●愛媛県道後温泉
ここは愛媛県の道後温泉。湯煙が立つ露天風呂の1つ。湯煙の向こう側に2つの人影が見える。
「しかし実に立派な毛並ですね、惚れ惚れしてしまいますわ」
「うむ、そうだろう? 自慢の毛並だ」
「温泉のお湯を吸ってか、艶もでてきてますし……日々の戦いで見るからにくたびれていた様子でしたが、今は本当に生き生きとしてますわ」
「そうかそうか。いや実際、本当に普段の戦いは辛い物があるからな」
温泉に浸かっている、羊の角が生えた女性。淫魔。
そしてその淫魔が話しかけているのは、鍛え上げられた男性の身体に、頭部に黒子頭巾のようにタオルを被ったご当地怪人。タオルに自己紹介のようにでかでかと、今治、の二文字が輝く今治タオル怪人である。
「先程身体を洗うときに貸していただいたタオルですが、あれも本当に最高の肌心地で……日本に、いや、世界中に流行って欲しいですね」
「分かってくれるか。風呂上がり用にバスタオルも、バスローブも用意してあるぞ。是非使い心地を広めていってくれ」
「分かりましたわ。こんな素晴らしいタオル、広めないわけにはいきませんもの」
「うむ……! ふふ、しかし今治タオルの素晴らしさを分かってくれるものがまさかダークネスにいるとはな! 俄然私もやる気が湧いてくるものだ!」
見るからにやる気に満ち溢れていく今治タオル怪人。満ち溢れすぎてオーラとなって見えてしまっているレベルである。
そんな様子を見ながら、笑みを浮かべている頬の端を震わせながら淫魔は内心首を傾げていた。
褒めて煽てるだけだしこれ私達淫魔がする必要性ないんじゃないかしら……? と。
●教室
「HKT六六六に動きがあったみたい」
田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)が今日も今日とてカップ麺にお湯を注ぎながらそう口を開いた。
「ゴッドセブンを、地方に派遣して勢力を拡大しようとしているみたいでね」
今治ラーメン、と書かれた蓋をテープで閉じる翔。
「で、ゴッドセブンのナンバー5の、もっともいけないナースが、愛媛の道後温泉で勢力を拡大しようとしているっぽくて」
その予知が視えた。と言う言葉と共に、タイマーのスイッチを押す。
内容は実に淫魔らしい。もっともいけないナースは配下のいけないナース達に命じて、周辺のダークネス達に『サービス』をしているらしい。
サービスをすることでそのダークネスと友好関係になり、さらにそのダークネスをパワーアップさせてしまうと言う話である。
「だから、君達にはこの企みを阻止して欲しいんだ」
ダークネス達がいる温泉を地図で軽く説明した後、翔は敵の情報の詳細を語り始める。
「ナース……淫魔の方は、まぁ至って普通のいけないナースだね。羊の角に肩辺りに羊の毛がアクセントみたいに付いてるぐらい?」
このいけないナースは、『お客様に安全にお帰り頂く事を再優先』する為、自分が足止めして、湯治に来たダークネスを逃走させようとするようだ。
使ってくる技も淫魔の、つまりサウンドソルジャーのそれに性質が非常に近い物ばかりである。
「補足だけど、催眠をかけてくる方の技は今治タオルの素晴らしさを伝えてくるよ」
灼滅者達の頭上に一斉に疑問符が吹きだす。
「そのサービスをされているダークネスなんだけど。今治タオル怪人なんだ」
疑問符が弾け飛び、あっ……って何かを察した顔をする灼滅者達。
「湯治をしながら、淫魔に今治タオルの素晴らしさを持ち上げられて元気満々。ぶっちゃけサービスと言う名のよいしょというか持て囃しというか元気づけと言うか」
それ淫魔である必要性があるのかと言う声もあるが、一先ず置いといて。
「タオルを巧みに操って攻撃や防御をしてくるよ」
その様、まさにダイダロスベルトの如し。
チラリとタイマーを確認して、手をカップ麺の蓋にかけながら、ああそれと、と翔は付け加える。
「もしもダークネス2体を倒すのが難しいようなら、ご当地怪人の方は逃走させても良いかもしれない」
今回の作戦は、HKT六六六の勢力拡大の阻止だから。
タイマーがなり、それを止めながら蓋を開ける翔。
「……まぁ、折角の遠いところの温泉だし。無事に作戦が終わったら温泉を楽しんできてもいいんじゃないかな」
そう言って、カップ麺の今治ラーメンを啜り始めるのだった。
参加者 | |
---|---|
加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151) |
睦月・恵理(北の魔女・d00531) |
ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802) |
倉澤・紫苑(ケーデンス・d10392) |
杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015) |
御門・心(日溜りの嘘・d13160) |
三雨・リャーナ(森は生きている・d14909) |
齋藤・灯花(麒麟児・d16152) |
●温泉ですが服を脱ぐ必要はありません
加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)さんは何故水着にタオルを巻いているのでしょうか。睦月・恵理(北の魔女・d00531)も、興味深そうに見ては自分の身体と見比べない。
「しかし、温泉で戦うって、何か見えそうでどうも嫌なんですが……まあ仕方もなく……お仕事頑張って下さいタオルさん」
いえ怪人の事じゃなく。怪人達を隠すと言う意味で。
「ラブリン一派もそうですが、HKT六六六までもが勢力拡大に動き出したようですわね……」
ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)の言葉に頷く倉澤・紫苑(ケーデンス・d10392)。
「温泉で接待なんていかにもって感じだよねー。まぁHKTに勢力拡大されても困るし、きっちり邪魔してあげないとね」
そこまで言って、そして首を傾げる。
「それにしても、なんで淫魔がHKTと手を組んでるんだろうね。何か有利になることがあるってことかな?」
「どうでしょう。バベルの鎖に隠れ、知らぬところで手を組んでいても不思議ではないですから」
御門・心(日溜りの嘘・d13160)の返答。ま、それもそうか、と返す紫苑に、杉凪・宥氣(天劍白華絶刀・d13015)もチョコ菓子を食べながら頷く。湿気凄いですが大丈夫ですかお菓子。
「しかし……」
お菓子を飲み込み、呟きながらヘッドホンを取り出し、頭に付ける宥氣。
「温泉は音が反響するから聞き取りづらいんだよな。まあ、彼処のナースと怪人をなんとかしないとな」
そう言いながら見据えた湯煙の向こう。ターゲットとなる2つの人影と話し声が聞こえてくる。
今治タオルを褒める声。それを聞きながら、三雨・リャーナ(森は生きている・d14909)は頭に疑問符を浮かべた。
「サービス……?」
とは一体。
「褒めるだけのお仕事なんて、いけないナースさんも大変なんですねぇ」
凄くしみじみと言われるいけないナースさんかわいそう。
「何がいけないんでしょうねー?」
そしてこっちも頭に疑問符を浮かべる齋藤・灯花(麒麟児・d16152)。貴女はまだ知らなくていいの。ほら、何がいけないのか分かっている周りのお兄さんお姉さんたちがちょっと気まずい表情して目を逸らしてる。
まぁ、それはそうとして。
「色即是空、空即是色……硝煙弾雨ヲ求ム者也……」
と目を瞑り、額当てをつけてスレイヤーカードを縦に切る宥氣を置いて、大きく前に、湯煙を突き破る勢いで前に出る灼滅者が2人。
「會津がご当地ヒーロー、灯花推参です! ご当地怪人いるところに灯花ありなのです!」
温泉な例のテーマを口ずさみながらババーンとポーズをとる灯花。
「そこまでだ、HKTもといDOG六六六のいけないナース!」
その隣に水着タオル姿の蝶胡蘭も並ぶ。あ、この人防具が水着だ! ここまで徹底してきた!
「な、何あなた達!?」
それに対して、湯船の中で慌てふためく淫魔と。
「ご当地ヒーロー! ついにここを嗅ぎつけたか!!」
驚異的な理解力で湯船から跳び上がる今治タオル怪人だった。なお、湯船から飛び出すと同時にどこからか現れたバスローブが装着されましたので見た目に支障はありません。
●ウール10%ぐらい
次いで温泉から出てくる淫魔にも同じようにふぁさっとかけられるバスローブ。そんなダークネス達の目の前に、幾つもの黄色い標識が突き出て立ち塞がる。
「タオル注意って何」
「ほら、一応武器っぽいからね?」
聞こえてきた声に、タオルがたなびく標識の後ろから紫苑が顔を出した。ところに襲い掛かってくる今治タオル。
咄嗟に標識の後ろに隠れてやり過ごす。隣では蝶胡蘭がシールドを展開した左手を握り締めつつ淫魔に踏み込み、同時に宥氣も日本刀に炎を纏わせ斬りかかる。
流石怪人所為のタオルと言うべきか、2つの攻撃を受け止めつつも衝撃を受け止め、そして炎をも包み込む。淫魔自身が驚いているが、そこにさらに襲い掛かる螺穿槍とスターゲイザー。
「くっ……い、今治タオル怪人様! 狙いは私のようです! 今のうちにお逃げを!」
「だがしかし!」
驚く怪人の目の前に、跳び蹴りから素早く戻ってきた恵理が立ち塞がり扉を塞ぐ。
「いいのです……! 私たちの目的はお客様の満足なので!」
「それほどの心意気であるならば! だがしかしまずはこの女が邪魔だ!」
目の前の恵理を、今治、の二文字にて睨み付ける怪人。多分睨んでるんです。
分かりましたと頷き、一つ呼吸を整えると情熱の篭った振り付けのダンスを舞い始める淫魔。例えリャーナのもつ【諸刃刀「春一番」】に切り裂かれても踊りは止めることなく、エネルギーが衝撃となり前衛陣に襲い掛かる。
「フンヌゥ!!」
大の字に身体を広げる怪人。どこに隠していたのかバスローブの中から大量のタオルが四方八方に長く長く伸びていき、ご当地ビームを射出していた蝶胡蘭や、剣を構え直しているリャーナに巻き付いた。
もふ、とタオルを掴み、頬擦りする蝶胡蘭。
「この今治タオル、ふんわりと柔らかな肌ざわりで着け心地最高だな。癖になりそうだ」
「あぁっ……。……べたべたの体の水分が吸収されて心地良い……」
幸せな顔をするリャーナの声を聞きながら、至福の顔をしながら淫魔の方を、正確にはその身に纏う羊毛をちらりと見る。
「因みに今治タオルの素材は綿が主流らしいけど、淫魔の方は羊毛派なのか?」
「……その毛並、中々の艶ですね。お手入れは十分と見ましたが」
恵理も加わった揺さぶりの言葉に、ビームによる怒りもあるのか、睨み返す淫魔。
「ああ、でもわかるわかる。その肩の羊毛も見るからにふわふわでもしかしたらこの今治タオルより触り心地良いのかもな」
「ええ、淫魔ですものね。さぞかしの手触りなんでしょうね」
で、今治タオルとどちらが上だと思います?
さらに言葉を重ねると、肩が軽くプルプル震えているのが分かる。
「まあ、確かにそのような太鼓持ちみたいな仕事は、わざわざ淫魔がする事では無いのかもしれませんわね……自らの肢体で以て、相手を篭絡し堕落させる……というのが、淫魔の本分かと」
そちらの安っぽそうなタオル怪人などではなく、もっと大物をも墜とせるのでは?
ミルフィの容赦ない追撃。
「安っぽそうなタオル怪人……と言ったな?」
先にタオル怪人がキレた。咄嗟に紫苑がフォローに入る。
「安っぽく何てないわよ、高級タオルとして認められてるし。……ところで、すでに高級タオルとしての地位を確立してるのに何で今更改めて今治タオルを広めようとしてるのかしら?」
「日本中のタオル全てを今治タオルに! そしてやがてゆくゆくは世界中で使われているタオルを100%今治タオルに! するためだ!!」
「広めるより前に作る方に力を入れなさいよ!」
フォローからツッコミに変わった。その耳に、歌声が聞こえてくる。自分に向けて聞かされているわけではないが、淫魔の口から紡がれる即興で作られた今治タオルを湛える歌はしっかりと耳に残る。そしてその歌の矛先は、恵理。
「……職業意識お見事。これは今治タオル万歳をしないわけにはいきませんね」
「えっと、催眠かかってます?」
心が首を傾げながら癒しの矢を撃ちこむ。その前でミルフィが淫魔に向かって飛び掛かっていた。
「こちらもサービス込みですわよ……!」
大開脚からの踵落としスターゲイザーは、身体を捻って避けられる。だがしかし、続く灯花のドグマスパイクはその身を大きく貫いた。
同時に、怪人のタオルがうねり恵理の身体を強かに打つ。大きくよろめいたその身体に再び心の回復は飛ぶが、深く負った傷までは治せない。
怪人の抑えが攻撃を重視したもの1人では、荷が重かった。
●顔だけ綿100%
「させませんわ! アームドナイトオブホワイト、展開!」
淫魔が息を吸い込んだのを見て、咄嗟に恵理にラビリンスアーマーを飛ばすミルフィ。恵理を包み込んだ光帯が淫魔の歌声を掻き消す。
しかし、その帯の向こう側から、タオルが突き破ってきた。防御が追いつかず、身を抉るように打ち付ける今治タオル。
「タオ、ルに……!」
崩れ落ちた恵理。その身体を乗り越えて扉に手をかけて振り返る怪人。
「すまぬ! 先に行くぞ!」
「構いません! 後から追いつきます!」
見事な死亡フラグが建築される淫魔の返答。それでも、今治タオル怪人は親指を立てながら扉の向こうへと消えていく。
「くっ……!」
ですがあなただけでも! とリャーナが斬艦刀を構え踏み込んでいく。
「椿、序の型、葉桜絶衝!」
同時に宥氣も、足に影を纏わせてローリングソバットを繰り出した。心の吹かす清めの風の中、刀とソバットを受け止めつつも大きくよろめいたその淫魔の身体に突き進む1つの影。
紫苑の持つ、いけないこと禁止、の文字と絵柄が描かれた赤色の標識が握り直され、加速した。強かに淫魔を打ち付けたそれは相手を風呂の中に叩き落とす。
水飛沫を上げ、むせながら起き上った淫魔の身体を灯花が掴んだ。
「くらいなさい、ならぬことはならぬダイナミック!」
風呂場の中から外に出す様にパワーボム。
「大体、タオルを、湯船にいれちゃあダメでしょう!!」
風呂に叩き落としたのは灼滅者なのに酷い言われようである。
もう一度淫魔は起き上がりながら、大きく上下させている肩を震わせ始める。
「わ、私だって……!」
本当はカシミヤの方が好きよ!!
激情の思いと共に発せられた声が、淫魔自身の傷を癒していく。そうは言ってもここで己を回復させるのは、自分を少しでも長く留まらせることでお客様を安全に返すという心の表れなのだろう。
リャーナが、そう思います。と口にしかけて、でも今治タオル怪人は既にいないから同調しても意味ないかと口を閉ざした。代わりにフォースブレイクを労う様に叩き込んだ。
「その本心を、あの怪人の前で言ってくれればありがたかったのだがな!」
蝶胡蘭の放つビームが、皮肉と言うべきかバスローブが受け止め、弾く。
しかし受け止めたことで大きく乱れたローブの隙間を狙い放たれた宥氣の漆黒の弾丸が肌に突き刺さる。そして、その弾丸に並走するように走り込んでいた紫苑が裏回る。剥き出しの素足は格好の獲物。その腱を刈り取る一撃に、膝をつく淫魔。
落ちる影。前を向けば、ミルフィが愛刀の【牙兎】に炎を纏わせて上段に振りかぶっていた。
「我が焔の剣、とくと御覧下さいまし―――これぞ―――」
七支牙兎――!
刀に纏わせた炎が、まるで七支刀のように変形する。そのまま振り下ろされた炎の刃が大きく淫魔を、バスローブごと切り裂いて。
「繊維だけあって、よく燃えますわね……」
燃えるバスローブの中で消えていく淫魔を見ながら、ミルフィはそっと呟いた。
●サービスシーンはありません
今治タオル怪人の姿は、既にこの温泉には見当たらなくなってしまっていた。恐らく逃げたのだろう。
逃してしまったのは仕方がないので、恵理を治療して、気分を切り替えて温泉を堪能することにした灼滅者達。
「……」
一人、男湯にぼーっと浸かっている宥氣。
平日の昼間で、先程まで殺界形成とサウンドシャッターが展開されていたからか、温泉の中に人は灼滅者達を除いている気配はない。
お湯の流れる音と、壁の向こうから聞こえてくる女性陣の声が、今回唯一の男参加者となった宥氣の耳に飛び込んでくる。
「では、皆様のお背中などお流し致しますわ♪」
これはミルフィの声だろうか。
「へ? い、いいいやいいですよぉ!?」
「あら、じゃあ折角だからお願いできるかしら?」
騒ぐ声が聞こえる。
「おっと、灯花。タオルが温泉の中に落ちそうだぞ」
「わ!? あぶなかったのです!」
「タオル……ふわふわのタオル、心地よかったなぁ……」
「……催眠にかかっていたわけではないですよね?」
和気藹々とした声も聞こえてくる。
「それにしても、たのしみですね、お風呂上がりに食べる蕎麦!!」
「蕎麦?」
「風呂上りは牛乳かジュースと思うのだけれど」
「蕎麦がいいのです!!」
風呂上がりの飲食か……。
何か食おうかな、と、ぼーっとした頭で、ぼーっと考える青年が、男湯にただ一人、お湯に浸かっていた。
作者:柿茸 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2015年3月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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