卑劣なる笑み喰らい

    作者:相原あきと

     そこは沖縄の国際通りに面したとある6階建てのホテルだった。
     その1階にある大食堂で、宿泊客が夕食に舌包みをうっている。
     時刻は19時、宿泊客の全員とはいかないがそれでも20人近くはいるだろうか。誰もが笑顔で楽しそうにしている。
     そんな中、食堂の入り口で腕を組んだまま扉にもたれるように立つ大学生ぐらいの男がいた。男は少しの間食堂を睥睨すると、食堂の外側、廊下にいる誰かに入ってくるよう促す。
    「ほら、見てみなよ。人間の笑顔は本当に気持ち悪いからさ」
    「あの……ボク……」
     男に促されるように部屋に一歩入ってきたのは7歳ぐらいの少年だった。しかしただの少年ではない、その四肢は水晶のように透き通りその伸びた長髪も同じく水晶色に輝いている。
    「それじゃあ、とりあえずココにいる全員を……頼むよ」
    「あの……全員殺せば、ボクを見逃してくれる?」
     おずおずと聞いてくる少年に、大学生ぐらいの男――スマイルイーターは目を向け。
    「『ミノル』くん、君はもう僕のKSD六六六人衆のメンバーなんだ、勝手に脱退するのはどうだろうね?」
    「で、でも、ボクは静かにダンジョンを作って引きこもれればそれで……」
     小さな声で反論するミノルに、スマイルイーターは冷たく言い放つ。
    「僕ともう一度戦いたいのかな?」
    「うぅ……」
    「さあ、行ってらっしゃい。全員しっかり、殺さないとダメだからね」


    「みんな、軍艦島の戦いの後、HKT六六六がゴットセブンを地方に派遣して勢力を拡大しようとしているのは知ってる?」
     教室に集まった皆を見回してエクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     今回の依頼はその中の1人、ゴッドセブンのナンバー5、スマイルイーターが沖縄の国際通りで起こす事件だ。
     スマイルイーターは現地のダークネスを支配下におき、沖縄の支配を狙っているらしい。また、それと同時に配下ダークネスを使って楽しそうな笑顔の一般人の虐殺も行おうとしているという。
    「今回、スマイルイーターが連れているのは、『ミノル』という名のノーライフキングよ。このノーライフキングは戦闘が好きなタイプじゃないみたいだけど、スマイルイーターに脅されて従っているみたい」
     もっともこのノーライフキングも、スマイルイーターが生きている限り逆らう事はできないと理解しているらしく、言葉巧みに裏切らせる等は無駄だろうと珠希は言う。
     灼滅者の1人が「なら、一緒にスマイルイーターを倒そうと言えば?」と質問するが、珠希は首を横に振る。
    「ごめんなさい、言い忘れていたわ。今回、スマイルイーターとは戦わないで」
     珠希が言うには、スマイルイーターは沖縄の各所に爆弾を仕掛けており、彼が灼滅されればそれが全て爆発すると言う。爆弾の設置場所がどこかわからない現状、スマイルイーターの灼滅はやめた方が良い。
    「スマイルイーターとノーライフキングは、国際通り沿いのこのホテルの一階にある食堂に現れるわ」
     珠希が地図を広げて接触できる場所を説明する。
    「まずは全員で、ホテルの庭から食堂に繋がっている非常口を使って、食堂の中に入って欲しいの」
     灼滅者が食堂に入ったタイミングが、ちょうどノーライフキングがスマイルイーターの脅しに屈するタイミングだという。
     食堂には20人ほど食事を楽しんでいる宿泊客がいるが、ダークネスの2人は入り口のドア付近にいるので、なんとか足止めし、別の出入り口から一般人を逃がせられれば被害は抑えられる。
     食堂から出るルートは3つ、ホテル内と食堂を繋ぐ出入り口が北と南に1つずつ、それに庭に出る非常口が1つ。もっとも、ホテルと食堂を繋ぐドアのうち北側の1つはスマイルイーターがいるので、実質使える避難口は2つと考えられる。
    「戦闘を仕掛ければ基本的にノーライフキングだけが戦うわ。エクソシストと天星弓とシャウトに似たサイキックを使うけど、どうにも戦い慣れしてないみたいで自分の治癒とか防御が多めっぽいわ、付け入る隙はあると思う」
     ちなみにこのノーライフキング、普通に完全なダークネスなので救出などはできない。遠慮なく灼滅して良いと珠希は言う。
    「スマイルイーターはムカつくけど、今回はノーライフキングによる虐殺を防いで、一般のお客さん達を助けてあげて! お願いね!」


    参加者
    羽柴・陽桜(はなこいうた・d01490)
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    月雲・悠一(紅焔・d02499)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)
    八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)
    桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)
    興守・理利(伽陀の残照・d23317)

    ■リプレイ


    「懐かしい、ですね。こんな形で再び訪れるとは、思ってもいませんでした」
     時刻はそろそろ19時になろうと言う所か、国際通りをひた走る8人の灼滅者の中、桜乃宮・萌愛(閑花素琴・d22357)が呟く。
    「……のんびりしたこの地を騒がす……許せません」
    「ひおもだよ! 沖縄のこの場所、すごく好き♪ だから、ここに来てる人達の笑顔、絶対守ってみせるよ! スマイルイーターの思い通りにはさせないんだから!」
     萌愛に羽柴・陽桜(はなこいうた・d01490)が同意し、やがて灼滅者達は国際通りに面した6階建てのホテルへと到着した。
    「こっち」
     花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)が遠慮なくフェンスを越え、ホテルの玄関でなく庭へと侵入、他の7人も続く。目指すは食堂に繋がる非常口だ。
    「これ以上勢力を拡大させるわけにはいきませんね。何としても食い止めましょう」

     バンッ!
     扉が乱暴に開け放たれ、突如非常口から雪崩れ込んで来た8人に付近で食事をしていた宿泊客が驚く。だが、それを助長するように千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)がパニックテレパスを使い一気に食堂全体が大混乱に陥る。
    「死にたくなければ北出入口から離れて!」
     興守・理利(伽陀の残照・d23317)が北口を指差しながら割り込みヴォイス使用、一斉に北から離れ始める一般人たち。
    「他の出口から早く外へ出て下さい!」
     さらに庭口や南口を指差し身振り手振りを交えて誘導を行なう。
     それでも混乱したまま身動きの取れない客には萌愛が王者の風を使いつつ。
    「急いで! 落ち着いて逃げることだけ考えて! 出口は、あっちと、そっちです!」
     茫然としていた客が頷き、萌愛の顔色を伺いつつ走っていく。
    「ここは私達に任せて!」
     萌愛が言い、理利が北口へ走っていく仲間を信頼するようチラリと見つめ、すぐに一般客に向かって叫ぶ。
    「こっちの出口の方が空いています! 急いで!」
     ――そして、一般客を誘導役の2人に任せ、残った6人は躊躇無く北口へ向かう。
     はたしてそこには、扉に腕を組んだまま背を預けて立つ大学生ぐらいの男と、四肢と長い髪が水晶化した7歳ぐらいの少年ノーライフキング、ミノルがいた。
     いた――そう認識した瞬間、即座に動いたのは七緒だ。
     足元の影がその先端を刃に変化させ最短距離でミノルへ伸びる。
     今まさに周囲の人間へ一歩近づこうとしていたミノル。だが、乗り気で無いがため、一度立ち止まり大学生ぐらいの男、スマイルイーターを振り返る。瞬後、もう一歩進んでいた場所を七緒の影が斬り割く。僅かな躊躇がミノルを救う。
     牽制目的……だが、逆にそれがトリガーとなり一般人に被害がでるかも。そう考え奇襲を提案した責任として自ら行ったが……これは賭けに負けたか……と、七緒が内心焦る。
     だが、ミノルはスマイルイーターに抗議するよう「な、何か来たよ!?」と驚いている。戦い慣れていないという情報の通り、咄嗟の判断なども苦手なようだ。
     さらにその間に八重沢・桜(百桜繚乱・d17551)や銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)がミノルたちと一般人たちの視線を遮るよう、間に入る。
    「君たちは武蔵坂学園? 僕たちの邪魔をしに来たか」
    「お前がスマイルイーター、か」
     月雲・悠一(紅焔・d02499)が睨みつけるように言う。
    「だとしたら?」
    「お前のような下衆な奴は、真っ先に潰したいけどな……今はその時じゃない。今は、目の前の問題解決を優先する。もう、無駄な血は流させやしない!」
    「ミノルくん、邪魔が入ったようだ。だけど、僕の頼みは変わらないよ? さぁ、やるんだ」


    「あの……邪魔、しないで!」
     ノーライフキングが目をつむりながら両掌を灼滅者に向けた瞬間、光の矢が幾億本と出現し灼滅者達を襲う。
     咄嗟に身を呈するは桜色の衣装を来た桜だった。仲間を庇った代償に身体のあちこちから血が滲みだす。
    「桜ちゃん!」
     即座に陽桜がイエローサインで前列にBS耐性を付与しつつ桜の傷をも回復する。
     無事、桜の傷を回復した事にホッとしつつ、陽桜の左手は自身が名付けた縛霊手に触れ。
    「(はなうたさん、一緒に頑張ろうね)」
     語ると同時、縛霊手を握り込みキッとミノルとスマイルイーターを見据える。
    「まずは僕が引きつける」
     陽桜を追い越しミノルへと突っ込むは七緒、不可視のシールド――如何なる時も護り通すと誓う不動の星――が展開し、そのままミノルへと体当たりを慣行する。
     ドッと北口付近まで跳ね飛ばされたミノルに、すぐ近くにいたスマイルイーターが「どうやら彼らはミノルくんを殺す気らしいね」と告げる。
     七緒はその言葉に内心はともかく、表面上は感傷を切り捨て淡々とミノルから一般客を守れるよう冷静に位置取りを行なう。
    「(僕は皆と別の道を選んだから……そうあろうとは思わないけれど)」
     個人的には犠牲者が出る事も厭わない……だが、仲間の想いはできるだけ尊重したくもある。赤と黒、2つの炎を危ういバランスで秘める灼滅者、それが千景七緒であった。
    「……いきます」
     自らを奮い立たせるよう紫桜里が呟くと同時、今度は灼滅者のターンだとばかりに一斉に攻撃が開始される。
    「うわああああっ!」
     叫びながら向かってくるミノルに、直前に急停止し横へ飛ぶ紫桜里、突然目の前に迫っていた目標が消え戸惑うミノルだが、それも一瞬だった。紫桜里の後ろから距離を詰めていた焔と悠一が2人同時に跳躍し襲い掛かってくる。
     焔の赤と黒のチェーンソー、ヴェイル・アーヴェントが唸りをあげ、悠一の火の神の名を冠したロケットハンマー、軻遇突智が弧を描いてミノルに迫る。だが、ミノルは左右の手でそれらを簡単に受け止め、瞬後――。
     斬ッ!
     桜舞う夜に差す月の光の如く――紫桜里の斬撃がミノルを切り裂く。
     目の前で横に飛び退いた後、そのまま壁を蹴りミノルの斜め後ろの死角から桜花斬月を振りぬいたのだ。
    「やめてって……言ってるのに!」

     ミノルの攻撃は威力が高く、すでに何度か攻撃を受け、特に怒りを付与したせいで狙われている七緒の傷は深い。
     ミノルが泣きそうな叫びをあげて水晶の両手で空中を斬るように十字模様を描く。
     だが次の瞬間、ミノルは横から暴風を纏う脚によって蹴り飛ばされ壁へと叩きつけられた。
    「お待たせ致しました」
     それは避難誘導役の1人、萌愛だった。
    「沖縄でも一番、人が多い場所を狙って事件を起こすなんて……阻止させて、頂きます……」
     いつものぼんやりとした雰囲気で、しかし強い意志を秘めて萌愛が言う。
    「興守さんも……もうすぐ来ます」
     萌愛が告げる。
     はたして萌愛の言う通り、それから数分もせず理利が合流したのだった。


     戦いは続き、ミノルが水晶の両手で空中を斬るように十字模様を描くと、そこから無数の光条が放たれる。だが、七緒は何度目かのその技に、飛んでくる光とすれ違うよう己が影を伸ばす。そして、炎を象り騙る影がミノルを足元から斬り裂く。
     悲鳴をあげ片膝を付くミノル、空中の十字模様が消え光の乱舞が収まった直後、ミノルに儀式鍵のようなロッドが迫る。焦って頭を両手で庇うミノル、その背にロッドをあて、溜めた魔力を連続で叩き込む萌愛。
     跳ねるように転がり逃げるミノルだが、その動きを追跡するように桜が掌を向け。
    「日本三大夜桜の美しさ、その力を宿し、桜舞う……! しだれ桜ビーム!」
     起き上がり様のミノルにご当地ビームが直撃する。
    「なんで……なんでボクを苛めるんだ! ボクはお姉ちゃん達に何もしてないのに!」
     半泣きで桜に怒りをぶつけてくるミノル。
    「(わたしはあれ位の歳の頃、何をしていたでしょう……)」
     思わず昔がフラッシュバックする。ヒーローに憧れ、平和な家庭でテレビを見ていた幼き自分。
    「ごめんなさい……」
     それは思わず口をついて出た言葉だった。思わずミノルが桜に対する非難を止める。それは桜の気持ちを感じ取ったからか……。
     ミノルはチラリと北口を確認すると、意を決したように壁沿いに走りだす。目指すは、南口――。
     ズバッ、と鈍い音がしたと思ったら、ミノルが足首を押さえて転んでいた。
     それは焔の黒死斬だった。
    「逃げられませんよ」
    「うう……」
    「見逃す訳にはいきません」
     さらに理利が死角から小太刀――陽炎幽契刃を繰り出し、さらに数撃わざと回避させつつミノルを北口に押し返す。
     元の位置まで押し返されたところで、背後からスマイルイーターが声をかけてくる。
    「気持ち悪い笑顔の人間全てを殺さないと、僕ともう一度戦うことになるけど……ミノルくんはそれでいいのかな?」
     ビクッと恐怖の表情を浮かべ「あああっ」と叫ぶと共に自身の傷を癒す。
    「試します……」
     紫桜里が側にいた悠一に呟き、二刀を煌めかせミノルに接敵、死角死角へと高速に回り込みながら斬撃を繰り返しつつ、その一撃が命中したタイミングで呟く。
    「このままだと……死にますよ?」
     ガッと目に見えぬ波動が紫桜里に叩きつけられ距離を離すミノル、そのまま2回目の行動を行う。息荒く自身が生み出した水晶を傷口に当て、超感覚を付与すると共にダメージを回復させる。
     紫桜里が悠一にコクリとうなずく。
     ミノルは戦い慣れていないどころじゃない、ただ力が強いだけの素人。いや、ただの子供だ。
    「こっちはまだまだ元気だぜ!」
     入れ替わるように悠一がミノルに突撃する。回避されること前提に全力で戦槌を振り抜き、思惑通り派手な音と破片をまき散らしてミノルがさっきまでいた床をぶっ壊す。
     ヒッ、と息を飲む音が聞こえた。
    「(……俺のキャラじゃないなぁ)」
     などと内心で苦笑しつつ、悠一が派手に壁や床を破壊しながらミノルへ連続で攻撃を続ける、
    「一般人が避難出来れば、もう我慢する必要はないからな」
     ドッと胴体に戦槌がクリーンヒットし、壁に叩きつけるミノルに悠一は言う。
    「戦い慣れてない奴を潰すのは弱い者虐めみたいで好きじゃないが……恨むなら、自分を貫けず屈した自分を恨めよ」
     戦槌を肩に担いでミノルに一歩一歩近づく悠一。
     小さなノーライフキングはすでに両目から涙を流していた。
    「どうして……助けてくれないの? お兄ちゃん達は半分ダークネスじゃないか! ボクを助けてよ!」
     天使の歌声が響き、ミノルの目の前で悠一の傷が全快していく。エンジェリックボイスで悠一を癒した陽桜がミノルに言う。
    「会う場所が、状況が違ってたら、戦わなくても済んだのかも……でも、ごめんなさい、なの」
    「なん……で……」
     震えるミノルの言葉に、辛そうに首を振り陽桜は言う。
    「戦わなければ……この場所に居た人達が、殺されてしまう、から」
     ザッと他の灼滅者達も殲術道具を構える。
     うぐ、と何かを飲み込み、ミノルが懇願するように叫ぶ。
    「だ、だったら! だったらボクと一緒にアイツを灼滅してよ! そうしたらボクはここの人間を殺さないから!」
     ミノルの提案に数人がわずかに逡巡する、その空気を敏感に感じ取ってミノルが少しだけ安堵の――。
    「ああ、言い忘れていたね。僕が死んだら沖縄の各地に仕掛けといた爆弾が破裂するんだ。沖縄の人たちの命を優先するなら、ミノルくんの提案には乗らない事をお勧めするよ?」
     スマイルイーターが告げ、灼滅者達がギリリと奥歯を噛みしめる。
     状況を理解していないのはミノルだけだ。
    「だ、だから何だよ! ボクとお兄ちゃんやお姉ちゃんが束になれば、お前なんか怖くないぞ! そんな脅しに……」
     動いたのは灼滅者達だった。
     悠一と萌愛が連続でミノルを殴りつけ、吹き飛んだミノルが壁にぶち当たり、その右肩口に焔のヴェイル・アーヴェントが添えられ。
    「抉ります。痛いですよ?」
    「ぅぁあああああっ!?」
     水晶化した部分が破片と飛び、必死に左腕を動かして何とかしようとするミノルだったが、その左腕が陽桜の放ったオーラキャノンによって砕け散る。
    「脅されて……したくない事をさせられて……可哀想ですよね……でも、ごめんなさい。わたしは、ヒーローを名乗っているのに……」
     壁伝いに片腕の無いミノルが立ち上がり、懇願するように桜を見つめる。グッとこみ上げる気持ちを押さえ、桜はビームを放つ。
    「でも……あなたを、止める事が、わたしの……正義!」
    「うう……痛い、痛いよ……」
     痛がるミノルに、スマイルイーターが首を傾げて声をかける。
    「ほら、反撃しないと殺されしまうよ? 彼らは半分人間なんだ、ミノルくんの敵なんだから」
    「スマイルイーター! 何故! 何故手を出してこない!」
     叫んだのは理利。
    「関係はどうあれ仲間ではないのか!」
    「だったら、僕が参戦して爆弾が爆発する事になってもいいのかい?」
     様々な表情を浮かべ、最後にはいつもの自分を押さえた顔で理利は自身の腕を鬼のそれに変化させ、ミノルに小さく「……すまない」と。
    「嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!!」
     ミノルが掌から幾億もの光の矢がめちゃくちゃに放ち続ける。
     理利は鬼の手を盾に強引に接敵し、その腕で小さな胴体ごと壁にミノルを押さえつける。それでも自由な右の手から光の矢が放たれ続けるが。
     理利と同じく傷を無視して七緒が飛び込み、ドグマスパイクでその右手を壁に打ち付け。
    「可哀想。元人格も子供だったのか。それとも好き勝手変形させたのか……でも大丈夫、キミは、ここで消える」
     ミノルが最初にみたのは、目の前に迫る身の丈を越える大刀、桜花残月。
    「これで……、終わりですッ!!」
     上段の構えから全体重を乗せた紫桜里の一撃は、縦一文字にノーライフキングの少年を断ち切ったのだった。


     サラサラと粉となり消えていくノーライフキングを見送り、怒りを押さえた声音で悠一が言う。
    「……さっさと消えろよ。俺達が黙ってる間にな!」
     中には今にも感情が爆発しような者もいる。それでも、今は……我慢するしかない。陽桜が、紫桜里が、スマイルイーターを睨みつけ、桜が決意を口にする。
    「スマイルイーターさん……今回は見逃しますが……行いは許せません……いつか、倒します……!」
     スマイルイーターはやれやれとジェスチャーし、何も言わずに悠々とその場を去っていった。
     その姿が見えなくなり、その殺気が消えた後も、灼滅者達はしばらく黙っていた。
    「爆弾のありか、気になりますね」 
     萌愛が呟いた事は重要だ。
    「現状、おれ達では大元を断つ事が出来ない……」
    「沖縄に仕掛けてある爆弾をどうにかしないと、ずっと後手に回りますからね」
     理利と焔が萌愛に同意する。爆弾、それが解決しない限り、今回のような事件は起き続けるだろう……。
     再び沈黙、怒りや憎しみ、憤りに悲しみ、心に突き刺さるは卑劣なスマイルイーターの姿。
    「帰ろう……」
     七緒の声が静かに響き、灼滅者達は静かにその場を後にしたのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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