お父さんなんて嫌い、大嫌い……!

    作者:宮橋輝


    「何よ、何よ……! 帰りが遅いとかスカートが短いとか、いつもいつもお小言ばっかり!」
     息を切らせて走る少女が、誰も居ない公園に駆け込む。つい先刻、彼女は父親と喧嘩して家を飛び出してきたばかりだった。
     今のところ、父親が追いついてくる気配はない。最近とみに運動不足の父親と、陸上部で毎日走り込んでいる自分とでは、基礎体力からして違う。
     ――だから、スポーツジムくらい行けば、って言ってるのに。
     少し肥満の兆候が見える父親のお腹周りを思い出して、頬を膨らませる。こないだの健康診断だって、コレステロールだかが高いと言われていたのでなかったか。
     そこまで考えて、ぶんぶんと首を横に振る。誰が、心配などしてやるものか。
     呼吸を整えながら、少女はブランコに歩み寄った。高校生になった今では少し小さく感じるそれに、浅く腰掛ける。
     幼い頃、父親は休みの日によく公園に連れて行ってくれた。高く、もっと高くと、ブランコを漕ぐ自分を、すぐ近くでハラハラと見守っていたっけ。
     喉の奥から、思わず溜め息が漏れた。今でも、父親が憎いわけではないのに。いつから、すれ違うようになってしまったのだろう。
     俯いた少女の瞳から、涙が零れる。
    「お父さんなんか……嫌い。大嫌い……!」
     その言葉は、決して本心ではなかったけれど。皮肉にも、それが彼女の運命を決定づけてしまった。

    「――お父さんが、嫌いなのね」
     突如、背後から囁かれる声。振り返ると、血に汚れた大鎌を手にした、小学生くらいの女の子が立っていた。
    「あたしも、お父さん嫌いよ。……あたしを置いて、行っちゃったもの」
     目を見開いた少女に、振り下ろされる大鎌。
     鮮血が、ブランコの錆びた鎖に紅い模様を描いた。
     

    「時が、来たようだな……!」
     教室に灼滅者たちが集まったのを確認すると、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)はいつも通りの台詞を口にして事件の説明に入った。
    「都内にある小さな公園で都市伝説が発生した。既に、一般人がひとり殺されている。犠牲者が増える前に、お前達にこいつを倒してもらいたい」
     都市伝説は『父無し娘』と呼ばれており、血まみれの大鎌を携えた少女の姿をしている。
     日が暮れた後、公園のブランコに乗って『父親の悪口』を言うと現れ、手にした大鎌で惨殺してしまうらしい。
    「悪口は、別に本心じゃなくてもいい。『お父さんなんか嫌い』とか、その程度でも出てくる」
     噂によると、最愛の父親を事故で亡くした少女が悲しみのあまり正気を失い、自分を置いて死んでしまった父親への怒りをぶつけるように殺人を繰り返しているのだというが――まあ、おそらく事実ではあるまい。
    「父無し娘は大鎌を自在に操って攻撃してくる。死角から足に切りつけたり、頭上から大鎌を振り下ろして回復を阻害する他、離れた場所にいる人間の首をまとめて狙うこともできるようだ」
     ひとたび出現してしまえば、父無し娘はその場にいる人間を皆殺しにしようと見境なく襲い掛かってくる。一体だけとはいえ、決して油断はできない相手だろう。
    「生存経路を導き出す俺の全能計算域に、お前達の力が加われば解決できない事件はない。頼んだぜ」
     ヤマトはそう言って、不敵に笑った。


    参加者
    西羽・沙季(風舞う陽光・d00008)
    漣波・煉(亡霊の矢・d00991)
    黒咬・翼(黒い牙・d02688)
    エンフィス・レローネ(殺意と共に生きるモノ・d02691)
    敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)
    ハイプ・フィードバック(焔ノ記憶・d04764)
    アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)
    大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)

    ■リプレイ


     静かな夜の公園で、ブランコが揺れる。
     きぃ、きぃ、と鎖の軋む音が響く中、ブランコを漕ぐアルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)が、ふと紺青の空を見上げた。
    「うーむ、月の美麗なダンピール日和じゃ。……夜なら夜和なのかの?」
     首を傾げる彼女の隣で、ブランコに腰掛けた敷島・雷歌(炎熱の護剣・d04073)が定期入れの中の写真を見つめる。月が出ている今夜は、外灯だけでも充分に明るい。
     その近くでは、六人の灼滅者たちが待機するポイントを探していた。囮役の雷歌、その護衛を務めるアルカンシェルの二人をフォローできる距離で、かつ、身を隠せる場所が理想になるが――あいにく、ブランコの周囲に目立った障害物はない。
    「こればかりは仕方がない。すぐ駆けつけられる位置に待機するしかないだろう」
     漣波・煉(亡霊の矢・d00991)の言葉に、黒咬・翼(黒い牙・d02688)が頷く。万全を期すに越したことはないが、都市伝説が出現する条件に人数制限が含まれていない以上、姿が見えていたところで大きな不都合はない筈だ。
    「都市伝説か……嘘か本当かも分からない噂で悲劇が起こるとは」
     サングラスの位置を直しつつ、翼が呟く。
     父親を亡くした悲しみで精神を病み、殺人者と化した少女――『父無し娘』。真偽はどうあれ、それを信じる人々の心にサイキックエナジーが加わった時、噂話は都市伝説として実体を得てしまったのだ。
     既に一般人の命が失われているという事実が、大條・修太郎(紅鳶インドレンス・d06271)の胸に重く圧しかかる。
    「……力が使えるからって、何でも出来る訳じゃないんだよな」
     灼滅者といえど、過去に起きてしまった事件は変えられない。無力を噛みしめる修太郎の耳に、翼の声が届いた。
    「これ以上犠牲を出さないためにも、ここで確実に始末しておかないとな」
     彼の言葉に、修太郎は黙って頷く。
     今は、出来ることをやるしかない。それで変わる未来は、必ずある筈だから。

     六人の灼滅者が、各々のスレイヤーカードを手にする。
    「――Role(ロール)!」
     解除コードで殲術道具の封印を解いたハイプ・フィードバック(焔ノ記憶・d04764)の傍らに、退魔神器を携えたシェットランド・シープドッグ――霊犬『ロック』が姿を現した。
    「無意味で無価値な闘争を始めよう」
     視線を囮役に向けたまま、怨念を塗りこめた魔槍と長刃のナイフを手にする煉の隣で、エンフィス・レローネ(殺意と共に生きるモノ・d02691)がくすくすと笑い声を上げる。
    「いくよ……、もう一人のわたし」
     ふわりとしたドレスを纏ったビハインド――下半身を欠き、長い前髪で顔を隠していることを除けば、エンフィスと瓜二つの『アイヴィス』が、彼女を後方から抱き込むように現れた。
     ブランコを見守る西羽・沙季(風舞う陽光・d00008)が、真剣な面持ちで契約の指輪に触れる。十歳という年齢の割にしっかりしている彼女も、初めての依頼に緊張を隠せない様子だった。皆に心配をかけないよう、深呼吸で心を落ち着かせる。
     足元から武器化した影を伸ばしたハイプが、ガトリングガンの銃口を雷歌のすぐ後方に向けた。
     父無し娘の出現条件は、ブランコに乗って父親の悪口を言うこと。エクスブレインの話を聞く限り、条件を満たした者の背後から攻撃を仕掛けてくる可能性が高いが、ハイプは先入観に囚われることなく、全ての方向に注意を払う。
     全員の準備が整ったのを確認した雷歌が、隣のアルカンシェルと目で合図を交わした。この二人は丸腰だが、いつでもスレイヤーカードの封印を解けるように身構えている。
     在りし日の父親と撮った写真に視線を落としつつ、雷歌は口を開いた。
    「あのクソオヤジ……『大嫌い』だ」
     ひやりとした気配が、彼の首筋を撫でる。立ち上がって振り返ると、大鎌を手にした少女が歪んだ笑みで立っていた。
    「お父さんが、嫌いなのね?」
     父無し娘の問いに、雷歌は写真の後ろに隠したカードを掴んで答える。
    「……それでも家族なんだ、んな簡単に嫌いになれるかよ」
     なぁ、という声が、後に続いた。
    「お前だって、そうだったんじゃないのか?」
     一瞬、父無し娘の面から笑みが消える。スレイヤーカードの封印を解き、咎人の大鎌を引き抜いたアルカンシェルの隣で、雷歌は解除コードを叫んだ。
    「見敵……必殺!」


     敵が姿を現したのを確認し、翼がサングラスを胸元に仕舞う。
    「……ミッション開始」
     彼が呟くと同時に、六人の灼滅者が一斉に駆けた。その直後、雷歌を目掛けて振り下ろされた父無し娘の大鎌を、咄嗟に割り込んだアルカンシェルの大鎌が受け止める。
    「この学校にやってきて初めての相手が都市伝説とは!」
     鋭い斬撃に肩口を裂かれ、回復力を削られながらも、彼女は一歩も退かない。
    「同じ大鎌使いとしてお手合わせ願おうか!」
     アルカンシェルが強気に笑ってみせた時、前に出たハイプが声を響かせた。
    「よし……。行くぞ、ロック! 気を抜くなよ!」
     ガトリングガンを連射する彼の背後で、ロックが吠える。浄化の力を秘めた霊犬の視線が、アルカンシェルの傷を癒した。
    「先ずは小手調べというところだな……」
     同じく前衛に立った翼が、極細の鋼糸を閃かせる。しなやかで強靭な糸が父無し娘の全身に巻きつき、彼女の動きを縛った。
    「お前の相手はこっちにもいるぜ!」
     中衛に布陣した修太郎が、挑発するように声を放つ。格上の敵を相手にする以上、先手を取ることは難しいが、仲間が攻撃を受けるのを黙って見過ごすわけにはいかない。特定のメンバーが集中して狙われることのないよう、少しでも気を惹かなければ。
    「落ちろ雷!」
     修太郎はマテリアルロッドを構えると、魔術の雷で父無し娘を撃った。続いて、沙季が祈りを捧げるように両手を組む。敵に制約を強いる魔法弾が契約の指輪から飛び出し、父無し娘を貫いた。
     ジャマーのポジションについた煉が、敵を蝕む黒き殺気を呼び起こして己の妨害能力を向上させる。
    「夜霧が使えれば、もっと良かったのだが――」
     今回、夜霧を展開する技は活性化していない。それならそれで、手持ちのサイキックで最善を尽くすまでだ。
     銀のポニーテールを揺らして走るエンフィスが、前を進むアイヴィスを盾にして敵に肉迫する。アイヴィスが父無し娘の武器に攻撃を加えた瞬間、死角に潜り込んだエンフィスが咎人の大鎌を振り上げた。
     薄い笑みを口元に浮かべる彼女に、普段の内気で控えめな少女の面影は無い。殺意に導かれるまま刃を操り、敵の急所を目掛けて容赦なく斬撃を浴びせる。
     直後、雷歌の全身から激しい炎が上がった。
    「出番だ、行くぞオヤジ!」
     顔と喉元を包帯に覆われた迷彩服姿のビハインド――亡き父の魂を宿すサーヴァントに呼びかけ、鉄塊の如き斬艦刀に炎を纏わせる。父子のコンビネーションが叩き込まれると同時に、父無し娘の体が炎に包まれた。
    「日本で学生になって最初の試し切り……不足ない相手だと願っておるぞ!」
     軽やかに地を蹴ったアルカンシェルが、血の色をした瞳を爛々と輝かせる。彼女が膂力に任せて大鎌を振り回すと、赤きオーラの逆十字が父無し娘を切り裂いた。
     低く身を沈めた父無し娘がハイプの右側面を突こうとしたのを見て、沙季が警告の声を上げる。
    「フィードバック先輩、右です!」
    「――そこかっ!」
     ハイプは足元を狙って繰り出された大鎌をすんでのところで避けると、武器化した影に燃え盛る炎を宿して反撃に出た。すかさず、ロックが後方からの射撃で主を援護する。
     素早く間合いを詰めた翼が、父無し娘の背後に回り込んだ。無表情を保ち続ける彼の面に、一切の揺らぎはない。風に靡く白い髪が、残像のように淡い軌跡を宙に描いた。
    「貴様の動き……手に取るように分かるぞ」
     敵に振り向く暇を与えず、翼は日本刀を振るう。音もなく繰り出された鋭い斬撃が、父無し娘の背中を深く抉った。
    「痛いの? 痛かったら、叫んでもいいよ」
     アイヴィスを残して後退するエンフィスが、傷ついた父無し娘を見てサディスティックに笑う。毒を秘めた一撃を叩き込むアイヴィスに続いて、エンフィスは自らの力を高めるべく禍々しい殺意を解き放った。
     どす黒い闇を纏った底なしの殺気が、父無し娘をぐるりと取り巻く。再び両手を組んだ沙季が、制約の魔法弾をそこに撃った。
     戦いながら、沙季は父無し娘の手にかかった犠牲者のことを思う。
     こんな時間に、ひとりブランコに乗って。どんな気持ちで、父親の悪口を言っていたのだろう。
     おそらくは、本心から出た言葉ではなかった筈なのに。
    (「仲直りできないまま、もう会えなくなっちゃうなんてとっても悲しい」)
     幼くして両親を亡くしたためか、家族絡みの話には敏感だった。おぼろげにしか覚えていなくても、その記憶は時折、彼女の胸を締め付ける。
     死をもって引き裂かれた親子の絆――それは沙季にとって、他人事とは思えなかった。


     灼滅者たちは隊列を維持しつつ、父無し娘に攻撃を加えていく。
    「……お父さんなんて、嫌い。大っ嫌い」
     父無し娘が両腕で大鎌を振り上げ、勢いよく宙を切りつけた。不意に現れた巨大な刃が、中衛に立つ四人を纏めて薙ぎ払う。
    「痛って、見境なく鎌振り回しやがって!」
     修太郎が、切りつけられた首筋を押さえて眉を顰めた。マテリアルロッドを構え直し、眼鏡のレンズ越しに父無し娘を鋭く見据える。
     言ってやりたいことはあるが、おそらく聞く耳を持つまい。今は攻撃に集中し、ダメージを蓄積させるのが先決だろう。
     魔術で生み出された雷が、父無し娘を真っ直ぐに貫いた。足止めは充分と判断した煉が、解体ナイフの刀身をジグザグ状に変形させて少女に迫る。
    (「父を嫌い、という割に嫌いといった人間を殺しているあたり本音ではないのかね……」)
     どこか理不尽に思える怒りのぶつけ方を目の当たりにして、そんな考えが一瞬浮かんだ。
    「まぁ、もはや狂気に陥った人間の思考を沿おうとするは詮無き事ではあるか」
     疑問を自ら封じ込め、煉はジグザグの刃で父無し娘の肉を斬り刻む。不規則に抉られた傷口から、どろりと赤い血が流れ落ちた。
    「心の傷と、向き合ってみる……?」
     エンフィスがくすくすと笑い声を響かせる中、アイヴィスが前髪を払って己の素顔を父無し娘に見せる。少女の濁った瞳が自身のトラウマを映した時、エンフィスは虚空よりギロチンの刃を召喚した。
     無慈悲にして残酷なる断罪の刃が、咎人たる父無し娘に襲いかかる。瞬く間に心身の傷を深めていく少女を眺め、エンフィスは愉しげに目を細めた。
     毒の一撃で父無し娘を打つ父を横目で見て、雷歌は鉄塊にも見紛う無敵斬艦刀を構える。つい最近、父親を亡くした身として、この少女に対しては複雑な感情を抱いていた。もしかしたら、自分も彼女と同様の存在に堕ちていたかもしれない。
    「これ以上はやらせねえ……ここで終わらせてやる」
     全てを圧し潰す超重の一撃が、父無し娘を砕かんと叩き込まれる。何もない空間を憑かれたように見つめる少女が、低く呟きを漏らした。
    「お父、さん……?」
     その瞳に映るのは、自分を置き去りにして逝った父親か、それとも――。
     おぞましい叫び声を上げて、父無し娘は狂ったように大釜を振るう。巨大な刃が、前衛たちの首を刈らんと襲いかかった。
    「わ、妾はグルメじゃから、お夕飯が食べられるように頭を狙うのは勘弁してほしいのじゃがな!」
     咄嗟に屈んで一撃をかわしたアルカンシェルが、頭上を通り過ぎた刃を見て軽口を叩く。
     人数の集中しているところを狙われたのが幸いしたか、攻撃の威力は先のそれよりも弱いようだ。前衛の様子を見て、まだ余裕があると判断した修太郎が、己にカミの力を下ろす。
    「あんたも親父さんを亡くしたって言うのが本当なら、同情はするけどな……!」
     それでも、これ以上の犠牲者を出すわけにはいかない。彼はタイミングを計って渦巻く風の刃を生み出し、父無し娘の肌を裂く。ほぼ同時、沙季が祈りの形に手を組んだ。
    (「同じような思いをする人を増やさない為にも、わたしたちが倒すんだ」)
     ともすれば溢れそうな涙を堪えながら、詠唱圧縮された魔法の矢を放つ。身軽なフットワークで動き回るアルカンシェルが、大鎌に血の色のオーラを宿した。
    「善良なる一般ピープルのためにササッと退治じゃ」
     自らも天涯孤独の身の上だが、殊更にそれを口にすることはない。力任せの一撃で、父無し娘にさらなる傷を穿つ。
     追い詰められた父無し娘が、ハイプの足元を狙って大鎌を振るった。
    「うおっ!? ……なんて、なっ!」
     一瞬、大きくバランスを崩したように見せかけつつ、影の触手で少女を絡め取る。
    「……っ! いまだっ!」
     彼の合図を受けて、翼がすかさず父無し娘の背後に回る。緋色の瞳が、傷つき血を流す少女を映した。
    「ばらばらに解体してやる……」
     回避どころか、振り返ることすらも許さぬとばかりに、日本刀を鋭く一閃させる。肩口から背中にかけて袈裟懸けに斬り裂かれた父無し娘が、夜の公園に絶叫を響かせた。
    「お父さんがッ! あたしを、置いていくからッ……! だから……!!」
     まるで、血を吐くような少女の声。雷歌が、僅かに視線を伏せた。
    「……早く行け。てめえのオヤジもきっと向こうで待ってんぞ」
     届かぬことを承知で、祈るように言葉を紡ぐ。妖の槍を構えた煉が、父無し娘に向かって駆けた。
    「そろそろ終わりにしよう」
     凶悪にも見える不健康そうな面からは、感情は読み取れない。螺旋の捻りを加えた槍の穂先が、少女の心臓を真っ向から貫く。
    「お父、さん」
     最期に、そう言い残して。父無し娘は、この世から消えた。


    「ふむ、無事に終わったようだな」
     都市伝説の消滅を見届け、煉が武器を下ろす。万一の時は闇堕ちする覚悟でいたが、実行せずに済んだのは幸いだった。
    「ま、妾の敵ではなかったがの」
     アルカンシェルが大鎌の血を払い、スレイヤーカードに収納する。何か言いたげに見える父に構わず、雷歌は彼を封印した。
    「お疲れさん。……嘘でもごめん、な」
     カードに視線を落とし、『大嫌い』と言った父に詫びる。同じく、アイヴィスをスレイヤーカードに封じたエンフィスが、仲間達を振り返った。
    「お、お疲れ様……でした……」
     元の大人しい少女に戻り、遠慮がちに労いの言葉をかける。一通り勝利を喜んだ後、ハイプはブランコに向き直って手を合わせた。
    「……間に合わなくて悪かった。どうか安らかに眠ってくれ……」
     帰らぬ死者を思い、修太郎も心の中で祈りを捧げる。小さな手を合わせた沙季が、そっと口を開いた。
    「空からお父さんの事を見守ってあげてね……」
     それを聞き、翼がサングラスを手に夜空を見上げる。
     月の輝く空に、星が静かに瞬いていた。

    作者:宮橋輝 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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