しあわせ切符と幸福の消印

    作者:那珂川未来

    「レキちゃんは、幸福の消印って知ってるかな?」
    「わ、何やら縁起が良さそうなものですね。それって今話題の七不思議使いさんから聞いたお話ですか?」
    「違うよ。幸福っていうまちの郵便局から出した手紙のこと。当然消印に幸福の字が付くわけだけど……」
     そう言いながら、仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)は幸福の文字が押された葉書をレキ・アヌン(冥府の髭・dn0073)へと差し出して。
    「はっ。これはもしや、あの駅のあるまちでは……」
     何やら思い出したように顔をあげたレキ。沙汰は頷いて。
    「そう。愛の国へと続く、幸福の名を持つ駅のあるまちの消印だよ」

     彼等が言っている駅。
     それは旧国鉄時代の、幸福の名を持つ駅のある、観光スポットの事。
     その名残といえば、小さな駅舎と、二両の列車と除雪車、それを展示しているプラットホームとレールが少し残っているだけ。
     けれど、その幸福から線路で愛の国へと繋がっている……そんな土地の名前の縁起の良さもあって、未だに観光客も訪れる場所。今は恋人の聖地としても認定されていているそう。
    「浪漫とか、幸福とか、見えない時の線路を走りながら、たくさんの人に届けている場所って、素敵じゃない?」
     だから行ってみない?
     沙汰のお誘いに、レキはにぱっと笑った。

     そのまちはまだ、雪原が広がっている。
     小さな駅舎には、訪れた人たちの名刺やプリクラが、記念に張り付けている。折角なので、張り付けて行くのもいいかもしれない。
     そして、その駅舎の前に作られた幸福の鐘の音は綺麗。ウェディングセレモニーの為に設えられたものであるが、今では幸福が舞い込むとされているため、鳴らして幸せのおすそ分けを頂いても。夜に訪れれば、綺麗にライトアップされたオレンジの車両と駅舎を見ながら鳴らすのも、ロマンチック。
     車両はプラットホームから乗りこむことができるので、対面式の座席に座って、雪原を臨みながら、昭和の雰囲気を楽しんでも。
     あと、近くに売店があって、そこでは幸福の切符が売られているそう。お土産にもいいかもしれない。夜は開いていないので、注意。
     そして沙汰の言っていた、幸福の消印。
     実は、駅ばっかりが注目されていて、あまり知られていないのだが……。
    「駅から歩いてすぐに、郵便局があってね。そこから手紙を出せば、幸福の消印がつくわけ」
     自分に。
     友達に。
     恋人に。 
     幸福の消印が付いた葉書やお手紙を送るのも、記念になっていいかもしれない。

     春休みまで、あと少し。
     新しい生活が始まる前に、皆さん、幸福のおすそ分けを頂きにいきませんか?


    ■リプレイ

    ●青空のした
     卒業旅行もいつもの三人で。レトロな雰囲気の運転台に乗務員室、テンション上がって余すことなくシャッター切っていた允が、いいこと思い付いたって顔しながら、
    「ちょい席座って旅してる風に撮ろーぜ!」
     二人掛けの席に、ぎゅうっと詰めて座って。間に挟まれ、夜音は気恥ずかしくも楽しそうな笑顔を向け。
    「えへへ……大切なお友達さんとご一緒、すっごく嬉しいの」
     素敵なお写真さんですと喜ぶ夜音。
    「別れの春とは言うが、続く物もあるということで」
     円は用意していた手紙をポストへと。
    「幸福が貴方の元へ届きますよって感じかね? ま、こーゆー迷信は好きだぜ」
     かたりと投函された音を聞きながら。円は読んだ人に、幸福が訪れますようにと。それを見れたなら、自分もきっと幸福になれるだろうから。
     指から飛び立つ桜園結義は、円環描いて夢と輝き、翼となってまた輪に繋がって――。
    「マジ俺らの幸福今後とも続きますよーに!」
    「来年度も、その次も。きっとずっと、幸福でありますように」

     璃依が小説並みに分厚い恋文を投函したあと、翔琉と一緒に駅舎へ。
    「カケル、カケル、こうふくの鐘だー」
     翔琉は、設えられた幸福の鐘にはしゃぐ璃依を、微笑ましげに見つめ、
    「折角だから一緒に鳴らすか」
     鐘から下がったロープを手繰り寄せ、二人で握って。
    「これからもカケルと一緒にたくさんの幸福を感じられますよーにっ」
     綺麗な音の中、神社よろしく礼を始めた璃依。翔琉は少し頬が赤くなるのを自覚しつつ。放っておけばすぐにどこか行ってしまいそうな璃依の手を握って、
    (「……願わくば、璃依の願いが叶いますように」)
     隣に居れる幸せに感謝し、そして彼女の幸せを祈って。

    「レキちゃん、郵便局ってあっち?」
     手紙出すのと問うレキに、陽桜はにぱっ。少し厚みのある封筒取り出しながら、幸福駅の力を借りてその人の気持ち届けたいと。
     道すがら見つけた、覚えのある背――煌介は思い出耽るように空仰ぎ、懐かしみながら。
    「で、『年上には敬語位使え』って怒られて……」
     煌介はさくらえへ、自身の過去を語る。
    「翌朝『おはよ…、っす』って言ったら爆笑された……挙句『その口調で無表情な不愛想をカバーだ』って」
     さくらえは噴き出すと、肩震わせながら、
    「……そのひと、多分口調で笑ったんじゃないと思……」
     感情が見えず、シリアスなオーラを醸し出しながらの小ボケ全開話に、ツッコミを入れたい衝動に駆られながら。
    「……どんなに寒くても春は必ずやってくるんだよ」
     それが魅力だと感想述べたあと、桜の様に穏やかに微笑むさくらえ。
     煌介は瞳を閉じ。
    「うん、もう其処……すね」
     すぐそこまで来ている花の香りを思い出せば。
    「めーっけ!」
     ちゃんと会えましたと笑う陽桜。ここで会えたら幸福、皆幸せになれるよと。

     名の由来に思い馳せながら、クロノとアリスはノスタルジックな世界を共に歩く。
    「まぁ兎も角共同作業と洒落込みますか」
     これからの新生活、幸多いものになりますようにと鳴らす鐘。
    「この幸福の出発点で、私、アリス・バークリーは、あなた、クロノ・ランフォードに結婚を申し込みます」
    「……え? 新生活ってそっち!?」
     厳かに宣誓するアリス。いやまだ早いのではというかそれは俺から等々突然の誓いに、ちょっぴりクロノは混乱したけれど。
    「悪いけど、もう少し待ってくれ。三か月だけ」
     死と隣り合わせに生きる灼滅者だからこそ。後悔のないように――この幸福の出発点で誓いのキスを。

     青空と雪原の間、アルコと紫鳥は駅舎からの景色を臨みながら、一緒に郵便局へ。
     互いに送り合う手紙重ね。放てば未来へと旅立つその瞬間、アルコはふと思う。
    「幸福の消印がちょっと未来の相手に、相手の幸福を祈った手紙を届けてくれるんだ……」
     そんなロマンチックで素敵な祈りに、アルコは手紙ならではの楽しみに心躍り、紫鳥はとっても嬉しくて楽しくて――気が付けば自然と微笑み浮かべていて。
    「アルコ君が送ってくれるそのお手紙を見る度にこの気持が戻ってくるなら、気持ちもタイムカプセル、ですねっ!」
     形ある手紙だからこそ残る幸福と、二人で響かせる思い出という名の幸福と。

     雪解けの世界に素朴な色を綻ばせるふきのとう。
     絵ハガキを購入し、七はあて先を記入して。メッセージは無くても、これに消印がつけば、もう十分すぎるくらい詰まっているから。
     お願い一つ心に呟いたあと、見つけた姿へ手を振って。
    「さて……あ、仙景ー! 切符買った?」
     二枚の切符を見せる沙汰の隣に、七は駆けて、
    「あたしも欲しいわ。ところでそれ、誰にあげるのかしらー?」
     双眼を細める七は、ちょっとからかうように。ナイショと、沙汰は笑って。
    「ねぇ、遊んで頂戴な。適当に時間が許すまで!」
    「喜んで」

     たぶんいつかどこかで似たような景色の中に居た事もあったかもしれない――途流はノスタルジアの中、春先の畑の匂いに抱かれながら時間潰し。
     記念に買った幸せの切符をミュージックプレイヤーのケースに仕舞い込みながら、
    「こーいうのは、気持ちがだいじなんだぜ」
     新しい相棒へ、緩く笑みを浮かべながら呟いて。

     文子はお手紙持ったまま、ポストとしばし睨めっこ。
     様々な事を思案していたけれど。次第に浮かぶのは、いつも心を灯してくれる笑顔。
     本当はほんの少しだけ、自信はなくて。
     だから。せめて、今の想いを伝えたくて。
     ――わたし、あなたに幸せを返せているかしら?
     想いよ届け、この消印と一緒に。

     実は、神父様の名前で教会の子達へ葉書と、入学準備の品を送るため。
     ――教会のチビ達を大事にしろよ、学校でも友達たくさん作らないと幸せわけてやんねーぞ。
     止まったペン。
    「意地悪な事も書いておいた方がらしいかな……?」
     神父様なら何と言っただろう。思考錯誤の手紙は、幸福の消印と一緒に。

     幸福なんて自分で掴むもんだろうが――そう普段なら言えるけれど。
     考えることが多い近頃に、つい足を運んだこの場所で。嵐は陽の光に幸福行きの切符を透かし、徒に。
     そも、灼滅者の幸せは何かと言われれば――わかんない。
     けど――その時その時に出した答えの終点が、幸せであればいいと。

     レトロで風情のある景色に篠介は浸ったあと、幸福のポストへと一人歩く。
     洒落たことは書いてはいないけれど、一通は大事な人に。
     もう一通は、行先の分らぬ人の家に宛てて。
     封をする前に、幸せを祈り、幸福の切符を一緒に入れて。
     幸せのお裾分け、皆に届くといいな――願う篠介の指先から、手紙は旅立ってゆく。

     レトロな車両の中で、キィンは葉書へとペンを走らせ。その間ルティカは列車の中を見学中。幸福の消印が届く、その楽しみは後日に。
    「硬いのう。釘でも打ってあるのかの」
     窓を開けようとガチャガチャしているルティカ。
    「好奇心旺盛な所は好ましいが、元気が有り余っているというか……いや何でもない」
    「実際に触った方が記憶に残るじゃろ」
     一理あるなと頷いて、飲み込んだ言葉の続きを求める視線誤魔化すように、キィンはルティカの頭へ手をポスンと乗せて。
    「よし。書き終わったし、雪野原を歩きに行くか」
    「この季節の雪は手強いぞよ」
     北欧出の我に付いてこれるかの、ルティカは不敵に笑って。

    『拝啓、丹生蓮二様
     君と居れて幸せです』
     そう言の葉綴ったお手紙に、幸福の消印を付けたい鵺白は。
    「あ、えーっと幸福の切符が欲しいんだけど、手紙も出したくて……」
     宛先悟られないようおつかいをお願い。そわそわした様子に蓮二は疑問抱きつつも、鵺白が誰かの幸せを願っているという事が嬉しいから、待ち合せを約束。
     切符を2人分買った蓮二はプリクラ取り出して、鵺白ちょお可愛いだろと言わんばかりに、駅舎の一番目立つ所へ。
     戻れば目がいったプリクラ、鵺白は思わずニヤニヤ。
    「また一つ二人の足跡が増えたね」
     新たな思い出一つ。蓮二も切符を渡しながら顔を綻ばせた。

     自分宛に葉書一緒に出しません想希。俺もそう考えとったと悟は笑って。
     代表作になる菓子を――このまちの消印の様に幸福を届けられる、そんな目標と君との約束を描く想希の手紙、悟は見つめ、一つ頷いて。
    「俺は、『元気な想希の子を生むでー!』」
    「ぶっ」
     真っ赤になっている想希に、なんてな♪ と悟は意地悪そうにニマリとしながら、本命の葉書に毛筆で『造』と一文字。
    「ふふ……やっぱり産む年だ」
    「えぇな双子やな!」
     お互いを引き立てあう悟の飲み物と想希のお菓子。それこそ2人の子供のような。
     重ねた葉書、一緒に。


     雷歌と華月は幸せのおすそ分けを手紙に添えて、幸福のポストへと。

    『お前に会って、こうして2人で出かけるようになって結構立つな
     俺は今年で高校を卒業するけど、心はお前の傍にいるから
     だから、1年。1年だけ、待っててな
     もし寂しくなったら、いつでも呼べよ
     全速力で駆けていくから』

    『出会いから時間重ねて、一緒に築いた想い出が沢山出来たの。
     その時間が、先行く貴方を追う不安から守ってくれるから。
     だから、きっと大丈夫。
     傍にある心を、信じて待ってるね。
     一年後、再び添うて歩ける様に』

     大切な人が笑顔でいてほしい気持は、共に同じ。この切符で、一緒に幸福を探しに行こう――。

    「いやはや、幸福という名の駅ですか……」
     流希は年代物の駅舎の敷地を散策したあと、鐘のもとへ。
    「部活の仲間の幸福を祈って鳴らしましょうかねぇ……。彼らに不幸は似合いませんし、何より、私が嫌ですし、見たくは無いので……」
     祈りの音色は、凛とした空気に溶けて。

     白い大地に映えるオレンジの列車を向こうに見ながら。雪は幸福のポストに、手紙を一つ。
    「雪ちゃん」
     かたりと音に重なる声に振り返れば、そこに沙汰がいて。雪はちょっぴりはにかんだように笑いながら筆談で。
    『仙景さん、ただいま』
     おかえりと笑う沙汰へ、ようやく伝えられた言葉。今放たれた言の葉の行く先、それは届くまでの秘密。

    『サミィ……デス。幸福ダローガ愛がアローガ北の大地は人に厳しいのデス』
     音声ソフトから今の心境を再生しつつ、バニラはレキにくっつきながら駅舎へと。前もって二人で撮ったプリクラ張りに。
    「バニラちゃん、ほかほか飲料よかったらどうぞっ」
     そんな様子にレキは笑いながら。体の中から温まったらと、バニラの好きな飲み物購入。
     旅立つ前に、小さなポストへお手紙出し合って。
    『自分の為より誰かの為に出したお手紙の方が、きっと幸福はあるのデス』
     いつ届くかな、そんな楽しみと一緒に帰路へ。

     芥汰と一緒に幸福の駅に来た喜びに、テンション高めの夜深。まずは幸福の切符を買って、列車へGO!
    「愛の国へ、逃避行気分……なンて。えへへ♪」
     レトロな車内、夜深は芥汰の隣へ座って、腕をぎゅぅと。
     腕組み温もりを分けながら、芥汰はふわりと緩む表情。
    「あ。あの、ネ? 我、あくたんに、御手紙。書イて来タ、のヨ!」
     赤いハートの封緘シール貼り付けた封筒を手にふんわり笑顔。
    「さすがの夜深ちゃん。――折角だし俺も何か書いておこうかな」
     こてりと預けた小さな頭を、芥汰は撫でながら。
     浪漫の中へと走る幻想に揺れて。
     走るペンも、想いのままに。中身は受け取るまでのお楽しみ。

     レトロな時の落し物は、親の世代のものなのに。懐かしい感じがするのはなんでだろうなと、葉月はノスタルジーの中をくぐりながら振り返り。
    「なあ、ポラロイドカメラを使って記念撮影しようぜ!」
     みんなすぐにノリノリで、肩に腕回し合い、ふざけた感じでまずは一枚。日方が提案するポーズで次々と。四人一緒は、沙汰がカメラマン。
    「そうそう、カラーペンあるぜ」
     寄せ書きしようぜと、日方はペンを取り出して。どこかレトロなポラロイド写真を見ながら、錠は金色ペンを走らせる。
    「イイカンジだ」
     感謝や友を綴る皆の言葉に、自然と綻ぶ錠の口元。けれど近づく切なさに目頭熱くなるけど。
     暦生もなんだかんだで嬉しそうに、ちょっと照れながら、写真の出来を確かめ、
    「さて、どこに貼るよ」
     どうせならと、暦生は線路の続く方角に合わせ、皆で写真にピンを押し込み。
    「今みたいに集まる事も難しくなるんだろうけど……灼滅者なんてやってるんだから、どこかでまた道は交わるさ」
     行き先はどこだかなんて、わかんねぇけどな。そう言って笑う姿は、いつも通りの胡散臭げで。
    「写真やペンの文字は色褪せても、今のこの思い出はずっと鮮やかなままだよな」
    「セピア色になっても、きっとこの瞬間は忘れない」
     感慨深げに呟く日方と葉月、錠も逢えてよかったと破顔して。

    「雪原にポツンと立つ小さな駅っていうのも……映えるな」
     駅舎の傍にあるベンチから雪原を臨み。来れてよかったと、ココアを差しだすユーヴェンス。もちろん赤音と一緒であることも含めて。
     赤音も彼からの初めてのお誘いに、終始心弾んでいて。一つしかないコップで分け合うココア。関節キッスに浮かれちゃう。
    「なあユーヴェンス、折角だしこれ張っていこうぜ♪」
     先日一緒に撮ったプリクラを片手に、微笑む赤音。
    「本当に貼るのか……?」
     気恥ずかしいが、はしゃぐ姿を見ていると何も言えず。好きにしなと綻ばせる頬。
     最後に鐘鳴らし――冷えた指先も、重なる君の手に守られて。

     投函して、民子はくるりと供助へ振り返り、無事に届くといいねって笑って。
     供助が直前に書いたメッセージは、今の気持をそのままに。何を書いたのか互いに聞かないのは、楽しみがあることそのものが幸福でもあるから。
     列車の座席にも腰掛けて。
    「この座席、旅! って感じがして良いねー」
     風景も好きだとはしゃぐ民子が微笑ましくて。お弁当を広げたくなるよなと同意しながら供助は、
    「さわたみさんも写しちまっていい?」
    「え、あたし撮んの? イエー。じゃああたしも幸福なうしよ」
    「ははっ、幸福なうって成る程な」
     この旅から帰る頃、新しい春が始まる。

    ●夜の駅舎にて
     ライトアップに浮かぶ幸福の鐘を、史明が鳴らそうとした時、カメラ構える朔之助が目に入ったものだから。
    「一応聞くけど何してるの?」
    「どうぞお構いな……いてっ!」
     言い切る間もなく飛んできたチョップ、朔之助の額直撃。お返しとばかりに携帯で激写され。
     朔之助は慌てて詰め寄って。史明は文句ある異論は云々言いながらも、消しての言葉には「分かった分かった」とパソコンに写真データを転送してから消去。無論異論は以下略。
     一方的は嫌だから、朔之助は史明の腕をグイッと引き寄せ、鐘をバックにパシャリ。
     二人で撮った写真が出来た嬉しさに、二人目が合えば笑って。

     光弾く鐘の前、智慧と山女は、互い向き合って。まるで新たな人生の門出に向けての、宣誓の様に厳かに。
    「色々と負担を掛けてばかりですが、これからも末永く宜しくお願いしますよ。山女」
     少し照れながらも、智慧はしっかりと山女を見つめ、微笑みと共に誓いの言葉をしめれば。山女も微笑みを返しながら、
    「私は、私なりの方法で、智慧さんを幸せにする」
     そっとロープに手を添えれば、智慧がその手を包むようにしながら一緒に。
     誓いの音色は天へと。

     懐古の世界を治胡と共に歩きながら、白にたなびく赤は、良く映えるなと詞貴は感じ。
    「――鐘、か」
     幸福の鐘が目に入り、クリスマスに教会で詞貴と話したのを思い出して。
    「鳴らしてみるか」
     誘いの言葉とは裏腹、意識していると自覚するには十分な、外れゆく視線。詞貴は少しだけ微笑みながら、
    「何を照れている。別に恋人未満という訳でもないだろう?」
     当り前の様に重なった手。抱く特別な気持は隠したまま、今回は大人しく握られながら、ただ僅かに頷いて。
     柔らかな音が響く。
     ノスタルジアから送る、言の葉綴る行き先は縁の人達と。
     ――Io proteggero sperando tuo amore,
     詞貴の手から飛び立つそれを読み解く日は、いつになるのか。

     懐古抱く雪原臨めば。不意に繋がった優奈の手。
    「だって北海道の夜はいっそう寒いんだもん!」
     仕方ないと連呼している隣の照れ隠しは、くすりと笑った音で拾って。
    「ええ、そうね。寒いんだから仕方ないわ」
     暁は悪戯な音で同意、なんて。
     昼間に出し合った幸福の消印。直筆の手紙を送る事も中々ないご時世。想いを籠めるのも、それを受け取るのもいいものだなと。
    「手書きの良さも改めて知った気がするわ」
    「うん。帰る頃には届いているかな……」
     耳に触れる幸福の鐘の音、暁は忘れないよう染みこませながら。
     二人の幸福が末永く続きますように――優奈はそんな願いを星夜へ響かせた。

     夜の陰影に際立つ駅舎。美夜の冷たい指先を包むように優志が手をぎゅっと握れば。寒さを気遣う様に差し出される、美夜の左手。
     その手に向けて、優志は幸福の切符を二枚差し出して。
    「一枚、お前の分だから。新年度も、良い事がありますように……って?」
     美夜はお礼をしながら、大切そうに受け取って。
    「優志が風邪引いてたら、幸せとやらも来てくれないんじゃないの?」
     自分の幸せも大事にしてねと呟きながら、優志の手を温めるように両手で撫でる美夜。
    「ちゃんと大切にしてる」
     優志は、そんな美夜へ微笑み返しながら。だって幸せは美夜、君そのものだから――。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月25日
    難度:簡単
    参加:50人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 6
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