その殺戮に血は流れない

    作者:のらむ


     六六六人衆、宇城・和義(うしろかずよし)。
     彼は、自分の殺しに確固たる信念を掲げていた。
     それは、一般人に傷一つつけず、そして苦しみ暇もなく一瞬で殺すこと。
     殺人と言う行為には、相手を傷つける必要はない。苦しみを与える必要もない。
     そして自分の殺人技術の糧となる一般人達には、敬意を表さなければならない。
     肉体を一切傷つけず、内なる魂のみを破壊する殺し。
     そんな殺しを続ける宇城は他の殺人鬼から、『魂砕き』と称される様になっていた。

     山奥にひっそりと佇む、住民の多くを高齢者が占めるとある村。
     ある日の夕方、この村に薄汚れた茶色のコートを羽織った、1人の男が現れた。
     六六六人衆、宇城・和義だった。
    「おやまあ、こんな村にお客さん……? 悪いですが、ここには畑以外は何にもありませんぞ?」」
     畑仕事をしていた2人の老婆の内の1つが、宇城に声をかけた。
     宇城は恭しく礼を返すと、老婆達に近づく。
    「どうもこんにちは……生憎、観光目的ではないもので。すぐに帰ります」
    「そうかい……? しかし、もうじき夜になるし……良ければ今晩は家に泊まって行かれませんか? 灯りの無い夜道は危険じゃよ?」
     宇城は老婆の言葉に軽く笑って返し、
    「ご親切にどうも。だけど、本当に大丈夫です。そして……失礼します」
     宇城は老婆に見えない様に懐から拳銃を取り出し、不意に老婆の頭に向け引き金を引いた。
     放たれたのは鉛ではなく、非物質化された弾丸だった。
     一瞬で命を落とし、崩れ落ちる老婆の身体を宇城は受け止め、静かに地面に横たえた。
    「え……」
     呆然とするもう1人の老婆の額に宇城は手を当て、
    「失礼」
     そしてその掌から老婆の生命力を一瞬で奪い去った。
    「さて……行くか。手早く、素早く終わらせよう」
     宇城は非物質化させた曲刀を構えると、次なる標的を探し始める。
     誰も傷つかず、恐怖に陥る事もなく、この村の全ての人間が死に絶えた。


    「六六六人衆序列五七五位、宇城・和義。相手を傷つけずに殺すことが信条の彼が、とある山奥の村の人間を残らず殺害します。皆さんは現場へ向かい、これを阻止してください」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)は赤いファイルを開き、事件の説明を進める。
    「この村はかなり小さな村で、住人は全部で60人程です。この村は東西に大きく伸びるような形をしており、宇城はこの村の西端から姿を現します。そして西と東の方には村の外に向けて道が続いていますが、北と南には急傾斜の山が広がっています」
     ウィラは赤いファイルに目を通す。
    「当日には、誠という灼滅者が皆さんに同行します。彼は自分が適していると思う場所で避難誘導を行いますが、特別に指示があればその様に動きます」
     そして、ウィラは宇城の戦闘能力の説明に入る。
    「彼は人を傷つけず、そして一瞬で終わらせ、苦しませないような殺しを行いますが……彼の攻撃に耐えられる皆さんは別でしょう。相当苦しい攻撃になると思います」
     ウィラはパラリと資料をめくる。
    「宇城の能力はかなり攻撃に偏っていますが……特筆すべきは、彼の持つ高威力のドレイン攻撃でしょう。これにより、自身の防御の脆さを補っている形になります。どう攻めるかは、皆さん次第です」
     そこまでの説明を終え、ウィラはファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。人を傷つけないと謳ってはいますが、殺しは殺しです。人が死ぬという結果には何の変わりもありません。どうか一般人達を守りきり、そして皆さんも無事に作戦を終えてください。お気をつけて」


    参加者
    フルール・ドゥリス(解語の花・d06006)
    闇縫・椿(烏夜・d06320)
    遠野・潮(悪喰・d10447)
    香坂・颯(優しき焔・d10661)
    穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)
    比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)
    クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・d21014)
    月影・瑠羽奈(夜明けの蒼月・d29011)

    ■リプレイ


    「…………この辺りに村が……ああ、あった。あそこだな」
     六六六人衆、宇城・和義が地図を片手に山道を練り歩いてから数時間後、ようやく目的地の村の入り口を見つけることが出来た。
    「………………ん? 何だ? 山奥の村にしては、随分と若い子たちだな……」
     村の入り口に陣取っていた8人の若者を遠目で眺め、宇城はそう呟いた。
     彼ら8人は、宇城の虐殺を阻止するために訪れていた灼滅者達だった。
    「やあ。君達は、この村に住んでいる子たちかい?」
    「いいや違うぜ……そして、ここから先は通行止めだぜ?」
     クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・d21014)はそう告げると、宇城の前に立ち塞がる。
    「うーん……それは一体どういう……」
     ポリポリと頭を掻く宇城に、闇縫・椿(烏夜・d06320)は不意に剣の刃を向けた。
    「まぁ……こういう事だ。御機嫌よう、六六六人衆」
     次の瞬間、鈍い音が周囲に響き渡る。
    「お前に人は殺させねーぜ、宇城!」
     穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)が振り上げた盾が、宇城の顔面にぶち当たり、地面に叩きつけられたのだ。
    「作戦開始だ」
     遠野・潮(悪喰・d10447)がヘッドセッドを使用し、『RiskBreaker』の仲間達へ連絡する。
    「了解……そっちはそっちで、頑張って」
    「行くか。一般人たちを西側に行かせる訳にはいかないからな」
     潮の連絡を受け、仲間たちはすぐさま避難誘導を開始した。
     そして宇城に攻撃が加えられた事を切欠に、村に待機していた他の灼滅者たちも行動を開始していた。
    「東の方へ急いで!」
    「慌てずに落ち着いて、東へ移動してくれ!」
     空や侑紀が避難を呼びかけつつ、村の老人たちを安全地帯へ運んでいく。
    「村の西側で騒ぎを起きているので、少しの間避難して下さい」
    「慌てないで。あそこにいる人についていけば、安全ですよ」
     由宇と色葉が協力し、複数の一般人を纏めて運んでいく。
    「うーん、こう、話せば分かってくれるんじゃないか、って思っちゃう相手は少し苦手だなぁ……いや、今はとにかく皆の援護をしないと」
    「(殺しは殺し‥‥か。私も一皮むけば変わらないのかもしれない‥‥星椿の為ならば)」
     千巻と雛菊が、それぞれ思う所ありつつも、自らの仕事をこなしていく。
    「……なるほど、君達は灼滅者か……しかもその強さをみるに、恐らく武蔵坂。君達の株は、ダークネス界隈でも随分と上がっているよ」
    「お褒めに預かり光栄です。が……褒めてもここは通しませんよ」
     殴られた部分を抑えつつ立ち上がった宇城に、フルール・ドゥリス(解語の花・d06006)は光条を放って追撃する。
    「この先には通せないな。進みたいなら、僕たちを殺して進めばいい。簡単だろう?」
     香坂・颯(優しき焔・d10661)は殲術道具を構え、宇城にそう告げた。
    「こんばんは……お爺さん、お婆さん」
    「死にたくねェなら逃げろ! あっちが安全だ、ここは任せときなァ!!」
     方向性は違うものの、百舌鳥とヘキサはプラチナチケットを使用して避難誘導を行っている。
    「六六六人衆序列五七五位か。六六六人衆とは何度もやり合ったけど……ここまで高位は初めてだな」
     スレイヤーカードを解放した比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)は、戦場の緊張感をその身で感じながら、刀を抜く。
    「まだまだだ。私程度の強さのダークネスなんて、掃いて捨てる程いるだろう…………さて、提案だ。私は君達に危害を加えたくはない。今の私の力では君達を一撃で仕留めることは出来ないからね。どうだろう、ここは退いてくれないか?」
    「申し訳ありませんが……こちらにも絶対に譲れない一線というものがあるのですわ」
     月影・瑠羽奈(夜明けの蒼月・d29011)は固い意志と共に、宇城にそう告げた。
    「そうか……心苦しいが、しょうがない……出来るだけ楽に殺してあげることにしよう」
     宇城はそう呟き、非物質化させた剣と拳銃を取り出す。
     そして戦いが始まった。


    「痛みを与えて申し訳ないが……そこを退いてほしいんだ」
     宇城が拳銃から見えざる無数の弾丸が放たれ、後衛に襲い掛かる。
    「させるかよ!!」
     仲間の前に飛び出した恒汰が弾丸を受け止め、激しい痛みが全身を襲った。
    「クッ……まだまだ全然耐えられるぜ! いくぞ、イチ!」
     恒汰は指輪に自身の魔力を装填させ、その内にウイングキャットの『イチ』は超高速で後ろへ接近する。
     そしてイチが宇城の腹に重いパンチを繰り出すと、恒汰が狙いを定める。
    「傷つけない信条だかなんだか知らねーけど、結局人を殺しててることには変わりないじゃんか!」
     恒汰が放った魔の弾丸が、宇城の肩を貫いた。
    「ああ、そうだな……君の言うとおりだよ」
     宇城は続けて片手の甲を恒汰に押し当てると、そこから生命力を奪い取った。
    「すごい攻撃だ、本当に強いんだな……だけどオレはそう簡単に倒れはしないぜ!!」
     恒汰は更に盾を振り下ろすと、宇城の頭に思いきり叩きつけた。
    「…………」
     恒汰に続き、椿は無言で刃を突き出して宇城の胸を深く貫いた。
    「………………やはり、中々やるな」
     宇城は頷きながら、非物質化させた刃を勢いよく振り下ろす。
    「グッ……確かにキツイが、耐えられない程じゃない……!」
     仲間に向けられた攻撃を受け止めた颯が、槍に妖気を集束させて宇城へ攻撃を仕掛ける。
    「苦しめなかったら人を殺していい、なんて話は存在しない……絶対に、守り抜いてみせる」
     颯が放った氷の刃が宇城の腹に突き刺さり、僅かに凍りつかせる。
    「その心意気は買うが……私は結構強いぞ」
    「だとしてもだ。絶対に、君に人を殺させる訳にはいかない」
     そして颯はビハインドの綾と共に宇城へ突撃する。
     綾が放った霊力の塊が、鋭い刃となって胸を貫く。
     次の瞬間、颯が振り上げた拳が、宇城の身体を大きく打ち上げた。
    「これは好機……攻めさせてもらいますわ」
     次の瞬間、空中に跳び上がった瑠羽奈が標識を叩きつけ、宇城を地面に叩き落とした。
     宇城は無理やり手を地面に叩きつけて起き上がると銃口を向け、一瞬の間の後に引き金が引かれた。
     放たれた弾丸が、前衛に襲い掛かる。
    「……お前程度の力じゃ、俺は倒れないぜ?」
     弾丸を避けるどころか正面から当たりにいったクーガー。
     それなりの傷を負ったが、クーガーは仲間を庇う事が出来ていた。
    「行くか……夜宵もここに来てくれてるんだ。勝てない筈が無いぜ」
     潮は恋人の存在に感謝と心強さを感じつつ、刀を構えて宇城に向かう。
    「お前はここで灼滅してやるぜ!」
     潮が振り下ろした刀は宇城の動きを正確に捉え、その身体を深く斬り裂いた。
    「……愛する存在がいる者は強いとはよく言ったものだ。お見事」
     宇城は素直に潮の攻撃を称賛し、お返しとばかりに潮の懐まで潜り込み、生命力を直接奪い取る。
    「グッ……こんなチマチマした攻撃、効かねえぜ」
     潮はカッと全身に力を込めて遠のく意識を踏みとどまらせ、サイキックソードを二度振るった。
     そして至近距離から放たれた光の刃が、宇城の両腕を斬る。
     宇城は更に攻撃を仕掛けようとしたが、背後から逢真が接近するのを感じ取り、咄嗟に振り向き瘴気を放つ。
    「流石の反応速度だ……そうでなくっちゃ」
     相当なダメージを受けた逢真は何故か嬉しそうな笑みを浮かべ、そのまま刀を振り下ろした。
    「皆の傷が深い……潮さんの回復よ、リアン!」
     フルールは霊犬の『リアン』に仲間の回復の指示を出し、自身も両手に聖なる力を込めていく。
     そしてフルールが放った聖なる光条が逢真の全身を包み込み、その傷を癒した。
     可能な所までの回復を終えたフルールは、杖を構えて宇城と相対する。
    「何が君達をそこまでさせるのか…………殺人技術を高める、という理由じゃあやはり君達は納得しないのかな?」
    「例えそこにどんな理由や信念があろうと、大量殺人を見過ごす訳には行きません……合わせて攻撃よ、リアン!」
     フルールは杖の先に魔力から作り上げた雷を溜め、リアンは斬魔刀を構えて宇城へダッシュする。
     リアンがすれ違いざまに斬魔刀を振るうと脇腹が切り裂かれ、
     次の瞬間フルールが放った一筋の雷が、宇城の心臓を貫いた。
    「ガッ……このままでは、埒が明かないな……」
     戦闘が始まってから、8人の灼滅者たちの手によって宇城は村の西入り口前から全く進めずにいた。
     その間も、村の中では灼滅者たちによる避難誘導が行われていた。
    「こちらの方たちは全員眠らせました。來鯉さん、運んでいってもらえますか?」
    「了解。この感じだと、避難はもうすぐ終わりそうだね」
     ヴァーリと來鯉は、強情にその場を動かない村人を、魂鎮めの風と怪力無双で強引に運んでいく。
    「あっちの戦いも派手にやってんなあ……こっちも急がねえとな」
    「えー、皆さんこちらに避難して下さいデス! 西はとにかくヤバイ感じなので絶対に行かないで下サイ!」
     荒事屋GGの面々も、役割分担しつつ避難を進める。
    「流石に老人だらけの村とあって、中々早く動けない一般人も結構いたな。車用意しといて正解だったぜ」
    「だね。俺が運転するから、護衛は海保さんに任せたよ」
     眞白と旭が、あらかじめ用意しておいた車に足が不自由な老人達をのせ、村の外まで運んでいく。
     そして避難は完了し、村に残ったのは灼滅者と六六六人衆だけだった。
    「避難誘導、完了したよ!」
    「俺も確認済みだ。1つでかい合図を頼むぞ」
     翔と竜鬼の報告を受け、誠は大きく頷き、魔道書を開いた。
    「よし……避難完了だぜお前ら!! 後は思う存分やりやがれ!」
     合図役を任されていた誠が、空に向かって魔術を詠唱した。


     空中で起きた巨大な爆発が、宇城と戦闘を行っていた9人の耳に届いた。
    「何だ……?」
     避難終了の合図とは知らない宇城が、訝しげに空を眺める。
    「…………余所見する暇なんてあるのかい?」
     ザクリ、と椿が突き出した剣の刃が宇城の鳩尾を抉り、どす黒い血が流れ出す。
    「クッ…………」
     刃を押し戻そうと椿の腕を掴んだ宇城だったが、椿は更に力を込めて傷口を抉る。
    「痛むか? 苦しいか? ……楽しいだろう?」
     そう口にした椿の表情はとても冷たく、それでいて心からこの殺し合いを楽しんでいる様に見えた。
    「ふ…………私なんかより、君の方がよっぽど六六六人衆っぽいじゃないか」
    「……昔はそうだった」
    「そうかい。僕よりもずっと冷酷で残虐非道な殺人を繰り返したんだろうね」
     刃を引き抜くことを諦めた宇城は、その体勢から剣を突き出し、椿の魂を直接傷つけた。
    「…………」
     全身を引き裂かれるような痛みに襲われてもなお、椿は笑みを崩さない。
     そしてそのまま鳩尾に鋭い蹴りを放つと、宇城は血を流しながら地面に転がった。
    「……これで一応目的は達成ですが、どうなるでしょうか……」
     フルールは癒しの符を椿に放ちながら、そう呟く。
     一般人の避難誘導は全て完了したが、宇城は未だ退こうとはしない。
    「君達は本当に粘るね…………だけど」
     宇城は引き金を引き、今日何度も響き渡った銃声と共に、弾丸は灼滅者達の魂を貫く。
    「結構効いたが…………まだいけるぜ」
     クーガーは痛みを堪えながら立ち続け、己の闘気を雷へ変換させて全身に纏わせる。
    「てめーの攻撃なんざ全て耐えきってやるぜッ」
     一瞬で間合いを詰めて宇城にボディーブローを放つと、バチバチと弾ける雷が身体を焼け焦がす。
    「くっ……確かに君の体力の高さは半端じゃないが……これで、仕留めきる」
     宇城は至近距離からクーガーの頭を掴み上げると、そこからクーガーの生命力を一瞬にして奪い取る。
    「ガ…………!!」
     生命力と共に意識も薄れゆくのも、クーガーは感じた。
     次の瞬間、クーガーは自らの身体に縛霊手の爪を突き立て、激しい痛みと共に意識を揺り戻す。
    「まだだ……俺はまだ倒れはしないぜ!」
    「なんだと……?」
     クーガーの魂が、肉体を凌駕したのだ。
    「灼滅者舐めんなって事だぜ!!」
     呆気に取られた宇城の後頭部に恒汰は盾を叩きつけ、大きくよろめかせた。
    「隙が出来ましたね……攻めさせてもらいますわ」
     生まれた一瞬の隙に瑠羽奈が『聖月の毒針』を宇城の首筋に突き立て、そこからサイキック毒を流し込んだ。
     傷口を抑えながら下がる宇城の前に、瑠羽奈は桜色の殺戮帯を操りながら立つ。
    「1つ、聞かせて下さい。何故魂砕きに拘るのですか? 血を流さないと言っても、所詮は殺し。いいことをしているつもりはないんでしょうか……理由をお聞かせ願いたいですわね」
     瑠羽奈の言葉に、宇城は頭に手を当てて少し俯く。
    「何故魂砕きをする、か。何故人を殺すか、では無いのか。珍しいな……」
     僅かな間が空き、宇城は口を開く。
    「大した理由は無い。ただ私は敬意を払いたいだけなんだ。殺す相手に。私の殺人技術の糧となる相手に……人として、と言えないけどね」
    「やっぱり……ダークネスの考えを、完璧に理解するのは難しいようですわね」
     瑠羽奈は呟き、帯を射出すると、宇城の身体に貫通させる。
     更にその帯を引いて無理やり宇城の身体を引き寄せると、鳩尾に標識を渾身の力で叩き込んだ。
    「ガッ!! ……それはお互い様」
     傷を抑えながらそう言い切った宇城の前に、刀を構えた逢真が立つ。
    「殺し方に拘りを持ち、その技術を高める為だけに殺す…………いいね、最高だよ」
     普段相見える事のない強敵との殺し合いに、逢真は己の内の殺戮衝動が溢れだすのを感じていた。
    「いい殺気だ」
     僅かな笑みを浮かべた宇城。
     そして逢真は己の殺気を込めた魔力を放出すると、ドス黒い魔力の矢が形成された。
    「この戦いに終わりが近づいている……けど、どうせなら最後まで愉しもう」
     逢真が刀を宇城に向けると、一斉に放たれた黒き矢が全身に突き刺さった。
    「愉しむか……戦いを愉しめるなんて、君は随分と幸せ者だな」
     皮肉では無く、純粋な感想としてそう述べた宇城。
     そして魂を砕く弾丸を放った宇城だったが、灼滅者達はその攻撃を耐えきり、一斉に攻撃を仕掛けた。
     颯が放った蹴りが胸を打ち、
     恒汰が放った魔の弾丸が脳天に突き刺さる。
     瑠羽奈が放った月影の如き影が全身を飲みこみ、
     クーガーが放った跳び蹴りが肩を砕く。
     潮が放った光の刃が脇腹を深く切り裂き、
     フルールが放った聖なる光条が全身を焼く。
     椿が振り下ろした刃が首筋を掻き切り、
     逢真が刀を構え直す。
    「その強さを味わうことが出来たのは、何よりの経験だけど……俺たちの勝ちだ」
     逢真が放った真っ直ぐな斬撃は、宇城の肉体に確かな傷を刻み込んだ。
    「流石だ……村の人間にも逃げられ、君達を殺すことも出来ていない……確かに誰がみても、私の完敗だね」
     宇城の継戦能力はかなりの物で、受けた傷を即座に癒し、バッドステータスに対する対策も十分だった為、そこまでの深手は負ってはいなかった。
     しかし一方、宇城と戦闘を行っていた灼滅者たちの戦術も、かなりの物だった。
     村の東側に行かせない事を徹底させつつ、単純な殴り合いとして見た場合も決して見劣りしない。
     更に、灼滅者たちの純粋な戦闘能力もそれなりに高い。
     その結果、戦況は宇城の劣勢であった。
    「退くべきだな」
     宇城の決断は早かった。
     目の前の灼滅者達は自身が予想していたものよりも強く、負ける可能性が出てきたからだ。
    「引くなら、追わない。続けるというなら……どちらかが死ぬまでやるだけだよ」
     颯が傷だらけの身体に鞭を打ちながら、宇城に追撃する気は無いと告げた。
    「ああ……そうさせてもらおうかな」
    「おいおい、逃げんのかよ? ダッセエにも程があるぜー?」
     一方の潮は、宇城を逃がすまいと背後に陣取り、挑発の言葉を投げかけていた。
     灼滅者達の方針としては概ね、可能ならば灼滅するというものだったが、明確に逃亡の阻止を意識している人間が少ない以上、それは難しい事だった。
     しかし東方面へ絶対に進ませないというこの作戦ならば、それも仕方の無い事だっただろう。
     事実この作戦で、多くの人間の命が救われたのだ。
    「さようなら、灼滅者。今日は中々に貴重な体験が出来た。君達の強さに敬意を表するよ」
     宇城は潮の横をすり抜け全力で北の山へ駆け出した。
    「次に会った時は、絶対灼滅してやるからな!!」
    「これからも虐殺を続けるというなら……あなたの事は、いつか私たちが必ず灼滅します」
     恒汰とフルールが、宇城の背にそう投げかけた。
     宇城は軽く手を挙げて応え、そのまま山の奥深くへと消え去ってしまった。
    「逃がしたか……結構いい感じに嫌味な挑発出来たと思ったんだけどなー」
    「まあ、仕方ないと思うよ。そう簡単に挑発に乗るような奴じゃあ無かったし」
     悔しげな潮に、逢真がそう声をかけた。
    「まあ何だかんだ言って、全員無事だったな。途中危なかったけどよ」
    「前線を維持出来たのは、結構大きかったですね」
     クーガーと颯が、互いの無事を喜びあった。
    「お疲れ様…………っと、いつの間にか、陽も落ちる頃だ」
    「そうですね……そんなに時間は経っていないのでしょうけれど、随分長い間戦っていた気がしますわ」
     椿と瑠羽奈はそう言って歩き出し、一同は学園への帰路に着いた。
     灼滅者たちが受けた傷は大きったが、得られた戦果も大きかった。
     灼滅者達は、この村の人々の命を完璧に救ったのだ。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年3月31日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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