横道の『カミサマ』

    作者:SYO


     その横道に入って祠にお祈りしてはいけない。
     もし、横道に入り祠にお祈りをすれば自身が贄として捧げられるから。
     横道に居る『カミサマ』の噂話。誰も通らないような横道の祠から始まった、そんな噂話。
     薄暗く、気味悪いその場所に近づく者はほとんど居ない。だが、いま一人の少年が向かっている。
     友達から振られた度胸試し、本当は怖くて嫌だけれど、乗らずに馬鹿にされる方がずっと悔しくて、少年は噂の横道に入り、噂の祠にお祈りを捧げようとしている。
    「た、ただの噂話だろ……。こ、怖くない。怖くないぞ!」
     こつん、こつんと少年は誰も居ない道を歩み進む。段々と気味が悪くなっていく道、季節外れの冷や汗を浮かべながら少年はきゅっとコートの裾を掴み恐怖を抑える。そうして、たどり着いた噂の祠。
     申し訳程度に持ってきた給食の余りのパンを置き、少年はお祈りを捧げる。
    「えっと、初詣の時とかと同じで良いのか……? と、とりあえずさっさと終わらせて帰るぞ!」
     そそくさとお祈りを済ませた少年。その耳元に鈴の音が聞こえてくる。びくんと肩を跳ねあげて、振り向いた先に居るのは狐のお面を被った青年の姿。
    「お、お前は誰だ! な、なんでこんなところ――」
     少年の言葉は途中で遮られた。なぜなら、無数のお札が飛んできて、少年の身体を包みこんでいたから。
     ――そして数秒後、少年は『カミサマ』の贄となり、その命を失った。
     手にした手帳を開くと『カミサマ』を模したタタリガミはまた新たな獲物を待ち構えるのであった。

    「あ、あの……今回はタタリガミの灼滅をお願いしたいんです」
     集まった灼滅者達を見回して園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が声を発する。
     寂れた商店街から続く横道の先にある小さな祠。その祠にお祈りをすると『カミサマ』が現れて贄にされる。そんな噂話から生まれた都市伝説を捕食したタタリガミが事件を起こすのだと。
     一見すると都市伝説の事件と変わりがなく見えるが、この事件は捕食をおこなったタタリガミの仕業なのだと槙奈は言う。
    「このままだと噂話から度胸試しをしようした少年が犠牲になってしまいます……。なので、犠牲になる前にタタリガミの灼滅をお願いします」
     タタリガミの出現条件は噂話と同じで、祠に対してお祈りをすれば現れる。この際のお祈りの形式はどのようなものでもよく、本人がお祈りをしたと感じるものであれば問題ないようだ。
    「『カミサマ』を模したタタリガミは、お札をや木簡を使用して戦闘をおこなうみたいです。それと、戦闘場所はあまり広くない横道なので4人以上が並んで戦うことは難しいかもしれません……」
     タタリガミのサイキックは護符揃えやダイダロスベルトに似た物を使用してくる。また、戦闘場所が狭いためポジション取りは十分に相談する必要があるだろう。
    「相手はダークネスで、油断ならない戦いになりますけれど、少年が犠牲にならないために……あの、みなさんどうかよろしくお願いします」
     ぺこりと、槙奈が灼滅者達に頭を下げた。


    参加者
    多々良・鞴(じっと手を見る・d05061)
    椋來々・らら(恋が盲目・d11316)
    ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)
    栗元・良顕(粗品・d21094)
    鴇硲・しで(夕昏少女・d22557)
    リーナ・ラシュフォード(サイネリア・d28126)
    シャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)
    コッペリア・カムイ(神様は言いました・d29647)

    ■リプレイ


     誰も居ない横道。誰も通らない、忘れられた横道。そこに映るのは8人の人の影。
     こつこつ、とその道を歩みながら、その内の1人の少女が紡ぐ物語に耳を傾ける。
    「あるアパートに女が住んでたの。女はある日壁に穴が開いてるのを見つけて、覗いてみたの――」
     物語の語り部である少女、鴇硲・しで(夕昏少女・d22557)は淡々と言葉を紡ぐ。一句、一言を紡ぐ度に、一歩、一足進める毎に横道に人の気配が遠ざかって。
    「んんん……、あんまり一人では来たくない場所だにゃー……」
     しでの物語を聞きながら、椋來々・らら(恋が盲目・d11316)はぽつりと言葉を漏らす。暗く、昏い横道はどこか世界から隔絶された場所のようで。
    「こんな暗くて狭くておまけに怖い噂まであるんじゃ、あんまり人も来なくて本物のカミサマは寂しいだろうね」
     本来居たであろう本物のカミサマのことを想うららに対して、ぼんやりと頷いたのは一人の少年。服を目一杯着こみ、寒そうにしている少年、栗元・良顕(粗品・d21094)はどこか別の所に居るようで。
     そんな中、物語は終局へと近づく。
    「そしたら大家さんが言ったの――」
     しでの紡ぐ物語が終わる。8人の目に映るのは小さな祠。口を閉じたしでは祠にお祈りを始め、一刻、二刻、時が流れた時であろうか。ちりん、と鈴の音が響いた――。
     しでの後ろに現れたタタリガミ。狐の面を身につけて、『カミサマ』を気取ったタタリガミは、戦闘態勢を整えていた灼滅者に先んじて影をしでに伸ばす、が――。
     ポルター・インビジビリティ(至高堕天・d17263)のサーヴァントエンピレオが間に割り込みその影を防ぐ。そこにいち早く反応したポルターがエアシューズで地を蹴り、後方から一気に飛び出てタタリガミに接近。
    「――贄にするだけして何も救わないカミサマなんて、許さないわ……」
     更に加速を加えたエアシューズの熱量を叩き込むポルター。そこにシャノン・リュミエール(石英のアルラウネ・d28186)が能力をスレイヤーカードから解放し、異形の姿となって迫る。
    「タタリガミ、ただの都市伝説とはどう違うのか、その力見極めさせて貰いましょう」
     異形化した身体を伸ばし、タタリガミの動きを抑えたところを狙った蹴り。だが、その一撃は空を切る。咄嗟に影を展開したタタリガミに振り払われて。
    「ええ、前例の少ないタタリガミ、その姿形の調査も必要ですね」
     タタリガミがシャノンの攻撃を凌いだ隙を突いて、多々良・鞴(じっと手を見る・d05061)がタタリガミの操る影を縫って縛り付けた。
    「神様は言いました、祠の神の前で神のマネは罰当たりだろうと――」
     縛られて動きが止まったタタリガミにコッペリア・カムイ(神様は言いました・d29647)が帯を飛ばす。射出した帯は自律的に動き、影と影の合間を超えてタタリガミを貫き穿つ。
    「――タタリガミもカミには違い無いのでカミサマですよ、神様」
     狭い通りでの打合いに、タタリガミは即座に対応し距離を取る。間合いを取った上で自身に有利な戦いへと進むよう、しゃらりと鈴の音を鳴らし、舞うように後方へと。
    「君たちは――そうか、私に救いを求めて来た様子ではないね」
     そう言うと、タタリガミは護符を振るった。高速で飛来する護符は、前衛に位置する灼滅者達の動きを止める。だが、サーヴァント達が壁となるように前に出て、灼滅者達のダメージを最小限に抑えた。
    「ちこも負けずにがんばれー!」
     そこへリーナ・ラシュフォード(サイネリア・d28126)が相棒のちこを激励しつつ、優しく暖かい風を前へ送り出す。送り出された風は仲間を包み込み受けた傷を癒していく。
     戦いはまだ始まったばかり。一進一退の攻防が始まる――。


    「祈りだけで追い払えるならその方が良いのですが、ダークネスの力が相手では、そうはいかなそうですね」
     鞴が手にしたサイキックソードを振るい、光の刃を射出する。タタリガミに当たった光刃はその防護を打ち破り、与ダメージを増やしていく。そして、サイキックソードを振るい終わった直後、鞴は即座に屈んで射線を開けば。
    「お願いします」
     鞴の背後より不意を突くように現れたシャノンが身体を伸ばし、所持していた槍でタタリガミを貫く。
    「これがタタリガミ……新たな敵ですか。一筋ならではいかない相手のようですね」
     槍から確かな手ごたえを感じながらも、余裕といった様子を見せるタタリガミにシャノンが力量を測るように呟いて。そこに続いて攻めたのは良顕。
    「都市伝説との違いが良く分かんない……。ダークネスだから…誰かが闇堕ちした姿ってことなのかな……?」
     しゅるり、と伸ばした糸でタタリガミを縛ると一気に締め上げる。タタリガミの『カミサマ』とした服が僅かに砕け、防護の力を更に失っていく。その中、良顕はタタリガミに言葉を投げかける。
     何をしようとしているのか。と、いった疑問。そんな問いかけにタタリガミが返す言葉は、気取った『カミサマ』の言葉。その内から感じとれるのはダークネスとしての本能めいた何かで。きっと、自身の思ったような存在だろうと良顕は思惑し、言葉を掛けるのを中断する。
     良顕の糸の拘束を解いたタタリガミ、だがその瞬間に迫るのは影。現れるのはタタリガミと同種の力をもった技。
    「あたしが語るのは歪な童話」
     突如として現れた白い子ヤギは大きなハサミを持つ。タタリガミが下がる隙も与えず、その喉元を切り裂いた。
    「なるほど、どうやら『カミサマ』を倒しに来たのだと」
     灼滅者達の連続攻撃を往なしきったタタリガミは一人納得した様子で、狐面を触り悠々と宙を舞う。未だ『カミサマ』として動くのは都市伝説をなぞらうが故か、それともこのタタリガミの元来所持していた性質故か。
     突如現れた影で狙うのはしで。ある意味で言えば当然に、ある意味で言えばどこかおかしく。このタタリガミは都市伝説のように、祈りを捧げたしでを中心に狙いを定める。
     だが、狙いが見えれば戦略は立てやすい。後方より支えるリーナにららのナノナノ『キャロライン』がしでに厚く回復を飛ばす。
     狙いが決まった攻撃であれば、隙も突きやすく。じわり、じわりとタタリガミの化けの皮を剥がすように攻め立てる灼滅者達。
     だが、『カミサマ』を気取るタタリガミは不利と知ってもこだわりを捨てず。それでも余裕を見せるのは力量高いダークネスであるからか。
    「魔法少女キーック!」
     杖を手にしたまま、杖を振ることもなく小脇に抱えて近づいたららの蹴りが直撃する。その余波の炎に巻かれながら、タタリガミは護符を自身の身に貼ると炎は消え、失った守りの力も戻り始める。
     だが、回復を許さないようにコッペリアのチェーンソーがタタリガミの身体を抉り、戻り始めた防護をすぐさま破壊。そこへリーナが風刃を飛ばし、タタリガミに付与された護符の癒しの力を剥がす。
    「ふむ、このままでは危ない、か。では――」
     少しずつ、少しずつではあるが、『カミサマ』であることを辞め始めるタタリガミ。直後、今までと狙いを変え、より戦略的に。タタリガミは確実に倒すための動きを取り始めた――。


     タタリガミの動きは変則的に、それでいて確実に灼滅者達の体力を削る。地形的に多数が並べない不利もあったが、そこをサーヴァントが前衛で盾の働きを為すことで、互角の戦いを繰り広げていた。
     再度現れた影に飲まれ、一番多く仲間を庇い続けたしでのサーヴァント『炫毘古』が消える。だが、しでは顧みることもなく、言の葉を紡ぎ攻撃を続ける。
     「継母のくれた其れは少女を甘く殺したんだよ」
     しでの紡ぐ怪談『赤い林檎の怪談』が終わると横道に広がるは毒の薫り。続けて放たれるポルターが腕を異形に変えて放つ光線。
    「――蒼き寄生の猛毒、対象侵食……」
     それはタタリガミを蝕むものとして、回復する隙を与えずに如実にダメージを与える。一挙手一投足ごとに蝕む毒を好機と、再び迫るららの蹴りがタタリガミを燃やし、タタリガミの観測を続けながら隙を突いたシャノンがその身体で絡め捕ると、一斉に攻撃を叩きこむ。
     打ち込まれるのは杖。抑えたままに身体を捻り振るう一撃はタタリガミを打ち飛ばし。続けて、刺さる良顕の針は生命力を奪う。
     反撃と展開される護符には、リーナが風を巻き起こしこの横道に磔にしようとする呪を祓いきって。
    「闇あるところに光をもたらすこと望む」
     更にコッペリアが見せる眩い光は暗い横道を明るく照らす。そうして、灼滅者を蝕む異常は次々に消えていく。
     回復を終えたコッペリアは一瞬でタタリガミに肉薄。切り裂いた所から広がる痺れはタタリガミの動きを阻害するもので。
     だが、それでもタタリガミの勢いは未だ完全には止まらない。出現した影がそのままコッペリアを飲み込もうと迫る。それを阻止せんと動くのは体力の限界まで庇い続けるサーヴァント達。
     寸前で割り込んだちこがコッペリアの代わりに影に飲まれると、体力の限界を迎えて姿を消した。
     頑張ったねと、リーナが優しく気遣うように言葉を出せば、回復から攻撃に切りかえて影を映し、タタリガミを切り裂く。
     その一撃に僅かにタタリガミの姿が揺らいだように見えた。終わりは近い、負けられない、そんな想いを抱いて、リーナを始めとした灼滅者達はタタリガミを灼滅すべく最後のひと押しへと動いた。


    「各地の宗教に異を唱えるつもりはないのですが、どことなく、違和感を感じます」
     鞴は戦い始めた時より感じていた考えを口に表す。タタリガミの放った護符を潜り抜けて、突き出されるように直線的な影の斬撃を飛ばして。
     そうしながらも鞴はタタリガミの様子を窺っている。それはタタリガミが何かを訴えていないか、注意深くそんな感情を見ることが出来ないかと気にするからこそ。
     だが、タタリガミは『カミサマ』を被ったままで。舞い飛ぶ護符が鞴に迫る――。
    「……エンピレオ、そこは任せるわ……」
     ポルターの指示に小さく泣いたエンピリオが鞴の前面に出て護符を受ける。護符を喰らい大きく仰け反りながらも、エンピリオは主をリングの輝きで照らす。直後、ポルターの攻撃に破の力が漲って。
    「……命の重さをその身で噛み締めて貰うわ……」
     横道の路肩、壁を蹴って急速に接近するポルター。中空より放たれる一撃は重力を乗せた重い一撃。ぐらん、とタタリガミの体勢を崩し、地に着いたポルターは追撃のチャンスを見逃さない。
    「――蒼き寄生の強酸」
     言葉が発せられるよりも早くに異形化した身体から放たれる一撃は至近距離からタタリガミの身体を射ち貫く。状況は一気に灼滅者達有利に傾き、何か言おうとしたタタリガミに間髪与えず次の一撃が迫る。
     まず突き刺さるのはコッペリアのチェーンソー、更にシャノンの蔦に絡まれてからの杖の一撃。そしてふわりと迫った魔法少女、――その少女、ららは杖をまた小脇に抱えると明るい声で「魔法少女キック」と再び発する。
     見た目からは連想できない重い一撃が直撃し、先程と同じように崩れた体勢を固定するように良顕の糸が絡みつけば迫るのは一本の刀。
     一連の流れの最後に放たれた居合の一撃は、再びタタリガミが立ち上がらないと確信できるほどにその身体を両断した。
     霧散していくタタリガミの力、消え行くタタリガミの身体を見ながらしでは元となった都市伝説、横道の『カミサマ』を取りこめないかと試みるがそれは雲を掴むように上手くいかず。それは、タタリガミの取りこんだ都市伝説は、取り込むことが出来ないという事実を示していた。
    「何のカミサマかわかんないけどー、ちゃんとお祈りして帰ろっか。なむなむ」
     戦いが終わった後、コッペリアとららは祠に近づいて、本来居たはずの神様にお祈りをする。お祈り後、コッペリアがそっとスイートポテトを供えれば。
    「カミサマもミルクキャラメル好きかなー」
     そんな様子をみたららもポケットからキャラメルを出すところんとお供え。そして鞴は二人のお祈りが終わった後、そっと本来の神様に行う正しいお祈りをして。
     そして、祠の周囲と祠を綺麗に片づけ、横道を後にすることにして。帰り際、ポルター、シャノン、良顕の3人はそれぞれ思う。
     今回のタタリガミは使わなかったが、もしタタリガミが取り込んだ都市伝説の能力をそれぞれ使い分ければ難敵になるだろうと。新たに発覚したダークネスの脅威を感じながら、一行は帰路に着いたのであった。

    作者:SYO 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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