フライング・フライド・チキン!

    作者:邦見健吾

     とある駅前の広場で、3人の女子高生が何事か話していた。
    「ここ、出るんだってさ、空飛ぶフライドチキンの亡霊」
    「フライドチキンの亡霊? そんなのいるの?」
    「うんうん、いるらしいよ。だから呼んでみようよ~」
    「えー」
    「いいじゃないですか、楽しそうですし」
    「2人がそう言うならいいけど……どうしたらいいの?」
    「それはね……ゴニョゴニョ」
     そんなこんなでフライドチキンの亡霊を呼ぶことにした3人。
    「せー、のっ」
    「「「フラーイ! ド! チキーン!」」」
     3人揃ってフライドチキンを叫んだ瞬間。
    「クエーッ!」
     その背後から巨大なフライドチキンが現れた。

    「フラーイ! ド! チキーン!」
     灼滅者たちが教室に足を踏み入れると、そこにはフライドチキンと叫びながら跳び上がる天下井・響我(クラックサウンド・dn0142)がいた。
    「って何させるんだ! 誰も来ないって言ったじゃねーか!」
    「都市伝説の出現を予知しました。皆さんにはこれの撃破をお願いします」
     恥ずかしがる響我の視線の先には冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)がいた。どうやら響我は蕗子に言われてフライドチキンと叫んだらしい。
    「現れる都市伝説は空飛ぶフライドチキンの亡霊だそうで、当然フライドチキンの姿をしています」
    「おいコラ無視すんな!」
    「都市伝説は人の多いところで、さっきのヒビワレさんのようにフライドチキンと言うと出現します。ただし、3人以上で声を揃え、大声で言う必要があるので注意してください」
    「誰がヒビワレだ!」
     出現させる場所としては、駅前の広場が最適だろう。ただし事前に人払いすることができないので、出現後に手を打つ必要がある。なお、フライドチキンと叫ぶときにジャンプする必要はない。
    「フライドチキンは全部で9体現れ、出現時にフライドチキンと叫んだ人を優先して攻撃します」
     攻撃手段は体当たりのほか、肉汁と油を飛ばす攻撃、スパイスの香りで混乱させる攻撃などがある。また全ての個体が宙に飛んでいるため、近接攻撃は当たらない。
    「数が数なので、単体ではあまり強くありません。ですが集中攻撃に晒されるのは危険ですので、うまく対策してください」
     フライドチキンと叫ぶのは3人以上であれば何人でもかまわない。敵の習性を利用すれば戦いが楽になるだろう。
    「私の予知によると、まだ犠牲は出ていません。今なら未然に被害を防ぐことができます。それでは油断のないよう、よろしくお願いします」
     蕗子は説明を終えると、茶を一口飲み、灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    ウェア・スクリーン(神景・d12666)
    ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)
    炎谷・キラト(失せ物探しの迷子犬・d17777)
    セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)
    五十鈴・乙彦(和し晨風・d27294)
    八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)
    葬火・禍煉(高校生七不思議使い・d33247)
    三狐神・緋(悪戯好きな緋狐・d33344)

    ■リプレイ

    ●来たれフライドチキン
     灼滅者たちは駅前の広場に到着すると、都市伝説を呼ぶ者と避難誘導する者に分かれる。
    「がんばるぞー! おー!」
     今回が初参加という三狐神・緋(悪戯好きな緋狐・d33344)は、威勢よく拳を突き上げ、やる気十分。
    (「まァ……このような人ごみで、とは。叫ぶ皆様はどうぞお気張りくださいませ。私は心の中で一生懸命に応援させて頂きます」)
     八月一日・梅子(薤露蒿里・d32363)は人ごみの中で、都市伝説呼ぶ組を見守る。フライドチキンと叫ばずに済んで良かったとか思ってないよ。多分。
    「フライドチキンの亡霊って……その発想はなかったなぁ。人間の想像力ってなんて言うか、凄いね」
     と、驚いたような呆れたような顔をするミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)。鶏ならまだしも調理済みのフライドチキンとは、都市伝説はとことんフリーダムである。
    「聞いただけでもおいしそうな都市伝説だな。食べれたらもっと良かったんだけど」
     ジャンクフード好きの炎谷・キラト(失せ物探しの迷子犬・d17777)としては、巨大フライドチキンと聞いて食欲をそそられる。だが、食べられないのでは嬉しくない。
    「フライドチキンは鳴かないんじゃないか? まさか丸のままの鶏をそのままカリッと美味しく上げたようなデザイン……?」
     鳴き声を上げるという都市伝説の特徴に、首を傾げる鳥人、セレス・ホークウィンド(白楽天・d25000)。都市伝説の見た目は、見てからのお楽しみということで。
    (「フライドチキンの亡霊……どういう事なんだ。いや、それより……」)
     そんな中、五十鈴・乙彦(和し晨風・d27294)は表情を強張らせていた。
    「どうしたの?」
    「ああ、いや、大丈夫だ……」
     ミカに尋ねられ、乙彦は顔を赤くしながら恥ずかしいのをごまかす。だがその様子から何を思っているのかは見て取れた。
    「だいじょうぶだいじょうぶ、一瞬だからさ」
    「そうそう、オレたちも一緒だからさ」
    「あ、ああ……」
     キラトも加わり、2人で乙彦を丸め込み、都市伝説を呼ぶ準備を整える。そして。
    「せーっ、のっ」
    「「フラーイ! ド! チキーン!」」
    (「アオー! ワン! アオーン!」)
     駅前に響く4人分のフライドチキンの掛け声。ちなみに一緒に聞こえてきた犬の声はミカの霊犬、ルミのものである。
    「クエーーーーーッ!」
     間もなく上空からフライドチキンが舞い降り、鶏の鳴き声を上げた。キールが1に、リブ、サイ、ウイング、ドラムが2つずつ。見事に部位ごとに解体されたフライドチキンが鳴き声を上げている。
    「逃げろー!」
    「此処は危ないから避難してくれ」
     避難を促すため、キラトはパニックテレパスを使用し、周囲の一般人を混乱させる。叫び終わって気が楽になったのか、乙彦は少しすっきりした顔で避難を呼びかけている。
    「さあさ、世にも恐ろしい悪戯話を始めよう。ある山に……」
     都市伝説が出現したことを確認し、避難誘導組も行動を開始。緋は丸い提灯を手に、化け狐の物語を語り始める。怪談は雑霊をざわめかせ、それに影響されて一足も遠のいていく。
    「皆さん、危ないのでどうかあちらの方へ……」
     ウェア・スクリーン(神景・d12666)も避難を呼びかけると、パニックテレパスで錯乱した人々が何も分からないままに従う。葬火・禍煉(高校生七不思議使い・d33247)もフライドチキンと一般人の間に立ち、彼らを守るように立ち回る。
    「クエーーーーーーーッ!」
     そしてまた、鶏の鳴き声が駅前の広場に轟いた。

    ●フライングチキン
     キャー、オオキナフライドチキンヨー。
     飛び交う悲鳴の中、灼滅者たちは殲術道具を解放し戦闘を開始する。
    「一応見た目は食べ物ですし……いただきますで始めましょうか」
    (「調理済みのフライドチキンが鳴き声を上げているようですが……怨念でしょうか? 鳴き声を出されると食欲減退しますね……」)
     バラバラにされているにも拘わらず鳴き声を上げるフライドチキンたちに困惑するウェア。さすがに現在進行形で鳴くチキンを食べたいとは思わない。
    「チキンを乱獲する翼を……」
     体に巻きついたダイダロスベルトを翼のように広げ、チキンたちをロックオン。ベルトが縦横に伸びてチキンを締め上げる。
    (「塩辛いものは好みですが、浮かんでいて、かつ攻撃してくるものなんて食欲が湧きませんね……」)
     梅子もウェアとだいたい同意見。霊縛手から祭壇を展開し、霊的因子を強制停止させる結界を構築すると、鳥網のようにフライドチキンの動きを奪う。
    (「フライドチキン……普段あまり食べる機会が無いんだが、9体も空を飛んでいたら見ているだけで胃もたれしそうだ」)
     というか、もうすでに胸が気持ち悪い。そんなわけでさっさと倒すべく、乙彦は宙を舞うフライドチキンに護符を投げる。チキンに張り付いた符は少し油を吸い、少し透明になっていた。
    「クエーーーーッ!」
     さっきフライドチキンと叫んだ4人目掛け、フライドチキンたちが体当たりしたり、肉汁を飛ばしたりと次々に攻撃を仕掛けた。肉とスパイスの匂いが広場一帯に漂う。
    「熱っ! クエーッってもしかして食えーってこと? 言われなくても食べたいよ!」
     肉汁を浴びたミカは重ねた両手に身を包むオーラを集中、キール(胸)を気功の砲弾で撃ちぬいた。ルミも銭の弾丸を浴びせて追撃する。
    「うおお、ホントにデカいチキンだな! なんかうまそうな匂いもするし倒すのもったいねー!」
     都市伝説フライドチキンの大きさは、普通のニワトリをゆうに越えていた。キラトは体当たりを受け、その大きさとスパイスの香りに興奮しながらも、容赦なくガトリングガンをぶっ放した。無数の炎の弾丸が降り注ぎ、巨大チキンを打つ。
    「面白い都市伝説なんだぜ! フライドチキン食べたくなってきた!」
     緋は目を輝かせ、お化けのように開いた提灯の口から炎を飛ばした。揺らめく炎はフライドチキンに命中し、花のように咲いてカリカリの表面をさらに焦がす。やはり小学生男子の目には、フライドチキンは魅力的に映るようだ。
    (「奇妙な都市伝説、ね……。手に入れるのが、楽しみ、だわ」)
    「ゆらゆらと、揺れる天狗火……あなた達に、不幸を……もたらすわよ」
     禍煉が暗い口調で都市伝説を語ると、突如火の玉が出現してフライドチキンたちを襲う。火はフライドチキンを蝕み、その身を恐怖という毒で汚染する。
    「この手羽先野郎!」
    「!!」
     後衛に立つ響我は腕をキャノン砲に変え、ウイング(羽)目掛けて光線を照射。しかし響我の発言に反応し、セレスがこれでもかと目を見開いて振り返る。
    「いや、お前のことじゃねえから」
    「そうか。ならいいんだ」
     響我が手をパタパタと振って否定するとセレスは何事もなかったように向き直って毒の霧を放った。

    ●チキンビートダウン
     キールにウイング2、リブ(あばら)1と、灼滅者たちはいくつかチキンを撃ち落としたが、戦いはまだまだ続く。
    「クエーッ!」
     ミカに向かってサイ(腰)とリブが体当たり。重量級の衝撃がミカの体を走り抜ける。
    「外はサクサク、中はジューシー……やるね!」
    「ワンワン!」
     だがミカはその程度では屈しない。足元から伸びる影が空に戻るリブを追い、大きく口を広げて呑み込む。一方、ルミは物欲しそうにチキンを見つめながら尻尾を振っていた。影業が羨ましかったのかもしれない。
    「その痛みを……癒やしましょう」
     禍煉は黒い煙で傷ついたミカたちを包み込み、その傷を癒すとともに能力を引き上げる。言霊や煙で仲間をサポートする禍煉だったが、単体をヒールするサイキックがあった方がいざという時臨機応変に立ち回れただろう。
    (「見てるだけで腹減ってくるぜ……アレ食べれたりしないのかな」)
     キラトは腹を空かせながら、体を覆うオーラを集束し、腕を砲台にして撃ち出す。気の弾丸は弧を描いて空を飛ぶサイに命中した。
    「……ま、しゃーねーな」
     当たったことを目視で確信し、呟くキラト。普段は近接攻撃中心なので、手応えがないと少し物足りなく感じるのであった。
    「あぁ、良いですね熱々チキン。……素晴らしいですが、食物なのに浮いている贋物には用はありません。出直してくださいませ」
     上げて落とすとはこのことか。梅子は手の中に渦巻く風を解き放ち、刃に変えてチキンを切り裂く。サイが骨ごとバラバラになり、地に落ちた。
    「冷めたら炎でもう一度カリッと揚げてあげないと」
     と言いつつセレスは翼をはばたかせ、冷たい炎でフライドチキンたちを包み込む。むしろ余計に冷めそうだった。
    「トリはトリらしくしてろ!」
    「……」
     響我がギターをかき鳴らしてチキンを攻撃すると、セレスの猛禽の眼が何かを待つように響我をじっと見つめる。
    「何も言わねえからな」
    「……」
    「何も言わねえらな!」
    「……」
    「何も言わねえっつってんだろ!」
    「そうか」
     そうしてまた、何事もなかったかのようにチキンに向き直るセレスだった。
    「美味しそうですが、冷凍保存しましょうか……」
    「山の狐は村人に……」
     ウェアが空に手をかざすと、不可視の術がチキンたちの熱を奪う。緋の口から紡がれる怪談が狐の影を生み、影はチキンに食らいついて離さない。
    (「伊達巻食べたい伊達巻食べたい……」)
     そして油っこい空気に負けないよう好物の伊達巻を思い浮かべながら、霊縛手を構えて結界を構築する乙彦だった。

    ●チキンシーカー
    「やっと、終わった……」
    「クエー……」
     乙彦は溜め息をつきながら、最後のチキン、ドラム(脚)に心を惑わす符を投げた。フライドチキンに心があるかは不明だが、あれだけクエクエ鳴いていたんだからきっとあるだろう。チキンの動きが大人しくなり、やがて地に落ちる。
    「さあ、あなた達の力を……貰うわね」
     禍煉が低いトーンでそう告げると、広場に落ちたフライドチキンの群れが光の粒になって禍煉に吸い込まれた。

    「終わりましたね……御馳走様でした」
     戦いが終わったことを確認し、ウェアが仲間たちに声をかける。敵の攻撃目標を分散させる作戦のおかげで、全員無事に戦いを終えることができた。
    「お疲れ様でした。それではお暇させていただきます」
     梅子は丁寧にお辞儀をすると、そそくさとその場を立ち去る。もちろんフライドチキンを買って帰るのは忘れない。
    「部位ごとにバラバラにされても鳴くんだな。……帰りに鳥串でも食べに行ってみるか」
    「そっちかよ!」
     焼き鳥を食べに行くという鳥人、もといセレスに、響我が反射的にツッコみを入れた。大きい鳥が小さい鳥を食べることもあるので、この場合共食いとは言わない。多分。
    「冗談だ。勿論フラーイ、ド、の方だ」
     しかしセレスはツッコまれても調子を変えず、真顔(?)で返す。ちなみにずっと闇纏いを使っていたので、鳥人姿は一般人には見られていない。
    「フライドチキン買って帰ろう? な? な?」
    「おっけー、一緒に行こうぜ!」
     もはや食欲を抑えるのも限界といった様子で声をかける緋。空腹だったキラトもノリノリハイテンションで応じる。育ちざかりの男の子だからね。
    「はい、ボクも行くよ!」
    「ワン!」
     ミカが手を上げると、ルミが嬉しそうに一声吠える。そうして、フライドチキンを探しながら灼滅者たちは帰還した。

    作者:邦見健吾 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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