●噂
「魔法のスマホを持った女の子の噂、知ってる?」
「ぜんぜん知らない」
「どっかの組織の研究者がね」
「うん」
「スマホ型の魔法アイテムを開発したらしいんだけど……」
「ふむふむ」
「そのスマホを使って、人を襲う女の子がいるらしいの」
「スマホで人をなぐるとか?」
「……私の話、聞いてた?」
「聞いてたよ?」
「そのスマホは、魔法のスマホと言うかスマホ型の魔法アイテムと言うか……」
「魔法のスマホで人をなぐるんじゃないの?」
「いやいや……普通、魔法を使うでしょうよ」
「なるほど」
「それとね」
「それと?」
「襲った人間から、魂を抜き取るらしいよ」
●教室にて
「都市伝説退治をお願いするわん」
白い犬の着ぐるみを着た少女──野々宮・迷宵(中学生エクスブレイン・dn0203)がそう言った。
「その都市伝説は、ゴスロリ風のセーラー服を着た女の子だわん。都市伝説は、ここにある公園に出現するんだわん」
と、黒板に張られた地図を示す。
「都市伝説の目的は、人間の魂を集めることらしいわん。都市伝説は、魔法のアプリが搭載された魔法のスマホを持っているんだわん」
そう言って、普通のスマホを取り出す。魔法のスマホも、見た目は普通のスマホと変わらないらしい。
だが、魔法のスマホを使えば、人間の魂を抜き取ることも可能だとか。
なお、彼女は都市伝説であってタタリガミではない。
タタリガミの中にはスマホを持った者もいるが、それは噂を広めるための情報媒体。今回の都市伝説の少女とは、スマホを持つ理由が違う。
「魔法のスマホは、武器でもあるんだわん」
魔法のアプリを起動することで、魔法を発動するのだ。ゴスロリセーラー服の少女は、相手を状態異常に陥れる戦い方を好む。
こまめにキュアをするか、あるいは「攻撃こそ最大の防御!」と攻撃を重視するか。そのあたりの選択は、灼滅者に委ねられる。
「都市伝説は、ダークネスほどの強さはないわん。みんななら、無事に帰ってこれるはずだわん。帰りを待っているわん」
参加者 | |
---|---|
イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189) |
有栖川・真珠(人形少女の最高傑作・d09769) |
城戸崎・葵(素馨の奏・d11355) |
三条院・榛(猿猴捉月・d14583) |
天倉・瑠璃(エウロペの光・d18032) |
榊・拳虎(未完成の拳・d20228) |
翌檜・夜姫(羅漢柏のミコ・d29432) |
サイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414) |
●黄昏
七不思議使いのサイレン・エイティーン(嘘月トリックスター・d33414)が語った怪談が、周囲の雑霊をざわめかせる。
その結果、一般人が近付かない空間が出来上がった。
「逢魔が時……には少し早いかな。ここで何をしているの?」
翌檜・夜姫(羅漢柏のミコ・d29432)が、ゴスロリ風の黒いセーラー服を着た少女に問いかけた。
「誰かが来るのを待ってたわ。魂を集めなきゃいけないから」
彼女は、人間離れした美貌の持ち主だった。その顔に憎しみの色をにじませ、黒い首枷に触れる。
「……あら? お人形さんみたいな娘がいるわね。ちっちゃくてかわいー」
「ごきげんよう」
「あ、ごきげんようございます」
有栖川・真珠(人形少女の最高傑作・d09769)は、まだ幼いながらも「異形」とされるほどの美しさを持つ。ほぼ無表情ということもあり、人形めいた少女だった。
「ゴスロリセーラー服ってだけで、割とそそる物があるなァ。うん、うん」
天倉・瑠璃(エウロペの光・d18032)がうなずいている。今は、もう1人の人格である(兄の人格らしい)瑠忌が表に出ているとか。
瑠璃あるいは瑠忌が、少女を見て──。
「……あっ、厨二病だコレ」
「中二病!?」
「厨二病の美少女か……ふむ」
「違うわよ! アタシ堕天使だからね!?」
「本格的に厨二病か……ふむふむ」
「この首枷が証拠よ! これのせいで翼は失うし飛行魔法はキャンセルされるし魔法も使えなくなるしで困ってるのよ!」
「厨二設定に忠実と……うんうん」
「もういいわ! それより、本題よ本題! あんたたち、アタシのために魂を差し出しなさい!」
少女が、魔法のスマホを灼滅者たちに向けた。
「写真撮るだけだから、痛い目を見たくないなら動かないように。いいわね!?」
「すまほというもので魂をとるなんて、おもしろいことをしていらっしゃるのね」
真珠は、スマホが何なのかを知らないようだ。当然、スマホは持っていない。ガラケーも持っていない。
「都市伝説も現代社会の波に乗って、ガラケーからスマホですか……。携帯に関連する噂話は色々ありますが、噂話も進化しているんですねぇ」
ゴスロリ服を纏うイシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)が、スマホを取り出した。
その隣では、ウイングキャット──ぬこが「なぁ~ご」と鳴く。その鳴き声は、あまりかわいくなかった。
「撮りますよぅ」
言われて、ゴスロリセーラー服の少女が「いえーいっ☆」とポーズ。撮影。
「って、何でアタシが撮られてんの!? 今度はアタシが撮る番だからね! こらそこ、動くな! あー、もー! こうなったら、あんたたちを動けないようにしてやるわ!」
スマホに指を走らせ、とあるアプリを起動させる。
「これで、お仕置きよ!」
灼滅者たちに見せた画面には、かわいらしい字体の「飛鳳印の殺人アプリ!」という物騒な表示。英語の表記からすると、どうやら「飛鳳」は「あすか」と読むようだ。
「なるほど」
瑠忌は、お見通しだと言わんばかりだった。
「その魔法の携帯で人を殴り殺すのか。なかなか恐ろしい携帯使いだ」
「そうそう。プロジェクトEが偶然開発した特殊素材の頑丈さを活かして敵をぶん殴……らないわよ! 殴るなら、バールとかにするわ!」
「人の魂を抜き取って何をする気かは知らないけど、放置しておいていい相手ではないね」
城戸崎・葵(素馨の奏・d11355)の言葉に、榊・拳虎(未完成の拳・d20228)が「そうっすね」とうなずく。
「人様に迷惑がかかるのは頂けんすよ」
拳虎は着ていた服(フード付きのグレーのスウェット)を脱ぎ、ボクサーの格好に。ボクサーパンツの色は、彼のイメージカラーである青。鍛えられた肉体だ。
「……まさかとは思うけど、アタシを退治しに来たとかそういう系?」
「知ってる?」
ゴスロリセーラー服の少女の視線が、今度はサイレンに向く。
「猫を連れた憑りつきピエロが、アプリを狙って公園に現れるって話……」
「公園にピエロ?」
「そう……ぼくだーーー!!」
「ピエロになったー! なんか、ピエロっぽい猫もいるし!」
ウイングキャットのアルレッキーノだ。
「てゆーか、猫が飛んでる! いや、浮いてる? そっちにもいるわね」
今さらながら、ぬこも浮いているのに気付いたようだ。
灼滅者たちがスレイヤーカードの封印を解除すれば、武器が召喚される。
「まさか……転移魔法……!?」
「ほぅれ、今回はきっちり回復してやるさかい、どーんっと暴れてき」
三条院・榛(猿猴捉月・d14583)が、仲間に声をかけた。
榛が歴戦の灼滅者である一方で、サイレンはこれが初めての依頼。先輩灼滅者として、新人が戦いに慣れるようにサポートするつもりのようだ。
「状態異常にはくれぐれも気を付けるんだよ、ジョルジュ」
葵の隣にいるジョルジュは、女性のビハインド。葵の恋人でもある。
「一般市民じゃなかったってわけね。でも、所詮は人間……と幽霊と羽付き猫じゃない。問題ないわ」
不敵な笑みを浮かべて、画面上の「START!」を押す。
『魔法が使えなくなった堕天使も、これさえあれば大丈夫! 使いたい魔法を選んでね!』
「まとめてフリーズさせてあげるから、覚悟しなさい!」
●殺人アプリ
ゴスロリセーラー服の少女が「氷」と書かれたアイコンを押した。
『氷の魔法だよ!』
音声が再生された直後、氷の魔法が発動。攻撃対象は、前衛にいる灼滅者たちだ。
ゴスロリセーラー服の少女が、口元に笑みを作る。ところが──。
「耐えたですって!?」
「まずは──」
榛が使う蛟拐は、トンファー型のクルセイドソード。彼が手首を動かせば、折りたたまれていた刃が展開される。
「ほぅれ、回復や」
そこに刻まれた祝福の言葉が、風となって仲間を癒す。
「すまほを使いこなせる人って凄いよね……」
夜姫は、機械類の扱いはあまり得意ではないようだ。
「すまほは使いこなせないけど、これなら」
檜幹の楔は、檜の幹から作られた標識。夜姫の意志に反応し、黄色の標識へと変化する。
「巫女か神主か何かかしら?」
夜姫の身を包むのは、月は無慈悲な夜の姫君。水干を模した祭儀服である。
敵は、夜姫を少女だと思っている様子。もっとも、初見で少年だと見抜ける者が多いとは思えないが。
「いざ! 魔法といいますか……呪いの携帯を破壊するですの!」
「なぁ~ご」
「呪いのケータイじゃないわよ?」
「本物の魔法をお見せするです!」
イシュテムが、魔法の矢を形成する。
「魔法まで使えるとはね……!」
放たれた矢が敵を射抜く。ぬこは、尻尾のリングを光らせた。
「面白いわね、あんたたち。研究所に連れて行って、実験材料になってもらおうかしら。魂を抜き取るのは、その後でもいいわ」
「君がスマホで戦っているのと同じ……僕も、これで戦えるのでね」
「……ギターで戦う……?」
葵がギターを掻き鳴らす。音に襲われたゴスロリセーラー服の少女は、その直後に花の香りを感じた。
「ジャスミン……?」
その香りを漂わせていたのは、ジョルジュだった。それに気付いたのは、ジョルジュの霊撃を受けた後。
「幽霊って、どうやって動いてるのかしら?」
「最近、漸くガラケーから移行した。余すとこなく使用してるぞ。MP3プレイヤーとしてな!」
「ちゃんと使ってあげなさいよ」
瑠忌が無縫の羽衣から帯を撃ち出す。
「……斬新な武器ね」
「その携帯は、トランスフォームしたりアンテナがドリルになったりするんだろ」
「しないわよ。そもそも、アンテナはないし」
「しないのか」
「しないわよ」
「魔法のスマホとは……おかしな事を考えた人がいるもんっすね。まぁ、呪文書と発動体を兼ねたデバイスって考えりゃ良いんかな? 殲術道具と似た存在、っちゃそうなんかも」
「……キリンツクール……?」
キリングツール。
「まずは、ウォーミングアップ」
拳虎の胸元に、トランプのマークが浮かび上がった。
「あぷりというもので魔法もつかえますのね」
真珠の体を覆うバベルの鎖が、彼女の瞳に集中する。
「特殊なアプリだからね。デザインは、アタシが指示したの」
「私はすまほというものを持っておりませんけれど、不思議な機械ですわね。魂と関係があるなんて、興味深いですわ」
「普通のスマホは、魂を抜き取ったりできないわよ? これが特別なだけ」
「そういうものなのね」
「このスマホは、世界に1つだけなの。たくさん作れたらいいんだけどねー」
「魔法のアプリとは、なんとも面白そうだね! ところで、その服って変身後なのかな? マスコットは犬?」
サイレンが問うが、どちらも「違うわ」とのこと。
「アタシは変身ヒロインじゃないし、マスコットもいない。そこの猫はマスコットっぽいと思うけどね」
その猫(アルレッキーノ)の尻尾にあるリングが、光り輝いた。
「あ、そこの砂場……」
「砂場?」
「には、何もなかった! 今の内に、レイザースラスト! えーい!」
「ひゃうっ!?」
「ハハッ、ゴメンゴメーン!」
「むむむ……!」
『使いたい魔法を選んでね!』
「炎上させるか、ウイルスを送りつけてやるか……どっちにしようかしらね」
●殺神アプリ
「こっちにしましょう」
『炎の魔法だよ!』
「炎上しちゃいなさい!」
炎の塊が飛んでいく。それを受けたのは、葵だった。
「サポートは任せて貰うよ──壁役としてね」
「仲間を守るとか、カッコイイことするわねー」
「大丈夫大丈夫。回復は僕がしてやるさかい、みんなは攻撃するとええ」
榛が、今度は縛霊手による回復をする。
玄武金剛腕は、堅牢な見た目の縛霊手だ。指先に集めた霊力を、葵に向けて放つ。
「あんたは攻撃しないのね」
「回復役も必要やろ?」
「それもそうね」
「状態異常推し……中々趣味が合いそうだな、うん。というかコレ、タタリガミじゃないのか。携帯持ってるくせに」
「……祟り神?」
「──啼け」
瑠忌の拳が発する闘気が、雷へと変換。拳に雷撃を纏わせながら、瑠忌が疾走する。獣のような動きで敵に飛びかかり──。
「金糸雀」
拳を振るう。
「雷のパンチか……やるわね」
「蝶のように舞うですよぅ!」
イシュテムが駆け出す。フリルやリボンを揺らしながら。地を蹴れば、彼女はふわりと宙に舞い上がる。そこから繰り出すのは、鋭い槍の一撃。
「蜂のように刺すですの!」
「魔法だけじゃないようね……!」
「ぬこ! 痺れさせちゃってくださいです!」
鳴き声とともに、ぬこがパンチ。
「……猫にパンチされた……」
「吸い取られた魂は、アプリ内に保存されているんです?」
「詳しいことはアタシも知らないのよねー。でも、魂を管理するアプリはあるわ」
「魂を抜き取って、何が目的なの……?」
夜姫が、薙刀を構える。
「アプリを進化させることよ」
「進化?」
「人殺しのアプリは、いずれは──神殺しのアプリになる」
「え……?」
「フフフッ。どうする? アタシを倒す?」
「うん。倒すよ」
薙刀──白焔薙刀に、サイキックエナジーが注がれる。すると、白い焔が現れた。
だが、白焔薙刀から撃ち出されたのは、氷の弾丸。
「炎の薙刀かと思えば……氷とはね」
「かわいい女の子を殴るのは気が引けるっすが、都市伝説だし、割り切って行くっすよ」
拳虎が、ボクシング流の足さばきで敵へと接近。
左腕は下げ、右腕だけを上げている。「デトロイトスタイル」や「ヒットマンスタイル」と呼ばれる攻撃重視の構えだ。
「夢はでっかく、世界チャンピオンだ」
その構えから、右拳が繰り出される。
「格好だけじゃなかったのね」
「……ゴテゴテしたファッションは嫌いっすが、確かに可愛いっすね」
「当然よ。首枷は邪魔だけど」
「都市伝説じゃなかったら……デートにでも誘いたかったっす、よ!」
「デート? あんたって、アタシの好みのタイプじゃないのよねー」
「……そうっすか」
「私とも遊んでくださる?」
真珠が、敵に指輪を向けた。
「あなたのような子どもまで戦うなんてね。いいわ。お姉さんが、相手になってあげる」
「うふふ。楽しみましょうね」
真珠の瞳には、バベルの鎖が集まっている。その瞳で敵を見据え、最適と判断した場所に魔法弾を発射する。
「魔法の指輪だったのね……!」
「さあさ、こちらは火吹き芸! 熱く激しく行きましょう! とくとご覧あれ!」
サイレンが持つ怪談蝋燭には、赤い炎が灯る。彼女が炎を吹けば、炎の花が飛んだ。
「そのローソクまで武器だったなんて……!」
「お次はアルレくんの肉球パンチ!」
「……2度も猫に殴られた……」
「ねえねえ、ところでさ。飛鳳印って何? 飛鳳って人が作ったってこと?」
「そうよ。彼のことは、アタシもよくは知らないんだけどね」
「さて、スマホだけでここまで戦えることに驚いているけど──残念ながら、そろそろ幕引きだ」
「……そうみたいね。翼があれば、飛んで逃げてるところよ」
忌々しげに、首枷に触れた。
「アタシには、逃げる術はないわ」
「行こう、ジョルジュ」
ジョルジュが霊力の波動を飛ばす。
「くっ……!」
「正直、肉弾戦はあまり得意でないんだけどね。これで終わりにするよ」
縛霊手に覆われた葵の拳が、ゴスロリセーラー服の少女に敗北をもたらした──。
「……アタシの負けよ……」
ゴスロリセーラー服の少女が、夕日に視線を向ける。
「人間すら殺せなかったなんて……無様なものね……」
「……嫌なことがあっても、すぐ力に頼るんじゃ解決しないんだよ……」
夜姫の言葉に反論しようとするも──。
「……いえ。そうかも……しれないわね…………」
少女の体が倒れ込む──それを、サイレンが支えた。
「ぼくの七不思議として、永久保存させて貰うよ」
「……七……不思議……?」
「君の事、しっかり語らせて貰うから、ね」
「…………そう……」
その言葉の意味は理解していないはずだが、心なしか、少女は安堵したようだった。
そして、ゴスロリセーラー服の少女は、サイレンの七不思議となった──。
「都市伝説の元になった子は、どんな子だったんだろう?」
夜姫が考える。
彼女にはモデルとなった人物がいたのか、あるいは、誰かの作り話が噂となって広まったものだったのか。
「ちゃんと写っているですね」
イシュテムのスマホには、ゴスロリセーラー服の少女の笑顔が映し出されていた。
作者:Kirariha |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年3月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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