がとりんぐじーさん。
どこからともなく現れ、大きなガトリングをぶっ放す危険なシルバーさんである。定年退職後、変な方向にハッスルしたらしい。いわゆる都市伝説だ。
「ほれほれ、ワシにかなうものはおわんかのー」
二挺のガトリングを回転させ、廃工場周りをジョギング中。もし獲物を見つければ迷わずぶっ放すだろう。
と、そこに。手帳を持ったトレンチコートの大柄な男が現れた。
「なんじゃ、若いもんには負けんぞ!」
「いやいや、それじゃ困るぜ」
男は大仰に肩を竦めて見せた。じーさんは当然、ガトリングをぶっ放す。だが、弾丸の雨は男に当たることはなかった。それより早く、じーさんの背後にいたからだ。
「悪いが、収集させてもらうぜ」
トレンチコートが広がり、じーさんと男を包み込む。そして次の瞬間には男はいなくなり、じーさんだけが残った。
「うん、この都市伝説も悪くはねーな」
ガトリングをカチャカチャいじりながら、じーさん……否、タタリガミは姿を消したのだった。
口日・目(中学生エクスブレイン・dn0077)は教室に灼滅者を集めた。新たに発見されたダークネス、タタリガミの動きを察知したからだ。
「まずは、軍艦島攻略戦お疲れ様。早速で申し訳ないんだけど、事件よ」
タタリガミが都市伝説を襲撃、吸収する事件があった。
タタリガミは都市伝説を生み出し、吸収、変身することで自己強化するダークネスだ。放置すれば際限なく強くなる可能性があるので、今のうちに対処しておくべきだろう。
「タタリガミに接触できるのは、都市伝説を吸収した直後よ。それ以外では、バベルの鎖に察知されちゃう」
戦場となるのは郊外の廃工場だ。無人であり、一般人を巻き込む心配はないだろう。
「取り込まれた都市伝説は人呼んで『がとりんぐじーさん』。ガトリングを振り回す危ない老人ね」
当然、それを取り込んだタタリガミも同じ力を使うことができる。ガトリングガンに酷似したサイキックを使用するが、その攻撃力は非常に高い。見た目は都市伝説だが、正体はダークネスであるため、油断は禁物だ。
「このタタリガミは自己強化の途中なんだろうけど、それでも強力な相手よ。気をつけて」
目はそう締めくくり、灼滅者達を見送った。
参加者 | |
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長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465) |
鈴木・総一郎(鈴木さん家の・d03568) |
カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918) |
瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742) |
アマロック・フォークロア(突撃兵・d23639) |
物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160) |
凍月・緋祢(コールドスカーレット・d28456) |
七枷・蒼生(ククリヒメ・d33387) |
●噂喰らいの異形
黄昏が廃工場を赤く染め上げていく。けれど、その色に染まらぬ二つの人影があった。片方は、紺の作務衣の老人。両手には回転機関砲、いわゆるガトリングを装備している。もう片方は、色あせたトレンチコートの男。目深に被った中折れ帽のせいで、表情はうかがえない。当然のことだが、いずれもが人外だ。実体を持った噂と、それを操る異形である。
数瞬の攻防ののち、トレンチコートは老人を飲み込んだ。まったく不可視の過程を経て、男は老人の姿へと変わる。途端、灼滅者達は飛び出した。この瞬間こそがエクスブレインが指定した格好のタイミングだった。
「先手必勝! もふもふのために!」
なにやら妄言を漏らしながらも、瀬川・蓮(悠々自適に暗中模索中・d21742)の魔力の矢が放たれる。傍らには白い毛並みの霊犬、ルーがいて、同じく射撃を試みる。けれど、じーさん……今はタタリガミだが……は身をひねってかわす。
「実際、目の当たりにすると……なんとも言えないね」
もはや苦笑するしかない、と鈴木・総一郎(鈴木さん家の・d03568)。一体どんな噂がこんな都市伝説を生み出すというのか。あるいは、そこにもタタリガミの暗躍があるのだろうか。
「タタリガミと戦うのは軍艦島以来っすかね」
そう呟いたのは長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)だ。先の戦争を入れても、交戦経験はほとんどない。未知の敵に油断なく視線を巡らせる。その横にはウィングキャット、行灯がふわりと浮かんでいた。
「まずは見聞させてもらおうよ、その不思議」
七枷・蒼生(ククリヒメ・d33387)は今回のメンバーの中では唯一の七不思議使いだ。七不思議を求めて全国を旅していたらしく、がとりんぐじーさんにも観察の目を向ける。収集に値するかは、別問題として。
「まさか都市伝説を生み出す存在なんてのが存在するとはな」
白衣を揺らしながら、物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)が言った。同時、スレイヤーカードから武装を解放する。タタリガミは自己強化の性質を持つダークネスだ。倒すなら早いうちがいい。
「がとりんぐおじいさま……お年寄りの方がお元気なのは喜ばしいのですが……」
といっても、今はタタリガミだ。そうでなくとも元気すぎるので灼滅するほかあるまい。凍月・緋祢(コールドスカーレット・d28456)の携えたロッドに魔力が集まり、淡い光を放つ。
「やれやれだね。これがタタリガミかい」
初めて見た、とアマロック・フォークロア(突撃兵・d23639)。面白い戦いができそうだ、と心中に炎が熾る。新たなダークネスとやらの実力は実戦で確かめさせてもらうとしよう。
「ヴァレン、お願いするのです!」
カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)の命に応じ、精悍な霊犬はわんとひと吠え。底知れぬ敵ではあるが、相棒と一緒なら怖くはない。
「ちょうどいい。この都市伝説、試させてもらうぜ」
灼滅者の戦意を感じ取り、タタリガミは不敵に笑う。そして次の瞬間には、ガトリングが高速回転を始めた。
●弾丸の嵐
ガガガガガガ!!
轟音が廃工場に響いた。けれど、灼滅者達の損傷は小さい。前衛の数が多く、砲撃の威力が減衰したからだ。とはいえ、その精度は高く、弾丸から逃れた者はいない。
「やるじゃねぇか、今度はこっちの番だ!」
アマロックの口元がにぃ、とゆがむ。整った顔立ちには似合わぬ、しかし様になる画ではあった。鈍い輝きを放つ金属の塊が炎の雨を吐き出す。作務衣が赤い光に飲み込まれた。
「申し訳ないけど、灼滅させてもらうよ」
ライドキャリバーが先行して突撃、その陰に隠れるようにして総一郎はタタリガミに肉迫する。突撃の瞬間、軽くジャンプ。光の盾を展開し、キャリバーと同時に打撃を叩き込む。
「ほう、面白いガキだな」
老人の顔に笑みが浮かぶ。手に入れた力を試すのにちょうどいいと思ったのだろう。今度は後衛に向けてガトリングを放つ。
「させないのです!」
誰よりも早く、カリルが反応した。その身を挺して仲間をかばう。衝撃で小さな体は吹き飛ばされるが、ヴァレンがそれを受け止めた。素早く浄化の光で主を癒やす。
「行灯も、頼んだっすよ」
羽をぱたぱたはためかせ、タタリガミの懐に飛び込むネコ。魔力を秘めた肉球をぶつけようとするが、わずかに届かず。だが、その間に蛇目はカリルに回復を重ねた。
タタリガミの攻撃力は絶大。列攻撃は封じたが、それでも二種の砲撃は健在だ。対して、灼滅者側はサーヴァントを入れて数は十三。数の有利を活かせるかどうかで、戦況は変わってくるだろう。
「さてさて、愉しい、愉しい話をしよう」
蒼生の口から紡がれるのは、背後に迫る少女の不思議。逃げても逃げても、必ず背後に現れる。そんな狂気に満ちた怨霊は黒い呪いとなってタタリガミを覆い隠す。バリバリと聞こえる音は、もしや咀嚼か。
「年寄りの冷や水、かね。とっとと退場してもらおうか」
白衣の一部がほどけ、意思持つ帯の群れとなる。暦生が指させば、そこに向かって直進する。ちょうど呪いが霧散したところに、帯が突き刺さる。
「はは、いってぇな!」
豪快に笑い、ガトリングを振り回すじーさん。見た目だけなら、確かにすさまじく元気な老人であった。
「ルーちゃん、頑張って!」
仲間の盾となり、傷を負ったルーに回復を施す蓮。大事な相棒だ。支え、支えられる。勝つために、守るために。戦いが終わったらみんなもふもふしたいとか思ってない。思ってないってば。
「なかなか……手強いですね」
弾丸をかいくぐり、緋祢はタタリガミに迫る。魔導書を束ねたような帯が零距離で作務衣を切り裂いた。灼滅者達の攻撃は確かに当っている。だが、タタリガミはまだ余裕を見せていた。それこそ老人とは思えない体力だった。
「さぁガキども、戦いはこれからだぜ!」
にやりと笑えば、顔のしわが深くなる。都市伝説の性質でもあるのだろう。戦うのが楽しくてたまらない、というだあった。
●タタリ
文字通り攻防は一進一退。灼滅者達が手数で攻めれば、タタリガミは圧倒的な一撃を返す。
「やるじゃねーか、ガキども」
ところどころ作務衣は破れ、焦げ、凍りつき。ダメージが蓄積されているのは明らかだが、まだ倒れはしない。
「そちらこそ、なのです」
肩で息をしながら、カリルが応えた。サーヴァントを含めてこちらも健在。だが。みなの傷は小さくはない。タタリガミも、他のダークネスに比肩する脅威なのだと思い知らされる。
だが、だからこそここで討たねばならない。より強くなる前に。
「さ、もうひと暴れだぜ」
仲間を振り返り、アマロックは獰猛な笑みを浮かべた。もう少しで決着が着くだろう。ここが正念場だ。乗り切れば、こちらの勝ち。耐え切れなければこちらの負け。
ぐ、とうなずく。灼滅者達も覚悟を決めた。アマロックの氷の手榴弾に続いて、一斉に攻撃を仕掛ける。
「愉しい話もいつかは終わる。感想はあの世で、ね」
蒼生は再び不思議を披露する。今度は、自らの首を求めて、けれど見つけられぬ哀れな騎乗者の話。どこまでもどこまでも、それは執念深く獲物を追い続ける。そう、今タタリガミが追いつめられているように。
「たたみかけるよ、ルーちゃん!」
攻め時と判断し、攻撃に転ずる蓮。主の叫びに、霊犬はひときわ大きく鳴いた。ルーが銭射撃で牽制、動きを鈍ったところを蓮の気の砲弾が打ち抜く。
「おいおい、このままじゃ俺やられるんじゃね?」
言葉とは裏には愉悦がにじみ、焦りは感じられない。ガトリングをぶっ放す横顔は爽快そのものだ。
「っ、効くね。だけど、今のが最後の攻撃だよ」
仲間への攻撃をかばい切り、総一郎はいつもの苦笑を浮かべた。右手でピストルのジェスチャーを作り、タタリガミに向ける。装填する弾は己の魂に沈む、闇のかけら達。まがまがしいまでの黒い弾丸は瞬時に敵を射抜く。
「行灯、全力全開っす!」
両の拳に光をまとい、突撃する蛇目。にゃー、と鋭く鳴いて行灯もそれに続く。オーラの力で加速した連打がタタリガミの全身を捉え、砕いていく。時折、肉球パンチもその中に混じっていた。
「お覚悟を……」
緋祢のロッドの先端に魔力が集まっていく。打撃の瞬間、彼女の瞳と同じ、赤い光が奔り、タタリガミの全身を魔力が駆け抜けた。さすがのダークネスも膝を折る。そして、立ち上がるよりも早く、
「これで……トドメだ」
地を蹴り、高く飛び上がった暦生が放った無数の矢がタタリガミの全身を貫いた。着地と同時、じーさんもどさりと倒れ伏した。
●さらばじーさん
地に伏したじーさんは、かかかと笑った。
「あーあ、しょせん俺じゃこんなもんかね。まぁいいや、あばよガキども」
最期まで楽しそうに、タタリガミは逝ってしまった。体は大気に解けるように消えていく。
「……安らかにお眠り下さいませ」
緋祢はその場で目をつむり、少しだけ祈りをささげた。そこには敬老の念も混じっていた……かもしれない。
「みなさん、ご無事ですか?」
ヴァレンの頭をなでながら、カリルは周りを見渡した。それに仲間達はそれぞれに返事を返す。無傷な者もいないが、倒れた者もいない。ダークネスを相手にしたことを考えれば、よい結果だったといえるだろう。
「ふぅ、お疲れ様。これで事件解決だね」
疲れが溜まっているのだろう、総一郎はライドキャリバーに寄りかかってそう言った。前衛の防御役は仲間の分も攻撃を受けていたので、消耗も大きかった。
「行灯もお疲れ様っす」
蛇目が頭をなでてやると、行灯もにゃあと気の抜けた鳴き声を漏らした。相方となってから日は浅いが、問題なく関を築けているのではないだろうか。
「もふもふもふふ……ネコちゃんもキャリバーもいいなぁ……みんなかわいい」
サーヴァントが大好きな蓮。独り言がダダ漏れだった。瞳が怪しげな光を帯びる。ルーは少し距離を取り、他の仲間もほどほどに距離を取る。
「……又臣さんはボクのだからね」
蒼生はさりげなく予防線を張りつつ、ウィングキャットを遠ざける。七不思議と同じくらい、ネコも好きなのだ。
「早めに叩けてよかった。あまり強化されると危険極まりないからな」
と、暦生。タタリガミはその性質上、放置すればそれだけ危険度は増す。今の段階でもこれだけの激戦だったのだから、より多くの都市伝説を吸収すれば、とは考えたくない。
「やれやれだな。厄介な連中だぜ」
言葉とは裏腹に、アマロックは不敵に笑って見せた。戦いを無二の楽しみにしている彼女にとっては、それはそれで悪くはないのかもしれない。
やがて日が傾き、廃工場は闇に落ちる。風が冷たくならぬうちに、灼滅者達は帰路に就いた。
作者:灰紫黄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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