その武を刃に捧げ

    作者:るう

    ●山奥の工房
     炉から、真っ赤に光る塊が取り出された。
     腕を組み、その塊をじっと眺めていた老人は、突如カッと目を見開くと、目にも留まらぬ速さで手刀を繰り返す。
     赤き塊は手刀に幾度も打たれながら、次第に黒ずみ、その硬さを増してゆく……そして、それが完全に凝固した時。老人の目の前には一本の、鋭い光を放つ日本刀が出来上がっていた。
     うむ、と老人は満足げに頷く。
    「儂の生涯の中で、最も良い出来じゃ。どうれ……一度、試し斬りに出かけるとするか喃」

    ●武蔵坂学園、教室
    「恐ろしい未来を見てしてしまいました……」
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)の肩は震えていた。何故ならアンブレイカブル『鍛刀翁』は、気合の一声で砂から砂鉄以外を砕き飛ばし、掌を摺り合わせて火をおこし、手刀で赤熱する鉄を打ち刀とできるほどのダークネスだ。それが自ら鍛えた刀を人里で振り回したとしたら、一体、いかなる惨劇が起こるであろうか?
    「皆さんを、そのような敵の元に送らねばならない事は心苦しいのですが……かといって、悲劇を見過ごす事はできません……。皆さん、どうか、力を貸してはいただけませんか」

     鍛刀翁にとって、山は庭のようなものだ。悲劇を防ぐには翁が人里に下りる前に対処せねばならないが、焦って山に踏み入れば翁の思う壺。
    「ですので、迎え撃つ場所はただ一つ……翁が山からちょうど出てくる場所にある、仏閣の境内の開けた場所に限られます」
     そこに灼滅者たちが集まっていれば、翁は必ず灼滅者たちを最初の試し斬りの対象に選ぶだろう。それを返り討ちにし、灼滅できればベスト。ただし、敵に十分な被害を与える事さえできれば、灼滅者たちの被害が大きくなる前に痛み分けという形にもできるだろう。
    「つまり……『灼滅者相手にこれだけ苦戦するのなら、もっと刀を鍛えた方がいいのではないか』と問うわけです。そうすれば、翁はさらなる刀を鍛え終えるまで……恐らくは、相当長い時間、山から出てくる事はないでしょう」
     もっとも槙奈の話によれば、彼の試し斬りを終わらせる、別の方法もあるらしい。
    「それは……」
     そこまで言いかけてから、槙奈は小さな声で、忘れて下さい、と言い直した。誰かが彼女にこっそり訊けば、彼女もこっそりと教えてくれるだろう。
     すなわち、翁が灼滅者たちを全員斬り捨て、満足した時、と。


    参加者
    三条・美潮(大学生サウンドソルジャー・d03943)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    石見・鈴莉(偽陽の炎・d18988)
    踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)
    破鋼・砕(百芸は一拳に如かず・d29678)
    鴨川・拓也(修練拳士・d30391)
    結城・カイナ(闇色サクリファイス・d32851)
    山上・尊(山の送り人・d33248)

    ■リプレイ

    ●嵐の前の静けさ
     草木の芽吹き始めた春の山。小鳥がさえずり遊んでいても不思議ではないそこは、けれど今は、時折木々の枝が立てるざわめきと、灼滅者たちの足音のほかは何も聞こえない。
     それは、これからこの場で起こるだろう事を、小鳥たちが野生の勘で察したためか。それとも単に、鴨川・拓也(修練拳士・d30391)の結界が小鳥たちの声を遮っているだけか。
     いずれにせよこの場には、これからの戦いを邪魔する者はいなかった。特に、鍛刀翁が見つければ試し斬りの素材となってしまうだろう、一般人たちの姿は。

    「……だからこんな山で『送り雀』が出たら、狼に気をつけなきゃいけないんだよう」
     得意の怪談を紡ぎ終えると、山上・尊(山の送り人・d33248)は目の前の小高い山を見遣る。そこからやってくるであろうものは、怪談の中の存在ではない、本物の恐怖。初めて七人の仲間と挑む強敵に、気丈に振舞おうと思っても、足は小刻みに震えている。
    「怖い?」
     破鋼・砕(百芸は一拳に如かず・d29678)が尊に訊いた。それから文字通り鋼鉄と化した拳で力こぶを作ってみせる。
    「大丈夫よ。だって、どんなに研いだ刀だって、武器の原点たる拳の美しさに勝るわけないんだから」
     それに、その刀はただ力のみを追い求めたものなのだ。そしてそのような刀は果たして、翁にとっていかなる価値があるのだろう?
     そう思うと踏鞴・釼(覇気の一閃・d22555)は、普段なら滅多に出さない強い感情を、その顔に浮かばせずにはいられなかった。
    (「刀を力としか思わない奴のせいで、俺の父は……」)
     その時、もしも自分がもっと強ければ。
     唇を噛む釼の傍に、拓也はそっと近付いた。
    「自分は踏鞴さんの過去を知りません。ですが、強い悲しみをお持ちだという事だけは解ります」
     だから釼が悔いのない戦いをできるためにも全力を尽くす、と誓った拓也にゆっくりと頷いた時、釼の顔は再び求道者のそれへと戻っていた。

    ●不穏な風
    「空気が変わったな」
     不意にピリピリとした感覚が辺りに満ちたのに気付き、三条・美潮(大学生サウンドソルジャー・d03943)は袖の中からダイダロスベルトと鋼糸を伸ばした。
    (「元は普通の人だったつもりなんだがなぁ」)
     何時の間にか、念力の如くそれらを自在に操り強敵を迎え討たんとする自分に慣れているのに気付き、美潮は思わず苦笑する。
     だが今更、一般人になど戻れない。何故なら恐るべき存在感を持った老人が、ついに下草を掻き分け、灼滅者たちの前に現れたのだから。

    「これは僥倖。試し斬りの相手としては、数に不足はない喃」
     鍛刀翁は抜き身で提げていた刀を顔の脇までゆっくりと持ち上げ、八相の構えを取った。天を指す刀身には一点の曇りも見当たらず、鋼が老爺自身の闘気を映して紅く輝く。
    (「これほどの刀を素手で鍛えるとは驚きですね」)
     こたつの中に引き篭もってばかりでは決してお目にかかれない業物を目の当たりにし、感嘆の溜め息を夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)は吐いた。
     とはいえ見蕩れてばかりはいられない。一刻も早く、翁を灼滅せねばならないのだ……もしもこれと同じ刀を、老爺が再び鍛える事になったらと想像すると。
    「生きてる人で刀の切れ味を確かめるなんて……許せないようっ……!」
     怒りを言葉として形にすれば恐れを払拭できるかと、尊は敢えて口に出した。けれど老爺がぎろりと睨むと、再び恐怖が蘇える。
    「さあて。誰から斬るとしようか喃」
     刀のように研ぎ澄まされた眼光は、尊の足を竦ませる。その前に半歩出て、拓也は両の手のひらを敵に向けた、前羽の構えで立ちはだかった。
    「我は盾! 理不尽なる矛を止める者!」
     名乗りと同時にスレイヤーカードが光り、拓也の手の間に力を滾らす。翁の眉間に皺が寄り、老爺は摺り足で灼滅者たちを中心とする円弧を描くと、少しずつにじり寄りながら虎視眈々と隙を探す。
     まるで時代劇の侍のごとき翁の姿は、アンブレイカブルは己の肉体を武器とするとばかり思っていた石見・鈴莉(偽陽の炎・d18988)の常識を、根底から覆しそうだった。もっとも刀を腕の延長と思えば、拳を鍛えるか刀を鍛えるかの間には、翁にとってはさほど違いがないのかもしれないが。
    (「まぁ何にせよ、迷惑なのは変わらないよね」)
     ウィングキャットの『ビャクダン』が鈴莉の肩に乗り、老人をフーッと威嚇する。老人はにやりと口元を歪め、その場で灼滅者たちへと剣先を振るう!
     発生した鋭い衝撃波は、刃で触れずとも灼滅者たちの半数までを切り裂いた。結城・カイナ(闇色サクリファイス・d32851)もその頬に赤い筋を作り、端正な表情で老人を睨む。
    「そいつは、俺たちを牽制でもしたつもりか?」
     その目元が急に鋭く変じ、結城――彼は自身の名を呼ばれる事を嫌うので、今はこう呼ぼう――は自らのスレイヤーカードから、無骨で野蛮な大剣を引き抜いた!
    「お相手願うぜ……ダークネス」

    ●猛る剣
     戦いに無関係な邪魔者の入らぬ舞台の中で、翁の切っ先はまるで踊るが如く。だがその追求されきった機能美は、必ずしもその全てを発揮できたわけではなく、むしろ醜く歪められる事すら多かった。
     その歪みを生み出すのは結城。優雅に舞う中で異彩を放つ彼の剣は、研ぎ澄まされているはずの老爺の斬撃の軌跡を、幾度も幾度も妨げる。まるで、美の中の歪みこそが彼の力の本質であると主張するように。
     しかし敵は強力なアンブレイカブル。剣を持つ結城の腕は受けているだけでも痺れ、返す刀も容易には当たってくれぬ。にやり、と再び笑った老爺。
     だが、一本の細長いものが飛んでゆく。
     それは帯。帯は半歩退いて体を開いた老人の肩口を掠めて、美潮の元へと舞い戻る。じいさんよ、と美潮は挑発した。
    「なぁ、生涯最高の刀で弱いものいじめしたって空しかろうさ。斬るなら格の見合った相手じゃねーと、刀が泣くぜ?」
    「そうですよぉ」
     炬燵も、自分の指輪を弄りながら頷いた。
    「私たちでは格が見合いませんから、刀を私たちに合わせてみるのはどうでしょう。日本刀も、石化すれば切れ味も鈍るのでしょうか?」
    「なぁに……それには及ばんわい!」
     翁が気合と共に刀を振るえば、一度はくすんだ刃が真新しさを取り戻す! だがそのための一瞬が、釼の接近を許す大きな隙となっていた。
     数メートルの距離を一瞬で詰める、巧みな踏み込み。霊木を削った魔を帯びし鞘は、納めるべき刀なくともダークネスを穿つ。唾棄すべきあの日の記憶。父の遺作を知る鞘は、釼の灼滅の意志を魔力の火花と化して翁の作務衣を焼く。老爺の筋肉も盛り上がり、逆に刀にて釼を断ち斬らんとす!
    「ビャクダン!」
     鈴莉の指示で顔に向かって飛び掛ってきた猫サーヴァントに虚を突かれ、翁は反射的にそれへと刀を振るった。自慢の毛並みを脇腹の肉ごと毟られて、不機嫌そうに尾の毛を逆立てるビャクダン。
    「獣めが」
     今度は斬って捨てようと、翁は大上段に剣を構える。それには主が黙っていない。
    「そんな刀なんて振るわせないよ!」
     鈴莉に懐に跳び込まれてはたまらぬと、翁は刀を水平に構えた。が……それで牽制できるのはあくまで鈴莉ただ一人。脇から跳び込んだ砕の左が、強烈なねじりと共に翁の鳩尾に突き刺さる!
     すぐさまバックステップで距離を取った砕に、翁の刀は届かない。一度とはいえ拳で翁の刀を打ち負かした喜びに、砕の頬は上気して、ふはぁと艶かしく息を吐く。
    「猪口才な。逃げ回ってばかりで勝ち誇るとは喃」
    「あなたが刀に頼りきりで追いつけてないだけだわ!」
    「言いよるわい!」
     が、砕を仕留めるのは後で良いと、厄介そうな釼に斬りかかる翁。それを、拓也の拳が受け流した。その際咄嗟に翁が手首を返したせいで、拓也の手の甲がぱっと赤く染まる……力場の盾が、刃の勢いを大きく殺ぎ落としたにもかかわらず、だ。
     それでも、拓也の顔に苦痛はない。無節操な力を我が身一つで御しているという自信。そして、誓い通り釼を助けているという誉れの前には、全ての苦痛が勇気の中に消える!
     とはいえ彼にも、何か言葉を発する余裕までは残らなかった。そんな彼の背を、尊が暖かな光で支えてやる……自分よりも三つも年下なのに恐れず強敵と立ち向かう拓也に先輩ぶったところを見せようと思ったら、こんな事しかできないし、これが一番だと思うから。
    「なぁに。お主らが何度でも立ち上がると言うのなら、切れ味の保ちを確かめるのに都合がいいわい!」
     老爺は再び、八相に刀を構え持つ!

    ●せめぎあう力
    「喝ッ!」
     足元を這う炬燵の影が、老爺の気合と共に弾け飛ぶ。すぐさま大きく踏み込む翁……だがその足は、弾けたはずの影に膝下まで覆い隠されていた。
    「小癪じゃ喃。儂の一声でも吹き飛ばなんだか」
     老爺の身体を大地に引きつけ、切っ先を僅かにぶれさせた影に、翁は忌々しげに悪態を吐く。それからはてと眉を上げ。
    「……いいや。影を足に『縫い付ける』とは、中々のものじゃわい」
     老いた身体に突き刺さり、炬燵の影業を縫い付けていた美潮の鋼糸を、老爺は刀の腹で軽く払う。だが既に皮下に潜っていた影は、良質の筋肉に食い込んだまま離れない。
    「もう一度影を吹き飛ばしてみますか? でも、私はもちろん、その間に今度はおじいさんを石化してみせますよ」
    「なぁに、攻撃は最大の防御と言うで喃」
     炬燵の提案を一笑に付し、翁は刀を炬燵へと向けた。けれども度重なる攻撃は、少しずつ翁の反応を鈍らしむ。
    「クソ爺ぃが……刀を完成させんのは、使い手の魂だ。そんななまくらで、斬れるもんなんかねぇよ」
     先に動いたのは結城。振り上げた剣を使うと見せかけて放った瘴気の砲は、傷ついた老爺を道脇の木の根元まで弾き飛ばす!
    「知った口を」
     再び立ち上がる老爺。構える隙を与えじと、砕の爪先が大地を蹴る!
    「ふんぬ!」
     離した右手を刃に当てて、翁は刀の腹で鋼鉄の拳を受けた! 背が木に当たり、追い詰められる翁……しかし翁の戦意は衰えず。
    「甘いわい」
     老爺の蹴りから砕が距離を取って避けると、翁は再び自由を取り戻した。
    「刀を捨てて拳を使う気? それなら熱くなれるわね!」
     そんな砕を意にも留めず、翁は再度炬燵を狙う……が、鈴莉に懐に飛び込まれては、いかな刀も振るいようがない。右手で鈴莉を吊り上げて、その足を払って背から落とす。落下の衝撃に、肺の中の空気が吐き出される。
    (「でも……至近距離までの接近を許したって事は、結構疲れてるのかな?」)
     灼滅の目が見えないわけじゃない……ただ一つ問題があるとすれば、こちらの消耗もかなり激しいということ。
    「……こうして、送り狼におにぎりをあげた心優しい男の人は、狼たちの恩返しを受けて幸せに暮らしたんだよう」
     尊の物語は傷ついた仲間たちに、まるで狼に優しく舌で舐められたかのような癒しを与えてくれる。けれども翁のばらまく破壊の前には、それすら蝋燭の火ほどの小さなものでしかない。
    「ですがそれは、最初からわかっていた事です」
     自らの闘志を奮い起こさせ、小さな背を尊に向ける拓也へと、翁は刀を振り下ろす。だが当たらない。代わりにビャクダンのふわふわの毛並みが、拓也の頭の上でぱっと散った。ごめんね、と胸の中で謝る鈴莉。代償のカリカリは高くつくだろう。
    「老いてなお盛んなんて言うがよ、程度を越えてるだろジジイ」
     美潮はぼやく。けれどこれでも当初と比べれば、老爺の動きはかなり鈍っているのだ……その証拠に鍛刀翁は、既に砕の拳を避けられなくなっているのだから。
    「まだまだ! 左! 右! もう一度左!」
     勝負はついた。後は、老爺を灼滅するか、それとも自分たちが壊滅するかの戦いだ――その時だった。

    ●砕けぬ者の魂
     拓也の腕の間をすり抜け、袈裟懸けに彼の胸を切り裂く剣。ゆっくりと倒れてゆく少年の姿に、尊の悲鳴が戦場に響く。
    「っ……まだ!」
     少年は力を振り絞り、自らの盾の力を鈴莉に預ける。鈴莉が頷いたのを彼が見届けるのと同時に、返す刀がもう一筋の傷を生んだ。
    「すみません、ここまでみたいです……」
     今度こそ前のめりに地に臥した少年を眺め、老人はかっかっと笑った。
    「ようやく一人、斬れた喃」
     けれども結城は、老爺の過ちを指摘する。
    「なまくらな上に目まで節穴かよ、クソ爺ぃ……てめぇは、ガキの闘志一つ斬れてねぇ」
     拓也が老爺に頭を向けて倒れた意味。それすらも判らぬ敵などは、闇に身を堕とす価値もない。結城は斬る。同時に翁から放たれた刀は、鈴莉に宿った盾に弾き返された。
     失望し、黙って老爺に背を向ける結城。
    「有難い」
     短く結城に言ってから釼は、老爺の顎に鞘を突きつけた。
    「俺たちですら斬れぬ程度の刀が何だ。貴様は、その程度の刀で満足していたのか?」
     突如、膨れ上がる鞘の魔力。山から出てきた直後の翁ならともかく、今の翁には釼の鞘を切り払うなどできまい。
    「この鞘に収まっていた刀は、貴様のものよりも遥かに上等だったぞ」
     振るわれる鞘。鍛刀翁の手から離れた刀は、放物線を描いて近くの石灯籠に当たり……そして粉々に砕け散った。

    ●代償あっての勝利の後で
    「……拓也さんは?」
     心配そうに覗き込む鈴莉へと、拓也を介抱していた尊は不安げな様子で答えた。
    「命に別状はないと思います……けど」
     一緒に拓也を看てやる鈴莉。それから彼女も、尊の判断にお墨付きを与える。
    「大丈夫。今は気を失ってるけど、しばらくしたら目を覚ますよ」
     が……鈴莉にそう保証されたところで、尊の心は晴れなかった。一人の先輩として、拓也を支えきれなかった悔しさ。
    「てめぇは」
     結城の眼光が鋭くなる。
    「俺らの作戦をよく聞いてくれたな? だったら俺らの作戦が悪かったって事だろ」
     そういうつもりじゃ、と言い淀んだ尊に、結城は続ける。
    「じゃあ誰も悪くねぇ。それに何か文句はあるか?」
     威圧なのか説得なのかわからない結城の愛想を補うように、炬燵が言葉を付け加えた。
    「倒せるかどうかもわからない敵を倒せたんですよ。怪我で済んだなら金星じゃあないですか」
    「こいつの言う通りだ。お蔭で俺も、幾分気が晴れた」
     鞘を仕舞う釼。ようやく、尊の顔に安堵が戻る……そんな時。

    「いい事言ってるけど結局、妙なじいさんのせいで疲れた事にゃ変わらねーっすよ。あークソ、俺もしばらく寝て休みてぇ」
     重い空気を吹き飛ばすように両腕を伸ばした美潮の肩に、砕がぽんと手を当てた……いや掴んだ。
    「仲間を怪我させて悩むのも、疲れを感じるのも、全て拳の磨きが足りないからよ! さあ、もう一度鍛錬よ!」
    「おい、ちょっと待……」
     美潮を拉致し、やけに晴れやかな砕の笑顔。いまだ意識のない拓也の顔も、それと同じような微笑みに満ちていた。

    作者:るう 重傷:鴨川・拓也(修練拳士・d30391) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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