HAVE BLUE

    作者:来野

     春の午後。沖縄の国際通りは今日も観光客で賑わっている。
     その一角に真新しい看板があった。『ふわもふ屋』と書かれている。淡雪のような食感のミルクカキ氷を売る店だ。
     店頭にメニューをじっとにらんで迷う少女がいる。
    「決まった?」
     姉らしき少女が後ろから覗き込むと、チョコレートソースのかかった氷の写真を指差した。
    「これ」
    「よし、奢っちゃる。半分こだよ」
    「うん!」
     顔を見合わせて微笑む姉妹に、カキ氷を手にした店員もまた表情を緩める。
     その様を通りを挟んだ向こうから見つめる者があった。
    「……笑っている」
     不快げに呟く。背後から答える影があった。
    「いけませんか」
    「ああ。いけない」
    「ふむ」
    「だから」
     と振り返った時、小さく構えた影はもうそこに居なかった。
    「話が早いな」
     呟いた彼の名を、スマイルイーターという。
     
     石切・峻(高校生エクスブレイン・dn0153)が難しい顔をしている。
    「軍艦島の件、どうもありがとう。礼も早々で申し訳ないがHKT六六六に動きが見られた。ゴッドセブンの名はもう耳に届いているだろう?」
     なんとも忙しないが、これぞ武蔵坂。ホワイトボードに掲げるのは沖縄の地図だった。
    「至急、那覇に向かってくれ。灼滅対象はゴッドセブンのナンバー5・スマイルイーターの配下」
     主であるスマイルイーターは那覇市の国際通りで現地ダークネスを配下に置き、一般人の虐殺を行おうとしている。目的は沖縄の支配だ。
     質問者が手を上げた。
    「灼滅するのは配下だけ?」
     峻は苦渋の表情で頷く。
    「スマイルイーター自身は戦おうとしない。配下に一任する」
    「攻撃をしかけたら?」
    「『沖縄の各地に爆弾を仕掛けており、自分が灼滅されたら大きな被害が出る』と脅してくる」
     現時点では爆弾の仕掛け場所がわかっていない。無理押しは対処不能の悲劇を招きそうだ。
    「よって今回はスマイルイーターの灼滅は見送り、事件の阻止と配下の灼滅を成功させて欲しい」
     口惜しさを一旦置いて、話は進む。
    「で、君たちにお願いしたいダークネスはソロモンの悪魔だ。好む手段は毒殺」
     峻は地図の一角、十字路の角に位置するカキ氷店を指し示した。
    「場所はここ。相手は氷にかけるチョコレートソースにサイキックの毒を仕込んでくる」
     灼滅者であれば回復すれば何とかなるが、一般人は舐めただけで即死する。意図せぬ加害者と被害者、両者が不幸になるという図式だった。
    「スマイルイーターは言うまでもないが、この悪魔も立派なろくでなしだ。逃がせば他店の食べ物に毒を仕込んで次々と人を殺すだろう」
     地味だが歯止めのきかない手合いといえる。早期灼滅以外に手はない。
    「君たちが到着する時、店員がちょうど毒入りソースをカキ氷にかけている。ソロモンの悪魔は納入業者を装って店員の背後にいるが、失敗したとわかったら通用口から脇の通りに逃げようとするはずだ」
     店舗は十字路の角にあり、脇の道は正面の通りよりも人通りが少ない。
    「使用するサイキックは手指に仕込まれていて、殺人注射器に似たものだ。他に広範囲の攻撃も使ってくる」
     必要事項をまとめた資料を皆に配って、峻は眉根の力を抜く。
    「スマイルイーターか。煽ってくれるよな。それだけに一般人への被害は確実に防ぎたい。丁寧に当たればそれが可能なはずだ。君たちならばやり遂げてくれると、俺は信じている」
     そう締めくくった。


    参加者
    神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)
    雛本・裕介(早熟の雛・d12706)
    ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)
    鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)
    天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)
    炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)
    鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780)
    遊木月・紫祈(鬼隠し忌譚・d33362)

    ■リプレイ

    ●FANTASTIC St
     国際通りの春の午後。カキ氷店『ふわもふ屋』の前では、小さな少女が目をきらめかせてカウンターの中を見ている。
     欠かれたミルク氷は小鳥の羽毛のようだ。白い小山の上でチョコレートソースが艶を放つ。
    「お待たせしました」
    「わぁ……」
     と、その時、涼しい色合いが少女の目の前を横切った。着物の衿先だ。その陰から白い手が現れ、氷の器をトンと払い落とす。
    「さぁ、鬼隠し忌譚、開幕開幕」
     すっきりとした黒衣の上に冬色の和服を羽織った少年、遊木月・紫祈(鬼隠し忌譚・d33362)がそこに居た。
    「え?」
     少女は目を丸くして空っぽになった両手を見ている。何が起きたのかわからない。
    「っあ……こおり……」
     泣き出す寸前で、彼女の姉が割り込もうとする。
    「な、何するの……っ」
     そこに現れたのは銀の髪を肩に揺らしたメイド服の少女、鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)。
    「申し訳ございませんが……少しお休みください」
     おだやかでおっとりとしているはずの彼女が、今は意を決してそう告げた。
    (「食品に毒……流石にこれは許しがたいです。無法にも程があります」)
     加えて食べ物への冒涜だ。柔らかな風を吹きそよがせる。
    「な、に……」
     姉妹は夢を見ているかのように周囲を見回し、やがてふっと目を閉じてメイド服の腕の中へと倒れ込む。
    (「必ずや阻止し、犯人を打ち倒しましょう……!」)
     智美はすばやくベンチの陰に回り、二人をそっと横たえる。
     店の中では店員もまた床に倒れていた。カウンターの奥で見ていた業者の男が、ぱちりと目を瞬く。仕草がどこか作り物くさい。
    (「なんと」)
     予想もしない事が起きた。その思いは店の前に居並ぶ客たちも同じだったらしい。なんだ、どうしたと口々に騒ぎ始める。
     紫祈が静かに息を吸い込む。眠る姉妹を見守る眼差しは他人事のそれとはどこか違った。彼には妹の記憶がある。
    (「笑い合う無邪気な姉妹が無惨に手折られるなんて、見過ごせないからね」)
     唇から織り成す声は柔らかい。しかし、歌うかのような語りを耳にした瞬間、人々は口を噤んで退いた。
     何ゆえか怖いのだ。目を背け、血の気を失い、そのくせ耳を澄ませてしまいながら逃げ出す。
     逃げる者を見て事情のわからない他の者も逃げる。潮が引くように人々が駆け出し、一時、通りの一角は騒然となった。
     ティルメア・エスパーダ(カラドリウスの雛・d16209)は、ざわめきに紛れて通用口の傍へと駆け寄る。思い立って足を止め、背後を振り返ってみた。
    「……」
     店の前の通りを挟んだ向こうに、建物の外階段にもたれて脚を緩く組んだ若い男の姿がある。年の頃は大学生くらいだろう。整った顔立ちが目を引くが、その双眸は線を引いたかのように細められている。いわゆる糸目というやつだ。
     ティルメアは意図的に口許を緩めた。あえて和やかな笑顔を見せてから、人の群れの中をまた駆け出す。
     誰もが笑顔を失っているかといえば少し違う。ケタケタケタという甲高い声は聞こえた。おかしくて笑っているわけではない。恐怖に引き攣った声が、それもひたすらに遠ざかる。
     すっかり無人となった店の正面に雛本・裕介(早熟の雛・d12706)が残った。
    「上々じゃな」
     子供とは信じがたい貫禄で仁王立ちとなり、はだけた上前からシュという鋭い音を発する。何かが彼の許から店へと伸びていく。
     射出したものは意思を持つ――
    「フンドシだとぉっ?!」
     業者は仰け反って避けた。その名もFUNDOSHI・極。
     妙に必死な動きでレイザースラストをかわし、棚や卓にぶつかってまろびながら通用口へと手を伸ばす。ダンッという音を立てて開け放った戸口をくぐると、その身から濃紺のキャップが落ちて作業服が揺らぐ。
     一歩踏み出した時には、砂色のマントを身にまとった猫背の男へと変貌していた。身を低めてフードを目深にかぶっている。
    「我が全知よ」
     鱗だらけの拳を握り締めて深く頷く。ここは恥を忍んで逃げるべきところ。
     理性を手繰り寄せるための動きが、しかし途中で止まった。

    ●儚き笑みの雪花氷
     物陰から一人の少女が現れる。右の手足に巻いた包帯が眩く白い。天枷・雪(あの懐かしき日々は・d28053)だった。その名のごとく軍服もまた白い。周囲に視線をはせて罠の有無を確かめると、瞳を上げて正面の敵を真っ直ぐに見つめる。眼差しは銀色。
    「あら、いらっしゃい」
     構えているものは特型兵装【落涙】。起動と同時に微笑んでみせる。
    「でも貴方達にあげる笑顔はないの」
     出会い頭だ。ソロモンの悪魔は両手を突き出した。
    「吝嗇な」
    「永遠にお腹を減らしてるといいわ」
     駆け込みざまに叩き込むのはフォースブレイクの一撃。
    「ぬおぁ!」
     脇へと身をかわそうとした悪魔だったが、滾る魔力に肩をやられた。扉に激突して腰を落とし、落涙の下をかいくぐる。
    「ならば誰がために笑うか」
     答えを待たずに身をひるがえしたが、先を遮る者があった。鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780)だった。彼を基に騒ぎは外界から切り離されている。眠る者たちも気付かないだろう。
    (「人の笑顔を見て殺したくなるだと、ふざけた話だ」)
     鋭利な眼差しを通りの果てへと投げる。
    (「本来ならばスマイルイーターも灼滅したいところだが……」)
     ダイダロスベルトを放ち悪魔の出足を挫きにかかった。未だその機ではないというのならば、やるべきことは一つ。
    「準備の良いことだ」
     街灯の支柱を片手に身を返した悪魔は、またも行く手を阻まれる。時ならぬ氷のきらめきが足許へと飛んできた。アスファルトが白く凍てつく。
    「ぬっ」
     盾にしようとしたものを手放すしかない。妖冷弾を放ってそれを遂げたのは炎帝・軛(アポカリプスの宴・d28512)。上段の槍を返して右の半身に構え直す。逃すどころか余計な破壊をさせるつもりもない。
    (「六六六人衆も、次々と妙な組織が湧くものだ」)
     まるで土鳩のように集いながら突っつき合う。その手下である魔は、フードの奥で抜け目のない視線を巡らせた。ガードレールに片手を置く。
    「まあ、良い。笑う者はなくなった」
     飛び越えて無人と化した車道を走ろうとしたが、膝の高さへと弾丸のように突っ込んで来る者がある。ハスキー犬だ。神代・紫(宵猫メランコリー・d01774)の霊犬・久遠。
     足許を乱した悪魔の目の前へと、主である紫がWOKシールドを突き出す。物陰へと身を隠して待ち伏せた彼らを、ダークネスは誰一人として認知できていない。
    「グア、ッ!」
     横面を強打された魔のフードが後ろへと飛び、表情のない丸い目と鱗だらけの頭が剥き出しとなる。主人であるスマイルイーターとは対照的な異形の面差しだった。
    「死にたいか!」
     激昂は怒声となってほとばしる。悪魔は紫の首へと片腕を回した。
    「……?!」
     逆の手で前腕をつかんで喉首を締め上げ、冷たい指先を彼女の頬へと触れさせる。するりと這う指が、肌の内から血の気と体温を奪う。
     そこにティルメアの槍穂が唸りを上げた。
    「これ以上笑顔を奪ってほしくないからね」
     吸精の手を一撃で払いのける。
    「絶対止めるよ」
     スマイルイーターは黙って見ている。遠くのその視線を感じる。自らの安全を確保した者が惨状に手出しをするはずがない。
    (「笑顔が嫌い……って、何で、だろうね」)
     疑問は欠かれた白い氷のようにふわふわと想いの内をさ迷う。
    「だって……」
     笑顔は幸せの象徴のはずだ。笑顔でいれば幸せでいられる。仲間に心配をかけずに済むし、母から酷く当たられていたこともバレずに済んだ。
     甘くて白くて軽い氷のように、ティルメアは微笑みながら立ち回る。
     手の甲を押さえてゆらりと大きく退いた悪魔は、指先で不思議な逆さ文字を象りながらこう言った。
    「知らぬ者は苦しまぬのか」
     考え続け、知りすぎる者の言葉だ。
    「何も奪われてはいないのか」
     どろり、とアスファルトが揺らぐ。潜伏側にいた灼滅者たちの足許が定かさを失い始めた。
    「お前は」
     魔が囁く。
    「分かって欲しくはないのか」
     見えぬその痛みを。

    ●泥濘の中へ
     泥沼は世界の底を抜くような力だった。潜伏側が一斉に足を取られた時、店の前にいた者たちはもう悪魔の背にまで迫っていた。
     挟み撃ちの初手を脇へと避けたソロモンの悪魔は、二手の灼滅者たちを左右に見る位置へと向きを変える。考えてはいるが、最初に虚を突かれた遅れは大きい。これで逃げ場を失った。
     槍を構えた裕介が走る。魔はマントを肩までひるがえして避けようとしたが、脇から背へと抜ける激痛をかわせない。穿ち十字の柄を押さえ、真後ろへと倒れ込む。壮年のような横顔を汚す血は黒かった。
    「……グ、っ」
     起き上がることを放棄したダークネスは、彼の足首へと片手を伸ばす。ずくり、と脳天に響く痛みがあった。
    「来たか」
     赤紫の斑点が足から腰まで一気に這い上がる。壊死毒だ。そのままでは全身、腫れ上がる。
     智美の指先に光が集まり始めた。泥沼に足を取られた仲間には、その場に控えさせた霊犬・レイスティルがいる。相棒はしっかりと彼女の言いつけを守っている。今、光を放つ先は裕介だった。
    「もう大丈夫です」
     智美の声に頷き、裕介は通りを振り返った。余裕のさまでそこに佇む糸目の男を眼光鋭く見つめる。あの顔は見忘れまい。
     ソロモンの悪魔は片手で傷口を押さえ、片手を背後の扉へとやった。開ければその向こうは店舗内。愛しき毒を仕込んだ場所だ。
    「我が研究成果よ」
     扉を開けたその時、蝋涙の匂いが鼻先をかすめた。紫祈が燻銀の燭台に白い蝋燭を赤々と灯して掲げている。
    「――さぁ、黄泉路ヘ下る噺をしよう。赤い、赤ぁい、華の噺を」
     その声を聞き届け、揺れる炎は韓紅の花弁のごとくこぼれて魔の許へと迫る。彼岸花の群れに呑まれるように蛇頭の男は戸口へと激突した。
    「くっ、ア……ッ!」
     灼熱から逃れようと身を揉み扉の内へと手をついて、目を上げた瞬間に絶望のさまで固まる。
    「ない」
     カウンターの上にあったはずの毒入りソースがない。しっかりと回収されて隠されていた。その現実を知ると、咄嗟に床へと片手を伸ばす。
     意識を失った店員がそこに倒れている。軛が黒く編まれた刃を抜いた。
    「我が一族の贄と為れ」
     一閃を放つと斬戟は群れなす狼を象り、地を蹴って悪魔の腕へと迫る。
    「喰らえ、狼達」
    「ぬっ、アアッ」
     必死の呈で差し出した悪魔の腕を狼たちが貪る。指が跳ね肘が曲がり、手は店員へと届かない。膝で這う。
     あと少し。紫が入り口脇に詰まれた空ケースを蹴って魔の背を飛び越え、店員との間に着地する。
    「だめだよ」
     振り返りざま、炎の蹴りを突っ込んだ。思い切り押し返す。
    「グァッ!」
     何とか立ち上がった足許を払うのは雪の槍穂。白い軍服姿が戸口を横切る。
     揺らめくソロモンの悪魔の片腕からずるりと刃が伸びた。切っ先で地を擦り、斜めに上げる。近付けば最期を決した力で断たれる。
     意を決した廉也が仲間を背に前へと駆けた。もう一削り。
    「卑劣な奴め、炎に巻かれて反省しろ」
     ゴッと燃え上がる紅蓮はレーヴァテイン。蛇の目が赤く燃え上がり、月輪を描く刃が廉也の二の腕を切裂いて抜けようとする。
    「グッ――」
     だが、その刀身が真っ赤に焼けて溶鉱炉に突っ込まれでもしたかのようにぐにゃっとへし曲がった。
    「アアアッ!!」
     悪魔が燃え上がる。燻る天を仰いで膝を突き、苦痛の声以外の何を吐き出すことも出来ずに焼け落ちていく。何かの終わりはゾッとするほど焦げ臭い。
     ぱさり。微かな音を立てて落ちた塵を軛が見下ろした。
    (「笑顔を嫌うか。自身にない物だからか。羨ましさの裏返しかとも思うが」)
     顔を上げて通りの奥を向いた時、糸目の男が悠然と脚を解くのが見えた。
    (「そう思った時点でお前は、負けているのだ」)
     軛は波立つことのない面でその姿を見つめる。
     スマイルイーターは何一つ省みる様子も見せずにその場を離れ、灼滅者たちの前から姿を消した。残ったものは、一時、人から笑みを拭ってみせようとした者の残骸だった。

    ●小さきもの
     幸いなことに一般人と共に店舗への被害も小さく食い止められた。武器を収めた紫はそわそわしている。
    「疲れた時には甘いものが美味しいよね……」
     そこへ紫祈がキャニスターを運んできた。隠しておいた問題のソースである。廉也と裕介がレードルを手に取り、掌の上へ少量取って舐めてみる。これが本当のお毒見だ。
    「……」
     ほろ苦くも甘い。ビリッと来たりは……しない。二つの親指がぐっと上がった。
     皆、氷を食べていくことで異存がない。お墨付きを貰ったソースを手にして雪が店の中へと向かう。プラチナチケットを用いると、目を覚ました店員は彼女に疑問を持たなかった。
    「いやだ居眠りしちゃった。はい、これ」
     揃いのエプロンを差し出し、カキ氷機に白く甘い氷をセットする。
     灼滅者たちに揺り起こされた姉妹を迎えるのは、サリッ、サリッという涼しい音だった。途中の時間が抜け落ちているのだろう。目を瞬いた妹が、空っぽの両手を見る。
    「こおり……」
     雪が作り上げた雪花氷には、艶やかなチョコレートのリボンがたっぷり。皆の手で渡してもらうと、少女の泣きべそ顔がぱっと華やいだ。
    「わあ」
     黙って見ていた軛が小さく息をついて目を細める。眩しいのは春の日差しよりも少女の笑顔。分かたれてしまった自らの一族と会えるのはいつのことだろう。
     ふと見ると、紫祈もまた静かな眼差しを姉妹へと注いでいる。今回の灼滅は学園に救出された彼の初陣だ。その瞳が見ている少女は誰なのか。
     皆の手に氷の器が回った頃、あの、と小さな声がかけられた。
    「これ」
     少女の姉が拳を突き出した。
    「お、怒ったり、して……ごめんなさい」
     小さく告げる彼女の手には、八つのスプーンが握られている。
     軽やかに氷を欠く音。そこにはいつしか、人の輪が戻って来ていた。
     

    作者:来野 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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