできた明日等は、そっと額の汗を拭う。
     何処か強がっているように見えたのは、きっと気のせい?
    「ボクはジュースをテキトーにブレンドしてみたよ」
     日和が適当に配合したジュースは、ユニークな色合いで……。
     味はどうだろうと試しに飲んでみると、見た目に反して味は上々、な気がする。
    「たくさん持ってきたから、遠慮しないでいっぱい食べていいよー」
    「ほな、お一つ頂きますなぁ……」
     架乃の重箱にぎっしり詰まった花見団子に、一際大きな歓声が沸いた。
     少し味見をさせて貰おうと、保が控えめに一口頬張ってみる。
    「わぁ、美味しいなぁ。手作りなんやねぇ……優しい味がするよ」
     感心して笑顔を見せる保に、赤音も瞳を輝かせながら、団子に手を伸ばす。
    「見事に茶菓子が集まったな。ん?」
     宴席という雰囲気ではないけれど、それでも賑わいを見せていたことに、変わりなく。
     甘い香りに目を細めた勇也は、再び裏方に回ろうとし、ふと違和感を感じて足を留める。
    「私だよ、サンちゃんよー」
     勇也の視線が留まったのは、カジュアルな私服姿のサンでして。
     普段のミニスカサンタの格好ではなく、テンション高い言動が抑えめだったのも、誰お前状態に拍車が掛かっている。
    「コートも要らないくらい暖かくなりましたね」
     何よりも暖かかったのは、皆の笑顔に違いない。
     久しぶりに談笑の輪に混ざった、にあの口元も、嬉しさで自然と綻んでいた。

    「花粉症持ちを外に連れていく勇気はたいしたもんだ」
    「お弁当も作ったし、のんびりしようね」
     繭紀に手を引かれながらテラスに出た晋助は、眩い光に瞳を細める。
     途中、繭紀がお弁当を広げた時は命の危険を感じたものの、なんだかんだ言って妹のような繭紀が可愛くて、仕方なくて。
    「晋助くん、膝枕して貰っていい?」
     繭紀のお願いに、晋助は二つ返事で頷く。
     花見については繭紀の好きなようにさせるつもりでいたし、結局は繭紀が可愛いのだから断りようがない。潔く諦めて可愛がることに決めていた。
    「陽射しが気持ちいいね」
     ――大好きで特別なお兄ちゃんと、たくさん幸せになれますように。
     そう、願いながら、繭紀は春の温もりに身を委ねるのだった。

    ●春告げる勝負の時
    「ボクらが呼んだと言うことは……あとは分かるな?」
    「もちろんでございます」
     ほぼ同時に紅茶のカップを置いた煉火と清政は、颯爽とババ抜きを開始!
     紅茶に浮かぶ桜の花びらに瞳を細めていた霧湖も加わり、煉火の顔をじっと見つめる。
    「せんぱい、勝負なのです!」
    「このボクに真っ向から勝負しようと言うのだな……受けて立つ!」
     そして、見事ババを引いた煉火は思いっきり顔に出してしまうけれど、引くなという空気を破るが如く清政が速攻で引いて、阿鼻叫喚。
     結果、霧湖にババを引かせることが出来ず、清政が惨敗したのは言うまでもなかった。

    「宇宙部大トランプ大会@桜もあるよ! 開催っ!!!」
    「清政先輩、次は宇宙部で勝負だよ」
    「ふふふ、望むところでございます……!」
     希紗と真理に誘われ、リベンジを決めた清政は【宇宙部】と真剣勝負中!
     だが、希紗の表情豊かなポーカーフェイスを炸裂すると、清政も口元を弛めてしまう。
    「トランプ大会ですかぁ、負けませんよぉ……と、烈光さんがいってますぅ」
     開始早々、烈光さんに丸投げした亜綾は、既に眠りの淵に陥っていて。
     烈光さんから「寝るなー」と肉球をぺしっと押し付けられると、少しだけ応援に参加して直ぐに寝てしまった。
    「花見とトランプが結びつくなんて、新発見だわ」
     しかし、勝負事に関しては、策士としても負ける訳にはいかない。
     相手の表情や仕草から手の内を読まんと、ヴィントミューレは五感を研ぎ澄ませる。
    「負けてしまっても、楽しめたらそれでいいのですよ」
    「承知しました、わたくしも真剣に楽しみます」
     飲み物を配り終えた菜々乃も、勝負の輪に加わっていて。
     菜々乃の手札は、可もなく不可もなくな感じだったけれど、純粋に楽しんでいる様子。
     結果は別でも、表情は真剣な菜々乃を見習って、清政も手札に意識を集中する。
    「うう……次は宇宙ババ抜きか宇宙ブラックジャックで勝負だよ!」
     同じく表情豊かに手札の状況を教えてしまっていた真理は、清政とイイ勝負♪
     ちなみに、宇宙とついてるだけで、ルールは同じであーる。
    「ふふ、楽勝ね。戦いとは常に相手の2手3手先を読んで行動するのよ」
    「そ、それはどうかな!」
     ゲームは終始、ヴィントミューレの圧勝で進んでいて。
     真理と清政が最下位を争い、迷った希紗は直感と運に任せて強気に勝負に出る。
     ヴィントミューレが息抜きを兼ねて、皆に手製のクッキーを勧めた時だった。
    「お待たせしました」
     きっちり着こなしたウェイター姿で、給仕に専念していた久良が運んできたのは、鳥肉のオレンジ煮。
     真理が瞳を輝かせ、ぐっすり眠っていた亜綾も、爽やかな香りにぱちりと目が覚める。
    「これ凄く美味しい! 他にも作って~!」
    「あ、お茶も用意して貰えると、ちょっと嬉しいかもですね」
     爽やかな味わいに希紗が舌鼓を打ち、興味津々で口に運んだ菜々乃も飲み物を注文。
     亜綾も全て制覇するが如く、綺麗に平らげていた。
    「楽しんでいただけたら幸いですよ」
     久良は、カフェのウェイターがするような晴れやかな笑顔を返して、厨房へ。
     勝負中でも手軽に摘めるよう、ハンバーグサンドと験担ぎのカツサンドに取り掛かる。
     清政を祝う皆の声を耳にした久良は、デザートの準備も進めようと、厨房を見回した。

    「……ちょっと食べ過ぎちゃったカナ?」
    「飲み物も作れるからな、遠慮なく言ってくれ」
     料理を満喫したあきらは、満足そうに一息ついていて。
     各々の好みに合わせて作った飲み物を、ヴォルフが【天剣絶刀】の席に運んでいく。
    「注文されれば、深夜食堂のように何でも作りますよー」
     気合いを入れて和服たすき掛けしたモカも、甘いものだけでなく、揚げ物やご飯ものなどなど、温かくてお腹を満たす料理で、テーブルを埋めていた。
    「自分のサーヴァントながら、侮れないふさふさ感よね♪」
    「いやー、フーリューってやつだねぇー」
     近くの猫と一緒に丸くなって眠るウイングキャットに、明日等は優しく瞳を細めて。
     楽な姿勢をとったサンが桜を見上げると、椿も枝一面に花を広げた桜に視線を留めた。
    「たとえるなら、枝が自分で、花が……あー、つまんないこと言いやした」
     珈琲をちびちび飲みながら呟くギィに、にあがマイペースな視線を向けた時だった。
     紅茶を飲みつつ花見を楽しんでいた朔耶が、給仕を始めた清政を呼び止め、RPGの宝箱の形をした紙箱を差し出した。
    「清政、誕生日おめでとう」
    「わたくしに? ……ありがとうございます」
     中に入っていたのは、アイシングクッキー。
     恭しく頭を下げた清政に、朔耶の足元で伏せていた霊犬も、尻尾を振っていて。
    「清政くんもよかったらどうぞ!」
    「恐れ入ります」
     景色を眺めていた架乃も清政に祝いの言葉を掛け、花見団子を勧める。
     清政は一瞬躊躇しながらも、柔らかな笑みで団子を受け取った。
    「折角の機会だ、クッキーあたりをチップにポーカーでもしてみないか?」
    「あっ、ボクもしたーい! 他にも参加したい人イナイかなー?」
    「カードでの勝負がお好きなんです? 是非、一勝負お願いしたいです」
     勝ち負けには余りこだわらず、敢えて大きい役を狙ったり、外していくノリで。
     そう提案した勇也に日和とにあが乗っかり、清政も「承知しました」と力強く頷く。
    「もう春なんやねぇ。皆、学年上がるけど……これからも、仲良うしてくださいなぁ」
     天気が良いと気分も晴れやかで。
     和気藹々と盛り上がる仲間に言葉を掛け、保は晴天に咲く花を見上げたのだった。

    「清政はこの一年どうやった」
    「灼滅者様方の成長には、驚かされる一方でございます」
     世間話を挟みつつ、悟と清政は桜餅を掛けて、最後のポーカーを楽しんでいて。
     前半は無理でも、悟は最後に清政を勝たせる流れを作っていく。
    「悟様は?」
    「俺は相変わらずや」
     少し遠くを見ながら悟が神妙に語る。
     それでも決めたことがあり、もう少し頑張る、と。
    「なんてな♪ 逃げただけや」
     笑顔でとぼけた悟が、「あっ」と目を見開いた。
    「あー……参った! コレ俺の負けや!」
    「わ、わたくしの勝ち?! ……でも、これは」
     悟が笑顔で差し出した茶菓子と手札を交互に見つめ、清政は「成る程」と微笑む。
    「お互い御見事でございますね」
     曲がりなりにも、エクスブレイン。
     揃って吹き出した2人は、年相応の笑顔で笑い合ったという。

    ●春告げる、息吹
     春の宴も終わりを迎える頃。
     桜に寄り掛かって、うたた寝していたシフォンを士は優しく起こし、言葉を掛けた。
    「シフォン。渡すの遅くなったけど……」
     士の手の中に在ったのは、包装された手作りのカフェオレ味の飴……。
     袋詰めされている数多くの飴を、士は照れ臭そうに、シフォンの手に握らせる。

     黄昏時を迎えた満開の桜の下、春の息吹が穏やかに包み込む。
     晴天に枝を広げる桜のように、伸び伸びと、輝く一年になりますように――。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月26日
    難度:簡単
    参加:36人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ