悲鳴を聞かせて

    作者:藤野キワミ

    ●少女は群衆の中へと
     眼前に広がるのは、おぞましいほどに目映い笑顔の人間どもだ。
     彼は憎々しげにムシケラどもを見下して、「ああ、本当に気持ち悪い」と隠しもしない本音を吐き出した。
    「スマイルイーターさま、私が殺してきます!」
     ぴしっと敬礼してみせたのは、小さな少女だ。大きな栗色の双眸には、崇拝してやまないスマイルイーターが、無表情そのままに映っている。
    「そうか、それじゃあ、あまり期待しないで見ていようか」
    「アメの使い方がシビアです! でも私、そんな貴方を愛しています!」
     叫んだ少女は群衆の中へと悠然と歩いていく。
    (「私の一撃でより多くの人間が苦しむ顔になる瞬間……」)
     タイミングを計る。一歩、一歩、さらに一歩――そして笑う。
    「今!」
     瞬間、旋風が起こり、悲鳴と混乱と鮮血と混沌と喚声と哄笑を巻き上げた。
     その様子をスマイルイーターは眇めたまま眺めていた。

    ●灼滅を頼んだぞ
     エクスブレインの少年は集まった灼滅者たちに、先の軍艦島の戦いの労をねぎらってから、さっさと本題を切り出した。
     HKT六六六に新たな動きが見られたという。彼らは有力なダークネスである『ゴッドセブン』を地方に派遣して勢力の拡大を図っているようだ。
     そのゴッドセブンのナンバー5――スマイルイーターは沖縄観光の定番地である国際通りで勢力拡大を目論んでいる。
    「スマイルイーターは現地のダークネスを支配下において、沖縄の支配を狙っている。と同時に配下のダークネスを使い、楽しそうに笑う一般人の虐殺を行おうとしている。お前たちにはこれを阻止してもらいたい」
     エクスブレインの少年はいつものように淡々と説明を続けていく。
     スマイルイーターの配下ダークネスは番外の六六六人衆――大川・スミレという名一四、五歳の少女だ。
    「スマイルイーターは姑息だ。大川との戦闘が始まればさっさと撤退していく」
    「それを阻止して灼滅するんだな?」
    「いや、言っただろう、奴は姑息だ。今は野放しにするしかない」
     灼滅者の言葉を否定して、少年はスマイルイーターを灼滅できない理由を述べる。
     沖縄の各地に爆弾を仕掛けたこと、己が灼滅されればそれが起爆すること、爆弾がどこに、またどれほどの量が仕掛けられているのか現時点で判明していないこと――沖縄の一般人が丸ごと人質に取られているような状況だ。
    「今はスマイルイーターよりも、大川の灼滅を優先させてほしい」
     彼の言葉に灼滅者たちは相槌を打った。
     その様子にエクスブレインも小さく頷いて、
    「大川は観光客たちでごった返す中でいきなり殺戮を始める。人々の笑顔を消すには至極シンプルで効果的で、だからこそ犠牲者を出さずに対処するのは困難だ。
     国際通りを封鎖なんか出来るわけはないし、そんなことをしようとすればスマイルイーターどもは現れることもない。今ここで目論見を潰しておかないと、やつらは必ず場所や日時を変えて虐殺を実行するだろう。
     しかし八方塞というわけでない。大川が初撃を放つポイントはわかっている」
     少年の言下、机の上に国際通りの地図が広げられた。そして、メインストリートと裏路地が交わる交差点に大きく赤い丸をつける。
    「このポイントで観光客を装っていれば大川が現れる。多くの人が行き交っているが、お前らなら見ればわかるだろう。違和感は確かにある」
     一般人への被害を最小限――もしくは皆無にするためには、このタイミングしかない。
     一般人を退避させながら、大川の気を引く――初撃を受け止める。
    「だが、気をつけておけよ。大川は、一撃で多くの人間を攻撃できるタイミングで初撃を放つ。それが、この交差点だ」
     少年の説明を聞きながら、灼滅者たちは状況をシュミレートしていく。
    「人通りが少なくなると、多いところへ襲撃ポイントを変更するだろう」
    「前もって人払いをすると、失敗するということだな」
     発言した灼滅者に、少年は首肯する。
    「大川はリングスラッシャーのような武器を操り、殺人鬼のサイキックに似た術を使う。小柄な見た目どおりすばしっこいが、冷静に対処すればお前らが勝てない相手ではないだろう」
     スマイルイーターに惚れ込んでいるようで、彼に嫌われるような逃げ帰るということもしない。
    「スマイルイーターのような卑劣なダークネスは許せないと思うが、まずは一般人への被害を防ぐことを最優先で考えてくれ――大川・スミレの灼滅を頼んだぞ」
     少年は灼滅者たちを沖縄へと送り出した。


    参加者
    各務・樹(バーゼリア・d02313)
    若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    禰宜・剣(銀雷閃・d09551)
    フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    揚羽・王子(柑橘類・d20691)
    大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)

    ■リプレイ

    ●最高の恐怖に塗り固めて
     観光客はこれから起こる悲劇なんぞ想像することもなく、平和と安寧を享受してただただ醜く下衆で気持ち悪い笑い顔をして歩いている。
     目障りで耳障りだ。反吐が出る――しかし、鬱陶しく懐いている大川・スミレが、あの笑顔を消してくるという。数いる手駒のひとつだ。期待していないといえば嘘にはなるが、全幅の信頼を寄せているわけでもない。
     使えるものは使えなくなるまで酷使する――ただそれだけのことだ。
     スマイルイーターは、嬉々として人ごみに紛れていく大川の背を、茫漠と眺めていた。
    「多くは期待はしてないよ、お前には。ただその気持ちの悪い顔を、最高の恐怖に塗り固めてくれるだけでいいからね」
     高みの見物を決め込んだスマイルイーターは、果たして舌打ちをしてさっさと身を翻した。
     背後で響くのは、甘美な響きの混乱と混沌の悲鳴――それを搔き消すような忌々しい怒号。
    「本当に、イライラする」
     不快で鬱陶しくて忌わしく不愉快で腸が煮えくりかえる。灼滅者への激しい怒りで、長い吐息をどす黒く染め、赫然として肺腑の奥まで空にした。
    「まあ、せいぜい足止めぐらいには働いてくれよ、大川」

    ●ぞっとするほどの狂気に満ちた
     沖縄の定番観光地である国際通りは、土産物屋や食べ物屋などが軒を連ね、多くの人が行き交い、そしてたくさんの笑顔で溢れている。
     この平和を壊そうとする六六六人衆を許せるはずなどなく、この危機を打開するために集まった八人の灼滅者たちは辺りに目をやる。
     エクスブレインの少年の言った交差点は、確かに人が多い。
     若菱・弾(ガソリンの揺れ方・d02792)は鋭い視線をサングラスで隠して、観光客の中に紛れ込む。
     ここに六六六人衆の大川・スミレが現れるのだ。その最初の一撃をなんとしても受け止めねばならない。目の前で何も知らないで幸せそうに笑う人々を守らなければならない。
     沖縄観光なんて頻繁に経験するものでもなく、そのひとつひとつは大きな思い出になるはずだ。その大切なひとつを壊してなるものか、大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)はちらりと土産物屋の店内を流し見て、きたる防衛戦に備える。
     少しでもエマに照準を合わせてくるように、周りの観光客に被害が及ばないように少し大袈裟に、それでもせっかくの沖縄を楽しんでいた。
    「これだけ人が多いと、被害ゼロ達成は難しいかもしれん……が、やるしかあるまいな」
     ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)は、周囲に違和感を探す。
    (「……人ごみって苦手」)
     エマの存外楽しそうな後ろ姿を見ながら、フィリア・スローター(ゴシックアンドスローター・d10952)はワルゼーの言葉に小さく頷いた。
     スマイルイーターとは一度言葉を交わしたことのある彼女は、観光客を装ってその時を待つ。
     各人は事前に取り決めたように配置につき、人ごみに紛れ精一杯の笑顔を浮かべていれば、弾の目の前を卒業旅行中と思われる若者たちの団体が、楽しそうに笑いながら歩いて行く。
     その団体を追いかけるように、ぞっとするほどの狂気に満ちた笑みを浮かべる少女が一人。
     昏く光る栗色の瞳、弓なりに引き上げられた薄い唇、南国にあってなお白い頬、パーカーにジーンズというラフな出で立ちだが、纏う雰囲気は、尋常でないほどの殺気と狂気を噴き上げている。
    「おい、いたぞ」
    「ああ、そうじゃのぅ」
     揚羽・王子(柑橘類・d20691)は弾の指摘に頷き、そそそっとワルゼーたちの所へ向かい、大川・スミレが現れたことを伝えた。
     その様子は辺りで警戒している仲間たちにも、緊張がぴりっと伝播した。
     決行の瞬間は近い。
     大川が人の波の中でぴたりと立ち止まり、ぐるりと周囲を見回して大きく、醜悪に笑った。
     息を吸い込んだのが、分かった。
    「もし、」
     その刹那、ワルゼーが大川の背後から声をかける。
    「スマイルイーターとかいうチンピラに顎で使われている、お馬鹿さんな少女とはお宅かね」
    「え? なに、あんた、」
    「死にたくなかったらここから離れろ!」
     瞬間、弾の怒号は人々のパニックを誘発した。
     和やかで楽しかった雰囲気は一瞬にして砕け散り、混乱で騒然となる交差点に新たな声が響き渡る。
    「こっちよ! 早く逃げて!」
     プラチナチケットを発動させ、人々に警察官と思い込ませた緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)の声だ。
     そしてフィリアの殺気が噴き上がる。
     喧噪渦巻く交差点で、統率をとるのは至極困難だ。
     一目散に逃げ出す者、悲鳴を上げて右往左往する者、へたりこみ蹲る者――禰宜・剣(銀雷閃・d09551)は、ガタガタ震えるその女性の肩を抱いて避難を促した。
    (「まったく、笑顔を潰すために殺すか……なんとも笑えない話だな」)
     剣は胸中で独りごちて。険しく眉をしかめ状況把握に努める。
    「え、なに? なに、な、なにしてくれてんのよお!」
     轟々とうねりを上げながら、眩く光るリングを出現させた大川は、なんの躊躇いもなくそれを逃げ惑う人々に向かって噴出させる!
    「っぐぅ……!」
     喉の奥で唸り声を上げて、弾がリングを受け止めた。
    「――残念だったな、俺たちの目が光る場所で、そうそう派手に殺しなんてさせるかよ」
    「なんなのよ、あんた! スマイルイーター様が見ててくれるのに! 邪魔しないでよお!」
    「……邪魔するよ」
     フィリアの静かな言葉は喧噪の中にあっても、大川に届いているようだった。
     無邪気といっても過言でないしぐさで頬を膨らませ、むくれてみせる。
     しかし、弾とフィリアは自身のライドキャリバーを呼び出し、大川の攻撃を受け止めるよう、人々に被害がいかないようにと命を下す。エンジン音が低く唸りを上げた。
     混乱は混乱を呼んで、それでも各務・樹(バーゼリア・d02313)は、声を張り上げる。
    「ここから逃げて! 早く!」
    「樹さん!」
     桐香に呼ばれた樹は、彼女の方へ視線を飛ばした――彼女が指し示す方には蹲り動けずにいる少女がいる。
     怪力でもって少女を大川より離れた場所まで抱き上げ避難させる。
    「さぁ、早く離れるのじゃ!」
     王子もまた転んで泣きじゃくる幼児を抱きかかえ走る。
     よろけた老女の体を支えたのは剣だ。
    「ああ、ごめんなさいねえ、ありがとう」
    「大丈夫よ、さあ急いで、ここは危ないから」
     剣の言下、エマの声がした。あちらでも作戦が始まったようだ。
     ならば人々をいち早く避難させなければならない。
     大川の攻撃を一撃でもくらえば、灼滅者でない者は命取りだ。怪我だけで済めば幸運であったと喜ばないといけないだろう。
     樹は声を張り上げ、《vent de la nuit》に跨り空を飛ぶ。上空から見る交差点の混乱の中に、パニックに陥っている人を見つけ、大川の手の届かないところまで運ぶ。
     王子も小さな体で人ごみを搔き分け、声を張り上げる。
    「そっちではない! こっちじゃ! 向こうへ走るのじゃ!」
     恐怖で走れない子どもをひょいと抱き上げ、「しかと掴まっておるのじゃ」と声をかけた。
    「うえええ」
    「泣くな、妾の話をよく聞くのじゃ、しっかりと立って、走るのじゃ! わかるかのぅ?」
     口をへの字に曲げて、漏れ出る嗚咽を我慢する男の子は王子の服をぎゅっと握ってから、エマらが大川を足止めしている方とは反対に走り出した。
    「もう少しよ! みんな、離れて! 急いで!」
     桐香は声の限りに叫んだ。

    ●依存して殺戮に走る馬鹿
    「おい、あいつにいいとこ見せたいんだろ? ちょっと相手してくれよ」
     エマは殲術執刀法による急所へのダメージを負わせた。パラライズの痙攣が大川の動きを鈍らせる。
    「スマイルイーターは爆弾を仕掛けることで、自分の命に保険をかけている唾棄すべきチキンよ」
     ワルゼーは、大川が敬愛してやまないスマイルイーターをこき下ろす。
     そうすれば一般人に向けられるはずだった凶刃は、きっとこちらを向くだろう。
    「お宅はそのチキンの捨て駒にすぎん。捨て駒がチキンの気を引くための点数稼ぎとは、真に笑止千万よ」
    「言わせておけばあ!」
     嘲笑にも似た笑みを浮かべたワルゼーに、大川はリングをうねらせ襲いかかる!
    「そーゆーところがお馬鹿さんとゆーのだっ!」
     無鉄砲な攻撃をひらりと躱して、ワルゼーは螺旋のごとき捻りを加えた鋭い刺突を繰り出す!
    「……お前。笑っていたな。スマイルに嫌われてるんじゃないか?」
    「スマイルイーター様を気安く呼ばないで!」
     愛するスマイルイーターの名を無礼にも短縮したフィリアを、憎悪を込めて睨みつけた大川だったが、瞬時に繰り出された鋭い槍に貫かれた。
    「……やっぱり捨て駒だな。弱い」
     さらなる力を得たフィリアが、悠然と静かに言い放つ。憤懣やるかたない大川は今にもフィリアに輪刃を射出しようとしていたが、先刻エマが放った一撃がそうさせなかった。
    「そこで這いつくばっていろよ。勝手なマネはさせねえ」
     弾の言下、彼女の眼前に躍り出て、その勢いを殺さないまま盾で殴りつける。
    「年下の女を殴るなんて、男としてそれってどうなの!?」
    「関係あるか、六六六人衆はここで始末してやるぜ」
     同調するようにライドキャリバー・デスセンテンスもエンジンをふかせる。
    「くっそ……!」
     怒りに任せて弾へと襲いかかる大川は、どす黒い殺気を噴き上げる。ぞろりと薄気味悪い無尽蔵に溢れ出す殺気は、弾だけではなく、ワルゼーら前衛を飲み込んでいったが、まだ大丈夫だ。回復に手数を割くには早すぎる――エマはそう判断した。
     そうなれば手はひとつ。
     エマは大川に対して縛霊撃を放ち、弾は祭霊光の光を己に浴びて、マテリアルロッドに魔力を込めたワルゼーが渾身のフォースブレイクを炸裂させ、無表情に紫瞳を細めたフィリアもまた、強烈な魔力を大川へとぶち込む!
     苦悶に顔を歪めた大川は、輪刃を盾のように使い傷を癒していく。
    「むかつくわ、あんたたち! スマイルイーター様の邪魔をするなんて!」
    「ふん……六六六人衆も虫唾が走るが、お前のように誰かの為にと依存して殺戮に走る馬鹿も度し難いな」
     そこへ響いたのは剣の冷静な声。
    「好きな者のために頑張ると言うのは良い事じゃが、今回はたちが悪かったのぅ」
     王子の言霊は、先刻殺気にあてられた仲間たちの心に染み入って、奪われた体力を回復させた。
    「考え方もやりかたも悪趣味ですわねぇ……なんというか、気が合わなさすぎて夢見が悪くなりそうですわ」
     げっそりと嘆息した桐香は、続ける。
    「飛び道具で、しかも自分より弱者に悲鳴を上げさせるなんて、全然ダメね、なってない」
     解体ナイフを弄びながら合流した。漆黒の瞳を細く嗜虐的に眇めて、
    「さあて、ここからは手加減なしの攻撃オンリーよ」
    「一般人は!?」
     ワルゼーの問いに、
    「避難完了よ、死傷者ナシ!」
     箒に跨ったままの樹が朗報を伝え、空から飛び降りた。
    「よし!」
     弾が大きく頷いて、改めて大川に向き直った。
    「お待たせ、スミレ。さあ、やり合いましょうか……Erzahlen Sie Schrei?」
     桐香が囁く。嗜虐性を発露させた危ない声音は、ティアーズリッパーと共に大川の肢体を震撼させた。
     声にならない悲鳴をあげて、女は膝をつく。
    「あら、もっと悲鳴をあげてよ、楽しくないじゃない。さぁ……お前のとても素敵な悲鳴、聞かせてちょうだい?」
     桐香の言葉を皮切りに、灼滅者たちの総攻撃が始まった。
     エマの放射した網状の霊力に絡めとられ、フィリアのライドキャリバー・バイク王の機関銃が火を噴き、マテリアルロッドに収束する彼女の魔力を一挙に解放させ、力の限りに殴りつける!
     四肢を駆け巡る力の奔流がやまないうちに、ワルゼーは拳を固く握り締めオーラを収斂させていく――短く吐息、そして何発もの拳打を打ち込んでいく!
     そこへグラインドファイアの炎が轟然と噴き上がる――弾だ。炎の奥からデスセンテンスの機銃掃射の炸裂音が耳を劈く。
    「いい姿になってきたな」
     剣は嘲るような笑顔を見せて、自身の影で大川を飲み込んで彼女のトラウマを呼び起こす。
     くるりとマテリアルロッドを回し、願いを映すといわれる透明な石に、樹はありったけの魔力を注ぎ込んで、一気に爆発させた。魔力の激流に大川は耐え切れずに、苦悶の悲鳴を上げて、その場にへたり込む。
    「まだよ、まだ……だって、スマイル、イーター様が……見ていて、くれるって……!」
     しかし、それでもふらふらと立ち上がり、息も絶え絶えに輪刃を盾にして、わずかながらに体力を回復させた彼女へ、
    「調子に乗った人殺しが逆に始末される……一体どんな気分だ?」
     言うなり機銃が爆音を轟かせ、苦渋する大川へ弾丸の嵐が降り注ぐ、瞬間、流星のごとき煌めきが奔る、迸る力場の咆哮と共に放たれたのは弾の飛び蹴りだ。
    「これで終わりだ!」
     態勢を崩したところへ、エマが疾駆する。
     足もとに炎を噴き上げて一寸の容赦なく、蹴り上げる!
     ゴオォ――…………!
     耳を劈く絶命の絶叫を上げ、地に這いつくばった。
     エマの足先に確かな感触が伝わって、火だるまになった六六六人衆を見下ろす。
     少女は、苦しそうに悔しそうに悲しそうに、それでも愛おしそうにスマイルイーターの名を呼んで、灰となって消えていった。
    「……捨て駒か」
     溜息交じりにフィリアは呟いて、
    「こんなに慕われているのに、助けにも来ないのかえ――スマイルイーターとやらはさかしいのぅ」
     王子は少し切なそうに吐息して、春風に乗って千々になって消えていく様を見つめていた。

    ●眩しい笑顔
     フィリアの殺気がおさまって、殺界が消えていく。
    「やれやれ……スマイルイーターはどうして笑顔が嫌いになったのだろうな」
     ふいーと安堵の吐息を漏らした剣は、考えても詮ないことだと分かっていたが思考を巡らせる。
     とまれ、倒さねばならない相手であることには変わりないと完結させた。
    「せっかくの沖縄! ねえねえ、ちょっと観光して帰らないか? ほら、あの天ぷら屋なんておいしそー!」
     エマは眩しい笑顔を弾けさせ、ヒャッホー! と言わんばかりにテンションを上げて小走りに店へと駆け寄っていく。
    「あっちの店もなかなか楽しそうじゃのぅ」
     王子はにこやかに笑顔を浮かべて、樹を振り返る。
    「あまりはしゃぐとこけるわよ」
     困ったように微笑んだ樹は、徐々に穏やかな喧噪を取り戻し始めた国際通りを振り返り、ほおっと安堵した。
     ひとつでも多くの笑顔を守ることができたのだ。

    作者:藤野キワミ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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