はじめての灼滅者講座2:君の魅力を見せつけろ!

    作者:七海真砂

    「皆さん、お集まりくださって、ありがとうございます」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は集まった灼滅者達にお辞儀をすると、皆さんに、とあるダークネス組織の本拠地を攻略して欲しいのだと告げた。
    「本拠地? それはまた大事件だな! しかし最近この武蔵坂学園に入学した『新入生』の我々には事情がさっぱりだ。経緯から詳しく説明して貰って良いだろうか?」
    「はい、もちろんです」
     白鷺・鴉(高校生七不思議使い・dn0227)の言葉に、姫子は頷く。もっとも、周囲の先輩達も驚いた顔をしているので、事情を知らないのは新入生だけという訳でも無いらしい。

    「皆さんに向かって欲しいのは、表参道にある『斬新コーポレーション』の本社ビルです」
    「斬新コーポレーション。……初めて聞く会社だな」
    「『バベルの鎖』の影響で、一般的にはあまり知られていないかもしれません。斬新コーポレーションは、ダークネス『六六六人衆』の斬新・京一郎というダークネスが経営している会社で、社員にも多数の六六六人衆や強化一般人がいます」
     武蔵坂学園は、半年ほど前から彼らと戦ってきたのだ……と、姫子は簡単に説明する。
    「この斬新コーポレーションですが、様々な戦いの末に戦力を大きく減らしています。他の組織との合併を目指した事もありましたが、それは私達が阻止しましたし、内部では組織の行く末に不安を感じた一部の社員が、他の組織に寝返ろうとする始末で……」
     ちょっと可哀想な状況になっている斬新コーポレーション。
     今、その本拠地に攻め込むチャンスなのだと姫子は言う。
     姫子は『エクスブレイン』と呼ばれる予知能力者だ。事件に関する予知ができる彼女だからこそ、知っている情報もあるのだろう。姫子の説明に、灼滅者達も注目する。

    「戦力が減っていても、斬新コーポレーションはダークネス組織の本拠地です。真っ向から攻め込んで全面戦争の形に持ち込むのは、本来であれば好ましくないのですが……。実は、社長の斬新・京一郎と精鋭の側近達が、本社ビルを空ける事が判ったのです」
     斬新コーポレーションの中でも強力なダークネス達の多くが留守となれば、話は別だ。
     またとない絶好のチャンスになるだろうと、姫子は言う。
    「斬新コーポレーションは勢力拡大の為なら手段を選ばない組織です。放っておけば一般人に多くの被害が出続けるでしょうから、この機会に本社を制圧し、組織としての斬新コーポレーションを壊滅に追い込んでしまいましょう」
    「なるほど承知した。それで、その斬新コーポレーションの本社ビルというのは、どのような所なんだ?」
     鴉の質問に、姫子はまず地図を広げて「場所はここです」と赤い印を指し示した。更に、先端がトゲトゲ尖ったビルの写真を「これが本社ビルの外観です」と紹介する。壁もガラス張りの部分とコンクリートの部分が混在して、なかなか個性的だ。
    「ちなみに、34階建てです」
    「……3(ざん)4(しん)だな……」
     色々な意味で斬新な本社ビルのようだ。姫子も微妙な表情で頷く。
    「ビル内にはオフィス部分の他、様々な施設が完備されています。コンビニやカフェ、レストランがあり食事には困りませんし、美容室や書店、衣料品店や家電ショップ、更にネットカフェやスーパー銭湯なども揃っています」
     24時間366日、いつでも快適に働ける会社! というコンセプトらしい。テナントのスタッフも全員、斬新コーポレーションの社員やアルバイト達だ。
    「……このように、斬新コーポレーションは『いかに斬新であるか』を尊ぶ、斬新な社風の会社です。斬新社長が不在でも、それは変わりません。本社にいる社員や派遣社員、アルバイトなどは皆、共通して『斬新な戦い方』で迎撃してきます」
     具体的にどう斬新なのかは、姫子にも詳細は掴めなかったらしい。

     が、
    「彼らは『自分以上に斬新な戦い方をする相手』や『自分以上に魅力的だと感じた相手』がいると、戦意を挫かれ、本来の実力を十分に発揮できない状態になってしまうようです」
     そのような攻略法があると、姫子は告げた。
    「戦い方は皆さんにお任せしますが、相手が実力を発揮できない状況に追い込めれば、戦況は有利になると思います。……斬新さにこだわる必要は無いですよ、『自分の魅力』を相手に十分に伝えられれば、それだけで十分なんですから」
    「しかし、俺の魅力といっても……なんだろうな……」
     戸惑いを隠しきれない様子で悩む鴉に、姫子は少し考えて、アドバイスを付け加える。
    「そうですね、『相手に自分の魅力を伝える』のですから、『自分の見た目』を意識する必要があるでしょう。戦闘中に、自分の魅力を口で話して敵に説明するような時間は無いでしょうから、見てわかる魅力でなければ上手く伝わらないと思います」
    「なるほど。確かに、それはその通りだ」
    「魅力の種類も様々あります。あなたの外見を相手に伝える際の『ポイント』になる部分をしっかりアピールするのも良いかもしれないですね」
     自分が一番気に入っている部分。見た瞬間に一番目立ちそうな部分。恥ずかしいけれど、一般的に魅力的だと評価されやすい部分……など、どのような部分を活かしていくかも考えどころかもしれない。
    「外見を敵にアピールするなんて普通無い事ですし、悩むかもしれませんが、とにかく何かアピールしてみましょう。もし、あなた自身が特別に魅力だとは感じていない部分だとしても、それが敵にとっては非常に魅力的に感じられる……なんて事もあるかもしれませんし、それが新鮮な驚きを相手に与えて、斬新な衝撃になる事だってあるかもしれません」
     自分の見た目を上手くアピールしながら、頑張って戦ってほしいと姫子は応援する。
    「敵は持っている武器のサイキックで攻撃してきます。武器はバラバラなようですが、それぞれの敵が自分にとって斬新だと思った武器を持っているようですね。また、六六六人衆は殺人鬼のサイキックも使ってきますので、殺人鬼のサイキックを予習しておくと良いかもしれません」
     相手の攻撃方法が判れば対策も考えられますから、と助言を1つ付け加えて。
    「斬新コーポレーションの今後は皆さんに掛かっています。どうぞよろしくお願いします」
     集まった灼滅者達に、そうお辞儀をするのだった。


    ■リプレイ

    ●斬新コーポレーション本社ビル前
     表参道。名前の通り明治神宮の表参道として整備された道であり、その周辺エリア一帯を指す言葉だ。様々なブランドショップ、アパレルショップ、セレクトショップなどが点在する事でも知られている。
     そんな表参道の一角に、斬新コーポレーション本社ビルはあった。ギザギザ感のある造詣、太陽を反射して輝くガラス部分と普通の壁が不可解なミックスさを見せ、看板にはこれでもかと『斬新』と頭についたテナント名がジャンルバラバラに雑多に並ぶ。
    「こんな斬新すぎるビルが世間からスルーされるとかバベルの鎖ってマジすげぇなチクショウ!?」
     ビルを見上げて叫んだ入間・眞一(平凡たる逸般人・d07772)は、ああスッキリしたと一息つく。
     そんなビルを、己の魅力を最大限に生かした大勢の生徒達が取り囲んでいるため、通りすがりの人々は一体何事かとこちらを見てくるが、彼らから情報が広まる心配は無い。灼滅者を覆う覆う永続型の結界膜、バベルの鎖は、そうした情報が過剰に伝播しなくなる力を持つからだ。

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    【マスターからの解説】
     ここから、斬新コーポレーションを攻略する様子が描かれるリプレイが始まりますが、その前に。

     今回の灼滅者講座は『自分の見た目をアピールしながら戦う』ことがお題になっていました。
     このお題は、実は、サイキックハーツにおいて欠かせないものです。
     サイキックハーツは、自分の事を『文章』で伝える機会が、とても多いゲームです。
     クラブに入部して他の灼滅者の皆さんと交流する時も、交流は『文字』で行いますし、こうして冒険に出かける時も、自分がどんな風に冒険するか『文章』で書きます。
     サイキックハーツは『自分のことを文章にして、誰かに説明する・理解してもらう』という機会が、たくさんあるゲームなのです。

     でも、文章だけで、自分が考えていることや、自分が思い浮かべているイメージを、相手に『イメージ通りに伝える』のって、なんだか大変そうな気がしませんか?
     そこで、今回の灼滅者講座は、文章を書いてみる練習をしつつ、文章をうまく書くコツをお勉強してみよう! という内容になっていました。

     姫子が出したお題は、キャラクターの視点から離れて説明すると、
    「美術室で頼める『バトルピンナップ』の発注文章を書いてみよう」
     という内容になっていました。
     サイキックハーツのコンテンツの1つ『美術室』では、プロのイラストレーターさんに依頼して、皆さんのキャラクターを素敵なイラストにしてもらえます(課金が必要です)。
     皆さんのステータス画面に飾れる『バストアップ』や、クラブや教室の片隅でお喋りする時に使える『顔アイコン』など、イラストの種類もたくさんあります。

     バトルピンナップは、あなたのキャラクターがバトルしている所、戦っている所をイラストにする商品です。今回のシナリオは『斬新コーポレーションにいる敵と戦う』ものでしたし、お題も『見た目をアピールしながら戦う』でしたから、まさにこれですよね。

     ここから、皆さんのプレイングを元に、皆さんが戦う姿がリプレイに描写されていきます。
     今回のリプレイを読む時は、ぜひ、登場したキャラクターの皆さんが『どんな見た目』で『どのように戦っているのか』を、イメージしながら読んでみてください。
     そうしながら読んでいくと「こんなことを書くと、姿が具体的に伝わりやすいんだな」「ここを書かないと、逆にわかりにくいのかもしれないな」といったポイントが、掴めると思います。

     また、リプレイの最後には、先輩の皆さんから貰った、具体的なアドバイスも紹介します。そちらも参考にしてみてください!
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    「では、行きましょう」
     今作戦の参加人数は2885人。そして生徒達は、正攻法で乗り込むことに決めた。
    「突然すみません、社内を見学したいのですが」
    「は?」
     本社ビルの入口から入った東堂・時雨(篠突く雨・d32225)が受付嬢に申し出る。後ろに他の生徒達が続くが、ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ……と列が途絶える気配がなく、しかもガラス張りのエントランスの向こう、ビルの外側にも山ほど生徒達がいるのを見て、さすがに受付嬢も面食らっている。
    「課外授業での会社見学だ。アポはとってないがまあいいよな?」
     帽子に手をやりつつ、ハードボイルド感たっぷりに笑う寒川・柿貴(渋いフリしたさわし柿・d32000)だが、当然のように受付嬢は首を振った。
    「こ、困ります! こんな大人数でいきなり……。いえ、その制服、もしかして武蔵坂学園ですね!」
     結構な人数が制服を着ていたので、素性はすぐバレたようだ。さすが受付嬢、重要人物の服装には詳しい。
     その途端、エントランス内に大音量でユーロビート風ミュージックが流れ始めた。
    「こっ、これは……」
     歌詞の出だしは斬新、いやおそらくZANSIN。ハイテンポに繰り返される斬新コーポレーションの名と社風と会社にまつわる歌詞の数々。社歌かテーマソングの類だろうか……。
    「弊社では警報装置が作動すると、警報ミュージックが流れるのです。ベルなんて平凡すぎますからね! もちろん私の発案、作詞私作曲私です!」
     違った。デスクの下にある警報ボタンを押し、誇らしげに胸を張るスレンダー美女に「あほなの?」と思わず突っ込んでしまう鍛冶・禄太(ロクロック・d10198)。
    「つうか受付嬢かて社員やな!」
     なら倒すまで、とビームを打ち込む禄太。キューティクルばっちりな黒髪は、美人受付嬢相手でも負けない自信がある!
    「これじゃ七夕祭りをアピールする歌がみんなに聞こえないじゃないっすかー!」
     ご当地アイドル・七夕乙姫ミオリヒメこと美星・花菜(見るより聴くより踊ろうか・d30613)も憤慨しながらレイザースラストで受付嬢を貫く。相手はダークネス、とはいえ所詮1人だ。灼滅者達の攻撃の前に、みるみる傷を深めていく。
    「くっ。受付嬢として、アポ無し訪問者を通すわけには……」
    「お仕事には美学が必要よね、分かるわ。ただ働くだけではつまらないものね」
     うんうん、と頷くのは橘・彩希(殲鈴・d01890)。いつも通りの笑顔と共に黒髪が揺れる。
    「私も満足行くように仕事を終えたいの、だから死んで貰うわね」
     着物の袖を翻し、彩希の放つ刃が受付嬢を切り裂く。一瞬で駆け抜けていく彩希の姿は着物の色と相成って、まるで一陣の風が散らす桜のようだ。
    「綺麗なお姉さんだったけどしょうがないよね……ん?」
     敵とはいえ美女は美女。その死を惜しむ木崎・シン(黒き終末論・d13789)だが、ふと切り裂かれた服の下から覗く胸元を見て気付く。
    「……男!?」
     受付嬢に男を採用するとは、なるほど斬新かもしれないてゆーか嬢じゃない。
    「ルートは大きく3つですね。戦力を上手く分けましょう」
     彼らが戦っている間に、他の面々は突入を進める。島津・有紗(高校生神薙使い・d02274)は周囲の灼滅者達とのバランスを見て、エントランスから吹き抜けの上へ繋がるエスカレーターを駆け上っていく。一方、その脇から別の面々が廊下の奥を目指す。更に、
    「エレベーターは12階へお願いします」
     8基あるエレベーターに分かれて乗り込んだ灼滅者達は、行野・セイ(オブスキュラント・d02746)の呼びかけで12階を目指す。表の案内板で、そこにはネットワークセンターがあることを確認済みだ。社内のネットワークを分断すると同時に、情報の持ち逃げを阻止するのが目的である。
     第2陣は更に警備室がある4階。これは警報装置を止める狙いだ。
     警報装置が作動しても止まる様子は無いエレベーター。誰かがボタンを押したのか、途中で別の階に止まるが、
    「本日は斬新コーポレーションのエレベーターをご利用、しないで下さい☆」
     エレベーターが開いた瞬間、エレベーターガール風の装いをした内藤・東鶴(青義の使徒・d07767)の言葉と同時に、定員ギリギリまで乗り込んでいた灼滅者達が一斉攻撃を開始する。
     ちなみに彼らが降りた後、逆に誰かが乗り込んだエレベーターが1階に戻ってきた場合は、エントランスを包囲して待ち受ける灼滅者達が迎撃する手筈になっている。エレベーターでの敵の逃走は封じた形だ。
    「敵襲か? 一体どのダークネス組織だ!」
    「いや、あれは……違うな、灼滅者だ」
     上からは、警報に気付いた警備員達が走ってくる。レイン・ハーウェル(中学生シャドウハンター・d33601)は、自分のチャームポイントである膝下まである銀色の髪を見せ付けるように、その場でぐるっと回転しながらバスタービームを撃った。
     さらさらの美しい髪が、太陽と蛍光灯の入り混じった光の下で、キラキラ揺れる。
    「頑張って巻いたのよ!」
     と久島・かごめ(ふわあまでものいど・d16951)も可愛い巻き毛をアピールしながらクルセイドスラッシュを放つ。癖のある髪の毛を、ここまでにする密かな努力は相手にまでは伝わらないかもしれない。だが、努力に裏打ちされた魅力は、必ずや彼らの目に焼きつくはずだ!
    「くっ、常に帽子を被る俺達に髪をアピールするとは……!」
    「いつも蒸れるからハゲるんじゃないかって、気が気じゃないんだぜ!?」
     ちょっと可愛そうな発言と共に、無敵斬艦刀やロケットハンマーを振りかぶる警備員達……だったが、その攻撃は指先から出た。よくよく見ると指輪を着けている。
     かと思えば、一気に距離を詰めて振り上げた武器を本当に叩きつけてくる。
     と思ったら跳びあがって蹴りつけてくる。彼らが履いてるのはエアシューズだ。
    「警備員たるもの、裏の裏をかいて侵入者に相対せねばならないからな!」
    「でも全部見た事ある武器だからなー、それ」
     見慣れてるから全然斬新な驚きとかないわー、と城・漣香(焔心リプルス・d03598)は思わず口にする。一瞬言葉に詰まる警備員達に「なんかごめん」と申し訳なさそうに言いつつも、漣香は何の躊躇も無くブレイジングバーストを撃った。
     敵の動きをしっかり見ていれば、惑わされることも無い。敵はどうやら強化一般人らしく、ダークネスほどの強靭さではない事もあり、灼滅者達は着々と警備員達を追い込んでいく。
    「どうですかぁ? 治安を守る警備員さんには、結構斬新な服装じゃないですかねぇ~?」
    「くっ、けしからん女子高生め!」
     クルセイドスラッシュを放つ花桃・せりす(はいつも頭が沸騰しちゃいそう・d15674)の服装は、とても大胆な水着だ。それを見た警備員は衝撃に動きを鈍らせる。いろいろな意味で。
     と、
    「お前達。何をモタモタしている」
    「警備部長……!」
     通路の向こうから新たな一団が現れた。……なぜか全員、立ち乗りスクーターに乗りながら。
     その中央にいるのが警備部長なのだろう。鋭い眼光で睨みつけてくるその姿は、一味違う。……2機の立ち乗りスクーターを用意し、左右の足をそれぞれ、別々の機体に乗せていた。
    「うわあ……これがお主らの斬新……なんとも滑稽な姿じゃな……」
     山上・霞(穢れし狼神・d32833)は挑発を繰り返して隙を誘う作戦でいたが、結構本気でそんな感想をこぼした。警備部長がその発言にカチンときたらしい事は、態度でありありとわかる。
    「……侵入者対策の手本を見せてやろう!」
     左右で微妙に違う動きをする立ち乗りスクーターを絶妙に乗りこなしながら、一気に距離を詰めてくる警備部長。その足元から伸びる影が一気に霞を切り裂く。立ち乗りスクーター警備員達は次々とそれに続き、灼滅者側の前衛を切り崩しに掛かった。どうやらこの一団は他と違い、全員ダークネスのようだ。
    「お洒落は足元からっ! そんなのに乗って、それを疎かにするようなダークネスには負けないよっ!」
     ディフェンダーとして前衛に立っていた大鷹・メロ(メロウビート・d21564)は、そんな敵の攻撃を受け止めて反撃に出る。フラムの六文銭がばら撒かれる中、流行の最先端を行くデザインのエアシューズを履きこなしたメロのレガリアスサイクロンが、一気に警備員達を薙ぎ払う。
    「回復は任せろ。さんぽ、一緒にやってくれるな?」
     多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)の呼びかけに、ワンと一吼えして浄霊眼で仲間を癒すさんぽ。彼らが殺人鬼と同じサイキックを使うのであれば、メディックの回復は必ず支えになるはずだと、千幻は回復に専念し、特に新人達の戦いを支援していく。
    「頼むぜ、相棒」
     赤地に銀ラインの入ったエアシューズは、師走崎・徒(春先ランナー・d25006)の自慢の相棒だ。
     銀の風をまとう星のように、徒は敵の元へまっすぐに走りこむと、その勢いのままスターゲイザーを叩き込む。
    「くっ、コレに乗っている俺達には……」
    「足を魅せる戦い方は、できない……!」
     立ち乗りスクーターの上で打ちひしがれた様子の警備員達。それを見て、灼滅者達は一気に攻勢をかけた。
    「その動きには優雅さが足りませんね」
     箒にまたがった土岐野・有人(ブルームライダー・d05821)はエスカレーターの下から飛んでくると、光り輝くリングスラッシャーを繰り出した。
     長い髪と純白のタキシードの裾がエレガントに揺れるように箒を動かし、流麗な仕草で伸ばした指先に沿って、一分も違わずに射出されるリングスラッシャー。その動きは、実に美しい。
    「くっ……!」
     警備部長の動きは確かに斬新かもしれないが、本人の動きそのものの魅力で目を引いているわけではない。双方の違いを見せ付ける有人の動きに、警備部長が大きな衝撃を受けたことが灼滅者達にはわかった。
    「小手先の斬新さにこだわったのが、お前の敗因だな」
     そこに叩き込まれた拳は、望崎・今日子(ファイアフラット・d00051)のもの。目新しさは無いが、ずっと繰り返し使い続け、磨いてきた力だからこその安定感が、警備部長を打ち倒した。
     立ち乗りスクーターから落下した警備部長の体が消滅していく中、周囲の警備員達も次々と倒される。そんな中、不意に例の音楽が止まり、館内放送が流れた。
    『警報は誤報でした。皆さん、安心して業務に励んでください』
     こんなもんでいいか、と放送を切った葛葉・詠(大学生神薙使い・d13780)は、くいっと愛用の眼鏡を押し上げた。
     彼らが今いるのは4階の警備室。大半の警備員が出て行った後の警備室を、エレベーターで向かった灼滅者達が見事に制圧したのだ。
    「他に重要そうな設備は……」
     警備には欠かせない社屋内の詳細な地図や、社内に関する書類の数々。この内容を生かせばさらに効率よく攻略できるだろうと、詠達は内容を分析する。
     一方、3階の会議室には大きな看板が掲げ出されていた。
    『斬新コーポレーション 新入社員・中途社員・契約社員・アルバイト面接会場』。
     人材不足で困っているからか、幅広くスタッフを募集しているらしい。
    「失礼します!」
     長沼・兼弘(キャプテンジンギス・d04811)は高らかな声と共にドアをノック……するかわりに、断罪転輪斬で入口に出てきたスタッフを斬りつけながら中へ飛び込んだ。
    「斬新な面接スタッフの皆さん、初めまして、なの」
     人造灼滅者である羽染・夜子(墓場鳥・d33104)は、耳と背から生えた真っ白な翼をはためかせながら微笑むと、そうお辞儀をして挨拶する。真っ黒なドレスを着た夜子の姿は、まるで舞台に上がったオペラ歌手のよう。そのまま、ディーヴァズメロディを響かせて攻撃を始める。
    「面接に来ておきながら、いきなり攻撃とは斬新だな」
    「これは見込みがあるね! 君達、どこの組織からの転職かな!」
     沸き立つ面接官たち。どうやらダークネスだと誤解されているらしい。
    「武蔵坂学園2年、雲珠・大龍! ポジションはショートです!」
     野球のユニフォーム姿で来た雲珠・大龍(ショートストップ・d26493)は素性を明かすと、キャッチャーミットを構えるような体勢からシールドバッシュを繰り出した。
    「今回御社への攻撃を希望した理由は、御社の斬新な経営方針が到底許容できるものではなく、ここで叩き潰しておく必要性を痛感したからです」
     面接ってこんな感じかな? と由井・京夜(道化の笑顔・d01650)も鋼糸を構える。ちなみに特技はダークネスの灼滅です! と言い放ちつつ、京夜は素早く繰った鋼糸で左端の面接官を切り裂いた。
    「くっ、灼滅者だったか……攻撃に来ておきながら面接を装うとは……!」
    「いやいや、しかし闇堕ちすれば逸材に化けそうだ」
    「いいですね、我が社の労働環境に1週間ほど放り込めば、たちまち闇堕ちしてくれるでしょう」
     面接官達は実にブラック企業らしい会話を交わしながら戦闘態勢に入る。
    「さすが1年366日とか、しれっと毎年うるう年みたいに言い出しちゃう会社なだけありますね……」
     彼らをまとめてフリージングデスで凍らせつつ、高嶋・梢(中学生魔法使い・d13550)は思わず呟いた。普通の人間が面接を受けに来ても、こうしてすぐ闇堕ちさせてしまうのだろう。
     そういえば以前、人殺しの証拠を持ってきたら内定だと告げ、入社希望者の闇堕ちを促進していた事もあったわね、と紫乃崎・謡(紫鬼・d02208)は以前の事件を思い出していた。
     集まった首も律義に保管しているとは思えないし、破棄処分してしまっていることだろう。実に酷い会社だと、謡は異形巨大化させた腕を、躊躇わず敵に叩き込んだ。
    「逆に質問です。斬新とは成功して初めて認められるものですが、御社は成功しているのでしょうか?」
    「ハハハ、うちの会社のこと知らないのに来たのかい? いいねイイネ、そういうの斬新だと思うよ!」
     浅山・節男(勇猛なる暗黒の正義の使徒・d33217)は圧迫面接的な狙いで質問を投げたのだが、むしろ相手に好感をもたれてしまったらしい。なんてことだ、こんな会社の内定はいらない。
     ちなみに斬新コーポレーションは、人々の暮らしに斬新な驚きと感動を与える商品の開発に日夜はげみ、それを斬新な手腕で売りさばきつつ、斬新な新事業に次々と乗り出していくという活動方針と社風の企業らしい。新事業に乗り出している以上は、それなりに収益があるのだろう。到底信じられないが。
    「まだ未熟者ですが、頑張って当てに行きます! よろしくお願いします!」
     もはや面接でも何でもないのだが、それも面接っぽく喋りつつ菅野・阿久利(中学生ファイアブラッド・d23441)は魂を冷たい炎に変換し、面接官たちへ一気に放つ。
    「ウチも頑張ってスキルアップ目指します!」
     と小西・清(ヤムヤムヤミー・d33293)が放つ閃光百裂拳は2連打で終わり、まだまだのようだねと目の前にあったガラス机を持ち上げた面接官は、手本を見せるように連続攻撃を繰り出す。
    「やり甲斐がありそうですね」
     ドラゴンパワーで守りを固めた朴・劉鞍(天陰る霞龍・d26219)は、そのまま龍翼飛翔を繰り出していく。
    「俺としては、経費削減へ力を入れていきたいと考えております!」
     経費と言えば、やはり何と言っても人件費だろう。品川・英治(ラフメイカー・d31557)は殲術執刀法で的確に面接官の急所を切り裂き、さっそく1人分の経費削減を試みた。
    「六六六人衆からしたら、血が炎に変わるって斬新なんじゃね?」
     野乃・御伽(アクロファイア・d15646)は自己アピールの一環として、ちょいと腕を切って炎を吹き上がらせる。更に握りしめた拳に炎を宿し、敵を一気に殴りつけた。
    「俺の特徴は、このバランスのいい体つきと骨格だぜ」
     頭の形も綺麗だと褒められるんだ、と神薙刃を飛ばしつつアピールするのは森田・供助(月桂杖・d03292)。その発言に、面接官は軽く目を見開いた。
    「くっ。面接を担当して長いが、骨格をアピールした奴は初めてだ」
    「入社志望じゃないのに、これほどの斬新さ。惜しい、実に惜しいね」
     口惜しそうにされるが全く悔しくない。どす黒い殺気が自分達の周囲を染めあげてくるのに気付いた夕凪・玲(高校生七不思議使い・d33453)は、もこもこひつじの着ぐるみパジャマを揺らして、羊の話を紡いでいく。
    「羊を100匹数えると安眠できるが、444匹まで数えると死神がやってくる……そして、666匹まで数えると……」
     心温まるそのエピソードは周囲の灼滅者達を和ませて、傷ついた彼らを癒していく。
     その間に、佐藤・しのぶ(スポーツ少女・d30281)は敵の側面に回り込んだ。すかさずブルマから綺麗に伸びた足が、面接官の頭を蹴り飛ばす。見事なクリーンヒットだった。
     よろめいて、しかしすぐまた反撃を繰り出してくる面接官の様子に、
    「六六六人衆だし、いつかこうなるこたぁ分かってんだろ? なら、大人しく倒れてろっての!」
     右に双剣・炎刃を、左に双剣・漆黒を構えた神酒嶋・奈暗(快楽主義者・d29116)は吼えた。左目を閉じたままエアシューズで駆けて間合いを詰めると、体内から噴き上げた炎を2つの刃に宿し、一気に敵を切り裂いた。
    「とっとと倒されて、労働から解放されろっすよ!」
     背は低いが胸は豊かな文場・大地(餅米農家ばんだい餅派・d30083)は、胸が微かに揺れる程度の静かな動きで、しなやかに神薙刃を飛ばす。更に迅瀬・郁(ひだまりの詩・d03441)はジャッジメントレイを放った。後光が差すようにきらめくその光条の中、郁は決して微笑みを崩さない。
    「くっ。こんな中でも笑みを絶やさない。面接の基本を、よく保てているな……!」
     最後にそう讃えながら面接官は崩れ落ち、こうして、斬新コーポレーションの人材募集部門は、大打撃を受ける事となった。
    「良い子の灼滅者のみんなに、回復のプレゼントだよ~」
     灼滅者側も多くの負傷を受けていたが、ライドキャリバーに乗ったサン・クロース(戦うミニスカサンタ・d32149)が回復に駆け巡り、また不破・桃花(見習い魔法少女・d17233)や片倉・純也(ソウク・d16862)などによって心霊手術が施された事により、一部の戦闘不能者を除き、多くの灼滅者達が再びビルの上階を目指して進んでいった。

    ●斬新なテナント街
     斬新コーポレーションの一角に、その大型衣料品店はあった。斬新なロゴマークを看板に掲げたその店は、男女どちらも種類豊富なサイズ展開が自慢であり、店頭には斬新の最先端を行くデザインの服が並ぶ。
    「既製品を用いている時点で、それは斬新なのだろうか?」
     しかし、根本的な部分に対する疑問を抱くウナ・ギーヌ(マクシム・d33505)に対し、
    「おっしゃる通り。もちろん当店ではオーダーメイドも可能です」
     答えたのはショップの店員兼デザイナー。
     その服装はといえば、ぎりぎり限界まで露出度を高めた水着だった。
    「服を売る人間なのに服を着ない。これこそが本日15時49分において最も斬新なファッション! ……おっとそろそろ15時50分のファッションに着替えなければ。ちょっと失礼をして……」
     日替わり、もとい分替わりで流行は変わるらしい。だが着替えを理由に逃がす訳にはいかない。
    「斬新なファッション……甘いな」
     店員達の行く手を阻むように立ちはだかった御納方・靱(茅野ノ雨・d23297)。その装いはある種、彼らとは対照的だった。
     どこにでもある服、そしてどこにでもありそうな普通の顔。高校生男子としては標準的な体型に、とても定番な
    デザインの眼鏡。斬新さの欠片もないが、だからこそ、この場において靱は非常に斬新な出で立ちだった。
    「くっ……なんということだ……平凡が斬新に見えてくる……!?」
     斬新とは、一体何か。哲学的な思考に陥ったのか戸惑いと混乱が見られるデザイナー達。彼らの言葉に御門・那美(中学生神薙使い・d25208)は思わず叫んだ。
    「普通で何が悪いの! 何が斬新だ! 何事も普通が一番なのよ!」
     那美も黒い髪に黒い瞳の、日本ならどこにでもいるごくごく普通の女子中学生だ。しかし灼滅者として日常を送っているからこそ、いかに『普通』が得難く、素晴らしいものなのか那美は知っている。
     だから普通は素晴らしいと胸を張る! 決して、決して周りが個性的すぎて埋もれそうとか泣いてないよ!
    「この平凡さが、魅力的に……見えます、でしょうか……見えようが、見えまいが、あなた方は……ここで、潰します、けど……」
     強いて言うなら引っ込み思案で声が小さいところは個性的かもしれない御手洗・花緒(雪隠小僧・d14544)は、ぼんやり敵を見つめながら攻撃を開始する。たとえ相手がどう思っていようと、それはそれ、これはこれ。
    「くっ……だが、我々の斬新なデザインが敗北するなど……」
    「そうです! あんな普通なファッション、全部ビリビリに破いちゃえばいいんです!」
     デザイナー達はキッと灼滅者を睨みつけると、断ち切り鋏のような物を構えてティアーズリッパーを繰り出してくる。俊敏な動きで次々と、こちらの服を切り裂きながら攻撃してくるつもりだ!
    「くっ……」
    「数は多くとも所詮灼滅者。ダークネスとの力の差を思い知りなさい!」
     攻撃を受けた冬風・蒼夜(高校生ダンピール・d33573)が苦しげに倒れこむと、優越感を露に笑うデザイナー達が更に攻撃を仕掛けてくる。しかし、すかさず蒼夜は立ち上がりながら月光衝を振るった。相手の油断を誘い、逆に痛手を負わせる作戦だ。
     レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)は白手袋をはめると、お揃いのコートを着たビハインド『モトイ』から回復を受けながら、レガリアスサイクロンで敵を派手に蹴り散らす。
    「思いっきりやらせてもらいます」
     桜井・空夜(空の夜・d33024)の左腕はみるみる異形巨大化し、空夜はガッと握った拳で敵を殴り飛ばす。すかさずクルセイドソードを構えたのは空守・銀河(闇を照らす炎・d33610)だ。反対の手が刃を撫でた瞬間、そこには炎が宿る。
     黒いコートの裾をなびかせて敵との距離を詰めた銀河は、そのまま剣先をデザイナーへと叩き込んだ。吹き上がった炎に包まれた敵は苦しげに呻く。
    「あ、なあデザイナーさん。俺さ来年高校卒業なんだけど、そうしたら何着たらいいと思う? 制服着続けるのってやっぱ無しかな?」
    「いいんじゃないですかー? いっそ未知の学校の制服を取り寄せて毎日日替わりなんて斬新ですよいかがでしょう?」
     敵を切り裂きつつ、不意に話を振ってみる雨冠・六(殺人忘却鬼・d04660)に、敵もまたニコニコじょきじょき切り裂いてくる。
     六が制服を着続けたいのは、ひとえにこの制服が気に入っているからなのだが、やはり相手はダークネス。その辺の機微までは理解して貰えないようだ。
    「あなた達に足りないもの、それはもふもふなの。……もふもふすら戦いに昇華した私の、必殺ビームを受けてみるの!」
     高らかに叫び、小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)は渾身のビームを撃ち込んだ。その攻撃に、敵は愕に目を見開いて崩れ落ちる。
    「くっ。もふもふブームは3日前に過ぎ去った、そう思っていた、が、見誤った、か……っ」
     やられた、と力尽きるダークネス。ダークネスは様々な視点からの斬新に力を削がれ、そして次々に繰り出されていく攻撃の数々を前に、追い込まれていく。
    「そもそも366日24時間勤務を掲げるならば、悠長に服など買う暇もないだろう。休まず働き、そして勝手に死ねばいい」
     ウナのDMWセイバーが最後まで残っていたデザイナーへと止めを刺し、斬新な衣料品店は無期限営業休止へ追い込まれた。

     スーパー斬新銭湯。様々な設備を持つその施設は本社ビルの中層にあった。高くもなく低くもなく中途半端な景観の展望風呂が斬新、という立地らしい。
     もちろん内部の店員が斬新コーポレーションの社員やアルバイトなら、利用客だって斬新コーポレーションの従業者。制圧にあたって放っておく訳にはいかない場所の1つだ。
    「24時間快適に、ってこういう事なんでしょうか」
     こんなのもう会社じゃないだろうと思っていた桜井・優日(月夜を想う・d31811)だが、案内板に占める仮眠室のスペースの広さと『最大利用時間は1日30分まで』の文字に少し納得する。
     帰らなくても快適に働けると銘打ちながらも30分の仮眠しか許さないとか、超ブラック企業にも程がある。普通の人間が入社しても、これならすぐ闇堕ちするか過労死する事だろう。
    「この会社、どうにかしないといけませんよね……」
     軽く弾みをつけ、たんたんと靴で床を踏むと、優日は一気に突入を開始する。受付スタッフに鬼神変を叩き込んだところへ、飛来するのは井乃中・葵(魔本の射手・d01354)の矢だ。
    「…………」
     物凄い勢いで敵を睨んでいるように見えるが、それは葵がよーくよーく敵をしっかり狙おうとしているからこそ。すぐにまた新しい矢をつがえると、かえるのバンドで留めたポニーテールを僅かに揺らし、再び矢を放つ。
    「手分けして中に入りましょ。女湯の方はヨロシクね!」
     口調だけ聞けば非常に女性っぽいのだが、声の主の柏木・詠美(匙加減・d31021)はジャージ姿で眼光の鋭い、どこからどう見ても男性だ。いかにもなヤンキーらしい見た目の通りにメンチを切りつつ、鋼鉄拳で脱衣所にいたダークネスを殴りつつ男湯側へ突入していく。
     一方、女湯側へ向かったのは、三日月の飾りがついた野球帽をかぶった流音・加古(逆さ三女神・d32454)だ。
    「ここは女湯だよ! 男が……いや、女の子かい!?」
     清掃スタッフらしき強化一般人が驚くそこへ、加古は封縛糸を繰り出す。
     男女二手に分かれながら、飛び出してくる従業員や驚く客達を次々と攻撃していく灼滅者達。そんな中、浴室内に飛びこんだマール・アイオネット(絶望と諦観の輪舞曲・d27013)はドンッと『あるもの』を置いた。
    「お風呂といえば、やっぱりこれでしょ! 屋外での使用も可能で、なおかつ24時間いつでもどこでも露天風呂の気分が味わえるこの! ドラム缶風呂こそが至高でしょ!」
     どこからともなく『ババーン!』と効果音が聞こえてきそうなくらい、堂々たるマールの主張!
    「ドラム缶!? くっ、なんということ! まだ足りていない風呂があったなんて……!?」
     けっこう偉そうな中年スタッフが、それを聞いて愕然としている。チャンスだ!
    「まぁ、でも戦いなんてそっちのけにして、折角のお風呂でくつろごうよ。ふ~」
     そんな空気をゆるゆる壊す、のんきな声はライア・レブナント(パブリックエネミー・d25205)。彼女はいつの間にか紫色のビキニに着替えて、聞いたこともないマイナーな海で取れたという海草を使った湯に入っている。
    「くっ、自分から襲撃してきたくせに、戦闘を放棄して銭湯でくつろぐなんて……!?」
     その言動はダークネス達に衝撃を与えるに十分な斬新さだったらしい。
    「はいはい、お掃除しましょうね」
     その間に逢沢・巡(壊れてる者・d30014)はカゴとブラシ片手に浴室を駆け回る。お風呂は清潔にしませんとね、とか言いながら巡は濡れた石鹸を大量にばらまき、ブラシでリンスを塗りたくる。
     背中の偽翼を揺らしつつ、適当に取った椅子に座ると、待つ間もなく足元を滑らせたダークネスが目の前で転ぶ。もっとも他の灼滅者も滑ったり転んだりと、なかなか戦場とは思えないシュールな光景が繰り広げられる。
     しかしそれがまた、戦場にあるまじき斬新な光景として敵の目には映ったらしく、彼らはみるみる勢いを削がれていった。

    「斬新書房……ここが本屋だね」
     冬城・雪歩(高校生ストリートファイター・d27623)達は古風な看板を掲げた本屋に入った。どんな本屋だろうかとキョロキョロする彼らを出迎えたのは、流行のベストセラーに人気コミック、マニアックな分野の書籍まで幅広いラインナップ。案外普通だなと思う雪歩達だが、
    「斬新ベストセラーピックアップ?」
    「斬新な企画書とは、斬新睡眠仕事法、斬新栄養学、愛蔵版斬新体操――著者これ全部社長か、焼いておこう」
     企画コーナーの1つを見て、ウロボロスブレイドに炎を宿そうとする不破・九朗(ムーンチャイルド・d31314)。そんな彼を見て書店員たちが慌てふためく。
    「くっ。本屋の客でありながら本を焼き尽くそうとするとは、なんて斬新……!」
     言いながらも武器を構え、旋風輪やヴォルテックスで灼滅者達を吹き飛ばそうとする店員達。風にあおられてバララララララ、と本がめくれあがっているがご愛嬌だ。もちろん本が傷んだってそのまま売ります!
    「わ、髪がなびぎすぎてめちゃくちゃだよー!」
     椹野・海(ゆらめく灯光・d31973)はたまらずに悲鳴を上げる。大切な人を真似て銀色に染め上げた髪を思わず押さえた海は、きっと敵を睨み返してセブンスハイロウを飛ばす。その瞳の色は、日本人にしては珍しい金色だ。
    (「斬新さに囚われすぎず、自分のペースで戦うのがいいよね」)
     そう日本刀を抜いた雀谷・京音(長夜月の夢見草・d02347)は、桜模様の着物の袖を揺らして敵を斬る。いつも通り、ゆるやかに微笑みながら京音は敵の反撃を受け流すと、エアシューズで強化された、本場のヤクザの蹴りを叩き込む。可愛らしいお嬢さんなのに、その動きは紛れもなく極道のソレだ。
    「閃いた。タイトルは『書店炎上』。有名ゴーストライターのスケジュールを押さえて社内ベストセラーを目指すわよ!」
     どうやらこの書店、自社出版もしているようだ。たくましくも新作を企画しようとしている彼らに、近付いたのは西園・光(聖十字架を背負う子羊・d30896)。
    「店員さん、こちらの書籍も斬新書房の取り扱いに加えて頂けませんか?」
    「荒々しい押し売りね。でも灼滅者の本はお断りだわ」
     いい教えが満載なんですよ、と本を売り込む光だが、店員にあっさり断られてしまう。残念です、と小さく呟いた光は、そのままゲシュタルトバスターを撃った。
    「書店員さんであれば、『首なしライダー』は知ってるかな?」
     猫耳フードの付いたパーカーを着た七枷・蒼生(ククリヒメ・d33387)は、首なしライダーについて語りながら書店員達の元に怪奇現象を引き起こす。
    「くっ。まるでラノベみたいだ……!」
     灼滅者達の戦い方は、一部の店員には大変魅力的に感じられたらしい。栞を武器としながらも、実力を存分に発揮することなく、彼らは力尽きて倒れていった。
     敵の数が減った書店員達は勢いを削がれ、レジカウンターの奥へと追いつめられていく。雪歩はロングドレスを物ともせずカウンターを乗り越えると幻狼銀爪撃で敵を切り裂く。
    「嵐の武舞、とくとごらんあれ……」
     右腕に握った龍砕斧と左腕で掲げた無敵斬艦刀を振るって戦う鳳獣・皇虎(灼熱の原罪・d32242)の姿は、まるで荒々しくも舞を踊るかのよう。一般人のいないビルなら、周囲への配慮も無用だ。存分に敵を叩き斬る。
    「何かの役に立ちそうな本は……無いね。うん」
     こうして書店員達を倒しきった灼滅者達は、自動ドアの向こうへ去っていく。情報源という意味で使えそうな本は無さそうだが、この機に読んでみたいベストセラーなどがある灼滅者達には活用の道もあるかもしれない。不良在庫はご自由にどうぞ、という張り紙が出された。

    「本当に一般人の姿は皆無のようだな」
     王者の風を吹かしつつ歩いていた安綱・切丸(天下五剣・d14173)は、遭遇した強化一般人を投げ飛ばし、更に先を目指していた。
     ふと、彼らが出た先は、人工的に整備された中庭のようなスペース。その向こう側には店があるようだ。
    「レストランか、ちょうどいい」
     補給路を断つのは戦いの基本。そう頷きあって、安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)はレストランの制圧に向かう。
     筆記体で描かれたロゴからは、本来イタリアンの店である事が伺える。しかしテラス席に漂う香りは……ほかほかの、炊きたてごはんの匂いだ。
    「こちら、精米したてのお米を使った炊きたての白いごはん。これを、こうして……」
     匂いの元は、テラス席の1つを陣取った武藤・塩(さしすせそ・d31252)である。和服男子の塩はタライに入れたご飯と、水を張ったボウル、そして塩や具材を乗せた皿の間で手早く両手を動かしながら、次々とおにぎりを量産している!
    「やっぱり、大事なのはお米よね」
     日本人の基本だわ、と小野塚・舞子(おこめっこ・d10574)は満足げに霊犬『むすび』と頷きあっている。ちなみにお米の提供者は、新潟は魚沼のご当地ヒーローである、この舞子だ。
    「こちらは『まんばのけんちゃん』です」
     桃野・実(水蓮鬼・d03786)が用意した鍋の中身は、瀬戸内海生まれの実が愛するご当地料理。まんばといっても山姥とか、山姥退治をしたという山姥切なる刀とかその写し刀の国広などとは一切関係なく、要は高菜の煮びたし的な料理である。
    「おにぎりのお供にどうぞ。空腹で戦うのは辛いはずだ。ご飯を食ってから戦おう」
     おかわり自由、無料という札が出されると、食事に来ていた斬新コーポレーションの社員やアルバイト達が驚愕する。
    「社割すら存在しない斬新食堂街において、無料で食事を振舞う、だと……!?」
    「ID制だからこそ気付けば食費がかさみ、残業を強いられる社員も少なくないウチで、まさかの食べ放題……!」
     なんか可哀想になってきた。ある意味究極の社畜を見たような気がする篠原・依織(ヒトリキリノ少女・d23883)だが、勿論相手はダークネス。放っておけば多くの罪なき人々を傷付ける存在だ。すっかり戦意喪失気味な彼らの食事が終わるまで待ってあげたのは、武士の情けというものだろう。
    「他にも、色々、あるみたい、ね」
     店は奥にもまだ続いている。
     そのうちの一軒にルチア・イルミナ(神獣ノ背ヲ往クモノ・d21884)はいた。白亜の大理石を、これでもかと利用した店構え。斬新コーポレーションきっての高級レストランだ。
    「シェフおすすめ今月のコースをお願いしますわ」
     幼いながらも非の打ちどころの無い振る舞いで入店し、斬新なフレーズが満載のコースをオーダーするルチア。受け答えするウェイター達が出す料理を、これまた完璧なテーブルマナーと共に食べ終えたルチアが、斬新な味わいの感想を述べようと静かにウェイターを呼び止めようとする。
     と。
    「突撃ッ! 隣のレェストランッ!」
     隣の店を制圧してきた若葉・真人(世界のどこでも愛ジャンキー・d24242)が、文字通り店の外から飛び込んでくる。大きなしゃもじを棒に見立てた、棒幅跳びの要領だ。
    「しゃもじ。それは兵糧を取り分け、寒き時には火にくべ、商売繁盛や必勝祈願にもご利益のある素晴らしい道具!」
     しゃもじの素晴らしさを語り、喧伝する真人。当然この店では使われていない調理器具だが、だからこそ斬新な衝撃となったようだ。
    「ここはレストラン、さあしゃもじ持って掛かってこいッ!」
    「できるかァ!」
     ウェイター達から放出されるどす黒い殺気! 更に敵は料理が乗ったテーブルから華麗に引いたクロスを構えて応戦する。ソムリエはワインオープナーを構えて黒死斬を放つが、ルチアは優雅な動きでそれを回避すると、代金をレジに置きながら優雅にフォースブレイクを叩き込んだ。
    「選べ、レシピの開示か死か」
     キッチンへ向かった泉二・虚(月待燈・d00052)は、どす黒い殺気をあらわにパティシエと向き合う。
    「くっ。誇りか死か選べと言うのか……勿論くれてやる! こんな店よりも命の方が大事だ、辞めさせていただく!」
     その辺に貼ってあったレシピをぺりぺり剥がして虚に叩きつけながら裏口へ向かおうとするパティシエ。だが勿論、逃がす訳にはいかない。
    「ここは通さないわ」
     外から回り込み、立ちはだかったのは神楽木・福乃(春和景明・d33616)だ。あずき色の着物に真っ赤なかんざしを挿した髪は、ここよりも高級料亭の方が似合いそうな出で立ち。
     そんな福乃はふっくらとした体で文字通り退路を封じ、花模様の怪談蝋燭から火を飛ばす。
    「斬新な物ばかりが優れているとは限らないのです」
     鴨川・拓也(修練拳士・d30391)の構えは、由緒正しき伝統的な空手のもの。格闘技の歴史にも様々な歴史があり、斬新さが新たな道を生み出した側面もある。
     だが、古き良きものを尊ぶこともまた武道の道。拓也の放つ拳から目を離せないまま、パティシエはその直撃を受けた。
    「…………~♪」
     いつの間にかホールでは、倉敷・音愛(真夜中の演奏会・d33369)がピアノの鍵盤を奏でていた。かつてコンクールに出場した際にも纏ったドレスに身を包み、このレストランの雰囲気にあった曲を奏でながら、彼女が歌い始めたのは……実にホラーな歌詞、いや怪談。
    「くっ、クラシックと思わせて、人食いピアノの怪談だと……!?」
    「みなさん注目してください! 星野灯、ゲリラライブはじめまーす!」
     更に追い打ちをかけるようにマイクを握るのは星野・灯(グラフィアス・d30327)。足元のスピーカーから流れるのはポップなアイドルチューン。歌手の生歌声をBGMに食事をするのは、こうした店では決して珍しくはない。が、この曲調はどう考えてもこの店には合わない。しかも歌い出しから、鏖殺領域でどす黒い殺気を放つオマケつきだ。
    「私の静かな食事の邪魔をするでない!」
     立腹した客が、フォークを握りしめながら立ち上がると黒死斬を放つ。フォークなのに斬撃とは、なるほど斬新な戦法かもしれない。
    「ひゃわわっ!?」
     攻撃を受けてバランスを崩して転んだ花守・ましろ(ましゅまろぱんだ・d01240)は二重の意味で涙目だ。パンダのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめつつ、ふとスカートがめくれてパンダ印のスパッツが見えてしまっているのに気付いたましろは、大慌てで裾を直して立ち上がる。
    「お、お返しだよっ……!」
     足元の影がまるでパンダのような形に膨らみながら伸びて、一気に敵を飲み込む。
    「ふふ、あなた方が尊ぶテーブルマナー的にはいまいちかもしれませんが、髪が振り乱れた方が素敵でしょう?」
     喪服として仕立て上げられた黒紋付に身を包んだ梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)は、それが最も映えるであろう動きを優先し、白髪を振り回すようにして戦場を駆け巡っていた。
     普段の風花とはちょっと違う様子に見えるかもしれないが、新たな魅力の発見というのも悪くないはずだ!
    「くっ……!」
    「一流の給仕たるもの、身命を賭してお客様をお守りするのが使命! お客様、こちらへ!」
     チーフらしきダークネスが、傷を負った客を守るように進み出る。しかし、もちろん彼らの仕事をまっとうさせるわけにはいかない。
    「よし、焼けた」
     絶妙な焼き加減、コンマ一秒の狂いも無く肉を携帯用炭火焼器から下ろした埼武・州斗(ブッシュマン・d23806)は、早速それに齧り付きながらレガリアスサイクロンで敵をまとめて攻撃する。
     埼玉黒毛和牛ヒーローたる州斗にとって、この戦闘スタイルは決して奇抜な物ではない。こよなく愛するご当地のお肉をしっかり体内に取り込みながら戦いつつ、新たな肉を炭火焼器にセットする!
    「くっ、この店に焼肉の煙が充満する日が来る、なんて……!」
     憎らしげながらも、すっかり肉に目が行ってしまっているのは州斗の術中に見事嵌まってしまっていると言えるだろう。更にバニシングフレアが叩き込まれ、ダークネス達自身が焼き尽くされてしまう。
    「焼肉を制する者は戦場を制する。古の格言の通りであるな」
     州斗は満足げに頷き、勝利の美酒ならぬ美肉を味わう。
    「はい、たーくん。あーん☆」
    「チコちゃんアーーーン♪」
     通路の向こう側にあるカフェは、社員たちの憩いの場なのだろうか。テイクアウト専用ワゴンでドリンクとお菓子を買った社員が死んだ魚のような目でオフィスへ戻ろうとする一方、喫茶スペースは何組かの男女で賑わっていた。これ、多分デートスポットだ。
    「斬新コーポレーションにも社内恋愛が蔓延っていたか!」
     その空気を敏感に嗅ぎ取って現れたのは、RB団サバト服に身を包み、何もしてないのにもう既にどす黒い殺気を放っているようにしか見えない、霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)であった。
     否、彼だけではない。浦原・嫉美(リア充爆破魔法使い・d17149)やディーン・ブラフォード(バッドムーン・d03180)など、多くの同志が何の打ち合わせもしていないのに、どこからともなく集まりだす。
     ここに集った者は、皆同志。
     何も語らずとも、視線を交わす事すらなくても、わかる。深海よりも深いどこかで繋がり合う彼らは、魂の奥底から湧き上がる共通言語を叫びながら、決戦を開始した。
    「「「「「「「「リア充爆発しろォォォォォ!」」」」」」」」
     瞬く間に炎と嵐が吹き荒れて、急襲されたダークネス達は大騒ぎだ。だがしかし、リア充カップルにしてダークネスである彼らの悲鳴に同情する者は、ここには誰一人としていない。
    「なにがオレンジデーボックスよおおおおお! うわあああああああん!」
     シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)は視界に入った『4・14はカップルの為のオレンジデー』の文字に、涙を流しながら鬼神変を叩き込む。ここにはダークネスがいくらでもいる、好きなだけ殴り放題だ!
    「ダークネスは灼滅だああああああ!」
     同志の涙を、叫びを、理解できない者はいない。全員が嘆きと怒りを共有しながら勇猛果敢に攻撃を繰り返す。その様子に、ここはもう彼らに任せてしまっていいだろうと、他の灼滅者達は先を急ぐ。
    「彼らが来る前にテイクアウトできてよかったよね」
     美味しいと評判のクレープを買ったサルバドール・アルバ(黎明のメサイア・d25466)は、これを手土産にどこかの部署へ向かうことにする。女性に好評のコレがあれば、きっとオネーサンも話くらいは聞いてくれるはずだ。
    「おいしかったよ、ごちそうさま」
     フードコートエリアに向かっていた唯月・彼方(おおかみさん・d28605)は、口を模したマスクを付け直しながらエリアの外へ出てきた。
     その場にいた客に「とりあえず大食い対決をしよう」と挑んだ彼方が見事な食べっぷりを魅せつけた後、同時に突入した灼滅者達による連携攻撃でアルバイター達を仕留めていくという、見事な協力体制で、フードコートもまた制圧を完了したのだ。
    「スマイル一つ分のお代、確かに頂きました」
     にこやかに笑いながら古宮・郁(口遊む言の葉・d32610)は負った傷をドラゴンパワーで癒していく。
    (「こんな感じでいいなら、バイトも上手くいくかもしれないな」)
     どんな困難も笑顔で乗り越える。客商売のコツを1つ学びつつ、郁はこの戦いが終わったら、自分もどこかで働いてみようかな、なんて考え始める。春だし、そういう新生活もいいかもしれない。

    ●斬新コーポレーション本社ビル20階
     商業店舗の数々を越え、およそ下半分の制圧に成功した灼滅者達は、更に上階を目指していた。
     そんな中、ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)は廊下の向こうから現れたスーツ姿のダークネスと視線が合った瞬間、脳裏に何か電流のような物が走った気がした。
    「……!」
    「!」
     無言で懐に手をやるダークネス。それに対し、ベルタも何故か持ち歩いていた名刺ケースを取り出した。
    (「サラリーマンの基本。それは名刺交換――!」)
     目と目が合った瞬間、そうなってしまうのはサラリーマンの性なのだろう。互いに距離を詰めながら名刺を差し出そうとした……その瞬間。
    「べるたびいいいいいいいむ!」
     ベルタは大阪阿倍野のご当地パワーを込めて思いっきりビームを撃った。
    「くっ、名刺交換という尊い儀式を、このような形で裏切るとは社会人にあるまじき行為!」
    「せやかてボク中学生やし」
     中学生ならしょうがない。
    「てかオジサンこそなんなんそれ」
     相手が懐から出そうとしていたのは、名刺ではなく何故か固焼きせんべい……いやよく見ると、社名や名前が焼いてある。これ名刺だ!
    「食べられるのは嬉しいワン。でも名刺が無くなると困らないかワン?」
     どっさりお菓子を抱えて歩いていた王・汪(爆走わんこ・d23630)は、せんべい名刺をさっそく食べ始める。
    「何を言うか。証拠が残るとヤバいだろう」
    「ブラック企業としか思えないキャッチコピーを掲げているだけあって、真っ黒な業務内容ね……」
     敵の反論に思わず重音・愛(愛死のオフェリア・d31841)は呟く。怖い会社だ。
    「さっさと潰しちゃおう。世の為にもなるよ一石二鳥だね」
     真心・流々(虚影のジョーカー・d27846)の足元から、獣を形取った影が伸びると敵に食らいつく。
     こんな会社は無くなってしまった方が、世の平和と未来ある若者のためになるというものだ。クゥ・シャミナード(命火招来・d02496)も青い髪をふわっとなびかせながらダークネスへの距離を詰め、クルセイドスラッシュを繰り出した。思わず触りたくなってしまいそうなほど、さらさらした髪が美しく流れる。
    「名刺交換をするとなると、やはり第一印象は重要ですね」
    「くっ……確かに私の髪は平凡な短髪……!」
     魅力的な髪は中年ダークネスにとって、なかなか魅力的に映ったらしい。ならば! と青柳・琉嘉(自由奔放サンライト・d05551)は更にアピール!
    「俺の髪ってオレンジだけど、うしろの1房は燃えるような赤色なんだよー! かっこよくない?」
     宙返りと共にグラインドファイアを決めたその瞬間、しっぽのようなその部分が、まさにダークネスの視界に入る!
    「くっ、若さゆえの冒険的な髪型か……!」
     口惜しそうに構えたダークネスは、身だしなみを整える為に持ち歩いている携帯ブラシ……の、到底髪をとかすのに適しているとは思えない鋭利すぎる先端を駆使して反撃してくる。
     そんな敵の前に、あえて短髪の金田・剛(ダイヤモンドスピリット・d33518)が進み出た。
    「短い髪には、短いなりの魅力がある!」
     短く切りそろえた黄金色の髪は、どこかまばゆく感じられる。
    (「俺は金剛石だ、ダイヤモンドだ……力強く、輝いてやる!」)
     そうでなければ失った仲間達にも顔向けできない。力強く拳を握りしめ、剛は閃光百裂拳を叩き込む!
    「くっ、なんてことだ……!」
     その輝くほど激しい一撃に倒れるダークネス。オジサンの事は忘れないよ、固焼きせんべいを食べ尽くすまで……ばきばきと歯ごたえを堪能しつつ、オフィスフロアを進む灼滅者達。
    「次は経理部のようですね」
     後続の灼滅者達に合図し、松原・牡丹(幸福運びの花神・d33438)は指先の先まで気を抜くことなく警戒したまま、室内の様子を伺う。
     聞こえてくるのはモーター音のような物と、ちょっとした話声。会話の内容までは判らないが、この騒動に気付かず仕事中なのだろうか?
    「じゃあ一気に攻め込ませてもらいましょーか」
     パーカーのフードを目深にかぶった黒鐘・蓮司(グリムリーパー・d02213)は、妖の槍を構える。まるで怨念が込められたかのように真っ黒な槍には、赤い基盤模様が刻まれていて、そのコントラストが目を引く。牡丹も縛霊手を握ると、着物の裾から覗くエアシューズを一気に加速させた。
    「敵は……」
    「あそこに集まっ……て……?」
     突入した灼滅者達は瞬時に室内の様子を確認する。デスクの多くは無人で、奥の方に皆集まっているようだ……が。
     ういーん、うぃんうぃんうぃんうぃん。
     目を引いたのは、リズミカルに動くマッサージチェアと、そこに座っている1人の女性。ほっぺにはレモンの輪切りをぺたり、右手に持ったフォークで食べているのはチーズケーキ。よくよく見ればお取り寄せで有名な店の箱がデスクに置いてある。
     そんな彼女の邪魔をしない範囲で、周囲に集まった部下達がマッサージチェアだけでは行き届かない、手や腕や足や首の細部をマッサージしているではないか!
    「あなた達、誰? 仕事の邪魔をしないでくれる?」
     不快感をあらわに睨んでくる女性だが、仕事なんてしてねぇだろと灼滅者達は総ツッコミを入れる。そこへ湍水・れん夏(しんこうふしんこうしんこう・d29496)はキラッキラの笑顔を浮かべて言った。
    「こんにちは、いけめんです」
     自信たっぷりに告げるれん夏は、まるで効果音や集中線を背負っているかのようだ!
    「いけめんです」
     大事なことなので2度言いました!
    「そう。でもいくらイケメンでも、あたしご褒美タイムを邪魔されるの好きじゃないの。ぷんっ」
     納得された。というかコイツ面倒臭そうなタイプだなっていうか仕事じゃなかったのかよ!
    「ご褒美タイムでしたら、今はまさに和菓子が美味しい季節。和菓子もオススメですよ」
    「でも和菓子って太るっていうじゃない。ホラ、あんことか」
     桜餅なんていかがでしょうか、と語りかける甘味・菓子(砂糖更紗・d26859)に首を振りつつチーズケーキを食べ進める女に、菓子はそんな事はありません、誤解ですよと語り出す。決して和菓子だからカロリーが高いといった事はないし、むしろあんこは食物繊維が多く、女性には嬉しい食べ物なのだと。更に、桜餅に草餅、鶯餅におはぎ……と、今時期の和菓子の良さを丁寧に語る菓子に、
    「くっ……誤解していたようだわ……」
     相手はすっかり和菓子の魅力を知ってしまったようだ。颯爽と和菓子の名店からお取り寄せを行っている。
    「ところで、みなさん灼滅者よね? こういう所に来られると困ってしまうの。みんな、追い払ってちょーだい。あたしその間に今日のエッセイ更新しちゃうから」
    「はい、主任」
     部下もとい強化一般人達が一斉に武器を構える。アズマ・フィアシス(悔恨の銃士・d31040)はデモノイド寄生体をゴーグルのように纏いながら思わず呟いてしまった。
    「あれで主任……」
     こんなのが役職を持っていて、この会社は大丈夫なんだろうか。……最初から全然大丈夫じゃなかったな、と思い直してアズマはデモノイド寄生体で覆い尽くしたバスターライフルからDCPキャノンを撃った。
    「お姉さんはお肌が気になるんですね? 私、実はこのもちもち肌のほっぺが自慢なんです!」
     雛見・桃子(おこしモッチアアーマード・d30792)はすべすべの頬の上で指先を滑らせ、ついでにぷにぷにむにっとしちゃいながらウインクする。
    「くっ。あなた私が世界で一番気にしている事を……!」
     逆鱗的な所に触れてしまったらしく、スマホをタップするのを止めて立ち上がる主任。そんな彼女を一瞬だけ見て篠原・亜子(鬼哭蒐集・d33205)は呟いた。
    「あれ、スマホやめちゃうの? スマホから目を離さないで戦うくらいどうってことないよね?」
     そんな亜子はスマホの画面から目を離さず、もう反対の手に持ったナイフで部下達に応戦している。どうやら、ちょうどお気に入りのオカルトサイトが更新されたらしく、内容に目を通しながら戦う亜子のテンションはちょっと高い。
    「見た目にこだわるなら、目力を意識するのも大切じゃないかな」
     よく魅力的だと褒められる瞳をアピールしようと、そこを意識する夕月・澄音(紅血の薔薇・d17335)は、目をしっかり見開いて戦……うのは、目が乾いて辛いと中断したものの、足元の影を操りつつ七不思議奇譚を紡ぐ。
    「愛する男に殺されて、怪異となった女の復讐劇を語ろうか……」
    「ううっ、ホラーはキライ!」
     まるで八つ当たりのように、デスクの下から引き抜いた鉈で斬りかかってくる主任。灼滅者達の魅力アピールは、いずれも彼女の何かをつつく痛いものだったのだろう。
    「こんな上司を持っちゃったのが運の尽きだったね」
     くるんとした大きな緑色の魅力的な瞳で強化一般人を見つめながら、セレーネ・フローライト(百鬼夜行の元主・d28654)は神霊剣を放った。その動きに、金の髪と金色のオオカミの耳、そして尻尾が微かに揺れる。
    「くっ、灼滅者に同情されるとは……」
     部下達の方も戦意を削がれているらしく、ただ単調に武器を振るってくるだけの攻撃を繰り返す。それでも受ける傷の深さは、決して浅くはないが、
    「回復回復、治るです~♪」
     そうぺんぎんの着ぐるみ姿で踊りながら清めの風を招く平坂・月夜(常闇の姫巫女・d01738)などが癒してしまい、気にならない。
    「甘いです」
     華麗な足さばきで攻撃を回避した無縁塚・零音(高校生七不思議使い・d33294)が、螺穿槍で敵を斬り捨てたのを筆頭に、傷つき弱った強化一般人達を次々と倒していく灼滅者達。
    「天狗山ダイナミック!」
     まるで山頂から敵を叩きつけるかのようにダイナミックな一撃で、最後まで残っていた主任も爆発と共に消滅していく。爆風に赤いマフラーを揺らす高斗の前で、オートコースの動きを終えたマッサージチェアが停止した。

    「うお!?」
     廊下を歩いていたダークネスが驚きの声を上げたのは、先頭を歩いていた才門・真知(歪焔・d12808)を見たからだろう。
     自分の魅力は笑顔だと考えた真知は、それを最大限に活かすべく、懐中電灯で下から自分の顔を照らしながら歩いていた。……相手は突然肝試しに遭遇したような斬新さを味わったに違いない。
     しかし灼滅者達も相手の服装を見て、驚かずにはいられなかった。何故なら相手が着ているのは『斬新なシャツ』としか言いようのない物体だったからだ。
    「あれ、触覚?」
    「いや……うん、なんだろう」
    「渦巻いて素肌が見えるシャツとか意味がわからないです」
     上手く表現する言葉が見つからないほど斬新なシャツ。それを最もバッサリ切り捨てたのはアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)だろう。
    「斬新と奇抜と滑稽の区別もつかない馬鹿が湧いて出たわね」
     とはいえ、どんな外見だろうと敵は敵。攻撃を緩める理由はない。
    「なんつーか、いろんな敵が居るンだなァ……」
     面倒くさそうに呟いた寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)は相棒のライドキャリバーに呼びかけ、騎乗したまま一気に加速した。外ハネした緑の髪が、その勢いになびく中、目つきの鋭さを更に強めた豆虎は、レイザースラストで敵を貫く。
    「やれやれ無粋な侵入者達だね。さっきの放送は本当だったのか……斬新さとは、いつだって凡人には理解できないもの。君達の理解など求めていないよ」
     そうして敵は紙束のような物を取り出した。どうやら没になった企画書の類のようだが、それを使って敵は瑠璃花・叶多(硝子の剣・d01775)を切り裂いてくる。
    「守りは僕達に任せてください」
     それを受け止め、叶多は仲間達に笑いかける。特に新入生達が安心して戦えるようにと気遣う叶多は本来10歳の男の子だが、今はエイティーンを使っているので、どこからどう見ても18歳の、まるで童話に出てきそうな王子様のような姿をしていた。
    「清めの矢よ、傷ついた体に届いて!」
     花飾りのついた天星弓を構え、三雲・秋乃(偏愛スケープゴート・d08813)は可愛らしい仕草で癒しの矢を放つ。まるでお人形さんみたいに可愛い女の子……と見せかけて、秋乃はれっきとした男だ。
     回復の間に、自慢の武器を掲げて敵との距離を詰めるのはアーティアリア・プティフレイズ(砂糖菓子のエチュード・d31918)。薔薇やリボン、フリルを交えて可愛くエレガントに飾り立てた咎人の大鎌は、更にイチゴの飾りがアクセント。美しく、舞うようにそれを繰り出して、一気に敵の急所を切断する。
    「クルセイドソードって武器を知ってるか?」
    「知りませんねえ」
    「そうか。クルセイドソードは祝福を受けた破邪の剣で、所有者を自ら選ぶって話だ。いわゆる聖剣って奴だな」
     慈山・史鷹(妨害者・d06572)はさらりと返した敵に、あえて己の武器について語る。語りながら史鷹が構えたその剣は、しかしどこからどう見ても錆びている。
    「そう錆びてんだよ、これでも祝福消えてねぇんだよ? つかこれじゃ聖剣(笑)だよな?」
     あーあ、やんなるなー、とぼやくような口調から一転。史鷹は剣を振り上げると、
    「じゃ、剣の錆びの一つに加わりやがれ!」
     破邪の力を持つ光を一気に放ちながら、史鷹は敵を切り裂く。
    「そーーーーーーれっ!」
     ジェルトルーデ・カペッレッティ(撃滅のストラディオット・d26659)は、その小さな体から遠心力を生かして繰り出したレイザースラストで敵を貫く。サイバースーツに装着したイヤーデバイスとテールデバイスが、その動きに沿って動き回る。
    「斬新さでも魅力でも負けません!」
     かつん、とヒールを鳴らして進み出た風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)の服装は、上から下まで緑と白。
     ずんだ餅色のワンピースに、ずんだ餅リボンとずんだ餅ペンダントを身に着けたかと思えば、剣とシューズは葡萄がモチーフ。仙台とフランス、ハーフだからこそダブルのご当地を持つ、クラレットならではのスタイルだ!
    「人の目を引けるくらいの魅力がないと、ご当地アピールなんて出来ないんだから。ご当地ヒーロー甘く見ないで欲しいわね!」
     そうクラレットから放たれるジャンプキックが、敵のバランスを大きく崩す。
    「くっ……私の斬新なコスチュームは、まだまだだというのか……?」
    「どんな服装でも、自分に似合っていなければ意味が無い」
     凪野・悠夜(朧の住人・d29283)は、淡々と語る。悠夜の服は、あえてシンプルな色とデザイン。だが、それが赤い目の綺麗さをより印象付ける事になり、顔立ちとバランスのとれた、トータルで調和の取れた外見になっているはずだ。
    (「……とか語ると、なんか僕ナルシストっぽいよね? うわあ……」)
     内心ちょっと恥ずかしいけど、これも作戦のため!
    「その通り! だからボクはこういう格好なんです!」
     絶妙な丈の赤いミニスカートに、フードがついた紺のパーカーでウインクする蒼焔・緋凍(恋華咲くことを許されず・d29295)。とってもよく似合っている。
    「ボク男ですけどしょうがないですよね、だって可愛いんですから♪」
    「くっ、言われなければ男だとは思わなかった……!」
     多分秋乃もアーティアリアも女性だと誤解しているのだろう。初めて衝撃を受けたような反応を見せるダークネス。しかし男が何を言っても、灼滅者の目が行くのはその斬新なシャツばかりで、男の顔にはほとんど注目がいかない。
    「私も凄いモブ顔な自信があるけど、お兄さんもよっぽどね?」
     歩いていた壁から降りてきた、磐座・舞(小学生ダンピール・d33132)の言葉が真理を突いた。敵は悔しげに企画書を折り曲げてジグザグに斬ってくるが、悲しいかな、ダークネスとは思えないほど本来の力を見失った威力しかない。
     そんな男にエリス・アルテリア(食せぬ不和の黄金林檎・d21838)の妖冷弾が降り注ぐ。
    「クスクス……虫けらのようですわね。潰れた姿がお似合いですわ」
     いかにもな古典的魔女の姿をしたエリスが笑う中、瑞月・浩志(思い出・d32546)はヨシと背中合わせに並びながら身構える。
     そんな2人の首には、お揃いのリングネックレス。親友だったヨシが浩志の誕生日に買った物だ。霊撃を放つヨシに続けて浩志が尖烈のドグマスパイクを繰り出し、ダークネスの体をねじ切る。
    「くっ……そういうペアアクセサリ……とか……」
     ふっと笑って倒れていったダークネスは、その斬新なシャツごと姿を消していく。
    「10分回復して、それからまた進もうか」
     皆の傷の様子からすると、回復は不可欠だろう。八千草・保(比翼之鳥及びゆーの嫁・d26173)は心霊手術を施せる回数を見極めつつ、そう周囲に呼びかけると治療に当たった。

    ●暗い影
     そんな中、ビル入口付近に新たな人影が現れていた。
     真っ先に気付いたのは、周辺を警戒していたエリノア・テルメッツ(串刺し嬢・d26318)である。エリノアは、社長やその側近達が途中で戻ってくることを危惧していたのだが、
    「いやー、やはりエクストリーム100温泉巡り出社はやりすぎだったなあ、アハハ」
     朗らかに笑いながら現れたのはダンディな社員で、発言の内容的に社長の側近というわけでも無さそうだ。
    「うん? これは……?」
     彼も会社の様子が普段と違うことに気付いたのだろう。灼滅者達を見て首をかしげ、すぐにあわてふためいた。
    「なんてこった! 会社が占領されている!?」
    「うん。残念だったね」
     柿崎・法子(それはよくあること・d17465)も手袋を握ると、迎撃に加わる。
     だがビルの外で待機していた者は少なく、ダークネス1体をうまく倒すには戦力が足りない。敵は鞄から取り出した温泉タオルを使った殺人格闘術を繰り出し、すぐさまトンボ帰りを試みようとするが、手早くエリノアが出した連絡に応じて増援が駆けつけてくる。
    「誰かを傷つける事は僕が許さないよ!」
     大切にかかえたクマのぬいぐるみ『テディ』で腹話術をするかのように喋りながら、苺衣・ユリ(金平糖の森の魔法使い・d31889)はキャンディの形をしたマテリアルロッドをビシッと敵に突きつけた。その先端から放たれた激しい雷がダンディ社員の胸を撃つ。
    「どうだかわいいか。かわいいだろう」
     続けてバスタービームを撃つザジ・アハツェーン(ゴールデンドーン・d04669)が担いだバスターライフルの銃身にも、クマさんのぬいぐるみがぶら下がっている。
     ザジ自身もフリルで飾られた黒のゴスロリドレスに身を包んでいて大変可愛らしいのだが、だからこそ、彼女の浮かべる野生的な笑みがより強調されている……かもしれない。
    「オジサン、次は早朝の牧場巡りをしてから出社するのはどうだ?」
     牛乳への愛をこめたビームを放った前田・骨平(牛乳と牧場を愛する者・d20618)は、そうダンディ社員に語りかける。そう、牧場型テーマパークを愛し、牛の乳しぼりを愛する男である骨平は、とくと牧場の素晴らしさについて語っていく。
    「牧場、そして牛乳の魅力であれば1日中語れる自信がある。オジサンも牛乳を飲むといい」
    「くっ……こんな状況で次のエクストリーム出社のネタを提供されるとは……!」
     まさに『牛乳飲め』と書かれたTシャツを着た外見を裏切らない言動だ。
     すかさず、敵の足元に向けて、名取・真糸(皓キ鴉ハ宵闇ニ啼ク・d12688)は鋼糸を繰り出した。その姿は忍装束なのに真っ白で、しかも光を反射してツヤツヤ光っている。まるで反射板のような素材だ。
    「斬新斬新言うてはりますけど、結局あんさんら、どこが斬新なんえ?」
     際立って新しいものを、斬新と呼ぶ。どこかで見たようなもの、誰かと被るようなものは、個性的でも斬新とはいえない。その違いに踏み込む真糸だが、
    「くっ、難しいことを訊く。だけど言葉で説明できるものは、もう斬新とはいえない。だからこそ常に斬新を追い求めて日夜努力をし続けるんだよ、斬新コーポレーションはね!」
     いいこと言ったような中身の無い言葉で誤魔化されたような。とはいえ、その斬新さが世間の多くの一般人にとって傍迷惑な以上、彼らをこのままにはしておけない。
    「デキる刑事は、射撃も上手なものなのです!」
     矢絣袴にトレンチコートを羽織った葛葉・雅(闇夜の祝詞・d14866)は狙いを定め、デッドブラスターを撃つ。その弾丸はしっかり敵の腰を貫いて、衝撃にダンディ社員は息を詰まらせる。
    「派手に落としてあげるわ!」
     その体を掴んだのは、愛用のリングコスチュームに身を包んだ稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)。赤を基調としたコスチュームは素肌の露出が高いが、鍛え上げた自らの肉体を魅せ付ける事もプロレスという競技の一環だと、そう考えているからこそのデザインだ。
     そんな晴香のバックドロップに、敵はダンディさを崩して目を白黒させている。
    「あなたのハート、いただきますの!」
     そこへ本郷・あまね(高校生魔法使い・d19640)がピストル型に構えた指先から漆黒の弾丸を撃つ。文字通り心臓を貫く一撃に灼滅された男を見て、あまねは「フィニッシュですの」と嬉しそうに微笑んで小さく拳を突き上げた。

     一方、ビル内部を進む灼滅者達は、上層階へ差し掛かっていた。途中で得た情報などから、この先にあるのはいくつかの会議室と企画部、営業部であるとわかっている。
     そんな中、ある角を曲がった一行は斬新な廊下に出た。
     天井と床はガラス製で外の景色が見えるようになっていて、そして左右の壁は鏡張り。
     そんな謎の通路を、数名の男女が行き交っていた。……フラフープをしながら。
    「美容と健康の為ってことですか?」
     廊下には謎のメロディが響いており、どうやら何かの体操中らしい。おそらく腰のくびれとか、バストサイズアップなどに関心のある社員が集まっているのだろう。
    「なっ!?」
     体操中の社員達も、こちらに気付いたらしい。灼滅者達を見て驚愕の顔……いやよく見ると、その視線は照崎・瑞葉(死損ないのディベルティメント・d29367)に集中している。
    「?」
     首を傾げる瑞葉に、わなわな震えてダークネスの一人が叫んだ。
    「あ、あんな……もはや貧乳とすら呼べない、板のような体型を恥じずに堂々と歩けるなんて……」
    「おう、今すぐてめぇら全員灼滅しつくしてやるからそこに直れや!」
     除霊結界を展開する瑞葉。なるほど女性陣はみんな瑞葉とは対照的に巨乳ばかり。
    「控えめな胸には控えめな胸の素晴らしさがあります。貧乳は希少価値だ! ステータスだ! とか言ったりするじゃないですか……かー……」
     彼らに魅力をアピールしようとしたルリ・リュミエール(バースデイ・d08863)も、「ううっ」と涙に言葉を詰まらせ、
    「うん、巨乳は滅べばいいと思う。そこの胸の大きい人! 勝負だコンチクショーーー!」
     レイザースラストを放ちながら標的に定めたダークネスに向かって駆け出した。ダークネス達は自分磨きで鍛えた拳や脚線美を生かした蹴りで応戦してくるが、
    「ふははっ、どうですかこの園観ちゃんの素早い身のこなしっ!」
     園観・遥香(天響のラピスラズリ・d14061)は腰を落とし、超はやい反復横飛びとしか表現できない動きで攻撃を避ける。
    「こんなことが可能なのも……そう! 全てはあの重くて邪魔そうな脂肪の塊、胸が無いからです! 今年大学生になるにも関わらず一向に成長の気配が無いからですっ!」
     あなた達が真似したら、ゆっさゆっさ揺れた胸がぶつかりまくって大変ですよね!
     ね!
     ……遥香は血の涙を流しつつ、蹂躙のバベルインパクトを繰り出した。
    「女の子の体型について、ましてやコンプレックスを指摘するのっていけないと思うわ!」
     オルタナティブクラッシュでそれに続くのは潮沖・梨衣奈(春待ちの唄を胸に・d31781)。彼女の胸は、普通の範疇に入るものだろう。だが、小柄な身長と細身な体型の割に、極端にお尻だけ大きいという体つきの主である梨衣奈にとって、彼女達の状況は他人事ではない。
     アンバランスな体型は、それはそれでコンプレックス。大きければ嬉しい、そんな単純なものではないのだ!
    「足が自慢のようですが、足なら私も負けませんよ」
     陸上で鍛えた筋肉質でしなやかな足で迦遼・巴(疾走する人工肢体・d29970)は床を蹴った。敵の只中に飛び込むと、レガリアスサイクロンを叩き込む。
    「激走! 学園戦隊! シャァァァァクメツシャー!」
    「くっ、1人なのに戦隊を名乗った……!?」
     デモノイド寄生体と一体化し、青の戦士といった風貌となった竹内・愛浩(戦う交通安全の青い人・d32419)は、ひとりぼっちでポーズを決めると交通標識を掲げながら間合いを詰める。
    「肉体美を意識するのであれば、もう少々筋肉を付けられた方が良いかと思いますね」
    「くっ。デスクワークばかりで脂肪がついても筋肉は増えにくいことを見抜かれたか……!」
     いわゆる細マッチョ体型、引き締まった筋肉を持つ愛浩の言葉に、男性社員の一人が嘆く。
    「そういうことならアタシの魅力は腕だねぇ。他より大分長いからねぇ」
     すっと右腕を伸ばしたのは篠目・榊(友殺し・d32285)。いくつも傷跡が残る腕は、彼らの美意識的には有り得ないものかもしれないが、アクセサリーをいくつも巻きつけた腕を構えてシニカルに笑う榊の姿は、仲間達が見てもカッコいいと感じるものだ。
    「くっ、そんな肉体美の形があるなんて」
     口惜しそうなダークネスを、榊は赤いオーラで一気に引き裂いた。
    「そういうのを気にするってことは、ダークネスでも年齢は気になるんですか?」
     外見だけなら自分達よりも年上、30代や40代の集まりに見えることから、小塙・檀(テオナナカトル・d06897)は仲間達と攻撃を仕掛けながら、あえてそこに触れる。
    「くっ、アラフォーなのを見抜かれた……」
    「心はまだまだ20代よ!?」
    「いや30代は30代だと思うが……」
     イサ・フィンブルヴェト(アイスドールナイト・d27082)が放つフリージングデスに辺りが凍りつく。いろいろな意味で。
    「じゃあ、こんなファッションは真似できないだろうな!」
     伊丹・弥生(ワイルドカード・d00710)が着ているのは、黒のタンクトップにショートパンツ。際立っているのは、なんといってもフライトジャケットを羽織っていても見えてしまうお腹、おへそだ。
    「くっ、10代だからこそのファッションを見せつけてくるなんて!」
     足技を決めてくる敵も、ショートパンツまでは履けないらしい。そこは複雑な乙女心というやつだろうか。
    「さあおじさん、跪きなさい?」
     一方、男性社員に鋼糸を構えて向き合っているのは美月・あいり(アウロラ・d00728)。モデルとして活躍するあいりはスタイルには自信がある。今日は革のマイクロミニボンテージ姿で、革ブーツのピンヒールを床に叩きつけるようにして鳴らし、胸元と太ももを惜しみなくさらけ出して敵を魅了にかかる。
    「どこからどう見ても一般人の私ですけど、精一杯がんばりますっ」
     流星のきらめきと共に敵を蹴る柳・真夜(自覚なき逸般刃・d00798)も、そう言いつつ純白のバニースーツ姿で、健康的な足をばっちりアピール! 更に中国拳法の構えから掌打を放つ椎那・紗里亜(魔法使いの中学生・d02051)は、身体のラインがハッキリわかるチャイナ服や、そのスリットの裾などが気になるのか恥ずかしげだが、その初々しさがまた何かの衝撃を敵に与えたようだ。
    「ボッコボコにしてやんぜー」
     すかさず海藤・俊輔(べひもす・d07111)は閃光百裂拳を繰り出す。相手が真の力を発揮できない今こそがチャンスだと、猫耳パーカーに猫のテイルデバイスを装着し、猫のように仕立て上げた外見から、更にもっと凶悪な虎や獅子かのような荒々しさで攻撃を繰り返す。
    「くっ、なんだこの光は!?」
     そんな中、不意にまばゆい光がダークネス達の目に飛び込む。外から差し込んできた夕日の光が、左右の鏡に乱反射し、そして……。
    「……うん?」
     光の先には館・美咲(四神纏身・d01118)がいた。彼女のオデコが絶妙に光を反射し、ダークネス達の視界に入ったのだ。
    「くっ。これほどのオデコちゃんがいるとは!」
    「! オデコちゃんではない!」
     その呼び方は美咲を刺激するには十分で、美咲は猛攻撃を開始する。それを起点に連続で次々と攻撃が繰り出され、ダークネス達は徐々に力尽きていく。
    「くっ、日課の肉体磨きだけでは足りなかったか……」
     もっと斬新な肉体改造が必要だったのかもしれない。そう喰いながら灼滅されていくダークネス達。斬新な廊下を乗り越え、更に灼滅者達が突入したのは『企画部』だ。
    「配達にお伺いしました!」
     赤をベースにした、フリフリのウェイトレスさんの格好をした白雪・ココ(ハートのミルフィーユ・d32761)は、両手にサンドイッチのテイクアウトボックスを抱えて入っていく。
    「点心の出前、お持ちしました~」
     ミニスカメイド服姿の相神・雪火(蒼炎の戦斧・d32781)が持っているのは、雪火特製の肉まん。
    「斬新なドリンクを販売してます。いかがかしら?」
     更に葵璃・夢乃(黒の女王・d06943)は緑のボトルを手にアピール。まさか正体が灼滅者だと思っていないのだろう。じゃあ貰うよ、と夢乃が掲げていた値段分の百円玉を置いて、室内のダークネスがボトルを取る。
    『斬新な商品は斬新な企画書から』
    『一日十斬新』
    『斬新なアイデアは黙って悩んでいては生まれない! アイデアは声に出せ!』
    『斬新な経験が斬新な商品を作る。流行から斬新を学べ!』
     などなどの標語が張り出された企画部は、目の下に隈を作った社員達がうんうんと唸りながら企画書を作っているかと思えば、テレビやゲームや読書やパソコンをしながら遊んでいる社員がいたりと、なかなかカオスな空間となっている。
    「ぶはっ、なんだこのドリンク」
    「くっ、こっちは辛すぎないか!?」
     そんな中、夢乃のドリンクを飲んだ社員が中身を吹き出し、雪火の肉まんを食べた社員が滝のような汗を流している。ちなみに飲み物の方はドリアン青汁味の栄養ドリンクで、肉まんは唐辛子とタバスコを練り込みまくった激辛唐辛子まんだ。
    「感動してくれて嬉しいよ」
     そう雪火がレーヴァテインを繰り出したのを皮切りに、企画部での戦いの幕は上がった。
    「さ、狩りの時間と行こうか」
     墨染・暗時(ハウンドティンダロス・d27393)は黒い手袋をはめた手でガンナイフを握り、すぐさま弾丸を射出する。黒いスーツを着崩した胸元で、赤いネクタイが揺れた。
    「厨房は戦場って言うし、戦場が厨房になってもいいよね」
     頑張ってお料理しちゃうぞ! とまるでフォークのような形をした三又の槍を構え、月白・うずら(サイバービート・d24243)はそれを思いっきりダークネスへ突き立てる。コック服にシックな腰エプロンを巻いた彼の隣に浮くウイングキャットの料理長も、コック帽とスカーフを巻いた、いかにもな姿で猫魔法を放つ。
    「だったら食える物を出せ!」
    「オバチャン、これ捨てといて!」
    「はーい」
     と返事をしながら、掃除のおばちゃんは突如、伝説の歌姫のような歌声を披露する。そう、これは道中で奪った制服を活用し、掃除のおばちゃんを装いながら敵の中に紛れ込んだ白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)だったのである!
    「くっ、よく見たら学生じゃないか騙された……!」
    「演技力を褒めていただけて光栄だよ」
     にっこり笑って、朝乃はウロボロスブレイドを構える。
    「マジカル男の娘・若林ひなこ! 推して参りますっ!」
     コスチュームに身を包み、若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)は決めポーズ。どこからともなく『キラッ☆』と効果音が聞こえてきそうな見事なヒロインぶりだ。
     雛菊をモチーフに、戦国時代と甘ロリとメイド服をミックスさせた衣装は、お声が掛かれば様々なタイアップに対応できる柔軟さと可能性も秘めている!
    「どうですか? 企画部の皆さん!」
     朝5時から丁寧にせっせと仕上げたピンク色の髪のツインドリルを可憐に揺らし、ひなこはフォースブレイクで戦闘だってできちゃう事をアピールだ!
    「魅力……魅力な。ゲームっぽいとかコスプレっぽいとは言われるが……」
     金の瞳に緑の髪、更にどことなく植物っぽい装いをした翠明寺・アレス(ルヴァンヴェール・d15175)の外見は、なんとなくエルフの弓使いとかにいそうな雰囲気だ。
     もっとも、アレスの武器は弓ではない。縛霊手を構えたアレスの周囲にはオーラが放たれ、思いっきり前のめりな勢いで敵をぶんなぐる。
    「くっ、らしさをアピールした後で、キャライメージの意外性を突いてくるとは……!」
     服装まで凝っておきながら、それを裏切るような攻撃の仕方に殴られた社員が唸っている。
     そんな戦闘の中でも、一部の社員は企画書作りを続行していた。彼らに、ふと近付いていく小さな影が1つ。どこから入り込んだのか、一匹の猫が彼らの足元へ入り込んだ。
    「猫? 誰のか知らないけど、邪魔するなよ」
     しっしっ、とダークネスの1人が手を振る……その瞬間。
    「……猫をなめるな」
     在月・由羅(影を喰らう半魂者・d29315)は元の姿に戻り、屈んだままの姿勢から居合斬りを繰り出す。これには意表を突かれたのだろう、ダークネスは直撃を受けて思わず立ち上がった。
    「歌いながら戦うZ!」
     マイクを持った神鳴・洋(高校生サウンドソルジャー・d30069)が歌い始めたのは、この日の為に用意した新曲、斬新エボリューション。数多のアニソンをマスターした洋だからこその、誰が聞いてもアニソンだと納得できる曲調とヒロイックさに溢れた歌詞を高い完成度で歌い上げながら、洋はオルタナティブクラッシュを叩き込む。
    「斬新、即ちそれは誰もしていないこと……」
     熱い戦いが繰り広げられる中、不動・祐一(幻想的性善説・d00978)がすっと進み出る。
    「そして俺の魅力は外見。だから!」
     祐一は持っていたナップザックを足元へ無造作に落とすと、脱いだ。服を次々と脱いだ。水泳の授業の前のように海パン一丁になるまで脱いだ祐一は、そのままナップザックに入れておいた別の服へと着替えていく。つまり生着替えだ!
    「デスクワーク漬けのお前らに、肉体美っていう斬新さを見せつけてやるよ!」
    「くっ、1日10個の企画書を完成させなければいけない俺達に、肉体トレーニングなんてやってる暇はねえんだよ……っ」
     ついでに言うと戦ってる暇もない! とデスクの下から引き抜いたガンナイフを撃つ社員達。その割にガンナイフが備えられているのは、ストレス解消的な用途の為なのだろうか。
    「仕事には息抜きってのも大事だぜ。なあ、ハイ&ローでもしようや」
     彼らに向かってニッと笑ったのは劉・謙哉(蹴道・d07583)。
    「選んでくれよ、ハイ(キック)かロー(キック)をな!」
     どっちを選んでも攻撃なのは変わらない。お断りだと返す彼らに、謙哉は大盤振る舞いで、両方とも叩き込むことにする。
     そんな灼滅者達の攻撃は多くのダークネスの力を封じ込めることに成功し、戦況は優位に進んでいた。しかし、そんな中、一番奥のデスクにいた男が立ち上がる。
    「やれやれ……婚活に励んでいる場合では無さそうだ」
    「そ、その姿で婚活かい!?」
     男の発言に、美しさを最大限にアピールしていた終集・現真(美奇談蒐集家・d33279)は驚愕を隠せない。
     絹のようにしなやかな髪を持つ現真に対して、もっさもっさの半年は切ってなさそうな上、ブラシを通したのすらいつなのか定かでは無い髪。
     大気に花を咲かすような声を持つ現真に対して、寝ている子が気味悪がって飛び起きて泣き叫びそうなほど不気味な声。
     天使かと見間違えるような美貌を持つ現真に対して、最後にいつ風呂に入ったのか問い詰めたくなるような悪臭を漂わせるダークネスは、現真の持つ美意識を破壊しかねないレベルの凶悪な存在だった。
     流石に、灼滅者達もじりじりと、間合いを探りながら敵と睨み合う。
    「イエス。いかに不利な状況で婚活をクリアするかに挑む……それが新時代の斬新な婚活。そしてこんな私の婚活を成功に導いたアイテムは、悩める男女にバカ売れする! 斬新な企画婚活だろう!」
     どうやら、ひたすら不利な条件を自分に強いながら、お見合いを繰り返しているダークネスらしい。これで成功するお見合いが存在する事の方が驚きだ。
     そんなダークネスに向かって素晴らしいです! と声を上げた者がいた。室姫・景(影舞・d21292)である。
    「なんという斬新な婚活でしょう! 3か月分の油が乗った髪型はヘアワックスが無くとも綺麗にまとまる。なんという斬新な髪型でしょう! これほどまでの努力をすれば商品も斬新な売れ方をするでしょう。決算を前に、なんという斬新な企画でしょう!」
    「くっ。ここまでしても、なお私を褒める者がいるのか!」
     何から何まで片っ端から褒めまくる、褒め殺し殺法を取った景の様子に、敵は思いがけず自信を喪失してしまったようだ。
    「乙女の心を踏みにじるなんて最低ですのっ」
     いつも大切に手入れしている黒髪を揺らし、二階堂・薫子(好奇心旺盛なお嬢様・d14471)は憤慨しながらの神薙刃を飛ばす。うんうんと、傍らで霊犬の凰花も大きく頷いている。
     他にも、すぐさま和服や巫女服、ワンピースやビキニアーマーなど、多種多様な服装に身を包んだ女性陣がダークネスを包囲し、次々とボコボコにしていく。早々に全力を発揮できない状況に追い込まれてしまったダークネスは、見る間に消耗し、そして灼滅されてしまった。
    「誰か、誰かクリーニングを!」
     汚らわしい物に触ってしまったという様子の女性陣は、クリーニングで体を清める。そうして灼滅者達が進む先は、最後に残った大部署、営業部。
     電話応対と打ち合わせに追われ慌ただしく働く様子のダークネス達だったが、灼滅者に気付くと、すぐ一斉に動きを止める。
    「ようこそ、武蔵坂学園の皆さん」
     どうやらここまで来て、ようやく事前に社内で情報が伝わったらしい。敵を代表するかのように進み出てきた男は、にこやかに学生たちに語りかけた。
    「絵に興味はありませんか?」
     男はすぐさま背負っていた額縁を下ろし、灼滅者達の方へ差し出した。どこかで見たような感じがする、青色と空が印象的なイルカの絵だ。
    「実物ではございません。複製画、いわゆる版画と呼ばれる物です。しかし六六六人衆ならではの器用さ、素早さ、技術を駆使した究極の技術で印刷されており、灼滅者ですら再現するのが不可能な逸品となっております」
    「すごーい斬新だね」
     これまで、遭遇する敵も近くにいる味方も、何もかも全部片っ端から称賛するという斬新なトークを駆使していた秋茜・夜湖(中学生七不思議使い・d33371)が絵を覗き込みながら絵を褒めると、途端にガッと食いついて売り込もうとする営業マン。しかし夜湖を脇によけて、狼姫・兎斗(白闇バーチカル・d01087)は言い切った。
    「営業なら社外でどうぞ。そもそも学生にするものではないだろう。それに、今日は財布自体を持ってきていない」
    「身分証明書はお持ちですか? 提携先の斬新ローンと安価でご契約いただき、低金利で600回ローンを組む事も可能でございます」
    「50年ローンなど払えるか。押し売りなら余所でやれ」
     なおも食いつく営業マンの提案を却下し、兎斗は足元の影をじわじわ伸ばしていく。
    「お買い上げ頂けないのであれば、あなた達はお客様ではありません。武蔵坂学園はお金持ち学校のようなので、決算前の収入に期待していたのですが……」
     残念です、と営業マンは額縁をそのまま構えた。武器として扱うくらいだから、この絵に金銭的な価値など皆無なのだろう。きっと市販のプリンターで量産できるレベルに違いない。
     営業部の他のダークネス達は交渉の様子を見守っていたが、決裂したとみると、やはり武器を取って一斉に攻撃を仕掛けてくる。
    「参りました」
     それを見て緋倉・那由多(はあと少しで覇気使えるかも・d29149)はすぐさま土下座した。すすす、と用意してきた菓子折りを前に差し出す間も、ずっと土下座。とにかく下手に出て無抵抗をアピールし、様子を探りながら隙を突こうという作戦だったのだが、そんな那由多にも容赦なく黒死斬が振り下ろされる。
    「この世に人間は2種類しかいません。お客様とそれ以外です」
     土下座しようが何をしようが、客じゃなければ扱いは一緒という事らしい。
    「ヘル君、敵を突っ切るよ!」
     小沢・真理(ソウルボードガール・d11301)はライドキャリバーに乗ったまま、営業部のデスクの上を激走すると、キャリバー突撃を繰り出しながら敵を挟み撃ちにする。
    「決算前……。連日の業務でお疲れのようなら、私の歌は良く通るでしょうか」
     高らかに雨音・比々木(雨粒一つと一つ合わせて二つ・d25163)がディーヴァズメロディを響かせると、歌声で催眠状態に陥った敵が、目をとろんとさせている。
    「さあさあ、今日ご紹介するのはこの釘バット! そこのお兄さんお姉さん。これどこにでもあるごくごく普通の釘バに見えちゃうよね~?」
     泉明寺・綾(サトシパン買ってこいよ・d17420)は営業マン達にあえて逆営業をかける。綾は、なんと釘バットに見えるそれを、日本刀のように構えた。
    「ななななんと! この釘バ! 日本刀なんだよ! では早速実演してみましょー!」
     と瞬く間に抜刀し、居合斬りを叩き込む。
    「続いてはこちらの商品。丁寧な手作り、そしてこの熟練の仕上げ! 今ならこの着ぐるみが、たったの4万と5934円。そう、す(4)ご(5)く(9)ざんしん(34)価格!」
     アイテムポケットで持ち込んだたたき売りグッズを活用し、新たな商品を売り込むのは鈴木・レミ(データマイナー・d12371)。ちなみにこの商品は、クラブからコレクションを拝借したとか何とか。
    「くっ、新人研修も受けずに、もう我々の営業技術の基礎を会得しているとは、やるな武蔵坂学園!」
     斬新な見た目とか金額設定とか、色々と彼らの営業に通じている部分があったらしい。
    「しかしその程度の商品では売り上げなど知れています。大口契約など決して望めないでしょう!」
    「主任!」
     そう進み出てきた女性を見て、周囲の営業マン達が活気づく。若い女性だ。彼女が、どのような手腕で営業部の主任に上り詰めたのか――?
    「なあ、ところでアンタ、なんで家を背負ってるんだ?
    「それはもちろん、私が家を背負って働いているからです」
     星の形をした斬新なサングラスをかけたまま、怪訝に見つめる鉄・雷人(天然核弾頭・d33644)の問いに主任は淡々と答える。そう、彼女はなぜか、一軒家の模型のような物を背負っているのだ。
    「語れば長いことながら……」
     そう何かを堪えるような仕草で、主任は懐から目薬を取り出した。両目に目薬を流し込み、可憐な涙を流しながら語る。
     祖父母、姉夫婦、兄、弟妹。今の時代となっては大家族と呼べるだろう家族構成を持つ彼女の家は、悪徳ローンによって大借金を背負ってしまったのだ。
    「借金を返す為に、私は働き始めました。今の時代に、私だからこそ売り込める商品。それは家。お茶の間のある暖かな風景、みんなが食事に集う食卓オブ食卓、食卓界のキングちゃぶ台……!」
     哀愁を誘う語り口が古き良き時代のお茶の間の光景を呼び覚ます。……そうやって老人を上手く上手く言葉に乗せて家を売ったりリフォームの契約を取ったり家具を売りつける事で、営業成績上位を常に保っているらしい。
    「そうだったのか……お姉さん、辛い目にあったんだね!」
     ぶわっともらい涙を流すナイト・リッター(ナイトナイトナイト・d00899)。さあ俺の胸の中においで、いや俺の方から迎えにいこう! と抱きしめようとするナイトだが、そんな彼の目に主任はドクロマークのついた目薬を流し込んだ。
    「ふおっ!?」
     これ、サイキックで生成された毒だ、間違いない。
    「君の戯言を、これ以上聞く必要は無さそうだな」
     すらりと日本刀を抜き、神風・誠華(中学生神薙使い・d33174)は主任に向き直る。今にも月のように冴え冴えとした刀技を繰り出してきそうな、そんな気迫のまま――。
    「さぁ、尋常に勝負だ!」
     高らかに言い放った誠華は刀をマイクのように握り締め、ディーヴァズメロディで歌い始めた。
    「くっ、なんというフェイント……!」
     必死で催眠に抗う主任。その隙をついて、赤石・なつき(そして心をひとつまみ・d29406)は思いっきり鬼神変を叩き込んだ。
    「なんだかもう斬新なのか斬新じゃないのか分からなくなってきましたね」
    「くううっ。私はもう古いってことなの……!?」
     なつきの呟きは、何度も何度も斬新という言葉を繰り返してきた結果の感想なのだが、主任には自分に対する言葉に聞こえたらしい。何か思い当たる節とかあるんだろう。
    「いいえ、まだよまだまだ。負けないわ!」
     主任から放たれた殺気が辺りを包む! その衝撃に鷹司・圭一(残念仙人・d29760)はバランスを崩し、掛けていた眼鏡が吹き飛ばされてしまう。が、
    「スペアは十分な数を用意してある。問題ない」
     誰かに素顔を見られてしまうよりも早く、取り出した新しい眼鏡をかけ直す。
     眼鏡キャラたるもの、眼鏡の無い姿は決して誰にも明かさない。それが眼鏡キャラの美学!
     圭一は眼鏡に余裕がありそうなので、頭と胸ポケットと襟元と両足の靴の履き口と、それからズボンのベルト通しに1個ずつ眼鏡を飾り付けて構えを取る。
    「くっ、営業になって長いが、あんなスタイルの奴は初めて見たぞ」
     斬新コーポレーション内でも外見についてはこだわりの多そうな部署である営業部員達にとっても、その姿は斬新に映ったようだ。
     次々と、実力を発揮できない状態になり、灼滅者達に押されていく営業部員達。そんな彼らを後ろから支え「だらしねえなあ」と笑う男がいた。
     この斬新コーポレーションにおいて、7カ月連続で営業トップの称号を獲り続けている男。彼こそ、営業部のエースだ。
     営業部長が斬新社長と不在な今、営業部の実質トップは彼と言って差し支えない。
     いったい、どんな戦い方をしてくるのか……身構える灼滅者達を凶悪な嵐が襲った。吹き荒れる暴風に体が次々と刻まれていく中、
    「……玉子?」
     その嵐に乗って、何故か玉子が飛んできた。次々と飛んできて灼滅者達にぶつかって、割れた途端に物凄い悪臭を漂わせる!
    「あれは先輩が名を上げるきっかけとなった、幻の宮崎地鶏の腐った玉子!」
    「日本海産の鳥を厳選した、海の玉子の3年発酵品も混ざっているわ!」
    「すっげー、すげえよ。ほんと、なんであれを1個1万円で売りつけられるんだ……!」
     営業部員達が尊敬とリスペクトの眼差しを向けているが、生卵まみれになった灼滅者達としては、たまったものではない。
     どうやらあの営業エースは、腐った玉子を高値で大量に売りつける事で荒稼ぎをしているらしい。
    「今朝も丁寧に編んできたのに……」
     静かな怒りを込めて、市瀬・香苗(魔法嫌いの魔法使い・d21916)はマジックミサイルを飛ばす。お気に入りの髪、お気に入りの服、お気に入りの武器……大切な物を台無しにされて黙っていられるはずがなかった。
    「沢さんの毛並みも台無しじゃないですか!」
     川北・きよ(山水・d32394)は長くさらさらな髪をなびかせて、渾身の必殺ビームを撃ちこむ。傍らの霊犬、沢さんの体には、べったり玉子がついている。
     ダメージを負ったわけでは無いが、しかし沢さんへの暴挙は決して許せないと憤慨するきよ。
    「ひよの仲間をあくよーするとは、ゆるさないでち!」
     ひよこっぽい外見を持つ、人造灼滅者の焼杉・ひよ(飛べない鶏の子・d28160)はおほしさまのステッキを思いっきり振って、営業エースと周囲のダークネス達を一気に凍りつかせる。
    「くっ、まさかひよこから逆襲される日が来るとは思わなかったぜ」
     腐った玉子は元手だタダに等しいからか、在庫はまだまだあるらしい。更に攻撃に織り交ぜて嫌がらせをして来ようとする営業エースの様子に、山颪・白波(春風を謳う乙女・d31394)はまるでバレエを舞うかのように軽く跳び、間合いを詰めた。
     そこから放たれるのは強烈な蹴り! 可憐にして苛烈な回し蹴りで、営業部員達を躊躇なくボッコボコにしていく。
     様々な魅力をアピールしてもなかなか動じないのは、流石に営業部のエースといった所だろうか。しかし古乃花・一獅(デスパレートストラグル・d13019)は相手が弱体化していようがいまいが関係ないと、言わんばかりに敵へ向かっていく。
    (「どんな時でもあきらめない、ひたすらに敵と戦い続ける姿勢。それだって大事なもんだからな」)
     バベルブレイカーを高速回転させ、一獅は尖烈のドグマスパイクを突き立てる。その背中はきっと誰かが支えてくれるだろうという読み通り、反撃を喰らってもすぐ桐ヶ谷・十重(赤い本・d13274)が回復する。
    「敵がそう来るなら、清めの風が良さそうですねえ」
     こまめに効果的な回復をするには、どのサイキックがいいか。回復が足りなくてはダメだし、だからといって過剰になってもいけない。十重は皆のポジションや敵の攻撃の詳細、それぞれが負った傷の深さなどを手早く総合的に判断し、皆を回復する。もちろん、他のメディック達とマメに呼びかけあう事も忘れない。
    「じゃ、ガンガン行かせて貰おうか」
     回復が十分なら、心置きなく攻められる。黒い着物姿の海野・桔梗(鷹使いの死神・d26908)が、黒い咎人の大鎌を振りかぶる様は、まさに死神のように見えることだろう。
     桔梗は断罪の刃を振り下ろし、相手が回復を試みようとしても、その効果が確実に削がれるように布石を打つ。
    「いきなり背後からズバッと斬るのって斬新っぽいかな?」
     乱戦になるなら、そっと回り込んで隙を突くのも難しくはないはずだ。そう考えたマイリー・スザイル(ぶらぶら野郎・d30963)は姿勢を低くしながら死角に入り、一気に黒死斬で切り裂いた。
    「食べ物を粗末に扱っちゃダメですの!」
     今日も焼き菓子を用意してきたマドレーヌ・メグレ(午前三時のティータイム・d25612)としては、斬新コーポレーションではエースだとしても、こんなの絶対に認められない。
    「玉子は、新鮮なうちに丁寧にかき混ぜて、美味しいお料理にしてあげるべきですもの!」
     マドレーヌはクラッシャーの最前線に立ち、トラウナックルを打ち込んだ。
    「今日は特別に神霊剣もオマケしとくで~」
     和風メイド衣装に身を包んだ葛葉・蝶子(葛花のお蝶・d25787)は、まるで接客する時のような軽い口調で告げながらクルセイドソードを非物質化させ、直接営業部のエースを貫く。
    「くっ……チームワーク、だと……!」
     そんな灼滅者達の姿にエースが愕然としているところを見ると、斬新コーポレーションでチームワークはあまり重んじられていないらしい。まあ、確かにこの会社、色々な意味で競争が激しそうだ。
    「武蔵坂学園のみんなの力をひとつすれば、このくらい楽勝なのねー!」
     エヘンと胸を張った牛野・ショボリ(歌牛・d19503)は、そんな営業部のエースの体を掴み、高々と持ち上げる。ご当地ヒーローだからこそのダイナミックな投げ技に、大爆発してエースが灼滅されると、残りの営業部員は更に戦意を喪失し、彼らが完全に灼滅されるまで、そう長い時間は掛からなかった。

     その間に、一部の灼滅者は社長室を目指していた。最上階、34階にそびえる社長室だが、僅かな警備がいた程度で、ほぼ無人といった状況だった。
    「さん…し、ん……さんしじゅうに……? ううっ、テストは終わったですよー!? もうやだぁー! 勉強やだぁーっ!」
     完全に涙目になった遠波・瑠璃花(夢のあとに・d32366)がピンクでラブリーなバイオレンスギターを力いっぱい振り回したり、月村・アヅマ(風刃・d13869)がレーヴァテインで斬りつけるなどするうち、34階にいた敵はすぐ灼滅された。
    「目ぼしい物は、片っ端からこれに詰めましょう」
     牧野・春(万里を震わす者・d22965)は両手で抱えてきた沢山の麻袋を床に放り出す。紙の資料はもちろん、USBやハードディスクなど、使えそうな物はすべて持ち帰ってしまおうという作戦だ。
    「やっぱり気になるのは、社長と側近の行き先だよね」
    「何の目的で留守にしてるんだろうね?」
     黒谷・才葉(カニバルドッグ・d15742)や水無瀬・旭(瞳に宿した決意・d12324)は首を傾げつつ社長室のデスクと棚を手分けして調べる。
     新商品のアイディアも何かあれば持ち帰りたいところだが、それは企画部へ向かった面々に頼んである。斬新コーポレーションが危険な商品を開発しているのであれば、対策を考えたいところだ。
    「他にも俺らの知らん情報とか? なんでかセイメイの居場所とか知っとったし」
    「殺人階位、エンドレス・ノット、密室殺人鬼など、六六六人衆の情報も隠し持っているかもしれませんね」
     極秘書類の類を抱え込んでいたりしないだろうか、と氷月・燎(高校生デモノイドヒューマン・d20233)が疑えば、津軽・林檎(は寒さに強い・d10880)も頷く。ただ、置かれている書類はほぼ斬新コーポレーションという会社自体に関する物のようで、情報源になりそうな物は、なかなか見つからない。
    「ん?」
     そんな中、それを見つけたのは、隣の秘書課を調べていた近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)だった。それ自体は直接、彼が探し求めている情報に繋がっている物なのかはわからなかったが……。
    「なるほど、予定表がありましたか」
     秘書課のデスクの下、普通に部屋を通る人間には見えないような場所に置かれていたのは、1枚のホワイトボード。よく会社にある『何時A社で打ち合わせ』『外回り、直帰』『18時帰社』など、社員の予定を共有する為に使われるアレの、幹部バージョンが置かれていた。
     斬新コーポレーションの社長以下、主だった役職者の予定をメモしておけるようになっているホワイトボードは、片っ端から『出張 北海道』という文字で埋め尽くされている。
    「パソコン見てみようか」
     春が調べると、インターネットで羽田空港から新千歳空港へ向かう飛行機のチケットが多数手配されている事がわかった。ホワイトボードと照らし合わせると、顔ぶれはおおむね一致する。それ以外の人員は、今まさにここを留守にしている秘書や、側近が更に連れて行った部下などだろう。
    「見て、これ!」
     更にデスクの陰からもう一つ……灼滅者達にとって重大なフレーズが書き記された書類が見つかる。おそらく誰かがうっかり隙間に落としてしまった物なのだろう。たった1枚、表紙の部分だけしかない状態で、詳しい内容まではわからないが――。
     そこには、こう書かれていた。
    『ラグナロク計画(プロジェクト)』と。

     最上階までの目ぼしい場所を制圧した灼滅者達は、隠れ潜んでいる者が残っていないか、ビル内を隅々まで手分けして確認していた。
    「誰か、手を貸してくれ!」
     そこに駆け込んできたのは高村・圭司(いつもニホンオオカミ・d06113)。
    「きっと斬新だから無駄なスペースすら使うという事で、通気口にもデスクがあるに違いない」
     と予測した圭司はオオカミの姿で、霊犬『護郎丸』と共に通気口を走り回ってビル内を調べていたのだ。その結果、まさに通気口を通らなければ辿り着けない、謎の小部屋を発見したのだ。
     斬新な形状のビルだから、あれこれデザインした結果、謎のデッドスペースができてしまったのだろう。……そこを本当にオフィスにしてしまうとは、さすが斬新コーポレーションである。
    「そんな所にまで……」
    「通気口なら、変身できる灼滅者だけで行く方が攻略しやすそうですねー」
     圭司の情報を受けて、ニホンオオカミと犬と猫と兎と蛇に変身した灼滅者達が小部屋の制圧に向かい、きっちり灼滅して戻ってくる。
     ただ、新たに発見されたダークネスはその程度。念には念を重ねてもう一度ビル全体を巡回したが何も見つからず、ここに斬新コーポレーション本社ビル、完全制圧が宣言された。
     ぶおおおおおおおおおおおおお!!
     戦城・橘花(夢幻泡影・d24111)が力いっぱい吹いた、ほら貝の音色が、表参道の空に響き渡る。
    「ところでみんな、自分の魅力はうまくアピールできた?」
     ぴょこぴょこ跳ねてポニーテールを揺らしつつ、ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が後輩たちに尋ねる。だが後輩達は浮かない顔だ。なにせ、こんな事は初めての経験。果たしてこれで良かったのだろうか、と難しい顔をしている新入生達に、
    「他人に自分の魅力を伝えるのは難しいよね。僕も昔はそうだったから、わかるなあ……」
     自分が新入生だった頃を懐かしむように目を細めつつ、三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)は「『自分の外見』って、そもそもなんだと思う?」と問いかけた。
    「僕の場合、まず和服を着てるよね。これは『服装』。それから片目が前髪で隠れているね。これは『髪型』。あと笑顔を浮かべている……つもり。これは『表情』だね」
     なるほど、と頸旗・歌護女(人離語リ・d33259)は頷く。そういえば戦っている間、他にも『自分の武器』や『アクセサリー』『腕』『足』『体型』『ポーズ』などをアピールしている先輩達がいたと思い返す。
    「自分が、他の人と違うのはどこか……を、思い浮かべてみると、自分の中で整理しやすいかもしれないね」
    「自分の特徴を自分で把握するのって難しいかもしれないけど、上手く自己紹介できるようになると、自分の見た目、魅力をアピールしやすくなると思うよ」
     更に月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)は、そうアドバイスする。
    「たとえば、わらわが着ているのは巫女服じゃが、これはお祖母ちゃんが作ってくれた特注巫女服なのじゃ。普通の巫女服は赤いが、わらわの巫女服は桜色で、背が低いわらわ用に袴じゃのうてミニスカートなのじゃ」
     望月・心桜(桜舞・d02434)は後輩達の前に立ち、自分の巫女服の見た目を説明していく。
    「これをスレイヤーカードに封印すると……」
     心桜が殲術道具を封印すると、今まさに着ていた巫女服姿の心桜の姿がスレイヤーカードに刻まれる。

    ====================
    【マスターからの解説】
     スレイヤーカードは、実は美術室で頼めるイラストの1つになっています。
     皆さんが、戦う時に、どんな殲術道具を装備するのか。皆さんが封印を解除するとどんな姿になるのかを、好きなイラストレーターさんに描いてもらえるんですね!
     今回、このシナリオに参加していた先輩の皆さんの中には、このリプレイで描写されたのと同じ見た目のスレイヤーカードのイラストを持っている人が何人もいます。心桜さんもそうですね。皆さんが、どんな風に自分の姿を文章で説明して、イラストを描いて貰ったのか、先輩達のスレイヤーカードを見てみるのも、参考にもなるかもしれません。
     赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)さんも「百聞は一見に如かず。つまり聞くより見た方がいいということ。納品イラストを実際に見てみるといいですよ」とオススメして下さいました。

     これまでに先輩達が美術室で描いて貰ったイラストは、
    『美術室』http://tw4.jp/gallery/
     で見る事が出来ます。『新着作品』は、まさに完成したばかりの作品が並ぶ場所です。『ギャラリー』に行くと、色々な条件で過去に完成したイラストの検索ができるので、
    「自分と同じ、高校1年生の女の子のイラストだけ見てみたい」
     とか、
    「自分と同じシャドウハンターの人のイラストを見てみよう」
     とか、
    「同じクラブの先輩のイラストを見てみよう」
     など、いろいろなイラストの眺め方ができますよ。

     イラストは、イラストを見たい相手のステータス画面に行って『画像一覧』を押しても見ることができるので、特定の誰かのイラストを見たい時は、ステータス画面から見てみるのもいいかもしれませんね。

     また、架乃さんがアドバイスしてくれた『特徴』。
     これは自分のステータス画面で設定をすることができます。
     http://tw4.jp/character/status
     ここの『設定』に行くと、自己紹介を書き換える枠の下に『特徴』という項目が現れます。ここから、自分のキャラクターの特徴はこれだ! という物を5個まで選んで、設定しておけるんですよ。
     ちなみに、選べる特徴は500個以上あるので、悩むかもしれませんが、いつでも自由に設定できますし『やっぱりこの特徴やめた!』と、一度選んだ特徴を消しちゃう事などもできるるようになっています。まずは気軽に、どんな特徴が選べるのかな? と覗いてみてくださいね。

     特徴を選ぶと、あなたのステータス画面に表示されます。
     たとえば白鷺・鴉(高校生七不思議使い・dn0227)なら、
    「好き:怪談話が好き」「身体:自信に溢れた表情」「性質:面倒見がいい」「性質:誇り高い」「好き:夕焼け空が好き」の5つです。これだけでも、鴉がどんな人なのか、なんとなくわかりますね。
    ====================

    「スレイヤーカードを使いこなすことで見えてくる、新たな魅力もあるかもしれないな」
     次はどんな殲術道具を封印しようか、と考えつつ千凪・志命(灰に帰す紅焔・d09306)はそう語る。普段の姿と殲術道具を装備した姿に、かなりギャップがあるという人もいるはずだ。
    「ま、美術室を活用するとしても、まずは武蔵坂学園に帰らないとな」
    「そうですね。すっかり日も暮れて夜になってしまいましたし……」
     何度もビルの下から上まで行き来している間に、辺りはすっかり暗くなってしまった。じゃあ、と周囲の灼滅者に手を貸して欲しいと頼んだのは羽場・武之介(滲んだ青・d03582)だ。
    「作戦の間、マネーギャザを使っていたのですが、一人では持ち運べそうにない量になってしまって……」
     マネーギャザ。半径300m以内の『無くしても困らない程度のお金』や『落ちているお金』を手の中に集めてしまうサイキックだ。つまり斬新コーポレーション本社ビル内にあった現金は、今ほぼすべてがここに集まっていることになる。
    「組織としての斬新コーポレーションを壊滅させるには、資金を奪っておくのは重要だと思うんですよ」
     なるほど、確かに武之介の言う通り。これには矢薙・一真(高校生神薙使い・d04825)や栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)など、怪力無双を準備していた灼滅者が協力する。
     学園に一報を入れたところ、武内・邦明先生が金庫を開けてくれることになった。学園の資金源の1つとして、有難く活用させて貰おう。
    「……まあ、こんなところか」
     瀬凪・久遠(高校生サウンドソルジャー・d23101)は、社長とやらが戻ってきた時の為、本社ビル入り口に大きく落書きを書き込む。
    『武蔵坂学園、参上。ワークライフバランスを大切に』
    「仕事ばかりでは……休憩も大事だからな」
     久遠の書いた文字を見て、思わず吹き出す灼滅者達。
     たとえば灼滅者としての戦いと、学園生活を満喫する日々の生活を両立している、武蔵坂学園なんてちょうどいいのかもしれない。
    「さて、帰りましょうか」
    「帰ったら宿題しなくちゃ」
    「あっ。……明日ノート見せて!」
     和気藹々と語り合いながら、斬新コーポレーション本社ビルを去っていく灼滅者達。もう誰も働いている者は一人もいない、真っ暗になったビルだけが、ひっそりと静かに残された。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月25日
    難度:簡単
    参加:2884人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 23/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 43
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