全て暴虐に尽くす

    作者:幾夜緋琉

    ●全て暴虐に尽くす
    『あぁ? ……なんだてめぇら。俺に刃向かうと、どうなるかわかってんだよなぁ!?』
     ガシッ、と胸ぐらをつかみ、因縁を付ける男、ダークネスの一つ、羅刹。
     彼に胸ぐらをつかまれた男は、ひ、ひぃぃぃ、とおびえた声を上げ、命乞い。
    『ったく……わかりゃいいんだよ。おまえ達の命は、この俺が握ってんだからなぁ!! わかったか、オラァ!!』
     すっかり周りの者達を威圧しきり、満足気な羅刹。
     そんな彼が居るのは……完全に四方が仕切られた、密室。
     中に居る者達は、逃げることも出来ず、今、目の前に居る羅刹に逆らうことは……出来る訳がない。
     そんな羅刹と密室の者達を、外からほほえみながら頷くのは……アツシであった。
     
    「皆さん……あそこ。あそこに、HKT六六六の一人、ナンバー1のアツシが作った密室があるわ」
     と、仲間を連れた月姫・舞(炊事場の主・d20689)。
     六六六人衆の動向を、松戸市で調べていた舞が見つけたのは……密室空間。
     一見して、ただっぴろい空き地のようにもみえるが……ここの地下に、アツシが作り出した密室があるというのだ。
     ……耳を澄ますと……悲鳴のような声がわずかに聞こえてくる。
     そして近くにあった洞窟のような所から地下に降りると、真新しい扉のようなものが目の前に現れる。
    「……この扉を開ければ、中に殺人鬼が居るはず……そして、とらわれた方達も。それを、私たちの手だけで、助けなければいけないわ」
    「私が調べた限りでは、中に居るのはおそらく殺人鬼ね……そしてこの殺人鬼は、中に居る住人達をいびりながら時間を潰している。でも……暇だと言って、何人かは……もう、毒牙に掛かっているでしょう」
    「私たちが入るとして、中に居る一般人の方達に混乱を起こさないようにする必要があるわ。下手に外からきた、と言ったら、まさしく混乱の元になるだろうし」
    「そんな中、殺人鬼を見つけたら、彼に灼滅者と気づかれないようにしながら接近する必要があるわ。うまく接近できたら……一気に、たたかないと。逆に気づかれてしまったら、一般人を人質にされかねないから、その辺りは注意しないといけないわね」
    「何にせよ、一般人の被害を少しでも少なくする為に、そしてアツシの野望を阻止しないとね……みんな、行きましょう」
     と、舞は静かに言葉を切り、前の扉を、静羽化に、開いた。


    参加者
    神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    海東・秋帆(デジタルノイズ・d07174)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)
    麻崎・沙耶々(ユアーオンリープリンセス・d25180)
    水無瀬・涼太(狂奔・d31160)
    白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)

    ■リプレイ

    ●封鎖場
     千葉県は松戸市、だだっ広い空き地がある、とある場所。
     何もなさそうな空き地の地下空間……そこに六六六人衆の一人、ゴッドセブンのアツシが作り出した殺戮用の密室領域がある。
     そして……それを見つけたのは、月姫・舞(炊事場の主・d20689)。
    「HKT六六六の一人、ナンバー1のアツシ。密室領域、密室殺人鬼ですか……」
    「ああ……自分の作った密室にダークネスを送り込み、大量の被害者を出して序列を上げる。自分の手を使わずとも人を殺し続けられる仕組みってか。反吐が出るな、六六六人衆め……」
    「まったく碌な事せぇへんな、HKTは。アツシもぶん殴ってやりたいけど、今は殺人鬼の相手をせなあかんのか……」
     海東・秋帆(デジタルノイズ・d07174)、迦具土・炎次郎(神の炎と歩む者・d24801)の二人がぼやく言葉。
     更にこの密室領域の中には……1000人もの一般人が閉じ込められていて、その一般人達を思うがままに殺戮するのが、このアツシが作り出した空間な訳で。
    「千人か……これはまた多いな。それにばれないようにしなければならないと……ま、最悪あれだけでも始末すれば良いのだろうけどな」
    「うん。でも……こんな遊びみたいな手口、絶対に許してはおけないもの……! なんとしても元凶を止めなきゃ!」
    「ええ。せめて……これ以上の被害は、極力減らしたいものですしね」
     神門・白金(禁忌のぷらちな缶・d01620)、麻崎・沙耶々(ユアーオンリープリンセス・d25180)、白川・雪緒(白雪姫もとい市松人形・d33515)の言葉……そして灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)、水無瀬・涼太(狂奔・d31160)も。
    「……何にせよ、今回の作戦……千人もの人質を取られた、大変厳しい戦いであるのは間違いありません。出来るのならば、誰一人として被害を出さない様……気を引き締めて参りましょう」
    「ああ……作戦とはいえ、ガキを危険に晒すっつーのはな……クソ。胸糞悪い話だ。こんな悪趣味な作戦は、これ以上やらせねぇ……さぁ、皆、行くぞ!!」
     拳をぐっと握りしめる涼太。
     そして灼滅者達は、地下空間へと続く洞窟へと向かった。

    ●支配者
     ……そして、だだっ広い空き地の地下に位置する洞窟。
     人目を避けるように、隠された入り口を超えて……足音を忍ばせながら、一歩一歩、密室空間へと近づいていく。
     程なくして……そして洞窟という自然物の中に、カモフラージュするように隠された扉が見えてくる。
     ……その扉の手前で、一端立ち止まるフォルケ。
     左右に耳を澄ませて……アツシの気配が無い事を確認してから、扉に今度は耳をつける。
     中から聞こえてきたのは、声を潜めたざわめき……人がいるからこそ発生するざわめき。
     ……そして、そのざわめきの中に。
    『お、お父さん、お父さぁぁん……!!』
     子供と思しき、悲痛な叫び……混じり混じりに、女性の噎び泣く声も聞こえてくる。
     ……と、次の瞬間。
    『ヘヘへ……さぁ、次は誰だぁ? 手当たり次第ぶっ殺してやってもいいんだぜぇ??』
     狂気じみた声を木霊させる殺人鬼……それに、更に中に居る人達は萎縮してしまう。
     ……そんな羅刹の行為に……ぐっと唇を噛みしめる秋帆。
    「くそっ……」
     しかし……今ここで怒りにまかせて飛び出しては、更に一般人達の被害が増えるだろう。ぐっと拳を強く握りしめて、耐える。
     そして、早速扉を開ける為に、扉の構造を小型のライトで調べるフォルケ。
    「……扉を壊すって事は、どんな方法でもいいんだよな?」
    「ええ……ですが、気づかれてたくはありません……となれば、出来るだけ音を立てずして開ける方法は……あった」
     灯りを当てた先には、蝶番。
    「この蝶番をこっそりと外せば、気づかれずに済みそうね……」
    「そうだな……だがこの心棒、上手く引き抜けるんやろか?」
     沙耶々に炎次郎が首を傾げる。
     ……が、それにフォルケは。
    「……大丈夫、任せて下さい」
     と一歩進み出て……その蝶番の所に、ナイフを当てる。
     ナイフを小刻みに動かして、心棒をちょっとずつ、少しずつ引き抜く。
     そして……カタン、と小さな音と共に、蝶番の心棒が外れる。
    「……allclear」
     小さく頷き、そして扉を僅かにスライドさせると……見えたのは、たくさんの人の姿。
    「……この部屋……人間臭い。ま、千人も籠もっていれば仕方ないか」
     白金は小声で呟きつつ、各自闇纏いや旅人の外套などで、一般人の目を欺けるようサイキックを使用。
    「これで良し……でも、闇纏いは一般人にだけ有効よ。つまりアツシと殺人鬼には見えているから、その辺りは注意していきましょう」
     舞の忠告に皆も頷き、そして灼滅者達は、沢山の人混みに紛れるようにしながら、密室空間へと侵入。
     ……殺人鬼は、一段高くなった所に鎮座……そしてその傍らには、息絶えた一般人数人の姿と……泣き喚く子供の姿。
    「……っ」
     唇をかみしめる秋帆。でも……まだ、時期尚早。
     灼滅者達は、密室空間の人混みに紛れるように歩いて行く……じわりじわりと、殺人鬼に近づく様に。
     そして……殺人鬼まで、数メートルといった距離にたどり着く。
     殺人鬼は、数名殺したことに一先ずは満足しているようで、どこから持ち込んだ肉を頬張っている。
     それに……互いに頷き、作戦遂行の合図。
    「それにしても……これ、どうしちゃったんですかね……会社、戻らないといけないんですが……」
     汗を拭いながら、ぽつりと呟くフォルケ、その隣で。
    「ぴぃぃぃぃ、こわいよぉぉ! おかぁさぁん、おにぃちゃぁぁん……!」
     子供らしく振る舞う雪緒。いや、小学一年生だから、らしく、という訳でもないが。
     目は目薬を刺して真っ赤になっていて、はぐれて泣いている子供の様に十分見える。
     そんな鳴き声に、殺人鬼は。
    『ああ……ったく、うるせーなぁ!! ぴぃぴぃ泣いてんじゃねーぞこらぁああ!!』
     と怒る。
     しかし怒ろうとも、雪緒は泣き止まない。それに耐えかね、殺人鬼が彼女の元へと近づいた……その瞬間。
    「アデ、デュイ、デンペラ、アデ、デュエ、ダンバラ……」
     詠唱の言葉を呟き、そして次の瞬間……制約の弾丸を殺人鬼に向けて撃ち込む。
     不意の一撃は、殺人鬼の胸を突き抜ける……不意の攻撃に、殺人鬼も、そして周りの一般人達も……言葉を失う。
    「皆、危ないからここを離れてろ!!」
     秋帆が殺界形成を使い、一般人を威圧すると、雪緒はけろっと泣き止んで。
    「ささ、皆さん、遠ざかるついでに後ろの扉からどうぞお外へ」
     と、一般人達の避難誘導を行う。
     それに殺人鬼が。
    『この……舐めたマネしやがってんじゃねぇぞ!!』
     と、逃げ惑う一般人を捕まえ、殺そうとする。
     が、その捕縛の対象にカバーリングに入ったのは涼太。
    「ハッ、ダークネス様ともあろうモンが俺らみてェな半端モン相手に人質かぁ? まったく、ヤキが廻ったモンだなァ」
     そんな涼太の挑発に、更に雪緒も。
    「おお嫌だ嫌だ。血の臭いどころか死臭がしますのね、あなた」
     あからさまに眉を顰めながら言い放つ雪緒。
     その言葉尻は、殺人鬼を嘗めている様な言い方で……更に殺人鬼の頭に血が上っていく。
    『くそ……ならてめぇをぶっ殺してやらあ!!』
     と、カバーリングした涼太に対して攻撃。
     その一閃がずさりと決まり、涼太の体力を削り取る。
     が、すぐそれに沙耶々が対して動き、ワイドガード。
     回復を施し、BS耐性を付与していいくと、更にジャマーの炎次郎、スナイパーの白金、舞の三人が動く。
     炎次郎は影喰らい、白金は封縛糸、舞が黒死斬……攻撃と共に、確実に殺人鬼にバッドステータスを叩き込み、動きを制限していく。
     そして動きを制限した後に続くはクラッシャーのフォルケ、秋帆。
     影縛りに続けて、仲間の与えたバッドステータスを倍加する様にジグザグスラッシュ。
     着実に、確実にバッドステータスにて、敵の動きを蝕みながら、体力も削り行く。
     二分、三分……刻が進めば、バッドステータスも更に倍加。
     多重のバッドステータスに苦しむ殺人鬼だが……決して油断せず、容赦無い攻撃を続けて行く。
     勿論、その間に千人の一般人達は、着実に逃げていく……とはいえ、今迄の恐怖で足がすくみ、その場に蹲っているのも数十人単位でいるが。
    「流石に……彼らに逃げろと行って逃げさせるのは無理やな」
     唇を噛みしめ、かならずや守る、の覚悟を決める炎次郎。
     決して殺人鬼を、一般人に近づけさせないように、包囲網を逆に詰めていく様に動く。
     当然押されている、と感じた殺人鬼は、それを跳ね返そうと抵抗する。
     が……流石に多勢に無勢。
     十分程が経過した頃には、殺人鬼はすっかり囲まれていた。大量のバッドステータスと共に。
    『チッ……くそ!』
     苛々した声を吐き捨てる殺人鬼。それに沙耶々は。
    「罪も亡い一般人をこんな密室空間に閉じ込めて……殺戮の限りを尽くすなんて許せない。もう、さっさとここで死んじゃいなさいな!!」
     と言い放つ。
     それに言葉で言い返そうとした殺人鬼だが……そんな殺人鬼に向けて。
    「慣れない演技で溜まった憂さを喰らうが宜しいですわ!!」
     雪緒の渾身の妖冷弾が左サイドから放たれる。
     その一撃、交わせずにジャストヒット。
     体勢を崩し、その場に倒れ込んだ殺人鬼へ……。
    「……The End。ここで……トドメ」
     フォルケのティアーズリッパーが殺人鬼の首元を狙い澄ますと……殺人鬼は、叫びを上げることも出来ずに崩れ落ちるのであった。

    ●力亡き
     そして……どうにか、密室空間にいる殺人鬼を倒した灼滅者達。
     1000人の一般人達の内、数人……足がすくんで殆ど動けなかった一般人達も、どうやらもう大丈夫なようで、こんな密室空間に閉じ込められていた事に対する不平不満を口にしながらも……三々五々で密室から脱出していく。
     ……そして、一般人全員が脱出した後の、密室空間。
     いや……もう出入り口が開いてるから、密室空間とは言えないかもしれないが、その空間はもぬけのからのがらんどう。
     ……そんながらんどうの空間を、隅々まで確認するように、調査を開始。
     もちろん、中にアツシが居ない事を確認した上で……。
    「首謀者の痕跡、少しでも何か……」
     と、雪緒が探し始めれば、涼太や舞も……現地調査を開始。
     また……そのがらんどうの空間に、うち捨てられるように放置させられている一般人には、舞が。
    「同じ死でも、せめて……穏やかな終わりを……」
     と、走馬燈使いで、犠牲者達の冥福を祈る。
     ……そして、部屋の中に何もない事が解れば、灼滅者達は密室空間を後にする。
     空はほのかな夕陽に染まっている……そしてその夕焼け空を見上げながら、白金が。
    「ナンバー1か……一番強いのかね……序列、いくつだろうな……」
    「さぁな……だが」
     ぐっ、と拳を握りしめる秋帆、そして。
    「これからも密室を作り続けるつもりなら、必ず倒してやる。ヤツの、次の狙いは、どこなんだ……?」
     もちろん、誰もその答えを知るよしもない。
     だが……ゴッドセブン、アツシが居る限り、また……同様の事件が起きる可能性は高いだろう。
    「……アツシの手口は狡猾です。また……第二第三の事件が、またも起きるかもしれませんね……」
     ぽつり、呟く舞。
     アツシの姿は見えず……そして、暗躍を続けている。
     そんな六六六人衆の暗躍に、心中穏やかにはなれぬまま……灼滅者達は帰路へとつくのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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