ナースのいけない接待

    作者:邦見健吾

    「いかがですか~?」
    「おおぉ……効く……」
     ナース服の女が畳に寝そべる男の腰を踏むと、男は惚けた顔をして呻いた。女は悪魔の羽と角を生やし、男の額には蝋燭の明かりを反射する黒曜の角がある。
    「こちらはどうですか?」
    「あ、ああ……力がみなぎってくる……」
     女も男の隣で横になると、腕を男の背中に回しながら、首筋に舌を這わせる。
     知っている者がいれば彼女のことをこう呼ぶだろう……いけないナース、と。

    「軍艦島から姿を消したHKT六六六に新たな動きがありました。皆さんは現地に向かい、その陰謀を阻止してください」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が教室に集まった灼滅者に対し、説明を始める。
    「HKTはその中でも強力なダークネス、ゴッドセブンを地方に送り、勢力を拡大しようとしています。愛媛の道後温泉にはゴッドセブンのナンバー5、もっともいけないナースが送り込まれたようです」
     DOG六六六を立ち上げたもっともいけないナースは、配下のいけないナースたちに近辺のダークネスを奉仕させ、友好関係を築こうとしているようだ。しかもいけないナースの奉仕を受けるとダークネスはパワーアップしてしまうらしい。
    「いけないナースおよび接待を受けるダークネスは道後温泉街近くの、廃業した旅館に滞在していますので、そこを襲撃してください。なお、今回接待を受けているのは羅刹のようですね」
     ただし、いけないナースは『お客様に安全にお帰り頂く事を再優先』にするため、自分が足止めに回り、客となる羅刹を逃がそうとする。いけないナースと羅刹の2体を同時に相手にするのは厳しいので、羅刹は素直に見逃した方がいいかもしれない。
     また、いけないナースはサウンドソルジャーと殺人注射器のサイキックを、羅刹は神薙使いのサイキックを使って戦う。当然、灼滅者のものより格段に強力なので注意が必要だ。
    「両方の撃破は困難ですので、いけないナースか羅刹か、どちらかを灼滅すれば目標を達成できたものとします。……それでは油断なきよう、よろしくお願いします」
     そう言って蕗子は湯呑の茶を飲み、灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)
    中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)
    響塚・落葉(祭囃子・d26561)
    寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)
    杙印・標(丑の刻の串刺し女・d33273)
    黎・葉琳(ヒロイックエピローグ・d33291)

    ■リプレイ

    ●ナースのいけないお仕事
     灼滅者たちはいけないナースの企みを破るため、廃業した旅館に忍び込む。
    (「温泉は依頼だとよく来るけど、フツーの旅行ではなかなか来れないなあ。……それなのにダークネスがこんなんであんなんとか……なにやってんの……!?」)
     自分は戦いに来ているのにダークネスはのん気にお楽しみの最中で、ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)くん涙目。ダークネスには学校もテストもないからフリーダムなのだ。
     暗い旅館の中を進み、やがてエクスブレインの指定した部屋の前にやってきた。息を潜めて様子を窺うと、中から何者かの気配を感じる。特に気になるのは女性の艶やかな声だ。
    「そこまでじゃ! いけないなーすと羅刹よ!」
    「きゃあ!」
     響塚・落葉(祭囃子・d26561)が一気にふすまを開けると、そこにはいけないナースと見るからにいかつい羅刹が同じ布団に横たわっていた。両者とも服をはだけており、これから情事に及ぶところだったのだろう。
    (「男女の仲に踏み入るのは野暮じゃとは思うが……」)
     とはいえ、ダークネスの強化を見過ごすことはできない。いけないナースだけでもここで仕留めておきたいものだ。
    「御用改めであるっ。平和は乱すが正義は守るものっ! 中島九十三式・銀都参上! その接待、ちょいと待ってもらおうかっ」
     無駄に熱い名乗りを上げ、中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)が登場。ビシッとヒーローっぽいポーズを決める。
    「お楽しみのところ悪いけど、本日の営業はここまで! お客様はお帰りくださーい!」
    「何じゃ、ワシに喧嘩売ってんのか?」
     巳越・愛華(ピンクブーケ・d15290)の言葉に、ナースの接待を楽しもうとしていた羅刹はご立腹の様子。楽しみを寸前で邪魔されたとあっては当然の反応だろう。
    「そこまでだ! DOG六六六配下・いけないにゃ!?」
    「もっともいけないナースって、偉そうにゴッドセブンとか言ってるけど、やってる事ってラブリンスターの二番煎じよね? さあ勝負なさい、いけないナース! DOG六六六の野望を挫いてあげるわ!」
     ポンパドールはセリフを途中で噛んでしまったが、城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)が言葉を続けてフォロー。いけないナースを名指しすることで宣戦布告する。
    「ふふふ、それが淫魔というものですわ」
     しかしいけないナースは不敵に笑い、挑発を受け流す。
    「お前ら覚悟はできてんじゃろなぁ?」
     そして羅刹はその巨体を起こし、怒りの形相で拳を握った。

    ●羅刹退散
    「いけません、お客様」
    「ああ?」
     だが、いけないナースが羅刹の腕に抱きついて羅刹を制止する。
    「こやつらは貧弱な見た目をしていますが、今までに数々のダークネスを葬ってきた凶悪な連中です。ここはわたくしに任せてお逃げください」
    「じゃが……」
     羅刹とナースがやり取りしている間に千波耶がサウンドシャッターを使用、周囲に漏れる音を遮断する。
    (「羅刹も串刺しにしてやりたい気持ちはあるけど……私は私の役割を果たさないとね」)
    「夜に釘を打つ音が聞こえてきた時、外を見てはいけない……」
     新たに武蔵坂に加わった仲間、七不思議使い。その一人である杙印・標(丑の刻の串刺し女・d33273)は七不思議を語り、雑霊を利用して一般人を遠ざける。
    「さあさ、不思議な話をしてあげるわ。畏れるべき、偉大な力の話をね」
     念には念を押し、黎・葉琳(ヒロイックエピローグ・d33291)も自身の七不思議をその口から紡ぐ。
    (「悔しいけど、今の私たちじゃ無理できない、羅刹は見逃すわ。その代わり、ナースは逃さず倒すわよ!」)
    「お客様を傷つけたとあってはわたくしの面目が立ちません。ここはどうか……」
    「……わかった。じゃあ、達者でな」
    「ありがとうございます」
     羅刹が渋々拳を下ろすと、ナースが深々と頭を下げた。
    「今日は姉ちゃんに免じて見逃したるがな、次会った時は覚悟せいや!」
     そして羅刹は灼滅者たちを一睨みし、重い足音を立てて去って行った。その背中を見送り、ナースは注射器を構えて攻撃態勢に移る。
    「大事な接待中に悪ィな」
    「そう思うなら言わないでください」
     羅刹がいなくなったことを確認し、寸多・豆虎(マメマメタイガー・d31639)がナースに接近、エアシューズの加速が旋風を生み、回し蹴りを見舞う。相棒のライドキャリバー、牛タンはスロットルを全開にして突撃した。
    「私が従える都市伝説のひとつ――万夫不当の英雄を教えてあげる」
     葉琳は快活な口調でそう言うと、執念にまつわる怪談を語る。すると無数の剣がどこからともなく現れ、ナースを次々と斬りつける。
    「ちょいと照準が甘かったかの……?」
     落葉は体に巻きついたダイダロスベルトを矢に変えて射出。惜しくもナースをかすめるが、ダイダロスベルトは敵の動きを学習し、次射の精度を高める。
    「お仕事に命賭けてるんだ。もっと自分を大事にすればいいのにな」
    「その言葉、そっくりあなたにお返しします」
     愛華は拳を鬼のそれに変え、力任せに叩きつけた。ナースはお返しにと、注射器を突き立てて反撃する。
    「俺の正義が真紅に燃えるっ。不毛な戦いを終わらせろと無駄に叫ぶっ!」
     暑苦しいセリフを叫びながら、銀都は長大な刃に炎を走らせる。さらに力強く振り下ろし、ナースを切り裂いた。

    ●いけないナースの残業
    「ここはお帰り願います!」
    「いらっしゃいませー!」
     巨大な注射器の先端がキラリと光り、千波耶に襲いかかる。だがその攻撃は、ポンパドールが威勢の良い掛け声とともに受け止めた。
    「ありがとう、ポンパくん」
     千波耶は礼を言いながら、足元の影を伸ばす。影は植物の蔓のように絡み付き、ナースの四肢を拘束した。
    「いいっていいって!」
     ポンパドールは炎の血を流しつつも笑顔で返事し、畳を蹴って跳び蹴りを見舞う。シューズがナースを打つ瞬間、星の瞬きが迸った。
    「私の出番かしら」
     傷ついたポンパドール目掛け、標が手挟んだ符を投げる。符はポンパドールの背に貼り付くと、傷を癒すとともに状態異常に対する防護を付与する。
    「なァ、牛タンもナースみてえな感じの相棒の方が良い訳?」
     豆虎は牛タンに跨り、縛霊手を叩きつけながら話しかける。しかし当然ながら、牛タンは言葉を返さない。
    「調子に乗らないで下さい!」
     ナースは豆虎をきっと睨みつけ、至近距離から巨大な注射器を突き立てる。だが針が届く寸前、牛タンは豆虎を振り落して代わりに攻撃を受け止めた。これが牛タンの返答……なのかもしれない。
     羅刹を逃がして1人残されたナースに、灼滅者たちは容赦なく攻撃を浴びせ続ける。羅刹がいればともかく、灼滅者たちもナース単体ならある程度余裕をもって相手をすることができていた。
    「万夫不当を謳われた力、お見せするわ!」
     葉琳は刀を上段に構えて飛び込み、間合いに入ると踏み込みとともに振り下ろす。重く真っ直ぐな一閃は、受け止めた注射器にひびを入れた。
    「結構熱いでしょ?」
     エアシューズを駆動させて回り込み、愛華が炎を纏う蹴りを繰り出す。銀都はダイダロスベルトを射出、鋭い切っ先が突き刺さった。
    「これはどう?」
     千波耶は刃の車輪を構え、自身の体ごと回転させて切り裂く。回復に余裕があると判断した標はバベルブレイカーに点火し、ロケットで接近。釘でナースを貫く。
    「後で温泉入るぞー!」
    「させません」
     ポンパドールが腕を狼に変え、銀に光る爪を突き立てると、ナースが注射器を盾に受け止める。さらに牛タンが弾丸の雨を浴びせた。
    「これで……!」
    「危ないのう……では、お返しじゃ!」
     ナースは歌声を響かせて落葉の精神を揺さぶるが、落葉は持ちこたえて反撃。手に持つ標識が赤へとスタイルチェンジし、えろす禁止と書かれた標識が弧を描いてナースを打った。

    ●終業のお知らせ
    「他にも接待してるナース居るンだろ? どの辺に居るのか教えろよ」
    「くっ……」
     豆虎がジャンプキックを見舞うと、瞬間、ずんだのような緑色の光が広がった。数の優位を生かしていけないナースを追い込む灼滅者たち。一方、ナースは唇を噛んで苦渋の表情を浮かべていた。
    「回復する暇は与えないっ、一気に畳みかけるわ!」
     葉琳はローラーを高速回転させ、シューズに炎を纏わせて蹴撃を繰り出す。シューズから炎が移り、ナースを燃やした。
    「砕け散るが良い!」
    「これでトドメ! ご奉仕お疲れさまでしたーっ!」
     葉琳の言葉通り、灼滅者たちが次々と続く。落葉はロッドを打ちつけ、愛華は赤い標識で叩く。さらに標はもう一度、釘を打ち込む。
    「ポンパくん!」
    「おう!」
     千波耶は梔子をあしらった杖でナースを打ち、間髪入れず、ポンパドールが炎の蹴りで一閃する。
    「いい加減、楽にさせてやるよ。 必殺! この店はここで店じまいだあっ!」
    「きゃああああっ!!」
     最後に銀都がもう一度火炎の大剣を振り下ろし、引導を渡した。

     攻防の末、とうとういけないナースの撃破に成功した。
    (「……安らかに眠るが良いよ」)
     ナースがいた場所を見やり、落葉が冥福を静かに祈る。
    「しかし……いや、今回は仕方あるまい」
     羅刹を見逃したおかげで、いけないナースはあまり危なげなく倒すことができた。だが羅刹は野放しになったまま。同時に相手をするのは厳しかったとはいえ、悔しい気持ちもあった。
    「うん、やっぱ何も出てこないか」
     銀都は旅館の中を捜索して羅刹の手がかりを探してみたが、足取りを追えそうなものは出てこなかった。
    「あー……温泉入りたくなって来た」
     と言いつつ、豆虎は先ほど見た羅刹の姿を自分の記憶維に焼き付ける。また出会う機会があれば、その時は撃破したいところである。
    「なら行こうぜー!」
     豆虎の言葉に反応し、ポンパドールが手を上げる。その瞳は、やっと温泉にありつけると揚々と輝く。
    「まあ、いいんじゃないかしら。タオルとかなら借りられるでしょうし」
    「はーい、わたしも賛成!」
     すると標や愛華も賛同し、近くの浴場に行く流れに。
    「それじゃ早く行こっか。遅くならないうちに」
     千波耶も頷き、灼滅者たちは温泉を目指して出発した。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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