ピンクのカッパ

    作者:奏蛍

    ●追ってくる足音
     雨上がりの道で少女が足を止めた。ペタンペタンという音が後ろから響いてくる。
     不思議に思って振り向いた少女が瞳を見開いた。そこにはピンク色の物体がいた。しかし色に反して全く可愛くない。
     むしろ気持ち悪いというか、何というか異形の存在そのものというか……。悲鳴を上げたい……。
    「いゃぁあああ!」
     少女のその思いは瞬時に口から悲鳴を上げさせた。嘴のように尖った口が嬉しそうな笑が作られる。
     鋭く並んだ牙が嫌な音を立てる。そしてぎょろりと動いた目は蛇のようだ。
     ペタンという音が水かきのついた足から立っているのに気づいた少女がごくりと息を飲む。そして震えながらも一気に走り出した。
     しかし少しも進まないうちに少女は倒れた。ピンクのカッパがそんな少女を見下ろして、不気味な笑いのような声を上げるのだった。
     
    ●カッパが這い上がってくる井戸
    「ピンクのカッパだよう!」
     さすがアイドル、可愛らしくポーズを決めた松葉・キラリ(小悪魔アイドルきらりん・d29175)が集まってくれた仲間に笑顔を見せた。そして須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)からの情報を話し始める。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、まりんたちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     キラリの予感が的中してピンクのカッパの都市伝説の存在が明らかになった。雨上がりに現れて、見かけた者の後を追いかけて殺してしまうのだ。
     みんなにはこのピンクのカッパを灼滅してもらいたい。
    「まずは出現させないとだよう」
     出現させるには、ある一定の手順が必要だ。ガサガサと地図を取り出したキラリがみんなにある場所を示した。
     そこには古い井戸がある。もう長いこと使われていないせいか草に覆われて、井戸として機能はしていない。
     この井戸に雨水と一緒にピンク色のぬいぐるみを入れて欲しい。そうすると井戸の中からピンクのカッパが這い出てくることになる。
     なるのだが、身を潜めて見守ってもらいたい。そして誰か一人が囮となって、カッパに後を追わせる。
     囮となった者をカッパが追って、そんなカッパをみんなで追ってもらうことになる。囮となった者は、足音が聞こえた時が振り向きどきだ。
     しっかりと振り向いて、カッパの姿を目撃してもらいたい。カッパが殺そうと襲いかかってきたら、灼滅の合図だ。
     カッパは咎人の大鎌に類似したサイキックを使ってくる。
    「ぬいぐるみは手元に戻るらしいけど、だいぶ汚れてそうかな?」
     少し考えるようにキラリが首を傾げるのだった。


    参加者
    花楯・亜介(花鯱・d00802)
    月宮・白兎(月兎・d02081)
    クラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)
    幸宮・新(ほら貝・d17469)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)
    咲嶋・霊姫(高校生サウンドソルジャー・d21673)
    松葉・キラリ(小悪魔アイドルきらりん・d29175)

    ■リプレイ

    ●現れたピンクのカッパ
    「しかし使われてない古井戸かぁ……」
     草に覆われて隠れるようにポツンとある井戸を見て、幸宮・新(ほら貝・d17469)が呟いた。
    「井戸なんて久しぶりに見ました」
     月宮・白兎(月兎・d02081)も珍しいものを見たというように瞬きする。そして現れるのがカッパでよかったとほっと息を吐く。
     これで女の人が出てくる……なんてことになったらホラーでしかない。しかしカッパが出てくるのもある意味ホラーかもしれないと、白兎が首を傾げた。
    「うーわ、すごい雰囲気出てるね」
     少し背伸びして、しっかりと視界の中に井戸を収めた新が瞳を細める。そして中から女の人とか這い出してきたりしないよね? と呟く。
    「私もそれ考えてしまいました」
     思わずと言うように、白兎が笑みを溢す。
    「では、拙者は行くでござる」
     囮となるべく、ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)が足を踏み出した。その手にはピンク色の子豚のぬいぐるみが握られている。
     そしてみんなに向かって合図するように片手を振ったハリーがためらいもなくぬいぐるみを放った。ぬいぐるみが井戸に入ったところで、水筒に入れておいた雨水を注ぐ。
     綺麗な雨水が音を立てて井戸に消えていく。
    「準備完了でござる」
     さっと身を翻したハリーが、事前に決めてあった道を歩き出す。そんな様子を遠くから見ながら津島・陽太(ダイヤの原石・d20788)が思っていたことを口にした。
    「ピンクのカッパだなんてそんなカッパの存在意義失いそうなカッパいるんですか!?」
     カッパの存在意義とは……と思うところだが確かに何かカッパとして失ってしまいそうな色合いだ。
    「いた!」
     素敵なタイミングで井戸から現れたカッパを見て、陽太がさらに声を出していた。
    「なんてシュールな物体……」
     まさにピンクのカッパが全ての姿を晒した瞬間、咲嶋・霊姫(高校生サウンドソルジャー・d21673)が呟いていた。
    「ピンクの河童っていうから可愛くて美少女みたいな河童を期待してたのにこれかよ」
     思い切りため息を吐いた花楯・亜介(花鯱・d00802)が首を振る。もうこうなったらさっさと終わらせて帰るしかないと、足を踏み出す。
     ハリーの後をつけるカッパの後ろを歩き始める。
    「ほんとピンクだよう」
     隠れていた場所から出てきた松葉・キラリ(小悪魔アイドルきらりん・d29175)が、目の前を歩くピンクのカッパに瞳を瞬きさせる。その足元から蛇に姿を変えたクラリーベル・ローゼン(青き血と薔薇・d02377)がその身を滑らせた。
     そして音もなくカッパの後を付けるのだった。

    ●振り向いた先に……
     ニンジャ装束に、赤いスカーフで口元を隠したハリーが先を進む。
    「尾行……ちょっとドキドキしちゃいますね」
     囁いた白兎が物陰に隠れながら、ハリーを追跡するカッパを見る。井戸に物を放り込むというのは気が引けてしまっていた白兎だが、このカッパを灼滅するのなら仕方がないと割り切った。
     そして実際に現れたカッパを観察する。
    「……やはり見た目と言うものは大事です」
     怖いというより気持ち悪い方が優先される。白兎が言うようなピンクのカッパが振り向けばいるのだが、ハリーの耳にはまだ足音が聞こえていない。
     そもそもどういう経緯で噂が発生したのかと、ハリーが首を傾げる。しかし発生した経緯がどうであれ、犠牲になる者がいるのならばきっちり灼滅しなければいけない。
     そんな時だった。ハリーの耳にペタンペタンという音が聴こえ始める。
     足音を聞きながら人気のない空き地に踏み込む。周囲に人がいないことを確認したハリーが振り向いた。
     しっかりとその視界にピンクのカッパをとらえると、一気に距離を詰める。そして飛び出してきたカッパの攻撃を受け止めるのだった。
    「skyscraper!」
     霊姫が力を解放すると、ライドキャリバーのグラインがハリーを襲うカッパに突っ込んでいく。同時に霊姫の歌声が響き渡る。
    「アイドルフォース、降☆臨!」
     ふわっと黒髪を揺らしたキラリも力を解放して戦場に飛び出す。
    「ゲリラライブ、行くよー!」
     そして霊姫の歌声と重なってキラリの歌声が響き渡っていく。
    「くらえー!」
     さらに帯を射出させた陽太がカッパを貫く。突然の攻撃に驚いたカッパの体が横に転がった。
     そしてすぐに立ち上がって油断なく構える。
    「うわ、意外と動きが早いです!」
     ピンクの塊の動きに陽太が驚きの声を上げた。そんな陽太の前にいた新が飛び出す。
    「……可愛らしい色してるけど、危ない河童だなぁ」
     距離を詰めながら、新が改めてカッパを見ながら呟いた。そして拳に雷を宿していく。
    「悪趣味なストーキングも、ここまでだよ」
     カッパに宣言した新の拳がカッパをとらえる。吹き飛ばされたカッパが、地面に直撃する前にその身を翻した。
     柔らかな動きで、音もなく着地する。
    「ほな、行こか」
     久しぶりの依頼で正直、緊張している白兎が力を解放する。そしてウィングキャットのララに視線を送る。
     ララとは初めての依頼となる。
    「一緒に頑張りましょう!」
     ぐっと力を込めて、ララに言いながら白兎が駆け出す。それに合わせてララが魔法を放った。
     ララの攻撃を避けることに集中したカッパの体に、白兎が緋色のオーラを宿して攻撃を仕掛ける。予想外の攻撃にカッパの体がふらついた。
     痛みを飛ばすように頭を振ったカッパが、キラリに向かって刃を振り下ろす。痛みに歌声を途切れさせた瞬間、カッパの体が吹き飛ばされた。
    「テメェの相手は俺だ」
     出現させたシールドで殴りつけた亜介がにやりと笑う。
    「余所見すんなよ」
     挑発するようにカッパを見下ろした亜介は戦闘大好きな脳筋なのだ。そんな亜介を含め、前にいた灼滅者の体を魔力を宿した霧が包み込む。
    「さて、追跡遊びは終わりだ」
     いつの間にか蛇の姿から人に戻ったクラリーベルが、綺麗な青い瞳でカッパを見据えるのだった。

    ●硬いお皿
     カッパから放たれた黒き波動に、前にいた灼滅者たちが息を飲む。いつもなら鎌を使って攻撃する霊姫ではあるが、今回は鎌を使わずに回復に専念する。
     かわいい後輩が頑張っているのだから、自分の役目をきっちりこなそうと言うように……。歌声が傷ついた仲間を癒していく。
    「ララ、お願いします」
     白兎の声に、ララも回復に向かう。同時に白兎が赤きオーラの逆十字を出現させてカッパを切り裂く。
     傷を癒してもらったクラリーベルも、すぐに蝋燭に赤く揺らめく炎をともす。そして炎の花をカッパに向けて飛ばした。
     焼かれる熱にカッパが身を震わせたところに、新が風の刃を飛ばして切り裂いていく。
    「さらにいきます!」
     跳躍した陽太が螺旋の如き捻りを加えた一撃を穿つ。さっと身を翻して間合いをとった陽太の瞳が驚きにに開かれる。
     おかしい、こんなにも狙っていると言うのに……。
    「このカッパお皿割れません!」
     どこかショックを受けたように言う陽太の言葉に、ハリーの瞳が微かに見開かれる。
    「言われてみれば……割れないでござるな」
     ごくりと赤いスカーフの下で喉が鳴る。
    「……そこは重要なのかい?」
     そんな二人の様子に、思わず新が首を傾げた。
    「割れたら致命傷な感じはするが……」
     すごく真面目にクラリーベルが呟きながら瞳を細める。
    「割ればいいってことじゃね?」
     そういうことだよなと言うように亜介が飛び出す。オーラを宿した拳がお皿を狙って何度も繰り出される。
     しかしカッパも大喜びで殴らせるわけがない。必死に亜介の拳を避けていく。
    「協力するでござる! ニンジャケンポー、閃光百裂拳!」
     同じく拳にオーラを宿したハリーが飛び出す。
    「あなたも踊ろ!」
     さらにステップを踏んだキラリがカッパに迫る。次から次へと繰り出される攻撃に、カッパが踊らされるのだった。

    ●和み
    「あなたの弱点、そこね!」
     なぜか必要にお皿を狙われて、息も絶え絶えになったカッパにキラリが攻撃を繰り出す。転がるようにして何とかさけたカッパの息は荒い。
     しかしこのままやられるわけにはいかないと、思い切り地面を蹴った。振り下ろされた刃がハリーに迫る。
     避けられないことを予想したハリーが身を守るように構えた。しかし予想した衝撃は襲ってこない。
     代わりに亜介が微かに息を飲んだ。
    「野郎はテメェの身ぐらいテメェで守れ」
     女子供しか守らないと言っていた亜介なのだが、しっかり男も庇ってくれるのだった。そして受けた傷を見て、瞳が嬉しそうに揺れる。
     傷は亜介にとって戦いを盛り上げる要素の一つでしかない。
    「大丈夫」
     特徴的な霊姫の声が響くのと同時に、亜介が回復されていく。
    「助かったでござる」
     お礼を言いながら、すでにハリーが飛び出している。ニンジャケンポーを巧みに使ってカッパを追い詰めていく。
     そんなハリーの足元を、亜介の影が走る。飛び出したシャチの影が大きな口を開けてカッパを飲み込んだ。
     暗闇に暴れるカッパの体目掛けて、白兎が駆ける。緋色のオーラを宿した攻撃がカッパをとらえた。
     影から転がり出たカッパに陽太が再び帯を射出する。
    「こなくそ!」
     なぜお皿が割れないと言うように、カッパを貫いていく。
    「お皿が割れるかはわからないけど、そろそろ終わりだよねぇ」
     すっと巨大な黒い刀身を新が構えた。柄の頭に付けられたひと房の黒髪のような飾りが揺れる。
     左腕一本で軽々と巨大なクルセイドソード、呪剣黒神が振られる。強烈な斬撃がカッパを斬り裂いた。
    「さよならだ」
     ふわりと新とは対照的な細い剣を構えたクラリーベルが飛び出す。そしてふと、そういえばカッパは川に住んでいるのでは? と首を傾げる。
     しかしそれは一瞬のことだ。緋色のオーラを宿してカッパを突き刺した。
     細剣、クルセイドソードのEdel Blauが抜かれるのと同時にカッパの体がずるりと落ちる。そして萎れひび割れていく。
     形をぼろりと崩したカッパは粉々になって消えた。そしてそこにはピンクの子豚のぬいぐるみが落ちているのだった。
    「あーあ、自分が追う側だったのに、わたしたちに目を付けられて、追われる側になっちゃったね」
     落ちたぬいぐるみを見ながらキラリが呟く。そしてもう誰も追うことも追われることもできなくなって消えた。
    「カッパにびっくりしました、ピンク色って本当にいたんですね」
     ふーっと息を吐いた陽太が瞳を輝かせて声を上げた。おつかれさんと声をかけた亜介の視線がぬいぐるみに戻る。
    「で、このぬいぐるみはどうすんだ?」
     そう言いながら、亜介が汚れたぬいぐるみをつまみ上げる。
    「……ぬいぐるみも綺麗にできるかな……」
     みんなの服を軽く叩いて綺麗にしていた新が首を傾げる。
    「拙者に任せるでござる」
     みんなの服を新たに任せて、ハリーがぬいぐるみを叩く。さっぱり洗い上がりの美しさを取り戻したぬいぐるみと、ハリーの視線が合う。
     さてどうしたものかと、今度はハリーが首を傾げた。
    「誰もぬいぐるみ持って帰らねぇんなら俺が貰うわ」
     ほらと言うように亜介が手を差し出す。
    「……ぬいぐるみ好きなんですか?」
     ちょっと亜介とぬいぐるみの組み合わせが想像できなくて白兎が瞬きする。
    「記念だ、記念」
     別に好きなわけじゃないと言うように亜介が眉を寄せる。じっと見つめられる視線に亜介が頭をかく。
    「部屋にピンクのぬいぐるみあったら女受け良さそうじゃね?」
     ぼそっと言われた亜介の言葉に、思わずほんわかと笑ってしまう灼滅者たちだった。
    「ま、部屋に女の子なんて呼んだことないけど」
     さらに続けられた言葉に、完全に和んでしまう。
    「さてさて、お仕事の後はなんか甘いものが食べたくない?」
     みんなで食べに行こうよと笑うキラリの声が響き渡るのだった。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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