Inogashira『桜紋』

    作者:麻人

     薄紅色の花弁が水色の水面に舞い落ちて、微かな波紋を生み出した。

     既に井の頭公園の各所では早咲きの桜種が蕾をほころばせ始めている。紅桜、八重桜、枝垂れ桜――花季はあと一か月ほどは続くはずである。
    「ボート、屋台、宴会」
     一色・リュリュ(高校生ダンピール・dn0032)は指折り、花見の楽しみ方を呟いた。どれを選ぶも好き好きだ。誘いたい相手に声をかければそれが、相談開始。急がなくてもまだ咲き始めたばかり、猶予は余裕、というやつだ。

     井の頭池をまるで額縁のように飾る桜色の枝は七井橋からよく見える。ボートを漕ぎ出して桜の天蓋を見上げたり、香ばしいポップコーンや熱々のたこ焼きを頬張りながら遊歩道を散策してもいい。
     そして醍醐味こそ、桜の下で開かれる気心の知れた仲間たちとの――宴会! 節度ある無礼講で新しい春を満喫してください。


    ■リプレイ


    「周囲一面囲まれてるのも良いけど、こうして隅から見るのも壮観だろ?」
     満席の桜の元、早めの隅の方を確保した【Artisan】の昴たちは持ち寄った弁当やお菓子を交換しながら談笑する。桜餅にからあげ、サンドイッチに炊き込みご飯etc.
    「え、アイテムポケット? いや主役は花であって食事ではない筈……」
     しかし、言いかけた円はからあげを思いきり頬張っている希紗を見て思わず吹いた。「うまいだろー」と満面の笑顔な朝陽の上に花弁が降り注ぐ。感謝の気持ちを隠した蹴りは寸前のところで昴に避けられ、余波を受けた花弁が撫子の膝枕で寝息をたてていた惡人の額に舞い落ちた。
    「は~い、口開けて下さいな。というかこれ完全に餌付けですよね」
    「ん」
     まんざらでもない顔でおかずを口に運んでもらいながら惡人は撫子ごと桜を堪能する。同じく桃子の腿に頭をお邪魔させた戒士はしみじみと感じ入った。
    「桃子さん……恋人って、スゴイ甘くてドキドキして、幸せなものっすね。重くないっすか?」
    「うん、重くなんてないよ♪」
     そっと頭を撫でて、桃子も幸せそうに微笑む。
    「……美味しい」
    「ほっ、ほんと!?」
     でしょでしょ! とユメは紫王にあれもこれもと作って来たお弁当を勧める。
    「自信作は卵焼きなの!」
    「……うん」
    「それでねこっちはねって……」
     ――もしかしなくてもこれって初デート?
     途端に固まるユメを紫王が不思議そうに覗き込んだ。背後では【長屋】の面々が鯛焼きと三食団子を片手に乾杯。朔夜は殊勝に礼を言った。
    「柾、グランツヴァルト、今回は、付き合ってくれて、有り難う」
    「こちらこそなの!」
     フェオドラが準備する小皿やコップの中にまで舞い落ちる花弁の嵐。「すごいの!」と歓声を上げる少女に朔夜は笑顔で頷いた。厨房係の菊乃は袖で口元を覆い、料理を平らげる皆の笑顔を嬉しそうに見守っている。
    「今年も素敵な春が迎えられましたね……これも皆さんのおかげです。本当にありがとう御座います♪」
    「どれ、今わしが一句詠んでみるでの……」
     と、筆をとる八重香。
     うんうんと唸って考え込む。
     隣のシートで寝入っていた杳はおいしそうな匂いに飛び起きた。鼻の頭から花弁が落ちる。
    「何買ってきたの? わ、盾河先輩のおにぎりは手作り……って、花びら?」
     犯人である藍凛はくすくすと笑みをこぼしつつ「ツナマヨはある? どれ?」と手を伸ばす。寂蓮は雪下と黒八が場所取りをした桜の樹を感心の表情で見上げてから勿論だと請け負った。
    「……余程楽しみだったみたいでな、つい作り過ぎてしまった」
    「うわー、どれもおいしそう! ……ん? このいい匂いはもしかして! きたー! 双葉くんこっちこっち!」
     手を振る歩良を目印に翔也がやってくる。
    「何買ってきたの?」
     覗き込む杳に翔也は手を出した。
    「千円」
    「たかっ」
    「冗談だ。その三色団子、うまそうだな」
    「桜の蕾、花、葉の色を表わしてるんだよー」
     得意げな歩良に藍凛は子供のように「わー」と目を輝かせた。盛り上がる【タケノコ荘】の面々。そこへ漂ってくる香ばしい珈琲の匂い――【花撫】だ。功徳から受け取った珈琲の匂いに目を細め、和瀬は合わせて選んだクッキーを並べた。
    「市販品なので、安全ですよ」
    「同じく。変な具は入っておりませんので」
     和瀬と一緒に彩花が差し出すのは中身ごとに形を変えたオニギリ。
    「じゃ、昆布で☆」
     おいしい、と凰雅は顔をほころばせる。
    「アタシにもまだ幸せな時間って与えられるのね、なーんて☆」
     見上げる空は桜色。
     また、皆で今度はもっと大勢で出かける日を楽しみに。甘酸っぱい珈琲の香りに包まれながら功徳がそうだと思いついたように言った。
    「裏の銭洗い弁天で店の繁盛でも祈っときましょうか」
     と、社を振り返る鼻先を味噌汁のうまそうな匂いが掠める。【放課後のコンビニ】。晃から受け取った味噌汁を堪能した遊がしみじみと言った。
    「やっぱ日本人はコレだよな」
     よかったと晃がほほ笑む。
    「あぁ、糸木乃さん、手伝ってもらってすみません」
    「まあ、このくらいはね」
     おいしいとお握りを口に運んで仙が言った。
     続けて佐井が詰めてきたお稲荷に手を伸ばす。
    「それにしても豪華な弁当だな。自分が作ったらと思うと頭が下がるよ」
    「本当、女子力って何なんだろうね……」
     修子は柚貴手製の桜でんぷの巻き寿司を箸でつまみ感心のため息をこぼす。当の柚貴はどきどきと遊のロシアンおにぎりを口に運んで「あれっ」と目を見開いた。
    「なんともない……?」
    「ああ、おいしいなぁ」
     にこにこと小鳥は同じものを平らげて味噌汁をすする。しかしデザートにどうぞと差し出した桜のカップケーキを佐井が受け取らない。
    「どうし……」
    「……! ……!!」
     〝当たり〟を引いて呻く姿を時兎は表情ひとつ変えずに動画へおさめた。舞い落ちる桜を見上げぽつりと呟く。
    「桜の花びら、3枚捕まえられたら恋愛成就とか……」
     時兎の呟きに反応する女子たち。
     向こう側では【吉3-8】の生徒が乾杯をしている。
    「……だいたい、無常と中屋敷が服を脱ぎ、各務が制裁を加えて、月雲がツッコミ、卜部が難解な物言いで煙に巻いて、長姫と霧島とオレが傍観者。年中こんな感じだった気がしないでもないな……」
     八雲の総評通りの光景が今まさに繰り広げられていると言っていいだろう。
     鉄子は叫び酒も飲んでいないのに最高にハイ状態。
    「ふむ、成人でないのが惜しいな! 成人ならば、酒盛りで全裸パーティとなるものを!」
    「はーい、鉄子ちゃん脱いじゃ駄目よ。拓馬くんもおたまフォースブレイクでお仕置きされたい?」
     にっこりと微笑んで自作の道明寺を手渡して歩く樹。包帯をプリンで汚しつつそれでもニヤリと包帯越しに口元を歪める泰孝。
    「騒がしき日常、其れも此れにて一区切り。されど高校生活、最後と言えどこの顔晒せぬ」
     飽きない面子である。
     そして名残惜しい面子でもある。
    「……ま、賑やかな3年間で退屈はしなかったな」
    「本当に最後までこうでしたけど……そこがこのメンバーらしくて良いんでしょうね」
     悠一は麗羽の桜餅で食後の甘味を楽しみつつ絶奈と視線をくみかわす。桜は散るから美しいのだとその終わりの持つ意味にふけりながら――。
    「何もなくなりはしないよ。形が変わっていくだけさ」
     しみじみと呟く拓馬に麗羽が軽く頷いた。
    「無常と中屋敷は新しい学部の仲間にもお手柔らかにな」
    「同窓会をやるなら、また桜の下でやるのもいいかもしれませんね。あ、お弁当は簡単なものでよければ作ってきたので、よろしければどうぞ」
     にっこりとほほ笑んで弁当を差し出す彩歌の手元に桜が舞い落ちる。それを模したあやとりの紐を玉緒は「はい、プレゼント」と格ゲーキャラの真似をして勝利ポーズを決め終えた朱毘に手渡した。
    「まぐろ部長のチーズといい……みなさん、女子力高いですね」
     小腹が満たされたところでまぐろが騒ぎ始めた。
    「一芸よ! 一芸を見せるのよ!!」
     所望するのは即ち、隠し芸。
    「いきます!」
     カティアが手を挙げ立ち上がる。
    「えいっ、とぉっ! ってきゃぁぁぁっ」
    「うおっ!!」
     カティアのジャグリングしていたお手玉が寄席の準備をしていた倫理の後頭部に的中。気を取り直して咳払い。
    「うむ、一興である」
     仲次郎は満足げに頷いて箱入り和菓子と交換に桜ゼリーを進呈する。【光画部】は宴もたけなわ、まだまだ盛り上がりは続きそうだ。
     一人一品持ち寄るというルールのおかげで最もお弁当の数が多い【武蔵境3梅】。えへへ、とちらし寿司を出しながら照れたように笑ったいるかは、紅輝のおにぎりを「いただきます」と受け取った。三色だんご風の一口サイズである。
    「美味く出来てるか?」
     あーんと差し出した紅輝の問いかけにセレスティと柿貴が頷いた。
    「いやあ、風流だねぇって、それすごいな」
     どーんとどでかいおにぎりには全部の具がちょっとずつ入っているらしい。
    「姫様、には、これ、を。すぺしゃる、ばーじょん、です」
    「こ、これは……!?」
     いつもパンの耳でしのいでいる姫華の目が輝いた。
    「ひめさま、これも」
     ジェルトルーデが差し出したのはめろんパン。
    「みんな、たべて! それにひめさまが食べてるの、ちょーだい?」
    「うむ」
     頷く姫華。
     カンナは義父由来の米と海苔を使ったおにぎりと羊肉餃子を勧める。
    「美味しゅうございますね」
     自分は髪とお揃いの豆大福を用意しつつ、舌つづみをうつ祀。ありすのクッキーと和洋合わせて「お好みでどうぞだよっ」とありすが笑う。
     葉琳が頷いて自分の包みを開いた。
    「ありがと。私の持ってきた饅頭……まんじゅうじゃなくてまんとうね。これもおいしいわよ。カンナの餃子と合うんじゃないかしら。ニラと海老があるんだけど」
     馬頭琴の音色に耳を傾けつつ白雛はにこにこと水筒の紅茶を紙コップに注いでいく。持ってきた手作りサンドイッチはすぐになくなってしまった。
    「また、こういう風に出かけたいものですわね」
     桜色の思い出が胸に降り積もる。


    「桜の季節はいいですねぇ……」
    「うん。自販機のジュースも美味しく感じちゃうねぇー」
     橋の袂に居合わせた流希と閨斗はほのぼのと頷き合っている。桜並木を雪花は陵華と指を絡めあい、ひいかの手を保護者のように引いて屋台をめぐる。
    「これ、食べるか?」
    「これも、りんご飴だけど……」
     手を繋いだまま両脇から差し出された真っ白なわたあめと真っ赤なりんご飴を一口ずつ。その後ろをセレティアを大切に抱きかかえた旭が通りかかりベンチの上へ降ろした。
    「あさひ、おいしい?」
    「はい、美味いっすよ?」
     両手にベビーカステラと焼きそばを抱え旭は微笑む。つられたようにセレティアも頬を緩ませて指先につまんだカステラを口に放り込んだ。同じくベンチに並んで腰かけた未晴は雅耶がにこにこと弁当に舌鼓をうつのを見て顔を綻ばせる。
    「本当、今日はお花見日和ですね!」
    「ねぇー晴れてよかったねー」
     ベビーカステラの甘い匂いと桜の可愛らしい花はよく似合う。そして牛串のジューシーな味と【沈黙】のメンバーによるどんちゃん騒ぎもまた格別の相性である。
    「とーさん、すてき」
     千花が目を輝かせている間に失われた牛串の仇を円理の脇腹にぱんちしたりとーちゃんは財布が似合う食べ物だなんて思っているのはここだけの話、当の本人である十織は慎ましやかにくじ引きなどこなしてサンタクロースよろしく順番に景品を手渡してゆく。
    「どうする晴汰、浮気ものだぞ」
    「もう人形の髪の毛が一気に抜け落ちたりするの見たくないよ……りんご飴でご機嫌とれないかな」
     透の瞳は家で待つお人形に対する愛と二律背信の輝きを帯びて他の人は見て見ぬふり。逃げられない晴汰は頭を抱えつつ捨てるわけにもいかないので小脇に抱えて歩く。【虹色】の団体とすれ違いざま皆の肩をぴょんぴょんと渡り歩く白い小鳥が目を引いた。
    「!」
     ふらふらとたこ焼きの匂いにつられ満面の笑顔で鬼灯に同行していたつばめや両手に綿菓子と焼き鳥を抱えた湊の傍へ。
    「はーい、いる子は挙手、挙羽してね」
     からあげの匂いとまなむの誘いにつられいくつもの手が上がる。それを数えながら維はもしかしてと心配になった。
    「まなは俺を財布か何かと思ってるんでは……」
    「違うの?」
    「いや最後だし奢りますけど!」
     何がいいと振り返るとふらふらしていた花緒がはっと顔をあげる。
    「え、と……クレープ、とか」
    「クレープうまそっスねー。俺からは早めの誕プレで鼈甲飴! 海ちゃんと巳姫ちゃんどぞー」
     にっこり微笑んで戦利品を配り歩く颯人。海は幸せそうな笑顔で受け取り、巳桜は小さく笑って「有難う」と鼈甲飴を指先で回した。林檎と分け合った団子を頬張りながら最後尾のレナードに寄り添いアリスは満開の桜を見上げる。颯人の差し出すカステラを「あーん」で貰ったひかりは照れてなんかやるもんかと目を細め、花弁を追いかける女子を見守った。
    「楽しそうだなぁ」
    「春の味、するか?」
     つばめとたこ焼きを交換しながら尋ねたのは啓太郎だ。うむと湊は笑顔で頷く。さっき食べた桜ドーナツの匂いに似た、春の味だ。アリスはちょっと小首を傾げ、暖かい味がする気がする、と囁いた。
    「えい、とうっ」
    「案外難しいわね……!」
     海と巳桜は一生懸命花弁を追いかける。
    「頑張れー」
     捧げ貰った団子を手に応援するレナード。
     儚はぱく、ぱく、と懸命に口を閉じたり開いたり。ゆきも小さな嘴でつつくように捕まえようとする。あまりにも一生懸命だから、啓太郎は思わず自分も笑ってしまった。
    「花緒さまもよろしければいかが?」
     儚、ひかりと次々に送り出した林檎に背を押され、花緒は穏やかな時間を皆で過ごせることを幸せに思う。颯人の切るシャッター音。
    (「さよならまたいつか、俺たちの虹色プリズム」)
     それは維と儚の願い。
     ひかりは指先に閉じ込めた花弁に心のメロディを込めて――それは、身体も心も麗らかな春を歌う。


     ボート乗り場の前で真咲が戸惑っているのは、しっかりと化粧した初美の一言によるものだ。〝噂〟。片想いの相手に「君と離れたいわけでは、その、ないからね?」などと伏し目がちに言われて平常心でいられる男がいるだろうか――いや、いまい。
    「そう、ボートの花に見惚れすぎなければ、ボートなど……おっと」
     うっかり手元がおろそかになるのも仕方ない、と砂蔵は思うのだ。いつものようにからかわないで、膝の上に頬杖をついてにこやかにこちらを見つめているヴィルドの視線に自然と頬が赤く染まる。
    「大学に入ったら、今まで以上に勉強しねぇと……いろいろ吸収していけたらいいな」
    「そうね、私もよ。新しいことにチャレンジするから諦めずに頑張りたいわ。きっかけは貴方の為だけど、それで成長できるなら素晴らしいと思うのよね」
     桜の下まで漕ぎ出したボートの上で、冬崖と櫂はまた夜桜を見に行こうと約束をする。円とミカも向かい合い、抱負を言った。
    「おうおう、春と言えばやっぱ桜だかんな。去年は食い気に走ったから、今年は大学生らしく大人しくいこうぜ」
    「そうですね。ボクらもう大学生かぁ。こういう落ち着いた時間、いつまでも続くといいですよね。あ、帰りはボクが」
     円がオールを渡して、ミカが「よいしょ」と漕ぎ出した。すれ違ったボートで巧が顔を真っ赤にしているのを円は見た。
    「……巧、何を黙っているの?」
     蒼い髪に桜が映える。
     プレゼントした服を纏うライラの微笑みはあまりにも――。
    「綺麗だからですよ……桜も、ライラさんも……」
     それしか言えない。
     いつしか聞こえ始めた歌声はルナのもの。
     无凱は耳を傾け、終わる頃にサンドイッチと紅茶を広げて水上ピクニックと洒落込む。
    「お腹すいたろ?」
     頷くルナはボートに慣れたのか、もう怖がって无凱にしがみつこうとする気配もない。一方、髪についた花弁を取る振りでおでこにキスした麗だったが――。
    「にゅふふふ! ゆーくんのすべすべお肌、イタダキマシタワー!」
    「お粗末様でした」
     という、照れ隠しにしては華麗にいなした由布に軍配が上がる。
    「綺麗だな……」
     こちらは確かに羽衣の髪に落ちた花びらを優しく払い、微笑む宵帝。羽衣は頷いて胸に手を置いた。写真の代わりにそこへ、覚えておくのだと。
    「あ、ありがとうございます……」
     ひかるはお菓子と紅茶に恐縮しながらも、偶然会っただけのアンリエルにとって邪魔になっていないかを気にしている。
    「いえ、お陰で楽しめました。ありがとうございます」
     アンリエルは微笑み、ひとしきり楽しんだ後でボートを岸に戻した。ひとりでボートなど味気なさすぎる。少し離れた場所では菜々に不意打ちの頬キスをくらった式が春の陽気のせいにして、サウンドシャッターの中に二人だけを閉じ込める。永い、深い口づけ――。
     ポーズはとらないぞ、と言いつつ撮影を許可してくれたアルノアは桜を背に凛と表情を改める。じゃあ、と軽いノリで自分も横に写る格好で縁はシャッターを切った。ちら、と横目でうかがったアルノアが楽しげに桜を見上げているのを確かめて、縁は柔らかく微笑んだ。
    「「おいしょ、こらせ、どっこいしょー」」
     圭一の真似をしたら、ちゃんと前に進んだ! 喜んだ劉麗が立ち上がった瞬間ぐらりとボートが揺らいでとっさに圭一が抱きとめる。
    「あ、ありがとうございま……」
    「あて!」
     しかし桜の突っ込みが彼の後頭部を直撃。
     せっかくいい雰囲気だったのに、と頭をさする。向こう側ではモニカがもの言いたげにミストラルを見ている。
    (「ミストラルくんは桜が好きなのかな……モニカよりも?」)
     水面を見つめるミストラルは視線に気づいて、冷めた目でモニカを見返した。別に、水面に落ちたところで醜く足掻いたって構わない――と。そっぽを向いて言った。
    「水面に映る桜、今年もすごく綺麗です」
     真琴は伸ばした手のひらに花弁を閉じ込める。潤子の持って来てくれた桜形の和菓子は舌に甘く、ヒオは食べる前に自慢のカメラでパシャリ。
    「すごいな、感動」
     都は頷き、楽しい、と呟いた。
     また来たいね、と囁き合う。舞い散る桜、春のひととき。過ごした時間は胸にいつまでも優しい色を宿し続ける。

    作者:麻人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月4日
    難度:簡単
    参加:116人
    結果:成功!
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