花食みのクレマチス

    作者:犬彦

    ●花の料理人
     豪奢なテーブルの上には色鮮やかな料理が並んでいた。
     薔薇の砂糖漬けに菫のジャム。檸檬とラベンダーのケーキにライラックのスコーン。カモミールクリームパイや金蓮花を散らしたラビオリサラダに、その他色々。
    「お味は如何かしら?」
     エディブルフラワーを浮かべた紅茶を容れながら、“彼”は客人に問う。
     両手を胸の前で重ね、身体をくねらせる男。どうやら彼がこのテーブルに並ぶ数々の料理を作ったらしい。テーブルに座らされている青年は「おいしいです」と生気のない声で答え、虚ろな瞳を虚空に向けた。
    「あら、その割には食が進まないようねえ? クレマチス特製の料理だっていうのに」
     しかし、クレマチスと名乗った料理人は、青年の前にある一向に量が減らない花の料理を見て首を傾げる。
     それもそのはず。椅子に胴体を縛り付けられた青年はかれこれ何日もこうして料理を食べ続けさせられている。料理自体は美味だが、限界を越えるとフォークを動かす手も止まってしまうというものだ。
     だが、クレマチスはそれを許さない。
    「どんどん食べてくれなきゃダメよ。アタシ、恰幅の良い人が好みなの」
     語尾にハートマークを付ける勢いでクレマチスは青年にウインクを送る。そうして、席を立った彼は新しい料理を作ってくると告げた。
     踵を返して調理場に向かう男。青褪めた表情で目の前の料理を見つめる青年。
     そして、不意にくるりと振り返ったクレマチスはドスの聞いた声で付け加える。
    「ちゃんと食べないと……殺すわよ」
    「ひっ……!」
     青年から怯えの声があがる中、クレマチスは鼻歌を口遊みながらキッチンに向かった。

     その様子を窓から窺っていた、類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)は息を潜めながら思う。
    (「あの人を助けないと……!」)
     何故なら――料理人の男はヴァンパイアだからだ。
     踵を返した凪流は仲間にこのことを報告する為、一度屋敷から離れた。
     
    ●花食みの贄
    「大変です! みんな、聞いてください!」
     凪流は軽井沢のブレイズゲートで自分が見て来た光景を仲間に話し始める。
     ヴァンパイアの名はクレマチス。
     分かっていることは彼が料理人であり、どの料理にも花を使うということ。そして、女性らしい男性。いわゆるオネエ系だということ。
    「少し調べたら、クレマチスは高位ヴァンパイアの専属料理人だったみたいです」
     それ故に料理の腕は抜群。
     だが、現代に甦った彼の問題は作った料理を容赦なく食べさせる所だ。
     男は料理を振る舞う為に一般人を屋敷に引き入れ、無理に食事をさせている。青年が殺される気配はまだないが、クレマチスが出す料理が一口も食べられなくなった時は殺されてしまうだろう。
     料理は愛情。だが、いきすぎた行為は愛情でも何でもない。
    「窓から見えたお菓子や料理は綺麗でおいしそうでした。私も食べてみた~い、けどっ」
     ぐっと気持ちを抑えた凪流は告げる。
     先ずは捕えられている青年を救うためにヴァンパイアを倒さねばならない。
     青年を助けるだけなら容易ではあるが、それでは一時の解決になるのみ。これ以上の被害が出ないうちに敵を灼滅するのが一番だろう。
     既に侵入ルートは凪流が見繕っており、後は実際に戦いを仕掛けるだけ。
    「みんなで力を合わせればきっと勝てるはずですっ」
     よろしくお願いします、と仲間に告げた凪流は掌をぎゅっと握って意気込みを示した。


    参加者
    万事・錠(ハートロッカー・d01615)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    東郷・時生(天稟不動・d10592)
    北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)
    北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)
    類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)
    鮫嶋・成海(マノ・d25970)

    ■リプレイ

    ●花の味わい
     甘く馨る香りに色鮮やかな花。
     美しさと可憐さを演出する為に考え抜かれた盛り付け。花尽くしの料理を前にして、乙女らしく瞳を輝かせた東郷・時生(天稟不動・d10592)は思わず両手をあげて喜ぶ。
    「お花料理ヤッター! ……こほん」
     しかし、我を取り戻した時生は誤魔化しの咳払いと共に腕を下ろした。
     青年は灼滅者の到来に驚いて目を丸くしていたが、すかさず一・葉(デッドロック・d02409)が声を潜めて助けに来たのだと告げる。
    「アイツは俺らが殺る。戦闘が始まったら、テーブルの影にでも隠れてろ」
    「わ、分かりました……!」
     そして、葉達はテーブルの下に身を隠した。
    「もうちょいの辛抱だ。その料理、俺等が代わりにつまんでいい?」
     その際に万事・錠(ハートロッカー・d01615)は青年に手を付けていない料理を机の下に寄越して欲しいと願う。
     勿論です、と差し出された皿に乗っていた金蓮花のラビオリサラダを摘み、城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)は口元を綻ばせた。
    「やだこれ美味しい! どっかにこれのレシピとか無いかしらね?」
    「へぇ、花って結構美味いんだな。俺このジャム好きかも」
     錠はスコーンに菫のジャムを付けて食べ、甘酸っぱい味わいに感心する。
    「つーか花って食えるんですね」
     鮫嶋・成海(マノ・d25970)もラベンダーのケーキを一口食べ、意外だと感想を零した。北南・朋恵(ヴィオレスイート・d19917)と類瀬・凪流(オランジェパストラーレ・d21888)もクッキーや砂糖漬けをつまみ食いし、その甘さに舌鼓を打っている。
    「やっぱり、料理は楽しく食べてこそですよね……」
     朋恵が静かな怒りを胸に抱くと、廊下の方から足音が聞こえた。
     つまみ食いはおしまい、と名残惜しそうに手にしていたスコーンを口に押し込む凪流。そうして彼女が仲間に目配せを送ると、夢中でクッキーを食べていたナノナノのクリスロッテと助六も残念そうな仕草を見せる。
     そして――件のヴァンパイアが部屋の扉をあける音が聞こえた。
    「さあ、新しい料理よ。あら、料理が少なく……いいえ、お皿が少なくなってるわねえ」
    「……っ!」
     クレマチスが訝しげに机上を見渡し、青年が息を飲む。
     しかし、敵が次に何かを言う前に錠と葉がテーブルを蹴り飛ばした。きゃ、悲鳴を上げたヴァンパイアが思わず料理をひっくり返してしまう中、北条・葉月(独鮫将を屠りし者・d19495)は青年に隠れるように指示する。
     そして、倒れたテーブルの裏に隠れた彼を庇うようにして凪流と葉月が立ち塞がった。
    「例え美味しいものでも無理やり食べさせるなんてもってのほかっ!」
    「花の料理、ね。愛でて良し食べて良しだろうけど無理矢理食わせるのは頂けないな」
     見据える先には倒すべき相手が驚きで固まっている。
     だが、ヴァンパイアもすぐに応戦しようとするだろう。始まる戦いを前に灼滅者達は確りと敵を見据えた。

    ●花の色
    「何よ、アンタ達は! 料理が台無しじゃないの!」
     驚いたクレマチスが両手で口元を隠す最中、時生が即座に飛び出す。
    「腹ぺこ救出隊参上ってね。ごちそうさま死ねェ!」
     いつの間にか皿の上のケーキを完食していた時生は食事終わりの挨拶と共に殺意をあらわにし、掲げた標識で全力の一閃を振るった。
    「トッキー、気合い入ってるわね」
     千波耶は時生の見事な一撃に感心の言葉を向け、片足に絡みつかせていた影の蔓を迸らせる。広がった影が敵を喰らいに動いた一瞬後、葉月が魔力の霧を展開させてゆく。
    「さぁて、腹ごなしの運動だ。ぱーっと派手に暴れてやるぜ!」
     仲間に力の加護を与え、葉月は片目を細める。意気込む彼の頼もしさに笑みを浮かべた凪流も助六を伴って仲間の前に布陣した。
    「悪い料理人さんは私たちが成敗しちゃうんだから! 行くよ、助六ちゃん!」
     美味しいものは美味し~く頂きつつね、とこっそり口元をもごもごさせていた凪流に合わせて、助六も口の中のクッキーを飲み込んだ。
     すぐに縛霊の一撃としゃぼん玉が連続で見舞われ、クレマチスを襲った。しかし、対する敵はそれらを振り払ってしまう。
     敵の強さを感じ取った朋恵は天魔の陣を描き、次の一手に備えた。青年を守る形で控える成海のライドキャリバーも機銃を掃射していく。
    「人の屋敷に押し入って盗み食いした上、その言い草は失礼よっ」
     頬を膨らませて怒る仕草は女性らしいが、彼の見た目は完全な男だ。ヴァンパイアの魔力を宿した霧を発生させ、クレマチスは自らの力を高めた。
     葉は軽く息を吐き、螺穿を描く槍で敵を貫こうと動く。
    「俺は別に腹におさまりゃメシなんてなんでもいいんだが、それ作ったのがお前ってだけで胸焼けしそうだわ」
    「いくら美味しくても、お前が作ったと聞いたら魅力半減よね」
     葉の言葉に時生が頷き、敵を煽った。葉の槍が敵を穿った様を見遣り、隙を突くようにして駆けた成海も抗雷の一撃をヴァンパイアに打ち込む。
    「……その体格でオネェとかマジかよ、きめぇ」
     害虫でも見るかのような視線でクレマチスを見遣った成海だが、相手もふふんと鼻を鳴らして対抗する。
    「あら、アンタもそんな言葉遣いじゃ女として失格ね。折角カワイイのに」
     窘めるように返され、成海の眉が顰められた。
     しかし、ヴァンパイアは言葉遣いや在り方以前にしてはいけないことを行っている。錠自身は彼の振る舞いには嫌悪はないのだが、被害者が出そうになっている時点で生かしては置けない相手だと認識していた。
    「それにしても、拘束して飯食わせるってどんなプレイだよ!」
     特殊だなと薄い笑みを浮かべた錠が破邪の刃を放つと、クレマチスは料理用のナイフを取り出して一閃を弾き返す。
    「ふふ、アタシはよく食べる人が好きなの。でもイケメンも好きなのよねえ」
     横目で陰に隠れた青年を見遣ったクレマチス。視線を感じた青年がびくりと震えたが、凪流や助六、ライドキャリバーが其方を背にして庇う姿勢を見せた。
     その隙に朋恵が符を掲げ、援護に入る。
    「お料理を無理に食べさせようとするのは、ダメです」
     許せませんです、と告げた朋恵の手から防護の符が錠へと舞い飛んでいく。そうはさせぬとばかりにクレマチスがナイフを振るい、錠を斬り裂いた。
     千波耶は仲間が受けた傷が深いことを感じたが、自らの役割を思い返す。今は敵に多くのダメージを与えることが自分の務めだ。
    「料理の代わりにめいっぱいの魔力をご馳走してあげる!」
     黒い魔術杖を千波耶が掲げると、その青い宝玉が光を帯びはじめる。そして、幻想の花が咲くかのような魔力の奔流はひといきに敵の身を穿った。
     その衝撃によってクレマチスの体が揺らいだが、未だその力は衰えていない。
     更なる戦いが続くことを覚悟しながら、灼滅者達は其々に身構えた。

    ●花の最期
     それから幾度もの攻防が巡る。
     ヴァンパイアは一人だが、灼滅者にも引けを取っていなかった。クレマチスは紅蓮の斬撃で力を補い、此方を倒そうと狙ってきている。その一撃を果敢に受け止めながら凪流はぐっと痛みを堪えた。
     仲間が庇いに出てくれる合間、葉月は反撃に出る。
    「空腹は最高の調味料。逆もまた然りってな。どんな美味い高級料理でも、満腹じゃ食べる楽しみも激減だろ」
     敵の行いに対しての非難の言葉を告げ、葉月は炎を纏う蹴りを見舞った。対する敵は痛みをものともせずに自信満々のウインクを返して来る。
    「いいえ、クレマチス特製料理は幾らでも食べられちゃう美味しさなのよ」
     その物言いに成海が肩を落とした。
    「クレマチスか。……笑わせんな造花以下だろ」
     先程の料理に御馳走様は云っても、続くのは死ねという吐き捨てるような言葉。ダークネスに対する容赦などなく、其処にはただ灼滅するだけだという意志が見て取れた。
     成海の放つ螺旋の槍が敵を貫き、其処へ葉の流星めいた蹴りが見舞われてゆく。
    「幾らでもってか。頭ン中、どんだけお花畑でいっぱいなんだよ」
    「花を馬鹿にしないでくれるかしら!」
     葉の言葉に呆れが混じっていると感じたクレマチスは後列に向けて毒を放った。すかさずクリスロッテと助六が癒しに回り、葉達の毒を払う。
    「俺はこれで白米三杯いける」
     ふわふわハートを受ける葉がナノナノ達を見遣って軽く胸を張った。
     其処に普段の彼とのギャップを覚えた凪流は思わず萌えを覚え、成海と顔を見合わせて笑む。所謂ギャップ萌えというものである。
    「助六ちゃん、いい感じ!」
     相棒を褒めた凪流はガッツポーズで萌えきゅんの気持ちを表した。勿論、同時に傷の深い仲間に祭霊の光を施すことも忘れていない。
     その様子を見たクレマチスは眉間に皺を寄せ、声を荒げた。
    「んもう、そっちから仕掛けておいて変なところで遊んでんじゃないわよ……っ!」
     流石に怒り心頭らしく、ヴァンパイアは此方を睨み付ける。それを見遣った錠はくく、と喉を軽く鳴らして笑った。
    「面白いよなァ、お前。愉快な遊び相手に出会えて楽しいぜ」
     双眸を緩く細めた錠は集気法で自らの体力を保ち直し、身構え直す。これまでも相当な衝撃を受けてきたが、まだ倒れる気など更々なかった。朋恵やクリスロッテによる癒しの補助は十二分にあるからだ。
     これからの攻撃も自分が受け続けると視線で示し、錠は仲間に追撃を願う。その意志を受けた時生は殺人注射器を取り出して毒薬を生成してゆく。
    「料理人のクセに毒盛るとかサイテー!」
     目には目を、毒には毒をの精神で放った一撃は鋭く、クレマチスの身を貫いた。
     時生は冷静に敵を見遣り、彼はどう料理しても食えない相手だと判断する。寧ろ此方から願い下げしたいくらいだ。
     更なる攻勢に出るべく、千波耶も断罪の斬撃を見舞いに向かう。
    「作った料理を全部食べて欲しいって気持ちは判らないでもないけど! 相手がお腹いっぱいになったのを無視して食べさせ続けるなんて、最低!」
     完食されないことにトラウマでもあったのかもしれないが、考えても詮無い事だ。
     千波耶の鋭い転輪斬がクレマチスを何度も穿ち、斬り裂き、力を削り取っていった。しかし、相手も不利を悟って死に物狂いになってくる。
    「ほんとに……どこまでも失礼な子達ねえ!」
     ナイフで切り込んで来るヴァンパイアの目は血走っていた。恐ろしいまでの衝撃が仲間を襲うと感じ、朋恵はぐっと掌を握る。
    「みなさんをこれ以上、傷つけるなんてさせませんです」
     朋恵が宙に描いた天魔の陣が目映い光を放ち、皆を癒していく。
     敵は強いが、此処まで追い詰めたのだ。自分の後押しで仲間の背を支えたいと思う少女は懸命に力を揮い続けた。
     葉月は朋恵の頑張りに報いようと考え、此処から畳み掛けようと決める。
    「ちょっとばかり痛いの行くぜ? 歯ぁ食いしばれ!」
     神霊の力を宿した刃を振り上げ、葉月は一気に斬撃を放った。其処から更なる二撃目で以て斬り払い、葉月は敵の力を大幅に奪い取る。
     千波耶が魔力の奔流を打ち込み、凪流と成海が合わせて一閃を繰り出した。ライドキャリバーと助六も主人達に倣うようにして其々の攻撃を行ってゆく。
     其処に最大の好機を感じた時生は標識を掲げ、全力で敵へと振り下ろした。
    「おもてなしを勘違いするな!」
     確かにクレマチスの料理は見事だった。けれど、彼には一番大切なものが欠けていた。それは――美味しいと食べてくれる人への『思い遣りと感謝』だ。
    「お前は料理人失格! 消えなさい!」
    「きゃあ!」
     時生の一撃が更なる猛威を振るい、敵の悲鳴が上がる。
     葉はグラスの奥の眸を薄く眇め、次で最期にすると心に決めた。
     灼滅者はダークネスを殺して魂の癒しを得る。きっと、どんなに美味い料理も灼滅の癒やしには及ばない。
    「テメーが本日のメインディッシュだ」
     淡々とした葉の声が響く最中、反対側から駆けた錠がクレマチスの死角を取り、同時攻撃を狙った。そして――。
    「美味しく頂いてやっから、大人しく殺されろ」
    「お前の料理はマジ好みだったぜ。ご馳走サン、花野郎」
     至近距離に迫った二人の声がクレマチスの耳元で囁かれた瞬間、交差した斬撃がその身を穿ち、切り裂く。刹那、ヴァンパイアの断末魔が館中に響き渡った。

    ●幸せの花
     戦いは終わり、倒れた敵の体は光となって消えてゆく。
     おそらくクレマチスは封印されていたのではなく、一度消滅していたものがブレイズゲートの力によって無理に甦らされた形だったのだろう。
     光を見送り、千波耶は溜息を吐く。
    「残念だわ……貴方がただのオネェだったら、お料理とか教えて欲しかった」
     あのラビオリサラダ本当に美味しかったもの、と今はもうない花の料理を思い返す千波耶は心底残念そうだった。
    「アンタみたいなのは嫌いじゃなかったんだけどな。ひとまず冥福くらいは祈るか」
     葉月もクレマチスを思い、静かに目を瞑る。
     既に死した者は敵と味方も関係はない。死は平等であり、悼むべきもの。
     朋恵も仲間に倣って祈るように両手を合わせる。そして、朋恵はテーブルの影に隠れたままだった青年に歩み寄った。
    「だいじょうぶですか? もうあの人は倒したから安心なのです」
    「はい、平気です。ありがとうございま……」
     青年は頷いた後、ふっと意識を失ってしまう。急いで凪流が駆け寄るが、おそらく彼は安堵で気を失っただけだろう。その手に胃薬を握らせた凪流は成海の助けを借り、ライドキャリバーに青年を乗せた。
    「後は家まで送れば終わりか。災難だったなァ、本当」
     錠が安心したように眠る青年をそっと労う中、葉はふと部屋に散らばった料理の残骸を見下ろす。思えば、つまみ食いとは言っても全員で随分と食べてしまった気がする。
    (「行きと帰りで体重変わってそうだな。特に女子」)
     思っても言わないでおくのがマナーであり自分の為でもあった。だが、その思いを何となく察した千波耶と成海が葉を見遣る。
    「何かしら、葉くん?」
    「口にしなかった事に免じて許してやりますよ、今回は」
     成海達からのプレッシャーに素知らぬ振りをした葉は視線を逸らした。
     そんな仲間のやり取りに葉月が笑みを堪え、時生もくすりと笑う。そして、時生は不意にあることを思い付いた。
    「凪流のたこ焼き食べたいなー。あれこそ心こもった料理だもの」
    「お、賛成。打ち上げも兼ねて盛大に行こうぜ」
     錠が良い考えだと同意し、朋恵も嬉しそうな笑みを浮かべる。
     凪流は一瞬きょとんとしていたが、期待が込められた眼差しを受けて微笑んだ。
    「分かりましたっ! 帰ったらたこ焼きパーティーですね!」
     美味しいものは正義。たこ焼きは幸せの形。
     元気な凪流の声が響き、仲間達は帰路につく。花を使った料理も悪くはないけれど、料理で花を咲かせるならばもっと別の方法だってある。
     だって、ほら――此処には今、たくさんの笑顔の花が咲いているから。

    作者:犬彦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年4月8日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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