生ラムロール味付きジンギスカン

    作者:海あゆめ


     じゅうじゅうと、いい音を立てるジンギスカン鍋。野菜を敷いたその上に、生ラム肉、味付き肉、ロール肉がひしめき合っている。
    「おい、もう少し端に寄れ。せっかくの生ラムに貴様のタレ味がついてしまうではないか」
    「何を言う! 私のタレは秘伝の万能ダレ! 肉に良し、野菜に良し、締めのうどんに良し! むしろ我がタレを吸収できることを光栄に思うがいい!」
    「ぐぬぬぬ……おい。ロール肉! 何故ジンギスカン鍋を別にせなんだ! 我々ジンギスカン界にはそれぞれの派閥にそれぞれの作法がある! そのことは貴様もよく知っているだろうに!」
    「……ふん、まだ気づかぬか、今日のこの会合の意義に……この愚か者共め!!」
     低く響いた怒号に、鍋の中で陣地争いをしていた男達は思わず手を止め口をつぐんだ。そんな彼らを一瞥し、ほどよく焼けたロール肉を口へと運びながら男は続ける。
    「これだから駄目なのだ。これだから、ジンギスカンは面倒だとか、花見でジンギスカンをするのはいかがだろうかとか、運動会でのジンギスカンはご遠慮願いますとか言われてしまう……あまつさえ、『そういえば最近、冷凍のロール肉って見かけないよね』などと地元民に言われる始末!!」
    「な、なんと! 定番中の定番である貴様が!?」
    「くっ……ジンギスカン離れの危機に直面しているというのか! この試される北の大地が……!?」
    「そういうことだ……今こそ、我々は派閥の壁を越えなければならぬ! 異存はあるまいな?」
    「無論! 我々の力で、まずは北海道民をジンギスカン漬けにしてやろうではないか! 焼肉とジンギスカンの区別がつかなくなるまで!!」
    「賛成だ! そして、ゆくゆくは世界中をジンギスカン漬けに……!」
     箸を放り出した男達は手を取り合い、感極まって涙する。
     生ラム、味付き、ロール肉、三人のジンギスカン怪人がひとつになった瞬間であった……。
     

    「北海道でね、派閥の違うジンギスカン怪人さん達が手を組んで、なんか企んでるらしいんだけど……その前に、ジンギスカンの派閥って何?」
    「ああ、肉の種類だべな。生ラムとか、味付きとか、冷凍の丸っこいのとか……ちなみに俺は生ラム派だ!」
    「へ~、いろいろあるんだねぇ。ま、あたしは美味しければなんでもいいけど……」
     聞かれてもいない事まで堂々と宣言する、緑山・香蕗(大学生ご当地ヒーロー・dn0044)を、班目・スイ子(高校生エクスブレイン・dn0062)は適当にあしらいながら、机の上に地図を広げた。
    「この怪人さん達は、札幌市の繁華街にある焼き肉店を襲撃してジンギスカン漬けにしようとしてるみたい。しかも同時多発!」
     そう言って、スイ子は地図の上に3つの印をつけてみせた。
    「同じ日、同じ時間に、この3つのお店が襲撃されちゃうよ。だから、みんなにも3つのチームを作って現場に向かってもらって、怪人さん達をやっつけてきて欲しいの」

     今回、事件を起こそうとしているジンギスカン怪人は3種類。狙う焼き肉店の特色もそれぞれだという。
     まず、生ラムジンギスカン怪人が襲撃するのは、主に若者達で賑わう激安食べ放題の焼き肉店。高級志向の美味しい生ラムをたらふく食わせて、安い焼き肉なんかもう食べられなくしてやろうと企んでいるらしい。
     それから、味付きジンギスカン怪人が襲撃するのは、お肉と一緒に旬の野菜がたっぷり食べられると女性に人気のある焼き肉店。味付きジンギスカンの秘伝のタレで野菜を味付けし、女性客を虜にしてやろうという魂胆だ。
     そして、ロール肉ジンギスカン怪人が襲撃するのは、仕事帰りのお父さん達に人気の、ホルモン焼きの店。ほろ酔いのおじさん達に、昔は主流だった冷凍ロールのジンギスカンを食べさせ、ノスタルジーの世界へと引き込む作戦。
     それぞれのジンギスカン怪人達は、タレのビームを発射したり、熱々のジンギスカンを口にねじ込んできたりなどという攻撃方法を持っている。
     
    「お店には他のお客さんもいるから、安全の確保もよろしくね。方法としては、怪人さんをお店の空いてる宴会席とかに連れ込むのが手っ取り早いかも」
     と、スイ子はそこまで説明を続けて、灼滅者達に向き直る。
    「怪人さん達の来る時間はわかってるから、みんなはその前にそれぞれのお店で待ってれば大丈夫! にひっ♪ 今回は特別大サービス♪」
     焼き肉店で使えるお食事券を灼滅者達へと手渡し、スイ子は悪戯っぽく笑ってみせた。
    「ちゃ~んと予約もとってあるから、安心してねぇ? みんなならきっと大丈夫! いってらっしゃい! 気をつけて!」
     言って、スイ子は灼滅者達の背中を軽く叩く。
    「よっしゃ、したっけ行くべか! ジンギスカンはどれも美味ぇけど、そればっかりになっちまったら大変だもんな!」
     それに香蕗も大きく頷き、歩き出した。
     ジンギスカン怪人達の企てを止めるべく、今、灼滅者達が始動する!


    参加者
    霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)
    渡橋・縁(神芝居・d04576)
    羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)
    夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)
    天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)
    庵原・真珠(揺れる振り子・d19620)
    シュクレーム・エルテール(スケープゴート・d21624)
    夏目・サキ(暗くて赤くて狭い檻・d31712)

    ■リプレイ


     札幌市の繁華街。それぞれの焼肉店で待機していた灼滅者達は、早速それぞれのジンギスカン怪人と遭遇する。
    『そうれ、生ラムを焼いてやろう! そんな安物なんぞ、もう食べられなくなるくらいに旨いぞ!』
     安さが自慢の食べ放題焼肉店のホールの中を、生ラムジンギスカン怪人が闊歩する。次々と惜しげもなく焼かれていく上質な生ラム肉が、客の若者達を未知の世界へと手招きしている。このままでは、まずい。
    「えぇぇっ! 安い肉が食べられなくなるですってぇ~!? そんな……!」
     声を上げ、夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)は大げさに打ちひしがれてみせた。すると辺りから黄色い歓声や心配するような声が上がる。ゆみかが振りまくラブフェロモンの効果だ。この隙を、羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)は逃さない。生ラムジンギスカン怪人のマントの端を掴む。
    『む、どうした少年!』
    「北国の代表とも言えるご当地愛! その中でも道民ならではの生ラムを推奨する君とじっくりお話がしたいんだ!」
     無邪気に笑って、子羊は生ラムジンギスカン怪人を奥にあるパーティー用の個室まで引っ張って行くと、そこで待っていた、渡橋・縁(神芝居・d04576)がドアを開けてくれる。
    「ジンギスカン……食べたことないんです。良かったら、その……教えてくれませんか」
     帽子で隠れた目元をそっと上げて懇願する縁。
    『うむ、良かろう! 少年少女達よ! 生ラムの旨さをとくと味わうがいい!』
     気分がいいのか、得意げにふんぞり返った怪人は縁に促されるまま意気揚々と個室へと入っていく……。

     一方、ホルモン焼きの美味しいお店では、何やら店内が大盛り上がり。
    「ジンギスカン怪人、ここで会ったが百年目である」
    『何ぃ!? 貴様ぁ、何奴!』
    「いいぞー! 姉ちゃん!」
    「もっとやれー!」
    『っ、私の見せ場が、奪われた……だと!?』
     シュクレーム・エルテール(スケープゴート・d21624)が大きく振り回したハンマーでロール肉ジンギスカン怪人を指し示せば、ほろ酔い気分のおじさん達の声援が上がる。びっくりして退いてくれやしまいかと狙ってのことだったのだが、ご覧の通りである。
     だが、これで店のお客はノスタルジックなロール肉の誘惑からは逃れられたようだ。シュクレームが注目を浴びている隙に、霧島・竜姫(ダイバードラゴン・d00946)は出鼻を挫かれ、しょんぼりしているロール肉ジンギスカン怪人にそっと耳打ちする。
    「噂は聞いていました。あちらにジンギスカンの用意ができていますのでロール肉について語らいませんか?」
    「おお……貴様はわかっているようだな!」
     確保済みの個室では、緑山・香蕗(大学生ご当地ヒーロー・dn0044)がすでにそこで待機しているはずである。途端にご機嫌になった怪人を、竜姫は店の二階にある宴会席へと案内する。

     女性にも人気の、旬の野菜を味わえる洒落たた雰囲気の焼肉店。庵原・真珠(揺れる振り子・d19620)と、天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)、夏目・サキ(暗くて赤くて狭い檻・d31712)の三人も味付きジンギスカン怪人と接触、作戦を開始していた。
    「あの、あっちで味付きジンギスカンの美味しい食べ方教えてください!」
     真珠が怪人の腕を捕まえて。
    「ん、きりん、ジンギスカンってはじめてだから、くわしい人と一緒出来たらいいかもって思うよ」
     そこへそっと近づいてきた、麒麟が小首を傾げてみせる。
    「今、丁度、ジンギスカンの話をしてたから……振舞ってくれるなら是非……」
     極め付けに、サキが上目づかいで怪人を見つめれば……。
    『ふっふっふ、良いだろう! この私が、手取り足取り教えてやろう!』
     効果抜群だ。彼女達には特にそういった他意はなかったのだが、この有り様である。わざわざ女性の多い焼肉店を狙うあたり、どうやら味付きジンギスカン怪人は相当なスケベらしい。いや、スケベに違いない。
    『今日はついてるなぁ、こんな可愛らしいお嬢さんたちとジンギスカン……しかも個室だとは……!』
     やっぱりスケベに間違いない。その先にどんな未来が待っているのかを疑いもせず、味付きジンギスカン怪人はでれでれと鼻の下を伸ばしながら、促されるまま店の奥のパーティー用個室へと向かう。


     焼肉食べ放題店の、広いパーティー用個室。少し遅れて来たゆみかも加わったところで、生ラムジンギスカン怪人はいそいそとジンギスカンの準備を始める。
    『いいか、よーく見ておけ。今から生ラム肉をだな……む?』
     生ラムジンギスカン怪人は訝しげな表情で顔を上げた。
    『どうした少年少女達よ。そんなところに立ってないでもっとこちらへ……いや、待てよ……さては貴様ら……!』
     そうしてようやく確信めいた口調で飛び退いた生ラムジンギスカン怪人に、子羊はビシッと人差し指を向ける。
    「日本列島! 全国各地! ご当地愛がある限り! 北国のニュー☆ヒーロー羊飼丘。子羊、参上!!」
    『ぬぅぅっ、やはり灼滅者か!!』
    「ジンギスカンの普及だけに捕らわれた怪人はデストロイですぅ!」
     呼び出した相棒のライドキャリバーに跨ったゆみかが、ピシャリと人差し指を立ててみせる。
    「えと……ごめんなさい、そういうわけなので……」
     何となくノリに合わせ、おずおずと怪人に指を向けながら縁も力を解放させた。途端に、戸惑っていたような視線がきりりと強くなる。
    「……覚悟してください!」
    『小癪な! ええい、忌々しい灼滅者共め!!』
     生ラム肉怪人がマントを翻し、構えるのと同時に灼滅者達も動き出す。フルスロットルでエンジン全開な相棒を器用に乗りこなし、立ち位置を決めたゆみかが守りを固める。息をつかせる暇もなく、槍を構えた子羊が強襲を仕掛け、よろめいた怪人に縁も鋭く斬りかかった。
    『ぐぅっ、不覚……! だが、まだだ! まだ終わらんぞ!!』
     何とか倒れ込むのを堪えた生ラムジンギスカン怪人は、箸を構え、一気に飛び出していく。
    『さあ、これでも喰らえぇ!』
     怪人は熱々になった自身のジンギスカン鍋から焼きたての生ラム肉を箸で摘まみ、そのままの勢いで縁の口へと焼きたての生ラムを捻じ込んだ。
    「ぁ、っつ!」
    『わははは! どうだ! 私の生ラムの味は!!』
     どこか得意げな生ラムジンギスカン怪人だが、焼きたての生ラムは如何せん熱すぎる。図らずとも、おでんコントならぬジンギスカンコントのようになってしまい、縁は抗議するような目で生ラム肉ジンギスカン怪人を睨み上げた。
    「もうっ! 食べさせたいのか食べ物粗末にしたいのかどっちなんですか!」
    「何てこと! 無理矢理はよくないのですぅ!」
     剣を振るって反撃に転じた縁と入れ違うように、ライドキャリバーのエンジンを轟かせながらゆみかが突撃していく。
     勢いを殺さぬまま打ち込まれたバベルブレイカーの杭が、怪人の体の中で高速回転する。
    『ぐあああ~っ!』
     堪らず声を上げ、生ラムジンギスカン怪人はその場に膝をついた。子羊はそんな怪人の前へと詰め寄り、にこりと笑いかける。
    「うふふ、もう何匹ジンギスカン怪人を灼滅したことか。僕はね、こんなに沢山いるなんてそれだけご当地愛が深いって事で感激してるんだ」
     子羊の手の中で、ビームの光が煌めく。
    『ひぃ! 来るな! 来るでない!』
    「さあ君の愛も……僕が引き継いでいってあげるからね☆」
    『ま、待て! 話せばわかっ……!』
    「待ちません! 札幌時計台キーックですぅ!」
     あっさりと放たれたビームが生ラムジンギスカンを飲み込んだところに、ゆみかの鋭い蹴りが鮮やかに決まった。
    「……終わり、ましたね……はぁ……」
     戦闘態勢を解いた縁が、やれやれと息をつく。
     食べ放題焼肉店にて、生ラムジンギスカン怪人撃破の瞬間だった。


     ホルモン焼きの店の二階。宴会用個室となっている席で、ロール肉怪人が己の身に降りかかった事案にわなわなと身を震わせている。
    「き、貴様らまさか……!」
    「だーれがジンギスカン用の羊であるか、そこに直れ、ケットハンマーの毛玉にしてやるのである!」
    『言ってない! 違う、そうではない!!』
     頭の山羊角に触れながら、どこか不機嫌そうに言ってハンマーを構えたシュクレームに、ロール肉ジンギスカン怪人は盛大に突っ込んだ。
    『貴様ら、灼滅者だな!』
    「はっ、今さら気がついたかよ」
     声を荒げる怪人を前に、香蕗は握った拳をゴキリと鳴らす。
    「後ろは任せよ」
     そんな彼に前を譲り、シュクレームはにやりと笑ってみせる。
    「存分に暴れると良いのである」
    「おう、任せた! っしゃ、行くぜ!」
    「はいっ!」
     踏み切った香蕗に竜姫も大きく頷き、ロール肉ジンギスカン怪人目掛けて駆け出していく。
    「だらぁっ!!」
     怪人の体のど真ん中、拳を連打する香蕗に続き、竜姫は両腕をクロスさせ、構える。
    「冷凍のロール肉はアツアツに解凍です、レインボービーム!」
     虹色に輝く光線が、床に這いつくばったままのロール肉ジンギスカン怪人を焦がしていく。
    『ぐぬぬ……な、なんのこれしき!!』
     よろよろと立ち上がったロール肉ジンギスカン怪人が、片手を突き出した。
    『受けてみよ!』
     掌から噴き出したジンギスカンのタレが、竜姫を襲う。冷凍ロール肉によく合う、さらっとしたジンギスカンのタレ。顔にかかったそれに思わず目を閉じてしまった竜姫を庇うように、彼女のライドキャリバーが機銃掃射で怪人の周りに車輪を走らせる。
    「案外しぶといである、な!」
     乱射される弾丸の合間を縫い、怪人の死角へと潜り込んだシュクレームはハンマーを横凪に振り払った。
    『ぐおっ!』
     ロール肉ジンギスカン怪人は小さく呻き、バランスを崩した。そこを畳みかけるように、香蕗がすれ違いざまに怪人の首を腕に引っ掛け、床へと叩きつける。
    『げぶぶっ!』
    「よっしゃ! 今だ!」
    「っ、行きます!」
     タレを払った拳を握り、竜姫は虹色のオーラを両拳に凝縮させていく。
    「レインボービート!」
    『ぐああぁぁっ、我々の、ジンギスカンの世界がっ……!』
     七色に光り輝く怒涛のラッシュ。最期のセリフと共に、ロール肉ジンギスカン怪人は爆散した。
    「他愛もない、である」
     構えていたハンマーをくるりと回して下ろし、シュクレームは、ふふんと鼻を鳴らした。


     女性に人気でお洒落な焼肉店の洒落乙なパーティー用個室。味付きジンギスカン怪人は野菜たっぷりの鍋の上で味付きラム肉を焼きながら雄弁に語る。
    『分かるか? この野菜と秘伝のタレとのマリアージュが! これがまた最高に旨い! 焼肉なんぞ糞くらえだ! わはははは!』
    「そう……でも、とにかく、無理強いはだめだよね」
    『わはは、そうだ無理強いは……む? むむ?』
     ふわりと、曖昧な笑みを浮かべた真珠を、怪人は二度見した。
    「ん、だからね、お肉もお野菜も美味しそうだけど……焼ける前に怪人さんには倒されてもらわないといけないの」
    『へっ? い、今なんと……?』
     言い聞かせるように、そっと付け足した麒麟の言葉に、怪人は目をぱちくりさせる。
    「ん……悪い事、止めさせてもらう」
     じっくりと咀嚼していた味付きジンギスカンを、もぐもぐごくんと飲み下し、サキは立ち上がり、力を解放させた。真珠と麒麟も後に続いて武器を構える。
    『なっ、なななななっ!!!』
     可愛い女の子に囲まれていたかと思いきや、突然、凶器に囲まれた。そんな信じたくない現実に、味付きジンギスカン怪人は動揺を隠せない。ひとしきり目を白黒させた後、怪人は思い立ったように、はっと口を開く。
    『そうか! これが最近流行りのヤンデレというやつなのだな?!』
     味付きジンギスカン怪人は、現実逃避の道を選んだ。
    『愛が……重い! ぬおぉっ、これが新境地っ!』
     鋭く伸びてくるサキの槍を体で受け止め、麒麟が降らせた炎の弾丸の雨をその身に浴びて、味付きジンギスカン怪人は喜びに打ち震えた。正直言って、少し気持ち悪い。
    『さあ、私の愛も受け取るのだ!』
     そう言って怪人が手に取ったのは、焼きたて熱々の味付きジンギスカン。
    「っ、させない!」
     真珠はサキと麒麟を庇って前へ出る。迫る熱々ジンギスカン。口に捻じ込まれ、あまりの熱さに真珠は思わずのけ反り、反射的にそれを吐き出した。
    「あっつ……! 火傷しちゃうでしょうやめてください!」
    『うむ、怒られるのも、悪くない!』
     涙目で訴える真珠の反応に、どことなく嬉しそうな味付きジンギスカン怪人。真珠の近くを飛び回っていたウイングキャットも、主に迫る異様な危機の気配に威嚇して毛を逆立てた。
     これは危険だ。早急の灼滅が推奨される事例とはまさにこの事。サキは槍を、麒麟はチェーンソー剣を構え直し、床を蹴った。
    「熱々の、これで、冷めちゃう?」
     凍てつく槍先が怪人のジンギスカン鍋を捕らえたのとほぼ同時、唸りを上げたチェーンソー剣が、怪人の体に深く突き刺さる。
    『ぐ、おおぉ……』
    「ん、死ぬ前にね、きりんに秘伝のタレの作り方をおしえてほしいな?」
    『秘伝でない秘伝のタレは秘伝にあらず……そんなことよりお嬢さん、もっと私を……ぐ、ぐふっ!』
     何やらよからぬ事を言いかけながら、味付きジンギスカン怪人は事切れた。
    「……教えてもらえなかった、ね」
    「ん……」
    「聞かない方がよかったよ、たぶん……」
     しょんぼりと肩を落とす麒麟とサキに、真珠は困ったようにして笑いかけた。


     ジンギスカン怪人達を倒した灼滅者達は、夜の繁華街で無事に合流を果たす。
    「あ……そういえば、ジンギスカンって、ひつじの肉? なんだっけ……」
    「羊のお肉、なんだか変な匂いだった……きりんはあまりすきじゃないかも」
     もこもこ可愛い羊を思い浮かべ、しょんぼり肩を落とす真珠。一方、麒麟はお肉になった時の羊の匂いを思い出して、表情を曇らせた。
    「違う種類のジンギスカンならどうでしょう? コロさんおすすめの生ラムも食べてみたいのです」
    「おう、生ラムはあんま癖もねぇし、食べやすいと思うぜ!」
     竜姫の言葉に香蕗が応えれば、サキは丸くした目を輝かせる。
    「違うジンギスカン……? ちょっぴり、興味ある」
    「それじゃあさ! せっかくだし本場の生ラムジンギスカンを楽しんでから帰ろうよ!」
    「ふむ、喜んでジンギスカンは食べるのである」
     動いた後でちょうど小腹も減っている。子羊の名案に、シュクレームも大きく頷いてみせた。
    「うふふ~、ラム肉だったら、最近流行のラムステーキとかもいいですよねぇ~」
     めくるめくラム肉の誘惑にゆみかの頬もすっかり緩む。
    「ジンギスカン……今度はちゃんと、ゆっくり食べてみたいですね」
     まだヒリヒリしている舌を少しだけ気にしつつ、縁もやんわりと顔を綻ばせた。

     とりあえず、今回のジンギスカン怪人事件は一件落着。だが、この試される北の大地。放っておけば、とこからともなく、またジンギスカン怪人が現れる……かもしれない。
     訪れたしばしの休息。灼滅者達は美味しいジンギスカンで英気を養うのだった。

    作者:海あゆめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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