チェーンソーの駆動音が、廃工場に鳴り響く。
その廃工場は、年単位で使用されていない工場街の外れにあった。住宅地にも遠く、通り過ぎるのは他の工場へ行き来するトラック程度。だからこそ、その音に気付く者はいなかった。
しかし、耳にした者が素養のある者なら気付いたかもしれない――その音に混じった、『音楽』に。
廃工場にいたのは、六体の頭部からはチェーンソーが生えた人間程度のサイズまで巨大化したイモムシ――チェインキャタピラーだ。その中の一体が、音の元凶だ。その背にエレキギターを背負い、リズムカルに駆動音を奏でていた……。
「問題は、遠からずこいつ等が外に出てしまう事っす」
湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、そう厳しい表情で切り出した。
今回、翠織が察知したのはとあるはぐれ眷属、チェインキャタピラーの群れだ。
「廃工場にチェインキャタピラーが住み着いたんすけどね? 今までは誰も寄り付かなくって犠牲者は出なかったんすけど、ひょんなきっかけで外に出ちゃう事になるんすよ」
そうなってしまえば、チェインキャタピラーの群れを止める術は一般人にはない。工場街と言う事もあって、大きな被害が出る事だろう。
「そうなる前に止めて欲しいんすよ。人の目に留まりにくい場所っすから、人払いの必要もないし昼間に挑んでも大丈夫っす」
数は六体。その中の一体はエレキギターによく似たバイオレンスギターを背に背負っている。この個体は、通常のチェインキャタピラーよりも強力だ。ダークネスほどの実力はなくとも、数が数なので注意が必要だ。
「何にせよ、被害が出る前に対処可能な事態っす。時間はちゃんとあるっすから準備を整えて万全の状態で挑んで欲しいっす」
参加者 | |
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セリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671) |
叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779) |
二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780) |
北斎院・既濁(彷徨い人・d04036) |
ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951) |
シフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278) |
クラリス・カリムノ(導かれたお嬢様・d29571) |
牛崎・虎丸(人混みの中の雪花菜・d33479) |
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廃工場――かつては、活気に満ちて痕跡だけが残る捨てられた場所。そこに、牛崎・虎丸(人混みの中の雪花菜・d33479)の怪談が紡がれた。
「――悪鬼とは何なのか? それは偏に言うなれば人の想像が生み出した鬼。"口は災いの元"――言葉の通り、想像上で終わるはずの悪鬼は言葉が積もるにつれ実態を持った」
目の前にあるのは、工場の鉄扉だ。鍵など、掛かっていない。迷わず、灼滅者達はそこを開いた。
「生まれた瞬間から疎まれる存在。自らは何をしたわけでもないのに悪と責められる。目には目を歯には歯を悪鬼が人を傷つけ始めるのに時間は要しなかった……悲しいですよね、そんなもの――"今宵は其方らが世界への反逆者となる時成――具現せよ『悪鬼』"」
怪談蝋燭を手にする虎丸の周囲に、角が一本、二本、三本、四本、四体の体長60cm程の小人の姿が浮かぶ。それを出迎えたのは、耳をつんざくチェーンソーの駆動音であった。
「うーるーさーいー! 私もチェーンソー使うけどそれはそれ、これはこれ、だよ!」
「まさにインダストリアル、いや、ノイズミュージックかな? いいね、折角だから全身で楽しませてもらうよ」
思わずシフォン・アッシュ(影踏み兎・d29278)が耳を塞ぎ、その振動を楽しむミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)の足元ではオーディオビジュアライザーのように、合わせるミカの爪先の動きのように影が動く。
「チェインキャタピラー、実物で見るのは初めてね……、何故ギターを背負っているのかしら?」
クラリス・カリムノ(導かれたお嬢様・d29571)が見たのは、一体のチェインキャタピラーだ。その背にはバイオレンスギターを背負っており、無茶苦茶な音にリズムを与えているのはこの個体だ。
「まあ、何と言うか、不協和音と、言うべきなのか、どちらも、良くも悪くも耳に響く音ではある」
こちらを警戒しているのだろう、距離を開けて伺ってくるチェインキャタピラーに、セリル・メルトース(ブリザードアクトレス・d00671)は言い放つ。
「さあ、悪夢は此処で幕引きだ、最期の演奏くらいは、聴いてあげる」
「生憎、音楽とやらのセンスは無いのさ。……では、精々奏でさせてもらおう。拙い指揮者ではあるがね――さぁ、灼滅演算を始めるとしよう」
二神・雪紗(ノークエスチョンズビフォー・d01780)の言葉に、駆動音が甲高くなっていく。侵入者が戦闘体勢を取ったからだろう、チェインキャタピラーの群れから確かな殺意が放たれた。
「で、そろそろサナギか羽化とかしないのか? 他の眷属達よりも一歩先に、未来へと進もうじゃないか。必要な資料はこちらでご用意しよう、今なら特典でビッグな虫かごまでついてくる、お得! ……まぁ、そんな事関係なくその刃を尽く潰すんだけれども。ギター持って上京してスター目指すのかは知らないが潰そうか」
煽る北斎院・既濁(彷徨い人・d04036)に、チェインキャタピラーの群れが反応する。目を閉じて深呼吸、クラリスは目を開いた。
「いくわよ……!」
弓を構えるクラリスに、叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)もESPサウンドシャッターを発動、言い捨てた。
「一凶、披露させてもらおう」
『ギチ!!』
廃工場内に、咽び泣くエレキギターの音が響き渡る――ゴォン! とソニックビートの衝撃が、廃工場を揺るがした。
「すごいね、ライブ会場とか賑わいそうな音……ううん、『声』だ」
ミカは細身の無敵斬艦刀、Voiceを手に衝撃の凄まじさに笑みをこぼす。ここに聴衆は存在しない、全員が演奏者となって戦闘狂想曲が幕を開けた。
●
「チェーンソーの風上にも置けない連中は、刀身全部削ってやっつけてやるんだからねっ」
ギ、ギギギギギギギギギギギギギギギギギン! と火花を散らしながらシフォンがチェーンソー剣を引きずる。アスファルトと削りながらニヤリと不敵に笑うと、シフォンが火花の軌跡を残しながら疾走した。
『ギチ!』
「おっそいよ!」
一体のチェインキャタピラーの前でシフォンは大きく曲がり、ステップを刻む。ヒュオン! と風を切り裂きながら体には大きすぎるチェーンソー剣を振り上げた。ガ、ギギギギギギギギギギ! と硬い外皮がシフォンのズタズタラッシュで切り刻まれる――雪紗は後方で駆けながら、思考を加速させた。
(「さて確認しよう。敵はジグザグを持ち、服破り、アンチヒールなどのBS。更には妨アップ。つまりはバステ布陣と言う事だ。キュア手段が重要と言える」)
灼滅するための演算装置、雪紗はすぐさま行動に移行する。アタッチメント『スカーレッドサージ』を起動、切り刻まれた傷口へとレイザースラストを射ち込んだ。
『ギチ……!』
その一点集中の連携を見たボスが、動こうとする。だが、そこへ魔法光線がヒュガガガガガガガガガガッ! と雨あられのように降り注いだ。
「天井があるからと言って、防げない雨もあるさ」
環状にまとめた魔導書、Weisheitの一部の記述を指先で撫でながら既濁が言い捨てる。ボスの殺気が自分に向かう、理由なき殺人鬼はさも楽しげに当然のごとくそれを受け止めた。
「頑張って……!」
ミカの元へと駆け寄ったクラリスが、煌めく雪の守護鎖帯を両手に取り操った。ふわり、と雪のように白く煌めく鎖の形状をしたベルトがミカを優しく包んでいく――クラリスのラビリンスアーマーだ。それに合わせて、ナノナノのドリームメアがたつまきを巻き起こした。
「ボクらも行こうか、ルミ」
ミカと霊犬のルミが、同時に駆ける。二つの白が、吹き荒れる風の中を突っ切った。幾度もの攻撃を受けて傷ついたチェインキャタピラーへと、ミカのVoiceによる大上段の縦の斬撃とルミの斬魔刀が横の斬撃――十字の斬撃が、刻まれる!
『ギチ!?』
「今日の御仕事は害虫駆除ですか……」
虎丸が扇子を開き、右から左へと振るった。ゴォ! と巻き起こる旋風、虎丸の神薙刃がチェインキャタピラーを飲み込む。
「頼んだ」
切り刻まれた傷口へ半獣化した銀爪を突き刺し、宗嗣がチェインキャタピラーを空中へと放り投げた。チェインキャタピラーが、空中であがく。そこへ、セリルがマフラーをひるがえした。
「真白なる夢を、此処に」
セリルが光を手に取ると、伸びてEirvito Gainstoulへと変化する。セリルがEirvito Gainstoulを構えた瞬間、レイザースラストが放たれた。ドォ! と撃ち砕かれたチェインキャタピラーが空中で爆発四散、その欠片が降る中を四体の通常個体が駆け抜ける。
「その硬さでいつまで持つのか……興味はありますね」
防ごうと動く小鬼の群れを前に、虎丸がぼやいた。ジェミニ・バタフライ[ポルクス]とジェミニ・バタフライ[カストル]――白黒のライフルを手に、雪紗は言い捨てる。
「本命が来るよ」
ジャキン、とボスの背中のバイオレンスギターが、チャーンソー部分に移動した。そして、まるでロックバンドのギタリストよろしく、オルタナティブクラッシュを振り下ろす。
「パフォーマンスだけは、一人前か」
殴りつけられた既濁は、そう軽口を吐き捨てた。破綻したツギハギの精神は、追い詰められた状況さえ楽しむのだ。
「立ち塞がるなら、打ち砕くまでだ」
セリルはEirvito Gainstoulを構え、そう言い捨てる。廃工場を会場とした戦闘音楽は、ただただ激しさを増していった。
●
ギ、ン! とチェーンソーと片刃の短刀が激突する。宗嗣は逆手に構えた無銘蒼・禍月でチェインキャタピラーの一撃をいなすと、刀身七尺を越える超長尺刀――大神殺しの刃を非実体化させ、薙ぎ払った。
「やれ」
「任せて」
そこへ雪の結晶のごとき白い光を煌めかせ、セリルが間合いを詰める。螺旋を描くEirvito Gainstoulが突き刺さり、セリルはそれを振り払った。ガゴン! と廃工場の壁にチェインキャタピラーが叩き付けられた瞬間、雪紗がジェミニ・バタフライ[カストル]の銃口を向けた。
「三体目」
ドン! とデッドブラスターの漆黒の銃弾が、チェインキャタピラーを貫通する! 度重なる攻撃に、ズルリ、とチェインキャタピラーが崩れ落ちた。
「ほら、次が来てるぞ?」
そして、動こうとしたチェインキャタピラーに既濁が死角から襲い掛かる。WILD CASEによる切り上げに、大きくチェインキャタピラーの外皮が切り裂かれた。その傷口へと、ルミの六文銭が射撃される!
「はい、もうひとつおまけだ」
CDのような外観の光輪を指先で回し、すかさずミカが投擲。ヒュ、ガン! とミカのリングスラッシャーが、チェインキャタピラーを両断した。
「まだまだ!」
シフォンが、駆け込む。チェインキャタピラーはチェーンソーを横へ薙ぎ払った。それをシフォンは身を沈めてやりすごし、跳躍と同時に縛霊手を振り上げた。
『ギ!?』
ゴォ! とのけぞったのと同時に、チェインキャタピラーが霊力の網に捕らわれる。もがくチェインキャタピラーに、シフォンが叫ぶ。
「虎丸さん!」
「お呼びとあらば」
虎丸が開いた扇子を左から右へと振るうと同時、一条の電光がもがくチェインキャタピラーへと降り注ぎ、粉砕した。
『ギチギチギチ――!』
ボスが、動く。鋭く強力なチェーンソーの一撃を、ミカが庇った。
「優しき風よ、仲間を救って……!」
クラリスの想いに応えるように清めの風が吹き抜け、ドリームメアのふわふわハートがミカを回復させる。ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイン! とギターを奏でるボスに、クラリスは静かに言い捨てる。
「それにしてもやけにギターの音が響いてくるわね……集中力が少し欠ける気がする……」
一方、ボスは絶好調だ。音色が乗れば、気分も乗るのだろう。果敢に灼滅者達へと襲い掛かってきた。
「まったく、これで幼虫なら成虫になったらどうなるのでしょう……?」
しみじみと、虎丸がこぼす。だが、虎丸の言葉を借りれば今はただの幼虫――はぐれ眷属に成長の余地があるかどうかを別にしても、灼滅者達の数を跳ね除ける実力はなかった。
『ギ――!!』
ボスのソニックビートが鳴り響く、それに既濁はWILD CASEを振り払い毒の旋風で相殺した。衝撃が旋風を砕く――その中を、迷わず既濁は駆け抜けた。
「ミディアムくらいがいいかね」
燃える既濁の右回し蹴りが、ボスを燃やす。そこへ、雪紗は『スカーレッドサージ』の照準を合わせた。
「八重奏の如く、畳み掛ける」
ヒュガ! と突き刺さった雪紗のレイザースラストにボスがのけぞる――その巨体を、虎丸の神薙刃が飲み込んだ。
「宴もたけなわ、されど終幕の時です」
「ああ、盛大に奏でて行こう!」
そして、それに続いて旋風ごとミカのVoiceとルミの斬魔刀が×の字をボスへと刻んだ。ほろこぶ風の中、ボスが大きくのけぞる――そこへ、死角から滑り込んだ宗嗣が横一文字の傷跡を与えた。
「そこだ」
「ええ」
クラリスが白い雪がごとく鎖を揺らして、異形の怪腕となった鬼神変の拳で殴打。ドリームメアのしゃぼん玉に包まれながら、ボスは壁へと叩き付けられた。
『ギギ!?』
「此処で、断ち切る!」
音もなく広がった白い光の翼――セリルのEirvito Gainstoulの一撃に、ボスが宙に浮く。そこへ、すかさずシフォンが跳躍した。
「これで――終わりだよ!」
落下の勢いと、自身の宙返りの遠心力で加速を得たシフォンのチェーンソー剣が、ボスを両断する! ギ、イイン! と一際高く上がるギターの音色――その反響が止んだ時、拍手ひとつない静寂がそこに戻ってきた……。
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「オヤスミ、ケダモノ」
静かに目を閉じ、顛末をセリルは己の内に刻み込む。相手が誰であれ、討ったと言う事実を否定する気はない――己の所業として、確かに背負った。
「みんな、無事でよかった……」
誰一人大きな負傷を負う者がなくすんで、クラリスは胸を撫で下ろす。この戦い、決して結果ほど楽なものではなかった。油断は、一歩間違えばこちらに大損害をもたらす――この戦いは、その事をしっかりと教えてくれた。
「では、帰るとしよう」
セリルの言葉に、灼滅者達は歩き出す。外に出れば、遠く工場の音が届いてきた。戦いの最中には気付かなかったが、そこには確かに人の息づく音があったのだ。
その音が、あのはぐれ眷属達の騒音に掻き消される事はもうない。その事実を胸に、灼滅者達は帰路へとついた……。
作者:波多野志郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年3月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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